Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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やはり探偵コンビは偉大だな…と前回の頂いた感想を見て思いました今日。

そんな2人の思いを受け取った慎二が大活躍の68話をご覧下さい!


第68話

美綴綾子が間桐慎二という少年の存在を知ったのは、高校の入学式にまで遡る。

 

 

 

桜舞い散る中、新たな学校生活へ期待に胸を膨らませて参加した入学式に、ひと際存在感を放つ新入生代表であった遠坂凛。壇上に上がり、挨拶をしっかりとこなした後に親友となるべく少女よりも、綾子は次席である少年へと目を向けていた。

 

入学式までの待ち時間に振り分けられたクラス内で早速複数の女子生徒に囲まれ、どこの学校出身やら携帯電話の番号交換やらと嫌な顔一つ浮かべることなくヘラヘラと応じる姿を見て『なんて軽い奴』というのが第一印象。

 

彼が入試で遠坂に次ぐ成績を収めて合格したと知った時は、世の中どんな奴でも特技の一つぐらいはあるものだと捻くれた感想を抱いていた綾子の見る目が変わったのはその後の事だ。

 

 

 

 

 

女性徒と共に下駄箱を抜け、どこか入学祝いに遊びに行こうなどと言う会話が響く中、当の慎二はまた今度ねとやんわりと断りを入れた直後だった。

 

急に立ち止まった慎二に「どうしたの?」と顔を覗き込んだ女子が小さな悲鳴を上げて跳び引いてしまう。靴を履き替えたばかりの綾子は慎二の後ろ姿しか見えなかったが、どうやら彼は女子が涙目となってしまう程の険しい表情を浮かべていたのだろう。

 

慎二の視線の先…校門の傍で黒紙の少女――背格好からして中学生に見える――が厳つい男2人に絡まれているようだ。遠目から見て少女は笑顔で男たちの誘いをスルーしているようだが、ついに痺れを切らした男たちが強引に少女を連れ出そうと手を伸ばす。

 

我関せずと遠くから眺め、そして通り過ぎていく男共の姿に呆れながら綾子は鞄を放り投げて駆け出していく。入学直後に暴力沙汰とはいい噂が決して流れない事を覚悟しての突撃であったが、彼女が駆け出した直後に響いた男子の大声に思わず足を止めてしまった。

 

見れば先ほど鋭い視線で女子を泣かせた男子生徒、間桐慎二が校門に向かい歩きながら、携帯電話に耳を当てワザとらしく大声で会話をしている。それも、警察に向けてである。

 

少女に迫る男達の特徴と、学校の住所を大声で…校門の先どころか、部活中の先輩方もついつい注目してしまう程の音声に誰もが呆気に取られた事だろう。

 

通話を終え、携帯電話を耳から離した慎二が動揺する男たちの前に立ち、あと数分で到着する旨を伝えると一目散に立ち去ってしまった。

 

 

 

後に知った事だが、慎二は通報する素振りしただけでただ携帯電話をかざしただけであったらしい。

 

 

 

男たちを追い払った慎二は続いて首を傾げている少女の脳天へ手刀を叩き込む。不意打ちを受け可愛らしい悲鳴を上げる少女は痛む頭頂部を両手で押さえながら上目使いで慎二を見上げると、こんな会話を始める。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何するんですか兄さん!?」

 

「何でじゃない!来なくていいって言ったのに何しに来た訳?せっかく衛宮の馬鹿以外に知り合いのいない高校受けて平和に過ごそうとしてたのに…いまので早速無駄な注目浴びちゃったじゃないか!」

 

「そ、それはごめんなさい…まだ中学の事気にしてたんですか?」

 

「あのなぁ…卒業した光太郎達が『あれだけ』の事やらかした後で入学した僕らがどんな目で見られたか桜も身に染みてるだろ?」

 

「えっと…みんなから期待に満ちた眼差しを向けられてましたね」

 

