Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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前回のご感想に多くある、とある起動武道なアニメをちょいと見返してみるとやっぱり面白い面白い。が、「あんなの○○○○じゃない!」と強く主張される方に共通しているのが、見ていないという事なのですよね。テーマがアレであっても、以外にしっかり○○○○してるんですよ実は…

という、個人の感想は置いといて、77話です!


そしてついに、あのフレーズを使ってしまった…


第77話

一昔前の口説き文句に、『あなたは私の太陽』なんて言葉が用いられていたと手にした書物に記載されていた事があった。

 

その時は変わった例えですね…としか捉えていなかったし、そのような考えを誰かに抱く事はこの先もないだろうとメドゥーサは思っていた。

 

しかし、彼女は見つけた。

 

 

自らの『太陽』を。

 

 

 

 

(光太郎…)

 

 

 

深い闇へと沈みゆく自分を照らし、そして陽の当たる場所へと連れ出してくれた。

 

 

 

敵によって自身の中に植え付けられた理性を潰し、奥底に閉じ込めた殺意を膨れ上がらせた因縁ある宝具により、彼女の精神は押しつぶされる寸前であった。

 

もう、以前の姿も、心優しい人々との暮らしも望めない。そんな自分にできるのは、その人々の命を奪う魔物と化する前に自分を終わらせる事しかない。懸命に暴れ出さぬよう本能を自制する中、自分を倒すよう間桐光太郎に願うが、そんな望みは一蹴された。

 

それどころか怪物と化した自分を敢えて挑発し喧嘩へと誘導させた事によって、失いかけた理性を取り戻どす事に成功した。さらに言えば戻ったのは、理性だけではない。

 

会話も出来ず、目すら合わす事が困難な程にこじれてしまった彼との関係。

 

 

光太郎が次々と放つ言葉に最初こそムキにはなったが、ある意味自分が待ち望んでいたモノだったのかも知れない。

 

気が付けば光太郎への反論だけでなく以前から彼に対して言いたくても言い出せなかった彼への不満が、その先にある思いが溢れるように光太郎へとぶつけていく。

 

光太郎へと、伝わっていく。

 

 

最初からこうして言葉にしてぶつけ合えば良かったのに。彼の優しさに付け込んで、自分は言いたい放題。彼がどう思うかを聞く事を失念していた。

 

いつか分かってくれる。理解してくれるなんて押し付けもいいところだったのだろう。

 

互いの不満点を次々と露わにしてく中、ようやく彼の本音を聞く事が出来たという嬉しさとその反面、いかに彼を追い詰めていたかと猛省する自分に、光太郎は言ってくれた。

 

 

自分の隣にいて欲しいと。

 

 

彼の言葉は、どうしていつも自分の心に伸し掛かった重荷を払いのけてくれるのだろう。

 

どうして、いつも自分を救ってくれるのだろう。

 

 

光太郎の声を聞き、暗闇の中にいた自分に一条の光明が包まれた、その時だった。

 

 

 

サーヴァントから英霊の力をわずかながら扱える人間へと転生した際に、ただ光太郎の状態が把握できるだけに留まっていたキングストーンの力。

 

 

自分と光太郎を紡ぐ赤く熱い力が、強く胎動を始めた。

 

 

キングストーンの輝きによって失われた熱を取り戻し、自分を縛る忌まわしき(宝具)を焼き払ってくれた。

 

 

その途端、眩い光に包まれた直後に身体を支えるゴツゴツとしていながらも、ある暖かい手に支えられていると感じて目を開けば…

 

 

 

暖かい光を灯す赤い複眼と、黒い身体を持つ仮面ライダーBLACKが…

 

 

 

光太郎が、そこにいてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうやら、終わったみたいだな」

 

「良かった…ッ!?慎二兄さん伏せてッ!!」

 

「うぉっ!?」

 

 

光太郎とメドゥーサの姿に安堵する慎二だったが、桜の鋭い声を聞き反射的に屈むと慎二の頭上を風切り音と共に何かが通過する。桜のメイガスソードボウの柄であった。

 

