Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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いろいろと話題となっとりますFGOの舞台。自分は早速抽選に申し込んでみました。
ただひたすら、当たることを祈るばかり…

ではとうとう来ました90話です!


第90話

鉄杭を打ち出した際の火薬の臭いが充満する室内に立つカソックを纏った女性…シエルが煙の向こう側でつい先ほどまで人間の形をしていたモノを見つめる事数秒。

彼女は何も言わずに踵を返して部屋を後にする。

 

(マスター、浮かない顔をしていますね)

 

「…少し、昔の事を思い出しただけです」

 

(昔?)

 

自分の頭に呼び掛ける少女の声に、シエルは素っ気なく答えた。エミリア・シュミットが本当の意味で死を迎えた事に、シエルは数年前にあった日本の神父の言葉を思い出す。

 

 

 

神父はシエルの知己であった代行者が死んだ事により、エミリア討伐の補充要員として日本から派遣された者だったが、神父が到着していた時にはエミリアは既に他の者により討ち取られており、彼はやむなく本来の仕事である教会の管理を一時的に任される事となる。そんなある日、シエルは急きょ呼び出された神父を労う為に付近の食堂へと神父を招待した。

 

その食堂にはバラエティに富んだメニューが売りであり、シエルは迷わず好物であるカレーを。そして神父は表情を変えぬまま麻婆豆腐を注文する。

 

どちらも時間を頂くことになりますとの店員の言葉に気に留めることなく料理を待つ事を決め、その間にシエルは彼に感謝を述べる事にした。いくら人手不足とはいえ、本来の仕事を蹴らせてまでこちらに派遣させ、尚且つ長い移動が終わったと思えば既にエミリアは処分されたと聞かされればさぞ拍子抜けだったのであろう。さらに雑務まで押し付けのだ。これくらいの謝礼は当然と考えたシエルだったが…

 

 

 

「今回は本当にご迷惑を掛けました。遠路はるばる日本という国から来てくれたというのに…」

 

「任務となれば仕方ありません。それに新たな管理者が見つかるまで教会を空けておく訳にはいかぬでしょう。神に仕える者としては当然のこと」

 

「そう言って頂けると助かります…」

 

「ただ、残念であったのは今回の犯人をこの目で見れなかった事でしょう」

 

「エミリアを、ですか?」

 

 

その時、無表情であった彼の口元が微かに歪んだように見えた。

 

 

「資料を目に通しました。彼女は自分を理想である姿となる為に家族を、そして無関係の年端もいかない女性たちを次々に手をかけたとか」

 

「ええ。本当に許せない事です。彼女の元の顔は存じませんが、他人の顔を手に入れたところで―――」

 

「そう、彼女は他人の肉体を手に入れ、自分の一部を高めた所で止まることなどない。いや、もう止まる事などできなかったのでしょう」

 

「え―――?」

 

 

自分とは違う論点に戸惑うシエルに構わず、神父は続ける。

 

 

「彼女にどのような経緯があり肉親を殺害し、他人の肉体へ執着するようになったかは本人にしか分かりません。ただ、これだけは言える。彼女がもしこの先も理想とする姿になろうとも、生涯他人から肉体の一部を奪い取る事は止められなかった。ゆえに、今の時点でエミリアを殺した事は最善と言えましょう」

 

 

 

彼の言う事と、自分が考えている事がズレている。違う、そもそもエミリアという殺人犯に対する人物像がシエルと神父ではあまりにも違い過ぎているのだ。

 

なぜ彼はそんな考えに至っているのかという疑問がよほどシエルの顔に出ていたのであろう。神父は、尋ねるまでもなく先ほどよりもやや声を低くして答えた。

 

 

「彼女は自分という『個』を磨き上げるという手段を放棄し、捨ててしまっている。それはもう自分自身という人間を鏡に映していない事に等しい。彼女がしていた事は身に付ける衣服や宝石を収集する事と変わりない」

 

 

何をふざけた事をとテーブルを叩いて神父を黙らせたい内容であるにも関わらず、シエルはただ聞き入るしかない。なぜなら、ひどく納得してしまったからだ。

 

もし、彼女が起こした殺人で自分の美しさに磨きをかける為であったのなら最初の数件で殺人は終わり、後は不老の魔術を施せばよかっただけの話。だというのにこの数十年間、女性を殺し続けたという事は、より自分を美しくする為という以上に、彼女は手に入れた容姿に飽きたから、次の肉体が欲しくなったというなんとも単調な理由で殺し続けたことになってしまう。

 

そんな輩が自分が嫌悪する異端ではなく人間から湧き出るとはと今更になり彼女の行動をさらに悔しがると同時に恐れすら抱いたシエルだったが、目の前に座る神父からさらに驚くべき発言に言葉を失ってしまう。

 

 

 

「だからこそ、残念でならなかった」

 

 

 

 

「彼女が命を失うその寸前にその事実を知った時。受け入れてさらに狂った本性を垣間見せるのか。自身という個を既に失っていたと絶望したのか」

 

 

 

 

「どのような表情を浮かべるか、是非とも拝見してみたかったものです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの直後に届いたカレー、なんとも味が薄かったものでしたよ」

 

(いや、ずいぶんと重い回想をしたオチがそれなんですかマスター!?)

