Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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あぁ…エグゼイドで監察医さんが一番好きなキャラだったのに…

次回のどんでん返しを願いつつ、76話です


第76話

目の前に現れた巨大生物の正体がメドゥーサであると間桐光太郎は即座に見抜いていた。

 

 

まるで異なる姿であっても、彼女がメドゥーサであると確信をもって彼女の名を口にした。

 

 

以前に彼女の過去を夢で見た時と、まるで同じ姿をしているという理由もあるが、そんな記憶に頼らずとも光太郎には分かってしまう。

 

 

分かって、しまうのだ。

 

 

だからこそ、今の彼女がいかに危険な状態であるかも。

 

 

 

 

彼女から感じられたのは、目に映るもの全てを殺しつくし、食らいつくそうとする狂気。光太郎は彼女が今の姿になってしまったかへの疑問はない。それも彼女の顔の一つであると知っていたから。その代わり、なぜ今まで見せる事のなかった殺意を全面に出してしまったかという点にある。

 

 

疑問に駆られる中、武の言葉で正気を取り戻した光太郎だが普段なら苦笑いを浮かべるだけで終えるロードセクターの軽口にさえも強い口調で抑え、飛行形態のロードセクターへと飛び乗り飛翔。

 

 

光太郎は叫んだ。自分の声が届くかどうかは分からない。それでも、ひたすら叫び続けた。

 

 

彼女の記憶を垣間見た時、あの姿となった彼女は既に『手遅れ』という状況だった。

 

 

最愛の姉2人の姿も見えず、声も届かず。

 

 

そして、飲み込んでしまった。

 

 

 

もう、メドゥーサにそんな事はさせない。そんな悲しみを背負わせない。

 

 

光太郎は呼び続けた。まだ彼女に少しでも狂気に捕らわれず、理性が残っているのなら。まだ自分を見失っていないのなら。

 

 

縋るような思いで叫び続ける光太郎にメドゥーサの声が届く。

 

 

自分の願いが通じたのかと淡い期待を抱いた光太郎の耳に響いたのは、心の何処か言われてしまうと覚悟をしつつも決して聞き入れたくないメドゥーサの願いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(わたしを…ころして…)

 

 

 

「何を…何を言っているんだメドゥーサッ!?」

 

 

 

やっと聞くことができたメドゥーサの言葉。

 

弱々しくも、確かに聞こえた声がそれだった。

 

なぜだ?どうしてだ?と疑問を抱くまでもない。

 

声に出して尋ねたのは、その答えから逃げる為。

 

 

魔物となったメドゥーサは、もう止まらないと光太郎は知っていたから。

 

 

夢で見た、ゴルゴンの姿となったメドゥーサはもう自力で止まることはない。

 

 

最愛の家族の声すら届かなかったのだ。

 

 

彼女が殺戮を止められたのは、その首を失った時…即ち、殺されてるまで止まることができずにいた。

 

 

今回魔物となって自意識を保っている事は奇跡に近い。しかし、いつまた殺意の衝動に飲まれて光太郎や慎二達を喰らおうと襲いかかるか分からないメドゥーサは、自分の意思があるうちに収拾をつけるため、接近した光太郎へ願った。

 

 

殺してくれるようにと。

 

 

他にもう、手段はないのだから。

 

 

 

(お願い…します。もう、時間がない。私はもう少しで、ただ殺す為に殺す化け物になってしまう…だから、その前に…)

 

 

「メドゥーサ…俺に、君を殺せと言うのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メドゥーサの巨大な眼に映る、光太郎が困惑する表情。分かっていた。自分を殺すように頼むなど、彼を苦しませるだけである事など。

 

 

あのペルセウスと同じ顔、同じ武器を持つ男に切り裂かれ、自身の体内に埋め込まれた宝具鏡像結界の袋(キビシス)により自身の奥底にあった殺意が大きく膨れ上がってしまったメドゥーサは何時光太郎に襲い掛かるかも分からない。