「それだけじゃないだろ!尾ひれ羽ひれがついて、しかもどれもがありえそうだから困る伝説作ってくれたおかげで僕は弟だってだけで3年間いろんな連中に絡まれたんだぞ!」

 

「でも皆さん兄さんの罠…頭脳戦でなんとかなりましたし」

 

「わざわざ言い換えなくていいよ蒸し返えさせないでよ…脱線したけど、入学祝なんて帰ってからできるんだからわざわざ桜が迎えに来る必要なんて…」

 

「光太郎兄さんも来てますよ?」

 

「だから何でだよ!?じゃあさっきの連中追い払うのだって光太郎がすればよかったじゃん!その光太郎はどこほっつき歩いてるんだよ!!」

 

「慎二兄さんの担任の先生に挨拶してくる!ってさっき校門を飛び越えて…」

 

「どうしてその発想に辿り着くんだよ普通に入れよあの駄兄!なに人様の入学初日に身内が不祥事起こしてんだよ!」

 

 

 

 

 

『…………………………………………』

 

 

先ほどの男共を追い払った姿を吹き飛ばしてしまう会話劇をかます間桐慎二と、その妹なる桜。その内容からしてどうやらもう1人、兄である人物が学校へと侵入しているようだ。

 

 

慎二を取り囲んでいた女子達を含め、一部始終を傍観していた生徒一同はただただ妹の言葉に絶叫する慎二を呆けた顔で見つめ、棒立ちすることしか出来ない。

 

 

 

さらに言えば、学校の窓から桜を発見し、ナンパをしかけた男に何かの狙いを定めていた遠坂凛も同じ状況にあったらしい。

 

 

 

 

 

その後、職員専用の出入り口から姿を現した青年…慎二の兄である間桐光太郎が入学おめでとう!と走りながら近寄ると祝福された本人は手に持った鞄を顔面へと叩き付けられてしまう。

 

見ているこちらが痛いと叫びたい程の衝撃を受けたにも関わらず、光太郎はけろりとしておりちょっとしたざわめきが起きたが、そんな事は光太郎と慎二の会話で吹き飛んでしまう。

 

 

 

 

 

「どうしたんだい慎二くん?人の顔を鞄でぶつなんて、関心しないよ?」

 

「人道説く前に自分の行動を顧みろよ!何学校に踏み込んでんだよ勝手に!」

 

「いやー流石の進学校だね。俺の卒業した高校とは設備も大違いだ」

 

「僕は感想聞いてるんじゃない!何で入ったかって聞いてんの!!」

 

「そうそう!慎二君の担任って、衛宮君の知り合いの藤村さんだったんだね。さっきも話たんだけど、相変わらず愉快な人だね~」

 

「頼むよ聞いてくれよ人の話を!!」

 

「どうしたの慎二くん?入学式で疲れちゃったのかい?」

 

「…もういいよそれで…」

 

 

意気消沈する慎二はこれ以上追求すれば自分が疲れるだけであると悟り、肩を落として深く溜息をついた。哀愁漂う慎二の様子を見て彼の兄と妹は顔を見合わせて首を傾げている。どうやら慎二の疲れる原因を把握できていないようだった。

 

 

桜に近づき、強引に連れ出そうとした男たち。それを追い払った経緯を聞いた光太郎の猛省を眺めて少しは気が晴れた慎二は2人を連れて帰路へとつく中で…

 

 

 

「遅くなりましたけど、慎二兄さん。先ほどは助けてくれてありがとうございます」

 

「ほんっと今更だな。次はないよ」

 

「そうは言いつつ、慎二くんなら助けてくれるもんね!」

 

「うっさい!」

 

 

 

嵐の如く現れた間桐慎二の兄妹の姿に未だ足を動かす事の出来ない穂群原の生徒一同。

 

 

(なんだ…)

 

 

綾子は未だ不満を口にしながらも光太郎・桜と肩を並べて帰る慎二の姿を見て、彼に抱いていた印象を変えざる得なかった。

 

 

 

