新・うっかり女エミヤさんの聖杯戦争(完)   作:EKAWARI

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 ばんははろ、EKAWARIです。
 5話はちょっと長いので前後編にわけることにしましたが、キリが良いところが他になかったので、前編が短く、後編は長い構成となっています。まあ、次話とワンセットで一つの話ということで宜しくお願いします。
 因みにこの話の原型が出来た頃はまだアニメFate/zeroも放送前だったし、CCCも発売前だったので、赤セイバーのイメージは無印EXだけで構成されているし、ZEROキャラの性格やら喋りのイメージも原作読んだ自分のイメージで出来ているのでその辺はご了承下さい。
 ちなみに俺はアニメのやたら美化された雁夜さんよりも、原作の雁夜さんのほうが好きなんだぜ。


05.うっかりスキル連発 前編

 

 

 

 運命(フェイト)は動き出そうとしている。

 正史とは異なる時間を歩もうとも、それでも変わらぬ流れもある。

 カラカラ、カラカラと音を立て歯車が廻る音が聞こえるだろうか。

 答えを得た赤い弓兵という異物があろうとも、それでも変わらぬ流れはある。

 それは二槍の槍の使い手たる魔貌の槍兵が、海辺の近くの倉庫街で他のサーヴァントに誘いをかけることや、やはり最後のサーヴァントとマスターに選ばれたのは、本来ならこの聖杯戦争に呼ばれる筈がない殺人鬼と、魔術師ともいえぬキャスターであること。

 カラカラ、カラカラと輪廻は巡る。

 ただ、確かなのは今夜、遠くから覗く姿見まで合わせたなら、ここに第四次聖杯戦争のサーヴァントが全て揃ったということ。

 何よりも優美で醜悪な、魔術師による自己中心(エゴイズム)によって起こされる最小で雄大な、稀代の大戦争はここに始まった。

 

 

 

  うっかりスキル連発

 

 

 

 

 side.遠坂時臣

 

 

 遠坂の使い魔を通して、私は海辺近くの倉庫街の様子を見ていた。

 サーヴァントのたっての願いで、経路(パス)を繋ぎ、倉庫街で起こっている出来事の音声も映像もセイバーと共用で見ている現在、剣の英霊として呼ばれた暴君は不敵な笑みを浮かべながらゆったりとそれを眺めていた。

「いやはや、なんとも美しい男よの」

 その感想にこっそりとため息をつく。

 美しい男、確かに同性である私から見てもその男の顔の造詣は美しいと認めて良いほどではあるが、果たしてこれが聖杯戦争に呼び出された敵サーヴァントに対する感想として適切といえるだろうか?

 いや、そもそも本当は私はこんな風に使い魔を通して様子を眺めるなんて作戦をとる気はなかった。綺礼のサーヴァントであるアサシンを通して、情報は流れてくるのだ。それが、いつ撃ち落されるとも限らない使い魔を通してまでもわざわざ視ているのは、彼女の我侭に付き合っている結果に過ぎない。だというのに、このサーヴァントは全く私の感情もお構い無しに思うがままに振る舞う。全く、やりづらい相手だ。

「ここまでの美男子となると、余の時代にもそうはおらなかったぞ? 眼福よな」

「セイバー」

 たしなめるようにクラス名を呼ぶと、彼女はくっと不遜に笑いながら私の顔を静かに見た。

「余の奏者(マスター)たるものがそう揺らぐでない。そなた、家訓の常に優雅たれとやらはどうした? それに奏者のその心配はいささか的外れであるぞ? 余はちゃんと考えておる。見くびるでないわ」

 そう言われると、私に返すべき言葉などない。だから、私は使い魔を通して倉庫街の映像に集中することにした。

 そこには、癖のある黒髪を後ろに撫で付けた、左目の黒子と、匂う様な色香が印象的な優男が1人立っていた。

 長身に引き締まったしなやかな体つきの男で、体のラインを余すことなく映す緑色の軽鎧に、両手にはそれぞれ各自一本ずつの長物を持っている。

 呪符に包まれているがその形状といい、自ら敵に身をさらす自信家かつ、正々堂々とした勝負を好むといわんばかりのその有り様といい、ほぼ間違いなく、相手はサーヴァント三騎士が一角、槍兵(ランサー)のサーヴァントなのだろう。

