新・うっかり女エミヤさんの聖杯戦争(完) 作:EKAWARI
今回の話で、わかる人は今回召喚されたセイバーの正体がわかったのではないでしょうか。
因みににじファンで連載していた時、前話の「逃走、追撃戦」のセイバー召喚時の描写だけでこの話のセイバーの正体言い当てた人が約1名いてびびった想い出。
まあ、今回でわからなくても9話か10話に入ればわかるでしょうから、ご安心下さい(?)
とはいっても、アニメだけしか見てないよ、原作プレイしていないよ派……或いは原作プレイしたけどタイガー道場コンプしてないよ派の人は情報出てもわからないと思いますけどね。
ここに、この時代に召喚されるのはこれで2度目。
1つ前の代の聖杯戦争も加えると3度目の召喚。
だけど、それは私の記憶とはあまりに違っていた。
そう、あまりに違っていたのだ。
だから、私は、今までにない選択をする。
発動
side.衛宮士郎
ぐらりと、身体が斜めに揺れた。
「……ッ」
ずるりと、倒れこみそうになる体を隣のイリヤが支える。酷い眩暈がした。
(……なんでさ……)
と、思ってすぐに正体に気付いた。目の前の少女だ。
青と銀の鎧を身に着けた金髪の人ならざる少女、彼女に向かって俺の魔力が流れていっている。吸い上げられている。その量たるや、今にも気絶してしまいそうだ。
だけど、今はシロねえたちがアレと戦っている最中なんだ、そんな無様は晒せない。
ぎりと、唇をかみ締め、右腕を爪が突き刺さって血が流れるほどに握り締めて耐えた。左手の甲が何故か熱く痛むのも、今だけは有り難かった。
「……ここに、契約は完了した」
朗々と静謐な声がそんな言葉を紡ぐ。
数瞬遠かった五感全てが、痛みによって戻ってくる。
「セイバー」
そう、目の前の少女に懇願するような声を上げたのは隣で俺を支えるイリヤだ。
「セイバー、悠長なことはしている暇はないの。この家にランサーが攻め込んできている。今、他の家族が応戦しているけど、長くは保たないわ」
それに、セイバーと呼ばれた少女は僅かに困惑染みた色を表面に乗せて「失礼ですが、貴女は?」とそんなことを尋ねた。
「わたしは、貴女のマスターの姉よ。貴女のマスターは召喚による消耗でマトモな指示は出せない。だから今はわたしに従ってもらうわ」
その言葉に、セイバーは眉を顰めると「いいでしょう。ランサーが来ているというのは本当のようだ。では、マスターを頼みます、
「待っ……」
思わず手を伸ばしたが、再びぐらりと体が傾く。
「士郎。駄目よ無茶をしちゃ。本来なら士郎のレベルで英霊を召喚なんてしたら、その場で即気絶してもおかしくないんだから」
英霊……?
イリヤの言っている意味がよくわからない。
ただ、あの青と銀の少女はやっぱり俺が召喚したらしくて、それも尋常な存在じゃない事だけはわかった。あれは、あの青い男や赤い男と同様の上位存在だ。
確かにイリヤの言うとおりにしたとはいえ、魔術師として半人前である俺が、なんでそんなものを呼び出せられたのかはわからない。だけど、あの少女を呼び出したのが俺だというのならば、尚更、俺は見届けなきゃ。
そうして、庭のほうへと視線を向ける。
そこで見たもの。銃を抱えて庭端にいる親父と、いつの間にか右胸に胸当てをつけて、体中に浅い傷を作ってる黒衣のシロねえ。そして、青い男を圧倒するかのように切りかかっていく青と銀の鎧の少女。
セイバーと呼ばれた彼女は、一見小柄で華奢なその体のどこにそんな力を秘めていたのか、圧倒的なまでの豪腕で青い男に切りかかっていく。
その手に握っているのは……一体何なのか。見えない。何かを握っているのは確かなのに、男の槍と刃を合わせる鉄の音が響いていることからも、何か武器を手にしているのは確かなのに、それは視えなかった。
それに対して忌々しげに男は吐き捨てた。
「卑怯者め、自らの武器を隠すとは何事か…………!」
少女はそれに答えず、華奢な体つきに似合わぬ猛攻を男に叩きつけている。
ただ、気のせいなのか、ちらりと親父のほうを一瞬だけ見て不解そうな表情を浮かべたような気がした。が、それは本当に僅かな刹那のことで、即意識を全身青い衣装に包んだ、紅い槍を携えた男へと集中させている。