(家族思いの奴じゃん)

 

 

 

ナンパされも笑顔で対応した妹への小言もエキセントリックな行動を起こす兄への仕打ちも、裏を返せば2人を心配しての事だ。ただ心配させるなと言うだけなら誰にでも出来るが、案じてこそ怒れるというのは、結構難しい。特に兄の方は不法侵入として扱われてもおかしくない展開であった。

 

それに、他の誘いを断っていたのも、迎えに来た家族との時間を優先させたからと、綾子は判断する。文句を続けながら歩く背中を見て、はにかみながら。

 

 

 

「楽しくなりそうだな、これから」

 

 

 

 

 

それが、言葉を交わす以前に見た間桐慎二の姿だった。

 

 

同じクラスメイトとして、部活仲間として過ごすうちに間桐慎二という人間を知っていく綾子は次第に、彼にはある『目標』を持っていると聞く。それがなんであるか、1度聞いたような気がしたがはっきりとは思い出せない。思い出せないが、目標に向けて邁進する慎二を見ていたい。

 

 

そのような事を、考えて始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――変身」

 

 

 

慎二の発した言葉の通り、彼の姿は人ではないものへ変わった。

 

 

 

全身を青いスーツで包み、素顔を隠す仮面には赤い巨大な複眼と銀色のアンテナ。左胸にマウントされていた拳銃を手にし、銃口を敵へと向ける。

 

 

 

標的(ターゲット)は…お前だ!」

 

 

 

言うと同時に地下駐車場内へ響く銃声。慎二の放ったエネルギー弾は未だ動揺するトンドンの胴体へと命中する。

 

 

「オガァッ」

 

トンドンの身体へ着弾したエネルギーは弾け、小規模ながら爆発を起こした。見かけ以上の威力に数歩のけぞるトンドンはエネルギー弾が当たった箇所を手で押さえ、踏み留まると次の攻撃へと警戒するが…

 

 

「…ってぇ」

 

 

攻撃を仕掛けたはずの慎二が、拳銃…トリガーマグナムを持つ右手首を左手で抑えいた。

 

慎二がトリガーマグナムの引き金を引いた瞬間、エネルギー弾は狙いから外れることなくトンドンへと命中したが反動は大きく、手首へ大きな負担をかけてしまう。

 

 

「ぶ…ブハハハハ。なんだ武器に振り回されるとは情けない奴。手前らでやっちまえ!!」

 

 

腹を抑えあざ笑うトンドンの命令を受けたチャップ達が棍棒を振り回し、慎二との距離を詰めていくが、当の慎二はトリガーマグナムを再度左手にマウントし、痛みの走る右手し振い握っては開いて調子を確かめている。

 

 

「ああそうだね。気取って片手撃ちしようとしてたなんて扱えないうちは笑い話だ。だから…」

 

 

手首の痛みが引き、握力に問題ないと察した慎二は再度トリガーマグナムを手に取ると接近戦を仕掛けるチャップ達へ狙いを定める。両手でしっかりとグリップを握って。

 

 

「慣れるまでは基本通りにさせてもらうよ!!」

 

 

両手でトリガーマグナムを固定したことで放たれるエネルギー弾全てがより正確に放たれ、駆け寄るチャップ達を次々と貫いていく。トリガーマグナムの銃口が火を噴くと同時に1体、また1体とチャップや怪人素体がアスファルトへ沈んでいく光景に、当初は武器も碌に扱えないと踏んでいたトンドンの表情は次第に焦りへと変わっていった。

 

 

「こ、このままでは…おい!」

 

隣に控えていたチャップは耳打ちするトンドンの指示に大きく頷いた後、他の数体を連れて足音を立てずに銃撃戦が繰り広げられている通りとは逆の方へと歩んでいく。

 

 

どうやら不意打ちをしかけようと行動を開始した敵のやり口を伝えようと大声で慎二に知らせようとした綾子だが、トンドンの腕によって口を押えられてしまう。

 

 

 

