Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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例のごとく、星騎士の皆さんはあくまで殻を被ったパチモンであるという事を前提に読んで頂けたらと思います。
調べが足らないので、かなりの独自解釈となっている部分も多数ございますゆえ…

では、いろいろな視点からなる65話です


第65話

彼の人生は恵まれていた。

 

いや、恵まれ過ぎであったのかも知れない。

 

 

裕福な家庭。

 

優しい両親。

 

約束された将来…

 

 

 

彼が歩む道には何の障害もなく、望むものは全て手に入れてきた。

 

 

 

 

だからだろう。

 

 

 

彼は自分の人生に意味を見いだせず、心の中に『何か』が蓄積していった。

 

 

 

 

望めばどんな物も手に入り、喜びを感じたのは幼少の頃まで。成長してしまえば、逆に恐ろしさすら浮かんでしまう。

 

 

なぜ、どうしてこうも簡単に手に入ってしまうのだろうか。

 

 

彼が少年時代に夢中になった絵本や冒険譚には、苦労して手に入れこそ価値があると主人公たちが言っていたのに、彼には何一つ感動を得る事が出来なかった。

 

 

それは、彼を囲う人々と、家族にすら言える事だった

 

 

 

彼が何をしようと咎めようとせず、笑いしか浮かべない親。

 

 

その親の怒りを買わぬよう媚びへつらう使用人達。

 

 

決して彼より上にならないよう仕組まれた同年代の子供。

 

 

 

彼が父親と同じ『水星の星騎士』を継承した時、周囲から送られる賛美とは裏腹に、心の中は伽藍洞と化していた。

 

 

 

 

 

そんな時であった。

 

 

哨戒の任務として小さなの村の警備に当たった際に1人の少年と出会ったのは。

 

 

両親は既になく、その目は生まれつき光を失っていながらも懸命に生きる姿に、彼は衝撃を受ける。

 

 

 

周りの住民から厄介払いされながらも恨み言一つ見せることなく、唯一の理解者である教会の神父と日々生きられる事を感謝し、全ての人の幸福を願う姿は、その見た目からは考えられない程に、『生』が感じられた。

 

 

だからだろう。

 

 

村へ移住した者と偽って彼と接触し、数日に一度教会を訪ねては時間をかけて会話する事が楽しみとなってしまった。

 

 

 

そして話をすればするほど、少年の器の大きさを思い知り、いかに自分が矮小な存在であるかという事を。だが、そんな自分を少年は諭した。そんな自分にも、生きて何かを成し遂げようとするきっかけ…使命感を抱くことが出来るのだと。

 

 

今にも涙を流しそうになってしまった彼は少年と約束する。

 

 

きっと、少年に胸を張れるような生き様を見つけ、その時は最初に少年へ打ち明けるのだと。

 

 

だが、その約束は果たされる事はなかった。

 

 

翌日、村の住民全てが行方不明となる事件が発生してしまった。

 

 

 

必死に住民の…否、少年の行方を捜索し、たどり着いたその先で彼が見たのは、地獄としか言い表せない光景だった。

 

 

 

ある者は骨のみとなり、またある者は手足を魔物のそれに付け替えられていた。

 

 

 

後に怪魔獣人と呼ばれる怪人を誕生させる実験場であったその奥に、少年だった者がいた。

 

 

 

 

首から下を失い、培養液の中でずっと閉ざされていた目を開けた、少年の頭部が。

 

 

 

 

 

 

彼は実験に関わった者を全て殺した。

 

 

 

 

命乞いをする科学者も、実験に加担していた帝国の幹部も。

 

 

 

 

 

権力と地位を引き換えに彼が生まれる前から研究資金を提供していた両親を始めとした一族全員を。

 

 

 

 

 

 

地図にも存在しない小さな村の住民であれば、この怪魔界から消えても支障はない。そんな理不尽な理由で彼が尊敬する少年の命を奪ったことを、彼は許せなかった。

 

