Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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ついにきたぜ70話…だというのに主人公の影が薄い…ちきしょう…

その分桜とあの人が活躍する70話となります!



雑談

もしFateで召喚されたのがドリフターズの皆さんだったら…原作以上に血で血を洗う戦いになるかと思ったり…


第70話

「あれ…?」

 

 

自分は学校の校庭におり、怪人達に追われていたはず。そのはずなのに…

 

 

「どうして、家の中庭に…?それに」

 

 

目に映る自分以外の建物、植物、果ては空の色までがセピア色となっている。

 

見慣れた風景に異変が生じているはずだというのに、間桐桜は違和感を覚えることはなかった。

 

 

(なんだろう…不思議と穏やかな気持ちになってる)

 

 

この場所に立っていることが、むしろ心地よい。そんな不思議な感覚で一歩踏み出した桜の頭上に、幻想的な光景が展開される。最初こそは驚いた桜ではあったが、それがなんであるかを理解した彼女は思わず声を漏らしてしまう。

 

 

「わぁ…」

 

 

空から降りてきたそれは、一枚の写真のように切り取れた桜自身の記憶。桜の周囲に降下し、さながら美術館に並ぶ絵画のように並ぶ場面に映る桜は、様々な表情を浮かべている。

 

 

 

 

遠坂の家族と過ごして笑った時

 

 

 

転んで膝をすりむき、泣いてしまった時

 

 

 

姉と別れて、悲しみにくれてしまった時

 

 

 

自分を家族として受け入れてくれた光太郎と出会った時

 

 

 

 

 

 

そのどれもが間桐桜という人間を形成させるに至った記憶ばかりだ。

 

幼き頃やつい最近の出来事まで、様々な記憶を描く場を見てアルバムを捲るように、思い出していく。

 

そして次第に自分の置かれた状況を冷静に考え出した桜は、一つの結論へと至る。今、自分が立っているこの場所は…

 

 

 

 

「ここは…私の…」

 

 

 

 

「そう、君の内側にある精神世界…『アンダーワールド』と呼ばれる場所さ」

 

 

 

 

不意に桜の予測を肯定する男の声。自分しかいないのだと思い込んでいた桜は突然発せられた声に思わず振り向く。

 

セピア色に染まった世界に浸食されず、桜と同じようにはっきりと像を映し出している男は中庭の一角に設置された椅子に腰かけ、紙袋を片手に何かを頬張っていた。

 

指先に着いた白い粉末…おそらく男が食してたドーナツに塗されてる砂糖を舐めとると立ち上がり、桜へ目を向けながら紙袋を適当な戸棚へ置く感覚で腕を自身の横へと動かす。

 

その直前、男は掌を象ったようなベルトのバックルに手を翳す。すると男の手にはめられた指輪とバックルが輝きを放ち、どこからともなく音声が響いた。

 

 

 

 

≪コネクト、プリィーズ!≫

 

 

 

 

 

「えッ!?」

 

 

音声が消えた途端だ。紙袋を持つ男の手の前に30センチほどの魔法陣が出現し、男は迷うことなく袋ごと手を魔法陣へと伸ばした。桜が驚きの声を上げたのは、その先の現象。魔法陣を通過するはずの男の伸ばした手が消え失せたのだ。

 

だが男の表情には苦痛は見られず、むしろ驚く桜を見て笑っている。

 

 

「ああ、大したことないよ。別の場所に置いただけさ」

 

 

そして腕を引き戻すと手は五指もしっかりと健在しており、消えたのは男が持っていた紙袋のみ。詠唱もなしに空間操作を行う青年に、桜は声を絞り出して尋ねてみる。男は、笑顔で桜からの質問に答えるが、その返答は桜をますます混乱させてしまうものであった。

 

 

 

「あ、貴方は…一体…」

 

 

「俺?俺は、魔法使いさ」

 

 

 

 

得意げに告げる男の声に、桜へ衝撃が走った。

 