「騒ぐんじゃねぇよ…殺されたくなければな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そらぁ!」

 

 

また1体のチャップの胸を貫いた慎二は大地に沈み、燃え上がる姿を確認すると距離を取る敵へと照準を定めるが、おかしい。トンドンとかいう敵の大将に命令された通り、考えなしに突撃をしかけた敵の動きがピタリと止まっている。相変わらず棍棒を掲げ、レーザー銃などで慎二を狙ってはいるが今以上に接近する気配はない。

 

だとすれば…

 

 

「まぁそうするよ…なッ!!」

 

 

天井へトリガーマグナムを向けて1発。直後にガシャンと何者かが倒れ、痙攣をおこしアルミの点検口を振動させる音が耳へと届く。どうやら天井裏に潜んでいた敵をしとめる事に成功したらしい。

 

だが、それだけすむはずがない。

 

 

同じく天井へと潜んでいたチャップが別の点検口を蹴破り、飛び降りると慎二に向け棍棒で刺突する態勢へと移っている。左右から同時に迫られたこの状況で、両手でトリガーマグナムを構える時間はない。

 

ならば、別の方法で撃退するのみ。

 

 

まずは右から近づいたチャップの棍棒を僅かに下がる事で回避し、チャップの顔に向けて肘打ちを叩き込む。白い仮面がひび割れ、グラリと背後から倒れるチャップなど目もくれず今度は逆方向から迫るチャップの胴体に向け、左足を突き上げる。

 

 

くの字に身体を曲げたチャップの高等部へトリガーマグナムのグリップを握ったまま拳を下ろし、鈍い音を立ててチャップは意識を失うのだった。

 

 

 

 

(いける…このままなら)

 

 

これまでチャップと戦う事は幾度もあったが、ここまで圧倒したのは初めてであった慎二の胸の内に、そんな可能性が膨らみ始める。

 

義兄を待つことなく、1人でこの連中を倒せるのかも知れないと…

 

 

 

(そうだ…このままあいつらを…!)

 

 

 

「そこまでだ小僧」

 

「し、慎二…」

 

 

 

その時だった。チャップ達に左右の肩を掴まれ、トンドンの武器に喉元を向けられた綾子が力なく慎二の名を呼んだのは。

 

 

「随分と手下を減らしてくれたな…だがな、今この状況を見てお前がどうすればいいか、分かってんだろ?」

 

「…………………………」

 

ニヤリと醜く口元を歪めるブタの怪人に、慎二は無言で敵の要求へ応える。カラン…という乾いた音がアスファルトへと響いたのは、慎二が手にしたトリガーマグナムを放り投げた為だ。

 

 

「慎二…!」

 

「ブハハハハ…話が分かるじゃねぇか…だがな、この俺に生意気にも攻撃を当てた事は許せねぇ!!」

 

 

綾子の首筋に当てていた武器を引き戻したトンドンは、武器を投げ捨てた慎二へ一気に距離を詰めると武器である馬鍬を胸板へと叩き付けた。

 

 

「ガッ!?」

 

 

短い悲鳴と共に、慎二は攻撃を受けた場所から火花を散らし、背中をアスファルトへと付けてしまう。慎二が立ち上がろうと手に力を込めるよりも早く、トンドンが慎二の胸を足で押さえつけ、馬鍬を複眼へと向けてしまう。

 

 

 

「変身した時はたまげたが…どうやら人質の娘の存在を忘れて戦うなんざ、どうやら力を付けた事によって舞い上がってたみてえだなぁ!!」

 

「ぐ…!」

 

 

メリメリと音を立て体重を足に上乗せするトンドンの言葉に慎二は反論できないままうめき声を上げることしかできない。なす術もなく、化け物に踏みつけられる姿に、綾子の表情は絶望へと染まっていった。

 

 

慎二がああなったのは、自分の責任だと。

 

 

好奇心に任せて自分と離れた慎二を追いかけた結果、こうして敵の手中に落ち慎二を追い詰める事に加担してしまったのだから。

 

