新・うっかり女エミヤさんの聖杯戦争(完)   作:EKAWARI

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 初めましての人は初めまして、久しぶりの方はお久しぶりです、ばんははろEKAWARIです。
 この話はあらすじにも書いている通り、今は無きにじファンで2011年春~2012年7月閉鎖寸前(閉鎖3日前に一部ダイジェスト進行で最終回のエピローグまでこ漕ぎ着けた)まで連載していた作品であり、元々はこの加筆修正おまけ漫画付き完成版? をDL販売で出そうかなーと思ってて、話長い(80話ぐらい)のもあり、移転はしないよと公言してた作品なのですが、絵師様と連絡取れないし(多分俺が十中八九悪いんだと思います)、先日のアニメUBWでイリヤが死ぬところでこうぶわーっと、イリヤに救いを! ていうか、元気に生きているイリヤが見たいっす師匠みたいになって、今回ほぼやけくそにアップする事にした次第です。
 何度も公言を破ってて読者の皆様には迷惑いくつもおかけして申し訳御座いません。
 あと、元々移転しないと言っていた作品でしたので、最後まで上げるかはわかりませんが、それでもきりの良いところまでは少なくともあげるつもりです。
 また第四次聖杯戦争編は第五次聖杯戦争編へ繋げるための「おまけ」として元々考えた話なのもあり、7割ぐらいの展開が原作通りですが、そのあたりはご了承下さい。
 それではどうぞ。


第四次聖杯戦争編
プロローグ


 

  プロローグ

 

 

 

 

 side.エミヤ

 

 

「答えは得た。大丈夫だよ遠坂、オレも、これから頑張っていくから」

 これまでにない開放された気持ちで、私は、英霊エミヤは笑顔を浮かべた。

 彼女との別れの顔を思う。きっとあの少女がついている限り、衛宮士郎(この世界の私)は大丈夫なのだろう。

 消えていく。

 そして再び私は座に戻るのだ。

 そう、其の筈だった。

 ……本来なら。

 何が悪かったのだろうか。理由は神ではない身ではわからない。

 ただ、折角答えを得たのに座に戻ってその記憶を手放すのは残念だ、とか、やっと初心を思い出せたのだ、切嗣(じいさん)や懐かしい人々に叶うならもう一度会いたい、などと僅かでも思ってしまったのが悪かったのかもしれない。

「む!?」

 本来なら消えていく中、ぐん、と何かに自分の体が引っ張られた。分解されるはずだった魔力で出来た身体は新たに聞こえた詠唱を前に再構成され、そして新たな場所へと向かう。

 その感覚を、間違いなく私は知っていた。

(これは、召喚か!?)

 聖杯戦争に召喚されるのは英霊の座にある本体の分身だ。聖杯戦争に召喚される分霊は座にある本体の情報を元にその都度に作られる。故にこんな風に本体に帰還する途中で他に引っ張られ、連続で召喚されることなどない筈なのだが。

 しかも、今自分の頭の中に流れ込んでくるこの情報はどうしたことか。

 ……どうやら自分はアーチャーのサーヴァントとして呼び出されようとしているらしい。信じられないが、どうやら再びオレは聖杯戦争に呼び出されようとしているようだ。

 何故だ? もう、自分殺しなど企んでいないというのに。不可解な混乱する思考を他所に、しかし時間は待ってくれず出口に差し掛かろうとしている。間もなく召喚主と顔を合わせることになるだろう。

 

(仕方ない。覚悟を決めるか)

 

 サーヴァントとして呼び出されたのなら、呼び出した主君(マスター)の為に今度こそ働いてみるのも悪くないのかもしれない。どうせ望みなど持っていない身だ。それでも、凛のことは裏切ってしまったから、今度こそ忠義を尽くす、それもまた一興だろう。

 ……例え忠義者宜しく次の主に振る舞ったとしても、裏切ってしまった凛への罪滅ぼしぬすらならぬと知ってはいるけれど、それでも……また駆けたいと、そう思った。

 そうして、出口へとたどり着く。

 ……あの日を思い出す。

 月光の元の、土蔵で呼び出した彼女との出会い。地獄に堕ちても尚忘れられないあの鮮烈な出会いの光景を。

『問おう、貴方が私のマスターか』

 その神聖で清浄なる響き。全てが変わった夜。そうだな、あやかるわけではないが、此度の主君への最初の一言はそれにしよう。

 そう思って若干皮肉気に唇の端を吊り上げて、目を見開いた。さて、こんな愚か者を呼び出した馬鹿者はどんな顔をしているのか、そんな風に少しだけ愉快な気分でさえあったが、しかしラインが繋がった相手(マスター)を認識したその瞬間、最初の思惑など忘却して、私は素っ頓狂な声を上げ、叫んだ。

