では、96話となります!
定期的に周囲から響く音。これは間桐慎二の心音に他ならない。
通常、他者の心音が耳に響くなど聴診器などの機器を利用しなければ聞こえるはずもないが彼はそんなものを使うまでもなく、聞こえてしまう場所に立っていた。
「見つけたぞ…」
バイオライダー…間桐光太郎は標的に向かい、そう短く言葉を切った。
慎二の体内に敵が潜んでいるかも知れないというメディアの予想は恐らく正しい。そう判断した光太郎は慎二の体内へと潜り込むと決意。しかしバイオライダーの能力でゲル化し、さらには目に映らぬ敵を探し出し戦う事が可能であるのか試さなければ慎二が危険であるという医師の意見に赤上武が自身の体内に入り込めるか試せばいいと名乗り出る。
結果は成功。
バイオライダーとなった光太郎は身体をゲル化させ、医師が準備した注射器へと自身を注入。医師は光太郎が1ミリリットルにも満たない液体となって注射器へ収まった事に驚きながらも、簡易ベットで横になる武の腕へ注射器を打つ。青色の液体全てが武の体内へと注入された後、液体は体内でさらに身体を収縮。血管内で血液を遮ることなく、それどころか血液の流れにのり移動することが出来た。
そして心臓へと辿り着いた光太郎はミクロサイズのままバイオライダーへと姿を変え、体内に立つ事に成功したのだった。
そして現在。
同じく顕微鏡ですら存在を検知できない大きさとなり、慎二の心臓付近へと辿り着いた光太郎は同じく極小の敵へと相対した。
慎二の首筋から侵入したソイツは背中に三対六本の腕を持ち、そのうち二本の腕から巨大な光を発している。ミクロサイズとなった光太郎の視界ではただ光が敵の背後へと伸びているようにしか見えないが、間違いなく慎二の魂を剥がす為に展開された魔法陣の一部なのだろう。
その証拠に魔法陣の遥か奥では、巨大な光の柱が天高く聳えていた。見上げても果てなく伸びるあの柱こそ、敵によって引き剥がされている慎二の魂。
「侵入者発見、侵入者発見」
「侵入したのは、お前の方だ」
拳を強く握る光太郎は、モノアイを点灯させ、魔法陣を展開する腕を微動だにさせぬまま残る腕をこちらに向けてくる敵…怪魔ロボットへ静かに告げた。
「貴様は…絶対に許さんッ!!」
迂闊だったと、間桐慎二は目の前に映る光景を見て思わずにいられない。
敵は自分の魂を異世界に放り投げるだけでなく、同一人物の肉体へ縛るという所業で終わったと思い込んでいた。
クライシス帝国の仕業とするならば必ずどこかに穴がある。その為にもこの世界のキャスターへと接触し、自身がどのような状態にあるのか、あわよくば元の世界に戻る術を聞き出せればと事を進めていたが、敵はその言って先を読んでいたらしい。
まさか過去に倒された怪人が、目的の人物達を捉えていたとは。
柱に括られているキャスターとアサシンのサーヴァント、そして柳洞寺の居候の身である葛木宗一郎達はまだ息があるように見える。普段ならばどうすれば救い出せるかと思考を巡らせるはずなのだが、全く頭が働かない。そんな慎二の姿を見透かしているのか、集団のトップであろう怪人は大声を放つ。
「くっくっく…大人しくしていれば楽に死ねるというのに、随分と足掻くではないか間桐慎二!」
「っ…」
ギョロリと巨大な眼球で睨みつける怪魔妖属ズノー陣に無意識に一歩後ろに下がってしまう慎二に背後で見た事もない連中に呆気に取られていた遠坂凛からの苦言が飛び出す。
「ちょっと話が違うじゃない!私が聞いていたのはキャスターとの対話でしょ?何なのよあの連中は!?」
「あ、あいつらは…」
額に血管を浮かべ抗議する凛であるが、クレーム先である慎二の返事は歯切れが悪い。門の向こうに佇む謎の集団に関して慎二は知っているようだがこちらにはまるで情報がない。予想をはるかに上回る最悪な状況にフラストレーションが高まってしまった凛は棒立ちの慎二に物申す為に襟首を掴んで強引に自分の方へと顔を向かせるが、慎二の顔を見た途端に頭に上った血が一気に冷めていく。