 

 

 

「ま、魔法使いッ!?」

 

 

 

 

男から出たその名は、少なからず魔術を扱う者である者…衛宮士郎ですら驚愕に値するものだ。

 

 

 

魔術では決して辿り着けない領域へと達し、世界で5人といないとされる『魔法』を使役する人間が、今目の前にいる…ならば、あのような高等な術を詠唱無しに使えるのも納得だ。

 

 

羨望の眼差しを向ける桜に自身の想定した反応を示さなかった事に首を傾げる男は、ふと今回の依頼者から言われたことを思い出した。

 

 

 

 

「あ~そう言えば士からいらん混乱を招くからこの世界でこの名前は使うなって言われてたっけ…?」

 

「…?」

 

 

あちゃ~と額を抑える男の言葉に今度は桜が首を傾げるが、咳払いする男は話題を変える為に、この場所へと現れた理由を語り始めた。

 

 

 

「さて、俺がどこの誰だかは置いといて…君、間桐桜、ちゃんだっけ?」

 

「は、はい…」

 

「もし、さっき俺と同じような力を扱えるとしたら…どうする?」

 

 

 

 

男の質問を理解することに、しばしの時間を有した。桜とて魔術師の端くれ。この男が見せた魔術…否、魔法がどれほど高度なものかは伺える。しかし、初対面の人間を疑い一つ持てないほど桜も不用心ではない。義兄の教えではあるが、こちらに何かを突きつけてくる人間には、まず信用に足りる条件を聞き出さなければならない。

 

 

 

 

 

 

「どうして、私なんですか?」

 

「そうだな。君が絶望しなかったからかな?どんな状況に陥ろうと、君は諦めるということをしなかった」

 

 

そう言って、男は自身の横に現れた桜の記憶を指さす。

 

 

男の指示に従ったかのように浮かび上がったのは、桜自身も覚えのある出来事。

 

 

 

 

間桐の家に養子となり、義兄となった慎二へ接しようとも接触を拒絶され続けた日々。光太郎すら匙をなげかけた時でも桜は毎日の挨拶を続け、コミュニケーションを図ろうと呼び掛け続けていた。

 

 

光太郎とシャドームーンの一騎打ち。創世王の横やりによって一度は死んでしまった義兄の最期を見て気を失ってしまうが、あくまでそれは光太郎が殺されたという場を見た為。目を覚ました桜は慎二と共に光太郎が生きていると信じ切り、捜索を開始した。

 

 

創世王を倒し、運命に終止符を打つために残って戦う選択をした光太郎を待つ中、約束を果たせず、そして別れを告げずに自分は消えてしまうという不安に駆られるライダー…メドゥーサへ、光太郎は必ず約束を守る為に帰って来ると断言した。

 

 

怪魔界へ連れ去られ、ガロニアの記憶を上書きされた時。ジュピトルスによって幻影と言えど、家族や近しい人々が次々と虐殺される光景を見せつけられても、心が折れることなく、ジュピトルスを挑発した。

 

 

 

桜は気が強い人間ではないのかもしれない。だが、それを補う以上に強い意思を持ち合わせている。

 

 

 

だからこそ、彼女には可能性があった。

 

その可能性を確かなものとする為に、男は表情を一変させる。

 

 

 

 

 

「…俺の住む世界では魔力を持った人間が完全に絶望してしまった時、その身体を『ゲート』として食い破り、生まれる怪物がいる」

 

「怪物…?」

 

「そいつら名はファントム―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の背後にいる奴が、そう呼ばれている」

 

 

 

 

 

 

 

 

言われる前に、気づくはずだった。

 

 

言われるまで気づかない方が可笑しいほどに、その怪物は巨大だったのだ。

 

 

 

 

 

銀色の身体に所々紫色の水晶が鋭い棘のように生え、1つの胴体に9つの首を持つ蛇の怪物…ギリシャ神話に登場するヒュドラを思わせる怪物が、桜の背後で雄叫びを上げる。

 

