Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

67 / 112
さぁ、先に謝罪いたします。またまたやっちゃいましたゆえに…

それでも受け止めてくれると信じて、66話を投下です。



…いやマジすいません


第66話

「…と、いった感じよ。できそう?」

 

「う…あ…うん」

 

 

大学の中庭で幼馴染みである紫苑良子から施された助言を受けた間桐光太郎はそんな曖昧な声を漏らす。

 

気まずい仲となってしまったメドゥーサと和解するために良子からのアドバイスを聞いてはみたが、果たして自分に出来るのであろうかと自信のない返答を見て、やっぱりなと良子はクスリと口元を抑えて微笑んだ。

 

 

「でもそうね。光太郎君には少しハードルは高かったかしら?」

 

「いや。でも、いつも間近で先生のお手本をいつも見ていたから何とかなるかもしれないな」

 

「もう…からかわないの!」

 

 

そう言って頬を赤くする良子の反応に笑って見せる光太郎ゆっくりと息を吐くと改めて感謝の言葉を述べる。

 

 

「ありがとうリョウちゃん。どうにかやってみるよ」

 

「うん、その意気よ。最初にも言った通り、光太郎君次第なんだからね?」

 

「うん!」

 

「―――さま~…」

 

「…うん?」

 

 

決意表明とそして力強く頷いた光太郎の耳に、ここにはいないはずである少女の声が耳へと届く。はて、あの子は確か家で勉強中だったはずではと光太郎が振り向いた先。

 

 

「光太郎兄様~!」

 

「が、ガロニアさん…!」

 

 

自分に向かって駆けてくる少女…間違いなく桜と瓜二つであるガロニアだ。なぜ大学に、そして泣いているのかと疑問が次々に浮かび上がるが…

 

 

「あの子…桜ちゃんじゃ、ないわね?」

 

「えッ!?」

 

 

良子の言葉に思わず声を上げて驚いてしまった光太郎だが、自分の動揺した後で、今更だと思いつつもなぜそう思うかと尋ねてみた。

 

 

「ど、どうしてあの子が桜ちゃんじゃないと…?」

 

「うん…最初は桜ちゃんかと思ったんだけど、声も違うし、足の運びとか重心とか…」

 

と、常人ならばまず目に留まらない部分に関して指摘する良子を見た光太郎は、確か彼女の実家は空手道場だったな…という情報を思いだすが、彼女はそれよりも決定的な異なる点を見つけていたようだ。

 

だがそれは余程言いずらいことなのか。良子は気まずそうに彼女の身体のある一点を見つめ、光太郎に察してくれと言わんばかりに横目で見てくる。

 

 

「あ~…ほら、それは…個人差ということで…」

 

「うん…そうよね」

 

 

ガロニアが桜と外見が唯一異なる点に関しては、現在間桐家でもタブーと化している。以前にメドゥーサと共に風呂へ入った時など、彼女はこの世全てが信じられないといじけてしまった程だった。

 

 

 

「光太郎兄様ー!…どうなさったんですの?」

 

「いや!なんでもないよ…ところで、どうして大学に?」

 

 

2人の思惑に気が付かないまま、ガロニアは光太郎の前で立ち止まると、涙を拭きながら順を追って説明する。

 

ガロニアの気分転換の為にメドゥーサが大学まで案内してくれた事。そしてガロニアが大学内の設備を見て夢中になっている最中に、メドゥーサが姿を消してしまった事…

 

 

あのメドゥーサがガロニアを置いて居なくなってしまうなどとありえない。もしや何かあったのかと思案する光太郎だったが、まず蚊帳の外となった良子に説明を済まさなければならない。

 

 

「光太郎君、えっと…この子は?」

 

「あ、ああ!彼女はガロニアさん。うちの遠い親戚で―――」

 

 

良子にガロニアの説明をする途中、光太郎のズボンのポケットから携帯電話が震えだした。ごめんねと良子に断り携帯電話の画面を見ると、「非通知」の表示。嫌な予感を抱きながらも通話のボタンを押して耳に当てた途端、その予感は当たる事になってしまった。

