Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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ご無沙汰でございます。

連休ってなんだっけ…って以前使いましたよね(汗)

まぁ、そんな感じな日々が続いておりました。


では、88話です!


第88話

「自らの欲望の為に多くの人々から命と身体を奪ったことを、俺達は断じて許さんッ!!」

 

 

蘇った間桐光太郎が変身した仮面ライダーBLACKはマリバロンの背後に身を潜めていた魔術師エミリアシュミットへ向かって指を差し、力強く断言した。

 

自身をより理想のである姿へと昇華させるために女性の肉体の一部を奪い続け、さらにはランサーに仲間達を殺させるよう仕向けた嗜虐性に怒ると同時に、これ以上の犠牲を出さないための決意でもある。隣に立つランサーの過去を大聖杯の残滓を通し、垣間見た事を不本意ではあったが、『彼等』を救えなかった無念は同じ。

ならば今光太郎に出来ることは、ランサーと共にエミリアを止め、彼女に加担するクライシスを倒す事だ。

 

 

「あんま気張んなよ、黒い兄ちゃん…」

 

「あいてッ」

 

「状況は不利って事は変わりねえんだ。それに、全力を出せる状態でもないだろうが」

 

「それを言うならランサーだって…」

 

 

突然後頭部をこずいたランサーの指摘にひび割れ、血がにじみ出る胸部を手で押さえた光太郎は背中からビャッ鬼の投擲された冷凍バナナにより負傷を受けた痛々しい傷を見る。どうやら自分が立ち上がった時を同じく、所持していた消毒液やガーゼ、包帯を使い器用にも自身で応急処置を施したようだ。

 

 

「んなもんかすり傷だっての。こちとらはみ出た贓物を腹にしまって戦った時よりか何倍もマシだぜ」

 

「うわぁ、神話通りだったのかあれ…」

 

 

などと軽口を言い合える程に余裕を見せる光太郎とランサーの姿を見るマリバロンの表情に焦りが浮かぶ。仮面ライダーBLACKの復活は予感してななかった訳ではないが、早すぎる。これまでの戦闘時にBLACKの状態で治癒能力を分析しても、半日以上はかかる計算であった。敵の能力がデータを越える計算で向上しているのか、それとも仲間であるサーヴァントとの危機を察知し、能力が爆発的に高まったのか…

いずれにせよ、この場は引くしかあるまい。万策を立て、太陽の光を浴びせぬよう隔離した空間へと移送したとはいえ、間桐光太郎という人物を侮るわけにはいかない。

 

撤退しようと敵を睨んだまま一歩さがるマリバロンの耳に、ブツブツを呟く低い声が届いた。

 

 

「…?」

 

ふと隣に顔を向けるマリバロンの視線に映るのは、先ほど光太郎の復活を予見したエミリア・シュミットが首をダラリと下げ、頭を痙攣させながら繰り返し同じ言葉を呟いている。特別な力を所持し、クライシスに寝返った地球人であるエミリアを使い捨ての道具程度にしか見ていなかったマリバロンに悪寒が走った。痙攣は徐々に細かく、身体と頭が別々の生物と思わせるような動きを見せる。

 

 

 

 

 

「ワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイワタシノミライハゼッタイ」

 

 

頭部の振動がやがて体全体を駆け巡り、カタカタとハイヒールの踵が運動スペースの床面を打ち鳴らす姿に敵であるはずのチャップ達も思わず身じろぎ、敵の様子がおかしいと軽口をたたきあっていた光太郎達すらエミリアの姿に面食らう程だ。

 

 

 

 

「おい…一体どうしたのいうのだ!?」

 

 

 

敵どころか味方の士気すら下げるエミリアの奇行を止めようと彼女の肩をマリバロンが乱暴に掴むと、ピタリとその動きが止まる。ビデオの一時停止されたように、なんの予備動作もなしに、止まってしまったのだ。

 

 

まるで嵐のような静けさを感じさせる静寂。そして、それは唐突に破られた。

 

 

 

 

「アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 

肩を掴むマリバロンを弾き飛ばす程の勢いで広げた両腕で天を仰ぎ、限界まで見開かれた目で天井を見上げるエミリアの笑いが木霊する。どこの誰のものだったか分からない少女の顔は醜く歪み、口元は本来の倍以上の大きく広がっていると思わせる程に吊り上げ、絶えることなく甲高い声を発し続けていた。

