では、色々捏造した7話でございます!
間桐光太郎達の前に突如として姿を現したクライシス帝国の刺客、怪魔獣人ガイナギスカン。
メディアの魔術により商店街の人々を巻き込むことを免れた光太郎であったがガイナギスカンの放った攻撃によってメディアと共にクライシス帝国が支配する『怪魔界』へと飛ばされてしまう。
広大な砂漠の中で再度対峙したガイナギスカンから怪魔界では太陽の光は僅かな時間しか降り注ぐことは無く、光太郎がRXへと変身する好機は限られていると聞かされ、焦りを隠せない光太郎。
しかしガイナギスカンはRXとなった光太郎との決着を望み、その場を去る。
その直後、砂漠の中から無数の怪人…突然変異によって人型となった蠍の怪物が光太郎達に襲い始めた。
光太郎は仮面ライダーBLACKへと変身。メディアと共に蠍達との戦闘に突入したのであった。
『なんのつもりだガイナギスカン…なぜRXとなる前に間桐光太郎を倒さなかった?』
モニターに映るクライシス帝国4大隊長の1人、ボスガンは通信器越しとはいえ跪くガイナギスカンへ静かに尋ねる。平静を保っている様子だが、内心怒りに駆られているであろう上官に対してガイナギスカンはただ、ありのままを告げる。
「恐れながらボスガン様。全力を出せぬ相手を下したところで勝利とは言えません」
『愚か者めッ!貴様の都合など知った事ではない…我らクライシスに仇なすRXを一刻も早く始末せねばならんのだぞッ!!」
「奴を…RXとなった間桐光太郎を倒せば結果は同じでございます」
『…………………』
「…………………」
沈黙が続く中、ボスガンは深く息をつくと先程の激高が嘘のように声を落とし、ガイナギスカンへと告げた。
『…よかろう。では見事打ち取って見せよ。失敗は…許さんぞ』
「ハッ!風の騎士の名に懸け、必ず…」
「……………」
通信を終えたボスガンは近くに控えていたクライシス帝国の雑兵『チャップ』へと顔を向け、ある指令を下した。
「…ッ!?」
「よいな、確実に行うのだぞ?もし、しくじった場合は…」
ボスガンの命令に驚くチャップへボスガンは腰に下げた剣の柄を手に取り、ワザとらしく鍔元を鳴らす。先の言葉を聞くまでもなく理解したチャップは慌てふためきながらもその場を後にした。通信室で1人だけとなったボスガンはモニターへと振り返ると邪悪な笑みを浮かべた。
「そうだ…役に立ってもらうぞ…私のためにもな…」
笑いを押し殺すボスガン。その姿を首だけとなって浮遊していたガテゾーンに見られていたとは知らずに…
一方、怪魔界の砂漠で戦闘を続けていたメディアは襲いかかる蠍の群れを攻撃魔術で次々と焼き払っていく。
二足歩行で両手には巨大なハサミ。背中には蠍の象徴である毒針を備えた尾を持った怪魔界の砂漠に出没する怪物。
力はそれ程強大ではないが数が多すぎる。砂漠を長距離移動した為に体力を低下していたこともあるが、魔術師である彼女にとって最も危惧していた事が起こり始めた。
(魔力残量が…もう)
サーヴァントから人間へと転生した際にかつての力は半分も使えない状態となっていたメディアには体内で生成する魔力量も聖杯戦争時と比べものにならないほど減少している。さらに異世界である故の弊害のためなのか、自然界の魔力であるマナへ干渉が出来ず、行使することすらできずにいる。
(こんなことなら保存してあった魔力を携帯しておけばよかったわね…)
苦笑しながらも続いて攻撃魔術を練るために魔法陣を出現させるが、もはや呪文の詠唱なしで出現させることが出来ずメディア本人も気が付かないうちに額は汗ばみ、呼吸も荒くなっている。
そのような状態で背後に迫った敵に反応できたのは偶然としか思えない。
「アゥッ!?」
「メディアッ!?」
蠍が尾をメディアに向けて振り下ろすが身体を強引に左へ逸らすことで回避できた。だが完全とはいかず毒針の先端がメディアの腕を掠めてしまう。腕を押さえて蹲るメディアの姿を見た光太郎は自分に接近した蠍の頭を踏み台にして跳躍。倒れたメディアの隣へ着地し、介抱するが先ほどよりも呼吸が荒くなっており、傷ついた腕も変色を始めている。
「クッ!?どうすれば…!」
自分に治療の知識はなく、毒に関するエキスパートであるメディア本人が苦しんでいる今では方法がない。さらにジリジリと近付く無数の蠍…万事休すと考えた光太郎の頭上で突然何かが破裂した音が響いた。
「何だッ!?」
膨らんだ風船に針を突き刺して割れた程度の音。聞こえた上空を思わず見上げた光太郎の目に映ったのは、砂漠の砂とは違う別の粉塵。粉塵がゆっくりと光太郎達へと降り注ぐと、囲んでいた蠍達が突如悲鳴を上げて地面へと一斉に潜り始めたではないか。
ものの数秒もせず、その場にいる者は呆気に取られた光太郎と苦悶の表情であるメディアだけとなっていた。
「この粉のおかげなのか…?」
自分の肩に付着している粉を手に取ってみるが触れても匂いによって気分を害するようなことはない。あの蠍だけが避ける成分でできているのだろうか?