 

悔しい。

 

悔しくて堪らない。

 

唇を噛みしめて悔し涙を流すことしか出来ない自分が、どうしようもなく、情けない。

 

 

 

 

「おいおい…らしくない顔しないで貰える?」

 

「え…?」

 

 

いつも学校で聞かせる軽口を聞き、俯いていた綾子の眼はトンドンに踏みつけらている仮面ライダーへと向けられた。見えないはずなのに、あの仮面の下では慎二が笑っているように思えてしまう。

 

 

「何か勘違いしてるかも知れないけど…お前が絡んでいようがいまいが僕はこうなってた…お前が、気にする事じゃないんだよ」

 

 

「なに言ってんのよ!だって現にアンタ、苦しんでんじゃない!私はそんなの…慎二が苦しんでる所なんて、痛がる姿なんて見たくない!!」

 

 

「あーそう。なら、ここいらで終わらせないとな…」

 

 

軽々しく、飄々とそんな事を言ってのけた。

 

 

 

「てめぇ…今の状況分かってるのか!あぁ!?」

 

「がぁ…!」

 

 

 

慎二の放った言葉に怒りを露わにするトンドンはさらに慎二を踏みつける力を強め、スーツの上から慎二の内臓…否、心臓を踏み抜こうとするが慎二は擦れた声となりながらも口を閉じる事をしなかった。

 

 

「ああ…お前の言う通りだよ。僕は変身できた事で舞い上がってた。不覚ながらね…けど、僕は自分の戦い方を、一変たりとも変えてはいない」

 

「あぁ?」

 

「…曲がりなりにも僕をいたぶりに来たんだったら、敵の戦い方を把握してるもんだろ?」

 

「何を…何を言っている!?」

 

 

明らかに自分の方が有利であるというのに、あともう少し足に力を込めれば青いスーツを貫き、心臓を踏みつぶせるというのに、慎二の言葉に不安を拭えないトンドン。指揮をするボスガンからの命令はないが、今すぐにでもこの人間を殺さなければならないと考えた矢先、再び慎二の言葉が聞こえてしまった。

 

 

 

「そうだなぁ…僕の戦いってのはいつも地味でね。光太郎が戦ってる相手の弱点探したり、どうにか罠に嵌めたり…そして―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間稼ぎが多かったね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、駐車場内に響く爆音。

 

一体何事かと周囲を見回すトンドンが見たのは、慎二を追い詰める為に下ろしていた出入り口のシャッターを突き破り現れた赤い2つのライト…否、赤い眼を輝かせてこちらへと迫りくる生体バイク、アクロバッターの姿であった。

 

 

「者共!撃…」

 

「させないよ!」

 

 

トンドンがチャップ達へ爆走するアクロバッターへ一斉射撃を指示するよりも早く、慎二が腕を振り上げると、チャップ達の頭上から泡状の液体が降り注いだ。突然の目くらましに武器を手放してしまうチャップ達をアクロバッターは次々と跳ね飛ばす!

 

乱入者の登場に慌てふためき、綾子を捉えていたチャップ達も武器を向けるが、既にウィリー走行で迫っていたアクロバッターの前輪による横殴りで壁へと衝突してしまった。

 

 

『サァ、今ノウチニ逃ゲルノダ!!』

 

「ば、バイクが…」

 

 

見慣れた反応の中では一番大人しいリアクションだなと呑気な感想を抱く慎二に、トンドンは表面上は冷静を装いながらもチャップ達を妨害したのは慎二だと確信し、目を血走らせて問いただす。

 

 

 

「てめぇ…あれをどうやって差動させた!?」

 

「尋ねる前によく見てみろよ。あっちの差動レバーをさ」

 

「…ッ!?」

 

 

慎二の言う通り、チャップ達に降り注いだ泡消火剤を差動させるレバーに、何やら絡みついているのが分かる。それは慎二がこの場所に張った罠などに使用された透明のテグスが巻き付いており、その先をたどってみると今トンドンの足元にいる慎二へと続いていたのだ。