 

 

「なっ…!?」

 

 

怪物を見上げた桜と、一つの頭部が目を合わせた途端、怪物は大きく口を開き、桜へ食らいつこうと伸ばしていく。悲鳴など上げる暇もない桜は身体を前へと転がし、どうにか怪物の餌食となることは回避された。

 

だが、一度目を付けて獲物を逃がす獣はいない。ずりずりと身体をよじりながら接近する怪物に後ずさる桜へ、かすかな声が届いた。

 

 

 

 

 

「ダセェ…」

 

 

 

「ココカラ、ダセェ…」

 

 

 

「ワタシハ…ワタシワ…」

 

 

 

 

「声…それに出せって…」

 

 

 

 

突然襲い掛かったと思えば、雄叫びに紛れてかすかに聞こえる女性の声。自分を襲い掛かる事と何か関係があるのかと考えを巡らせながら後方へ下がる桜へ、傍観に徹した男が捕捉する。桜の動きをピタリと止めてしまうような事実を告げる形で。

 

 

 

 

「あの怪物…外見からヒュドラファントムとも名づけるかな。あのファントムは君の絶望の象徴とも呼べる存在だ。どうやら君を食い殺し、現実世界に飛び出そうとしているらしい」

 

 

 

 

 

 

「そして…君の中にいた『ガロニア』でもあるんだ」

 

 

 

 

 

一瞬、呼吸が止まる。

 

 

 

「どういう…こと、ですか?」

 

 

怪物…ヒュドラが接近する恐怖よりも今しがた男が唱えた情報が桜の動きを封じる。なぜ、既に消えたはずの『ガロニア』があの怪物となってしまったのか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪魔界で桜をガロニアとして仕立て上げたのは、本物のガロニアに施された成長促進システム内にある睡眠学習装置から予測され、組み立てられたガロニアの疑似人格に過ぎない。そのデータを桜の記憶にインストールされたことで、自身はガロニアであると思い込んだ桜が完成した。

 

だが、その時すでにクライシス帝国ですら予測できない事態が発生していた。

 

 

桜をガロニアの器として相応しい肉体とするために、クライシスのマリバロンは『奇跡の滝』と呼ばれる滝へ桜を三日三晩浸らせることにより、肉体を成人まで成長させ魔力も本来の数十倍にまで膨れ上げた。

 

予想以上にガロニアの人格を定着させたが、その成功も怪魔界に乗り込んだ光太郎達や本物のガロニアによって失敗に終わる。

 

 

終わるはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…君の魔力との相性が良すぎたんだ。ただのデータだった人格が桜ちゃんの魔力を得て、確かな『意思』となった。そして本物のガロニアちゃんの手で君が元の身体に戻った後もここ…アンダーワールドで浮遊霊のような存在となり、後に君が聞いた説明…桜ちゃんがお兄さんたちを殺しかけたという恐怖や不安を吸収し、あの姿となったんだ」

 

 

負の感情は、絶望へと直結することもあるからねと告げた男は再び指輪を付けた手をバックルに翳し、虚空へと手を突き刺し、引き抜くと彼の手には一振りの剣が握られていた。

 

 

 

鍔元が握り拳となっている銀色の刃…剣の柄を桜へと向ける。

 

 

「あの…これは…」

 

「あのファントムは君を狙っている…そして、決着を付けるのは君自身だ」

 

 

桜は瞳を震わせ、躊躇しながらも剣の柄を手に取る。

 

 

もし、あの怪人の言う通りガロニアの自分の中で未だ息吹いており、男の言う通り、自分を食い破り現実世界に進出するような事があれば…こんどこそ義兄達の敵となりかねない。

 

 

だどするのなら…

 

 

 

「ダセェ…」

 

 

