Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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ああ、今日は駅伝でしたね…

冒頭からねつ造というか原作とは違った展開となっている71話をよろしくお願いします!


第71話

間桐桜という少女と初めて会ったのは、衛宮士郎が中学生の頃。

 

 

 

色々と息詰まる出来事が重なり、陸上部の許可を得て高跳びを永遠と繰り返していた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時頃から見られていたかは分からない。

 

 

校舎の窓から士郎が助走し、棒を背にして地を蹴る直前までの行程を手に汗握る観客のように見守り、棒が身体に触れて士郎と共にマットへ落下すると自身が失敗したかのように下を向く。

 

 

そんな感情表現が豊かである観客の姿に気が付いた士郎は、ただ自身の行動に一喜一憂する少女に、何故か応援されているように見えてしまった。

 

 

士郎が何度も起き上がり、飛べないという結果を出すに合わせて、次こそはという期待、跳躍までの興奮、失敗した時の落胆を繰り返している。

 

 

これはいつまでも失敗できない。

 

 

見守ってくれる少女の期待に応えようと力み過ぎたのか、士郎は跳ぶ目測を誤り高跳び台へと衝突し、音を立てて落下してしまった。

 

直ぐに立ち直ろうとしたが針で刺されたような痛みが足首に走る。靴下を捲り、赤い腫れを見てやってしまったかと痛みに耐える士郎は自分を見守ってくれた少女がいた廊下を見ると、既にその姿はない。

 

どうやら期待に応えられなかった自分に愛想を尽かされたかたと苦笑する士郎はこの後どう高跳び台を片づけるかと痛みが引かないまま立とうとした時、こちらへ駆け寄る者の姿を目に捉えた。

 

 

「あの子…」

 

 

見れば、窓越しに士郎の飛ぶ姿を見つめていた少女が両手で救急箱を携え、茫然とする士郎の隣に座ると処置を始める。大丈夫だと言おうと士郎だったが、窓の奥から眺めていた表情とは打って変わり真剣な顔で治療する姿に口をつぐみ、少女へと全てを委ねたのであった。

 

 

 

「はい、これで大丈夫です!」

 

「ありがとう。随分と手際がいいんだな」

 

「ええ。兄さんがよく怪我をして帰って来るのでそれで…でもすぐに治っちゃうんですけど」

 

 

段々と尻すぼみする少女の言葉に後半は何と言ったか聞き取れなかった士郎であったが、何にせよこうして手当をしてくれて助かったと感謝せねばならない。早速感謝を伝えようとしたが、少女は救急箱の蓋を閉めると失礼しますと一言添え、携帯電話を耳に当てる。

それから相手と2,3言葉を交わすと士郎が使用した高跳び用のバーを拾い上げた。少女の意図を察した士郎は慌てて少女を引き留める。

 

 

「な、なぁ。それは俺が使ったものなんだ。だから後片付けなら俺が…」

 

「いけません!ただ湿布を貼っただけなんですから変に負担をかけてはダメです!それにお手伝いをお願いしたから先輩はそこでじっとしていて下さい」

 

 

お、応援って…とその時自分を先輩と呼ばれてたことで少女が後輩であると理解した士郎はパタパタとバーを掲げて体育倉庫へ走って行く後輩の後ろ姿を眺める事に夢中だったのか、背後に立つ人物の接近に気づけなかったようだ。

 

 

 

「怪我人がいるからお手伝いお願いしますと来てみれば…よりにもよってお前かよ」

 

「え…?間桐…?」

 

 

見上げると、癖のある髪型をした同級生、間桐慎二がポケットに両手を突っ込んだまま慎二を見下ろしている。

 

 

1年時の文化祭準備期間中。士郎からしてみればちょっとした諍いを止める為に看板の修理を押し付けられた彼の傍に立ち、「何あんな無能な連中に使われてるんだよ」などの悪態をつきながらも手伝ってくれた同級生。

 

それが縁で何かと話すようになった、まだ下の名前で呼ぶような仲ではない少年は深く溜息をつくと士郎の横を抜け、高跳び台を持ち、体育倉庫へと向かっていく。

 

 

「おい、それは…」

 

「妹から聞いてないのか?お手伝いだよ僕は…」

 

 