 

真上を見つめたままだった顔をゆっくりと下げ、光太郎達へと向けられた瞳は、やはり濁ったままである。

 

 

 

「そぉよ…私の未来視は絶対…何も外れてなんていないのよぉ…」

 

「何を言っている。現実にこうしてRXは生きて…」

 

「あれはぁッ!?間桐光太郎がアンタの攻撃で倒れてた姿をはっきり見ただけぇ…生死の判別なんてわかるわけないでしょうぉ!?!?」

 

 

 

ビャッ鬼の指摘に絹のように輝く金髪をかき乱して声を荒げるエミリア。その迫力に思わず閉口するビャッ鬼を視界から外したエミリアは頭部を傾けたまま、再び光太郎達へと瞳を向ける。

 

 

「そうよぉ…さっきだって仮面ライダーが棺桶から飛び出す姿をこの眼でしかと視たわぁ…そぉよ、私の未来には何一つ淀みがない、完璧な未来なのぉッ!!」

 

 

 

ガラスを金属で引っ?いたと同じ、それ以上と思われる不快な声を轟かせるエミリアの発言は、全て自身の行程させるもの。

 

 

確かに彼女の視た光太郎はキングストーンによる仮死状態に過ぎなかったのだろう。だが、彼女は自身が見た光景を光太郎の死と断定してしまっていた。これまで見た未来を100パーセント当ててきた彼女にとっては、初めて間違いを口にしてしまった事になる。

 

現実には『光太郎がビャッ鬼の攻撃を受けて倒れた姿』という未来を見たことは間違いない未来だった。しかしエミリアは光太郎が死んだと口にしてしまった。そう思い込んでしまった。

 

 

現在に至るまで自分の視た未来を口にしてきたエミリアにとって生まれて初めて異なる結果を放ったと同時に、初めて言い訳してしまったのだ。

 

 

耐えがたい恥辱を味わったと身勝手な敵意、殺意の矛先はやはり自分の未来視を弄んだ間桐光太郎だ。

 

 

「間桐光太郎ぉ…殺して上げるわぁ…私自身の手で、貴方の死という未来を導いて上げるわぁッ!!」

 

 

エミリアが何処からともなく取り出したのは、毒々しい紫色の液体が詰まった容器。それを迷うことなく首筋当てるとスイッチを押し込み、液体がエミリアの体内へ一気に注入される。

 

 

「お、愚か者ッ!それは試作品の肉体改造酵素…ッ!それを使えば元の肉体には…!」

 

「アハハハハハハ!!!簡単よぉ、そしたらまた集めればいいわぁッ!私に相応しい顔、私に相応しい肌、私に相応しい髪…この世界には、私を美しくする素材で満ち溢れているんだからぁッ!!」

 

 

 

マリバロンの制止にも耳を貸さずに液体を身体へ取り入れたエミリアの肉体は、人間で無くなった。

 

多くの人間から奪った借り物の皮膚は焼け落ち、トカゲの鱗と似た浅黒い肢体が現れ、足はネコ科生物のように細く、強靭な脚力を持つものへと変貌。

 

指先から伸びた爪は一刺しで人間の肉体を貫通する鋭さを持つ刃となり、エミリアの最近お気に入りであった顔はゴキゴキと音を立てて変形し、鈍く光る八重歯が生える。

 

 

残ったものは、金髪の髪と、相も変わらず濁った輝きを放ち、彼女が生まれてから唯一持ち続けている両目だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あは、アハハハハハハハハッ!!!さぁ楽しみましょぉ、殺し合いましょぉッ!?あなたもいいわよねぇッ!?」

 

 

 

完全に人間としての姿を捨て去ったエミリアは爪同士をキチキチと摩擦させ、変異する自分から遠ざかっていたビャッ鬼へ同意するよう睨みつける。もはや脅迫にも近い眼力を飛ばすエミリアの迫力に押されながらも、背後にいるマリバロンへと目を向ける。いくらか逡巡を見せるマリバロンだったが、無言で首を縦に振る。ここで頷かなければ、化け物(エミリア)は自分達にも牙を向く可能性すらある。