 

手遅れとなる前に自分は死ななければならない。

 

 

 

だが、それ以上に…

 

 

 

 

このような醜い姿を、光太郎に見られたくなかった。

 

 

愛する人に、血を欲する化け物である自分の姿など…

 

 

 

 

だから、一秒でも早く光太郎の手で自分の命を光太郎に終わらせて欲しい。こうしている間にも、鏡像結界の袋(キビシス)によりメドゥーサのドス黒い感情は膨れ上がっていく。

 

 

今ならまだ間に合うと、光太郎に頼んでも、彼は否定した。

 

 

 

 

 

「そんな事、できる訳ないだろうッ!!待っていてくれ、今すぐにッ…」

 

 

そう言って、両の拳を右頬の前で力強く握りしめる光太郎は変身を試みるが、メドゥーサには一目みれば分かる。

 

 

今の彼には変身する程の力は残されていない。

 

 

大方、無理をしてキングストーンの力を使い果たしてしまったのだろう。本当に、無茶ばかりをする人だ。いくら自分が強く言ってもその場で謝罪をするだけで、同じ事を繰り返す。

自分がどうなろうと、決して諦める事を知らずに挑んで行く。それが、間桐光太郎という人間。

 

 

こんな姿となった自分までも助けてくれようとする。

 

 

彼は自分にとって大事な―――

 

 

だいじな――

 

 

 

だイじな―

 

 

 

 

ダイジナ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイジナ…ショクジ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…力が入らない…」

 

 

やはりボスガンに負わされた怪我を変身時に強引に癒し、リボルケインを2本生み出すという無理が祟ったのかも知れない。

 

考えて見ればRXへと至るに必要な太陽の光もほんの一瞬しか浴びていなかった。ロードセクターによるエネルギーチャージも考えたが、ガロニアの護衛もあり、あの場を切り抜ける方法はなかった。

 

加え、現在空となっているのはあくまで『キングストーン』の力。RXとなる為の『ハイブリットエネルギー』はキングストーンと太陽のエネルギーが交わり、初めて誕生するエネルギーだ。現状でロードセクターから太陽エネルギーを照射されても、キングストーンが相当量の力を有していなければハイブリットエネルギーが精製されない。

 

 

焦りが加速する光太郎の頬に、暖かい液体がパシャリと水音と共に当たる。

 

 

「なッ―!?」

 

 

それが自分の肩から噴き出した血液だと理解したのは、激しい痛みに襲われ反射的に変身するための構えを解き、傷口を抑えてたと同時に、その原因とも言える蛇が…メドゥーサの身体の一部であるうちの一匹が光太郎の血肉を飲み込んだ光景を見た為であった。

 

 

口元から滴り落ちる血を細い下で舐めとった一匹に続き、次々と無数の蛇が光太郎へと顔を向ける。今まで大人しくしていたのは、メドゥーサの制御が行きわたっていたからなのだろう。

 

全ての蛇が、獲物を前にしたかのように鋭い眼光を光太郎に浴びせていた。

 

 

『どうやら味をしめられてしまったようですね』

 

「そう、らしいな」

 

 

 

ロードセクターと光太郎の会話を皮切りに、無数の蛇が身体をうねらせ、一斉に襲い掛かる。蛇の行き先をセンサーで察知したロードセクターは急上昇し脱するが、長い首を自在に曲げ有れる蛇たちにとっても急な軌道の変更など容易く、すぐ追い付かれてしまった。

 

 

『ところがぎっちょん』

 

 

変則的な動きに負けるロードセクターではない。口を大きく広げて迫る蛇達に対し、マシン下部に位置する着地制御用のバーニアから火をふかし、目くらましされたうちにその場を離脱。全方向から迫る蛇の動きを分析し、僅かな隙間を急加速することで強引に抜けていく。

 