剣を両手でしっかりと握った桜は一歩、また一歩ヒュドラへと近づく。息を飲む桜の背中を黙って見つめる男は、ただ彼女が下す決断を待つ。彼女が、自身の絶望へと、どう向かうのかと。

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

ついに攻撃が出来る間合いまで迫った桜に、ヒュドラも幾つもの頭をうならせ、そのうちの1頭が牙を向く。桜が攻撃するよりも早く、迫る蛇の頭を見やった桜は手にした剣を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足元へと、放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッ!?』

 

 

 

 

 

 

 

これに驚いたのは、食らいつこうとしたヒュドラの方だ。だが武器を捨て、戦意を失おうがやることは変わりない。甲高い声を上げ、少女の肩へと牙を突き抜けたと同時に鮮血が溢れ、ヒュドラの口内に暖かい液体があふれ出す。

 

 

 

そして、喉を潤す赤い血よりも、暖かい温もりがヒュドラの頭部を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、なさい…」

 

 

 

 

「…ッ!?」

 

 

 

 

 

桜の言葉に食らいついた頭部だけでなく、次に胴体や手足を喰いちぎろうとした頭部が動きを止める。

 

 

ドクドクと流血が止まない中、桜は自身の肩に喰らいついた頭部を優しく、優しく抱きとめていた。

 

 

 

 

「私が、クライシスに捕まったから…私が、貴女の事を知って怖いと思ってしまったから…貴女を閉じ込めてしまった。そして…」

 

 

 

「貴女を怪物に変えてしまった」

 

 

 

 

ガロニアの意思がファントムとなってしまった事など誰も予測すらできない結果。それでも、桜は自分の責任だからと、『彼女』へ謝罪する。

 

 

そして、これから言う我儘を改めて謝罪した。

 

 

 

「それに、私にはまだやるべきことがあるんです。だから、この身体を貴女にあげる事はできない。でも、いつか絶対に助けると約束します」

 

 

 

ヒュドラの牙がゆっくりと桜の肩から抜けていく。噴き出した血にまみれた顔は凍てついたこちらの感情を溶かしてくれるような暖かな微笑みを浮かべた桜は両手でジッと見つめるヒュドラの顔を両手で包む。

 

 

 

「だから…もう少しだけ、待ってて下さい。そしたら、もう一人のガロニアさんと一緒にお話しましょう」

 

『……………………………』

 

 

 

桜の手を振りほどくように強引に頭部を引き上げたヒュドラの姿が、段々と朧げになっていく。そんな中でも、桜を睨むことはやめない。一方桜は、18の鋭い眼に貫かれながらもやはり微笑みを絶やさない。

 

 

ついにヒュドラの姿が完全に消失した時、再びあの声が響いた。

 

 

 

 

≪ヒール、プリィーズ!≫

 

 

光の灯った指輪をはめた男の手が桜の肩へと触れた途端、痛みや傷が完全に塞がり、穴の開いた衣服すらも塞がっていた。時間を要する自分の治療魔術とは比べものにならないと感心する桜へ、今度は男が謝罪する。

 

 

 

「ごめんな、桜ちゃん」

 

「え…?」

 

「俺、君を試していた。本来、倒すべきファントムに向かわず、君の出方を伺っていたんだ…」

 

 

常に明るい表情を向けていた男が、初めて見せる暗い顔。本来、彼はヒュドラから桜を護り、そしてヒュドラを滅する事が本来の仕事であった。

 

 

 

 

だが、男が桜に見せた魔法を扱うには、自身の中に巣食うファントム…絶望の象徴を抑え込み、その魔力を活用して空間操作などといった魔法が行えるのだ。

 

 

そして…桜に武器を与えたのは、自身の絶望とどう向き合うかを確かめる為でもあった。もし、自分や肉親の為に自分の絶望を恐れ、否定するのであれば、あのヒュドラは彼が倒すつもりでいた。同時に、それは彼女には自分と同じ力を与えない事と同意義でもある。

 

 

 