 

「いいんですよ。その重いお話もあって、味わえなかったのは確かだったんですから」

 

 

 

あの後、届いた食事を互いに無言で食し、解散となった。

 

それから数年。その神父は日本で起きた聖杯戦争とゴルゴムの日本侵略で命を落としたと聞いた時は、言葉に表せない感情が渦巻いた。たった一度の出会いであったが、神父の考えがどうしても読み取れないまま分かつことになってしまったシエル。神職者として歪んだ考えを持つ彼を正したかったのか、それとも彼の真意を知りたかったのか…

 

考えを巡らせているうちに、自分に手柄を建てさせてくれた人物の姿が目に入った。

 

 

 

「お喋りはここまでですセブン。黙っていて下さいね」

 

(フッ…それは振りとして受け取っておきましょう。そうすれば武器に話かけるという不審人物にマスターを仕立て上げる事に…フギャァッ!?)

 

 

手にした武装である第七聖典へ拳を叩きつけたシエルは聖典に宿る精霊セブンを黙らせると、隠れ家の出入り口で待つスーツ姿の男性へと一礼する。右手を黒い皮手袋で包むこの男こそ脳髄と眼球を転送したエミリアの前に立ち、銃を突きつけた仮面の男の正体であった。

 

 

 

「どうやら終わったようだな」

 

「ええ。貴方がたの協力を得た事で我々聖堂教会の不始末にようやく終止符を打つ事ができました」

 

「今回ばかりは利害が一致したからという理由でそちらの上司が情報を与えてくれたおかげだよ」

 

「そうですね。あれだけの事が起こったのにも関わらず、未だ怪人への対策に現状のやり方だけで対応しようとするお上の命令を蹴って貴方達へと接触した|司祭≪№1≫の考えは間違っていないかったようです」

 

「最初は驚いたけれどね。まさかいきなり埋葬機関のトップから一般回線からの通信だったから」

 

 

 

関係者から見ればとんでも話を男性と繰り広げるシエルであったが、男の背後で防護服を着用した団体の姿を見て長居は無用と判断し、再度一礼する。

 

 

「では、人を待たせていますのでこれで失礼します。あ、もし連絡が付くようなら筑波さんとアマゾンさんによろしくお伝えください」

 

「ああ、伝えておこう」

 

 

優しく破顔する男性は遠ざかっていく女性を見送りながら、背後に控えていた化学班へと命令を下す。

 

 

「では取り掛かってくれ。もう一度言うが我々の目的はクライシス帝国の手がかりだけだ。もし未確認の遺体を発見した場合はサーモグラフィ装置で確認後丁重に埋葬しろ。『例外』も含めてだ」

 

 

男の命令に頷いた化学班達は一斉に行動を開始。室内へと足音が遠ざかっていく中、新たに現れた人物は資料を片手に男の隣に立つと、彼の行動を予測しつつも呆れ半分という表情で口を開いた。

 

 

「随分と優しい事ね。あれだけ貴方達を貶した団体にあっさり手を差し伸べるなんて」

 

「困った時はお互い様と言うだろ?」」

 

「もういいわ、他の連中に聞いても同じ回答だし。いえ、城だけは別ね」

 

 

男性に話しかける女性…アンリエッタ・バーキンは苦笑する相手を見てさらに深く溜息をつくと、今しがた別の場所で起きた情報を男へと伝える。

 

エミリアの隠れ家に保存されていた予備の肉体に脳と眼が転送されたという事は、それ以前の肉体に激しい損傷を起こしたか、死んだという事だ。冬木に派遣したエージェントによれば後者であり、エミリアを追い詰めたのは間桐光太郎と、槍使いの男だという。

 

 

 

「…そうか、ランスが」

 

「どうにか目的は果たしたようね」

 

「そうだな。彼が戻った際には謝らないといけない」

 

「ランスに、貴方が?」

 

 

