Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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今朝のエグゼイドが熱すぎてもう…前半笑わされて、後半で見入るなんて朝からだいぶやられています。Blu-ray本気で迷ってしまう…

と、揺さぶられながら完成した89話でございます


第89話

同調開始(トレース・オン)

 

 

 

それは衛宮士郎が魔術を発動させる際に唱える言葉。遠坂凛達が魔術を使役する詠唱とは異なり、言うならば人間から魔術師へと切り替えるスイッチのようなものだというのが、本人からの話だ。

亡き養父から言われたように、自分を越える、切り替える為に用いているこの自己暗示に、間桐光太郎が興味を示したのは以外であった。

 

 

遠坂凛から久々に課題を言い渡され、追い出されるように彼女へ提供している離れから突き出された士郎は課題である強化の魔術を実践した時だった。

 

光太郎は見学を申し入れた時、下手な結果は出せないと凛に教えを受けた時とは別の意味で緊張したためか、失敗。恥ずかしいところを見られてしまったと気まずくなる中、光太郎は真顔で士郎の両肩を掴む。

自己暗示と、強化魔術を使用する時、どのような感覚であるのかと。

 

 

そして慎二から強化をする際に、まずは対象の構造を理解しなければならない事、自分の魔力を通す道を作る事をイメージすると聞いた光太郎はしばし目を閉じ、何かを掴んだかのような表情を浮かべると士郎へと申し出た。

 

 

『衛宮君のその詠唱、俺が使っても大丈夫かな?』

 

 

面を喰らった士郎であったが、別に構わないと了承した光太郎は急ぎ土蔵から飛び出すと、今しがた姿を消したアーチャーへと接触し、再度あの実験を行った。

 

 

結果は成功。

 

 

光太郎の体内宿る大聖杯の残滓を通し、RXのハイブリットエネルギーを魔力へ変換しサーヴァントの力を増大させる方法を確実にした光太郎は嬉しそうに士郎へ報告したと言う。

 

どうやら士郎の強化魔術を見て、メドゥーサと発動させた力はただ自分とサーヴァントの気持ちを一つにするだけではなく、光太郎の持つハイブリットエネルギーを相手へ送り、同時に大聖杯の残滓を通し相手からのレイラインを一時的に繋げる必要があると気づいたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時はびっくりしたよ」

 

「確かに。光太郎兄様は魔術回路というものをお持ちではありませんから」

 

「お、詳しいなガロニア」

 

 

勉強しましたからと言って無邪気な微笑みを見せるガロニアに士郎も釣られて微笑み返す。この会話が自宅の居間であり、彼女の家族である桜や慎二とお茶を啜りながらの会話であれば言うことは無いのだが…

 

 

「何を無駄口を叩いている。敵の増援が来ないとも限らんのだぞ。娘もさっさと窓を閉めて状況を把握しろ」

 

「油断大敵、という事だ。緊張感を持たないのは良いことだが、少しは、な?」

 

 

赤い外套を纏った男と朱い甲冑の男の忠告に、二人は表情を引き締めてそれぞれの役割へと戻る。

 

 

 

男達…アーチャーと仮面ライダー武神鎧武こと赤上武の足元には市民会館を囲うように見張っていた敵が倒れている。それは士郎とガロニアが搭乗するライドロンの周りも同様であった。

 

 

遠坂凛と間桐慎二から光太郎の危機を聞いた士郎は編入試験を終えたガロニアと共にライドロンと駆け付け、一同と合流。別々の調査で連続強盗の犯人とランサーが探す魔術師エミリア・シュミットの潜伏先を突き止めた慎二達は手始めに見張りを一網打尽にし、

 

 

 

手にした夫婦剣を握る士郎は周囲に再び雑兵チャップや怪人素体兵が現れないかと警戒し、ライドロンの運転席に座るガロニアは膝上に乗せたノートパソコンを操作し、光太郎が連れ込まれた市民会館を確認する。この端末、外側は格安で入手した中古であるが中身の部品やOSはメディアにカスタマイズされた逸品である。それも現代の電子技術にまだ不慣れであるガロニアに合わせて、彼女が行いたい作業を音声で伝えるだけで人工知能…メディアが色々とやらかした甲斐あってもはや電子の使い魔とも言っても過言でもないAIが自動でこなしてしまう。