 

 

 

『…間桐光太郎だな』

 

「その声…貴様は」

 

『これから言う所に、1人で来い。身内の命が大事ならな…』

 

「…!?」

 

 

その後、指定の場所を告げた相手に電話は切られた直後、光太郎は慎二・桜、そしてメドゥーサの携帯電話へとコールするが、出る様子がない。最後のメドゥーサへの連絡が留守番電話への音声へと切り替わった時点で通話を切ると、光太郎を心配した様子の良子に困ったような笑みを浮かべる。

 

「ごめん、少し用事ができちゃったんだ」

 

「大丈夫、なの?」

 

「大したことはないさ。今日はありがとうね、リョウちゃん」

 

「あ、待ってよ光太郎君!」

 

 

ガロニアを連れてその場から駆け出してしまった光太郎の名を叫ぶ良子であったが、光太郎は耳を貸すことなくその場から離れていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それではメドゥーサ姉さまは…!」

 

「うん。クライシス帝国に捕まった可能性が高い。それに、慎二くんや桜ちゃん達の身にも何か起きているかも…」

 

 

家にいるはずであったメドゥーサとガロニアがここにいるということは、全員が外に出たという事になる。赤上武に関しては変身が可能となったのでひとまず心配はいらないと考えた光太郎は、相手の要求どおりに告げられた場所へと行くと決めた。罠であろうが、今は踏み込むしかない。

 

「ガロニアさん。これからここにライドロンを呼ぶ。君はライドロンの中に隠れていてくれ」

 

「兄様。けど…」

 

 

光太郎の意図は理解できる。怪魔界の一件で力を使えなくなってしまったガロニアが光太郎と共に行動しても、状況を悪化させてしまうという事を。それでも、本来なら敵である自分を受け入れてくれた人々の為に、何かをしたいと考えるガロニアの肩に、光太郎は優しく手を置いた。

 

 

 

「大丈夫。必ずみんなと一緒に帰って来るから、ガロニアさんは安心して待っていてくれ」

 

「絶対…ですよ?」

 

「ああ、約束する!」

 

 

涙目で見上げるガロニアに力強く頷いた光太郎は、その後大学近くに到着したライドロンにガロニアが乗り込み、間桐家の『倉庫』に向かうのを見届けると、敵の指示した場所へと向かう。拳を強く握りしめて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…!」

 

「キキキ…頑張るじゃねぇか?」

 

 

短く声を上げた赤上武は身体を真横に転がし、どうにか敵の攻撃を回避する。片膝を付いて息を整えようと短く呼吸をするが、状況は悪化するばかりだ。そんな武をあざ笑う怪魔獣人ガイナニンポーは変わらず衛宮家の屋根の上から見下ろし、その手にある戦極ドライバーを弄んでいる。

 

 

しかもただ見ているだけではない。

 

 

「キキ!さらに10体追加だ」

 

 

ガイナニンポーが自身の頭部から数本の毛を抜き取り、口の前に翳すと息を吹きかける。ガイナニンポーによって飛ばされた白く細い毛は本人から離れていく度にみるみる太く、大きくなっていった。

 

地上へと接近する間際に四肢が生え、着地する頃にはガイナニンポーと瓜二つである猿型の怪人が奇声を上げて武を取り囲むのであった。

 

 

「これで、何匹目だ…」

 

全く面倒なと立ち上がる武は自分へジリジリと迫ってくるガイナニンポーの分身怪人に向けて構えを取る。

 

 

 

ドライバーを取り戻そうとガイナニンポーへ跳びかかった際、突如怪人の背後から別の怪人が現れ、武を捕獲すると衛宮家の中庭へと叩き付けられてしまった。痛みに耐えながら顔を上げる武の目に映ったのは、中庭で待っていた獲物が現れた事に狂喜する分身怪人と、敵陣の奥…障子が全開となった客間の中で倒れている女性…藤村大河の姿があった。