薙刀の柄は慎二の背後に忍び寄る海魔の頭部に命中し、仰け反らす事に成功する。だがおかしい。軟体生物に近い身体構造を持つ海魔にここまで攻撃が当たった際の手ごたえ。まるで皮膚の下に硬い『骨』がしっかりと備わっているような…

 

 

「兄さん…」

 

「ああ、こいつら…」

 

 

立ち上がった慎二は目を見張る。川から次々と這い出たヒトデモドキと言えた海魔の身体に異変が生じたのだ。ミシミシと音を立て、身体の内側から何かが盛り上がっていく。軟体動物特有のしなやかさが失われ、触手の先端が五指となり、節々に関節が出現。

 

歯をむき出しにした顔もはっきりと「頭部」と思わせる形状へと変化した。

 

その姿は様々であり、人型、四足歩行、鳥類…中には骨が皮膚を突き破り、出来損ないとなった個体すらいる。だが、その個体すらも飛び出した骨を角代わりであると慎二たちへと向けている。

 

 

 

「進化…とはまた違うな。光太郎達に当てられたか?」

 

「そんなかわいいものには思えないのですが…」

 

「随分と余裕のあるようで関心ではあるが、油断はするな。雑魚どもがこのような様変わりをしたということは…」

 

 

アーチャーの視線を追う慎二と桜。そこには相変わらず聳え立つ大海魔が武による射撃を受け続け、ダメージを負うごとに再生を繰り返していただが、攻撃を受けた箇所の傷から新たな触手が発生。さらに先端が五つに別れ巨大な手となり、表面も爬虫類を連想させる強固な皮膚へと変わっていく。

 

最後に頭頂部と思われる箇所がパックリと真っ二つに割れ、新たな頭部が出現。ズリズリとせり上がり、体液まみれの長い大口には鋭い牙が並び、鋭い眼を覗かせると、大海魔は大気を震わせるような咆哮を上げる。

 

 

無数の触手と腕にワニの頭部を持つ姿へと変わった大海魔の変化に伴い、同じく変貌した海魔達が攻撃を開始する。

 

 

恐らくは光太郎とメドゥーサがまたも『自分の考えた結末』とは別の結果を生み出してしまった事への腹いせに力を暴走させたのだろう。

 

 

だが、厄介事以上の脅威とは、慎二と桜。そして攻撃を続ける武には思えなかった。

 

 

 

 

口から涎らしき液体を振りまき、足の骨が対象の長さでない為かぎこちない走りを見せる海魔の頭上に黒い戦士が右足を突き出した状態で落下。

 

海魔がどうなったかなどさほど興味のない慎二達は、ゆっくりと立ち上がって見せる黒い背中をこちらに向ける光太郎へと呼び掛ける。戦えるのかと。

 

 

「…当然さ!」

 

 

 

 

 

言うと同時に光太郎は駆け出し、接近した二足歩行の海魔の頭部に拳を叩き込み、敵が突如襲われたダメージに後ずさる時間も与えずに左足を軸とした回し蹴りが腹部へと炸裂。

 

文字通りに吹っ飛んだ海魔は後方で続いて走り寄る別の海魔もろとも河川敷へと転がると、光太郎の攻撃を受けた海魔の身体がひび割れ、やがて爆発。巻き添えを喰らった他の海魔も連鎖して次々と火が付き、砂利の上をのたうち回った後に沈黙した。

 

 

光太郎の攻撃は止まらない。

 

 

正面から迫る四足歩行型も左右から接近する人型…身体から皮膚を突き破った骨を武器として手に取った個体も、光太郎の身体に届かせるよりも早く、光太郎の拳と足が海魔を吹き飛ばす。

 

胴体に穴を開けた人型2体が燃える中、立ち上がろうとする四足歩行型の頭部を踏みつけて跳躍。光太郎は後続する海魔へと飛び蹴りをぶつけ、着地と同時に背後に立つ人型へ裏拳をお見舞いし、海魔は身体を錐揉み状に身体を回転させながら川へと落下した。上ってくる様子は、ない。

 

 

『…ッ!?』

 

 

光太郎の力を垣間見て、警戒を強める海魔たちは距離を置く。闇雲に近づけば光太郎の餌食になると考えたのだろうか、一定の距離を保ち、進軍を止めた海魔達に対し、光太郎も構えを解かずに相対する。