ったく、何で僕がとブツブツと言いながら片づけに向かう途中、倉庫の中からピョコリと顔を出した桜を発見した慎二は尾を振る子犬のように近づく妹の額を指先で弾く。「あぅ!」とかわいらしい悲鳴を上げ、上目づかいで睨む妹など眼中に入れず無言で体育倉庫の中へと消えていく。

 

 

 

「兄妹…だったのか」

 

 

彼とは良く話すようになったが、妹がいるとは知らなかった。

 

やり取りを見るからに…それどころか妹の呼び出しにこんなにも早く応じる事から関係は良好なのだろう。弾かれた額を片手で抑え、残る手で倉庫から引っ張り出した台車を押して士郎へと向かう少女。恐らくマットをこれで運ぶつもりなのだろう。

 

 

「うぅ…ひどいです慎二兄さん」

 

「あの、なんだか悪いな。手間かけさせちゃって。ええと…」

 

「あ、そう言えば挨拶がまだでしたね」

 

 

 

 

 

「私、間桐桜と言います!」

 

 

 

 

 

 

夕日に照らされた彼女の笑顔は、ただ眩しかった。

 

 

 

 

それから彼女に何かお礼をさせてくれと伝えたら料理を教えて欲しいという切実な願いから今の関係に至っている。

 

 

自分以外が傷つくことを極端に嫌がる…いや、怖がると言った方が正しいのかもしれない。聖杯戦争後に実姉である遠坂凛から聞かされた間桐と遠坂の盟約。それににより、桜は幼い頃に本当の家族と引き離され、会う事を禁忌とされていた。

 

だが、彼女と同じく養子となった光太郎と接する事で、家の中で孤独となることなく成長を遂げた。

 

その光太郎から言わせれば、自分は桜のおかげで人としての感情を思いだしたと聞いた事もあり、間桐兄妹は血の繋がりはなくとも支え合いながら生きてきたのだと少し羨ましくも思えた。

 

そんな事真に受けるなと言い張った慎二も決して口に出さないが義兄と義妹の存在がなければどうなっていたかわからないと口から漏らし、今のは忘れろと必死になったのが微笑ましい。

 

ただ優しいだけでなく、どのような絶望を叩きつけられても、希望を持って跳ね返す意思の強さを持った少女。

 

 

 

 

 

だからだろう。

 

 

彼女が義兄と同じ戦士へ姿を変えても、驚き以上に納得してしまったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、仮面ライダー…」

 

 

 

仮面ライダーメイガスと名乗り、変身を遂げた桜の姿にパーカスは嫌な汗を拭う。非力な人間を追い詰め、自身の好きなように痛めつけるだけと聞かされていたパーカスにとって、クライシス帝国最大の敵と同じ名の戦士とは相手が悪すぎる。

 

ここは安全圏から追い詰めるしかないとパーカスは引き連れたチャップ・怪人素体たちの後方へとジャンプし、未だ催眠状態にある学校の生徒や教員たちに命令を下す。

 

 

「さぁお前達!仮面ライダーへ一斉に攻撃を仕掛けろ!!」

 

「なッ…!」

 

 

パーカスの指示に従い、学校内から持ち出したであろうスコップやパイプ椅子等を掲げると桜に向かい走り出した。声を荒げ、敵の取った非情な手段に彼女を助けよと足に力を込めるが、ダメージの蓄積により立ち上がれない。

 

 

「くっ…」

 

 

ただでさえ力が強まってしまった桜が仮面ライダーへと変身したのだ。誤って攻撃を…下手をすれば触れてしまっただけで一般人は大怪我を負ってしまう場合だってありうる。

 

 

だが、士郎の抱く危惧は杞憂に終わる。

 

 

 

「っ…」

 

 

静かに息を吐くと同時に、桜も生徒たちに向かい走り出した。桜の行動には士郎も、敵であるパーカスすら予想外である。黒いロングスカート靡かせて駆ける桜と先頭を走る生徒…蒔村楓の攻撃により倒れていたはずの柳洞一成の振り下ろしたスコップを僅かに身体を逸らすだけで回避。一成の横をすり抜け、続けて迫るジャージ姿の男子2人が同時に仕掛けた攻撃への対処に移る。

 

武器を持つ手首をそっと掌で押し、軌道を逸らし空ぶった途端に2人の間を抜け、さらに迫るイーゼルを持ち上げた女子生徒の追撃を右足を軸に反転したことでかわす。

 

生徒たちに一切危害を加えることなく、全ての攻撃を避けた桜が群れを抜けた時、それは起こった。

 