それはそうだ。
いくら物凄い力で男を圧倒しているといっても、油断すれば狩られるのは少女のほうなのだ。
少女に劣っていようとも、それぐらいに男もまた尋常ならざる相手なのだった。
「テメェ…………!」
苛立たしげにそう声を漏らして、男は後進した。
おそらくは、一切その姿のわからぬ武器に間合いの取り方がわからず、攻めあぐねているのだろう。チッと舌打ちをして、それでもまるで暴風のような少女の猛攻を長槍で防ぎ続けている。
少女は守りに回った相手に対し、深く踏み込んで、その不可視の何かを渾身の力で叩き下ろした。
「調子に乗るな、たわけ…………!」
男は跳躍、まるで消えるかのような素早さで後ろに跳び、少女の一撃は空を切って地面を砕いた。
その直後、気合の声を入れて男は着地点から今度は少女に向かって三段跳びで立ち向かい、地面に不可視の武器……おそらくは剣をつけた少女に槍を振りかぶる。それを、セイバーとイリヤが呼んだ少女は剣を下ろしたまま体を反転させ、流れるような所作で剣を男に叩き込んだ。
「ぐっ…………!!」
不満そうな色を乗せて弾き飛ばされる男と、その結果をまるでわかっていたかのような色をどことなく表情に乗せて見据える、青と銀の鎧の少女。その攻防によって、男と少女の距離は大きく離された。
その瞬間、タイミングを読んで、シロねえのハスキーな声が響いた。
「爺さんッ!」
合図。間違いなくそれは合図だった。
第三の結界が発動する。
地脈を利用した結界が、
青い男も、青と銀の少女も、それを驚愕の目で見ていた。
side.言峰綺礼
「む……?」
それは突然だった。
黄金の王が目覚めるまで、暇つぶし代わりに知り合いの封印指定狩りから奪い取ったサーヴァントを使い、視力を共有させて偵察に使っていた。
そして、今宵、妹弟子のサーヴァントと対峙させ……そのサーヴァントが10年前の衛宮切嗣の
そうした戦いの終盤、切嗣が第四次聖杯戦争の後引き取ったという養子が現れた。
目撃者は殺せとそう事前に指示をしている。相手があの男の息子というのならば尚更だ。そのまま私は成り行きを見守っていた。
そこに現れたのは
まるで元英霊とは思えぬ……
私は、そのままその女も仕留めるように指示をして追わせた。
弱体化しているのはあの女だけではない。マスターである衛宮切嗣もそうだ。そうだと知っていた。
だが、ただで死ぬような輩とは元より思ってはいない。
此度の聖杯戦争でもなにかしらやるだろう、最後には私に立ちふさがるのは奴だろうと思っていた。だが……それでも、ここで死ぬようならば所詮それまでの輩なのだ。ここで死ぬようならば結局は奴のレベルはそれだけだった、そういうことなのだ。
だから、けしかけた。
ここで死ぬならば所詮それだけの輩。しかし、ここで生き延びるのならばきっと私を楽しませてくれるだろう。
奴の後継者のことも気になっていた。果たしてどれほどのものかと。
だが……。
(やりすぎたか)
奴の
そこまでは視えていた。
だが、なんらかの結界が発動したかと思えば、件のサーヴァント、ランサーと繋げていた視覚のリンクは強制的に断ち切られていた。念話も試してみたが、なにかが阻害していて声は届かない。
腕にある令呪を見れば契約が断ち切られたというわけではないらしいが、アレに使える令呪は残り1つなのだ。令呪の補填もやろうと思えば出来るし、令呪で無理矢理呼び戻すことも出来るが、そうしたらアレは私を殺しに向かうだろう。それくらいはわかっていた。
「ままならぬものだな……」
ふむ、と思案する。
でも、まあいいとすぐに思い直してアレのことを考えるのはやめた。
どうせ、あれはただの拾い物だった。ただの暇つぶしに手に入れた駒だ、この後本当に消えようが別段そこまで惜しいわけでもない。
まだ、切り札はある。
終盤まで関わることが出来なくなったのは残念だが、それだけだ。
「さて、此度の聖杯戦争では、どれくらいの血が流れるのか」
それだけを思って、にっと口元に笑みを浮かべた。