「彼方が、これを…」
「…気付かれるとは、さすがですな」
光太郎は振り返ることなく自分の背後に立つ人物へと問いかけた。尋ねられた本人はあっさりと認め、穏やかさを秘めた声で答えると顔を覆っていたマスクを外す。
「…私はワールド。その女性はまだ助かります。私の隠れ家で治療をしましょう」
肩が隠れるまで伸ばされてた白髪と顎と口元を覆う髭。怪魔界に住む人間特有のものなのか、額から虫のような触覚を生やしている。ワールドと名乗る老人に先導された光太郎は毒を受けたメディアを背負い、彼の言う隠れ家へと到着した。
光太郎達が戦った場所から数百メートル程先にあった岩石地帯。辺りを見渡す光太郎を余所にワールドは手近にあった岩石の突起した部分を左右へ数度、ダイヤルのように回すとその先にあった3メートルはあろう岩石が2つに割れ、左右へスライドする。岩の間には地下へと続く階段となっており、光太郎はワールドに続き、警戒しながらも後へと続いた。
「…どうだ?」
「ええ…大分楽になったわ。後は手持ちの薬草で体調を整えるから、安心なさい」
「そうか…」
ベットに横たわり、額に手首を当てるメディアの声は弱々しくも普段通りだ。光太郎は音を立てないようにカーテンを閉め、まっていたワールドと向き合うように座る。
ワールドの隠れ家は地下数十メートルにあり、室内は積まれた大量の資料とコンピューター、使い古された武器が床に散乱している。そしてテーブルに陳列された様々な薬剤。これは全て砂漠に出没する蠍対策に調合されたらしく、蠍達が嫌がる臭気の粉や解毒剤も全てワールドによって開発されたものだ。
「…あとわずかばかり早く作れたのなら、犠牲者を減らすことができました」
「では、貴方は1人で…」
光太郎の声に無言で頷くワールド。自分の向かいに座る老人の奥には1人で使うには広い空間があった。そこには、かつてワールドの仲間だった者達が使っていた一室のだろう。
「…聞かせて下さい。なぜ、異邦人である俺達を助けただけでなく、匿ってくれたのですか?」
「彼方達ならばクライシス帝国を滅ぼしてくれる。そう、思えたのです」
「クライシスを…滅ぼす?」
思わず聞き返した光太郎にワールドは深く頷いた。ワールドは机の上に置かれてた写真立てを手に取り、光太郎へと差し出す。写真はどこかの風景を撮影したのだろう。青空の下には大地に茂る地平線の彼方まで続くであろう森林や花々、今にもせせらぎが聞こえそうな美しい川が映し出されていた。
「それが、かつての怪魔界の姿です」
「そんな…でもさっきは」
「驚くのも無理はありません。全ては…クライシス皇帝による政略が始まりでした」
ワールドが鎮痛な面持ちで告げた事実に光太郎は真っ先に自分やメディアが目にした砂漠の光景が浮かぶ。余りにもかけ離れた2つの情景に混乱する光太郎にワールドは説明を続けた。
かつての怪魔界は豊かな自然と人々が共存する素晴らしき世界であった。しかし、クライシス皇帝が突如、軍備を強化するという政策を立てたことで全てが狂い始める。
怪魔界統一という名のもとに人々を次々と捕え奴隷とし、逆らった者は容赦なく処刑されていった。
そして軍備強化のため、基地を拡大するために無差別に行われた伐採や兵器開発による産業が自然に大きく負荷をかけた事によって発生した環境破壊。その過程で排気ガスが大量に空へと上がり、ついには太陽さえ見えなくなってしまう。
クライシスはもう限界を迎えつつある怪魔界を捨て、かつての怪魔界と環境が類似している異世界の地球を新たな国とする為に進軍の準備を開始。その為に更に人々は捕えられしまい、戦士の素質を持つ者は改造、それ以外の者は『破棄』されてしまったのだ。
このままでは怪魔界は滅びの道を歩む一方であるとワールド達は決起し、レジスタンスを結成するがその情報を既に捉えていたクライシスの部隊に奇襲を受け、ワールドを残し全滅。もうクライシスへ逆らおうとする者は誰1人としていなくなっていた。