(本当なら、この力を持たないような選択が一番いい。けど、この子は…)

 

 

 

 

自身の絶望を、受け入れてしまった。それも、救いの手を伸ばすという男が想像すらしなかった方法で。

 

 

 

彼が力を手にする事ができたのは、絶望を乗り切り、絶望に負けないものを持ち合わせていたからだ。自分とはまた違う道を見出した桜の姿を見て、男は決心する。同時に、今は自分の中にいる少女へと静か詫びる。

 

 

 

(ごめんな。もうただ士に頼まれたからってだけじゃなくて、俺自身がこの子の行く末を知りたいと考えている)

 

 

(もう、俺達みたいな奴を生み出さないつもりだったのにな…)

 

 

 

目を瞑り、本来は渡すつもりではなかったものを再び開いた亜空間から取り出し、塞がった傷跡にまだ関心が抜けない桜の手を取る。

 

 

 

「え、あの…!」

 

 

「あぁ、君の考えるようなものじゃない。安心していいよ」

 

 

再び笑顔となった男が桜の手を取り、彼女の左手の中指へと通したのは、指輪だった。手を取られ、指輪を見た瞬間に乙女であれば誰でも抱いてしまうだろう事を咄嗟に男が否定してくれたおかげで一瞬息が詰まっただけで済んだ桜は自分に託された指輪がなんであるかを尋ねた。

 

 

 

 

「それは魔法の指輪だ。俺の仲間である指輪職人…っても見習いだけど、そいつが作った一級品だ。ちゃあんと、その師匠も太鼓判は押してるから、安心していいよ」

 

「で、でも…」

 

「大丈夫。桜ちゃんなら、使いこなせるはずさ」

 

「そんな…私はただ、嫌なだけなんです。私の周りの人が傷ついて欲しくない…私のせいで傷ついて欲しくない…」

 

 

仮面ライダーの戦いを理解してくれている蒔村楓の言葉のおかげで失意から立ち直った桜だが、やはり不安は拭いきれない。自分の力が未だ抑えられない上に、指輪の力が重なってしまったら…と視線を下へと向けてしまう桜へ男は言う。

 

 

 

 

「前へ進むには、今を受け入れるしかないよ。どんな力があろうが、君は君なんだから」

 

 

「え…?」

 

 

「それを、さっきはっきりと証明して見せてくれたじゃないか」

 

 

 

にっこりと笑う男の言葉には、偽りはない。だから、そんな気になってしまうのは目の前の男も同様な道を歩き、辿り着いた一つの結果なのだろう。そう…人としての人生を奪われた義兄が、義兄のままでいてくれたように、自分は、自分なのだと。

 

 

 

「…はい、ありがとうございます」

 

 

「うん!いい笑顔だ。その笑顔と力がきっと誰の助けになる。そして―――」

 

 

 

 

 

「君は誰かの『希望』になるんだ」

 

 

 

 

 

 

男が宣言した直後、桜の周囲が光の粒子で包まれていく。どうやらこの世界でいられる時間が限界を迎えていたようだ。

 

 

 

「あ、あの!これは…」

 

「大丈夫!ここは元の世界とはずれた時間にあるからね。アンダーワールドに来る前から向こうでは1秒も経過していないはずだよ」

 

 

聞けば聞くほど、とんでもない事を言ってしまう人だ。もし姉である凛に報告したところで、信じてもらえるだろうかと苦笑する桜は、自身の指にはめられた指輪…ウィザードリングを男へと翳した。

 

 

 

「私、頑張ってみます!今の私で、できる事を!」

 

 

「あぁ!頑張れよ!!」

 

 

 

満面の笑みで頷いた桜の姿が完全に消えた後、ふぃ~と息を漏らした男は振り返りながら再び姿を現した存在へと目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

「今度は俺に何か用かい?ファントムちゃん?」

 

 

 

