やはり俺の青春は仮想現実の中でも間違っている 作:レオン・デュミナス
「それじゃ、ここら辺のモンスターでお互いの実力を見せるとするか。」
「……いいわよ。」
よくないわよ……
「ハチマンもやるんだからな。」
「何で釘を刺したんだよ。」
「すっごい、帰えりたそうな顔してたからな。」
表情を隠しきれなかったか。とか何とかしてたら、トカゲが二足歩行し始めたみたいなモンスター”リザードマン”が現れる。
「じゃ、キリトからな。」
さらっと投げつける。
「あぁ、わかった。」
キリトは背中の剣を抜くと、リザードマンが持つ剣を自分の剣で横に弾き飛ばし、敵がよろめいた瞬間に大上段から真っ二つに切り裂いた。
「………………っ!?」
「うわぁ~……」
何あいつ、火力高すぎじゃない?一発とか…ゲームだからポリゴンになって消えるだけだけど、現実だったらグロ映像よこれ………
「ほい、バトンタッチ。」
剣を納め、戻って来たキリトはアスナの肩を叩き、入れ替わるようにアスナは腰から
キリトとは違い、アスナは敵の攻撃を体をそらすように回避していき、敵の攻撃の合間を縫って自分の攻撃を叩き込んで行く。
「リニアー!!」
アスナの細剣ソードスキルがリザードマンの喉元を捕らえ、リザードマンはポリゴンに変わる。こいつも強いな、キリトとは違うタイプの強さだ。キリトは一発の火力が凄まじいが、アスナは正確無比な手数によってダメージを稼いでいた。しかし、最後のソードスキルはオーバーキルって奴だな。
「最後のソードスキルはちょっと余計だったな。」
「…っ…何がいけないの?」
キリトの言葉に少しムッとした様に返すアスナ。
「ソードスキルを使わなくても十分倒せるくらいのHPだったろ?ソードスキルは硬直時間が発生するから、一対一だといいけど複数と戦うときはそれが致命的な隙になってしまうことがあるから。」
思っていたことをキリトが説明してくれた、こいつがいると手間がなくていいな。
というか、こつら二人強すぎじゃね?もう俺要らないんじゃない?じゃあ、もう帰っていいよね。
「……何処に行くんだ?ハチマン。」
帰ろうとしたらキリトに首根っこ捕まれた、何でこんなときは隠蔽発動しないんだ。
「……次は貴方の番よ。」
アスナも憮然とした眼差しで俺に言ってくる。
「わかったよ……」
俺が諦めて腰から曲刀を抜き放つと、丁度良く三体目のリザードマンがポップした。
「……ふっ!!」
隠蔽を発動し、敵に気づかれないように全速力で背後まで走り、首元めがけて曲刀を振るう。三度振りぬかれた曲刀は全てがリザードマンの首にクリーンヒットし、全クリティカルヒットとなりポリゴン片が空中に霧散する。
「ふぅ…ん?」
「………………………………」
「………………………………」
キリトとアスナがポカンと口開けて絶句してた。え?何?
「ハチマン、強いんだな。」
「目が腐ってるのに…」
目、関係ないだろ!!
「戦闘を見る限り俊敏振りか、隠蔽スキルも高そうだな。」
俺の戦いを見てステータスやスキルの振り方まで見抜くキリト、こいつもゲーマーだな。
「目が腐ってるのに…」
まだ言うか…こいつどんだけ俺の事貶したら気が済むんだよ。
「もういいだろ、いい加減スイッチの練習しようぜ。」
「あぁ、そうだな。」
「目が腐ってるのに…」
依然ブツブツ言ってるアスナを連れて、適当にポップするモンスター相手にスイッチの練習をある程度行い始める。やるべきことを説明し、実践し始めるとアスナは直ぐさまスイッチをマスターし、俺も足手まといには成らない位には出来るようになった。しかし、三人でパ-ティを組んで戦うとこいつ等二人の強さが良く分かる。本当に俺いらなくね?
