では、第8話です!
クライシス帝国により怪魔界へと送り込まれてしまった間桐光太郎とメディアはワールドと名乗る老人に助けられる。
ワールドから聞かされた事実…かつて怪魔界は地球と同じく緑溢れる美しい惑星であったがクライシス皇帝の圧政によって進んだ環境破壊によって死の星となり、クライシスはそんな母星を捨て地球侵略に踏み出したことを知る。
卑劣なクライシス帝国に怒りを向ける中、光太郎へ戦いを挑む怪魔獣人ガイナギスカンが現れ、RXへと変身しようとした光太郎だったが、クライシス大隊長ボスガンの差し向けた別働隊によりRXの変身が遮られ、援護に現れたワールドは重症を負ってしまう。
だが、正々堂々とした戦いを望むガイナギスカンの助けにより光太郎はRXへと変身。メディアも急激に高まった魔力によって自分達を囲っていた敵を殲滅したと同時にワールドを治療することに成功した。
互いに傷を負った状態でありながらも一対一の戦いに決着を付けた光太郎とガイナギスカンだったが、更なる敵の援軍が現れる。援軍を目の前にして闘う覚悟を決めた光太郎だったがガイナギスカンはこの場を自分に任せ、光太郎へ逃げるように告げる。ガイナギスカンの正体に勘付いた光太郎は迷いながらもその言葉に従い離脱するしかなかった。
光太郎を父親であるワールドに託したガイナギスカンは重症である身体を圧して敵の大軍へと駆け出していく。
ワールドは合流した光太郎とメディアへあるデータの詰まったメモリと医療カプセルに眠る謎の青年を託し、転送装置を起動。
2人が元の世界へと戻すと怪魔界がかつての姿を取り戻すことを祈り、炎の中へ消えるのだった。
光太郎とメディアが地球へ戻った翌日。
とある喫茶店
『怪事件!?ゴーストタウンと化した商店街で起きた謎の破壊後。テロリストによる犯行か?』
――そんな見出しの新聞をサラリーマンが熱心に読む姿を見た月影信彦…の『同居人』であるアンリマユは信彦にしか聞こえない声でぶつくさを文句を放っていた。
「冬木の管理人の苦労は絶えぬようだな」
(んがぁッ!そこの親父捲るの早いんだよ!それにあんたももうチョイ視線を横によせろっての!ぜんっぜん記事が見えねぇじゃんっ!!)
「……………………」
(おいおい無視ですかぁ?あんまこっちの意見流しちゃうようならアンタが寝ている間にこの身体使ってまたナンパを頼むから熱いブラックの一気はやめて下さいって苦ッガアァァァァアァッ!?」
現在身体の主導権は信彦にあるものの、五感を共有しているため信彦の視覚で捉えた映像はそのままアンリマユの視覚となっており、味覚もまた然り。
だが好みまでは別のようであり、甘党であるアンリマユと辛い物を好む信彦では相性が非常に悪く食後のコーヒーかデザートかという事で精神世界ではとてつもなく下らない戦いが繰り広げられているが、普段主導権を握っている信彦の勝率が高く、余りにもしつこい時でない限りアンリマユの要求が通ることはまずない。
アンリマユが言った通りに信彦が眠りに付いている時はアンリマユが表となり夜な夜な遊びに出かけるようだ。
だが、アンリマユの暴挙を許す信彦ではない。
ある程度…ゲームセンターに入り浸るくらいなら許容しているが女性を連れて繁華街へ向かおうとした時は意識を覚醒させ、どうにか足だけを支配するとブロック塀へつま先を思い切り叩き付けてアンリマユが悶絶している間に身体の所有権を奪うなどして他人と深い関係を持つ事を阻んでいる。
このように力関係だけはっきりとしているのに関わらずアンリマユの軽口は止まることなく、信彦は制裁を続けているのだった。
(あ~そういや…)
性懲りもなくまた軽口を言うようであれば再びコーヒーを口にしようとする信彦だったがアンリマユの声色がふざけたものではなく、懐かしむような静かな声に口の前まで持ち上げたカップを止める。
(あん時も、こんな風に朝飯にありついてた時だっけか…)
「そうだったな」
カップを皿に置いた信彦は窓から差し込む日の光を見上げながらそう同意した。
それは1人の少年との出会いから始まった話。
「………連続殺人事件。これで3件目、か」
喫茶店で注文したモーニングセットを待つ傍ら店に備えてあった新聞紙を広げる信彦はある記事へと注目する。そこには女性の変死体が通行人によって発見されたという内容だ。
(うへぇ…しかも首の骨も折られてるじゃん。悪趣味だなオイ)
「……………」
アンリマユと同じ感想を抱いたことが癪に障ったのか、信彦は新聞を畳んだと同じタイミングで給仕されたセットを無言で食べ始める。頭の中でコーヒーには砂糖5杯!というリクエストも上げられたが信彦は無視してブラックのまま飲み始めた。
悶絶する同居人の悲鳴を聞きながら信彦は新聞記事にあった事件…この町で連続して起こっている変死事件にはある共通点へと目を止める。
死体から多量の血が喪失しているということ。
一部の報道では現代の吸血鬼による仕業と煽られているが、信彦から見れば笑えない冗談でもある。
ゴルゴムだけでなく、かつて世界征服を企んだ組織によって生み出された怪人の中には人間の生血を摂取する個体も確かにいる。
そして、怪人以外にも血を求める者…それをこうもはっきりと文章へ載せているのに人間達は気付こうともしない存在。
もし、この殺人事件が怪人や『そいつら』が関係することならば…
(おんや?随分と興味深々みたいじゃん。もしかして、ご親友と同じくなんとかしてみようってとこかい?)
