気まぐれ短編集   作:Boukun0214

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死神の眼:後編

俺には、生き物の寿命がみえる。

それどころか、自由にそれを終わらせられるなんて。

 

 

そんなの、まるでーーー

 

「死神みたいだね。・・・私達。」

 

強い動揺で俺は頭に血が昇っていた。

 

「私"達"?・・・一緒にすんなよ。俺はお前とは違って、故意に使ったことなんてない。」

「気分を害したかい?悪かったね。」

 

こいつは、どこまでも・・・!

 

「ふざけんなッ。どこまでも人を馬鹿にしたような話し方しやがって!!」

「声が大きいよ。さすがに誰かに聞こえる。」

「ッ!」

 

もういい。話すだけ損だ。

 

「教室に、帰る。」

 

俺は、頭に血が昇ったまま、早足で教室に戻った。

 

教室に着くと、さっそく友人が話しかけてきた。

 

「おっかえりー。さっきあの娘と話してたよな!なに話してたのっとおお、オッカナイ顔してんな。。。」

「ちょっと、今は、わりぃ。」

 

結局その日は、あれ以上誰とも話さず、学校がおわったら、さっさと帰宅した。

 

 

 

「・・・死神、か。」

 

俺は帰ってすぐ、ベッドに座り、今日言われたことについて考えていた。

 

確かに、『死神』という表現がふさわしいかもしれない。実際、俺も薄々気がついていた。

 

ーーーこんな能力を持っているなんて、もう、人間とは呼べない。人の容をした、化物だ。

 

 

「ははっ。化物か。」

 

俺は、部屋に1人、自嘲気味に笑った。

 

ーーーいっそ、アイツみたいに"人間"と関わらないで生きていた方が、いくらか楽かもしれない。

 

「アホらし・・・」

 

 

考えるのが面倒になった俺は、夕飯を食べずに、意識と身体をベッドへと放り投げた。

 

 

 

次の朝、俺は食欲がわかなかったので、朝食を食べずに家を出た。一人暮らしなので、止める人もいない。

前の晩、なにも食べなかったのにも関わらず、不思議と飢餓感はなかった。

 

 

「少年、昨日は悪かったね。」

 

教室に到着してすぐ、彼女が話しかけてきた。

 

「なにか用か?」

「ああ。察しがいいな。」

 

こいつ、絶対に悪いと思ってないだろう。。。

いや、顔に出ないのかもしれない。今まで、彼女の表情が動いたところを見たことがない。

 

「身体的な成長は、してるかい?」

「はぁ?」

「いや、心当たりがないのならいい。」

 

急に何なんだよ。。。

これでも、去年から5cmは伸びていたはずだ。

 

「・・・まだ、・・ない・・・い。」

 

彼女がなにかを、ボソリと言った。

 

「なんだよ。」

「いや、本当にいいんだ。・・・本当に。」

 

それっきり、彼女は黙ってしまった。

 

そしてその日、帰宅してから、無性に彼女の言っていたことが気になり、ネットで調べてみた。

 

 

【人間の身体的な成長は、男は高校生ぐらい、女は中学生くらいで、止まってしまう。】

 

結局、得られた情報はそれだけだった。

 

「はぁ。何なんだよ。ホントに。。。」

 

これ以上は時間の無駄だと思い、調べるのをやめた。

 

 

 

それから、しばらくの日々、俺は彼女と話さなかった。

特に用もないし、向こうからこちらへも話しかけてこないからだ。

 

 

しばらくは、何事もない、平穏な日々が続いた。

 

 

 

 

 

しかし、嵐の前の静けさというやつはどうやら本当らしい。

 

 

いつも通り、普通に帰宅をしていた。

ただ、それだけだというのに、運の悪いことだ。

 

 

 

最初に、女性の悲鳴。

 

次は、誰かの怒鳴り声。

 

そちらを振り向くと、フードを深く被った男がこちらに走ってきた。

 

手に持っている、鈍く光る赤黒いものを認識したその瞬間、俺は腹に何かが入ってくるのを感じた。

 

その後、男はまた別の人を襲おうとして走り去ろうとしていた。

 

ーー止めなくては。ーー

 

薄れ行く意識の中、その一心で、俺は男のフードを掴もうとした。

 

手に、何かーー少なくとも、布ではないものーーが触れた。

 