さらにはライドロンのスーパーコンピューターと直結させたことで市民会館の監視カメラをハッキングし、光太郎とランサーの居場所を把握することに成功し、地中から助けに行くという桜の誘導が出来たという訳だ。

全てがライドロン製造時の副産物であるのだが、通常のパソコンにインストールした場合にはその情報量と求められる演算量に耐えられずパンクしてしまう。そこでメディアは部品自体も魔術的な『何か』で用いて製造。その気になれば世界経済状況すら操作できるパソコンが生まれる事となる。

 

慎二曰く、世界中の技術者に喧嘩を吹っかけているというパソコンを操作するガロニアが片耳に装着された無線に、無謀な発言の張本人からの通信が入る。

 

 

 

『僕たちの場所、分かるか?』

 

「あ、はい。慎二兄様とメドゥーサ姉様の所在位置は…地下の機械室通路です」

 

『桜の開けた穴から上手く入れ込めたようですね。では、例の反応が出た場所までの経路をお願いします』

 

 

 

別行動を取っていた仮面ライダートリガーこと間桐慎二とメドゥーサはコツコツと異様に足音の響く暗い通路をゆっくりと進んでいく。市民会館の内部を端末で調べていると、光太郎達がいる運動スペースとは別に、地下1階で生体反応を発見した慎二は光太郎の援護を桜に任せてメドゥーサと共に地下へと向かった。

エミリアが凛から聞いた通りの人物であれば…そう予測を立てた慎二はガロニアの誘導に従いある一室へと辿り着く。

 

「…ここだね」

 

ドアの左右へ素早く移動し、メドゥーサがドアノブへと手をかける。2人はゆっくり頷いた直後、メドゥーサは一気に扉を開放し、慎二はトリガーマグナムを構え室内へと踏み込んだ。誘導灯の頼りない緑と白の明かりしか灯らない室内にいたのは…・

 

 

 

「ん、んっ!?んーッ!?」

 

 

冷たい床に転がされた複数の若い女性たちだ。エミリアの足取りを追う中、新聞の地方版へここ数日の間に女子大生が頻繁に行方不明という記事を見掛けていたが、この街に来てエミリアが大人しくしているはずがないという慎二の勘は当たっていたようである。

 

手足をロープで拘束され、口には猿ぐつわでまともに話せないようにしてまである。おそらく長時間この暗闇でエミリアやクライシスに脅されていたのだろう。慎二を見た瞬間、彼女たちは助けが現れたという安堵はなく、むしろ慎二を見て怯えている様子だ。都市伝説で英雄扱いされている存在だとしても異形の姿には変わりない。精神的に不安定となっている彼女たちから見れば敵も仮面ライダーも一緒なのかもしれない。

 

 

「メドゥーサ、悪いんだけど…」

 

「…招致しました」

 

 

まだ部屋の外で女性たちに姿を見られていないメドゥーサは慎二の言わんとする事を理解し、戦闘装束から普段着へと戻る。同じ人間の姿のメドゥーサなら、少しは安心するはずだ。

 

 

 

「ん?」

 

 

予想通りにメドゥーサの姿を見て安心した女性たちが開放されていく中、慎二は女性たちの視線に入らない位置に設置された手術台を思わせる物体と、並列された様々な道具が置かれた机へと近づく。手術台には手足、そして胴体と首をしっかりと固定させるベルトまであり、道具に関しては切断に必要な刃物や切り取った部位を腐らせず保存するための溶液が並んでいた。これが何を目的に準備されたものであるのか、もう考えたくもない。

幸いにも周囲に血が付着した様子がない事から犠牲者はまだでていない。しかし残しておく必要もないため、いっその事全て燃やしてやろうかとトリガーマグナムを手術台に向けた慎二の視界に、別のものが映った。目の前に広がる手術用の道具とは異なり、円の中に様々な文字が羅列された木製の板。

 

紛れもない魔法陣であり、その内容を分析しようとトリガーマグナムを一端左胸にマウントした慎二が片膝を付いて文字を解読しようとしたその刹那。

 

 

「なッ――!?」

 

 

魔法陣が突然閃光を放ち、爆発してしまった。

 

 

「シンジッ―!?」

 

 

