Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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とうとう前作と話数だけで並びました。

では、80話です!


第80話

『キャハハハハハハハハハハハハハハハ』

 

 

 

人の神経を逆なでする甲高い笑い声が木霊する。そこは遮られた空間だったこともあり、否応なく木霊する。

 

 

 

あと他に聞こえるとしたならば…

 

 

 

 

『すっごーい!というかひっどーい!本当に戦うとなったら容赦しない人なのねぇあなたって』

 

 

 

 

 

『さすが神話に登場した英雄様ってだけあるわぁ。だって…』

 

 

 

 

 

聞こえるとしたならば…

 

 

 

 

 

 

 

『味方だった人達をこうもあっさりと惨殺しちゃうんだも~ん!』

 

 

 

 

 

 

 

自身が握る槍から滴れる、かつて『仲間』と呼んでいた者達を貫いた血液が、床一面に広がる赤い水たまりへと落下する音だけだ。

 

 

 

ピチャリ、ピチャリと…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…チッ」

 

 

最悪な目覚めについ舌打ちするランサーはベット代わりであるソファーから起きると、カーテンの隙間から差し込む陽の光に思わず目を細める。小さく息を吐くと足元に広がる…というよりも散らかした衣類や資料を踏みつけながら洗面台へ。

 

ジャバジャバと蛇口から流れる冷水で顔を流し、タオルで拭うと再び広間へと移動すると室内をぐるりと見回す。

 

ランサーが滞在する場所は、つい数か月前まで自分のマスターを匿うために利用していた洋館と同じ作りである『双子館』と呼ばれる場所だ。

 

その名の通り同じ建物が冬木の新都と深山町にそれぞれ建っており、深山町の双子館は遠坂凛の住む館のすぐ近くにあるのだが、現在は魔術協会に譲渡されてしまった為、下手に利用が出来なくなってしまった。

 

そのため半ば放棄されていた東側と名付けられた双子館を使うよう管理人に言われたランサーが室内へ一歩踏み込んでみれば、館内は清潔を保っている。

 

どうやらあの弓兵が時間を見つけては清掃の為に足を運んでいるようであり、ご丁寧に水道電気はもちろん、日持ちする数日分の食糧が備蓄されていた。

 

 

(これで酒でもありゃ文句なしなんだけどな)

 

 

口にくわえたタバコに火をつけるランサーは床に放った資料を拾い上げ、パラパラと捲るたびに目の鋭さが増していく。

 

 

先ほど夢に見た自身の『獲物』を思い出していく度に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………凛」

 

「なによアーチャー?」

 

「…本当にこれは必要なことなのかね?」

 

「あ、当たり前でしょ…クッ…」

 

「ならばなぜそうも笑いを堪えているのか聞きたいものだな、マスター」

 

 

眉間に皺を寄せるアーチャーは自分の身に降りかかった不幸を笑う少女に不満を募らせながらも、言われるがままに従う己を呪う他ない。

 

 

「えっと…あまりに気しない方がいいよ…??」

 

「貴様は平気だとでも言うつもりか、この状況を…?」

 

「ごめん…」

 

 

耳に響く心配の声に苛立ちを含め答えたアーチャーへと謝罪する間桐光太郎。光太郎自身も現在自分が置かれている状況には疑問しか残らず、巻き込まれてしまったアーチャーに心の中で謝り続けるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

確かに変身した光太郎…仮面ライダーBLACKとアーチャーが額を密着させているというのは、明らかにおかしい状態なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

なぜこのような羽目になったかという経緯は昨日の大海魔を消滅させた際に、光太郎とメドゥーサが宝具を使用できた事だ。

 

 

現在では聖杯による召喚時の半分にも満たない魔力と戦闘能力を宿していなかったメドゥーサが一時的とは言え聖杯戦争時と同様…それ以上の魔力を発揮した可能性がある。

 

その謎を突き止めるためにまず光太郎の身体を調べなければならぬと躍起になったのは遠坂凛であったが、既にある程度の仮説を立てた人物が現れる。

 