"それ"は、あの、幼い頃の、人生で最悪の夜の感触と、とても良く似ていた。

 

 

そして、俺の意識は、途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

次に目が覚めたのは、病院のベッドだった。

 

どうやら、二日ほど意識が戻らなかったそうだ。

 

看護師さんから聞いた話では、ナイフには毒が塗られていて、二日で意識が戻るのは異例のことらしい。

 

そして、腹部の傷は一週間で完治した。

これには皆が驚いていた。

 

 

しかし、そのどれも、俺の事を励ますどころか、さらに俺を追い詰めた。

 

まずひとつ、ニュースを見ていたときのこと。

 

 

先日の通り魔事件についてやっていた。

病院の人には止められたが、俺は見てしまった。

確認したかった。俺はあのとき、意識を失うとき、、、

 

「先日、市内で起こった通り魔事件についてです。」

 

抑揚のない声で、ニュースのキャスターは進めた。

 

「男は、毒物を塗り込んだ刃物で女性を切りつけた後に、近くにいた青年の腹を刺しました。」

 

本当は、ここでやめておけばよかった。

 

「通報した男性の証言によりますと、青年が男のフードを掴もうとしたとき、急に男が倒れたそうです。」

 

やめろと。もう聞くなと。身体が警告した。

 

「男は、病院に運ばれた後、死亡が確認されました。致命傷になるような外傷もなく、死因は特定されていないようです。」

 

やはり、そうだった。

 

「二人の被害者はーーー」

 

俺は、人を殺した。

もう二度としないと誓ったのに。

 

「あ、ああ。。。」

 

この、能力を使って。

まだ死ぬべきではない命を。握りつぶした。

 

「あああああぁぁぁぁあアアァァァァ…」

 

俺の中で、今まで、かろうじて何かを支えていたものが、音もなく崩れていった。

 

頭の中が行き場のない負の感情で埋め尽くされた。

 

俺は、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目が覚めたら、アイツがいた。

 

「おや、お目覚めかい?少年。」

「やっちまった・・・」

 

人間、心が滅入っているときは、滅多にないことをするようだ。

 

もう、人間と言えるのか、わからなくなってきたけど。

 

「人、殺しちまった。。。」

「そうか・・・」

 

彼女相手に、弱音をはいたのは初めてかもしれない。

 

「お前は、人を、こ、殺したことはあるのか?」

「ああ。幼い頃に。」

「俺、死んだ方がいい・・・」

 

これは、もう、消えかけている願望に近いものだった。

 

「すまないが、それは、無理だ。」

 

ああ。知っていた。

改めて、今、嫌な予想が残酷な現実に変わった。

 

【身体的な成長は、してるかい?】

【腹部の傷は一週間で完治した。】

 

成長が止まる。

異常なほどの治癒能力。

 

つまり、俺、俺達は、死ねない。

不死の存在だから。

寿命は、見えないんじゃない。

無いんだ。

俺も、彼女も。

 

 

あのとき、刺されたとき、痛みを感じなかった。

きっと、俺の痛覚は、もう死んでいるんだろう。

 

彼女は、心が死んでいる。

 

「私達は、何の奇跡か、はた迷惑な神様の抽選に当たったんだよ。」

「何も、思わねぇのか?」

「私からは、もう、喜怒哀楽の哀が消えてるみたいだからね。」

「ははっ。本当に、死神みたいだ。。。」

 

死ねない。

苦痛を感じない。

人の命を、刈り取れる。

 

ショックで頭が回らない。

 

俺もーーー

 

「あんたみたいに、先に心が死んだ方が楽だったかもな。」

「私はね、君を見つけたときは、嬉しかった。」

「同族がいるからか?」

「ああ。永遠を、一緒に過ごす相手がいたからね。」

 

俺らは死なない。永遠に存在し続ける死神。

永久に孤独になるよりは、幾分ましかもしれない。

 

 

「私と一緒に、永遠の時を過ごしてくれるかい?」

 

 

そう言って、彼女は、冷たい目でーー人の命を見透かす眼でーー笑った。

 

「俺らに、選択権は無いけどな。」

 

そう言って、俺も、何故だか笑い返してしまった。

 

 

 

きっと

 

その笑みは、

 

 

 

 

 

 

彼女と同じ、冷たい笑みになっているだろう。

 

 

 




to be continued...?

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