閃光と爆発に悲鳴を上げる女性たちを庇うメドゥーサは爆発に巻き込まれた慎二の名を叫ぶ。もしや侵入者に対する罠が仕掛けてあったのかと爆発元へと駆けるメドゥーサだったが、彼女が抱いた不安は、煙の中から青い身体が現れた事で杞憂に終わる。

 

 

「シンジ、無事でしたか!」

 

「まぁね、ったく、びっくりしたよ」

 

「あの爆発は一体…」

 

「多分、魔術を使用した直後に魔法陣が自爆する術式が仕組まれてたんだろうね。後を追わせない為だろうけど、ほんと尊敬するぐらいに用意周到だよ」

 

「追わせない…?では、あの魔法陣は」

 

「ああ、転移用の術式が記されてたけど、妙なんよ」

 

 

慎二は振り返り、煙が晴れた後に残った黒墨となった木製の板へと視線を向ける。見れたのはほんの数秒程度ではあったが、内容に関して逃走に使う転位魔術に間違いはない。だが、どうしても慎二には納得できない術式だったのだ。

 

 

「転位する対象が、小さすぎる。あんなの、赤ん坊すら飛ばすことができないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はしばし遡る。

 

 

 

 

 

 

 

光太郎とランサーが放った宝具の攻撃によりエミリアとビャッ鬼は胸を貫かれ、エミリアは穿れた胸より噴き出した血液の海へと沈む。対象にビャッ鬼は吹き出す血液を掌で圧迫し、表情を歪めながらも片手にバナナの束を出現させる。ビャッ鬼が触れたバナナは瞬間的に絶対零度まで凍結し、人間を簡単に貫く凶器となるだけでなく、爆弾へも変わる。ならば、死期を悟ったビャッ鬼がやろうとする事はただ一つ。

 

 

(自爆する気か…!)

 

「私と共に死ねぇ!RXッ!!」

 

「…ここで、死ぬつもりはないッ!!!」

 

 

両腕を眼前で交差させた光太郎の身体が青く輝いた直後、溶けるように人型の輪郭を失い、液化するとビャッ鬼へ次々と体当たりをしかける。

 

 

「ぬっ、お、おのれぃッ!!」

 

 

バイオアタックによりビャッ鬼の手からバナナが抜け落ちたと確認した光太郎は液体から青い姿…バイオライダーへ変わったと同時にその手にバイオブレードを顕現。両手で構え、刀身でエネルギーを包むと気合一閃、逆袈裟切りを炸裂させる。

 

 

「トァッ!!」

 

「ぬ、うぐ…ガアアァァァァァッ!?」

 

 

光太郎が振り上げたバイオブレードを振り下ろし、踵を返した直後。断末魔を上げるビャッ鬼は爆発の中に消えたのであった。

 

 

「兄さん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫、ありがとう桜ちゃん」

 

 

チャップ達を殲滅させた仮面ライダーメイガス…桜が駆け寄る姿を見てRXからBLACKへと戻った光太郎は安心させるように優しい声を上げる。義兄が無理をした時の声ではないと胸を撫でおろす桜であったが、運藤スペースに響く声に、思わず顔を向けてしまった。

 

 

「はぁ、ははははは、アハハハハハ…」

 

「こいつ…」

 

 

異様な光景だった。

 

 

心臓を貫かれたエミリアは変貌を遂げた怪人を彷彿させる姿から人間に戻っている。本来なら、そのまま動かないはず。動いては、ならない生物のはずだ。

 

血液の水たまりの中でガクガクと腕を振るわせながら立ち上がろうとするが、血液に手を滑らせバシャリ、と音を立てて沈む。

 

それをもう、何度も繰り返している。

 

血の海の中を無我夢中に泳ぐという光景にも見えてしまい、見ているこちらの方が気が狂いそうだ。

 

 

「アハハハァハハハ…もう、この身体はダメ…でも、私は死なない。死なないの…完璧な、完璧な私を完成させるまではぁ」

 

 

顔の半分以上を血化粧で染めた姿に戦慄する光太郎と桜であったが、むしろエミリアの姿を見て冷静となるランサーは彼女の頭部に狙いを定め、槍を振り上げる。

 

 

 

「アハハ ハハ ハハハハハハハハ ハハハハハ ハハ ハハ…残念ねぇ…やるんだったらぁ、もう一思いにやるべきだったわねぇ」

 

 