 

だが敵の動きは直後に現れた。

 

 

「何ッ!?」

 

 

地面から飛び出した触手が光太郎の脚へ、手へと絡みつく。

 

思わず目を下へと向ける光太郎は、自身を縛る触手の正体が他の個体と違い、軟体生物のままであった海魔が地中を移動したものだったと気がついた時、光太郎を頭上から襲わんと鳥類型となった海魔が迫る。

 

 

「しまっ―――」

 

「詰めが甘いですよ光太郎」

 

 

敵の強襲に思わず声を漏らす光太郎だったが、静かな囁きと共に鳥類型の頭部を鉄杭が貫き、脳漿をまき散らして落下していく。敵の末路を見届けた光太郎は手足に力を込めて触手を引きちぎり、本体が潜伏しているであろう地点へ赤い光を灯した拳を突き立てた。

 

 

『ギィッ!?』

 

 

敵の断末魔が地中から響くと共にわずかに地面が揺れる。恐らく光太郎の攻撃を受け、地中で爆発したのだろう。

 

 

 

「ありがとう、助かったよメドゥーサ」

 

「どういたしまして」

 

 

飛行するロードセクターの操縦席から光太郎に迫る海魔へと鉄杭を投擲し、見事に命中させたメドゥーサは光太郎と背中合わせとなり彼に答えた。数えるのも下らない海魔に囲まれているというのに、メドゥーサの表情は柔らかい。

 

 

(身も心も、とても軽い。まるで羽のように、とても…)

 

 

こうして光太郎と一緒にいられるだけでなく、また戦える。それだけでも、彼女には負ける気がまるでしない。そう思えてしまう程であった。

 

 

(やっと、また隣に立てるんだな)

 

 

光太郎も同様だった。キングストーンの共鳴によって再度変身する事が可能となったが、今自分が力を取り戻す事ができた要因はそれだけではない。メドゥーサが隣にいてくれる。たったそれだけで、力が溢れてくる。そんな気がしてしまう。

 

 

 

「…いこう、メドゥーサッ!」

 

「はいッ!」

 

 

光太郎が腕を左右に展開し、ベルトの上で拳を重ねるとベルトの中央部が赤く発光。赤い光が右拳へと宿る。その拳を右側へと伸ばすと、背中合わせであるメドゥーサが左手を伸ばし、光太郎の拳へそっと手を重ねる。すると赤い光がメドゥーサの掌にも宿り、光太郎の拳から手を離れても継続的に光を放ち続けていた。

 

 

 

「トァッ!」

 

「ハァッ!」

 

 

同じタイミングで地を蹴る光太郎とメドゥーサ。一気に距離を詰めて放たれた光太郎のストレートパンチに身近で棒立ちの海魔の胴体を貫き、そのまま持ち上げると人型でありながら身長が3メートル近くある個体へラリアットの要領で叩き付けた。

 

爆発する2体の海魔に構わず、光太郎は次の敵へと狙いを定める。

 

 

一方、光太郎とは反対の方向へと駆けだしたメドゥーサは低空飛行で迫る鳥類型の額へと赤く光る左拳の指を伸ばし、敵の額へと突き刺した。

 

ズブリと頭部を両断させたまま手刀を胴体まで走らせ、振り下ろしたと同時に左右に分かれた海魔は爆発。同胞の最期を見てその場を離れようとした海魔たちだったが、直後に足の動きが鈍る。

 

脚だけではなく、腕も首も。動かなくなった訳ではないが鉛で縛られたように重い。

 

動きが封じられた海魔が最後に目にしたのは、妖しくも美しく、赤い瞳でこちらを見るメドゥーサが手刀を振り下ろす姿であった。

 

 

 

 

「…キングストーンの力に、弱まったとは言え任意の相手を石化させる魔眼。敵にとって最悪な組み合わせだな…っと!」

 

 

 

本来ならば無差別に石化させ、宝具を持って封印が施されていたメドゥーサの魔眼。しかし、キングストーンの力を取り込んだことで石化の呪いは封じられていたが、よもや石化の能力をコントロールできるまでに至るとは思いもしなかった慎二は驚きを口にしつつもトリガーマグナムの引き金を引く。