「なんて…酷い事を…」
光太郎は固く拳を握りしめ、クライシスに対する怒りを露わにする。光太郎の姿を見たワールドは決意し、彼へ自らの悲願を申し出た。
「異界出身である彼方達を頼るのは筋違いということは十分に分かっているだが、もう我らには他に手は残されていない。どうが、どうかクライシス帝国を滅ぼし、この怪魔界に平和を―――」
「そこのお人好しはともかく、私は遠慮するわ」
「メディア。もう大丈夫なのか?」
カーテンを開いたメディアの顔色は毒を受ける前の状態に戻っている。髪を掻き分けて光太郎達の前に移動したメディアは畳んだシーツをワールドの前に置き、出口の方へと向かう。
「解毒剤を提供して頂いたことには感謝します。けど、この世界の為に働くなんて…彼方達に上手く使われるなんて、私は御免よ」
振り向きざまにワールドを睨むように言い放ったメディアはツカツカと音を立てて部屋を後にする。
「…すみません。ちょっと虫の居所が悪かったようで…」
「いえ、滅相もない。彼女の言う通り、本来ならばこれは我ら怪魔界の問題。彼方達を利用すると捉えられても仕方がない」
不機嫌であるメディアを庇う光太郎だったが、ワールドは不快に思うことは無く逆に彼女の意見に納得してしまう。この世界に現れたのは敵の作戦によるものだったが、ワールドとの出会いは全くの偶然と言っていい。ワールドにとっては藁にもすがる思いで過ごす日々の中でクライシスが罠を仕掛けてまで追い詰めようとする相手…光太郎の存在は大きな希望となっていた。
だが、メディアから見れば違う見解だった。この世界は自分達の暮らす場所ではない。振りかかる火の粉は払うことは厭わないが、別の世界まで救うことなど自分の範疇ではないというのが彼女の言い分なのだろう。
それに、この世界に来て上手く魔術を行使出来なかったイラつきも重なり、彼女は過去と重ねてしまったのかも知れないと光太郎は考える。
まだ彼女が疑いを知らない少女だった頃。様々な謀略に巻き込まれた結果、帰る場所を失ったメディアは激情に駆られ数々の悲劇を起こして『裏切りの魔女』という烙印まで押されてしまった。
故にメディアは『誰かの都合』に巻き込まれることを極端に嫌悪しているのだろう。聖杯戦争を経て最愛の人と暮らしを始めた事で落ち着き始めたと思ったが、やはり過去は拭い去れない。
「そして、私も平和などと言いながらも、貴方達を利用して叶えようとしていうだけかもしれません。息子の仇を」
「息子、ですか?」
「はい…かつてはこの一帯を守護する国に仕える戦士だったのですがクライシスの暴挙に耐えきれず反旗を翻した結果…」
その先は聞くまでもないだろう。ワールドは目を伏せ、手にした写真立ては僅かながら震えている。メディアは拒絶し、恐らくは義弟に尋ねれば同じような言葉と同時に罵声も飛んでくるかもしれない。それでも、間桐光太郎の考えはどこの世界でも同じであった。
「…ワールドさん。俺は…」
突如、足元が大きく揺らぐ。地震などではなく断続的に発生する短い揺れに不安を感じたワールドは手元にあったカーソルを操作し、岩の隙間に仕掛けた監視カメラを起動させた。そこに映っていたのは…
「あれは…ガイナギスカンッ!?」
「どうやら、時間になったようだ」
モニターに映るガイナギスカンは背後に控えたチャップ達に次々を爆弾を地面に向けて放つように指示している。しかしどれもが強力なものではなく、地下に潜んでいる光太郎達を崩落に巻き込もうとする威力には程遠い。これは光太郎を地上へと呼び出す為に行っているのだろう。
「…話は後ほど。俺は行きます」
「さぁ、出てくるがいい間桐光太郎。まもなくこの怪魔界に一瞬日の光が照らされる」
