Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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なんだか色々とあって予定の半分も書けず…これから仕事に行ってくるぜ!

的な81話となります…

当面まともな休みが…取れるといいなぁ…


第81話

エミリア・シュミット

 

 

 

その名を遠坂凛が聞いたのは今から数年前。まだ中学生になり立ての凛が自分の後見人であり、兄弟子である神父から八極拳の指導を受けていた時だ。

 

 

 

聖堂教会の『お使い』を終え、帰国した神父は自分の不在中に怠けていなかったか確かめてやろうと、ややハードな修練を終えた凛が教会の中庭でゼェゼェと息を切らせる中、彼女とは逆に息一つ乱す様子のない神父のニヤケ面が気に食わずついボソリとこの麻婆神父…と小声が聞こえてしまったのだろう。

まだ軽口が叩ける元気があるうちは動けるだろう?と第2ラウンド予告と共に構えを見た凛は急ぎ話題をすり替える為、今回の外出について聞くことにした。

 

 

 

 

「こ、今回は随分と長かったのね」

 

「なんだ、心細かったとでも言うつもりかね?」

 

「天地がひっくり返ったってそんな事ありえないわ。いつもだったら2、3日でお勤めを終えてくるアンタにしては随分と長かったなと思っただけ」

 

「確かに、君の言う通り長く滞在しただろう。だが、生憎私への依頼は神父不在となった教会の管理を一時的に任されていたに過ぎない。その教会を任されていた本来の神父が遺体となってしまっては、放ってはおけまい」

 

 

話題を逸らす事には成功したが、それは決して穏やかな代理業務とは程遠い、血生臭い展開であった。凛の目つきが変わった様子に、先ほどは違った微笑みを見せる神父はカソックを纏うと、教会の中へ凛を誘うように扉を開いた。

 

 

「君もいずれは倫敦の時計塔を目指すというのであれば、知って損はない話だろう。なに、『悪い例』とはどこにでも転がっている話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛の兄弟子…言峰綺礼がとある国に呼ばれたのは、聖堂教会に属する教会で一時的に代理業務を行うという、至極簡単な依頼であった。訪れる信仰者たちのためにミサを開き、自身の罪を嘆き、神へ許しを乞う者を導くという神父本来の務めを果たしていた。

 

だがそれは、彼の『本来受け持つ仕事』が既に解決してしまった為であった。

 

 

 

 

 

 

「つまり…『代行者』として向かったつもりが、着いた時には既に事が解決していたわけか」

 

「そういうことになる。そして天に召された神父の代わりを手配する期間、私が代行を務めていたという事だ」

 

「…アンタが呼ばれる事はそうとうまずい相手だったの?」

 

「私の実力を買ってくれるとはありがたいが、特段手強い相手であったのではない。相手の方が上手であっただけの話だ」

 

「その、相手というのが…」

 

「魔術師エミリア・シュミット。外見の年齢だけで言えば、同年代に当たるだろう」

 

「外見…?」

 

 

 

場所を礼拝堂へと移した凛は綺礼の言葉に眉をひそめる。魔術により肉体の成長を遅らせるなどという話は良く聞くが、そんな事は人それぞれであり、魔術師も然りだ。その魔術師である女性が自らの意思で自身を若く見せようとするならば、こちらが指摘する権利が…それ以上にとやかく言う筋合いもない。しかし、綺礼がわざわざ口に出すという事は何か裏があるのかと推測する凛へ、神父は写真付きの書類を突き出した。

 

 

「ちょっと…こういうのって誰かに見せたらまずいんじゃないの?」

 

「既に事の済んだ案件だ。君がこの資料の内容を誰かまわずに吹聴するというのならば、話は別だが?」

 

 

 

 

魔術師ならば最低限の常識である秘匿をなんだと思っているんだと嫌な笑いを浮かべる綺礼の手から資料を乱暴に抜き取った凛が最初の注目したのは、件の魔術師エミリア・シュミットの顔写真だ。

 