「なんでさ!?」

 懐かしい口癖が、英霊になってからついぞ言うことのなかった、衛宮士郎時代の口癖が零れ落ちる。

 きっと、英霊に……守護者と成り果ててからこれほどに動揺したことなどないのではないだろうか。

 いや、でもわかってほしい。だって、自分を呼び出したのは、くたびれたような黒いコートに身を包んだ黒髪黒目の魔術師の男で……そう、自分が知っている姿よりも若干若い己が養父、衛宮切嗣(えみやきりつぐ)その人だったのだから。

 何故よりにもよって爺さんがオレを呼び出したのか? そんな動揺に駆られるオレは、自分が今どのような状態にあるのかさえ正確に認識してはいなかった。

「ちょっとまて、なんで切嗣(じいさん)がオレを召喚する!? 切嗣(きりつぐ)が召喚したのは確かセイバーの筈だろう!?」

 動揺しながらそんな言葉を並べるオレを見ている男は、呆気にとられた眼で、頭が痛そうに眉根を寄せている。だが、そんなことに気を配れないほどに今のオレは狼狽していたのだ。

「ええと、貴方はアーサー王じゃないのね?」

 ふと、極近くから第三者の女の声がして、私はすばやくそちらをむいた。今まで切嗣にのみ意識が向かっていた故に気付いていなかったが、その女性はどうやらずっと切嗣の隣に立っていたらしい。

 そこにいたのは美しい大人の女性だ。

 柔らかくたおらかそうな体つきと雰囲気を纏っていて、引き締まる所は引き締まっていながら、出るところは出ている体はバランスが良く、髪は雪のような銀髪で瞳は鮮やかな紅色。肌もまた透けるように白く、人外を思わせる美貌はまるで雪の精霊さながら……ん? この特徴は。

「イリヤスフィール? 何故君がここにいる!? いや、それよりその姿はなんだ? 君は確か成長が止まっていたはず……は!?」

 思わず自分の心が思うままにここまで言い切り、オレはそこで漸く己の異変に気付いた。

 確か自分はここまで明け透けに思ったことを口に出す人間ではなかったはずだ。少年だった頃とは既に違うのだ。寧ろ不貞不貞しく食えない男だの、何を考えているのかわからないだのという評価が似合う、そんな人間に自分は成り果てたのだと自覚している。それが何故こんな風に思うままに言葉を紡いだのだ。いくら混乱していたとはいえ、それ自体が何かおかしい。

 もしや、遠坂のうっかりが移ったのか? いや、それよりも、先ほどから自分の声もおかしい。私はこんなに高い声をしていなかったはずだ。それに体にもなにやら違和感が……と、そこで下に目線を落として思わず再び絶句した。

 そこには二つのふくよかな丘が存在していた。

 ふよふよと柔らかそうな双丘は気のせいでなければ胸部に生えているように思える。それは他人で見慣れているといえばそうだが、男である自分の胸にあるはずがないもので、その正体を確かめるため、おそるおそる手を伸ばした。

 ふにゅ、と弾力のある感触は餅にどこか似ている。指で弄えばそれに併せて形を変えるほどに柔らかく大きさもそれなりだ。そしてくすぐったい。その感触をよく知ってはいるが、オレにはあるはずがないもの、としか言えない。

 ええと……これは……?

 私は滝のような汗を額から流しつつ、ぎぎぎっと、首を切嗣と大人になったイリヤスフィールらしき女性に向ける。

 二人ともどう反応するべきなのか迷ったような顔をしている。……心は硝子で出来ている、脈絡もなくそんなことを思った。

「その、つかぬ事を尋ねるが……」

 そう核心を得るための口火を切る合間にも、だらだらと汗が頬を伝いおちる。

 なんとなく、自分がどういう状況に陥っているのかの見当はついてしまっているが、その結論は認めたくない。出来れば気のせいか、夢であって欲しい。嗚呼、クソ、どうしてこうなった。目から汗が吹き出そうだ。

「私は、もしかして女性になってしまっているのだろうか……?」

 そんな泣きたい気持ちに耐えて、出来れば思い違いであって欲しいと願いながらも、荒唐無稽な仮説の真偽を尋ねた私に返ってきたのは無情な言葉だった。

「? 君はどこからどうみても女性だと思うけれど?」

 そう切嗣は答えたのだ。召喚されてからこの方、切嗣が声を放つのを聞くのはこれが最初になるわけだが、ああ、懐かしいなと郷愁に浸る間もなく、其の言葉は私の中の何かを破損した。

 

「は……はは……はは……」

 ばたん。

 そのまま私は卒倒した。ああ、サーヴァントでも気絶って出来るんだなあとか、なんで切嗣に召喚されたんだろうなあとか、考えてたのはそんなこと。これは遠坂を裏切った呪いなんだろうか?

 勝手に人のせいにしないでよと、どこか遠くであかいあくまが吼えたような気がした。

 

 

 

  NEXT?

 

 

 

 


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