 

つまり、トンドン達が現れる以前から慎二によって仕掛けられた罠だったのだ。

 

 

「ま、まさかお前!最初からこうなるように…」

 

「その通り。だから、お前がよそ見している間にこんな事だってできるのさ」

 

 

そう言ってトンドンが慎二へと顔を向けた時、重い銃撃が幾度と自分の身体へと叩き込まれた。

 

 

慎二が両手で構え、射撃したのは放り投げたはずのトリガーマグナム。

 

 

 

「お、のれ…お前、その銃を捨てる前に既に」

 

「ご名答。折角の武器をただ手放すだけなんてナンセンスだからね。っても、本当に捨てたとしても他にもやり方はあったけどさ」

 

 

トリガーマグナムのグリップには、泡消化設備を差動させたと同様のテグスが結びついていた。慎二は敢えてトンドンの視線を差動レバーへと向けさせた時に放ったトリガーマグナムを回収していたのだ。

 

 

 

 

 

「悪いね。いくら変身しても、強力な武器を手にしても、何時だって僕の一番の武器は(ここ)なのさ」

 

 

 

 

 

至近距離で受けたダメージは大きく、ヨロヨロと後ろへ下がるトンドンからようやく解放された慎二は立ち上がり、コツコツと自分の側頭部を指で突くと即座に武器を構える。そして、トンドンはまだ倒れない。

 

 

「ま、まだだ…そんな攻撃じゃあまだ俺は倒れんぞ!!」

 

「だろうね。見かけどおりに中性脂肪が厚くて決定打になってなそうだし、だから――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『決定打』を打たせてもらうよ」

 

 

 

宣言した慎二はトリガーマグナムを真上へと放り投げる。今度は自分の意思で武器を捨てるなど、と空中を舞うトリガーマグナムに視線を向けるトンドンの意識の外で、慎二は行動へと移る。

 

 

ベルトのバックルからトリガーメモリを引き抜き、ベルトの右側に備えられたスロットへ装填、側面のボタンを掌で叩き付けると迸る青色のエネルギーを放ちながら変身時に放たれた同じ声…ガイアウィスパーが木霊する。

 

 

 

 

 

《TRIGGERッ!MAXIMUM DRIVEッ!!!》

 

 

 

マキシマムスロットから流れるトリガーメモリのエネルギーが慎二の身体全体を包んでいく。

 

 

身体を屈め、アスファルトが砕ける程に力を込めて蹴り上げた慎二の身体はマッハを越える速さでトンドンへと接近する。

 

 

 

 

トリガーメモリの特性は、使用者本人の『射撃能力』を向上させるもの。トリガーマグナムという強力な武器扱えるのも、このメモリがあってこそ可能なのだ。

 

 

そして、慎二はこのメモリを使用し、『自身を射撃する』という攻撃に打って出た。

 

 

だが、このままでは弾丸のようなスピードで敵に迫る体当たりで終わってしまうだろう。

 

 

そんなもので、この攻撃を終わらせるつもりはない。

 

 

慎二は猛スピードで敵との距離を縮める中で身体を前転させ、右足を突き出した態勢へと変わる。

 

 

身体全体ではなく、ただ一点に突進力を集中させたその技は、義兄が最も多くの敵を打倒した技でもあった。

 

 

 

 

「これが僕の…」

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーキックだッ!!」

 

 

 

 

 

 

トンドンには理解できない。

 

 

自分の胸に突き刺さり広がる激しい痛みと、一瞬の自分で自分に迫り視界を覆う敵の姿が。

 

 

「う、があああああああああッ!?」

 

 

絶叫するトンドンが叩き込まれた慎二の攻撃に吹き飛ばされると同時に、攻撃を仕掛けた慎二本人もその反動で技を発動させた場所まで飛ばされてしまうが、それすら予測していたかのように着地、腕を掲げ、広げた掌で先に放り投げ、落下したトリガーマグナムを掴む。