 

いや、定期的に呼吸…というより豪快なイビキを立てている様子から敵に眠らされた訳ではなさそうだと安堵する武

 

 

 

事実、当初は衛宮邸内にいる藤村大河を襲い、彼女の意識を奪った後にその姿を借りる予定だったガイナニンポーであったが、侵入してみれば標的は休日であるという気のゆるみのためか、大の字になって昼寝をしていたのである。

 

 

 

 

 

そして武は自分の心配を始める。自分の周りには分身怪人数十体と、胡坐をかいてニヤニヤと笑う敵のボス猿一匹。状況だけを見れば最悪だ。

 

 

「キッキッキ…気づかれた時はどうすればいいかと思ったがこりゃ楽に任務をこなせるなぁ」

 

「任務…だと?」

 

 

睨みながら聞き返す武の姿が余程愉快だったのか、ガイナニンポーは指先でドライバーを器用にクルクルと回転させながら自分の目的を告げる。

 

 

 

「ああ!俺に下されたのは貴様の抹殺!変身さえしなければお前はただの人間にしぎないからなぁ。RXなんざ相手と考えたらぞっとするぜぃ。それに、弟分たちなんざもっと楽なことだしなぁ」

 

 

「ならば…狙われたのは俺だけではないという事か」

 

「おおぅ、いい勘してるじゃねぇの。そうよ!今頃ボスガン様の命令で今頃トンドンやパーカスは非力な小僧と娘を追い回している頃だろうぜ!」

 

「慎二殿と桜殿か…」

 

 

段々と読めてきた敵の狙い。なら、もうこの猿に翻弄される時間など1秒ですら惜しいと考えた武は懐へと手を伸ばす。

 

その手に握られているのは、血のように紅いブラッドカチドキロックシード。

 

 

「おいおい何のつもりだい?そいつを使うための道具はここにあるんだぜぃ?」

 

 

「ああ。確かに変身するにはそのドライバーは必須だな。だが、それだけが能ではない」

 

 

武の意味深な言葉が理解できず、圧倒的に有利であるはずのガイナニンポーは息を飲む。一体、何を企んでいるのかと…そんな敵の情緒など構いもせず、武は掲げたロックシードのスイッチを押し込み、解錠した。

 

 

 

 

「見せてやろう。異界の神に託された力を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか…」

 

 

薄暗い倉庫の鉄扉がゆっくりと開かれる。背後の日光によって大きな影を作る人物の姿を見たボスガンは長身の身体に不似合いである小さな口元を歪ませると、現れた敵…間桐光太郎と十分な距離を取って相対した。

 

 

 

「フフフフ…ここはよく来たと褒めてやろうではないか」

 

「ボスガン…!」

 

 

今までと違い、幹部本人が出張ってきた事に警戒を隠せない光太郎だが倉庫内に踏み込んだ途端、鉄扉が勢いを付けて閉鎖されたと同時に倉庫内全ての窓のシャッターが下り始めた。

 

どうやら光太郎をRXへと変身させる日光を完全に遮断するための行動のようだ。前回のゲドリアンは単なる暗幕だったが、これを突破するには骨が折れると考えながらもまずは敵の狙いを知らなければない。

 

光太郎は電話で聞いた内容…家族の名を使ってまで自分をここまで呼び寄せた理由を問いただす。

 

 

「ボスガン…俺に一体何の用だ?」

 

「知れた事…クライシス帝国の宿敵である貴様をこの私が、クライシス貴族の名の元に打ち倒すためだ!」

 

 

敵として真っ当な理由だろう。だが、光太郎にとっては度し難い理由であった。

 

 

「俺が狙いであるなら、俺だけを狙えばいい。だがその為に慎二君やさくらちゃんの名を使い呼び出すなど、許さん!」

 

 

「フン…誰が名前だけで貴様を炙り出すと言った…?」

 

 

