やはり俺の青春は仮想現実の中でも間違っている   作:レオン・デュミナス

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前回から長らく更新が停滞してしまいすいませんでした。パソコンのOSが故障したり、HDのデータが消えたりとトラブル続きでネット環境と書き溜めていたデータが無くなり復旧に苦労しました……更新を待っていてくれた方たち大変申し訳ありませんでした。

え?別にこんな作品待ってない?そげなこといわんと……


エピソード1-10 人は過去を振り返れてもやり直すことはできない

そうして夜が明け、ついに第一層ボス攻略が始まろうとしていた。が――――――

 

「大丈夫か、ハチマン?今まで以上に目が腐ってるぞ…」

 

「目はデフォルトだ…」

 

結局寝付けずに、眠れたのが集合時間の2時間前という完全に寝過ごすフラグを立ててしまった俺氏。案の定遅刻してしまい、他の連中から非難の目を向けられたのは言うまでもない。

 

「勝てるかな…?」

 

ボス部屋へと歩いていく俺達。その道中でキリトも不安を隠しきれないのかポツリと呟く。

 

「さぁな……絶対なんて言えないまでも、情報どおりなら勝てる確率は高いんじゃないか?」

 

ここで”絶対にやれる”と言えればカッコいいんだろうが、残念ながら俺には確証もなく無責任な言葉を吐く度胸も甲斐性もない。

 

「勝たなきゃ進めない、だったら勝つだけ。でしょ?」

 

「アスナ…」

 

道中、殆ど――――というかまったく言葉を発しなかったアスナが会話に乗ってきた。

 

「まぁ、そういう事だな…」

 

これまた頼りない肯定の言葉だが、キリトは少し安心したのか笑顔で「あぁ、そうだな。」と返して来た。

 

それからの道中は互いに緊張も高まってきたのか、敵が定期的に襲ってくるのもあいまって特に会話なく進んでいく。俺はと言うと、何時ものボッチの習性として最後尾を少し離れた位置で慎ましく着いて行く。

 

「おう、あんさん今日は調子に乗るんやないで!!」

 

「あ…?」

 

最後尾数歩後方を影と同化しつつ歩いていたら、昨日のモヤットボール頭―――――名前なんだっけ?……マキバオー?まぁ、何でも良いや―――――がわざわざ俺の下まで来てそう言い放った。

 

「あんさん等の仕事は、ワイ等のチームの取りこぼした雑魚の処理なんやからな。」

 

こいつが言ったとおり、俺達残り物のチームの仕事はボスの周りの取り巻きの処理だ。俺は危険が少ないこの仕事に喜んでいたが、キリトはボスと戦えないことに少し落胆していた。

 

「おい、聞くいとるんか!!」

 

「聞いてるよ、俺達の仕事がある”前提”で話してるみたいだから、精精頑張らせてもらうよ。」

 

「なんやとワレぇ…」

 

俺の皮肉に顔を皺くちゃにして怒り始めるトゲトゲ。

 

「そこまでにするんだな、もうじきボス部屋だ。」

 

今にもとんがりコーン頭が俺に掴み掛りそうになっていると、横から黒々とした野太い腕が俺達の間に割って入った。

 

割って入った腕の持ち主は、俺達の背丈をゆうに越える上背と筋骨逞しい体躯、鮮やかな黒い肌に禿頭と髭面という物々しい風体の男だった。

 

「な、なんやアンタ……」

 

男の巨体と威圧感に腰が引けている突起物。

 

「さっきも言った通り、もうじきボス戦だ。諍いは控えるんだな。」

 

男の言葉に苦々しく渋面を作りつつも、何も言わずに去っていった。

 

「…あ、あの……どうも。」

 

男の放つ威圧感に今すぐ逃げ出してしまいそうな足を、どうにかこうにか縛りつけ礼の言葉を述べる。

 

「なに、俺も昨日から彼の言い分には物申してやろうと思っていたのさ。まぁ、君のお陰でその必要はなくなったがな。」

 

「あぁ…その節はご迷惑を……」

 

「なに言ってるんだ、逆にスカッとしたぐらいだ!!」

 

そういってバシバシ俺の背中を叩いてくる男。SAOは痛みがそれほど感じないようになっている、恐らく安全面の配慮だろう。がしかし、この体格さで背中を叩かれたら衝撃がすごい。

 

「俺はエギル、君は?」

 

「ひゃ、ハチマンです…」

 

ちょっと噛みかけた……

 

「そう畏まるな、もっとフランクに行こうぜ!!」

 

すいません、ボッチには敷居が高すぎます…

 

「直ボス部屋だ、お互い生き残ろうぜ!!」

 

Good Luck(幸運を)と、流暢な英語で強面な顔に似合わず愛嬌のある笑顔を残してエギルは去っていった。

 

あぁ、生き残らないとな。そう決意を新たに気を引き締めていると、俺達の目の前に重々しい鉄扉が現れた。

 