減速なしの突然過ぎる反転や旋回など、運転する光太郎の安否を無視したトリッキーな動きに蛇達は翻弄され、中には蛇同士で絡まってしまう個体まで現れた。

 

動きをみせる度に『あまいな』『それは読んでいたさ』などいちいち言葉を発するロードセクターはふざけた言動に走りながらも、常に光太郎の状態に気をかけていた。

 

蛇の…メドゥーサの狙いはあくまで光太郎。改造人間ゆえあってロードセクターの飛行によって身体への負担はそれほど大きくはない。だが、先の戦いのダメージは拭いきれておらず、メドゥーサへ必死に呼びかけを続けている。

 

本来であればこの場を離脱し、主人である光太郎の身の安全を図るのが機械としての役割であるのだろうが、ロードセクターはそんなマニュアルに沿った動きは見せない。彼の望みは、今も自分と光太郎に迫る彼女を助けることなのだから。

 

彼を護ると同時に、彼の目的を果たす為に全力で補助する。

 

地表で慎二の背後に迫った海魔を引き飛ばすアクロバッターや、車内にいるガロニアを護るライドロン達と同じ願いであった。

 

 

『さぁマスター、続いて華麗なアクロバティックをお見せするとしましょう』

 

 

「…ほどほどにね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、よく避けるなぁあのバイク…バイクなのか?」

 

 

既に4袋ほどスナック菓子を消費したアルスはどこぞで入手した双眼鏡を片手に5袋目となるわさび味が売りであるスナックを口へと放り込み、戦況を見守っていた。

 

 

「しかし、まだ『本体』が動いてない、か…余程自制の聞く奴だったんだろうが…」

 

 

 

 

 

 

「そろそろ限界だな」

 

 

 

 

 

 

アルスの言う通り、これまで微動だにしなかったメドゥーサの本体が僅かながらも移動を開始。行く先は…新都だ。

 

 

「いけない…!メドゥーサッ!!止まってくれッ!!」

 

(まだ…分からないのですか。もう私は…止まれない。もう…止まれないのです)

 

「メドゥーサ…それでも、俺は―――」

 

 

君を止める。

 

 

そう叫ぼうとした光太郎の口がピタリと動きを止めてしまう。いや、口だけではない。首も、腕も、足も。まるで動かないのだ。光太郎の身体が『石』にでもなってしまったかのように、固まってしまったのだ。

 

 

 

(ま、まさか…)

 

 

見れば、メドゥーサの巨大な瞳…石化の呪いが放たれるキュベレイが怪しげな光を放ち、光太郎の身体を硬直させてしまっていた。キングストーンの力が弱まり、加護が受けられない光太郎はメドゥーサの魔眼に抗う手段もなく、依然旋回飛行を続けるロードセクターのハンドルグリップを握り続ける事などできる訳もなく。視線をメドゥーサに向けたまま川のど真ん中へと落下していった。

 

 

自分の名を叫ぶ仲間達の声がかすかに聞こえるが、光太郎はメドゥーサの声しか聞こえない。

 

もう、諦めてくれと願う彼女の悲しい声が。

 

 

 

(もう…分かったでしょう?私はもう、目の魔力すら抑えられない。見た者全てを石に変え、血を飲む悪鬼となるのです)

 

 

(だから…貴方は立ち上がれる。私の魔眼を破り、私を倒す力を取り戻す)

 

 

 

これは、メドゥーサにとっては賭けだった。

 

 

力の弱まった光太郎を再び変身させるためには、逆境の中で彼の持つ力を爆発させるしかない。光太郎の戦う姿を見てきたメドゥーサだから分かるのだ。シャドームーンに追い詰められた時のように、創世王を倒した時のように。きっと彼は自分の呪縛を破り、立ち上がる。

 

 

そして…多くの人々を自分から守るのだと。

 

 

 

 

 

 

 

(光太郎…)

 