 

 

遠目から見ていた綾子には慎二が武器を放り投げ、再び手にした時には敵が勝手に吹き飛んでいたようにしか見えていない。この一瞬で、慎二は何をやったのだろう。

 

その疑問に、応えられるものは誰もいない。

 

 

 

 

 

「さっきのは、よそ様の車に身体をぶつけてくれた僕の仕返しだ。そして…」

 

 

マキシマムスロットから抜いたトリガーメモリを、続いてトリガーマグナムのスロットへと流し込む。

 

 

 

 

 

《TRIGGERッ!MAXIMUM DRIVEッ!!!》

 

 

 

 

 

ガイアウィスパーが木霊する中、エネルギーのチャージ音を響かせ、銃身を起こしマキシマムモードへと移行させたトリガーマグナムをゆっくりと頭上へと掲げ、両手でグリップを握るとフラフラと立ち上がるトンドンへと狙いを定める。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは、アイツを泣かせた分だ………」

 

 

静かに、本人に聞こえぬ程度に怒りを込めた最大の攻撃を放つ為に、慎二は引き金を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ライダーショット!」

 

 

 

 

 

エネルギーが凝縮された1発の弾丸。

 

 

華麗で真っすぐな弾道を描くその一発は、トンドンの胴体を完全に貫いた。

 

 

 

 

 

「そ、そんな…バカなぁッ!!」

 

 

 

断末魔の叫びをあげ、トンドンはその名に怪魔獣人の誇りでもある『ガイナ』を付けることなく消滅させるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、慎二がゴルゴムを壊滅させた仮面ライダーじゃないの…?」

 

「そんな大層な事やらかしたのは別人で十分なんだよ。僕がなったのは、さっきが初めてだ」

 

 

 

あれからトンドンの爆発によって本格的に消防危機が発動してしまい、妙な疑いを持たれる前に駐車場を離れた慎二は連れ出した綾子に事の顛末を説明した。だが、それでもやはり納得しきれることではないだろう。

 

バレてしまった手前、隠し通すよりも説明した方が良いのか考え者だったが今はその時ではない。

 

 

「悪いけど、説明はまた今度だ。本当に、今度は急用だからさ」

 

 

アクロバッターから聞かされた最悪なニュース。追い詰められている光太郎の脳波を受信したアクロバッターの話では、どうにも火急の事態となっているようである。

 

 

アクロバッターに搭乗し、ヘルメットを装着する慎二に、綾子は服の袖を掴んで尋ねた。

 

 

 

「…ねぇ、今回の騒ぎも説明も全部ひっくるめて終わったら…今日の埋め合わせをして」

 

「こりないねお前は………わかった、わかりましたから睨むのをやめて下さい」

 

 

 

そんないつものやりとりを交わした慎二はもう一度聞く。

 

自分の、あのような姿を見てどう思ったのかと。

 

 

 

 

 

「なに言ってんの?そりゃ怖かったけど、私を助けてくれたのも、こうして目の前にいるのも、間桐慎二なんでしょ?」

 

「ああ…そうだな」

 

 

あの異世界人達に言われ、そして肯定したものと同じ言葉。

 

それがどうして自分以外から言われたら、こんなに落ち着いてしまうのだろう。

 

 

(光太郎も、こんな感じだったのかな)

 

 

 

聞いてみようと考えたが、やっぱりやめたとスッパリ諦めた慎二は今度こそアクロバッターと共にその場を離れる。

 

 

彼の背中を見守る綾子はただ祈った。

 

 

もし先ほどと同じように戦いへと赴くなら、無事でいて欲しいと。

 

 

仮面ライダートリガー…間桐慎二の身を案じて

 

 

 

 




ジョーカーメモリのように攻撃強化ではなく、あくまで身体を射撃した、というマキシマムでありました。

さて、次は桜側のお話ですね。

お気軽に感想など頂けたら幸いです!

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