 

「な…に…?」

 

 

最後尾の生徒が竹刀で繰り出した突きを手首を弾き、竹刀を宙へ舞う間にすれ違った直後だ。先に攻撃をした一成を始めに、次々と生徒たちが膝を付き、土埃を起こして倒れていく。桜は攻撃を回避し、生徒たちの間を抜けただけでなく首筋に当身することで意識を奪っていたのだ。

 

 

(あんなにもいた人間の攻撃を最小限で回避しながら、そんな事を…)

 

 

眼前に迫った凶器を刹那で回避し、次に来るであろう攻撃を肌で感じる。そして楓たちの意識を奪った際にみせた加減をさらに調整しての当身。これも彼女の五感が異様に発達してしまった故にできた芸当だろう。桜は恐れていた自身の力を仮面ライダーとなったことにより完全に使いこなしている。

 

 

 

「ちぃ…だかな。お前はただ動けぬ人質を増やしたに過ぎん!」

 

 

戦力を半数以上失ったパーカスは、残るチャップ達を倒れた学生たちに向かわせる。意識を失った人間を逆に人質とし、桜の動きを封じようという魂胆なのだろうが、動きは桜の方が早かった。

 

バックルの左右にあるレバーをスライドさせ、手を象ったバックルが反転。右手の形から左手の形へと切り替わる。

 

 

 

 

≪ルパッチマジックタッチゴー!ルパッチマジックタッチゴー!…≫

 

 

 

 

変身時とは異なった音声が流れる中、ベルトの側面にマウントされたホルダーが指輪を取り外し、右中指へと嵌めた桜はバックルへと翳す。

 

 

 

 

≪プロテクション、プリィーズ!≫

 

 

 

 

バックルの中央にうっすらと魔法陣が浮かび、指輪をはめた右手へ光を宿らせ、チャップ達の標的となった気を失った人々へと向ける。桜の手から光球が放たれ、生徒達の真上へ到達するとさらに光が強くなった直後、魔法陣へと変改。魔法陣は円柱型の結界を形成し、人々をすっぽりと包んでしまった。

 

 

「うわぁっ!?」

 

「ち、近づけない…?」

 

 

結界を乗り越えようと体当たりやライフルの引き金を握るチャップ達だった。突破できず弾かれるか、反射された弾丸の餌食となるしかない。

 

 

まさか、あのような強力な魔術を扱えるとは…茫然とするパーカスの耳に、凛とした桜の声とさらに魔術を発動させた音声が届く。

 

 

「もう、関係のない人達を巻き込む事は許しません!」

 

 

≪コネクト、プリィーズ!≫

 

 

 

 

桜のアンダーワールドで操真晴人が見せた空間操作の魔術。

 

桜の真横に展開した魔法陣の向こう側である亜空間から桜が取り出したのは、長物の武器。

 

 

反り上がった刃と鍔元には握り拳を思わせる黒い装飾。頭上で数度回転させ、石突を校庭へと叩き付ける。

 

銀色に輝くそれは、薙刀のそれに近い形状の武器であった。

 

 

 

 

 

「はぁッ!」

 

 

 

掛け声と共に武器を一閃。

 

 

2体のチャップを真横に振るった薙刀で吹き飛ばし、背後から棍棒を構える怪人素体の眉間へ石突をめり込ませる。

 

 

ならばと前後左右から同時に迫るチャップ達であったが、桜は棍棒の雨を受ける寸前に飛び上がり、グルグルと身体を回転させながら着地。

 

敵へと振り返りながら薙刀の鍔元にある拳型の装飾を展開。親指を起こす事で左平手となったことで音声が鳴り響く。

 

 

 

 

≪キャモナ・スラッシュ・シェイクハァンズ!キャモナ・スラッシュ・シェイクハァンズ!≫

 

 

 

 

桜はハンドオーサーを左手で握り、魔力を薙刀へと送り込む。指輪を通して桜の魔力は炎へと変換され、刃を纏う。

 

 

 

 

 

≪フレア…≫

 

 

 

 

≪スラッシュストライク!メラ・メラ・メラァッ!!≫

 

 

 

 

「ヤアァァァァァァッ!!」

 

 

高熱と炎を放つ薙刀を構え、真横へ振るうと共に片足を軸に一回転。

 

 