 

 

 

 

 

 

(貴方は、貴方が大切に思う人達を守って下さい。これからも…)

 

 

「…ッ!?」

 

 

 

 

光太郎の目に、そんな言葉を笑顔で自分に伝えるメドゥーサの顔が浮かんだ。

 

 

涙を流して、笑っている顔を。

 

 

そんな彼女に手を伸ばせないまま、光太郎は川へと落下。巨大な水柱が生まれた後、そこから光太郎が浮かび上がる様子は、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光太郎殿ッ!?今そちらに…くッ!?」

 

 

スザクインベスの背に乗り、大海魔への攻撃を続けていた赤上武であったが、巨大な触手による攻撃を回避しながらの射撃にあまり効果は見られない。それに加え、どういうカラクリか攻撃を受けた箇所は即時再生。もしくは身体を経由して這い上がってきた海魔が傷口へと張り付き、身体の一部と化してしまう。しかも強度が増すというオマケ付きだ。

 

距離を詰めて火縄大橙DJ銃の大剣状態での必殺技を叩き込みたいところだが、技を放つ際に自分の身体から漏れる余剰エネルギーによってインベスを傷付ける可能性すらある。

 

大海魔は自分や河川敷で個体と戦闘を続けている慎二や桜達に狙いを定めてくれてはいるが、抑えるだけで光太郎の援護にも迎えない。これが敵に狙いだとすれば、思惑通りに事が進んでいると嫌らしい笑みを浮かべている事だろう。

 

 

「どうにかしなければ…」

 

 

武の視線は光太郎が沈んだ川と、新都へと進むメドゥーサへと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺の…大切な人々…)

 

 

水中で時間と共に沈んでいく光太郎に聞こえたメドゥーサの切なる願い。

 

彼女の言葉を聞いて以降、ゴルゴンとなったメドゥーサと止める為に様々な考えを巡らせ、迷いがあった光太郎の胸の内に、ある感情が滾る火の如く大きくなっていた。

 

高ぶる度に失った感覚が戻り、力がみなぎる。相変わらずキングストーンの力は弱弱しいが、そんな事は関係ない。

 

水中で揺らめく月を見上げる光太郎へ、証明のような光が当たる。見れば形状を変えたロードセクターが後部のスクリューを回して光太郎へ接近していたのだ。

 

 

 

『第三の形態サブマリンモード…アクロバッターがマックジャバーへと変身した際に死に設定となるはずでしたが以外な出番がありました』

 

(自分で言ってしまうんだ…)

 

 

翼やノズルを収納し、展開したアタックシールドからさらに強化ガラスで操縦席を覆うその姿はまさしく小型の潜水艦。はたしてこのバイクはどこまで隠された機能があるのであろうか。

 

 

そして余裕を取り戻した光太郎はロードセクターのボディに触れる。それだけで、ロードセクターは光太郎の考えを理解した。

 

 

『まだ、諦めないのですね』

 

 

無言で頷く光太郎の口から、僅かながら空気が漏れて地上目がけて昇っていく。

 

 

『いいでしょう。向かおうではありませんか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもうしつこいッ!!こいつらいつになったら打ち止めなんだよ全く!!」

 

「やはり本体を倒さない限り、止まらないんでしょうか…?」

 

 

河川敷でなおも続く海魔との戦い。一匹一匹はさほど力もなく、慎二も身体への負担が大きいトリガーマグナムでの射撃を減らし、徒手空拳で海魔を撃退していた。さらにトリガーマグナムは硬度の高い金属で作られていると気づき、接近した海魔を銃床で真上から叩き付ける光景を見て、桜は力を貸してくれたという面識のない探偵二人に詫びを入れたという。

 