エミリアは震える指先に魔力を込め、自らの米神へと押し付ける。まるで、ロシアンルーレットで拳銃を自ら打ち抜く姿のように。

 

 

「また、会いましょぉ―――」

 

 

指先が仄かに光を見せた直後、エミリアの頭部は本当に打ち抜かれたかのように仰け反り、血液の中へと沈む。もう起き上がる事はなかった。

 

 

 

「終わった…のか?」

 

 

最後は犯人による自殺という歯切れの悪い幕切れとなってしまったと変身を解除する光太郎とそれに続く桜。だが、槍を消失させたランサーは否定する。

 

 

まだ、終わっていないと。

 

 

 

 

 

 

「やろう、逃げやがったか…」

 

 

遺体の髪の毛を掴み強引に持ち上げたランサーはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミリア・シュミットは本来家に伝わる魔術に関心を向けず、転換の魔術を極めようと躍起になっていた。その結果、自身の身体へ別人の一部を移植し、理想とする自分を完成させるために多くの人間を犠牲にする殺人鬼と成り果てた。

 

そのような危険人物を魔術協会、そして聖堂教会が放置する事などあり得ない。その為、エミリアは自分の身に何かが起きた場合の策を何重にも講じていた。

 

その一つが自分が深手を負った場合に、生き延びる算段…すなわち、自分の脳髄と眼球をいかなる時でも転換できるよう加工し、条件が揃えば予備の肉体へ転位させる事を可能としていたのだ。

 

現にエミリアは一度この手を使い聖堂教会の代行者へ自分は死んだと思わせ、ゴルゴム・そしてクライシスへと身を潜めて逃げ延びていたのだ。

 

今回も同じ手を使い、どうにか生き延びたエミリアは眼と脳髄が予め準備していた肉体に馴染むまで身を潜めるつもりであった。

 

 

 

 

(この国はもう駄目ねぇ。どうやら目を付けられたようだし、あの仮面ライダーにも触らぬ神に祟りなしってやつぅ?)

 

 

 

心中で呟くエミリアに血が通った感覚が蘇る。どうやら転位には成功し、同じ日本ではあるが遠く離れた秘密基地…かつて暗黒結社ゴルゴムの補給基地だった場所を自身の工房として利用し、肉体といくつかの『部品』を保管していたのだ。

 

 

(まぁ、連中がここをかぎつける事なんてまず無理だしぃ。この近くでよさげな女の子を2、3人ゲットしたら中国辺りにでも―――)

 

 

あの国にはまだ手を付けていなかったとゆっくり眼を開くエミリア。

 

 

彼女が目にするのは捕まえ、分解した女性の部品が浮かぶ無数のホルマリン漬けの容器。手・足・耳・胸・皮膚…自分を歓迎するかのようにブラックライトで照らされる愛すべき自分への生贄。

 

 

 

 

 

 

 

そのはずなのに。

 

 

 

 

なぜ全ての容器が壊されているのか。

 

 

 

 

 

なぜ、自分の手足は鎖で固定化されているのか。

 

 

 

 

 

未だ視力が回復しただけで、未来を視るには至らないエミリアには今の状況がまるで理解できない。

 

 

なぜ、どうして、なぜ、どうして。グルグルと同じ疑問しか浮かばない中、彼女の疑問に答える人物が現れた。

 

 

 

 

 

「待っていたよ、エミリア・シュミット。彼が冬木で君を発見したという報告を受けてから、今までね」

 

 

薄暗い照明の中、こちらへと歩み寄るその姿は先ほどまで自分と戦っていた戦士と共通する部分が多い。

 

 

最大の違いは、口元が露出しており、人間…それも男性の口が確認できる点だろう。

 

 

 

 

「お前の経歴を調べている内に、ある事実が判明した。とある組織に協力を申し入れて、死んだ以前の肉体を調べさせてもらった結果…脳と眼球がすり替わっていた事が判明した」

 

 

そう、たしかあの時は辺に疑いを持たれぬよう転換させる際に自分の脳と眼と、予備の肉体に入れておいた他人の脳と眼を入れ替えるように術式を組んでいた。

 

 

「だから公式にはエミリア・シュミットは死んだと発表されたが、裏では捜索が続けられていた。そして…ようやくたどり着いた訳だ」

 

 

 