桜の放った攻撃は炎の衝撃波となり、間合いにいたチャップだけではなく、離れて銃器を構えていた怪人素体すらも奔流に巻き込まれてしまった。

 

 

薙刀の石突を今度は静かに地面へと着けた時には、彼女の周りに立っている敵は存在しなかった。

 

 

 

 

 

「すごい…」

 

 

桜の戦闘力に、そんな言葉を漏らすことしかできない士郎。彼女は元々魔術師としての素質は十分にあり、なおかつ光太郎の元で戦いの手解きを受けていた。そんな彼女が仮面ライダーとなったのだから、もはやこの場で勝利を収めたも当然だと気持ちが振るい上がった、その時だった。

 

 

 

 

「は…ぁ…」

 

 

 

ガシャン、と音を立てて薙刀が落下としたと同時に崩れ落ちる桜。どうにか両手を地面について身体を支えて倒れる事は免れたが激しく両肩を上下させている。

 

 

「桜ッ!!」

 

 

立てる状態まで回復した士郎は彼女を介抱しようと向かっていくが、士郎よりも先に敵が彼女を見下ろす形で立ち尽くしている。今まで安全圏から戦いの行く末を眺めていたパーカスがここぞとばかりに桜の襟を掴み、乱暴に持ち上げていく。

 

 

「うぅ…」

 

「キキキキキ…どうやらまだその力を完全にものとした訳じゃあなさそうだなぁ小娘。俺には見えるぞぉ…お前の中で不必要な程の膨大な魔力が渦を巻いて、お前の動きを鈍らせているのがなぁ」

 

 

パーカスの予測通り、桜は変身に使用する指輪にセットされた魔法石と呼ばれる鉱石の影響でさらに魔力が増強。そして指輪を通して魔力を織り交ぜた攻撃を発動させる際の消費と回復の繰り返しが、まだ桜の肉体に馴染みきっていないのだ。

 

 

「そんな中途半端な奴に、この俺様が敵うわけねぇな…カァッ!!」

 

「キャアアアアアァァァッ!?」

 

 

パーカスの口から発射された魔力弾をゼロ距離でぶつけられた桜は吹き飛ばされ、校庭を二転、三転と転がる事でようやく止まる事ができた。立ち上がろうと震える腕に力を込めるが、体内で溢れる魔力によって全身に痛みが走り、上手く立ち上がれない。

 

そんな桜へ追い打ちをかけるべくパーカスは目を全開まで見開き、円型の波を桜へと放つ。

 

 

「キキキキキ…俺にも魔術の覚えがあってなぁ…あの人間どもを操る催眠術なんて生ぬるいものじゃない。お前の魔力をさらに暴走させる為の起爆剤みたいなもんだなぁ」

 

「ぐっ…ああぁぁぁぁッ!?」

 

「こうして俺は魔術を扱う奴の魔力の流れを操り、自滅させてきたんだ。お前もその一人にしてやるぜ!」

 

 

パーカスの魔術を浴びる桜の絶叫が校庭へ響き渡る。胸を押さえ、もがき苦しむ様をパーカスは口元を吊り上げてさらに魔術を強めていく。もっと苦しめ、もっと苦しめと。この娘の喚き声をもっと聞きたいと愉悦に浸る外道に、耳障りな声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろてめええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 

 

 

 

 

夫婦剣を握る士郎は自身の傷などなりふり構わず、こちらへと突進する姿だ。パーカスは興ざめと言わんばかりに桜へ放つ魔術をやめると指を士郎へと向け、指先に魔力で形成されたビー玉程の魔力弾を発射する。既にパーカスを叩き切る事しか頭にない士郎に魔力弾は見えておらず、結果士郎の胴体へ接触し、大きな音を立てて破裂した。

 

 

 

「がはぁッ!!」

 

 

 

例え極小の大きさと言えど魔力が圧縮されたそれはプロボクサーによるパンチよりも威力が大きい。胴体に穴が開かなかっただけでも幸いだったのであろう。

 

 

手から剣が消え去り、地面に蹲る士郎へ歩み寄るパーカスは彼の頭部を踏みつけ、批難をぶつけた。

 

 

 

「おいおい。最後の楽しみが出しゃばって来るんじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前はあの娘が動けなくなったあと、ゆっくりと始末するんだからなぁ。あの結界の中にいる人間どもと同様によぉ」

 

 

 

 