 

もう、自身が視る結果以外に興味を示さない彼女は、止まらないだろう。光太郎の死という未来を形にしなければ。

 

 

 

(利用価値があると思い拾ったが、もう手が着けれられん。やはり地球人とは、奴隷以外に使い道はない…)

 

 

 

狂い笑いを続け、地を蹴り光太郎達へと接近するエミリアの姿を見たマリバロンは光太郎達に悟られぬよう、静かにその姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッハッハハハハハハハハハハハッ!!それそれどうしたのよぉ!?」

 

「くぅッ!?」

 

「こ、のぉッ!!」

 

 

 

一方的な戦いであった。

 

 

怪人と化したエミリアは俊足で自分の姿を追う光太郎とランサーを翻弄し、死角に回り込むと両手に生やした爪で刻み込む。振り返っても既に遅く、再び攻撃の間合いの外へと脱していた。

 

時折、挑発するために立ち止まり、腕をヒラヒラと振る姿を確認させたのちに再度姿を眩ます。あえて彼等の神経を逆なでするような戦法を取るが、2人はそんな挑発に感情を揺さぶられる余裕すらない。

 

 

彼女は確かに怪人へと成り果て、その力は増大しているだろう。数十年の間、聖堂教会と魔術協会から逃亡する中で身を護る為に体術も身に付けたに違いない。

 

だが、所詮はそれだけだ。かつて英雄として名を馳せたランサー…クーフーリンとゴルゴム、そしてクライシス帝国と戦い続ける間桐光太郎が決して敵わない相手ではない。

 

 

歴戦の猛者である二人が苦戦を強いられてしまっているのは、戦闘前に深手を負ってしまった以外にも、エミリアの能力にあった。

 

 

 

「…仮面ライダーは右に、そしてランサーは左斜め前に走るわぁッ!ぼさっとしてないで援護しなさぁいッ!!」

 

 

「――ちぃッ!」

 

 

舌打ちしながらもエミリアが示した箇所へと冷凍バナナを投擲するビャッ鬼。怪人の手から離れた凶器である黄色の果実は狂う事無く、光太郎とランサーが移動する地点へと突き刺さり、爆発を起こす。

 

身をひねって回避するが立て続けにエミリアの攻撃。

 

続けて未来視による光太郎とランサーの行動が読まれ、ビャッ鬼のバナナ、チャップ達の銃撃によって反撃が阻まれる。

 

 

ただスタミナが奪われ続ける2人の息はとうに乱れており、光太郎は胸板から、ランサーは背中から血を再び流し始めていた。

 

 

膝を付き、激しく肩を上下させる両者を見て攻撃を中断したエミリア怪人達は愉快愉快と何度目かになるか分からない高笑いを見せる。なぜ攻撃しないと怒鳴るビャッ鬼と口論を繰り広げる中、ランサーは隣で胸を押さえ、出血に耐える光太郎を見る。

 

 

 

(くそ…せめてコイツに回復させる時間さえかせげりゃ…)

 

 

ランサーは光太郎が太陽の光を浴びれば強化される事を知っている。しかしここは屋内であり本来陽の光を差すためのガラス戸が全て遮断されてしまった。ならば一度光太郎をこの空間から逃がす必要があるのだが、敵はそうはさせてくれない。

 

いや、自分以上に光太郎の変身を警戒している連中がそうも簡単に逃がしてくれるはすがない。

 

 

(こうなったら…やるしかねぇか)

 

 

意を決したランサーは懐からルーン文字が刻まれた釘を取り出し―――

 

 

 

光太郎に、制止された。

 

 

 

 

「…なんのつもりだ、兄ちゃん」

 

「こちらの台詞だ。それは本来、時限式爆弾のような役割を果たす術式って以前慎二君に聞いた事がある。そんなものを、今手にしてどうするつもりなんだ」

 

「……………………」

 

 

まさか見抜かれていたとは思わなかったランサーはそれならば話は早いと自身の考えを述べる。

 

 

「いいか。俺がコイツを掲げて迫ればエミリアの奴が警戒して連中は散開する。そうすればお前さんはその隙に…」

 