そして桜は黄色の指輪を使用。指輪の色に合わせ、仮面とボディが黄色に染まったフォーム…ガイアスタイルとなり河川敷の土を盛り上がらせては海魔達へと降り注ぎ、圧死させるというとんでも技を披露。慎二は桜に力を貸してくれたという面識のない魔法使いになんてモノを押し付けてくれたんだと恨み言を言いたくなったという。

 

 

そんな2人を見て未だ現実に戻れない遠坂凛をゲンブインベスと共に護衛するアーチャーは、本日2度目の水柱を目撃する事となる。

 

ただし今度は落下によるものではなく、水中から急上昇によってのものだ。

 

 

 

ロードセクタースカイモードに乗る間桐光太郎。決意を込めた目で新都を目指すメドゥーサに向かい、再び彼女の名を叫んだ。

 

 

 

 

 

「メドゥーサッ!!」

 

 

 

(決心…して、くれたのですね)

 

 

「あぁ…決めたよ、俺は!」

 

 

 

 

殺意に飲まれていくメドゥーサの意思は、安堵する。

 

 

そう、これでいいのだと。

 

 

未だ変身する程の力はないのかも知れない。それでもきっと光太郎は自分を倒してくれる。

 

 

もうこれ以上殺意を抑えることはない。

 

 

そうして、残ったメドゥーサの意思はゆっくりと深淵へと沈んで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ…頑固者おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくはずもなく、むしろ殺意そっちのけで目を見開いてビビッてしまった。

 

 

 

罵倒である。というか悪口である。

 

 

 

それは他で戦っていた者、傍観してた者も同様であり、本能のまま戦う海魔ですら光太郎の咆哮に驚いて上を見上げる程だ。

 

 

 

 

 

 

「意地っ張りッ!石頭ッ!ええっとそれから…が、頑固者ッ!!!」

 

 

 

どこか言葉を選びながら叫ぶ義兄の姿に、肩を並べて見上げる義弟と義妹は、あるがままの言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、罵倒のレパートリー少なすぎだろう。普段他人を罵ることしないし」

 

「はい…しかも、同じことを言っちゃいましたね…」

 

 

 

「あんたらまずこの状況で悪口を口走る兄の奇行を疑いなさいよッ!!!」

 

 

復活した遠坂凛渾身の叫びを上げる姿にただ1人冷静でいるアーチャーは見た。新都に向かっているはずだったメドゥーサが動きを止め、光太郎が飛行する方へと身体を向けている姿を。

 

 

(もしや…これが狙いだと言うのか?間桐光太郎…)

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、ハハハハハ…何を血迷ってあのような戯言を…そんな言葉、もうあの化け物に届くはずが…」

 

「いや…そうでもないらしいぞ」

 

「はぃ?」

 

 

鉄橋で光太郎の行動に一瞬驚きはしたものの、すぐに冷静さを取り戻したジュピトルスであったが、隣にたつマキュリアスが無表情のまま指さす方へと目を向けると、震えている。

 

 

あのゴルゴンの化け物が震えているのだ。

 

 

それは恐怖による震えなどではない。

 

 

どちからと言えば…「怒り」だ。

 

 

 

 

 

『な、何をこんな時にそのような言葉を…それに、私のどこが頑固なのですかッ!?』

 

 

「だってそうだろうッ!!君が持っているマウンテンバイクが不調だって時に変わりの自転車を使えと言ってもこれでなければダメだと断るし、食卓に納豆と梅干が並んでも絶対手を出さないじゃないかッ!!」

 

 

『それを言うのなら貴方だって幼少から苦手の漬物をこっそりシンジに食べて貰っているではないですかッ!?』

 

 

「お、俺の話はいいじゃないかッ!?」

 

 

『先に言ったのは光太郎の方ですッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…なに?口喧嘩…?」

 

「よもやあんな状態で痴話喧嘩を繰り広げるとは、恐れ入ったよ全く」

 

 

ああ言えばこう言うの応酬が続く光太郎とメドゥーサのやり取りに、もう眉間を指で押さえる凛とは対象にアーチャーは関心を示していた。

 