右手を前方に翳し、左手を腰に添えた構えに移行した光太郎の動きが止まる。ボスガンの言葉と動揺したと見抜いた表情が、光太郎に嫌な予感を引き立てさせた。

 

 

「…どういう事だ?」

 

 

「よく聞け。今貴様の身内1人1人に我が怪魔獣人の刺客を差し向けている。ある程度痛めつけろと命令してな」

 

「何ッ!?」

 

「それに先ほどの報告によれば、赤上武から変身するベルトを奪い、優位に立っていると耳にしているなぁ」

 

「武君が…」

 

「間桐光太郎よ…赤上武にも2人同様、『痛めつける』という命令しか下していない。命令を『殺せ』と変えない為には、貴様はどうすればいいか分かっているな?」

 

「……………………………」

 

 

 

醜く口元を歪めるボスガンの言葉に無言となった光太郎はゆっくりと構えを解く。光太郎の姿に高笑いするボスガンはカツカツと靴音を鳴らし、猶も無言で通す光太郎の前に留まると腰に差していた剣を鞘ごと引き抜き、鞘の先を光太郎の側頭部へと叩き付けた。

 

土埃を立てて滑っていく光太郎は立ち上がろうとするが、その背中をボスガンに踏みつけられてしまう。

 

 

「フハハハハ…言い様だな間桐光太郎!いいか、少しでも抵抗する素振りを見せてみろ。その時は貴様の家族が血を見る事になるのだからなぁ!!」

 

 

 

ボスガンは無抵抗の光太郎に鞘に納めたままの剣を何度も、何度も叩き付けた。この場にはいない慎二達の命は自分が握っているという光太郎へ最も有効であり、一番に彼が憎む手段をもってボスガンは攻撃を続ける。

 

 

 

 

非常照明しか点灯しない空間に、光太郎の身体に打ち込まれる鞘の音だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さい、あくだ…)

 

 

冷たいアスファルトに転がる間桐慎二は全身に走る痛みで痙攣する自身の指を見つめながら、心の中でそうぼやく。

 

 

 

 

 

 

 

同級生である美綴綾子と外出している最中に、物陰から自分達を見る異形の姿を発見できたのは、全くの偶然だった。

 

携帯電話を操作する振りをしてカメラを起動し、自分を見つめるブタのような怪人を撮影した慎二は咄嗟に行動に出る。急用ができたと綾子の返事を待たずにその場から駆け出し、裏通りを通過すると黒い服をきた男たちが追走を始めた。

 

逃げれば逃げる程人数が増していく男たちに業を煮やした慎二は付近の地下駐車場の看板を見つけ、迎え撃つと方針を決定。

 

 

一足先に駐車場の入り口へと辿り着くと、手持ちであった極細のワイヤーを地上から数センチの位置に張り、トラップを仕掛ける。

 

駆けこんできた男2人は設置されたワイヤーで盛大に蹴躓いた直後、起きるのを待たずにスタンガンを首元に当てて電気ショックをお見舞いさせる。ビクビクと身体から煙を上げて痙攣させる男たちの顔から皮が剥がれ、クライシス帝国の雑兵、チャップの顔が現れた。

 

 

「やっぱりねぇ」

 

スタンガンを収納する慎二は予想通り過ぎた敵の正体へ関心を向けることなく、移動を開始。続けて現れる人間に変装するチャップを閃光弾、トラバサミ、くくり縄など何処に隠し持っていたのかと疑問に思う装備で次々と湧き出るチャップを撃墜していく慎二は駐車された車の影に隠れ、チャップ達の足音に舌打ちしながら拳銃へ魔力の詰まった弾丸を補充していく。

 

 

「全く、しつこいったらないな本当…」

 

 

愚痴を零しながらもこの場へ未だ現れない怪人…義兄もいない今の状況でどう切り抜けるかを考える中、一番迎えたくない状況を告げる声が無人の駐車場へと木霊してしまう。

 

 

「ちょっと、話してよ!」

 

「ブヒヒヒヒヒヒ…元気のいい小娘じゃねぇか!」

 

(美綴…!)