当然の疑問であった。仲間を殺さらなければならなかった状況に追い込まれた彼には同情するが、命令違反を犯して単独行動を取った事とは話が別だ。今回の事件がようやく終局を迎えるのだとすれば、指揮官である男は然るべき処罰を与えなければならない。だというのに、この男はなぜ謝らなければならないのか。

恐らくその疑問が顔に出ていたのだろう。アンリエッタに向かい、男はやはり苦笑したまま説明を始めた。

 

 

「あの時、俺は彼を過去の自分と重ねてしまった。そう勝手に思い込んでしまったんだ」

 

「………」

 

自身の右手首にそっと左手を重ねる男の言葉に、アンリは口を噤んで聞き続ける。

 

男の過去を知るアンリは、彼の言う復讐にランスが暴走しかねないと予想していたが、聖杯戦争と呼ばれる戦いで共に戦い抜いた人物たちと行動する事で、収まるものだと考えていた。

 

かつて復讐に走る自分を友が止めてくれたように、彼を止めてくれるのだと。

 

だが違った。

 

彼は復讐などに、最初から飲まれてなどいなかった。

 

 

エミリアへの恨みは、少なからずあっただろう。だが、それ以上に彼は仲間達の無念を晴らすに戦った。

 

 

自分の恨みを晴らす為に戦っていた過去を持つ自分と同じ扱いにしてしまうなど、恥ずかしいにも程がある。男…結城丈二はランスというコードネームを授けられた男を侮っていたのだろう。

 

 

だからこそ、彼が戻ってきた暁には謝罪しなければならない。

 

 

「…そう。貴方がそうしたいのならそうしなさい。私は私で彼へのペナルティを与えるから」

 

「相変わらず手厳しいな、アンリは」

 

「…ジョージが甘すぎるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特殊な戦闘服を着た集団は警戒していた。

 

脅威であったサイボーグ怪人や怪人素体は既に全滅している。この隠れ家にまさか1ダース以上の敵が潜んでいたとは思いもしなかったが、既にその影はない。自分達の攻撃で根絶やしにはしたが、それはあくまで『奴』の撃ち外した標的を狙ったに過ぎない。

 

敵の残骸からバチバチと火花が散っても、奴に対して照準は外さない。

 

手頃な石に腰掛け、タバコに火を付けるという自分達ですら日常化している動作にすら目を光らせ、もし自分達に脅威が及ぶようなものなら…

 

 

 

 

「お待たせしましたーッ!」

 

 

と、この空気をぶち壊すソプラノを放つ女性がこれまた不似合い過ぎる大荷物を掲げて黒いコートを纏った人物へと駆け寄っていったのだ。

 

 

 

「…随分と時間をかけたものだな」

 

「いやぁ、あちらの司令官さんと積るお話もありまして、気が付いたらこの時間でした」

 

「ならこの場所に用はない」

 

「では、帰りましょうか!」

 

「…帰りまで付き合うつもりはない」

 

 

と、重火器を構えたままの部隊に目すら向けずにスタスタとこの場を去っていく2人の姿に唖然とする一同。だが、そんな彼等を見てもはやり中にはスナイパーライフルのスコープから目を離さない者もいる。協力者であるカソック服を着た教会の者と行動を同じにしようが、彼等にとって脅威である事には変わりない。

あのように常人のような振る舞いと言葉使いを見せるが、その力は彼等と共に戦う戦士と同じか、それ以上の力を持っているのだから。

 

 

彼らが見たのは、黒いコートを靡かせる青年が特定の構えを取り、銀色の戦士へと姿を変えた直後だった。

 

 

たった一撃。

 

 

ただ手を振るっただけで敵の大半が地面へと沈んだのだ。

 

 

彼が部隊に新たに参加した戦士というのならば頼もしい事この上ないが、あくまで今回は協力者の同行人に過ぎない。

 

 

それに加え、彼等を緊張させ、悪く言えば敵意すら与えてしまう十分過ぎる肩書を持ち合わせていたのだから。

 

 

 

 

 

 

ゴルゴムの世紀王、シャドームーン。

 

 

 

 

 

 

 

(なーんて目で訴えてるよなぁ、あのへんなお面被ってる皆さん)

 

(もう、そんな言い方した駄目よアンリ。あの人達も信彦が友達になりたい!って言えばきっと手を差し伸べてくれるはずよ)

 

(うっわ何それ超見たい!この鉄面被が『僕、みんなと友達になりたいんだぁ!』って恥押し殺して無理してるとこ超見たい!!)