 

もしかしたら気づく者もいるかもしれないが、光太郎の言葉に反応して以降、メドゥーサが持つ殺意の衝動は徐々に失われている。敢えて暴言を浴びせる事によってメドゥーサに呼び掛けて殺意を薄ませる。もしこれを考えての行動であったのなら、彼女の理性を取り戻すためだとしたら、本当に大したものだ。

 

そして恐らく同じ心境にいるだろう彼の兄妹へと目を向けて見ると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん…説明して貰えますか…?」

 

「いやあの…利害の一致と言うか…」

 

「なら、慎二兄さんの苦手なものを光太郎兄さんが代わって食べていたということですか…」

 

「…はい」

 

 

 

 

 

なにやら別の戦いが始まっていた。

 

正座する慎二を腕組みする桜が見下ろす形ではあるが、どちらも仮面ライダーの姿であるのでどうも決まらない。

 

しかも桜は宝石のように美しい仮面とは裏腹に、背後で真っ黒なオーラを纏っているため海魔すら後ずさる始末だ。

 

 

 

アーチャーは見なかったことにして、その視線を光太郎達へと戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに言いたい放題である光太郎とメドゥーサ。

 

その中で普段は気にする素振りすら見せない所まで言い合いになる中、感情のまま怒声を響かせる光太郎は、戦いが始まる直前まで自分の話を聞いてくれた幼馴染みである紫苑良子のアドバイスを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――光太郎君が今、メドゥーサさんとすべき事…

 

 

 

 

―――思いっきり喧嘩しちゃいなさい!

 

 

 

 

―――と、言っても殴り合いなんかじゃないわよ。そう、口喧嘩ね

 

 

 

 

―――多分だけど、光太郎君の事だから何かあっても悪いのは自分だ、原因は自分にあるっていつも謝ってばかりなんでしょう?

 

 

 

 

―――それは潔く見えるようだけど、反対に本当に自分の話を聞いてくれているのかって不満に思われてしまう事があるの

 

 

 

 

―――そして言い返して欲しい。自分に話して欲しい。ちゃんと、自分と向き合ってほしい

 

 

 

 

―――そんな願望が隠れている時もあるものよ

 

 

 

 

―――それにお互い言いたい事を言い尽せばガス抜きにもなるし、不満も少なからず失われていく

 

 

 

 

―――悪い方向に囚われがちだけど、喧嘩というのは決してデメリットだけではないわ

 

 

 

 

 

―――そうやって喧嘩しているうちに、今まで知らなかった事も見える時もある

 

 

 

 

 

―――だから光太郎君?

 

 

 

 

―――今度メドゥーサさんに怒られたときは、思いっきり言い返してやりなさい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ああ、本当に言う通りだよ、リョウちゃん。本当に、こうしてメドゥーサの本音を聞く事が出来る。言うことが出来る)

 

 

 

感情をぶつけ合って、得られるものが確かにある。自分の癖に対しての辛辣な評価もあれば、自分のこんな所まで見ていてくれたのかと。不謹慎ではあるが、嬉しさを感じてしまう光太郎だったが、それは全てが終わった後の話だ。

 

 

今、これから光太郎はもう一つの賭けに出る。

 

 

 

 

「メドゥーサは俺に自分を犠牲にするなと言うけど、今のメドゥーサこそ自分を犠牲にしてるんじゃないかッ!!」

 

 

『っ…!それは光太郎も知っているでしょう!もうこの姿になってしまえば、私は…』

 

 

「メドゥーサッ!!!」

 

 

 

これまでにもない大声でメドゥーサの言葉を遮った光太郎の続く言葉にはもう怒気はない。むしろ、興奮状態にあるメドゥーサを包み込むような、優しさが含まれていた。

 

 

 

 

 

「君は言ったよね…俺に、俺の大切な人々を守るようにと。なら、その中に、君もいなくちゃいけないんだ」

 