その時こそ敵が全力で力を振るえる時。手にした槍を振り回し、柄を砂漠へと突き立てたガイナギスカンは続けてチャップに爆弾を投下するように指示をする。チャップの1人がまた一つの爆弾に点火し、岩石地帯に向けて放り投げる。弧を描いて岩石の一つに接触する寸前、黒い影によって爆弾は弾き返され、チャップ達の足元に落下、慌てるチャップ達が逃げ出す間もなく砂とチャップ達を吹き飛ばしてしまう。
「…待たせたではないか」
「ガイナギスカン…」
光太郎は仮面ライダーBLACKへと変身し、入った時とは別の入り口から飛び出し、爆弾を弾き飛ばすと風の騎士ガイナギスカンと対峙する。
「なぜだ。お前程の男が卑劣なクライシス帝国に与する?奴らはお前達の世界を滅ぼそうとしているのだぞ?」
「…私は騎士。ただ命令に従い戦うのみ」
「…そうか。ならば、俺も覚悟を決めて戦う!」
有利な状況となりながらもRXとなる機会を待ったガイナギスカンならば、非情なクライシスのやり方に疑問を抱くと思っていた。いや、光太郎は一方的に期待していたのかも知れない。
ガイナギスカンの言動を見て、彼を…自分の宿敵と同じ正々堂々と戦う人物と思い込もうとしただけかも知れない。
ならば、状況に甘えた考えを振るう為にも戦うしかない。
僅かに自分に降り注ぐ日の光。
ガイナギスカンの言った通りに一瞬だけ顔を見せる太陽に向かい、光太郎は手を伸ばすが―――
「グアァッ!!」
「何ッ!?」
悲鳴は光太郎の、驚きはガイナギスカンの声だった。
太陽の力を身に受けようとしたその瞬間、光太郎に向けて降り注ぐ爆撃。砲撃が放たれる方角を見ると、自分が引連れてた部隊とは別のチャップ達がバズーカを構え、絶えず砲撃を続けていたのだ。
「あれはなんだ!どこの部隊だ貴様達ッ!」
『私の派遣した部隊だ…』
「彼方は…ッ!?」
付近のチャップが持つ通信器から聞こえた声の主はボスガンであった。
「なぜですッ!?RXの討伐は私に一任されているはず…」
『その通りだ。ガイナギスカンよ。貴様は宿敵であるRXを命を懸けて討ち取ったことになるのだ…』
ボスガンの冷たい返答と共に通信器を手にしていたチャップが突然地へと沈む。見れば巨大蠍に尾に胸を貫かれており、他のチャップ達も同様だった。
そして蠍達も頭部が妙に膨れ上がっており、正気を失っているように何度も尾やハサミでこと切れているチャップ達の亡骸を何度も何度も突き刺している。
「まさか、この蠍共は…」
『フフフ…どうやらさらに凶暴化させる実験は成功したようだ。ゲドリアンも使えるではないか』
「これも…貴方の手引きなのか」
『チャップ共に凶暴化を促進させる薬品をその砂漠一帯にばら撒かせたのだ。目に入った者は敵としか認識できない程に強力な一品を、な』
「そのような、変異したとはいえ利用するなど…」
『構うことは無い。あの蠍共は我らの実験により変異したものだ。どう扱おうが、怪魔界の支配者である我らの自由なのだ』
「…ッ!!」
声を震わせて尋ねるガイナギスカンに全てが計画通りに進んだことへ狂喜を隠せないボスガンの声が、砂へと落下した通信器から響く。
「このような…このような事が許されるのかッ!貴族の誇りはどこへといったのいうのですッ!!」
『ガテゾーンなどと同じ失敗をするわけにもいかないのだッ!私の為に命をかけるがいい!!』
「お…のれッ!」
通信器を踏みつぶしたガイナギスカンは未だ爆撃を受け続け、膝を着いてしまった光太郎の元へと向かおうとするが、狙いを定めた蠍に標的とされてしまう。
「どけぃ、害虫どもがッ!!」
槍を振るい、一度に3匹の蠍を両断することが出来たが、さらに数十匹の蠍がガイナギスカンの前へと立ちはだかる。
そして、僅かに照らしていた日の光は完全に消えてしまった。
「まったく、言わんこっちゃないじゃないッ!」
不機嫌だったとは言え、光太郎はともかく他人に当たるような発言をして外で黄昏ていたメディアは爆発の声を聴き付け、攻撃を受け続けている光太郎を発見する。携帯していた非常用の薬草で魔力を強引に補充し、バズーカを持ったチャップへ攻撃魔術をしかけようとするが、足元の砂を掻き分け再び蠍の群れに囲まれてしまう。