こちらの出方をまっているのか、挑発的な言い方をするアンリマユを黙らせようとカップを手に取るが、既に空であったことに気付いた信彦は一度溜息をつき、仕方なく質問へと答える。
「もし犯人の正体が『死徒』だったのなら、間違いなく『教会』が動く。この場へと現れたら厄介だ」
(あ~前も行った先にたまたまそんな奴がいた時に目ぇつけられたもんね。お前がいるから現れた、みたいな?)
「…………………」
『死徒』…この世界に存在する吸血鬼の呼称の一つであり、多くの人間が知らないだけで珍しくのない異端だ。多くの伝承にある通りに人から血を吸い、吸われた者は同じく吸血鬼と化す。
『死徒以外の吸血鬼』に関しては現れることは無いと踏んだ信彦は犯人の対象から除外し、『聖堂教会』が現れる前に死徒を排除する方針を取る。
過去に数度、旅先で聖堂教会だけでなく魔術協会からもいらぬ疑いを懸けられひと悶着あったため、後手に回ることを避ける為の方針だがアンリマユは反対の意思を示さない。普段ならば『めんどくせ~』など愚痴を言い零しながらも従っていたが今回に至っては信彦の言うことにただ『へぇ』と声を漏らすだけだった。
「…まずはこの周辺を見回る」
(朝っぱらから行動的なこって…でも相手が徘徊するのって夜でないかい?)
「今のうちに地理を頭に入れておく。夜中でも視界は問題ないが日中の方が理解が届く」
(なるほどねぇ。なら、俺は休ませてもらうわ。はぁ~、二度寝最高…)
「…好きにしろ」
何かの気まぐれだろう。その時は、信彦はそんなことを考えていた。
駅付近の喫茶店から歩くこと十数分。賑わいを見せる駅周辺から住宅街へと進んでいくと、段々とすれ違う人間が少なくなり数分に1人を見かける程度となり、細かな通り道なども複数発見する。
その場所を手に持つタブレットへ入力した周辺の地図と現在地を照らし合わせ、犯人が逃走に使うであろう道を暗記していきながらもふと考えてしまった。
こうして覚えたとしても、事件の解決後にはすぐに町を立たなければならない。必要な事とはいえ、記憶した道も風景も町を離れれば意味を失うことになる。
(何を馬鹿なことを)
下らないと信彦は一蹴する。
もとより終わりのない旅の道中で立ち寄っただけのことだ。そもそも意味を考えたこと自体がどうかしている。終わりのない旅の中でいずれ朽ち果てる。既に世紀王…そして創世王の存在を必要としない世界で生きる自分にとってはそのような最期が相応しい。
『奴』のように、帰りを待つ者がいない自分には…
そんな自問自答に陥っていたからであろうか。電柱に寄り添い、苦しげに深呼吸を繰り返している少年の気配に全く気付くことなく接近してしまったのは。
「…………………………」
もう2メートルもない距離まで近づいてしまった信彦は自分を殴りたくなる衝動を抑えながらどう距離を置いて離れようかと思案する。旅の中で他人と関わる事は一切してこなかった信彦に取っては最早手慣れた事だったはずだ。
しかし、ついには自力で立つことすら出来なくなったのか、少年は前のめりにアスファルトへ向けて倒れそうになり―――
「…え?」
「…………………」
少年は思わず驚きで声を上げた。寸でのところで信彦は少年の腕を掴み、倒れる事を免れた少年へ目を向けることなく声を掛けた。
「往来で倒れるとは、お前は他人に蹴り飛ばされたいのか?」
「………ッ!?」
アンリマユに向けるような乱暴な言い回し。特に何かを意図して放った言葉ではなかったが、少年が思わず顔を上げてしまう。
その少年は自分を助けてくれた人物が男性であり、全くの別人だと理解している。しかし、助けてくれた信彦の発言が、余りにも自分の知る人物の言葉と近しい言葉だったことに反応してしまった。
「先、生…?」
「…………?」
自分をなぜか「先生」と呼んだ見上げた少年…中性的な顔立ちに眼鏡をかけているが、信彦は違和感を覚える。見た所、少年は弱っていることもあるが大人しく、他人に害を加えるようには見えない。だが、その根本には『別の何か』がある…
いつまでも目を離そうとしない信彦に少年はなんとか足に力を入れて立ち上がると遠慮しがちに尋ねる。