 

 

そしていつしかこう考えるようになってしまった。

 

 

 

少年が願った誰もが幸福でいられる世界を、憧れである少年の『生』を奪ったクライシス帝国…水面下で戦いを世界に広げようとする者達を皆殺しにしてみせると。

 

 

平和を脅かす『戦う者』であれば誰であろうと、何者であろうと根絶やしにすると。

 

 

 

彼が決意したと時を同じくしてクライシス帝国に反旗を翻す者…自分と同じ星騎士の称号を持つ者達が接触を求めた。

 

 

それぞれの思想は異なろうが目的は同じ。そう呼びかけられた彼は同意する。

 

 

クライシス帝国が滅びた後、彼等をも殺すという決意を秘めて。

 

 

 

 

 

 

彼は思った。

 

 

こんな自分でも、どのような形であれようやく『使命』を持つ事が、生を実感する事が出来るのだと。

 

 

彼は理解している。

 

 

こんな自分を、あの心優しい少年は決して認めず、許さないのだろうと。

 

 

 

それでも、もう彼は止まることはできない。

 

 

 

 

 

彼…水星のマキュリアスがアルスやジュピトルス達と共に他の星騎士と壮絶な戦いを繰り広げるのは、この数日後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マキュリアスが得た新たな肉体は、怪魔界とは異なる世界の英雄が元になったようだが、彼にはその人物とどのような共通点があるかなど興味はない。せいぜい、自分の立場に何かしら思うところがあった程度なのだろうと結論づけたマキュリアスは、自分を解き放った言葉にある『間桐光太郎』という人物を捜す事なく、夜の港へと訪れていた。

 

 

そこで見かけたのは、黒ずくめの男たち…暴力団らしき者達と外国人による拳銃密輸の場面。

 

 

マキュリアスは深く溜息を付いた。

 

 

ああ、この世界にも少年が願う平和を蝕む害虫が生息しているのだと。

 

 

掌に鎌剣を顕現させたマキュリアスの取った行動は、怪魔界と変わらない。

 

 

平和を壊そうとする者は、皆殺しにするだけだ。

 

 

 

 

 

人間共の解体には、10秒もかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホホホホ…見事な手際ですねぇ。流石はマキュリアスです」

 

 

「………………………」

 

 

 

うんざりとした表情を浮かべ、鎌剣の先を突然現れたかつての共犯者へと向けるマキュリアス。怪魔界で起こした謀反はあくまで帝国を滅ぼすまでの利害の一致であり、慣れ合うつもりはさらさらない。少年の望む世界に、誰よりも殺戮を好む存在をこの機に始末してやろうかと考えた途端、カエルのような風貌を持つ男はある提案を持ち掛けてきた。

 

 

 

「私は間桐光太郎を知っています。そう、かつて貴方が認めた少年が愛した怪魔界の平穏を邪魔する輩の、ね」

 

 

ピクリ…と僅かながら目元を動かしたマキュリアスの反応に口元を釣り上げるジュピトルスは説明を続ける。

 

 

 

「怪魔界が危機的状況にあるのは貴方も知っているでしょう。その危機を回避するためにこの星への移住が計画されているのですが、それを邪魔している存在こそが間桐光太郎なのです」

 

 

「そう…崩壊の危機に面している怪魔界の『平和』への一番の弊害となる男なのですよ…」

 

 

「…………………」

 

 

 

マキュリアスが聞き逃す事の出来ない言葉を選び、標的を自分からクライシス帝国の怨敵へと向けさせようとするジュピトルスは、彼が何のために帝国と決別した知っている。

 

 

知っている故に、マキュリアスが狙うべき敵は自分ではなく、間桐光太郎…仮面ライダーBLACK RXへと向くという確固たる自信があってこそ、その名を告げたのだ。

 

 