「本当にしつこいわね…!」
「伏せて下さいッ!」
「ッ!?」
破裂音と共に1匹の蠍の頭部が吹き飛ぶ。砂漠へと沈む同族の躯を目にし、身に危険を感じて一瞬警戒した蠍の群れを避け、メディアの隣まで駆けてきたワールドは銃器を構えながら、蠍達を撤退させた薬剤を巻こうとてにしたが………
「ガッ…!?」
音一つなることなくワールドの胸に矢が突き刺さった。
「…ッ!?」
「わ、ワールドさんッ!?」
口から血を垂らし、倒れるワールドの姿にメディアは目を見開いていることしか出来なかった。
光太郎は駆けつけようにも爆撃はやまず、地中から尾やハサミを突き出してくる蠍の攻撃を避けることが精一杯であった。
「あれは…」
蠍達を一掃したガイナギスカンの目には倒れ、メディアに揺さぶられるワールドの姿が映る。同時に数秒間激しい頭痛が起こり、手で頭を押さえるガイナギスカンの脳裏に途切れ途切れにある映像が映し出された。
緑にあふれた故郷
その故郷を焼き払う巨大な飛行要塞
故郷を守るために立ち上がるが、次々と殺されていく仲間たち
どうにか●●だけを逃がし、捕まった自分
そして…
「ウオォォォォォォォッ!!」
雄叫びを上げるガイナギスカンは両手に力を籠め、光太郎の上空へと翳す。
狙うは、覆われた雲の中でまだ薄くなっている部分。
「風魔ッ!ツインハリケーンッ!!」
両手から発生した強烈な竜巻が上昇しながら合流、さらに巨大となった竜巻は雲を突き抜けて成層圏にまで達する。そして、光太郎へと届く一条の光明。
「間桐光太郎ッ!今だッ!!」
「う…オォォォォッ!!」
爆撃も蠍の奇襲にも目にくれず、光太郎は光に向かい手を掲げた。
「太陽よ…俺に力をッ!!」
姿を見せた太陽を掴むように天へ右手を翳し、左手をベルトの前へと移動。
右手首の角度を変え、ゆっくりと右腕を下ろすと素早く左肩の位置まで手首を動かし、空を切るような動作で右側へと払うと握り拳を作り脇に当てる。
その動作と同時に左手を右から大きく振るって左肩から左肘を水平にし、左拳を上へ向けた構えとなる。
光太郎の赤い複眼の奥で光が爆発する。
体内に宿ったキングストーンの力と光太郎へと降り注ぐ太陽の力が融合した『ハイブリットエネルギー』により光太郎のベルトは2つの力を秘めた『サンライザー』へと変化。
サンライザーから放たれる2つの異なる輝きが光太郎の全身を包み、彼を『光の戦士』へと進化させた。
黒いボディの一部が深い緑色へと変わり、胸部には太陽の力をエネルギーへと変換する『サンバスク』が出現。よりバッタへとイメージが近づいた仮面、より強く光る真っ赤な目を思わせる複眼と一対のアンテナ。
再び右手を天に翳した光太郎は敵に向かい、新たな力を手にした名を轟かせた。
「俺は太陽の子――ッ!!」
「仮面ライダーBLACK!!RX!!!」
RXへの変身を遂げた光太郎は跳躍し、自分に向かいバズーカを放ち続けていたチャップ達の目の前で着地。同時にバズーカの銃口を握り潰し、銃身を支えるチャップごと持ち上げると赤い複眼『マクロアイ』で捉えた地中に潜む者に向け、勢いをつけ振り下ろす。
「トァッ!!」
土埃を上げて鈍い音が響く。やがて埃が晴れた場所にはバズーカを持っていた者とは別のチャップが倒れており、その手にはボウガンが握らている。
ワールドの胸を射抜いたのは、このチャップによるものだろう。
『おのれRX…裏切り者の処刑まで邪魔するとは』
「だまれボスガン…!」
『…ッ!?』
通信器から漏れたまず聞き取れない音…それこそ虫の羽音よりも小さな声だと言うのに聞き取った光太郎は通信器の向こうで戦慄するボスガンに向かい言い放つ。
「怪魔界に住む多くの人々から平穏を奪っただけでなく、自然にも手にかけ破壊するなど…俺は貴様達クライシスを絶対に許さんッ!!」
「しっかりなさい!まだ目を瞑るには早いわよ」
