Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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恐らく今まで一番短いお話…

もしかしたらしばらくこのペースとなってしまうかもしれません…


第92話

「ん…」

 

 

うっすらと目を開く間桐慎二は、窓の向こうが未だ暗い事に安堵して再び目を閉じた。

 

 

(なんだよ…まだ夜中じゃん)

 

 

まだまだ起床時間まで余裕があると布団を被さる慎二。昨日は光太郎や桜たちと突然押し寄せたチャップや怪人素体達を相手に数時間も戦い続けていた。

相手はさほと力のない雑兵に過ぎないが、昨日現れた数は規模が違う。普段であれば怪人、もしくは指揮を執る敵幹部の取り巻きで10体近くであるのだが、昨日に限り現れた人数は300体。そしてそれ以上の個体である怪人素体を引き連れて現れたのだ。

 

敵に目を付けられたのはもちろん光太郎であるのだが、いくら雑魚ばかりとは言え、当日厚い雲に覆われ全力を出し切れない光太郎だけを集中的に狙う敵に対し、慎二と桜も仮面ライダーへと変身。

 

桜が指輪を使用した魔術により人避けの結界が張られた柳洞寺の裏山で繰り広げられた戦いはおよそ5時間にも渡り、最後の1体を倒した頃には慎二や桜は疲労困憊であることはもちろん、流石の光太郎も乱していた。

もはや一歩も歩けぬ慎二と桜を気遣い、全員でライドロンで帰宅する光太郎達を待っていたのは、彼等同様にどこか疲れたメドゥーサと赤上武であった。話を聞くと、光太郎達がチャップ達に襲われたと同時刻には間桐家で待機していたメドゥーサや武にも刺客が送り込まれていたらしい。間桐家の中庭へと侵入したサイボーグ怪人軍と武と訓練中であったインベス軍の大乱闘が勃発し、幸いにも敷地内の結界により周囲に騒ぎが漏れる事はなかったらしい。

そして光太郎達がチャップ達を撃退したと同時に怪人も引き上げ、事なきを得たが数時間にも及ぶ戦闘にはさすがに堪えたらしい。

 

もはや料理をする気力もない桜に変わり、すこしばかり味付けの濃い野菜炒めを作ってくれたガロニアに感謝しつつも、全員は少し早めに就寝する事に。翌日午前中の講義がない光太郎はともかく、慎二と桜は早朝から部活の朝練が待っているのである。

無理する必要はないと言う光太郎であったが、そこは意地でも参加すると言い張ったのは慎二だ。もし光太郎の言葉に甘えてしまえば、あのお節介な部活の主将に変な心配をさせてしまうのだから…

 

 

と、言いながらももう少し寝ていたって文句は無いだろう。昨日は早く休んだ為か不思議と身体の負担はなく、ただ純粋に眠い。もう少し身体を休ませればあのお節介な義兄にモーニングコールされる事なく起きられるはずだ。

 

だから、寝相で振り払ってしまったであろう毛布を被り直す。いくら室内だからとはいえ、こんなにも『冷えて』いるのでは風邪をひいて―――

 

 

 

(まてよ…)

 

 

慎二は自分の身体を包む毛布の温かみに違和感を覚える。

 

 

(なんで…寒いんだ?)

 

 

確かにまだ毛布を被らなければ肌寒い日もある。しかし、身体が凍える程気温が下がるなど天気予報でも告げられていないはずだ。慎二は目覚まし代わりでもある携帯電話へ手を伸ばし、待受画面を表示させる。暗い室内でボヤりと浮かんだ明かりを見て、慎二の意識は一気に覚醒した。

 

 

 

「…ッ!?」

 

 

慎二は我が目を疑う。

 

携帯電話に表示された時間は午前5時過ぎ。磁気的には室内にもう日が差してもおかしくない時間だと言うのに、窓から見える空模様は未だ暗い。だが、それよりも慎二の思考を凍らせたのは、今日の日付。

 

日付だけを見れば、未だ空が暗い事や室内が冷える事にも納得がいく。だが、それは本来あり得ない事。なぜなら、その日付は数か月も前…季節で言うならば冬の日付だったからだ。

 

 

「嘘だろ…!」

 

 

直前までその身を凍えさせていた寒さなど忘れ、毛布を払いのけた慎二は2度、3度と携帯電話の画面を見つめる。頬などを抓って自分は夢の住人ではないと確かめるなどせず飛び起き、早まる心臓の鼓動をどうにか落ち着かせようと室内の照明を点灯させる。しかし、それは慎二の動揺をさらに拍車をかける結果となってしまった。

 

 

「…なん、だ?」

 

今さっきまで自分が寝ていたのは慎二の自室で間違いはない。間違いはないのだが、ベットや箪笥といった家具の位置以外のものが大きく異なっていた。

 