「それじゃここら辺にしとくか、明日も早いし。」
「えぇ…」
「おう、じゃあな。」
さっさと退散しよう。
「え、もう行くのか?」
「終わるんだろ、帰って寝る。」
「そ、そうか……」
ボッチの会話の打ち切りスキルなめんなよ、人気のないジャンプ漫画並みに打ち切れるぜ。あぁ、さっさと帰ってベットとシンメトリカルドッキングしたい。
「私も帰るわ。」
「あ、あぁ…」
アスナも言葉短かに立ち去って行く。
「むぅ……寝れん……」
特訓が終わって、街の宿を取って直ぐに寝たら中途半端な時間に目が覚めてしまい、二度寝しようにも目が冴えてしまって眠れない。というか、バーチャル世界なので睡眠をとらなくても死なないのだが、普段の生活リズムという物のせいなのか決まった時間に寝起きしているが今日に限ってはそれが崩れてしまった。
「はぁ、ちょっくら外の空気でも吸ってくるか…」
一応の用心に武器だけもって宿の外へと出る。シンッっと静まり返った肌寒いくらいの空気が肺に進入してきて余計に目が覚めた…すこし動こうと思い、月明かりに照らされた街を歩いて行く。
昼にボス攻略会議をした広場まで来た。すり鉢状に成った広場の中心部は、噴水の水の流れる音が静謐な空間を彩るBGMのようだった。
「あ…」
「ん?」
広場には先客がいた、フードを目深に被ったアスナだ。
「………………」
「………………」
会話がない…と言うか、俺こいつとまともに言葉交わしてねぇな。初対面の奴と軽快に会話するとかボッチには難易度が高すぎる。もう結構歩いたし散歩はいいだろ、宿に戻ろう。
「ねぇ、貴方は何のために攻略に参加したの?」
「…………あ?」
急に話しかけてきたアスナに歩みを止められる。
「聞こえなかったの?何のために攻略参加したの?」
「そりゃクリアするためだろ。」
「100層もあるのに?クリアできると思ってるの?」
「出来る出来ないは別として、やろうとしなけりゃ出れないんだ、やるしかないだろ。」
「危険を冒してまで、戻ろうとする理由があるの?」
理由…何の為……何の為だ?こいつの言う通り、攻略なんて危険だ、街に篭って日銭を稼ぎつつクリアされる事を待つことが安全で一番いいはずだ…なのに何で俺は率先して攻略なんかしてるんだ…?
「…………よう分からん。」
「…………貴方自身の事でしょう?」
俺の言葉に、何言ってんだこいつ?と言ったトーンでアスナが返してくる。と言われても分からんものは分からん、確実に何時もの俺の行動じゃない。未だに俺の思考は安全に攻略されるのを待ってろと言うのだが、俺の中に有る”ナニカ”は全力でそれを否定している。
「妹がな…」
「妹…?」
「もともとこのゲームは、妹の為に親父が買ったナーヴギアを俺が貸して貰ってプレイしたんだ。だから、妹は自分のせいだって思ってるかもしれないから…さっさと帰って安心させてやらないといけないから……」
悩みに悩んだ挙句、小町を理由に挙げた俺だが、どうにもしっくり来ない。小町を心配させたくない、早く安心させてやりたい、そう思うのは兄貴として当たり前のはずなのに…それだけでは足りないような気がする。
何がとは明確に言えない、だけど足りないと言うことだけは分かる。まるで、解けない知恵の輪のような、はまらないパズルのピースのように、その事が俺の頭にしこりを残す。くっそ、歯に食いカスが詰まって取れないときみたいな不快感だ。
「そっか…」
それだけ言うと、アスナは立ち上がり俺の方に近づいてくる。
「な、何だよ…」
「明日、頑張ろうね。」
一言言い残し、アスナは去っていった。俺はというと、その場から動くことも出来ず呆然と立ち尽くし、結局寝たのはボス攻略開始三時間前という夜が明けかけた時間帯だった。
「そっか…あの人にも有るんだ、戦う理由が。」
アスナの呟きは、静まり返った虚空へと消えていった。