やはり俺の青春は仮想現実の中でも間違っている 作:レオン・デュミナス
「お、レベルアップした。」
その後も狩りを続け、ソードスキルも問題なく発動させられるくらいには慣れてきたころ、俺のレベルも4まで上がり、なかなかに順調といえる滑り出しをしていた。
「案外、クリティカルとか出せば通常攻撃でもダメージは出るんだな。」
このSAOには敵モンスターに弱点となる部位が予め設定されているらしく、そこを狙って攻撃すればクリティカルヒットとなり通常よりも高いダメージを出す事が出来る。
「結構クリティカルとか出せるし、これならもう少し俊敏振りでも良いかもな。」
現在は当初の予定通り俊敏八割、筋力二割でステータスを上げて行っているが、これならもっと極端にステータスを振り分けても良いかもしれない(振り”分け”に成らないかもしれないが)
早いという事はいいことだ、「また世界を2秒縮めてしまった」とか言ってる兄貴も絶賛してるしな。だから、現実世界で行動するのが遅くても仕方ない。八幡悪くない!!
「さて、そろそろ一旦落ちるか…」
昼飯は要らないと小町に入ってあるが、晩飯までゲームやってたら何言われるかわからんからな。いや、確実にごみぃちゃんといわれる事だけは分かるな…
そう思ってシステムウインドウからログアウトボタンを押そうとしたのだが―――――
「あれ?ログアウトボタンどこだ………?」
システムウインドウを開いてみてもログアウトボタンが見つからない。恥ずかしくて隠れちゃってるのかな?なんて馬鹿な事を妄想するがそんな分けない。バグで他の項目に紛れてるかもしれないと全項目を開くが、どこにもログアウトボタンのロの字も見当たらない。
「マジでバクか…?」
ありゃりゃ…運営さんも大変なこって、サービス初日からこんなトンでもないバグが発生しちまうとか、批評掲示板が賑わうな。
「待てよ…俺だけのバグか?」
他のプレイヤーはもしかしたら違うという事もあるかも知れない、そう思い近場に誰か居ないかとあたりを見渡す。すると、丁度近場に黒髪の男と赤髪のバンダナを付けたプレイヤーが居た。
ちょっとどうしようか迷ったが、流石にこんな重大問題で人に話しかけるのを渋っていてもしょうがないと思い直し、声を掛けるべく近づいて行く。
「すいまちぇ……」
「え?」
また詰まらぬ所で噛んでしまった……相手も絶対引いてるよこれ。
「ログアウトボタンがねーぞ!!」
「は?そんな訳無いだろ。」
違った、俺の声届いてなかった。それどころか俺の姿が見えてないまである。あれ、何で俺ゲームまでステルス発動してんの?てか俺だけじゃなかったなバグ…
「なっ!?」
「うぉ!!何だ!?」
「これは…!!?」
今更声を掛けるのもあれなので立ち去ろうとした瞬間、俺は、いや俺達は青白い光に包まれた。
「ここは…」
光にくらんだ目に視力が戻ってきて、俺の目に映ってきたのは最初に駆け回ったはじまりの街の広場だった。そこには俺だけでなく、視界を埋め尽くすほどに大量のプレイヤーが
「強制テレポート……」
周りの誰かがそう呟く、どうやらゲーム側からの行為らしい。
「はじまりの街?」
「何が起きたんだ…」
「……不具合の説明でもあるのか?」
「おい、早くログアウトさせろよ。」
「この後予定があるんだけど…」
周りのプレイヤー達も口々に不満の声を述べる。おいおい、不具合対応するならさっさとしろよ、このままじゃ暴動が起こるぞ。
「何だあれ!!?」
プレイヤーの一人が、叫び声とともに空を指差す。俺もそれに従って空に視線をやると、WARNINGという文字とともに真っ赤な六角形のパネルのようなものが空を瞬く間に覆いつくして行く。数秒もしない内に空は一面の赤一色へと染め上げられる……何だこれ…?
更に、空から血の様に不気味な赤い液体が溢れて来たと思うと、その液体は巨大なローブ姿のアバターを形どった。
「プレイヤーの諸君、私の名前は茅場晶彦…」
茅場!?それってこのバーチャルリアリティの生みの親である超天才にしてGM(ゲームマスター)を務めてるって言う…?
「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消失している事に気づいているだろう。しかし、これは不具合ではないSAO本来の仕様だ。」
は………?何言ってんだあいつ…?
「何言ってんだあいつ…?」
何か誰かと思考がシンクロした……
曰く、茅場晶彦が言うには――――――
・このゲームにはログアウトは存在しない。
・ゲームを終えるには100層ある浮遊城アインクラッドを全てクリアしなければならない。
・HPがゼロになると現実でもナーヴギアによって脳を焼かれ死ぬ。
・外部から強制的にナーヴギアの除去を試みた場合も同様に死ぬ。
という物だった――――――フザケンナ………ふざけんな…………何だそれ?死ぬ…?たかがゲームで…?シヌ?死ぬ………?
「それでは最後に、諸君らのアイテムストレージにプレゼントを用意してある、確認してくれたまえ。」
は?プレゼント…?これ以上何だってんだよ……
「手鏡…」
俺は働きたくないと、ある意味何時も通りな嫌がる脳を動かしアイテムストレージに入った”プレゼント”を実体化し、確認する。
「何だこれ…」
そこに写った者は、何時もの見慣れた気だるげな瞳、少し伸ばし気味な髪に兄弟で仲良くおそろいで、お兄ちゃんひゃっほうと叫ぶのもやぶさかではない我が比企谷一族のトレードマークのアホ毛が――――――
「アバターじゃなくなってる…」
辺りを見回すと、今までイケメンと美女しか居なかったある意味没個性的だった広場は、老若男女、見渡す限り多種多様な人間に変わっていた。
「何だよこれ!?」
「せっかくイケメン顔が~!!」
「お前、男だったのかよ!!?」
周りの人間も自分自身の姿に戻ったのを確認して、騒然とした空気に変わる。
「諸君らは”何故”と思っているだろう――――――」
茅場は更に言葉を紡いで行くが、今の働く事を拒否してニート化した俺の脳はそんなもの受け入れてくれない。
「それでは健闘を祈る。」
そういい残しローブのアバター霧のように姿を消した。
気づけば周りはパニックに陥っていた。無理も無い、こんなこと言われて冷静で居られる奴なんてそう居ない。かく言う俺だって……
此処に留まるのは拙そうだ…一先ず離れよう。パニックになったプレイヤー達のいざこざ何かの面倒事に巻き込まれるのはごめんだし、何より今は一人になりたかった。