「申し訳ない…私は…」
「言い訳何て今はいい!この場を切り抜けてから聞かせてもらうわよ!」
メディアは倒れたワールドを介抱しながら結界を広げ、今以上に蠍達が近づけないようにしている。だが、それで限界だった。
メディアが聖杯戦争時の状態であるならば、体内だけでなく自然界からの魔力を利用できていれば、群がる蠍達を一気に殲滅出来るだけでなく虫の息となった老人を治癒することさえ可能だったはずだ。
しかし、今の彼女にはそれが出来ない。
さらにメディアは焦っていた。
老人の胸に刺さった矢の先端には、毒が塗られていたのだ。
地下にあった薬品を試すが、急ぎ傷口を洗浄しなければ老人の死期がさらに早まってしまうのだと。
メディアは気付かない。
以前ならば自分のマスター以外ならば倒れようが死のうが、水面に浮かべば消える泡のように気に留める事すらなかったはずだ。だというのに、今死なせない方法ばかりを考えている。
その焦りが結界に綻びを作り、蠍達が破壊しようと攻撃を強めていく。
「…私が、死んだら地下にある…倉庫に」
「聞かないって言っているでしょうッ!!」
激高するがもはや老人の耳には届かない。このまま自分達の都合を押し付けて、死んでしまうつもりなのだろうか。
だが、そんなことは認めない。
そんな身勝手な死など、メディアは容認できない。
(させないわよ…そんな死に方をするなんて…)
「私は…許せないッ!!」
次の瞬間、結界を囲んでいた蠍の群れの中に無数の巨大な火柱が立ち上る。
生き残った蠍も足元に現れた紫色の魔法陣に囚われると全身が切り刻まれ、押しつぶされていった。
火柱や魔法陣が消失し、残る結界の中ではメディアがワールドの胸に手を当て、傷口を塞ぐと同時に解毒を行っていた。
何故、自分の魔力が爆発的に高まり、同時に幾つもの攻撃魔術や治癒魔術を行使できたのか理解できない。
メディアに取って今はどうでもよかった。ただ、目の前にいる迷惑な老人の命を繋ぐことしか頭にはなかったのだから。
「…………片付いたか」
「そのようだな」
蠍だった断片が無数に散らばる砂塵の中、光太郎とガイナギスカンは一定の距離を持って対峙している。
RXとなり、チャップ達を撃退した光太郎は蠍達と戦うガイナギスカンの隣に立ち、共に殲滅を始めていた。
当初は余計なことをするなと拒むガイナギスカンだったが、光太郎の言葉に黙り、背中を預けるのだった。
「お前は俺に変身するチャンスをくれた。だから、1対1で戦えるまで協力する。それで対等だッ!」
ガイナギスカンにとって、もはや救いの言葉に近いものだった。
忠誠を誓った主から誇りを懸けた戦いを貶されただけでなく、捨石とされてしまったガイナギスカンに残されたのは、もはや光太郎との決着しかない。
振るう槍に力へ更なる強さが宿ったガイナギスカンは迫る蠍達を薙ぎ払っていく。
毒針に刺されようと、ハサミにより装甲が砕けようと、槍を振るい続けた。
自分の全てをかけた戦いをするために――――
ガイナギスカン同様に光太郎も傷だらけとなっていた。キューブリカンの戦いでは傷口が瞬時に再生していたが、今では蠍の毒を中和するだけで精一杯なのだろう。
それに、RXの力が何時まで持つかは分からない。だから決着を付けるとした場合は、一瞬で決めなければならない。今の光太郎が放てる最大の攻撃で。
「リボルケイン―――」
静かに呟き、右手を腰に当て、左腕を大きく回しながら広げた手を腹部のサンライザーへと翳す。
サンライザーの左側の結晶から幾層もの光の線が重なり、洗練された円形の柄が現れる。
中央に赤い風車のようなダイナモがあり、柄を光太郎が掴むと同時に光を迸りながら高速で回り出した。
柄をサンライザーから引き抜くと眩い青い光―――圧縮された光のエネルギーが結晶化した光子剣『リボルケイン』を形成。
リボルケインを左手から右手に持ち替え、改めて槍を構えたガイナギスカンと間合いを保ちながら光太郎は右へ足を運び、ガイナギスカンは左へと移動する。
