やはり俺の青春は仮想現実の中でも間違っている   作:レオン・デュミナス

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エピソード1-3 そして比企谷八幡は悩みもがき前に進みはじめる

茅場晶彦のSAO正式チュートリアル終了の宣言の後、騒然とした広場を後にした俺は、日も陰り薄暗くなった路地裏へ入り、いまだ落ち着かない呼吸を静めていた。

 

「はぁ………」

 

ようやく落ち着いて、顔を上げると俺以外にも二人のプレイヤーがいた。

 

「クライン、俺はこれからすぐに次の街に向かう。MMORPGでは経験値のリソースに限りがある、ここら辺の狩場はすぐに他のプレイヤーに駆りつくされてしまう。俺なら次の街までの安全な道のりも知ってる。お前も一緒に来ないか?」

 

この声聞いた事あるな…もしかして、さっきの圏外で見つけた黒髪と赤バンダナのプレイヤーか?

 

「い、いや…お、俺はリアルの仲間と一緒にこのゲームにログインしてるんだ…そいつ等を置いて一人だけいけねぇ……」

 

「…………っ!!」

 

あぁ…黒髪の方のあの顔は、バンダナ一人なら自分だけでも守れるが更に加わるとなるとキツくなるから如何すべきか迷ってんな。まぁ、当たり前だわな。こんな死んだらリアルでも死ぬなんつークソゲーの中で他人を優先なんぞしてらんねぇんだからな…

 

「俺の方は大丈夫だ!!俺は仲間を探してそいつらと一緒にこのゲームを攻略して行く、お前は俺の事なんか気にしないで先に進んでくれ、いろいろと世話になったのにこれ以上迷惑は掛けられねぇからな。」

 

「……………すまん、クライン…」

 

「気にするな!!……生きてまた会おうぜ。」

 

「あぁ、じゃあな。」

 

そういって二人は路地を後にした、片や振り返る事無く走り去り、もう片方は心配するように何度も振り返りながら。

 

……………というか、割と近場にいた俺マジ空気だったんだけど。だから、何で俺はゲームでもステルス発揮してるんだよ…俺まだ隠蔽(ハインディング)スキルなんて取ってないんだけど。

 

 

 

今だ混乱する頭で俺は悩んでいた、さっきの黒髪の言葉を信じるなら急いで次の街に向かったほうが良いだろう。だが、それはある程度の知識と実力のある者ならばだ。

恐らく、あの黒髪はβテスターだろう。正式サービス前にβテスト時の抽選で選ばれたプレイヤー達の一人、奴等ぐらいの経験が有ればその行為も可能だろうが、俺のような始めたばかりのプレイヤーではリスクが大きいかもしれない。何よりβの時から変更されている点だってあるかもしれない、無謀に突っ込むのは得策とはいえない。

 

今現在の俺が取れる行動は大きく二つ、一つはフィールドに出てレベルを上げつつこの鋼鉄城アインクラッドをクリアのために攻略する事。もう一つはこの第一層に篭って生活に必要な日銭でも稼ぎつつクリアされるのを待つ事

 

前者は勿論の事死ぬ可能性が高すぎる…後者は安全ではあろうが何時クリアされるかも分からず、精神的に消耗して行くかもしれない。

 

俺は考えるまでもなく後者………と思っているはずなのに、心の奥ではそれで良いのかという自分自身が居る。リスクリターンを考えれば、素人の俺は圧倒的に後者にすべきだ。なのに、そう思えば思うほど雪ノ下や由比ヶ浜の顔がチラつく…そう言えば、明日ヒーター買いに行く約束してたな。はっ、今日中にクリアなんて…無理ゲーにも程があるぞ………

 

雪ノ下や由比ヶ浜だけじゃない…小町に戸塚、一色や川…川崎、平塚先生に一応材木座も加えてやるか………そいつらの顔がチラついて俺に選択を戸惑わせる。

 

「ははっ…ありえねぇだろ……自殺するようなもんじゃねぇか。」

 

理性はやめろと警鐘を鳴らす。なのに、俺の中にある別の”モノ”が前に進めと叫んでいる。

 

気が付けば俺は圏外へと走り出していた、NPCから聞いた情報を元に次の街への道を疾走する。道中出会う魔物は見つけた瞬間、俊敏を生かして曲刀で滅多切りにする。次の街に付くころには俺のレベルも順調に上がり、隠蔽と索敵(サーチング)のスキルを習得して行く。理由としてはやはりソロプレイするに当たり、敵に見つかりにくくする隠蔽と敵をいち早く発見する索敵を習得しておこうと思ったのだ。

 

「はっ!?ソロプレイの為?完全にプレイする気満々じゃねぇか……」

 

俺は、自身の考えと行動の矛盾に乾いた笑いが零れる。今からでも遅くはない、この街を拠点にして安全に生活しろと頭は考えるのに、商店でポーションと食料を購入するという明らかにゲームを攻略するつもりの行為……もはや自分でも何をしているんだと突っ込みを入れずには居られない。

 

「確か、この街には”アニールブレード”とかいう下位層最強の剣が取れるんだったな…」

 

結構先まで使えるらしいが、俺は曲刀を使用しており直剣を使うつもりはない、このイベントは無視だな。

 

「だから…何で攻略する気満々なんだよ……」

 

口に出して矛盾を指摘してやっても、俺の体は止まる事をしない。休む事もなく街の中でNPC相手に情報収集を始める。

 

 

 

「こんなもんか…」

 

街中駆け巡り、出来うる限りの情報を集めるころには辺りは既に真っ暗になっていた。集めた情報には暗くなるとモンスターの発見率が下がり、危険性が上がるという物も有ったので俺は街の外に出る事は止め、今日はここで宿をとることにした。

 

「矛盾した訳の分からない行動とってる割には、ちゃんとリスク管理をしっかりやってるあたり何時もの俺の行動なんだよな…」

 

宿のベットに寝そべり一人呟く。

 

しかし、俊敏振りにしていなければ日が暮れるまでに街に着けなかったかもしれなかったな、やはり速さは正義だ。

 

取りあえずは、当面の目的は攻略するって事で行くらしい。らしいって自分の行動なのに他人事というのは可笑しな話だが、冷静になれという理性とそれをガン無視する俺の中の”ナニカ”が矛盾するのだからしかたがない、八幡悪くない。

 

ベットに寝そべり疲れた体(バーチャルリアリティなので実際の体ではないが、脳がそう認識してるのだろう)を泥のように眠りに付こうとするまで現実のあいつらの顔が俺の脳裏にチラつき続けるのだった。




八幡はリスクリターンを計算して第一層に留まる事を望むと思うんですが、それじゃ話が進まないので(笑)

現実に残した帰りたい理由に自覚しないまま最初は進めて行こうと思ってます

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