やはり俺の青春は仮想現実の中でも間違っている 作:レオン・デュミナス
「終わったぜ。」
「やあやあ、ご苦労さン。まったく、オレっちを騙ってデマを拡散たぁいい度胸ダ。」
「情報屋も大変だな。」
俺を助けた黒ずくめともう一人、フード付きのマントで顔を隠した奇妙なしゃべり方をする、声から察するに女、そいつらは細剣使いへと歩み寄って行く。
「ビギナーさん、生きてるカ?……生きてるナ、ヨカッタヨカッタ。ホレ、回復POTダ飲メ。」
サービスだヨと付け加え、回復用のPOTを細剣使いに飲ませる女。
「しかし、さっきはいきなりボスが怯んでくれて助かったな。そうでなきゃ間に合わなかったかもしれなかった。」
「そうだナ。しかし、何だってボスが怯んだんダ?」
「さぁ…?バグか……」
あれ?こいつ等オレが見えてないの?今ものすんごい目の前に居るんですけど…あ、そう言えば俺ってば隠蔽発動してた。それに、この暗闇じゃ分からないのも仕方ないよね。………んな訳あるか!!隠蔽なんてもう既に切れてるし、ソードスキルの発動による発光で気づくだろ。
「まぁいいか、とりあえず外に出ようぜ。」
「そうだナ。」
そう言って、気を失った細剣使いを連れて洞窟の外へと行こうとする二人。
「おいコラ……」
いい加減シカトされる事に憤りを覚えた俺は、不満の声を漏らす。
「えっ!!?」
「ひっ!!?…まだモンスターが残ってたのカ!?」
「誰がモンスターだ!!」
いい加減にしとけよお前ら!!
「プレイヤーか…?」
「カーソル見りゃ分かるだろ…」
「……ゾンビかと思ったゾ。」
このアマ……俺の許さないリストに記しておいてやる。
「と、とりあえず…此処は危ないし、一旦外に出よう。」
心底腹も立つが、概ね同意できるので首肯で意思を示し、四人で洞窟の外へと向かう。
「しかし、やっぱガセネタだったんだな。」
さっきの黒髪と変な口調の女の会話から、隠しログアウトスポットがデマである事を悟ると、当たり前だと言う俺と同時にひどく落胆した俺が居る。
「アンタもその情報を信じて此処に?」
「ここら辺はマッピングがまだ終わってなかっただけだ!!」
「そ、そうか……」
思わず大声を出して否定の言葉を出してしまう。いや、仕方ないんよ有るわけないと思ってるのに体が勝手に動くんだもん、八幡悪くない。
「とりあえズご苦労だったナ、キー坊。」
「デマの犯人をとっちめるのは自分でやってくれ、オレンジは嫌だ。」
「わかってるサ。」
話から察するに、この女が”鼠”という情報屋なのだろう。
「あ、俺はキリト。あんたは?」
「……キリト?」
「え?あ、うん。」
こいつ、何処かで見た事あるような……あっ!!
「お前、この間の!!」
最初の日にフィールドと路地裏で見た奴だ。
「知り合いカ、キー坊?」
「え?いや……」
知らないよ、という顔をする黒髪。あぁ、完全にアウトオブ眼中だったんですね、分かります。というか、俺お前の視界内に居た筈なんですが…どんだけ視界狭いの?お前は初期のRPGの主人公か。目の前の数ドットしか見えないの?
「いや、俺が一方的に見たことがあるだけだ。」
「そ、そうか…えっと……」
「……?………あぁ、ハチマンだ。さっきは助かった、ありがとな。」
何を首を傾げてるのかと思ったが、直ぐに俺のことだと思い先ほどの礼と共に答えておく。
「いや、気にするな。こんなゲームの中だ、助け合っていこう。」
そう言って黒髪――――キリトは屈託のなさそうな笑顔を見せる。
「…………悪いが、特に払えるものなんて無いぞ。此処に来るまでに
「いや、別にそんなの求めてないから!!」
え?そうなの…助けたんだから見返りになんか寄越せって事じゃなかったの?
「まったく…」
「ナハハ、面白い奴だナ。」
キリト呆れ顔で頭を掻き、鼠とやらはケラケラと笑っている。
「オレっちはアルゴ、情報屋をやってル、よろしくナ。」
そう言って、手を差し出してくるアルゴ。え?何、掌に何か仕込んでんの?
「…………ああ。」
とりあえず、伸ばされた手には何もせず、返事だけ返しておく。
「………………」
そんな俺に、アルゴは不満そうな雰囲気で睨む。(といってもフードで隠れているので顔は分からないが)
「じゃあ、俺はもう行く。」
そう言って俺は踵を返し、その場を去ろうと―――――
「まあまあ、チョット待ちナ。」
したのだが、首根っこ捕まれて引っ張り戻される。おい、首絞まるだろヤメロ。
「…………何だよ?」
「お前さんもビギナーだロ。」
俺の心底嫌そうな声音など気にした風も無く、アルゴはそう聞いてくる。
「それがどうした?」
「オレっちとフレンド登録しないカ?」
「断る!!」
こんなムカつく女とフレンド登録なんぞ死んでも御免だ。
「チョットは考えろヨ!!オレっちはβテスターだ、プレイヤーの攻略に役立つ情報を提供してやるゼ、有料だがナ。」
「だが断る!!」
いい加減うっとおしいので強めに言い放ち、その場を去ろうと歩き出す。
「オイオイ、まぁチョット待てヨ。」
「断るっつたろ。」
「なあなあ。」
「煩い。」
「泣いちゃうゾ。」
「知るか。」
「あ、モンスター。」
「なっ!!?」
しまった、アホなやり取りして索敵を忘れてた。そう思って振り向いた瞬間―――――俺の手を柔らかい感触が支配した。
「………イヤン。」
「は…………」
そこには、ワザとらしく顔に手を当てて恥ずかしがるアルゴと、アルゴの体に触れている俺の手があった。
「触ったナ、ハラスメントコードが出てるゾ。これ、押されたくなかったらフレンド登録しロ。黒鉄宮なんて送られたくないだロ。」
「ふ…っざけんな……」
「やれやれ…」
いやらしい笑みを浮かべるアルゴと、ご愁傷様と合唱するキリト。もはや俺に選択の余地はなく、嫌々アルゴとフレンド登録をし、アルゴは俺の許さない奴リストの殿堂入りを果たすのだった。
八幡はちょっとやそっとじゃアルゴのことを信用しないと思うので、無理やりにでもフレンド登録させられます(笑)