 

「黙れ貴様ら」

 

 

タバコを携帯灰皿へと押し付けた月影信彦は自身の意識の中でしゃべり続ける2人の存在…自分と肉体を共有するアヴェンジャーのサーヴァント、アンリマユとキングストーンの意思である碧月に冷たく言い放つが、当に彼の説教に慣れてしまった2人には効果はない。

 

そんな彼等の事情をなんとなく聴いていたシエルは苦笑しながらも今回同行した信彦に対して礼を述べる。

 

 

「今回は付いて来て貰ってありがとうございました」

 

「ならばもうアヴェンジャーを甘味で釣る行動は控えろ」

 

「あ、バレてましたか?」

 

「俺が眠っている間に随分と好き放題やったようだしな」

 

 

彼が2本目のタバコを箱から取り出しつつ、自分の中にいるアンリマユに対しての嫌味も口にする。

 

信彦が身体の主導権を稀にアンリマユへ譲渡した時の話だ。好みの違いから普段辛いものしか口にできないアンリマユは自分の自由時間に好き放題食べようと財布の中身を見た所、中には札が一枚もなく、小銭が数枚。

どうやらアンリマユに譲渡する前に現金の殆どを銀行へ預けてしまったようだ。金を下ろそうにも口座の暗証番号は信彦しか把握しておらず、なぜ記憶を共有しているはずなのにこればっかりはブロックされてしまうのであろうと絶望に暮れる信彦へ神の名を語る悪魔が現れる。

 

シエルは好き放題甘いものを食べる代わりに自分の手伝いをして欲しいと迫って来るが、苦労するのは自分じゃないからとアンリマユはあっさり承諾。

 

その日は満足するまで甘味を堪能できたが後日、信彦へバレた際には一週間激辛メニュー地獄が続いたという。

 

 

 

「それはそうとして、いかがでしたか?クライシス帝国の手ごたえは」

 

「今回はゴルゴムの残党を利用していた部隊に過ぎない。これで奴らの力量を図れる材料にはならないな」

 

 

信彦がシエルの依頼をはっきりと断らなかった理由がここにある。以前シエルに問うた、彼女が日本から離れない理由の一つ。ここ最近になって世間を騒がせる怪人事件の大本であるクライシス帝国の名を聞いた信彦は、どれほどの戦力を秘めているか確かめるべく同行する事に了承したのだ。

 

 

「美咲町で起きた吸血鬼事件の後処理に連中の足跡が見つかったとなれば、怪人を使徒化させたというデータも用いられた可能性がある。今後も用心しなけらば…」

 

「冬木に滞在する仮面ライダーに危機が陥る、ですか?」

 

「…………………………」

 

 

信彦と対となる存在の名を話題に出すと、彼はいつも口を閉ざしてしまう。だからと言って、機嫌が悪くなるという訳ではない。信彦自身が、どう答えればいいか分からないのが現時点での答えなのだろう。

何も無理強いして答えを聞き出そうとは思っていない。彼がどう答えるのかは、彼自身がいつか答えてくれるはずだろう。

 

 

「すいません、困らせてしまいましたね」

 

「お前が謝るようなことではない」

 

「でも…」

 

「奴とはいつか巡り合う。それが戦いの先か、偶然によるものかの違いだ」

 

「そう、ですか」

 

 

そうでもしなければ、自ら会おうともしないのだろうかと、さらに踏み混んだ疑問を口にする事は止めるシエル。

 

以前かき集めた情報によれば、彼等2人は過酷な運命に飲まれ、戦ってしまった関係にある。彼の性格上、望んで会う事はまずないのだろう。だから祈るしかない。

 

信彦の再会がただ人類と敵対する者との戦いの延長上ではなく、互いに臨んでのものであることを。

 

 

 

 

 

 

「ところで今日は用事を蹴ってくれたようでしたけど、どんな要件だったのですか?」

 

 

いくら急ぎの案件とはいえ、世間で言えば今日は週末。基本ホテル暮らしとは言え信彦にも予定があったらしく、携帯電話で約束相手に急用が出来たと断る姿を目にしたシエルはこれぐらいは構わないだろうと尋ねてみる。

 

 

 

 

「特に重要なことでもない。志貴に学校の課題について見てもらいたいと言われ、家に呼ばれていたていただけだ」

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………」

 

 

「どうした?」

 

 

「…遠野くんの先輩ポジションは渡しませええええぇぇぇぇぇぇェェェェェんッ!!」

 

 

 

 

黒鍵を両手に展開したシエルは天高く舞い上がり、訳が分からないと顔をしかめる信彦へと迫るのであった。

 

 

 

 




エミリアの人物像とその最期、愉悦部による分析は構想2分程度。なぜだ…?

そして後半でずっぱりでした信彦さん、あれ以来色々と戦ってたりしておりました。

次週はちょうとお休み。お気軽に感想等頂ければ幸いです!

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