男はベルトにマウントされたカセットを左手に取り、右腕の肘へと装填。すると男の右腕は銃器へと姿を変えた。未だ全身の神経が脳へとつながり切っていないエミリアは眼を開けるだけで精一杯であり、焦る事も、止めてくれと叫ぶこともできない。

必死に弁明を繰り返したい一心ではあるが、この男には伝わらない。複眼の向こうに映るのは、ランサーと同じ自分への激しい怒りだ。だが、男は銃身を下げ、あっけなく踵を返して引き返してしまう。

 

 

 

 

「…彼以上とは言えないだろうが、私も同士を殺されたという怒りがある。直ぐにでも引き金を引きたいところだが…」

 

 

 

 

 

 

 

「ここは、協力者である『彼女』に任せるとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前を探していた時間は私や、ランス以上に費やしていたようだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の背中が小さくなっていく中、入れ替わりに現れたのは、彼の言う通りの女性だ。カソックを身に纏い、ベリーショートが似合うその女性は服装に不似合いである重火器を抱え、笑顔でエミリアの前へと現れる。

 

 

 

「ごきげんよう。お久しぶりですと言っても、貴方の命を狙った多くの人間の1人ですので、覚えている訳がありませんよね」

 

 

 

 

覚えている。エミリアが限界まで見開いた両目と僅かに震える唇がそれを物語っている。

 

 

 

「せっかくの手柄を譲って頂いたようで大変恐縮なんですけどね。私が貴方に抱いている恨みなんて、さほど大きいものではないんですよ」

 

 

彼女の顔から笑顔が消える。

 

 

 

「3年程前でしょうか。貴女が世間的に死んだとされた直前に、貴女は騙し討ちで1人の神父を殺しました。その方とは結構長い付き合いだったのですよ。若い頃は無理ばっかりして、ご老体になってからは引き取った多くの子供達の親代わりとなって」

 

 

「異能である私を戦力扱いではなく、人間として接して、会う度にカレーを御馳走してくれて…」

 

 

 

 

独白する中、女性が掲げた重火器の先端がエミリアの額へと当てられる。

 

 

 

 

「あとはいつ迎えに来ても後悔はない、なんて言っておきながら私のお尻をジロジロ見てくる破綻した神職者でしたが…」

 

 

 

 

 

 

「あんな、屈辱な殺され方をされるような人ではありませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

ああ…そう言えば、自分を追い詰めた神父の1人に、年老いた男性がいた気がする。

 

 

確か何番目か分からない顔に彼が放った黒鍵が掠ったから使い物にならなくなって、その辺を通りかかった若い女の子を殺し、顔を取り上げた。

 

 

そして次に男性が現れた時、妙に馴れ馴れしく話しかけてきたっけ。少し慌てながら黒鍵を収納して、今日は帰りが早いな、なんて言いながら。

 

 

こちらが疑うくらいに隙だらけだったんで、喉と心臓を何度も隠し持っていたナイフで刺してやったんだっけ。

 

 

 

後から知ったんだけど、緊急で取り上げた女は、その神父が以前に引き取って育てていた女らしい。

 

 

 

ああ、そういう事か。結局は、この人間も顔で判断して油断する奴なんだと思って、真っ二つにしたんだっけ。

 

 

協会のステンドガラスとかでよく見かける、神とそれに信仰する人間をなぞって、右半身と左半身を壁い貼り付けたんだっけ。

 

 

妙にテンションが上がってやったちゃったけど、今考えて見ればやり過ぎたかなぁ…

 

 

 

 

 

 

妙に冷静になるエミリアの額にようやく冷たい感覚があると感じた時、最期に、ようやく肉体に馴染んだ眼がエミリアに未来を見せた。

 

 

 

 

 

真っ暗だ。

 

 

 

 

 

ただ暗い、何処までも暗闇が続く空間が続くだけだった。

 

 

 

つまり、彼女の視る未来はもう何もないということなのだろう。

 

 

 

 

 

 

轟音と共に、エミリア・シュミットという人物の生は今確実に終結を迎えた。




という事で、なんと2度殺されたことでようやくエミリアちゃんを倒す事ができました。蘭さー兄貴と同様それ以上にお怒りな方々がいらっしゃったという落ちでございます。

お気軽に感想など頂ければ幸いです!

そして気が付けば次回で90話。そして連載してから約2年。時の流れェ…

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