灰色の空へと浮遊する9頭の魔物、ヒュドラ。男の前へと降下しながら怪物の輪郭が粒子となり、人間と変わらない形へと収縮していく。

 

 

着地する頃には完全な人の姿となり、同じ視線となった男を睨む。

 

 

肩を大胆に露出した紫色のドレスを纏った女性…その姿は桜がクライシス帝国に捕らわれた際の姿…成人となり、紫色の髪となった桜と瓜二つであった。

 

目つきは鋭く、今にも男を嚙み殺さんとばかりに殺気まみれだ。

 

 

「フン…よくも私の世界で好き勝手やってくれたな。さっさと消えるがいい」

 

「おおコワ。ま、言われなくてもそろそろ限界だしね」

 

 

女性の厳しすぎる第一声を聞き大げさな反応を示す男の手が、桜同様に粒子と化していく。

 

 

彼が桜のアンダーワールドへと入れたのは、彼女が持ち歩いていた指輪…赤上武に託されたものに自身の意識を移していたからだ。そして長時間本来の肉体から意識を飛ばしておくことなどできない。この粒子化は、肉体へ強制送還が始まった前兆なのだろう。

 

 

 

「そんじゃ、俺はこれでいなくなるけど、桜ちゃんのサポート、頼んだぜ」

 

「何をたわけた事を…誰があんな小娘に協力などするか。この肉体は私がいずれもらい受ける。だから今回だけは手を引いてやったのだ」

 

 

と、豊かな母性の象徴の下で手を組み、顔をそらすファントムに対し、男はくっくと笑いながら告げる。

 

 

 

「全く素直じゃないねぇ。桜ちゃんがアンダーワールドに来る前だって、あの子の事助けといてさ」

 

「なっ…!?」

 

「あの時…まだ自分の力に怯えてる桜ちゃんを傷つけない為に表に出て、助けてやったんだろう?」

 

 

 

 

最初に襲撃したチャップを倒した時。あれはパーカスの言うガロニアの残滓によるものではなく、ファントムと化したガロニアによる行動だったのだ。

 

それを見抜かれたことに思わず動揺した彼女の発言はしどろもどろとなり、益々男の予測を確信めいたものへと代えてしまうだけであった。

 

 

 

 

「な、何を言っているのかさっぱりだ!さっさと消えろ!!さもないとかみ殺すぞ!!!」

 

 

シャーっと彼女の背後に無数の蛇の頭部が見えた男はやはり笑いを絶やさないまま、彼女へ何かを放り投げる。受け取ったファントムが見たのは、桜に渡したものと同じ指輪だ。

 

 

 

 

 

「そいつはちょっとした保険だ。もしもの時に使ってくれ」

 

 

「だから何故私に…ええぃもういい!まだ消えぬというのなら私が消える!!」

 

 

また言い返さると考えたのか、耳まで真っ赤にしたファントムは宣言通りに男の前から消失した。

 

 

 

パーカスや男…そして桜に植え付けた人格は、本物のガロニアが将来なるであろうと予測して組み上げられたものだ。

 

 

だが、組み立てたマリバロンや男は失念していた。

 

 

どう成長を遂げようが、冷徹な言葉を放とうが、基となったのは、ガロニアであるという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、今度こそ戻んなきゃな。何時までも凛子ちゃんに心配かけるわけにはいかないし」

 

 

 

別の指輪を装着し、ベルトのバックルへと翳す前に男はもう一度アンダーワールドを見回した。

 

 

 

 

 

「じゃあ、また会おう。今度は、同じ魔法使い同士として」

 

 

 

 

 

 

≪テレポート、プリィーズ≫

 

 

 

 

 

 

男…指輪の魔法使い 操真 晴人は自身とはまた違う希望を見出す少女に再会を誓い、この世界を後にした。




自分、小説版ウィザード結構好きです。あそこまで○○してるなんて朝8時むりでしょうし、ちゃんと晴人が幸せになってくれるから…

次回も桜さん大暴れの予定です。

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