桜が気を失えば、当然あの結界も消えるだろう。そうすればもう自分を邪魔するものはいなくなる。そして皆殺しにした後に桜を催眠術をかけ、自分の奴隷にすれば…。

 

鬼畜同然の妄想を繰り広げるパーカスは知らない。

 

 

 

 

 

それが自分を追い詰めてしまう言葉になってしまった事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ない」

 

 

「あ?」

 

 

 

 

「させ、ない…!」

 

 

 

 

「そんな事、絶対に…させません…」

 

 

 

 

 

弱り果てた桜から響く、低い声。どうやらまだ意識を失ってなかったかとパーカスが彼女を痛めつける為に触れた瞬間。パーカスは高熱の湯に触れたかのように桜を手放した。

 

 

 

「アチィッ!!」

 

 

 

ゆっくり、ゆっくりと立ち上がる桜の身体から炎が沸き立つ。比喩ではなく、実際に彼女の身体が燃焼しているのだ。さらに驚くべき事が、桜の体内で起こっていた。

 

 

「な、なぜ…なぜ小娘の魔力が安定しているんだ…」

 

 

そう、パーカスの分析では桜の体内では魔力の循環が強弱と安定せず、それ故に身体に不調を起こす結果となってしまったのだが、今では膨大な魔力も一定の流れを保っている。

 

 

 

(なぜ…そんな事が)

 

 

「随分と不思議に思っているようですが…教えてくれたのは貴方ですよ?」

 

 

低い声のまま、仮面のせいでまるで表情がまるで読み取れない桜の言葉にパーカスが混乱する。なぜ自分が敵を助けたことになる?自分がした事と言えば、相手の魔力を操り…

 

 

「お、お前まさか…!」

 

 

恐る恐る声を上げるパーカスは最悪な予感を抱いた。もし、自分の抱いた通りの事を少女がしでかしたとしたのなら…

 

 

 

「ええ。貴方の考えている通りです」

 

 

ゆっくりと。いつの間にか装着した指輪をはめた右腕を、ゆっくりと翳す。

 

 

 

 

 

「貴方の『体内に流れる魔力を操る』という術。盗ませてもらいました」

 

 

 

 

その指輪は『シーフ』

 

 

相手が能力をしかけた際に発動させると、自らの術へとして扱える力を秘めた指輪であった。

 

 

 

「て…めぇ…よくも、よくも俺様の術を…」

 

 

いくら指輪の力があったと言えど、自分の術をこうも簡単に盗む相手を許せる魔術師は存在しない。このパーカスも同様なのだろう。掌に武器を顕現させたパーカスは、先ほどの士郎同様に桜へと走っていく。

 

 

 

「この、小娘ガアアァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 

そして怒りのあまりにパーカスは失念していた。パーカスすら恐れていた膨大な魔力を従えた桜の怒りは、自身以上に苛烈で、むき出しであるという事を。

 

 

 

 

 

≪ビッグ、プリィーズ!≫

 

 

 

新たな指輪に魔力を通わせた桜の眼前に魔法陣が出現。迷うことなく手を…それも掌底として叩き込む。

 

 

 

 

「ぶばぁッ!?」

 

 

 

無様な呻き声をあげたのは、パーカスであった。

 

 

なぜ、目の前に突然『壁』が現れたのか…鼻を抑え、後ずさるパーカスはさらに全身が何かに拘束…否、掴まれていることに驚愕した。

 

 

「な…なぁッ!?」

 

 

 

パーカスは、魔法陣を通過した事で数十倍も巨大となった桜の手に掴まれていたのだ。先ほどもぶつかったのは壁などではなく、桜の掌だと勘付いたのも既に遅い。

 

 

さっきのお返しとばかりに放り投げられたパーカスが顔面から地面に落下。急ぎ起き上がると、敵はこちらへゆっくりとした足取りで迫っている。おまけに手放したはずの武器を手にし、油断なく構えている。

 

 

「ちぃ…だがなぁ、これで終わる俺様ではないぞぉッ!!」

 

 

頭部に残る少ない毛髪を引きちぎり、息を吹きかけると血って言った毛は段々と膨らみ、四肢が生えるとパーカスとまるで変わらない姿へと変わっていく。

 

 

分身。それも彼の仲間であるガイナニンポーとは違い、完全に同じ姿を十数体も作り出したのだ。

 

 

「キキキキキキキキキ…この術をニンポーの兄貴に伝授したのは俺なんでな…さぁこれで一気になぶり殺しに…」

 