 

爆散する敵の煙を払い、接近する海魔に膝蹴りを決めると自分の背後で奇声を上げる別個体を袈裟斬りで沈めた桜の歓喜に近い声が耳に届く。

 

 

「きっと、愛の力ですよね!」

 

「あーこれが終わったら好きなだけ本人たちに追求してくれ…」

 

 

仮面の下でキラキラとした瞳で言っているであろう義妹の意見を受け流す慎二は続いて海魔へと照準を合わせるが、突然の地響きによってぶれてしまう。いや、そんなことよりもと震源である方角へと目を向けると…

 

 

「ちぃ…どうやら『奴』は変化を続けていたようだな…」

 

「何よあれ…反則じゃないッ!?」

 

 

夫婦剣で海魔を切り伏せたアーチャーに続き、霧の中で蠢く影を見上げた凛はそんな言葉しか浮かばない。

 

最初こそ円柱に触手が生えていただけに過ぎなかった大海魔であるが、触手の一部が腕となり、巨大な頭部を出現させた。そして地響きの原因…恐らく川の底に沈んでいたであろう無数の触手をまとめ上げ、結合させた事により太く、強靭な2本の脚を生み出し、立ち上がったのだ。

 

それこそ怪獣映画に登場する歩くだけで地震を起こしてしまう一歩を踏み出した大海魔は、ゴルゴンとなったメドゥーサに変わり、新都へと足を向けている。

 

 

「くっ!?まさかここでとは…」

 

 

飛行するスザクインベスの背に立ち、砲撃を続けていた武であったが、打ち出された攻撃は現在は火傷を負わせる程度にしかならない。

 

このままではいずれ人避けの結界の効力に関係なく、多くの人々にあの化け物の姿が感知されてしまう。

 

 

(こうなれば、奴の頭上に飛び乗り必殺技を近距離で放つしか…)

 

 

(聞こえますか…皆様?)

 

 

(っ…!?この声は…?)

 

 

 

まだ試していない…それも危険極まりない戦法に乗り出そうとする武であったが、スザクインベスに大海魔の真上まで飛ぶよう指示を出す直前、頭に声が響く。耳からではなく、直接脳へと呼び掛けるその声は、空にいる武だけでなく、地上で戦い続ける光太郎達へも聞こえていた。

 

 

 

「この声…ガロニア殿?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から数分前。

 

 

 

「なんて事でしょう…」

 

『巨大生物ハ新都ヘト向カッテイル。上陸スルノハ時間ノ問題ダロウ』

 

「何か、手立てはないのでしょうか。このままでは、皆様が…」

 

 

ライドロンの社内からモニター越しに光太郎達の戦いを見守っていたガロニアは胸の前で両手を握り、敵と戦い続ける光太郎達の無事を祈る中、ライドロンの車内で音が鳴り響く。

 

 

『コレハ…通信?アクロバッターヤロードセクタートハ違ウ信号ダ』

 

「え…?確か、あの2人以外に慎二様達の携帯電話でしかお話できないのでは…?」

 

『…秘匿回線。逆探知ニモ時間ガカカッテシマウナ』

 

 

自分の通信機器を特定し、傍受を妨げるプログラムを掻い潜って通信を送る相手に警戒するライドロンであったが、ガロニアは迷いなく通話ボタンへと指を伸ばした。

 

 

 

「勝手な行動を謝罪しますわ…ですが、今の状況で我々に対して通信してくるという事は何か有益な情報か、それとももう諦めろという降伏勧告。しかし今回の首謀者が木星の騎士ジュピトルスであれば回りくどい通信などいたしません」

 

『ナラバ、前者ノ可能性ガ高イトイウ事カ』

 

「その可能性に、ワタクシは賭けますわ」

 

 

やがて、ノイズが収まり、回線が安定するとライドロンの通信機へ落ち着きのある、男性の声が聞こえてきた。

 

 

『…こちらの通信に応えてくれた事に、まず感謝しなければならないな。私は…そうだな、今は『J』とでも名乗らせてもらおう』

 

「ごきげんようJ様。早速本題に移りたいのですが、よろしいですか?」

 