「そんな事をしたらランサーはどうなる?確かにピンを抜いた手榴弾を持った人が迫れば身の危険を感じて敵は遠ざかる…時間が過ぎて爆発したら…その術式の威力は、アレよりも上なんだろう?」

 

 

光太郎は未だかき消されていない炎…エミリアを倒す為に設置した炎の壁へと目を向けた。光太郎の言う通り、本来であれば時限爆弾代わりである術式を刻んだ釘。見た目とは反比例した威力で幾度となく作戦を成功させてきた。

 

しかし、これを手にしたまま爆発させるなど自殺行為以外にない。

 

自分を逃がす為にそんな危険な方法を取るなど、光太郎は認められなかった。

 

 

 

「いいんじゃなぁい?好きにさせてあげなさいよぉ。むしろこの人はそぉしたいんじゃないのお?」

 

 

 

二人の話に割って入ったエミリアは爪で自身を傷つけぬよう腕組し、もはや少女の面影が無い般若を連想させる顔で嘲笑する。

 

 

 

「だってその人ぉ。自分の采配ミスで随分と人を死なせたじゃなぁい?だからぁ、今回も戦いで誰かが死ぬのが嫌なんでしょぉ?誰かが自分のせいで死ぬくらいなら自分が…キャーッカッコイーッ!!」

 

 

 

身をクネクネを躍らせて1人恍惚に語り続けるエミリアの言葉に、釘を握るランサーの手が無意識に強まる。

 

 

 

 

 

(ああそうだ…あの時、俺は俺と、連中という2班に分けての行動を取った。何度も考えた。あの時、全員が揃って行動してりゃぁ、奴らは死なずに済んだ。俺の間違え一つで、連中は明日を迎えられなくなった)

 

 

 

ランサーが心中で独白する様子に勘付いたエミリアは畳みかける。未来視を使うまでもなく、この男の末路など変わらない。変わらないからこそ、止めが必要だ。

 

 

 

 

「そうよねぇそうよねぇ!きっと彼等も貴方を憎んでいるはずよぉ!だってだってぇ、貴方に命令さえされなければ、今頃だって――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ビリビリと、天井に設置された照明器具、壁に設置されたバスケットボールのネットが振動する程の絶叫が響き渡る。エミリアの言葉を無言で受け止めていたランサーも、心地よく述べていたエミリアも、どのタイミングで攻撃をしかけようかと機会を伺っていたビャッ鬼達すら呼吸を止めてしまう程の、咆哮。

 

 

 

膝を付いていたはずの光太郎が2つの足でしっかりと立ち上がっていた。呼吸は未だ落ち着かず、肩が上下する運動も止まらない。それでも、言わなければならない。隣で自分を見上げる男と、その仲間達を侮辱することだけは決して許せなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

「…確かに、ランサーが仲間達と一緒に居れば、結果は違っていたかもしれない。今となっては、確かめようがない。誰にも…分かる訳がない…」

 

 

 

 

ギリギリと拳を強く握る光太郎は真っ赤な複眼を茫然とするエミリアへと向け、

 

 

 

 

「だが、これだけは言えるッ!彼等はランサーを決して恨んでなんていないッ!!ランサーは仲間を信じていたからこそ別行動を任せ、仲間達はランサーを信じたから受け入れたッ!!誰1人、ランサーを恨むはずがないんだッ!!」

 

 

 

 

これは、ランサーの記憶を垣間見て、確信した事だ。

 

 

見たのは一瞬であり、光太郎が見たものが全てでないかも知れない。

 

 

それでもはっきりと言える。

 

 

ランサーと仲間達に、遺恨など何一つないと。

 

 

 

「なによ…赤の他人であるアンタなんかになんでそんな事がわかるのよ」

 

 

「わかるさ。俺は、お前と違って仲間を信じられるからだ」

 

 

「なん、ですって…?」

 

 

「何度でも言ってやる――――俺は、仲間を信じている」

 

 

 

 

 

 

「自分以外を認められない、思う事すらできない、憐れなお前と違ってなッ!!!」

 

 

 

「キアアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

立ち上がった光太郎を脅威と判断したのか、光太郎の言葉に我を忘れたのか。エミリアは絶叫と共に爪先を光太郎の喉目がけて突進する。

 