先の海魔との闘いには参加こそしていなかったが、人避けの結界を展開し、戦いの一部始終を見守っていたメディアだ。

 

 

 

「恐らく、大聖杯に触れたことが原因でしょうね」

 

 

創世王を倒し、シャドームーンとの決着を付けた光太郎が最後の力を振り絞り破壊した大聖杯。

 

大聖杯を破壊した際に漏れた膨大過ぎる魔力とキングストーン。そしてクジラ怪人から託された生命の結晶によりサーヴァントであった者達は一個の命として再び世界へ根を下ろす事が出来た。

 

だが、ここである副作用が発生した。

 

 

魔力の海と化した大聖杯を破壊する為に、自らを火種として大聖杯に飛び込む形で触れた光太郎へ、僅かながら大聖杯の『残滓』が残ったのだ。

 

元々大聖杯の魔力により召喚、現界されていたサーヴァントとは契約とはまた違うレイライン…深層意識のさらに下で繋がっているというのがメディアの見解である。

 

 

故に、レイラインを通じてキングストーンの力がサーヴァント側へと流れ、共鳴したことで魔力が爆発的に高まったとすれば過去に起きたアーチャーやメディアが聖杯戦争時以上の力を一次的に有したと納得のできる意見だ。

 

 

そして光太郎はメドゥーサの宝具を投影とは別の形で複製し、その威力は倍以上とされている。

 

 

今後より厳しい闘いに備えていつでもあの力を出せるようにした方がいいだろうという凛の発案の元、放課後に衛宮邸の中庭で行われているのが、この『実験』である。

 

 

 

光太郎と同じ動き、近い距離を置けばラインが繋がり、魔力が高まるのではないかという可能性の元、凛は様々な手段を講じて光太郎とアーチャーを同調させようと試みる、のだが。

 

 

 

 

 

 

「だからと言ってああも密着したら心穏やかじゃないわね」

 

「頼むから直接言ってやってくれよ美綴」

 

 

縁側に並んで腰かける美綴綾子の率直な感想に、間桐慎二は米神を抑えながらも同意した。

 

慎二は綾子と約束通りになぜ、自分が仮面ライダーとなり、あのような連中と戦っていた理由を、桜や衛宮士郎、そして街の管理人である凛も交えて説明した。

 

まだ作り話の方が納得のいく途方もない内容であるが、先に実物を目にしてしまった綾子にはすんなりと受け入れてられている。そして話した内容はあくまで間桐家の者達が仮面ライダーであるということに焦点を置き、魔術や聖杯戦争に関しては詳しい話はしていない。

凛が『こちら側』を知ることは、それだけで何者かに狙われてしまうという可能性を考慮しての事であり、親友の命を守る為でもあった。

 

綾子も凛の判断は納得しており、お互いやりやすいだろうと笑って言う姿に、凛もつられて相変わらずねと微笑みを浮かべる。こうして理解者がいるだけでも、凛や魔術にかかわる者にとっては救いでもあるのだ。

 

 

 

が、そんな綺麗に収まりつつあった後に親友のあんな姿を見てしまうとぐぅの音もならない。

 

第3者から見れば罰ゲーム以外の何物でもないだろう。しかし、僅かな可能性があれば試してみなければ分からないという凛の強弁に、アーチャーと光太郎は溜息交じりに従っている。

 

 

 

「はぁ…私らの世界を救ったヒーローさんになんて事させてんのよアイツは…」

 

「…美綴。悪いけど、その肩書はあいつの前で言うのは止めてもらえるか?」

 

「え?だって、光太郎さんは…」

 

「確かに傍からみればそうなんだろうね。けど、アイツはそう呼ばれる為に戦ってきたんじゃない。そうせざる得ない状況と、性格だっただけなんだ」

 

「…そっか」

 

 

綾子には間桐家の人間が、メドゥーサとガロニアを除き変身できるという説明はしたが、光太郎がなぜ変身できるようになった過去には触れていない。

 