人は歪んでいると私を称するだろう。だが、それがどうしたというのか。私はただ、人が美しいと思えるものが美しいと思えず、人の不幸にしか快楽を見出せなかった。ただ、それだけの話なのだ。そういう風に生まれついた。なら、そういうふうに生きる。
私が意義を見出すとすれば、きっとそう。自分を貫く。
今の望みは……とりあえず、
生まれることを望んでいる、あれの誕生を私は見届けたい。
ならば、その望みの為に私は走ろう。
それが生まれながらにして歪を抱えた私の唯一の矜持だった。
side.エミヤ
これは賭けだった。一歩間違えれば自分が殺されることがわかりきった賭け。
だが、それがどうした。
自分の命を担保とすることなど、慣れきっていた。
「爺さんッ!」
合図を送る。
それを受け、
サーヴァント2人は驚きを表情に出して私と爺さんを見ている。
当然だろう。
一定量以上に放出する魔力は、地脈を利用したこの結界によって吸い上げられる設定になっているのだから。
私だって若干動きづらい。
それが純粋なサーヴァントならば尚更だ。
普通にしている分にはそれでも影響はないだろうが、戦闘となると魔力の消費量は大幅に上がる。そして彼らは直前までその戦闘を行っていたのだ、突然奪われた魔力量など、私の比にはならないだろう。
それに、彼らは気付いただろうが、この結界が発動している間は事前に描かれている術式により、マスターとサーヴァントを繋げるパスへとノイズを送り込み、正常な念話や視力共有などの邪魔をする作用を施してある。
とはいえ、マスターとサーヴァントを繋ぐパスというのはそうそう単純なものではない。
故に、結界が発動していても極近い位置にマスターがいれば一応念話などは通じるだろうが、マスターと遠く離れているとなると話は別だ。
間違いなく、マスターとのそういう繋がりは結界発動中は強制的に断たれる。
しかも、性質の悪いことに、それらをシャットダウンするためのノイズを発生させるために使う魔力源は、今まさに彼ら自身から巻き上げている魔力を応用して転じたものなのだ。
遮断するのに使っている力も、元は己のものなのだから、サーヴァント達にとって毒になろう筈もない。
「そこまでだ。2人とも矛を納めろ」
その私の言動に、油断ならぬ構えをして、サーヴァント二騎は私をにらみつけた。
「貴様、何者……! いや……今何をした」
そう、ぎりりと歯軋りをさせながら低く問うたのは、懐かしき少女と同じ姿と魂をもつ剣使いの少女、セイバー。それを無視して、私は「ランサー」と青き槍使いに話しかけた。
「いや、アイルランドの大英雄殿と呼ぶべきかな? 確か君は
笑みさえ浮かべて、言う。
それにぴくりと、片眉を上げて、ランサーは獣染みた殺気を飛ばしながら、「ほう、俺の名前を知っているってわけか。女を殺すのは趣味じゃあねえんだが……それがどういう意味かわかってるんだろうな」と、自分の愛槍を構えつつ言った。
わかっているとも。
名を出すということは、この男が相手を「殺す」と決めると同意なのだと。だが、むざむざ殺される気もない。
これは賭けだ。
出しても無駄になる確立はある。
だが、その一方でこの男ならば、この切り札を切れば、少なくとも自分を今すぐ殺そうとはしなくなるのだろうと、そんな確信染みた予感もあって、用意していた切り札を口にした。
「ランサー、
ぴくりと、男の殺気が少し薄れた。
「……テメェ」
怪訝気な紅い目が私を見据える。
それを気にせず、私はその人間ならざる目を真っ直ぐに見ながら淡々と言葉を紡ぐ。
「事実だ。私たちは数日前から冬木で起こったことについては出来うる限り把握している。つい先ほど仲間から連絡があってな、双子館の隠し部屋で、片腕を失った仮死状態の女を発見したそうだよ。バゼット・フラガ・マクレミッツ、君の元マスターだろう?」
男はまだ槍を下げない。ただ、静かに私の言葉の続きを待っている。
「仲間は、瀕死のまま眠り続けている君の元マスターを治療の為に病院へと運んでいる最中だ。さて、私たちについてくればもう少し詳しい話や、君にとっても興味深い話をすることが可能だと思うのだが、どうかね? 君の現・主については見当はついているが、そいつは君の元マスターの仇ではないのか。なあ、ランサー。君は主の敵討ちをしたいとは思わないか……?」