『それはこちらとしても話が早い。早速だが、今から転送するデータを見てもらいたい。おそらく、君達の役に立つ情報となるだろう』

 

 

こちらの弱みを見せぬよう、強めの口調で主張するガロニアに対してJと名乗る男は動じることなく、発言した通りにライドロンへデータの収まったファイルを転送した。

 

 

「ライドロン様…」

 

『…ウィルス等ハ含マレテイナイヨウダ。解凍スル』

 

 

こちらのコンピューターにダメージを与えるものではないと判断したライドロンはモニターへデータを映し出す。そこにあったものは…

 

 

「これは…サーモグラフィーですわね?」

 

 

物体から放射される赤外線を分析し、熱分布を図として視覚化した画像…それも対象は、あの大海魔なのである。

 

 

『理解が早くて助かる。それは、我々が衛星から撮影したものだ。それを見ると中央にある一点。そこのみが他と比べ異様に熱を発していることが分かる』

 

「確かに…」

 

Jの言う通り、画像にある分布図は、大海魔の中央部が高い熱を持つ眼球や心臓部よりも高温である事を記されている。さらに、ご丁寧にその一点から熱を全体に流しているという事もデータから理解できる。

 

 

「もしや…これがあの怪物の核だとするのなら…」

 

『その通りだ。そこを叩けば、倒す事も可能だろう』

 

 

希望を見出したガロニアではあるが、喜んでばかりはいられない。綻ばせた顔を引き締め、ブンブンと顔を左右に振って今一度Jへと問いかけた。

 

 

「それで、J様への見返りは、どうすれば宜しいのでしょうか?」

 

『見返り?』

 

 

確かにこれで敵を倒す糸口が見えた。だが、これ程の情報を無償で送られるとは考えられないガロニアは先手を打ったのだ。しかし、Jの解答に思わず妙な声を漏らしてしまった。

 

 

『そうだな…それでは、君達が勝利の二文字を勝ち取る、というのはどうだろう?』

 

「はぇ?」

 

『君の仲間達は、命を賭して戦ってくれる。ならば、我々にできる事は僅かながらでもそれを手助けするしかない。それでも、足りないぐらいだがね』

 

 

優しい声色を聞き、目をパチクリとするガロニアだが、その表情は穏やかなものへと変わり、顔は見えない協力者に対し頭を下げた。

 

 

「J様の心意気を疑うという無礼な振る舞い、誠心誠意謝罪いたします。同時に、感謝いたしますわ」

 

『…礼は不要だよ。我々も君達同様に祈り、掴みたいのさ。『人類の自由と平和』をね』

 

 

その言葉を最後に、通信が終わる。後はこの情報を光太郎達へと伝えるだけなのだが、戦いの渦中にいる彼等にライドロンの通信機から発信しても、携帯電話を手にする余裕はない。ならばと、ガロニアは後部座席に収納されていたある試作品を手に取った。

 

それはヘッドホンに幾層ものケーブルが巻かれているような形状の道具であった。

 

 

『ガロニア。ソレヲ使ウツモリカ?マダ十分ニテストヲシテイナイノダゾ?』

 

「もう、新都まで怪物がたどり着くまで時間がありませんわ。それに…これが、ワタクシに今できることなのですから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

(聞こえますか…皆様?)

 

 

 

「ガロニア、お前っ…!あれを使ってるのか!?」

 

 

眼前に迫る海魔へゼロ距離でトリガーマグナムを放つ慎二の声が荒れる。今、ガロニアの声が耳ではなく脳へと直接聞こえるのは慎二とメディアが共同して開発中であったある装置によるものだ。

 

 

思念送信機。

 

 

文字通り、人と人の会話を聴覚や口で行わず、思念のみで行う事を試みた機械。マスターとサーヴァントが念話で意思疎通を図れる事をモデルとし、ライドロンの開発以降、謎の発明癖を持ってしまったメディアと今後、いざと言う時の通信手段としての合作だったがのだが、一晩で組み上がった試作品に問題が生じてしまう。

 

装置は使用者の思念を無差別に送る事無く、心に思い描いた人間にのみ対象とすることが出来る。しかし、特定の人物達に思念を送る際に大きな負荷が脳に起きてしまうのだ。

 