絹のようにきめ細かく、美しい金髪に整った顔立ち。十分に美人だと言える条件を揃っているのだが、そんな印象を消してしまう程に彼女の目はこちらを萎縮させるものだった。

 

見た者を飲み込んでしまうと思わせるその目は何処までも暗く、濁った光を見せるエミリアの目は写真に写っているだけでも身を竦ませる。さらに写真の中の彼女は笑っている。しかし、決して柔和な表情ではなく、狙っていた獲物を見つけて狂喜き、追い詰めていく悪魔を連想させる、悍ましい表情。

 

背筋に冷たいものが走った凛は写真に移るエミリアと視線を合わせぬよう書類へ目を走らせるが、読み進めていくうちに、彼女が孕んでいた異常が次々と浮き彫りとなっていく。

 

 

 

魔術師の家系で4代目に当たるエミリアは特別抜きんでる才能を持ち合わせている訳ではなかった。その代わり、彼女の家系にある魔術系統とは別である『転換』の魔術を貪るように学び、当主である父親との間に確執が深まっていったが、それはあっけなく終わりを告げる。

 

 

エミリアは父親を殺害した上に魔術刻印を自身ではなく、あろう事か家畜の体内へと『転位』させて姿を消したのだ。

 

 

当確を現さなかったものの、代を重ね、次代へと託すべく魔術刻印を、魔術師としての家系を捨てたエミリアが次に起こしたのは、連続殺人。それも、自分と同じ年代の少女のみを狙っての犯行だった。

 

 

 

 

 

「…………………」

 

「ちなみにだ。その写真に写っているのはエミリア・シュミット本来の顔ではない」

 

「ほんらい、の…」

 

「言っただろう?外見は君と同じ年頃だと。だが、最初に彼女が殺人を犯してから、数十年が経過している」

 

「…!」

 

「はたして、その顔の持ち主は『何人目』であったのだろうな」

 

綺礼の言葉を聞いた凛は資料の頭から再度読み直した。

 

見落としていたがエミリア・シュミットが誕生したのは、今から50年以上前。父親から始まった殺人は最初こそ当時は大事件ではあったが、年が経つにつれてその動向は世間では目に止まらいもの。事故や神隠しを隠れ蓑にした誘拐へと手法が変わっていく。

 

そして綺礼の言った『何人目』という言葉の意味。

 

 

さらに読み進めて、彼女が行った数々の殺人の原因を理解してしまった凛は、資料を思わず握り潰したい衝動に駆られてしまった。

 

 

 

「つまりこのエミリアは…自分の理想の姿を作り出すためだけに…無関係の人間から『部品』を奪う為だけに、殺し続けたって事?」

 

 

自身の言った言葉に吐き気すら覚える凛へ綺礼は答えない。つまり、肯定という事だ。

 

 

何をきっかけにエミリアが凶行に走ったかは定かではない。

 

 

他人の肉体を自身に移植する際に必ず拒絶反応が起こる。そこでエミリアは転換の魔術を応用した。例えば、手首を移植する際に異なる神経や細胞組織を無理なく接続できるよう『最初から馴染むもの』として接続部分を転換すれば、拒絶反応はおこらず、最初から自身の肉体であったかのように馴染ませることができる。

 

 

本来ならば魔力、霊魂、精神といったものを別のモノに移して定着させる魔術をエミリアは別人の肉体を自分の肉体を移植し、本来の身体であるように扱えるよう自分自身を転換してしまったのだ。

 

 

そして自分が理想とする顔を手に入れえる為に殺した。気に入った指輪が似合う指を手に入れる為に殺した。陽の光に当てられて白く輝くような肌を手に入れる為に殺した。

 

 

魔術師にとって最高最後の目的であるはずの『根源』に辿り着くという指針すら外れて、彼女は殺し続けた。

 

 

 

無論、自身の魔術の秘匿すらせず殺人を繰り返す彼女を魔術協会は認めるはずがない。いずれ時計塔へと進むべく父親が便宜を図らせえていたが全てを白紙に戻し、シュミット家を完全に除籍した上でエミリアの処分を決定した。

 

しかし、次々を顔を変える彼女の足取りを追うのは難航する。

 