 

どんなに強がろうと立つ事がやっとの改造人間ごとき、自分の敵ではない。だからこれで終わりだ。これでもう雑音が耳に入ることは無い…

 

 

 

 

余談であるが、いくつかある未来視の中には、本人の意に介さず、強制的に未来を見せるものがある。

 

 

もし、エミリアの持つ未来視がそちらだった場合であれば、長年の末に自身の意思で未来視の切り替えなどできるようにならなければ、このような結果とならずにすんでいたかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと一歩踏み込めば光太郎の喉を貫く…その一瞬、エミリアの耳に思いもしない音声が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ドリル、プリィーズッ!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

エミリアと光太郎との中間地点。

 

 

床がメリメリと瞬く間に砕け、アスファルトの粉塵と共に飛び出したのは黄色い水晶のような仮面を纏った戦士。

 

 

 

だが、タイミングがあまりにも悪かった。

 

 

 

 

 

「な、何―――ぶべッ!?」

 

 

「兄さん、無事で―――きゃうッ!?」

 

 

 

 

 

 

地中から姿を現した仮面ライダーメイガス…間桐桜の勢い余った登場によって彼女の頭頂部は光太郎へと迫っていたエミリアの顎にクリーンヒット。

 

 

エミリアは放物線を描き後方へと吹き飛び、チャップというクッションへと落下する。

 

 

「い、痛い…」

 

「大丈夫、桜ちゃん?」

 

 

 

頭を押さえてしゃがむ桜の眼に、黒い掌が映る。見上げれば心配していたはずの義兄が心配そうに見下ろす姿を見て急ぎ手を掴んで立ち上がった桜は傷だらけでありながらも生きている光太郎とランサーの姿に安堵し、改めて周りを見る。

 

 

 

「兄さん、今外では見張りの敵と兄さん達が押さえてくれています。あとは、目の前にいる人達を倒すだけです!」

 

「そうか…ありがとう」

 

 

 

この上ない増援が現れてくれた。今この場に変身した桜が現れ、他の敵を慎二やメドゥーサ達が戦ってくれている。

 

そして、桜が必要以上に大きく穴を開けてくれたという事はくれたということは…

 

 

 

 

 

 

 

『そうです、私なのです』

 

 

 

「ロードセクターッ!」

 

 

 

『そろそろ皆様同じ描写は飽きてきた頃でしょう、巻きで参りますのでエネルギー照射シーンはカットカット』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、一体なんだっていうよぉ…」

 

 

「な、何という事だ…」

 

 

「なによビャッ鬼のおじさん。一体何が…」

 

 

 

 

顎への一撃が響いたのか、足元で気絶しているチャップ達を踏みつけて、ヨロヨロと立ち上がったエミリアは怖気着いた声を漏らすビャッ鬼の視線を追う。

 

 

資料でしか知らない、あの姿。

 

 

もし見かけたのであれば、即撤退せよと耳にタコが出来るほどに言われた存在。

 

 

 

仮面ライダーBLACK RX

 

 

 

太陽の光がない限り現れる事のないが、最近になって例外が発生した。

 

 

彼の背後に浮遊する、赤と白で彩られたバイクらしきマシン。

 

 

ロードセクターと呼ばれる特殊バイクによってBLACKはRXへと強化されるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜ちゃん、他の連中を頼む」

 

 

「わかりました!」

 

 

 

RXとなった光太郎の言葉に頷いた桜はメイガスソードボウを手に顕現させ、周囲のチャップへと跳びかかる。彼女1人に任せて問題ないだろう。

 

だからこそ、自分達がやるべき事は一つ。

 

 

 

 

 

「おいおい、怪我人に何させる気だぁ?」

 

「そんな事、微塵も考えてないだろ?」

 

「はん、本当に言うようになったじゃねぇか…さっきの絶叫、振るえたぜ?」

 

 

心の底から、震えあがった。

 

 

どんな経緯で光太郎が自分の過去を見たかは知らない。だが本来ならばエミリアの言うように自分の責任で仲間を死なせ、彼等も自分を恨んでいると認めてしまうところであった。

 

だが、光太郎は否定した。エミリアが突きつけた可能性を、別の可能性で叩き壊してくれた。

 