「誘っているようだ。でも、誰もその誘いには乗らないか、それはそうだろうね」

 と、冷静に分析しながら口にするが、正直面白くはない。ここで愚かにも誘いに乗るものが出れば、こちらは何の手も下さずとも情報は手に入るし、あのサーヴァントと誘いに乗った敵、どちらも疲弊するような事態になればそこでセイバーをぶつけて倒せばいい。だが、誰も誘いにのらず、このサーヴァントが存在を主張し続けてもうかれこれ20分は経過する。

 これ以上見続けたところで無駄か……と、そこまで思ったとき、自身のサーヴァントが立ち上がったので、私は驚いて彼女を見上げた。

「セイバー」

「行くぞ」

 美しい唇から紡がれた簡潔な言葉。言ってる意味を理解して、目を見開く。

 そんな私の心の動きをじれったそうに見ながら、セイバーはあっさりと次のようなことを口にした。

「あれほどの美丈夫が誘いをかけておるのだ。乗らねば女が廃るというものよ」

「セイバー。君は先ほど『考えている』と答えたように思うのだが、それはどういう思考の元出た結論なのかな?」

 まさか、言葉通りではないだろうな? というセイバーへの不審を胸にもったまま、出来るだけ平静を心がけて尋ねる。そんな私に寧ろ呆れたとでも言わんばかりのため息を1つ落として、いつも通りの自信に満ちた声で彼女は言葉を吐き出した。

「奏者よ、そなたは誰のマスターだと思っておる?」

 私に背をむけたまま、セイバーはそんな言葉を放つ。

「余は最優のサーヴァント、セイバーなるぞ? 何を畏れておる。これはの、チャンスなのだ」

 そんなことを口にすると同時に、セイバーはばっとその腕を広げた。

 彼女の口上に合わせてひらひらと赤いドレスの袖が揺れる。その姿はどうにも芝居がかっていて、見るものにどこぞの舞台の演劇でも鑑賞させているかのような錯覚を覚えさせる。そして主演を演じる少女は美しい笑みを浮かべて、観客たる私に向かい其の熱弁を奮った。

「わかるか、奏者よ。余の力を示すまたとない機会だ。見られているなら結構。観客がいるほうが余の興も乗るというものよ。ついてこぬならそれで構わぬぞ? そなたはここで、余の勇姿を見ているがよい」

 そう告げるやいなや、こうしている暇も惜しいとばかりに、止める間も無くセイバーは去っていく。

 そんな彼女の在りようを前にして、思わず重いため息を零す。令呪を使うか? いや、こんなところで貴重な切り札(れいじゅ)を一角失うなどそれこそ馬鹿げている。

 ……セイバーが、先日の演技を不満に思っていることは知っていた。

 弟子である言峰綺礼が脱落したと思わせるためと、セイバーの力を見せるのを目的でやった自演の襲撃事件。

 綺礼のサーヴァントは、複数に分裂するアサシン(ハサン・サツバーハ)という奇怪な能力をもった英霊で、それを利用して、中でも一番弱いだろうアサシンの人格の一人にわざとセイバーを襲わせ、一撃で葬り去らせた。

 綺礼はサーヴァントを失ったという誤情報を他マスター達に植え付け、その影で存命のアサシンたちが情報を集め、私が勝利するための礎へするため暗躍する。そういうプランの元実行されたのが昨夜の催し物だ。

 綺礼とは表向き敵対することになるが、その実彼は私の陣営の人間である。それに80に分裂できる人格の内の一つを失ったところで、影響などさほど無いに等しく、またアサシンの気配遮断スキルを利用して情報を集めるにしても敵陣営には「アサシンは脱落した」と思われていたほうが何かと便利だ。元よりアサシンに勝利を預ける予定などないのだ。彼らには黒子として徹してもらえればいい。その辺りの事情を鑑みても私には全く損のない作戦だった。