「ちょっと…顔真っ青よアンタ?」
「そんな…事…」
口では否定しても慎二の目は焦点が合わず、血の気も下がっている。凛の言う通り、顔面蒼白だ。そこから読み取れる感情はただ一つ。
目の前に現れた集団に対する『恐怖』だ。
「…ああもぅっ!!」
ガシガシと髪を掻きむしる凛は旨い話に見事釣られてしまったのかもしれないと自責するが、後悔したところで状況は変わらないと思考を切り替える。
実の妹が間桐家の養子となり肉親として接触が禁じられて以降、冬木の管理人として、1人の魔術師として自分に妹はいないものと考え生きてきた。だが、自分は異世界の同一人物だという寝言を口にする同級生の言い分を真に受けてしまいこの場に立っている。
だが、慎二の言葉に頷いてこの場に来ると決めたのは、自分自身だ。そのような他人に責任を押し付けるなど、心では考えても無責任な真似は凛には断じてできなかった。
それに、僅かな可能性に縋りたかったのかもしれない。妹を…桜を助けたいと。
だからまずはこの場を乗り切らなければならない。今凛が確認すべきことはただ一つだ。
「慎二、これだけ教えなさい…あいつらは―――敵?」
もはや唇も震えて声に出せないのだろうか。慎二は凛の質問に何度も頷くことでしか応じられない。それだけで、十分だった。
「アーチャーッ!!」
言うと同時に背後で境内で陣取る集団に目を光らせていたアーチャーが漆黒の弓を手に取り、剣を変化させた矢を放ったと同時に凛は指先からガンドを連射。
決して正攻法とも言えない攻撃であるが、敵はまるで動じる様子がない。
前衛であるサイボーグ怪人達の鈍い銀色の装甲へ凛達の攻撃が触れた途端にアーチャーの矢はあらぬ方向へと反れ、凛の呪いは四散した。
「………」
「見た目以上の固さって訳…?それに魔術があんな弾け方するなんて」
「多分…魔術を防ぐコーティングが施されている…」
「慎二…?」
冷や汗を流し、細かな震えはまだ消えぬものの目つきだけは幾分かマシになった慎二の情報に耳を傾ける凛は視線を敵へ向けたまま、敵の正体よりもまず先にどうすれば勝てるのかと尋ねた。
「本気、かよ。あいつらは…」
「いいから!ここまで来たからには最後まで協力するわ。だから、教えなさい。勝つ方法を、知ってるんでしょ?」
「私からも、お願いします。マスター…」
沈黙を続けていたライダーのサーヴァントも手に鎖を顕現させ、敵と相対した。
「う、ぐぅ…」
光太郎は口から途切れ途切れに声を漏らし、片腕を抑えて膝を付いてしまう。敵は相も変わらず元の位置に佇んだままだ。
見れば光太郎の身体中に敵の攻撃によるダメージが蓄積しており、焦げ付いてしまっている。そんな身体に鞭打って敵に向かい一歩踏み込んだ途端。敵ロボットの腕が銃口へと変形し、光太郎の立つ位置とはまるで異なる方向へ銃口を向ける。
「クッ、トァッ!!」
銃口に赤い魔法陣が現れ、陣が高速で回転すると中央からエネルギー弾が発射される。敵の弾丸に向かい、飛び込んだ光太郎は自身の身体で受け止めた。
「ぐ、ぅ…」
攻撃を受けた胸から煙を上げ音もなく落下した光太郎は自身の考えなしの行動に、慎二であればきっと説教が飛んでくるのであろうなと身体を奮い立たせる。敵は変わらず魔法陣を展開し、光太郎の行動を監視している。
敵のロボットと遭遇し、バイオブレードを手に取り一気に畳みかけようと突撃した光太郎であったが、敵ロボットは腕を銃口へ変形させ、あらぬ方向へと向ける。何のつもりか理解出来ない光太郎であったが、敵の狙いに気が付いた直後にその場が跳躍し、敢えて敵の攻撃を身体に受けた。
攻撃はそれで終わらなかった。
光太郎の回復を待たずに正反対に銃口を向け、次弾を発射。身体をゲル化させ、高速移動した光太郎がエネルギー弾に追いつくと再度人型に戻り、敵の攻撃を受ける…それをもう10回は繰り返している。
(迂闊だった…連中はこの事も狙って…慎二君の体内に侵入したという事なのか?)