「いよいよだな…」

 

「………あぁ。」

 

初めてのボス攻略が始まる――――――

 

「皆、聞いてくれ!!」

 

先頭に立ち、俺達を先導してきたディアベルが扉の前で俺達のほうへ振り返ると、力強い意思を感じさせる目で俺達を見渡し口を開く。

 

「俺から言うことは一つ、勝とうぜ!!」

 

ディアベルの言葉に絶叫に近い歓声が上がる(俺達以外)その声が止むと、ディアベルは扉に手を掛け、ゆっくりと押し開く。

 

「………………あれが。」

 

暗かった部屋に徐々に明かりが灯ると共に、その部屋の主である”イルファング・ザ・コボルトロード”の姿が明らかになる。

 

二メートル近い体躯にそれに見合うだけの質量を備える腕の中の骨斧。それは、平和な世界に生きてきた俺達に恐怖を与えるには十分すぎるほどだった。

 

「行くぞ!!攻撃開始だ!!」

 

しかし、ディアベルはそんな物は欠片も感じさせず、俺達に指示を飛ばす。その声に恐怖を消し飛ばされ、震える体に力が巡る。すげぇな、アイツ。

 

「俺達も行くぞ!!」

 

キリトの言葉に俺も突き動かされ、ボスの取り巻きである”ルイン・コボルト・センチネル”へと一気に距離をつめ、曲刀による連撃をお見舞いする。

 

「チッ!!」

 

しかし、鎧を着込んだやつ等の弱点は喉もとのごく僅かな一部のみ、曲刀で狙うには些か難しい。

 

「スイッチ!!」

 

敵の攻撃を横に逸らすように弾き、後続のキリトへと繋ぐ。

 

「了解!!」

 

キリトは、鎧なんかものともしない様な攻撃で敵をポリゴン片へと変える。こいつ、マジ強えぇ…

 

続いて現れた敵もキリトが弾き、アスナが正確無比な突きで喉の弱点を突き瞬く間に倒してしまう。

 

「すげぇ…」

 

別のパーティの奴の呟きが聞こえてきた。おい、戦いに集中しろや。まぁ、その気持ちも分からないでもないがな、本当にこいつらは強い。俺要らなくない?

 

「よし、ボスのHPが残り一本だ!!」

 

暫くして、ボスの横に表示されていた緑色のHPバーも残り一本を残すまでになった。

 

「気をつけろ、HPが僅かになると武器を変えて攻撃パターンが変わるぞ。」

 

βテスターであるキリトの言葉の通り、ボスはボロボロになった斧と盾を投げ捨て、腰にさした湾刀(タルワール)に手を掛ける。

 

「また出たぞ!!」

 

それに加えて取り巻きまで再ドロップしやがった。再びの取り巻き処理のために曲刀を構えなおしたその時、ボスに違和感を感じ取る。

 

「………?」

 

「どうしたハチマン?」

 

「おい、キリト…タルワールって、あんな形だったか?」

 

ボスが持つ湾刀、その形がいやに細くゆるやかなカーブを描いている。

 

「違う…タルワールじゃない……刀だ。」

 

キリトがそう呟いた瞬間―――――

 

「よし、全員下がれ。俺がやる!!」

 

「はっ!?」

 

ディアベルが理解できない言葉を口走っている。下がれ?ここは全員で挑むべきところだろう?なぜ一人で?

 

その瞬間、俺の頭には鼠の姿と言葉がフラッシュバックしていた。

 

『ボス攻略時、騎士様から目を離さないでくれ……』

 

気づけば俺は全速力で駆け出していた。

 

「待たんかい!!ディアベルはんの邪魔はさせへんで。」

 

俺の前にキバオウが立ち塞がる。こんな時にっ!!

 

「ダメだ、逃げろディアベル!!βの時と違うっ!!」

 

「っ!!?」

 

キリトの叫び声に反射的にディアベルの方を見ると、ボスの持つ刀からソードスキルの光が発せられる、ディアベルも攻撃すべくソードスキルを放っている。がしかし、ボスの攻撃の方が速度が早い。

 

「ぐあぁぁああ!!!!」

 

ボスのソードスキルが直撃し、ゴムボールのように弾き飛ばされ地面を跳ねるディアベル。

 

「ディアベルーッ!!」

 

すぐさまキリトが駆け寄るが、見る見るうちにディアベルのHPは失われて行き、キリトが回復させようと出したアイテムを使うまもなく、ディアベルはキリトに幾つか言葉を残し、無機質なポリゴン片へとなった。

 

 

 

 

 

人間がゲームのようにセーブデータを使いひとつ前の選択肢に戻ったら、過去をやり直せるか?

 

 

 

 

答えは――――――否である、このクソゲーに選択肢など存在しない。




当初、ディアベル生存ルートを考えていたんですが一つ思いついたことがあるので結局死なせてしまいました。

すまないディアベル、君はそういう運命なんだよ――――――

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