 だが、それがセイバーには酷く不満だったらしく、「余が華々しく戦う舞台を用意せよ!」と煩く騒いであの後は大変だった。だから、おそらく今回の誘いにのったのも、その鬱憤を晴らすという意味合いのほうが強いのだろう。

 全く仕方ない。サーヴァントは聖杯が与えたマスターへの手駒ではあるが、彼女達にも人格がある以上、制限ばかりかけていては反発や裏切りを招きかねないのだ。ここは適度にセイバーの欲求も聞き入れ、息抜きをさせるか。それにいざとなれば令呪で呼び戻すという手もある。ここは彼女の言うとおり、ひとまずはランサーとセイバーの戦いという名の舞台を鑑賞させてもらうことにしよう。

 使い魔を通して情景に再び集中する。緑の鎧の優男の映像。その向こうで赤い衣が風にたなびいて目に映った。

 

 

 

 side.ランサー

 

 

 俺は落胆していた。

 生前の人生に不満があったわけではないが、次があるなら今度こそ主君の為に仕えて、騎士としての本懐を遂げたい。

 そんな想いを抱く中召喚されたこの度の聖杯戦争。主君であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトに聖杯を捧げると誓い、戦いに参戦したはいいものの、誰一人として自分の誘いに乗ろうともしないこの現状。主君に大口を叩いた以上、敵の首級の一つも持ち帰らねばと意気込むも、誰も現れぬのなら話にもならない。

 英霊とは英雄が神格化するまで祭り上げられ、人々の信仰により魂としての格が精霊と同格となった存在だ。

 一人ひとりが猛者としての伝説をもっている一騎当千の強者ばかりであり、それが冬木の聖杯戦争に召喚されるサーヴァントという存在の筈だ。そんな相手なら俺の誘いにも、1人くらいは乗ると踏んでいたのだが……これほど誘っても誰も出てこないとなれば、敵は腰抜けばかりだったということか。そう思い、痺れをきらした主にパスを通して話しかけられ、一度帰還しようとした矢先だった。その女が現れたのは。

 小柄な体に、赤いドレスを身に纏い、同色のリボンで黄金の髪を結い上げ、これまた赤く禍々しい形状の大剣を手に抱いた少女。

 華奢で美しい見目をしていたが、この気配、この魔力、この存在感。間違いがない、あれは俺の敵(サーヴァント)だ。

 自分の望んでいた相手が目前に漸く姿を見せたという事実に、にやりと自分の口元が釣り上がるのが解った。

 そして宿る歓喜のままに言葉を投げかける。

「よくぞ来た。今日一日、この街を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込む腰抜けばかり。……俺の誘いに応じた猛者(モサ)は、お前だけだ」

「何、そなたほどの色男に誘われて断るのは、余の名折れというものよ」

 言いながら、女もにやりと笑った。

 それは傲慢さが板についたような笑いだった。その瞳には好色そうな色が見えて、少しだけ眉を顰めたくなる。

 俺には生まれ持った呪いがある。左目のすぐ下にある「愛の黒子」だ。

 これは並みの女なら一目で虜にしてしまうほどの魅了の力を秘めた代物で、異性に絶大な効果をもつ。俺の意思ではどうにもならない力故に呪いと呼んでいる。

 これに抗える女というのは、一定以上の対魔力をもつ者だけであり、剣を手にしている以上、この赤いドレスの少女はセイバーであろうし、セイバーのクラスには高い対魔力が備わっているはずなのだが……もしもあの女の瞳に映る色が、この魔貌に魅了されてのものならば、とんだ興ざめだとしか言えない。

 腰の抜けた女を斬る程くだらないものはないし、俺の名誉にも関わる。たとえこの女が如何ほどの英霊であろうと、己に魅了されている女を斃したところで、なんの自慢にもならない。