やがて互いが足を止めたと同時に砂をまき散らしながら地面を蹴り、互いの武器を振りかぶり接近する相手へと振り下ろす。
「トァッ!!」
「ハァっ!!」
すれ違いながらも互いにダメージを負い、着地の際の一瞬身体のバランスを崩してしまう。その一瞬が、勝負の行方を決定づけてしまった。
「ハァァッ!!」
「が、アぁァァッ!!」
ガイナギスカンよりも光太郎が早く、それこそ刹那の瞬間振り返るのが早かった。
リボルケインがガイナギスカンの腹部へと突き刺さり、送り込まれた光のエネルギーが砕けたガイナギスカンの装甲から火花となって漏れ始める。しかし、それも次第に収まってしまう。
「く…」
光太郎の手にあるリボルケインの柄の赤いダイナモの回転が静止し、さらには眩い輝きを放っていた刀身が消え、リボルケイン自体も消滅してしまう。
それだけでなく、光太郎が膝を着いたと動じにRXからBLACKの姿へと戻ってしまった。
(げ、限界…か)
思えばRXの姿が保てなくなるまで戦ったのは初めてであった。だからと言ってBLACKの姿で戦えるほどの余力は、光太郎には残っていない。
そして、それを見逃すガイナギスカンではないだろう。
「間桐…光太郎」
右腕で貫通された腹部を押さえながら目の前で立つ傷だらけの戦士は…
「見事だったぞ…」
武器を構えたまま、仰向けに倒れていった。
「勝った…ようね」
「め…メディア殿」
「あら、気が付いたようね。喜びなさい、今彼が…」
目を開けたワールドに結果を伝えようとしたメディアだが、ワールドの方が先に警告を言い渡す。
「はやく…逃げるのです!」
彼等には、勝利の余韻に浸ることすら許されなかった。
「本当に…参ったよ」
ガイナギスカンの倒れた方へと顔を上げた光太郎はそんな言葉しか言うことしか出来なかった。
地平線の方から数十機に及ぶ戦車や歩兵が数百。おまけにコントロールが成功したのが、武装をさせた蠍の化け物までいる。
足を踏ん張り、光太郎は何とか立ち上がり、腹部のキングストーンにそっと触れる。
(もう少し、付き合ってもらうよ)
そして両手を展開し、ベルトの上で拳を重ねてキングストーンフラッシュの体制へとなったが、それを手で制したのはいつの間にか立ち上がったガイナギスカンだった。
「行け…私が時間を稼ごう」
「ガイナギスカン…どうして」
「私に勝利した貴様があのような有象無象に倒されるようなことがあれば、戦った私の誇りに傷が付く。それだけだ」
「しかしッ…」
「地下に入れば、貴様のいる世界へ戻る為の転移装置がある。それを使うのだ」
「なんで、君がそんなことを知っているんだ?」
「…大体のことは、あの老人から聞いているのだろう」
「…ッ!?」
ガイナギスカンの言葉と、ワールドから受けた説明が重なった。ならば、猶更彼を放っておくわけには行かないと考えていた光太郎の耳に蠍の断末魔が響く。見れば光太郎の足元で槍に串刺しにされた蠍が痙攣しており、クライシスの軍勢は、目の前まで迫っていた。
「行け…早くッ」
「ガイナギスカンッ!!」
「いいか…貴様の世界を…怪魔界の二の舞とするな…」
「……わかった」
光太郎は一度頷き、一目散に去っていった。
「間桐光太郎…最期に貴様のような奴と戦えたことを、誇りに思うぞ」
蠍から槍を引き抜いたガイナギスカンは意を決し、軍勢に向けて全力で駆けだしていく。
(さらばだ、我が好敵手よ)
(父よ。彼らを頼みます…)
既に転送装置のある一室まで移動していたメディアは光太郎と互いに無事であることを確認すると頷き合うと、端末を急いで操作し、装置を起動させたワールドによって形成された円形のエネルギーを見る。
これが転送装置なのだろう。
「光太郎殿…これを…そして、『彼』を」
「これは…」