 

 

≪コピー、プリィーズ!≫

 

 

「あ…?」

 

 

 

見れば、同じく桜も分身を行っていた。音声の通り、桜も全く同じ姿の分身を作り出している。

 

 

 

 

「キキキキキキ…猿真似なんぞしやがって、だがなこちらがの方が圧倒的に」

 

 

 

≪≪コピー、プリィーズ!≫≫

 

 

 

「有利な」

 

 

≪≪≪≪コピー、プリィーズ!≫≫≫≫

 

 

 

「状況に…」

 

 

 

≪≪≪≪≪≪≪≪コピー、プリィーズ!≫≫≫≫≫≫≫≫

 

 

 

パーカスが言い淀むまで続けられた桜の分身魔術。とうにパーカスの分身体を越えた人数となった桜はパーカス達を取り囲み、寸分たがわず、同じ動きで新たな指輪をホルダーから取り出した。

 

 

 

『姉さんとメディアさんが言っていました』

 

 

 

エコーのかかった声で語られたのは、以前に姉である凛とメディアに戦いの際に敵が今回のように分身し、本物を見つけ出すための手段。武のように本人が放つ気をつかみ取るでもなく、義兄のように特殊能力を使い見分ける術を持たない桜が基本的に戦闘スタイルが近い2人に話を聞いた時、全く同じ返答で反応に困った時があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『数撃てば…当たると!』

 

 

 

 

 

 

(あの2人何教えてんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?)

 

 

 

 

 

 

 

士郎が心の中で絶叫する中、ガンドと魔力弾を得意とする2人のハッピートリガーに毒されてしまった桜達はベルトへと手を翳す。

 

 

 

 

 

≪チョーイイネ!キックストラァイクッ!!サイッコー!!!≫

 

 

 

 

指輪が輝いたと同時に桜達の足元に出現した赤く、炎をまき散らす魔法陣。魔法陣に蓄えられた魔力全てが右足に収束していく。

 

 

『ハッ!』

 

 

黒いロングスカートを翻し、高く跳躍する桜達は眼下で怯えるパーカス達に向かい、魔力を纏った右足を突き出して急降下。

 

 

 

『ヤアアアアアアァァァァァァァァッ!!!』

 

 

 

義兄の得意技を模した必殺技…メイガスストライクを叩き込んだと同時に巨大な火柱が生まれた。

 

 

 

 

「うわっ…」

 

 

爆風に飲み込まれぬよう腕で自分の顔を庇う士郎はやがて消失した火柱の中でただ一人立つ桜の姿を見てホッと一息をつくが、桜から未だ警戒が解かれる様子はない。

 

 

 

 

 

(倒した手ごたえがあったけど…1体だけ、取り逃がした)

 

 

 

 

それが分身であるのか、本体であるのかは定かではない。しかし見るからに怪人素体とは違い自身の意思をはっきりと持ち合わせていた分身がこのままおめおめと引き下がるはずがないと、桜は再び薙刀を握る。

 

そして桜の予測した通り、攻撃を逃れたパーカスの本体が自身の身体を透明と化して桜の背後に迫っていた。

 

 

 

 

(キキキキキ…このまま背後から串刺しにしてくれる)

 

 

 

自分に施した魔術は見えなくするどころか、臭いや身体を動かした際の音すら消してしまうものなのだ。いくら五感が発達していると言えど、気づくはずがない。あとは手にしたナイフでこの娘の首を切り裂けば…

 

 

既に当初の目的が頭にないパーカスが桜へ不意打ちを仕掛けるまであと一歩という間合いまで迫る。後はナイフの一突きで少女の命が終わると口を引き攣らせたその時。

 

 

ベチャリ…と深いな音が自身の頭上から聞こえる。

 

何かと触れて見れば、それは赤い液体。血液ではないようだがこの独特の臭いは、恐らくペンキ…

 

 

(な、まさか…!)