「セイバーだな?」

 だからクラス名を呼んだ。お前に俺の魅了の呪いは効いていない筈だな、と確認するために。

 それに女は優美に笑いながら答えた。

「いかにも。余こそが最優のサーヴァント、セイバーよ。そういうそなたはランサーだな。ふむ、二槍使いとは面白い」

 少女が口にしたのは戦いに言及する言葉だった。そこで漸く俺は己の心配が杞憂であったかと思い直し、これから行う殺し合いに思いを馳せて気を昂ぶらせた。

 そんな俺につられるように女もまた瞳と唇の端に好戦的な色を湛え、告げる。

「さて、そなたは美しいゆえ、余としてはこうして鑑賞しているのも悪くはないのだが、いつまでもこのままでいるわけにもゆくまい?」

 言いながら女はゆらりと、その赤く特徴的な剣を構えた。

「全くだな。さて、では尋常に死合うとしよう。……ゆくぞ、剣使い(セイバー)

「美貌なる槍使いよ、今宵、余と死の舞踏(ロンド)を踊ろうぞ!」

 

 そうして赤いドレスを身に纏った暴君の剣と、緑の鎧の騎士の槍が迸ったのは同時だった。

 

 

 

 side.ライダー

 

 

「ほほう、これは中々」

 眼下に見えるその光景を前に、余はワインを片手に、嘆息を一つ漏らす。

 視線の先は海沿いにある倉庫街。そこには傍目には幼く見える赤いドレス姿の少女と、4時間程自分達で追跡していた緑の鎧の優男が、槍と剣を手に優美に剣舞を踊っていた。

 否、実際に踊っているわけではない。彼らは死合いをしているのだ。

「おい、それで……どうなって、るんだよ。状況は。お、まえ、ぼ……くにも、少しは、説明しろよ」

 と、隣から主君(マスター)のそんな声が聞こえ、ゆっくりと余、こと、この度の聖杯戦争において騎兵(ライダー)クラスで召喚されたサーヴァントたる、征服王イスカンダルはそちらを振り向いた。

 そこには此度自分を呼び出した魔術師である、ウェイバー・ベルベットが、必死の青い顔をしたまま鉄骨にしがみついている姿があった。

「セイバーとランサーの実力はほぼ拮抗しておるとみて間違いないだろう。力のセイバー、速さのランサーというところだな。しかしまあ、なんとも華のある戦いよ。これほど見事な演舞はそうはあるまいて」

 そう感心したような声で余はしみじみと呟いた。それに合わせ目尻が弛む。

 戦闘というものはいいものだ。自ら参加するのも、こうして鑑賞対象として見るのも、どちらも余の胸を熱くさせる。

 そして、今目前で繰り広げられている戦いは十分に余の眼鏡に適うもので、想像以上の極上の酒の肴を前ににんまりと笑う。

 と、そのときランサーの様子が変わった。どうも、宝具を解禁したらしい。続いてセイバーも、不敵な笑みを浮かべて……。

「……いかんなぁ。これはいかん」

 酒の肴としてこうして2人の戦いを眺めるのは悪くはなかったが、それでもこれほど早くに決着がつけられるのは、余の目的を思えば望むところではない。

 故に観賞はそれまでとして、よっと軽いかけ声をあげながら、冬木大橋のアーチの上から余は身を起こす。

 一方マスターであるウェイバー・ベルベットは状況がわからんらしい。なにくれと喚いてくるため、そんな坊主を相手にあれこれと適当に説明しながら腰の剣を抜き払い、虚空を一閃させて、余がライダーたる所以の騎乗用宝具を取り出した。

「見物はここまでだ。我らも参じるぞ、坊主」

 そして、主君である坊主共々、余の愛車である神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)に乗り込み、赤き剣使いと、緑の槍兵の下へ向かおうとした、まさにそのときだった。それが2人の空気を穿ったのは。余より一足早く2人を牽制するように、それは空の彼方より飛翔した。

 

「そこまでにしたほうがいい。これ以上手の内を明かしたくなければ双方得物をおさめろ」

 幻想と幻想の戦い。そんな中、声変わり前の少年を連想させる声が凛と月夜に響いて、その場を支配した。

 

 

 

 続く

 

 

 


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