心中でクライシス帝国の作戦は単純に慎二の魂を剥がすだけが狙いであった訳ではなかった。光太郎のように作戦を阻止しようと体内へ潜り込んだ相手へ攻撃を加えず、その周囲…即ち、慎二の肉体へと攻撃を仕掛けるようプログラムされていたのだ。
敵ロボットの攻撃程度ならばバイオライダーの能力で回避も、攻撃を素通りさせる事も可能だろう。しかし、その攻撃は決して回避してはならない。その攻撃を一撃でも漏らす訳にはいかない。その攻撃一つで、慎二の肉体が死に至ってしまうからだ。
敵は、慎二の体内という空間そのものを人質にしているに等しい。
遠距離戦が可能であるロボライダーへの変身も考えたが、変わった際に身体が元の大きさとなり、慎二の身体を突き破ってしまう危険がある。RXも同様だ。だが、ただやられてばかりいる光太郎ではない。
(…敵は俺が近づこうとすればランダムに方角を決めるが、次の行動までに若干のタイムラグがある。勝機があるとすれば、その一瞬のみ!)
ゆっくりと身体を起こす光太郎はただ敵の攻撃を受けるだけでなく、突き入る隙を伺っていた。敵の攻撃が連射でなく単発であり次弾までの僅かな時間を狙い、敵を倒す。
息を深く吐き、一度慎二の心臓が強く脈打った刹那、敵の銃口が動く。
(右…!)
光太郎は身体をゲル化させ、敵の射線上へと移動。
銃口に魔法陣が出現し、エネルギーが放たれる。
人型へと戻り、眼前で腕を組みエネルギーの塊が身体へ叩き付けられる。
11回目となる攻撃に耐え抜いた光太郎は、再度身体を青い液体へと変えると一気に敵との距離を詰める。
幸いにも、先の攻撃で手放してしまったバイオブレードが敵との直線状に落ちておりこれを回収。ロボットまであと3歩という距離まで詰め、バイオライダーとなって剣の切っ先を敵ロボットの胴体へと狙う。
あと2歩。
敵のモノアイが今までとは違う速度で点滅を繰り返す。予想外の行動に人工知能が混乱しているのかも知れないが、それならば好都合だ。
あと1歩…
光太郎は後悔した。
バイオブレードを手に取ったと同時にエネルギーを込め、必殺のスパークカッターを打ち出せる状態にしていれば違う結果となっていたかもしれない。勝利に急ぐばかりに、光太郎は見落としていた。
敵が『何』を展開し、攻撃する際に『何』を銃口に出現させ、光太郎は『何』を消す為にここにいたのか…
「何ッ…!?」
バイオブレードの切っ先は、敵ロボットに届かなかった。
光太郎の最後の1歩が踏み込まれる前に、展開されたそれによって止められてしまったのだから。
「魔力の…防御壁…」
赤い円と赤い文字の羅列により構成された魔法陣。
どのような意図があって組み込まれたのかは定かではない。
敵は魔術を扱う。そんな事は慎二の魂を剥がす術式が展開されているという時点で理解していた事だったはずだ。
魔法陣が消失すると同時に、4本の腕全てを銃口に変形させたロボットのモノアイが光太郎を嘲笑うかのように怪しく輝く。
四つの銃口。
四つの魔法陣。
そして四つのエネルギー弾。
その全てが光太郎の胸へ突き立てられた状態で爆発した。
「ガ、アァ…」
爆炎が晴れ、膝を付く光太郎。
好機を完全に逃し、鈍く輝く赤い複眼に敵ロボットの腕が再び起動し、魔法陣を展開される光景が映る。
光太郎は慎二を守る為、12回目となる敵の攻撃に被弾する事になるのであった。