 

 

巻き込まないように離れたはずの綾子がなぜここに…そう考えずにいられない慎二ではあるが、普段の行動力を考えれば自分を追ってきた途中でクライシスに捕まったという流れという結論に至る。

 

 

 

 

「小僧!随分とやってくれたなぁ…だが、ここにいる娘を命が欲しければ出てくることだな!!」

 

 

(野太い声で随分とお約束な事を言ってくれるな…)

 

 

深く溜息をついた慎二は拳銃を床に置き、両手を上げて車の影から出る。出てくるよう言われた時に幾つか案を思い浮かべたがどれもがリスクが高い。最善の方法が、もう言われたままに出ていくしかなかったのだ。

 

 

「ほう、よく出てきたな。そんなにこの娘が大事か?」

 

「はぁ?寝ぼけた事言わないでくれるチャーシュー野郎。僕はもう少し御淑やかな――――」

 

 

言葉を待たず、チャップが手にしたこん棒が慎二の腹部へとめり込む。目を見開き、呼吸を強引に止められてしまった慎二へチャップ達の容赦のない攻撃が一斉に降り注いだ。

 

 

「ブヒヒ!そうだ、コケにされた分、存分にやり返してやるがいい!」

 

「し、慎二!慎二ィ―――!!」

 

 

あざ笑うブタの怪人…トンドンが笑う中、腕を背後で縛られて身動きの取れない綾子は泣き叫ぶしか出来ない。そんな彼女の声を痛めつられながらもしっかりと聞こえている慎二は、ただ今の状況が気にくわなかった。

 

 

 

(ったく、泣いてるんじゃないよ…普段僕が衛宮の馬鹿や遠坂に言われてる時みたいに笑ってろってんだ。そんな顔…見たく――)

 

「どれどれ。今度は俺も遊んでやろうじゃあねえの」

 

「が…あぁ」

 

顔や腕に青あざが広がる慎二の頭部を掴み、持ち上げるトンドン。ただの人間を痛めるけるという、簡単過ぎて疑いすらしてしまった任務だがこうも簡単に成功させてしまうとは、笑いが止まらない。自分など動かず、チャップだけでも物足りただろうが、少しは働いた証を残しておかなければならない。

 

そう、兄貴分と同じ怪魔獣人の名を、『ガイナ』の称号を得る為に。

 

 

「そおらよッ!」

 

 

トンドンの掛け声と共に振り上げられた慎二は身近にあった外国車のボンネットに背中から衝突。窓ガラスが飛び散る中、ズルズルとボンネットから滑っていく慎二は砂袋と似たような音を立てて、アスファルトへと落下した。

 

ピクリとも動かない慎二の額からゆっくりと血が流れ、小さな池を作っていく。痛々しい慎二の姿に、綾子は悲鳴を上げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(さい、あくだ…)

 

 

痛め付けられた為か、感覚が酷く鈍い。このままもう一度同じ攻撃を受けたら、命はないな…などと冷静に自分の状態を分析する慎二に、嫌と言うほどに聞きなれた声が、聞いたこともない悲鳴が頭に響いて来る。

 

 

「離して!慎二、慎二ィ!!」

 

(うる、さいな…何度も人の名前、連呼するんじゃない…よ)

 

 

そんなことされたら、立ち上がらなきゃならないだろ…と力を込めるが、まるで起き上がれない。それはそうだろう。日頃武によって訓練を受けている慎二ではあるが、それはあくまで人間の、高校生が許容できる範囲での話だ。

 

義兄のように超人的な肉体や力を持ち合わせておらず…ましてや魔力回路を持たない慎二には肉体を強化する事もできないのだから。

 

 

(なんだよ…こんな事、光太郎は毎回味わってるじゃんか…なのに僕は…立つことすら…)

 

 