 

 

 

 

 

 

頭上を見上げれば、学校の上空を旋回する飛行物体が一つ。

 

 

 

 

 

『どうやら姿は消せても体温までは消せなかったようですね。チョコよりも甘い』

 

 

 

 

 

 

アクロバッターと共に出動したロードセクター・ネオはスカイモードへと変形し、敵に察知できない距離まで上昇し、桜の耳の裏に装着された高性能小型インカムにより状況を把握していたのであった。

 

 

いくら透明であろうと付着物まで消せる事はできない。桜は回し蹴りで背後に立つパーカスを蹴り飛ばし、立て続けに指輪を装着し、ベルトへ手を翳した。

 

 

 

 

≪バインド、プリィーズ!≫

 

 

 

 

「の、のわああああぁッ!?」

 

 

 

小型の魔法陣がいくつも出現し、中央から無数の鎖が射出。透明となったパーカスに巻き付き、完全に動きを封じてしまう。

 

 

 

「こ、こんな鎖ごときに…!」

 

「もう、逃がしません!」

 

 

 

薙刀の鍔元にある拳をスライドし、柄部の中央で固定。本体がくの字に曲がり、刃の先端と石突の間に光が走ると、弦にとって繋る。

 

 

弓となった武器…メイガスソードボウをアローモードへと移行させた桜は再びハンドオーサーを左手で握る。

 

 

 

 

≪フレア!シューティングストライク!!メラ・メラ・メラァッ!!≫

 

 

 

 

弓を構えると桜の前に炎で形成された矢が出現。迷いなく手に取った矢を番え、透明の魔術が解かれてしまったパーカスへと狙いを定める。

 

 

 

 

 

「貴方のように、笑って誰かを傷つける人を…絶対に許さない!」

 

 

 

 

桜の咆哮と共に放たれた矢はさらに纏った炎を滾らせ、未だ拘束を解こうとする怪人の胸を貫いた。

 

 

 

「がぁ…!」

 

 

煙を上げる胸部に開いた小さな穴。段々と煙が濃くなるにつれて肉を焼く炎が大きくなり、やがて胸から拡散しパーカスの全身を包み込んだ。

 

 

 

「こ、この俺が…小娘ごときにいぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!?」

 

 

 

自身の敗北を認められないまま、パーカスは爆発の中でその命を散らしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ヒール、プリィーズ!≫

 

 

 

「はい、これで完了です」

 

「ありがとう桜。俺は取りあえず大丈夫だよ」

 

「良かったです。でも、本当に大丈夫ですか?」

 

「ああ。見る限り、怪我をした人はいないみたいだしな。全員を校舎の中へ運ぶぐらい俺一人で大丈夫だ」

 

 

 

桜の治癒魔術を受けた士郎が言い出したのは、操られた人々を校舎内へ移動させるという内容だった。危機を迎えている光太郎の救助のためにも、今戦える力を持つ桜が向かった方がいいとう士郎へ最後まで異を唱えた桜だったが、今自分に出来る事を考えてくれと言われてしまえば、言い返すことができなかった。

 

 

優しい桜の事だ。全員が…特に自分に立ち直らせるきっかけを作った楓が起きるまでそばに居たいと言い出す事だろう。けど、彼女の優しさから生まれる強さを生かすのは今、ここではないと考えた士郎は彼女を送り出すことに決めたのだ。

 

 

 

『では、準備はよろしいですか?』

 

「はい、お願いします」

 

 

ロードセクターへと搭乗し、桜がヘルメットを装着するとロードセクターはエンジンを点火させる。

 

 

 

「じゃあ、急いでお願いします!」

 

 

『無論です。もしも白バイなどに止められたとしても既に桜嬢の偽造免許証も常備。登録のデータ改ざんも数秒で…』

 

 

「…やっぱり裏道からお願いします」

 

 

 

相も変わらず変な思考になってしまったロードセクターに乗り、校門の向こうへと去っていく後輩を見送った士郎は、陽の傾きかけた空を見てあの日を思い出す。

 

 

 

ただの後輩だと思っていた少女が、いつの間にか女の子となり、そして仮面ライダーとなって戦うようになっていた。

 

 

自分も負けられない。あの背中に負けない為にも、並び立てるようにならなくてはならない。

 

 

その為にも、今自分ですべき事を全力でやるべきだ。腕まくりをした士郎は気合いを込めて行動に移る。

 

 

「さぁて、始めるか!」

 

 




あの高跳びシーン。原作ではちょいと暗めでしたがこの世界では明るく楽しく暮らしていた桜ちゃんでしたからあの展開です。そして慎二も看板の件はただ見てただけではなくお手伝いしたという展開としました。

さて、次回はやっとこそさ主人公の登場です。もはや1か月ぶりとは…

お気軽に感想など頂ければ幸いです!

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