それもエミリアが魔術師の追手から逃れる為ではなく、単により自分を美しく見せる為だけに殺人を犯し、その遺体すら予備の部品として保管し続けていたからだ。世間では行方不明となっても遺体が見つからず、手がかりを見つけるところから始めなければならない。

 

こうしたイタチごっこが数十年繰り返される中、エミリアの足取りがあっさりと掴めたのは、他でもない聖堂教会からの伝達であった。

 

 

 

エミリア・シュミットが死徒と手を組んだのだと。

 

 

肉体を常に瑞々しい姿で保つ事ができても、寿命までは保てない。美しくあり続ける為に老いゆくのではないかと考えたエミリアは永遠の命を手に入れる為、そして肉体を最高の状態で保つ為に吸血鬼となることを選択した。

 

 

死徒と手を結び、あまつさえ死徒になろうとする者を生かしておく理由はないという聖堂教会の伝達に魔術協会は冷戦状態にある教会へ借りを作ってしまうという不名誉に耐えながらも、エミリアを死徒と同列と考えて処分するよう依頼。

 

 

そしてエミリアは吸血鬼となる事無く、聖堂教会の実働隊、代行者たちによって殺されたのであった。

 

 

 

 

「死徒と魔術師が手を組んだ…だけにしてはアンタを呼ぶなんて、現地の人達は余程人手不足だったってこと?」

 

「それもあるが、単に数があちらの方が上だったに過ぎない。幸運にもエミリア・シュミットは自分の『予備』を大量に抱えていた。それを元にリビングデッドを作り上げていたのだろう。そして彼女は今まで立ち寄った土地の魔術師たちから『魔術回路』を奪い、自身に転移させ、本来の持ち主たちが培った魔術を用いて対抗したようだ」

 

「…下劣の極みね」

 

「だが、あくまで使えるというだけで極めた訳ではない。例え二重属性となろうが、それぞれの手から別々の魔術を使えようが、ただそれだけの事。私の到着を待たずに殺されたのも、所詮はその程度だったにすぎないという事だ」

 

「………………」

 

 

つまらなそうに答える綺礼だったが、凛は未だエミリアに対する嫌悪感は消えない。人間としても魔術師としても、彼女の犯した罪は決して許される事ではない。

 

魔術師にとって自分自身、そして一族の誇り・願いである血統を捨て、根源にすら見向きもせず、自分を作り変えていくエミリアには怒りすら抱くほどだ。

 

そんな凛に対して、綺礼は資料を取り上げると丸めてカソックのポケットへとねじ込んでしまう。

 

 

 

「言ったであろう。何事にも悪い例というのはある。世界中にいる魔術師全てが、同じ願いを抱いているという訳ではない。叶いもしない夢を追う輩もいるぐらいなのだからな」

 

 

最後はまるでそんな人物を見たような言い方をする綺礼に対して、凛は最後の質問をぶつけてみる。もうこれで、エミリアに対する案件を知る必要すらないだろうからと。

 

 

「アンタは…どう思った訳?このエミリアっていう魔術師を」

 

 

「自分の欲望に従い、正直に生きた、という事だろう。だからこそ―――」

 

 

 

「彼女とはじっくりと話を聞いた後に処分してみたかったがね」

 

 

 

こちらに顔を見せてはいなかったが、恐らくは笑っていたのだろう。なぜ、魔術師と人間のレールからも外れたエミリアに対して綺礼があのような発言をしたのか、凛には理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私が知っているのは、こんなところよ」

 

 

凛の説明に、エミリアの名を初めて知る者達は黙る他ない。

 

まさか、人間でありがなら道を外れた者が存在するなど、光太郎には考えられなかった。しかし、ここでランサーが凛に向けて言った言葉への疑問が残る。ランサーは彼女を殺さなければならないと言った。だが、凛の話を聞く限り、凛は直接見たわけではないのだろうが、エミリアという人間は既に死んでいる。

 

ならば、導き出される答えは…

 

 

 

 

「彼女、生きていたのね」

 

「残念ながらな」

 