「あ、あの…もう大丈夫ですから」
「む、そうか」
言われてようやく手を離した信彦だが、少年が再びガクリと膝を降りアスファルトへ手をつく姿を見ると溜息を付き、手を差し伸べる。
「住所を言え…送ってやる」
「あ、ありがとうございます…」
それが彼…『遠野志貫』との出会いだ。
それから1週間の間。朝、昼、夜…所構わず信彦は少年と遭遇することになる。初対面時のように体調を崩した所を見つけては世話になっているという親戚の家まで送り、学校帰りや友人の家へ入り浸っている所も発見。もはや偶然とは思えぬ程のエンカウント率である。
互いの名を教え合う関係になるまでには、そう時間はかからなかった。
「じゃあ、月影さんはずっと旅を続けているんですか?」
「そんなところだ。用事が済めばこの町からも離れる」
信彦がよく利用する喫茶店のテーブル席で注文した飲み物が届くまでの時間まで、そんな会話を交わしていた。何度か助けてもらったお礼も兼ねて志貴が御馳走させて欲しいという主張に信彦は断る理由がないため了承。
思えば、誰かと言葉を交わすのは旅を開始してから…さらにここまで長く同じ人間と接したの初めてかもしれない。
信彦の言ったことに寂しくなりますねと寂しげな笑顔を浮かべる志貫に、信彦の中にいるアンリマユがふざけた様子もなく信彦へと警告を告げる。
(おい…わかってんだろうが、あんま関わってると碌な目に合わないぜ。こいつは…)
「…わかっている」
「え?どうかしました?」
「気にするな。1人言だ」
「はぁ…」
首を傾げる志貫に断りを入れてから信彦は煙草へ火を着ける。
アンリマユの言うことは忠告ではなく警告。そして言われた信彦も警戒した上での会合だ。少年…遠野志貫と関わるうちに、信彦は当初彼に感じていた違和感の正体に段々と気付き始めている。
きっかけは彼の持病である慢性的な貧血のために学校を早退した所に出くわし、肩を貸して家まで送った時だ。
彼の眼鏡がずれ、裸眼を…瞳を見た瞬間。
信彦は志貫に殺されると思ってしまった。
なぜ、そう考えてしまったのかは定かではない。しかし、ただの人間に過ぎない志貫に改造人間である信彦が目を見ただけで自分が殺されると考えてしまうなど本来ありえない。
だが、その疑念は今も晴れるなく志貫へと接している。
彼の正体を見極める為でもあるが、それ以上に彼が纏っているもの…普通の少年に過ぎない志貫からなぜ『死』を内包していると感じてしまうのか。なぜ、そのような状態で少年は笑って過ごしているのか。
信彦には、理解できない。
だからこそ知りたいのだろうか。ただ歩き続けながら死を待つ自分と笑いながら死と向き合い続ける少年。
一体、どのような違いあるというのかと…
そして数日後、彼が生まれた家へと戻ることになった日。それは信彦は志貫が迎える血塗られた運命と、彼が持つ「本当の死」の意味を知る戦いが始まる日となった。
「あれも、1ヶ月も前のことか」
信彦は煙草を灰皿へと押し付け火を消すと腕時計を見る。
「時間か…」
(え~ちょいと遅れていこうぜ~どうせ2人は先に着いてるだろうしよ)
「なら猶更遅れるわけにはいかんだろう」
(ばっかそうじゃなくて空気読めって言ってんだよ!少しでもイチャつく時間作ってやろうって老婆心だろうが)
「なんの話をしているかわからんが、とっとと行くぞ」
(あ~あ。ライダーの天馬に蹴られないかねこのお方)
アンリマユの進言を聞かないまま信彦は上着を取り、会計を済ませると待ち合わせの場所へと向かう。
志貫の持つ力と考えを知ることは出来たが、やはりまだ理解はできない。彼が…いや、彼等が互いに思う感情も信彦はまだ分かってはいない。
彼等と行動を共にする理由の一つは、それを理解するためのなのかもしれない。
てな感じで、ふとしたきっかけで過去を思い出すという形で彼らの物語を進めていく方針で行こうと思います…今のところは(汗)
そして信彦さん、教会の方々に絡まれた際はその場から一歩も動かすに心を折るような事をしているのでかなり敵視されていたり…
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