距離が離れている程、思念を送る人物が多いほど、使用者への負担は比例して大きくなっていく。

 

 

だが、ガロニアは自身に伸し掛かる負担を覚悟して、装置を起動させたのだ。

 

 

 

(慎二様…お叱りは後程。今は、あの怪物を倒す手立てを見つけた事を伝えさせてください)

 

「本当ですかっ!?」

 

(はい…信頼できる筋からの、確かな、情報…です)

 

 

驚く桜へ自信を持って頷くガロニアの声は、段々と弱まりつつある。装置による負担が大きくなっているのだろう。敵を蹴散らしつつ、ガロニアがJたる人物から伝えられた敵の情報を耳にしたが、やはり最初に疑ったのは慎二とアーチャーであった。

 

 

「J、ね…あからさまに本名を伏せる奴は怪し過ぎるな」

 

「その点に関しては同感だな。我々を陥れようとしている可能性も考えられる」

 

「あんたらねぇ…」

 

 

疑い深い2人に対して怒鳴ろうとした凛であったが、その意見は一変される。

 

 

「けどまぁ、ガロニア(あいつ)が覚悟して伝えた情報なんだ。今はそれに乗るしかない」

 

「やれやれ…甘い事だ」

 

 

結局、謎の人物による情報よりも、ガロニアの捨て身の念話を信じて武器を構える2人に呆れつつも、身体を張った妹分に感謝しつつも、凛はありったけの宝石を手にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ロードセクターッ!ソーラーエネルギーを照射してくれッ!」

 

「光太郎。RXになって一体何を…いえ、貴方の事です。きっと無理をするのでしょう」

 

「うん。バイオライダーになれば、あの怪物の体内へ侵入できる。そして、ガロニアさんの伝えてくれた核を叩けば…」

 

 

光太郎の立てた、捨て身に近い案をメドゥーサは黙って聞いている。

 

その間に、上空からロードセクターによって照射された光により、光太郎の姿はBLACKから光の戦士、RXへと変わっていく。

 

 

 

ちなみに照射前にロードセクターが理解できない言葉を発していたが、2人の耳に届くことは無かった。

 

 

 

 

「…わかりました。しかし、条件があります」

 

「…内容は?」

 

「光太郎があの怪物へと飛び込むまで、同行させて下さい」

 

「それは危険だ。メドゥーサはここで―――」

 

「貴方が言ったのでしょう?光太郎」

 

 

光太郎の言葉を遮ったメドゥーサは、戦いによって傷だらけとなった手を、光太郎の手へと重ねた。

 

 

「貴方の傍にいるようにと。そして、好きなだけ意見するようにと。ですから、貴方から離れるという私の我儘を、決して譲りません」

 

「メドゥーサ…」

 

「それとも、早速も意見を変えるつもりですか?」

 

「俺の負けだよ…」

 

 

自分を見上げるメドゥーサの優しくも、少なからず悪意に満ちた瞳を見て光太郎は降参する。まるで勝てる気はしないと。

 

 

 

「じゃあ、行こうメドゥーサ。俺は、必ず帰って来る」

 

「必ず、ですよ」

 

 

決意を新たにした光太郎の手を強く握るメドゥーサ。互いにもう何の隔たりのない確かな繋がりを感じた2人に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議なことが起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ…!?」

 

「これは…!」

 

 

手を握り合う光太郎とメドゥーサの周りを光が奔流する。突然の現象に2人だけでなく、慎二や桜達も目を丸くする。

 

そして変化は続く。

 

 

光太郎の赤く輝く複眼とベルト…サンライザーがアメジストの如く、輝く紫色に染まっていく。

 

メドゥーサの外見に変化はないが、彼女の体内に聖杯戦争時と同様の…否、それ以上の魔力が渦巻き始めていた。

 

 

(これは…あの時と同じ…)

 

 

メドゥーサはかつて、光太郎が初めてRXとなった際に一瞬だけ自身の魔力が爆発的に高まり、敵を撃破した記憶がある。その後も自分と同様に、メディアやアーチャーも突然魔力が数十倍にも膨れ上がったと語っている。

 

 