慎二の指示に従った結果、敵の半分を倒す事に成功した。
慎二の指示は何一つ間違っていない。
先に潰しておくべき雑兵。サイボーグ怪人の弱点とも言える関節部への攻撃。
最適な助言により、凛とアーチャー、ライダー達は未知の敵攻略の糸口を全力で拾い続けたと言える。
しかし、それでも敵は半分残っていた。
「こ、んの…!放しなさいよぉッ!」
「ちぃ、霊体化も無理か…!」
「私の力でも、引きちぎれませんか…」
凛達を囲った複数のサイボーグクモ怪人。5体のサイボーグ怪人の口から射出された糸…鉛色であるからワイヤーなのであろうが標的の身体に纏わりつき、動きを封じている。
人間である凛はともかく、サーヴァントであるアーチャーとライダーの動きを封じたワイヤーの節目節目は怪しい輝きを放っている。恐らく対象の魔力に作用し、拘束する術式が編み込まれているのであろう。
ここまで対魔術の装備を整えるなど、今までは考えられない。とうとう敵は本腰を入れたのかと思考する慎二へ影が差す。
慎二を見下ろせる距離まで接近した、ズノー陣だ。
「ヒャァッ!?」
自身でも信じられない程に間抜けな悲鳴を上げ、尻餅をついてしまった慎二に傑作だとズノー陣は笑い声を木霊させる。
「クハハハハ…いい声でなくではないか。それは誰の声だ?魂を縫い付けられた間桐慎二か?それともこちらの世界の間桐慎二か?まぁ、もうどちらにせよ関係のない話なのだがな」
「もうじき魂が消えてしまう貴様にはな」
こいつは、何を言っているんだ。恐怖と驚愕に染まる慎二の表情を見てどうやら気分を良くしたらしいズノー陣は冥土の土産であると語り始める。
慎二の魂は肉体から引き抜かれ、別世界の慎二の魂と融合している事を。
慎二の魂が完全に溶け合い、こちらの世界に生きる間桐慎二の魂へ浸食されてしまうという事を。
「…っ」
自分が消える。
そう理解した途端にカチカチカチ…と奥歯を何度も打ち鳴らした音が慎二の耳へ響く。
言われてみればその予兆は何度もあった。
怯える桜を見て、妙に苛立ち暴力を振るおうとしてしまった。蔵硯の目を見ただけで臆病風に吹かれた。
そして今も、怪人を前にして恐怖に怯えている。
いくら敵を前にして対策を考えようとしても、身体が震えてしまう。本能が逃げろと訴え続けている。
この世界の間桐慎二の意思に、違和感を覚えることなく当然と感じてしまっている。
「だが、それがどうした?別に間桐慎二という人間が死ぬわけではない。お前は別世界の記憶を全て忘れ、のうのうと生きていられるのだぞ?」
「生きて…」
「そうだ…お前の好きなように生きて、好きなように他人を利用し、お前が勝ち残るのだよ。この聖杯戦争にな…」
ズノー陣の言葉に僅かな希望を見出してしまった。
(そうだ…そうだよ。何で僕がこんな目に会わなきゃいけないんだ?僕はライダーに人を襲わせて、ドンドン強くして、この聖杯戦争を勝ち残って、一番にならなきゃいけないんだ)
(境内では相変わらず凛やサーヴァント達が囚われている。この場で見捨てて、連中が始末してくれれば倒す手間も省けてくる)
(そうだ、それがいい!それに僕がこのまま引き下がるようであれば僕だけを見逃してくれるはずだ!ああそうだ、そうすれば僕は助かる!)
(勝てれば何だっていい!僕だけが勝てばいい!)