彼の過去は、例え自分達の事情を理解してくれた者であっても聞かせたくない。それが、変身した自分を間桐慎二と呼んでくれた綾子であっても。

 

そして光太郎という人物の誤解を解きたいという思いもあった。光太郎の戦歴を見れば、確かに英雄とも呼ばれるような存在なのだろう。だが、決して彼は頷かない。敵とは言え、数多くの敵をその手で殺し、親友を手にかけてまで戦い抜いた光太郎には、その名は汚名に他ならない。

 

 

「だから、変な色眼鏡でアイツを見ないでこれまで通りにしてくれると助かる」

 

「フフッ…」

 

「なんだよ…」

 

「慎二って、本当に家族が大好きなのね。昔から」

 

「ハァ?なんでそんな結論にいたる訳?」

 

「あーあ、私もこんな年上思いの弟が欲しかったな~」

 

「既にいるだろお前にも弟が。ていうかさっきの話まだ終わってないぞ!」

 

 

 

何か弱みを握り、得意顔となった綾子とムキになった慎二のやり取りは、お茶を運んできた桜と家主である士郎現れるまで続いていた。

 

下らないやり取りの中でも、慎二は綾子に感謝していた。こうしてじゃれ合いにする事で、光太郎の話を逸らしてくれた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、衛宮邸の離れでは、ベットに横たわるメドゥーサへメディアが簡易的な診断とカウンセリングを行っていた。

 

先日の戦いの後に魔力切れを起こしたメドゥーサは翌日に驚異的な回復を見せたが、枯渇した魔力がそう簡単に戻るわけがないと踏んだメディアがこうして調べるに至っている。

 

 

「じゃあ、今日も朝食は以前と変わらない量を食べてきたということね」

 

「は、はい。あの…その質問は必要なのでしょうか?」

 

「知っていて損な情報なんてないわ。私たちのように、突然現世に留まるようになった英霊は猶更ね」

 

「はい…」

 

 

そう言われてしまえば何も言い返せないメドゥーサの横で、メディアはサラサラと手に持った大学ノートにペンを走らせていく。眼鏡の位置を直してブツブツと呟くメディアの表情は真剣そのものだ。

 

メディアの言う通り、メドゥーサ達サーヴァントが命を得てこの世界に留まっているのは、正しく奇跡そのものだ。だからこそ不安に思ってしまう事がある。

 

 

この命は、人間と同じように終わってくれるものであるのかと。

 

 

魔力を必要以上に失った場合。逆に過剰な魔力を体内に宿してしまった場合。そして今回のように、光太郎と共に強大な魔力を持って宝具を使用した場合。

 

 

もし、自分達の命が削られてしまう可能性が1パーセントでもあるとするならば、メディアは全力で回避する方法を見出そうとする。

 

 

愛する男性と共に過ごす幸福な時間を過ごす裏で、メディアは不安に思ってしまう。夫である宗一郎と共に生きる時間が、ある日突然終わりを告げてしまうのではないかと。

 

だからこそメディアは自分達に害が及ばないような戦いには積極的に参加せず、最低限な協力しか申し出ない。彼女にとっては、宗一郎がいる世界が全てだからだ。

 

 

 

 

 

今メドゥーサの診察を行っているのも、以前自分も体験した光太郎との同調による魔力増強が起きた自身への影響を知る為。影響が、自分の命にどう左右されるかを知る為。

 

 

周りにどう言われようが、彼女は自分の都合を優先させる。自分が今掴んだ世界を続かせる為にも。

 

 

 

メドゥーサには否定できない。彼女が抱く思いは、痛いほど理解できる。昨日までのような亀裂も生じていた光太郎とは、共に…可能ならば彼の命尽きるその時まで一緒にいたい。

 

 

だからこそ、こうしてメディアの診断には応じ、自分の身体に起きた事を理解しておきたい。

 

 

光太郎と共に、生きていきたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、それくらいにして次の実験に移るわよ!」