そう口にすると、男はふぅと息を吐き出して、「ああ。そうだな……いつかは殺してやると思っている野郎だ。だがそれでも俺は主は裏切らない主義なんでね、今だ令呪を失っていない以上、アイツが俺のマスターだ。しかし、アンタの誘いは中々魅力的だ。さてどうしたものか」言いながら、男は私を試すような視線を送ってくる。
「どうせ、今の奴には見えていまい。ならば、知らぬ存ぜぬで通せばいい。そうだろう?」
言うと、男はぽつりと「気にくわねえな」と漏らし、それから槍を下げて「名前」と口にする。
「名前くらい名乗れ。テメェは俺の名前を知ってて、俺が知らぬというのは気にくわねえ。相手の名を口にしようってんなら、自分の名を名乗れ。それが礼儀だ」
ぎらりと、どことなく物騒な光を目に宿して、ランサーはそう告げた。
「エミヤ・S・アーチェだ」
自分でも驚くほどすんなりと、ここ10年で言いなれた名が口から流れ出た。
それを聞いて、今までの様子はなんだったのかと思うほど態度を一変、ランサーはにっと笑みを浮かべて私に近寄り、バンバンと肩を叩いて「よし、じゃあ、アーチェ行こうぜ」とかいって、屋敷の中へ向かって歩き出す。
……内心馴れ馴れしいなこいつと思ったが、大型犬にからまれたと思えば別にいいか、否定したら面倒な話になりそうだし……と思って受け流すことにした。
「待ちなさい……!」
それに、静止の声をかけたのは、青と銀の鎧の少女だった。
「貴女が誰なのかは知りません。ですが、勝手なことはやめてもらいたい。貴女はマスターの家族と聞きました。それが、何故
ぎらりと、不可視の剣を構えて、そんな言葉を吐き出すように言うセイバー。
確かに彼女の言うことは、聖杯戦争におけるサーヴァントの言動としてとても正しいだろう。そして、彼女がそういうことを口にするのは、性格上やるだろうとわかりきっていたことでもあった。
「マスターの家族だろうが、場合によっては、私は貴女を斬る事も辞さない」
言いながら、不可視の剣を向けてくるセイバー。
魔力を吸い上げられて辛いだろうに、それをおくびにも表に出さないのは流石というべきだろう。
「やめろ、セイバー」
それに静止の声をかけたのは、ふらふらの体でイリヤに体を支えられながら歩く士郎だった。
その姿を見て、ああ、今回はキチンと彼女とは契約のパスが通ったのだなと思って、そんなことに安堵した。
全く、私は馬鹿なのか。
今まさに私に殺気を飛ばして、敵になりかねない少女の安否をこんなところで気にしてしまうとは。
たとえ、同じ容姿と魂とを持ち合わせていようとも、あれは私が地獄に落ちても忘れぬと思い焦がれた少女とは同一の別人なのに。
そうだ、そもそも呼び出される彼女に対して、過去のように接しようなどと最初っから私は思っていなかった。
なのに、それに徹し切れないというのは、やはり馬鹿者というしかないのだろう。ただ、表面だけはとりつくろって、それらの感情を表に出さないようにした。
「マスターは黙っていてもらいたい。わかっているのですか。聖杯戦争とはサーヴァント同士による殺し合いなのですよ。聖杯を手にするのは1人だけだ。だから……」
「ごめん、俺はセイバーが何を言っているのかわからない。でも、シロねえに手を出すのは、俺が許さない」
その言葉に、何故かセイバーは泣きそうな目を一瞬浮かべたような気がした。
「行こう」
切嗣は出来るだけ日常に近い声を作ってそう告げ、玄関に向かって歩き出す。
「セイバー。ごめんなさい。後で出来る限り色々話すわ。だから、今は剣を収めてほしいの」
そういって、イリヤもまた、士郎を支えたまま、家の中へと向かう。
少女は呆然と立ち尽くす。それに対して、私は……。
「セイバー、君の願いは叶わない」
そんな言葉を静かな声でかけた。
セイバーは碧い瞳を見開いた。ぎょっとしたそんな顔。そこに何かの絶望を思い出したかのような色を見た。
(……?)