 

事実はどうなのか、今では分からない。実際には彼等は自分を恨んでいるのかもしれない。

 

 

だが、光太郎の言葉によって脳裏に浮かぶ彼等の姿は最期の、無残な姿ではなくなった。

 

 

 

共に戦場を駆け抜け、生き残った事を喜び合う、当たり前となりつつあったあの日常。

 

 

あの日の中に、彼等はいる。

 

 

 

今は、それだけで十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

その時、僅かながらも力が湧く。魔力が強まる。徐々に、失ったあの力が戻るような感覚が全身に駆け巡っていく。

 

 

 

「なんだ…?」

 

「どうやら、繋がったみたいだな」

 

「繋がった…?」

 

 

光太郎の放った言葉に首を傾げるランサーであったが、彼の複眼の奥にある輝きを見て、理解する。どうやら、彼は知っているようだ。

 

なら、任せて見ようじゃないか。

 

 

 

「なんだか分かんねぇが、お前さんが自信たっぷりに言うんだ。乗ってやるぜ」

 

 

 

 

 

 

「やれよ、光太郎!」

 

 

「あぁッ!」

 

 

 

 

 

 

 

同調開始(トレース・オン)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光太郎が叫んだと同時に、彼の身体に変化が始まる。

 

光太郎の赤い複眼とベルトの中央にある赤い2つの結晶が青へと染め上る。メドゥーサと力を共有させた時と同じように、ランサーを象徴する青いオーラへと包まれる。

 

 

 

 

ランサーに外見の変化はないものの、光太郎から流れるハイブリットエネルギーをその身に受け、魔力へと変換される。それは、聖杯戦争時とは比べものにならない魔力であった。

 

 

 

 

 

「ハッ、こいつはいい!身体のキレまで良くなってきやがった。行ける行ける!」

 

 

そう言って拳を掌に叩き付けたランサーの服装が軍服のズボンにタンクトップという装いから、聖杯戦争時に見せた青い戦闘装束へと変わる。

 

 

 

だが、それでも足りないものがあった。

 

 

 

「何かを忘れてないかしらぁ、貴方?」

 

 

 

目を向けた先に立つのは、怪人達のエミリアだ。そして自分達の後方では両手にバナナを構えたビャッ鬼がいつの間にか移動していたようだ。なにやら自信満々にこちらへと尋ねるエミリアの手には、長物が握られている。

 

 

先の戦闘で手放してしまった、ランサーの槍だ。どうやらランサーが光太郎と力を共有させている間に拾い上げたようだ。

 

 

「だめよねぇ、貴方にとっては大事な大事な槍なんでしょぉ?敵の心臓を必ず突き刺すって有名なものなんでしょぉ?こんな危険はものは…}

 

 

 

両手で槍の柄を握るエミリアはあらぬ方向へと槍を曲げる。ミシミシと音を立て、撓りながらも抵抗を見せていた紅い槍であったが、

 

 

 

 

「はい、パッキーンッ!」

 

 

 

 

 

擬音を口にするエミリアの手にあったのは、二つに分かれてしまった、ランサーの槍。

 

 

 

「ら、ランサーさんの槍が…!」

 

 

乾いた音と共に、無慈悲にも放り投げられたかつてランサーの相棒ともいうべき朱い槍。あの槍が、彼がどれ程頼りにしていか桜は知っている。

 

 

だからだろう。エミリアが急ぎ回収し、彼から戦闘能力を奪うと同時に、力を付けた彼の精神を少しでも削ろうとするために。

 

 

 

いくら魔力を共有させようと、英霊としての力を取り戻そうとも、十八番の戦法が使えないのでは、膨大な魔力も宝の持ち腐れというものだ。

 

 

 

「ざぁーんねぇーん!貴方の自慢の槍はもうこの世にありませぇんッ!精々悔しがり―――」

 

 

 

おかしい。たった今、この世界で彼の唯一無二であるはずの槍を叩き折り、戦う手段など小賢しいルーン魔術だけ。

 

 

 

だというのに。

 

なぜ、彼は笑っているのか。

 

 

 

 

 

 

「なぁおい―――」

 

 

 

「お前さん、一体『何を』折ったって?」

 

 

 

 

 

 