 

 

「絶対…楽しんでいるよね遠坂さん」

 

「今更…何を言っている…」

 

 

両手を膝につく光太郎とアーチャーに肉体以上に精神的に疲労が絶えずにいた。先ほどの額を合わせる他にも長時間手を繋ぐ、一緒にベットで横になるなど一部の人間にしか需要がない内容の実験が繰り返され、2人の精神はゴリゴリと削り取られていく一方。しかし、こんなものはまだ序の口なのである。

 

 

「取りあえず、これを一通り終わるまでは今日は終わらないわよ」

 

 

2人の前へ凛が翳したリストを見て本人だけではなく、見守っていた慎二たちも戦慄する。

 

 

ペアルック、二人羽織、二人三脚、組体操、カラオケのデュエット、ツイスターゲーム、シンクロナイズドスイミング、卓球・テニス・エアホッケーの無限ラリー、社交ダンス全般、手漕ぎボート…

 

 

様々なジャンルで二人一組による催し物が描かれたリストを手に、口を三日月に吊り上げるアカイアクマの姿に恐怖する光太郎とアーチャー。仮面の下で蒼白になっているであろう義兄を救う為にも、そろそろ姉の悪ふざけに終止符を打とうと背後に黒いオーラを纏わせた桜が立ち上がると同じタイミングで呼び鈴が玄関より響く。

 

 

誰であろうかと士郎が玄関へと向かい、引き戸を開けると青い男が手に大量の土産を持ち現れた。

 

 

 

「よぅ、邪魔するぜぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランサーの来訪により、凛の企てた実験は取り止めとなった事で胸を撫でおろす光太郎とアーチャーの2人。ランサーが持ち込んだ海外の置物や魔除けの悍ましい仮面。それに見たこともない食材に目を鋭くする士郎と桜を他所に、客間へと訪れたランサーと凛は対面する形で座る。同室を希望した光太郎とアーチャー以外は、メディア達のいる離れへと向かっていった。

 

 

「随分と楽しそうにしてるとこ、邪魔してすまねぇな」

 

「いいのよ。もともと貴方との話をするまでの時間潰しでもあったし」

 

 

話の邪魔にならないよう客間の隅に立つ2人としては聞き捨てならない凛の発言に物申したいところではあるが、ランサーの話の方が先決だ。

 

アーチャーとしても、凛と自分の危機を救ってくれたランサーの依頼を無碍にはできない。

 

 

 

「さっそく話を進めるぜ。嬢ちゃん、この女を知ってるか」

 

 

胸ポケットから取り出した一枚の写真を取り出し、テーブルを滑らせると凛は自分に向かってくる写真を押さえつけ、ゆっくりと捲る。捲りながらもランサーの顔を伺うが、彼の眼は戦いの最中に見せたような好戦的なものではなく、さらに鋭さを増している。

 

これは余程の事だと安請け合いした事に後悔しながらも写真に写る人物を目にした途端、彼女の目も同様に鋭いものへと変わった。

 

 

 

「…質問を質問で返すのはマナー違反だと十分に分かっているつもりだけど…なぜ、貴方が彼女を追っているのかしら?」

 

「仕事上と、俺の個人的な都合でそいつを殺さなきゃならん。それだけの事だ」

 

「…そう」

 

 

ランサーの物騒な物言いに、さも当然と頷く凛の反応を見た光太郎とアーチャーは目を合わせると、その視線は凛へと注がれた。

 

 

写真に写る金髪の少女。見た目からして桜と同年代と言ったところだろう。しかし、カメラへと視線を向けた彼女の笑みはどこか歪で、瞳は濁った光を反射させている。

 

 

 

「…彼女の名前は、エミリア・シュミット。魔術師よ」

 

 

 

 

「その危険な考えと行動ゆえに魔術協会から永久追放されて、死んだはずのね」

 

 

 

 

 




最後に出てきた人物はオリジナルです。さて、ランサーが彼女を狙う事情とは…?

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