聖杯戦争時に使用して以来組み立てていた桜用の武具を作成するスペースも、祖父の書庫から引っ張りだした魔導書を収納されていた本棚の姿がない。まだ盗難になって荒らされたという事実の方がまだマシを考えてしまう慎二は背中に妙な汗を流れる。一体何が起きているのかと。

 

 

「何が起きってるんだよおい…」

 

 

誰かに聞いて欲しくてつい漏れてしまった愚痴に頭を抱える慎二だったが、これはもうただ事ではない。なぜ自分は自室とよく似た場所に放り込まれているのか。否、まだこれだけでは誰かのイタズラだとまだ考えれる。

もしこれが誰かによる悪ふざけであればと思い込むことで冷静さを取り戻した慎二はまず寝間着から学校の制服へと着替え、扉のノブをゆっくりと握る。この扉の向こうはきっと自分の良く知る空間であり、もしかしたら外では自分が酷く焦った様子を見てニヤニヤしている犯人が潜んでいるかもしれない。

 

むしろそうあって欲しいと願う慎二の希望があっさりと打ちひしがれてしまった。

 

 

「………………………」

 

 

慎二が見たのは明かり一つない廊下。それだけであれば慎二の知る屋敷と変わらないはずだが、空気が違う。瘴気のようなものが漂っているという訳ではなく、ただ単純に『重い』。

 

頭が痛む。

 

息を荒げ、思わず額を手で押さえる慎二はこの状況を早く義兄へと報告せねば…と考えた矢先であった。

 

 

「兄さん…?」

 

 

そんな自分の姿を見て心配したのだろう。暗い通路を通りかかった桜の声に安堵した慎二はこの異常としか言いようがない状況に誰が一人でも味方がいてくれるならばと、顔を上げた。

 

 

愕然とした。

 

 

今、慎二の目の前に立っているのは、義妹である間桐桜に間違いはない。間違えるはずもない。

 

 

しかし何故だ。

 

 

なぜ、実の姉とお揃いである黒髪でもなく、碧色の瞳でもなく――――

 

 

 

 

桜の髪と瞳は、紫に変色しているのか。

 

 

 

 

「さく、ら…?」

 

「はい…」

 

「どうしたんだ…何があったんだよ!?」

 

「え…?」

 

「なんで…なんでそんな色に染まってるんだよ桜!」

 

 

慎二は桜の両肩を掴み、今さっきまで自分の置かれている状況よりも、義妹の身に何が起きているのかを聞き出す方を優先させた。

桜に取って、髪の色と瞳は親に唯一残してもらった姉とお揃いのものだと以前話してくれた。古めかしい契約の下幼い頃に別離し、死んだ事すら人伝でしか知る方法がなかった。

それ程にまで彼女にとっては大切なもの。このようにふざけた色に染めるなど彼女が行うはずがない。あるとするならば、クライシスによる戦いで彼女に何かあったのか。それとも、仮面ライダーに変身した事による副作用なのか。

 

問い詰めようする慎二だったが、彼の慌てようにつられて困惑する桜が次第にその表情を暗くする。

 

 

「どうして…そんな事…今更言うんですか?」

 

「桜…?」

 

「兄さんは…知ってるのに…どうして…」

 

 

まるで泣き出すかのように俯いてしまう桜。前髪に隠れて、桜がどのような表情をしているのか、慎二には見えない。

 

それに桜の口ぶりでは、彼女の髪や瞳が紫色となった経緯を知っているかのような内容だ。自身を持って言えるが、慎二に心当たりなど全くない。だからこそ余計に混乱してしまう。

 

異なるのは髪と瞳の色だけではなく、性格もだ。確かに間桐の養子となったばかりの頃は気弱で泣き虫だった記憶もあるが自分が留学から戻り以降、義兄に影響されてか随分と明るく、自分ですら恐ろしいと思える強い意思を持つ少女となっていたはずだ。

 

だが、目の前にいる桜はまるで違う。幼い頃の性格がそのまま今に成長を遂げたかのような気の弱さと危うさを抱えたような…こうして詰め寄る事により彼女は『何か』に追い込まれてしまう。そんな予感…そして悪寒を感じた慎二は気が付けば彼女の肩を強く握っていた事に気づき、手放すと数歩離れた。

 

 

「悪かった…肩、大丈夫か?」

 

「え…?」

 

 

これ以上桜を追い詰めてはいけないと謝罪する慎二が以外だったのか、暗い表情が消えた。慎二は桜の反応に疑問を残すが、今はそれよりも早く確かめなければならない事がある。

 

 

「桜、光太郎は起きてるか?」

 

「はい…?」

 

「なぜか僕の部屋の一部が違ったり、日付が巻き戻ったりしてる。もしかしたらクライシスの連中が――」

 

「あ、あの兄さん!」

 

「なんだよ、まだ説明の途中だぞ?」

 

「ご、ごめんなさい。兄さんの説明に分からない言葉があったので…それに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウタロウさんって…誰ですか?」




さて、慎二くんの身に何が…?

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