以前から謎に思っていた魔力の増大。そして、ようやくその解答が得られたのだ。

 

 

 

(貴方だったのですね。光太郎…)

 

 

光太郎と思いを共にした時。同じ感情を爆発させた時に、それは起こる。

 

 

こちらの想像を、いつも超えた事を起こしてくれる。

 

 

今だって、不可能なんてないと、自分に思わせてくれるのだから。

 

 

「行きますよ、光太郎」

 

「あぁ!」

 

「ペガサスッ!」

 

「ロードセクターッ!!」

 

 

メドゥーサが手を真横に振るうと同時に出現した魔法陣。彼女の血液を用いずに展開された陣から閃光と共に彼女の子とも言うべき天馬が頼もしき咆哮を上げて現れた。

 

 

ペガサスへと飛び乗ったメドゥーサを見送った光太郎は、続いて高度を下げたロードセクターへと搭乗。急ぎメドゥーサを追走する。

 

 

 

 

耳に風を切る音を走らせながら、メドゥーサは黄金の手綱を、光太郎はサンライザーからリボルケインを顕現させる。

 

 

そしてリボルケインを真横へと構え、空いた右手で柄から切っ先をゆっくりなぞるとリボルケインはその姿を変えた。

 

 

リボルケインの象徴とも言うべき、青い輝きはそのままに、メドゥーサの握る手綱と見分けがつかぬほど同じ形となったのだ。

 

 

さらに上昇を続けながらも並ぶ2人は無言で頷きあい、メドゥーサはペガサスの頭部へ、光太郎はロードセクターのハンドルグリップへ手綱を装着した。

 

 

「ロードセクター…君にも付き合ってもらうよ。俺達の無茶に」

 

『私も自分の限界を知る良いチャンスに恵まれました。それに…これは初めてではありません』

 

「はは、そうだったな」

 

 

そんな会話を聞き、口元を緩めるメドゥーサに、光太郎は再度頷いて見せた。

 

 

同時に、上昇を続けていた2人は急旋回。地上から脅威となったと察知したのか、こちらを見て大口を開き、分身体である海魔を飛ばしてくるがもう遅い。

 

 

2人が手にした手綱は、騎乗した動物・乗り物のリミッターを外し限界以上の力を発揮させる宝具。

 

 

地表へと進む天馬とロードセクターはそれぞれ光へと包まれ、接近する海魔を次々と蒸発させた。

 

 

輝きが強まると共に加速し、地上から見る慎二たちにとっては、光の尾を引く流星と化した2人は互いに寄り添い、2色の螺旋となってガロニアの伝えた大海魔の中央…核であり、海魔の触媒である木星の騎士ジュピトルスの片腕が存在する箇所目指して超突進。

 

 

一筋の光となった光太郎とメドゥーサは、宝具の名を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 

騎英の手綱(ベルレフォーン)!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさに、一瞬だった。

 

 

 

 

最後の抵抗として腕となった触手で迎え撃とうとした大海魔が構えるよりも速く、光太郎とメドゥーサは大海魔の背後にいた。

 

 

 

そして無理が祟ったのだろう。

 

 

河川敷へと着地した光太郎の姿はBLACKへと戻り、ロードセクターはボディのあちこちから煙を上げている。メドゥーサは比較的無事であるが愛馬であるペガサスが消失したために、バタリと砂利へと落ち、息を乱しながら膝を付いてしまった。

 

 

だが、2人は背後に立つ大海魔を振り返る必要はない。

 

 

 

 

なぜなら、巨大生物の身体の中央には、大きな穴が。まるで最初からあったかのように、整った円が身体を貫通していた。

 

 

悲鳴を上げる間もなく、核を失った大海魔の身体は灰色となり、ボロボロと崩れ川の底へと沈んていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




てな感じで、前作からお付き合いして頂いている方ならばご存じであろう光太郎とサーヴァント組による合体技がようやく解禁!

が、時系列では姐さんが最初なんですが真の元祖は作中未だ登場してない御侍さんという事実…いつ出てくるんだろうなぁ(え)

お気軽に感想など頂けたら幸いです。

本年はおそらくこれで最後の投稿となるでしょう。皆さま、よいお年を!

来年もよろしくお願いします!



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