冷や汗を流し、どうにかこの場を切り抜ける算段が思いついたと口元をつり上がる慎二。彼の思考、完全に肉体の持ち主である間桐慎二のそれに近づきつつあった。
その様子を見て、ズノー陣はほくそ笑む。
もう少し。もう少しでクライシスの敵、間桐光太郎の弟である慎二の魂は消え去る。
調べて見れば、別世界の間桐慎二は自分本位で甘言を耳にすれば直ぐに誘いに乗るであろう愚かな人間だ。
あと一言、自分に従えば命だけは助けてやると言ってやれば完全に飲まれるだろう。ズノー陣本来の能力である対象の夢を操る能力すら使うまでもない。
しかしこのまま止めを刺しても芸がないと考えたズノー陣は、起爆剤をもう少し加えてもいいだろうと合間に一言を添える事にした
「そうだ。お前はこれまで通り祖父の指示通りに動いていれば楽に生きられる。そしてあの妹もお前の好き放題に…む?」
途端、慎二の震えが止まったように見えた。
既に魂が溶けてしまったかと顔を覗き込もうと膝を付くズノー陣だったが次の瞬間。
ズブリと、ズノー陣の左目に間桐慎二に指が突き刺さった。
「ぐ、オアアアアアアアアアアアッ!?」
左目を抑えのたうち回りながらも後退するズノー陣が残る右目で慎二を睨む。
立ち上がったその姿は尚も震えているし、顔にも脂汗が滾っている。
だが、目が違う。
打算的で、自分の事しか考えられない者に、あのような目を持つ事などありはしない。
「悪いけどさ…僕にとってのお爺様は、強要するような頑固者じゃなかったよ…」
慎二の知る祖父は自身の抱いた理想を忘却してしまった自身を悔い、その願いを光太郎へ託して逝った。
彼にとっては、その祖父こそが自分の知り、信じる間桐蔵硯だ。
「それに桜は…逆に僕を叱ってくれる。こんな僕に、ちゃんと叱ってくれるんだよ」
桜は血の繋がった本当の家族と引き離されても、自分を兄として接してくれた。慕ってくれた。
魔術の才能がないというコンプレックスを持つ自分に、しっかりと向き合ってくれる、本当に優しい妹だ。
確かにこの世界での2人は自分の知る祖父と妹ではない。それでも、彼にとっては家族なのだ。
自分を篭絡する為に、その名を使ったこの怪人は許すわけにはいかない。
だから、身体を強引に奮い立たせた。
小鹿のようにブルブルと震える足を叩き、強ばった顔には思い切り両手で頬をぶっ叩いた。
「お、のれぃ…たかが人間の分際でこのズノー陣様の目をよくもぉッ!!」
激情にかられ、武器を手にしたズノー陣を前にしても、慎二はもう恐れない。
消えかけている?だからなんだ。
そう宿命付けられたサーヴァント達は、最後まで戦い続けていた。
魂が飲まれる?だからなんだ。
魂を消し、その肉体を奪おうとした存在を、義兄は全力を尽くして退けた。
ならば自分にはできないのか?
そんなはずはない。
彼等との違いなど、肉体と持ちえた特異な能力。たったそれだけだ。
ならば、間桐慎二に出来ないはずがないのだ。
「じゃあ試してみなよ?そのただの人間がどこま抗えるのかをさぁッ!!」
もう、弱々しい自分には飲まれない。
そして必ずこの場を切り抜け、この世界の桜を救い、元の世界に戻って見せる。
慎二の決意に同調したかのように、彼の腹部にそれは現れた。
「え…?」
「そ、そんな馬鹿な…!?」
慎二以上に、ズノー陣が驚きを隠せない。
慎二の腹部に巻かれたそれは、この世界には決して存在しないものだ。
「ロストドライバー…なんで?」
だが、慎二の知るロストドライバーと比べると若干色が薄く、存在が希薄にも思える。だが、指先で触れて見れば感触は確かなものだ。どういった経緯があってこの世界の慎二の元へと現れたかは分からないが、これで何とかなる。
予めスロットに挿入されていたトリガーメモリを強く押し込み、鼓動とも思える待機音がエネルギーと共に発せられてた。
「いくぞ…」
慎二はゆっくりと両手を左右へと伸ばし、両足を重なるような位置で垂直に立つ。
慎二の全身がまるで『T』を描くような姿になると、その言葉を静かに告げる。
「変身!」
その刹那、右手を左上に、左手を右下へと素早く突き出す。その際、左手によってベルトの一部が倒され、再びあの声が周囲へと響き渡った。
《TRIGGERッ!》
ベルトから放たれたエネルギーが慎二の全身を包んでいく。
青の装甲で全身が包まれ、左胸に特殊な形状をした銃を形成。
最後に顔を包んだマスクには赤い巨大な複眼と、『W』の文字を連想させるアンテナが額へ出現する。
左胸にマウントされた銃…トリガーマグナムを手に取った仮面ライダートリガーは銃口を茫然とするズノー陣に向けて、こう告げた。
「
ロストドライバーがなぜ現れたのか、はまた次回に。
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