己の限界を痛感する慎二は自身の情けなさに怒りがこみ上げてくるか、もう手を強く握ることすらできない。

 

 

(もう、待つしかないのかよ)

 

 

このような時、決まって来てくれる義兄…光太郎の存在が目に浮かぶ。颯爽と現れ、苦戦しつつもその力でこちらの予測を遥かに上回る方法で敵を撃退する、ヒーロー。

 

もう自分の役目は果たしただろう。後は、目が覚めた後に義兄の事後報告を聞くしかないと、重たくなった瞼を閉じようとする慎二であったが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トンドン様、この地球人の娘はどうします?」

 

「命令にはあの小僧を痛めつけるとしかなかったしなぁ。まあいい、殺すか」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――おい、今何て言った?

 

 

 

―――美綴を殺す?今日をただの休日として楽しんでいた、ただ巻き込まれた美綴を殺すと言ったのか?

 

 

 

 

―――そんな事、許されるはずがない!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

 

 

不思議と腕に力が籠る。ガクガクと震えているが、ほんのわずかだが、慎二は自身の両腕で身体が持ち上げ始めた。なぜ、あの同級生の命が危うくなったと知った途端に力が入ったのかは分からない。

 

気にくわない。

 

あのブタの言った言葉が、とことん気にくわなかったに違いない。

 

そう自分を納得させる慎二は両腕を伸ばし切った時であった。

 

 

 

「がッ!?」

 

 

上半身が持ち上がったまでは良かったが、手首が身体を支えきれずにアスファルトへ吸い込まれるように倒れてしまった。

 

 

 

 

(は…ハハハ…本当に、アイツみたいに行かないな…)

 

 

ボヤける視界の中で、震えてながら自分の名前を叫ぶ同級生の顔が見える。普段の凛々しい姿からは想像できないような泣き顔が、何故か分かってしまう。そんな顔、させるつもりはなかったのに…

 

もう自分を嘲笑する力すらない事に悲観する慎二の耳に、カタン…と胸ポケットから落下したものが目に入った。

 

 

「こ、れは…」

 

 

それは武から御守り代わりにと渡された、異世界の人物から託された道具。今でも用途が分からず、ただ持ち歩き続けていたものに、慎二は必死に手を伸ばす。

 

 

(もう、何か出来るとしたら、これしか…)

 

 

照明に反射するそれに向かい、慎二は万感の思いと共に、震える指でつかみ取る。

 

 

(頼むよ…もう、これしかないんだ)

 

 

どう使うかは何度も試した。

 

 

間桐邸にある文書を読み漁り、義兄がライドロンの設計図を抽出したパソコンとどうにか接続し、メディアに頼んで分析すら頼んだこともあった。

 

それでも、この道具は何も答えない。

 

そもそも、本当にこれは武の言う異世界の人々が扱う『力』であったのか?

 

疑問を抱きながらもこうして持ち歩き続けたのは、なぜか持っていなければならないと感じたからだ。

 

理由は分からない。だが、その理由が明かされてるとされるのなら、今なのだ。

 

 

 

 

(別に僕の身体を治せだなんて望まない。あの怪物を倒せとも頼まない。けど、せめて、せめて―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美綴の泣き顔だけは、止めてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう慎二が口にした瞬間、彼の意識は『此処』ではない『何処か』へと飛んでいき――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼等』と出会った――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブヘヘヘヘ…さぁどう料理してやろうかぁ。若い女を殺すのは、ずいぶんと久々だからなぁ。まずはコイツで血をたっぷりと流してもらおうかぁ」

 

 

口を涎まみれにするトンドンが手にした武器…馬鍬と呼ばれる九本の歯を持つ熊手に似た武器を綾子にチラつかせる。チャップから解放されたものの、壁に追い詰められ、自身に迫る窮地に震えるしかなかった綾子だが彼女の反応は別のものへと変わる。

 

トンドンの背後の、さらにその向こうで立つ少年の名を呼んで。

 

 

 

 