 

あっさりと返すランサーの解答は、戦慄すべき内容だった。忌むべき魔術師が生きている。さらに言えば、ランサーが彼女を追っているという事は、彼が今身を寄せている場所と大いに関係しているはずだと、光太郎はランサーへと視線を向ける。

光太郎の視線に気が付いたランサーは、目の前に置かれた湯呑を揺らしながら出た言葉に、一同は驚きを重ねるしかなかった。

 

 

「…黒い兄ちゃんの考えてる通りだ。エミリアは『組織』に身を寄せていた。それも、怪人を生み出すプラントにな」

 

「なら、エミリアは人間だけじゃ飽き足らず怪人の身体を…?」

 

「そういうこった。そして、そのエミリアが日本に潜伏してるっつー情報が入ったんで、俺がここにいる」

 

「最悪だわ…」

 

 

誰しも凛の呟きに同意する他ないだろう。もしや先日この街にやって来た教会の査察官が何かと異常は起きてないかと尋ねてきたのはこの件だったのかも知れない。再び頭痛の種が舞い降りてきてしまった凛に変わり、彼女の傍らに立っていたアーチャーが別の疑問をぶつける。

 

 

「ランサー、先ほど貴様は仕事と個人的な都合でエミリア・シュミットを殺すと言っていた。何かあったのか、エミリアとの間に」

 

「さてな、今の時代に取り残されてから、このかた女との関係に絶えない日々なんでね。その一つとでも考えといてくれや」

 

湯呑を飲み干したランサーはアーチャーの問いをはぐらかせると立ち上がり、首元を手で押さえゴキゴキと鳴らす。

 

 

「どうやら嬢ちゃんたちはエミリアの場所に見当なかったみたいだし、この辺で失礼しとくぜ。何かわかったら連絡頼むぜ」

 

 

懐から取り出したメモ帳にサラサラと連絡先である携帯電話の番号を書き込み、食卓へ静かに置くと、手をヒラヒラと振って玄関へと向かっていった。静かに開閉される引き戸の音を、居間にいる光太郎達は黙って聞いている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮邸を離れていくランサーは、別のポケットから何かを取り出す。それは、ホルダーに纏められた数本の鍵であり、一本一本に持ち主のイニシャルであろうアルファベット文字が刻まれている。

 

 

 

 

 

 

『へっへっへ…今回も俺の総取りってとこだな』

 

 

『てんめぇ、またイカサマ使いやがったな!?』

 

 

『いえ、これは彼の手を見抜けなかった我々の失態でもあります』

 

 

『だから、次は徹底的に狙ってやろうじゃないの』

 

 

『それはいい。今度は僕も参加していいかな?』

 

 

『構わねぇが…使うんじゃねぇぞあの手を』

 

 

『アハハ…こんな事に使ってはバチが当たるって』

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出すのは、戦いの間にあったありふれて、当たり前になりつつあった者達との日常。

 

 

だが、もう永遠に帰ってこないと理解しているランサーは再び鍵の束をポケットへ収納し、当面の間住まいとなる館へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウフフフ…ご協力感謝しますわぁ』

 

 

「…私は上の命令に従っているに過ぎない。邪魔をしなければ、それでいい」

 

 

『えー、それだとおんぶに抱っこと言うかー。私何もしてないみたいじゃないですかー』

 

 

「なにもしなくていいのだ。私の作戦が終わるまで、身を隠しているがいい」

 

 

 

照明一つない洋館の中、2つの声が木霊する。

 

片や少女ではあるのだが、その声はどこか機械じみたようであり、室内で反響する。低い声を持つ男性は少女の申し入れを断ると窓際へと移動。月明かりで照らされたその姿は老人であり、長い白鬚を蓄えた口元へ丁寧に皮を剥いた果物を運んでいく。

 

 

『ふ、フフフフフフ…』

 

 

男が無造作に捨てる黄色い皮を見る少女は口元をつり上げ、濁った瞳で協力者を見つめるのであった。

 

 




最後の爺さんは、あれです。そんなバナナな人です。

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