 

『光太郎…私は…』

 

 

「だから、俺はこれからも大切な人々を守っていく。その為に戦っていく。でも、隣に君がいないとその約束は守れない」

 

 

『こう、たろう…』

 

 

 

徐々にだろうか。彼女の殺意が無くなっていくと同時に彼女の中で湧き上がる力と、それを邪魔する何かが見える。恐らく、あれがメドゥーサを狂わせた元凶なのだろう。

 

 

 

「以前、言ったよね…君が俺を守る代わりに、俺が君を守ると。そして、互いに遠慮しないって」

 

 

『……………………』

 

「けど、その約束はいつの間にか薄れていた。一緒にいる事が当然見たいに思えて、互いに分かり切ったつもりになって、話す事ができなくなっていた…」

 

 

 

だから、こじれ始めてしまった。互いに説明もせず、反論もせず、そして、目を逸らしてしまった。

 

 

 

「だから、俺はもう遠慮しない。これかも、きっと今以上に無理をする!そしてメドゥーサに心配をかけるし、怒られる!そして、メドゥーサには容赦なく言って欲しい。これからもずっと」

 

 

 

繋がっていく。かつて、聖杯戦争時に強く結ばれ、今では僅かながら感じる事のできなかった、2人の繋がりが。

 

 

 

「だから、戻ってきてくれ。いや、違う―――」

 

 

 

意を決した光太郎は叫んだ。『お願い』するのではない。完全な自己都合であり、我儘である。自身の本心を叫んだ。

 

 

 

 

「戻ってこいッ!!俺の隣にッ!!!メドゥーサァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

僅かな静寂な後。ゴルゴンの巨体は閃光へと包まれる。

 

 

その赤く、暖かい輝きに慎二と桜だけではない。凛とアーチャーにも見覚えがあった。

 

 

 

 

 

「キングストーンの光…」

 

 

 

 

 

聖杯戦争時。魔術回路を持たない光太郎は祖父により手の甲に刻まれた令呪を通して体内に宿るキングストーンの力をメドゥーサに注ぐ事によって現界させていた。

 

時間の経過に連れて2人を繋ぐパスは魔力以上に強まり、令呪無しでもメドゥーサを現界させるに至っていた。さらに彼女の身体に満ちた力は疑似的ながらもキングストーンと同様の力を扱えるようになっており、創世王すら危惧を抱かせるものだった。

 

 

今回、光太郎が賭けたのは僅かながらも残る彼女の意思がキングストーンの力を発揮させ、メドゥーサの身体に巣食う敵が仕掛けた宝具を取り払うというもの。

 

 

しかし、結果は光太郎の予想を遥かに上回るものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、無理な事ばかり思いつく人ですね。貴方は」

 

「ごめん」

 

「謝らないで下さい。こうして、また貴方の隣に立つ事が出来たのですから」

 

 

 

 

 

 

それはいかなる奇跡だろうか。

 

 

 

光が止み、月夜が照らす下でゴルゴンの姿はなく、浮遊するロードセクターの上には2人の人物がいた。

 

 

 

戦闘装束となり、美しく長い紫色の髪を風に靡かせ自分に謝罪した人物に抱き上げられているメドゥーサ。

 

 

そして彼女の放ったキングストーンの力が共鳴し、フルパワー状態となった光太郎…仮面ライダーBLACK。

 

 

 

本来ならばもう向き合えるはずのない2人の姿が、ここにある。

 

 

 

「光太郎…言いたい事、話したい事が山ほどありますが…」

 

 

「ああ、先にあの怪物を倒そう…2人でッ!!」

 

 

 

 

光太郎の意気込みに応じるかのように、キングストーンはさらなる輝きを放つのであった。




まぁ、喧嘩も悪い事ばかりじゃないって事です。

次回、ついにアレをやります。アレをね…

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