違和感が一つ。
何か、歯車が噛み合っていないような、そんな違和感。
思わず、じっと少女の顔を見た。それに、私の肩を掴んでいたランサーは、ぐいと、肩を寄せ「行こうぜ」というジェスチャー。
騎士王の名を持つ少女は、何かに耐えるように唇をかみ締めて、長い睫を伏せて手を握り締めたかと思うと、きっとこっちに厳しい視線を送り、「わかりました。いいでしょう
まただ、また違和感。
果たして、彼女はここで矛を納めるような性格をしていただろうか。
いや、セイバーはここまで悲愴的な人であっただろうか。
元から責任感が強く、王としての責任感が強い
それが他人に「君の願いは叶わない」といわれただけで、あそこまで絶望を思い出すような、そんな少女だっただろうか?
思えば最初から、彼女には違和感があった。
そう、
それらの反応はまるで……知っている風景の中に混ざった異物を見るようで……まさか、と自分の想像を頭を振ってふり払った。
それに、すぐ隣にいたランサーは不思議そうに、「なんだ?アンタ頭でも痛いのか?」とかそんなことをあっけらかんとした顔で聞いてきた。
「いや、なんでもない」
気にするなとそういうのと同時に居間にたどり着く。
すると、ランサーはどかり、座布団に腰を下ろして「んじゃま、いっちょ頼むぜ」と言って手をひらひらふった。
「何がかね?」
そう問うと、ランサーは片眉を不思議そうに顰めて、それからこんなことを言った。
「何がって、飯作ってくれんだろ」
(あ……)
そういえば誘い文句として最初にランサーに言ったのは私だったな。
セイバーのことばかり考えるあまり、忘れてた。すまなかったランサー。とか、素直に言うのもいやだったので、誤魔化すようにいつもの赤いエプロンを身に着けながら「暫くまってろ」と言って冷蔵庫の中身をのぞいた。
そのタイミングで、士郎を抱えたイリヤが部屋に辿り着く。
「シロ、何しているの」
「夕食の準備だ」
「…………」
どことなく、力が抜けているように見えるのは多分オレの気のせいじゃないんだろうな。
そして、次に士郎に視線をやる。
先ほどはああセイバーに啖呵を切っていた士郎だったが、今は朦朧としていて、疲労を前に瞼を重くしているのが見て取れた。
「士郎、夕食が出来たら呼ぶ。だから、今は休んでいろ」
「いや、シロねえ……俺ちゃんと手伝うから……」
「そんな体で何が出来る、馬鹿者。いいから部屋で寝てろ。そうすればオマエのなけなしの魔力も少しは戻る」
言うと、流石に自分の言動に無茶があったと思ったのか、士郎は罰の悪そうな顔をして、自室へと戻っていった。
それと入れ違うように入ってきたのはセイバーだった。
「…………貴女は何をやっているのですか?」
台所に立つ私を見て、開口一番そう口にした。
「夕食作りだが……」
まあ、先ほどまであんなことがあったので、突っ込まれる気はしていた。
セイバーは、「何を悠長な」とか言いながら、きっとランサーをにらんで、それから自分の顔を覆ってうなだれた。
直後響く、グゥという腹のなる音。
セイバーの顔が赤く染まる。
「ほぉ~?」
身近で聞いたランサーはにやにやとした顔で、そのままセイバーを見て「なんだ、セイバー、おまえ実は……」などと、いらんことを言おうとしているのがわかったので、それを最後まで言い切る前に、言葉をかぶせて、「セイバー、よければ味見をしてくれないか? 丁度味見係を欲していたところだ」とそんな言葉をかけて遮った。
セイバーは、悔しそうな顔をしつつも「わかりました」といってやってくる。それに、内心ほっとした。
くそ、ランサーの奴め、余計なことを。
もう少しで屋敷が吹っ飛ぶところだったじゃないか。
その後、余計なことにならないように、お茶請けと緑茶を人数分出して、出来る限り急いで夕食作りに励んだ。
そうして、衛宮家の遅くも緊張感をどことなく孕んだ晩餐会がかくて始まる。
NEXT?