 

「慎二…?」

 

 

綾子の声を聴いた途端に一斉に振り返るクライシスの一同が見たのは…自分達の手によってボロボロとなりながらも、依然として立つ間桐慎二の姿だった。

 

 

 

 

「よぉ…盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、そいつ離してくれる?僕の方が先約なんだよ」

 

「お前…死なない程度に痛めつけてやったが、なぜ立ち上がった?」

 

「野暮な事聞くなよ。僕は女の子の前でみじめな恰好をさらしたくないの。まぁ、そんな面じゃ永久に理解もできないだろうけどさ」

 

「…取りあえず俺を馬鹿にしているって事だけは分かったなぁ」

 

 

トンドンが腕を上げた途端に慎二はチャップ達によって囲まれてしまう。再び綾子に害を加えると脅すこともできるが、そんな必要もないだろうと考えたトンドンと、慎二に逃げるようにと声を張ろうとした綾子の目が同じ場所へと留まる。

 

 

 

 

 

慎二の下腹部に、先ほどまで存在しなかった装飾品が…ベルトが装着されていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ美綴…これから起きること。学校の連中には言うなよ」

 

 

そう言って、右手に持った『それ』を前方へと翳す。

 

 

 

 

 

 

「こう叫ぶの、結構恥ずかしいんだぜ…」

 

 

 

 

 

普段、真面目な綾子をからかう時と同じ笑みを見せた慎二は手にした『それ』の下部に位置するボタンを、人差し指で力強く押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《TRIGGERッ!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一度聞けば暫くは忘れられない声を放ったそれ…見ればUSB端子に似た青い道具を慎二はベルトのバックルへと装填。

 

 

直後、心臓の鼓動にも思える待機音と、ベルトから放たれる青いオーラを放ちながら慎二はゆっくりと両手を左右へと伸ばし、両足を重なるような位置で垂直に立つ。

 

 

慎二の全身がまるで『T』を描くような姿になると、その言葉を静かに告げる。

 

 

 

 

 

「変身―――」

 

 

 

その刹那、右手を左上に、左手を右下へと素早く突き出す。その際、左手によってベルトの一部が倒され、再びあの声が周囲へと響き渡った。

 

 

 

 

 

《TRIGGERッ!》

 

 

 

 

ベルトから放たれたエネルギーが慎二の全身を包んでいく。

 

 

青の装甲で全身が包まれ、左胸に特殊な形状をした銃を形成。

 

 

最後に顔を包んだマスクには赤い巨大な複眼と、『W』の文字を連想させるアンテナが額へ出現する。

 

 

 

 

変身を完了させた慎二の姿に戦慄を覚えたトンドンは、あの名を。クライシス帝国の怨敵の名を口にしてしまう。

 

 

 

 

「か、仮面ライダーだとッ!?」

 

 

 

 

敵が動揺する中、未だ状況が視えない綾子は先ほどまで自分を追い詰めていた敵が慌てふためく存在を都市伝説としか知らなかった。

 

その存在が、今目の前にいる。

 

 

「仮面ライダー…慎二が?」

 

 

 

 

 

 

敵や綾子の言葉を聞き取った慎二は、床に散らばったガラスに映る自分の姿をみて、なるほどと唱えると同時に、左胸に装着された武器…トリガーマグナムを手に取った。

 

 

 

「なるほどね…ま、僕が名乗るなんて烏滸がましいけど、お前たちをビビってくれるんならそう名乗るかな?さっきから煩い声にちなんで…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダー…トリガーってね」

 

 

 

慎二は、その銃口を敵へと向け。

 

 

 

 

「覚悟しろよ…」

 

 

 

 

 

標的(ターゲット)は…お前だ!」

 

 




てな感じで、新たな平成ライダーの乱入。彼がどうやってドライバーを手に入れたか、『彼等』とは誰なのかはまた次回となります。


…こんなになってしまいましたが、お気軽に感想等頂けたら、本当にうれしいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。