ランサーの手に魔力が凝縮、固定化されたことによって、それは顕現された。

 

 

 

形だけなら、先ほど折られた槍と全く同じ。

 

 

だが、担い手に握られたそれから発せられる禍々しき力には到底及ばない。

 

 

 

「…以前の時は自由自在に出せたんだがよ。人間なってから出すだけでも精一杯で、形にするだけでも5分と持たねぇ。そこで気を貸せてくれたお偉いさんが贋作を作ってくれた訳だ」

 

 

 

クルクルと頭上で回転させた槍で空気を切り、エミリアへと向ける。

 

 

 

 

「コイツが正真正銘の『ゲイボルグ』!その威力は…今から教えてやるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死棘の槍…躱せるもんなら、躱せてみな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

ランサーの挑発にエミリアが突き動かされたと同時に、ビャッ鬼は絶対零度まで凍結させた人の身程の大きさを誇るバナナを剣のように構え、光太郎へと突進する。

 

 

「RX、覚悟ぉッ!」

 

 

「覚悟するのは…お前の方だッ!」

 

 

 

青く輝くサンライザーへと翳した手の中に現れたのは、リボルケインではなかった。柄はリボルケインのそれよりも長く、そして刀身は短い。一気に引き抜いた光太郎が手にしたは、ランサーの魔力を受けてリボルケインが変形した槍…色こそ違えど、ランサーのゲイボルグと瓜二つであった。

 

 

 

 

 

 

 

背中合わせにそれぞれが相対する敵に向かい、光太郎とランサーは寸分の狂いなく、同じ動きを見せる。

 

 

腰を落とし、構えた槍の先には時間の経過と共に魔力が宿っていく。

 

 

 

 

 

 

(なにが躱せるものなら、ですってぇ!?私の未来視は絶対!!いくら宝具だからと言って、狙った軌道さえ見えればこっちのものッ!ワザとギリギリに避けて、呆けたその顔を―――)

 

 

 

エミリアがその両眼に魔力を通す。

 

 

これにより、エミリアは全てを見てきた。

 

 

自分を攻撃する者の動きも。

 

自分を陥れようとする罠も。

 

 

全てをその眼に見てきたのだ。

 

 

 

だからこそ、これから視る未来も絶対――――――――

 

 

 

 

 

 

「え」

 

 

 

 

 

 

彼女が見たのは、血の海に沈む自分の腕。

 

そして、海の向こうに見える丘で自分を、見下ろす青い男。

 

 

男が手にする槍の先端から滴り落ちるのは・・・血?

 

 

 

 

 

 

 

 

ありえない・・・

 

 

 

ありえない、ありえない

 

 

 

ありえない、ありえない、ありえない

 

 

 

 

 

この一瞬で5度見た。その5度とも、結果は同じなのだ。

 

 

 

なぜ、自分は死んでしまった未来しか見えないのだろうか?

 

 

 

自分が視たい未来は、こんなものではない。こんな結末を願っていない。

 

 

 

 

 

(どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その心臓――――」

 

 

 

「もらい受けるッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミリアの槍に関する知識は、間違っていた。

 

 

ランサーの持つ槍は確かに相手の心臓を穿つ。しかし、それは正確ではない。

 

 

 

 

 

槍の持つ魔力により因果が逆転され、『心臓に槍が命中した』という結果を作り『槍を放つ』という原因を作るのだ。

 

 

 

ただ、先を視ることしかできないエミリアに、この因果を崩す術はない。

 

 

故に、エミリアの視た未来は正しいものだ。

 

 

だからこそ…その眼で視た未来を彼女は否定できない。

 

 

 

否定する術を、知らない。

 

 

 

 

彼女は、そうやってしか生きてこなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刺し穿つ(ゲイ)―――」

 

 

 

 

 

 

(なんで…)

 

 

 

 

 

死棘の槍(ボルグ)ッ!!』

 

 

 

(なんで…)

 

 

 

それぞれ紅い軌道と蒼い軌道で放たれた槍は…

 

 

 

 

 

 

(なんで…未来は…外れないの?)

 

 

 

 

 

 

 

エミリアとビャッ鬼の心臓を、確実に貫いた。




次回で取りあえず一括り。


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