ワールドは光太郎へ小指ほどの大きさであるプラスチックのケース…恐らく何等かのデータが収まっているメモリを手渡すと、さらに端末を操作したことで床が開き、2メートル前後はあるであろう長方形のカプセルがゆっくりと浮上する。
そこには窓が付いており、中を見ると人1人が眠っている。どうやら男性のようだ。
「彼は…?」
「彼方達と同じく、この世界に迷い込んだ者。傷だらけだった所をなんとか治療しておりましたが、ここで匿うのも難しくなりました」
「…わかりました。では、貴方も…」
「いえ、私はここに残り、転送装置を破壊します」
「何を言っているのよッ!」
ワールドの胸倉を掴むメディアだが、まるで動じる様子もない。彼を治療したメディアは自分の言ったことをまるで聞いていないワールドへ苛立ちをぶつけるようだったが、真っ直ぐに見つめてくるワールドの目を見て次第に手の力を弱めていく。
(本当に…なんなのよ)
その目は良く知っている。
自分の隣に立つ男と全く同じ。一度決めたら決して揺るがそうとしない決意に満ちた瞳だ。こうなってはいくら文句を言ったところで、揺らがす事なんてまず不可能だと彼女は知っていた。
「言っておくけれど、私は彼方の都合を叶えるつもりなんて毛頭ないわ」
「………………」
手を離したメディアは踵を返し、転送装置の方へと近くへと向かっていく。
「ただ、私達の世界であの連中を倒す頃にはこちら側の戦いも終わっているかもしれないわね…」
顔を向けることなくぼそりと呟くメディアの決意表明に微笑んだ光太郎は手を差し伸べ、ワールドも笑みを浮かべて手を取った。
「…今は、この世界を救えません。けど、いつか、必ず―――」
「『星総べる王、世界の命運を止める』」
「え…?」
「…怪魔界に伝わる言葉です。災いの言葉とされていますが、私はそうとは思えない」
「王の石を持つ彼方なら、きっと救いの言葉としてくれるでしょう…」
「…ッ!?なぜキングストーンのことを…」
重大な事を訪ねようとした光太郎の耳に、爆発音が届く。どうやらすぐ傍まで敵が近づいているようだ。
「さぁ、早く装置の近くへ!」
ワールドに促され、カプセルと共に装置へ近付いた事を確認したワールドは数度ボタンを押す。直後、激しい光と共に光太郎とメディア、そして青年が眠るカプセルは怪魔界から消滅したのであった。
「…頼みましたぞ…創世を超えた王よ」
目をつぶり、ゆっくりと唱えたワールドの姿は、爆炎の中へと消えてしまうのであった。
目を開けると、見慣れた森の近くだった。
柳洞寺の裏山。
大の字になって倒れていた光太郎よりも先に起きたメディアは光太郎の方へ顔を向けることなく、本堂の方へと歩いて行った。
(せめて一声かけて欲しいところだけど)
それよりも先に報告すべき相手の場所に向かったのだろうと光太郎は自分のポケットの中で振動する携帯電話へ手を伸ばす。あれだけのことがあってもまだ無事であることに関心しながらも着信履歴を見てみると…
「うわぁ…」
思わず声を漏らす程の着信の数。義弟義妹それぞれ30件近くあり、自宅からなんて40件だ。恐らくメデューサが自前の携帯電話ではバッテリーが足りないということで自宅の電話を使ったのだろう。
「どう報告するべきかな…」
隣に並ぶカプセルの中で眠り続ける男性の説明も含め、話さなければならないことが山積みだ。
が、まずは救助をして貰えなければ始まらない。
ワールドから託されたメモリを眺めると光太郎は覚悟を決めて携帯電話の通話ボタンを押すのであった。
と、いうことでガイナギスカンとワールド博士の部分をかなりいじってしまいました。
そしてカプセルで眠っている彼は…『彼』です(答えになってない)
まぁ正体が明らかになるのは当面先で、まず光太郎が受け取ったモノが『形』にせねばなりませんからね。ご存じの方の予想は100パーセント当たるであろう赤いアレです。
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