事実、クライシス帝国の地球侵略作戦を妨害し続けている限り、怪魔界による支配した後に訪れるであろう『平和』は遠のいていく。なばらマキュリアスは間桐光太郎を見逃すはずがない。

 

 

だが、ジュピトルスはあくまでこの男を利用するだけだ。

 

 

間桐光太郎を、自分の考えた方法で倒す為に…

 

 

 

 

 

「いいだろう。目覚めたばかりのワタシにはまだ状況の把握ができていない。だから今回ばかりは君の口車に敢えて乗ってやる」

 

「話が早くて助かりますねぇ。では、まず手始めに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは…ペル、セウス…」

 

 

かつて神話の時代に自分の首を跳ね飛ばした英雄の名を口にしたメドゥーサは鮮血をまき散らし、音を立てずに地へ沈んだ。

 

 

滑らかな紫色の長い髪を自身の血で染めていく女性を見下ろすマキュリアスの胸に、自身では分からない痛みが走る。まるでメドゥーサを倒した事に、悔いているかのような罪悪感が胸に広がるが、それでも一瞬であった。

 

 

(この身体の持ち主の痛み…といった所だろうか)

 

 

鎌剣を消失させたマキュリアスは自分のものではない痛みへ興味をしめさないまま、自分の行動を影に隠れ傍観していた者へと告げる。

 

 

 

「終わったよ。君の言う通り、まだ殺してはいない」

 

「ホホホホホ…これは重畳」

 

 

公園に設置されている遊具の影から現れ、相変わらずボロ布で身体を覆い隠すジュピトルスは意識を失ったメドゥーサの髪を鷲掴みし、持ち上げて見せた。それに合わせて僅かながら顔が地面から浮くメドゥーサの表情が痛みによって歪むが目を覚ます様子が無い事から確かに意識を失ったと判別したジュピトルスはギョロリとした眼球をマキュリアスへと向ける。

 

 

 

「さて、では最後の仕上げに必要なもの…それも貸して頂いてもよろしいですかな?」

 

「……………………………」

 

 

ニヤニヤとするジュピトルスに目を細めるマキュリアスは無言のまま懐から布袋を取り出し、ジュピトルスへと投げ渡した。異様に爪が伸びた手で掴んだジュピトルスは約束とは言えど、あっさりと自分に『宝具』を譲渡したに疑問を抱くがマキュリアスは予測していたかのように答えた。

 

 

「ワタシはそのようなモノが無くても今持つ『宝具』だけでも十分に戦える。そう…君をこの場ですぐにでも殺すこともね…」

 

「恐ろしい御方だ…ならば、さっさと要件を片づけるとしましょう」

 

 

手にした布袋へ自身の魔力を流し込み、禍々しい輝きを放ち始めた。袋から放たれる波動を意識を失っても感じたのか、メドゥーサは震え始めていた。

 

 

「そういえば、先ほど随分と君らしい作戦を聞かされたが…他の者達はどうするつもりだ?」

 

「ご心配には及びません。『協力者』がしっかりと動いてくれています」

 

 

 

 

 

「そう…しっかりとね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい慎二ー!」

 

「おっそいんだよ!待ち合わせに10分も遅れてんじゃん!!」

 

「男のくせにそんな細かいこときにするなっての。自分もさっき着いたばっかりとか、気の利いたセリフ言えないの?」

 

「こっちの都合に有無を言わさず約束をこじつける相手じゃなかったらなぁ…」

 

 

新都のバスターミナル

 

 

ゆっくりとした足取りで現れた同級生である美綴綾子の発言に苛立ちを隠そうともしない間桐慎二は人差し指で米神を突きながら腕時計を睨む。これから向かう喫茶店はとあるイベントの実施中により昼時を過ぎても込み合っているのだと噂で聞いたことがある。

 

並ぶ時間も含めて、1分でも早く解放されたい慎二にとっては1分という時間すら惜しいのだ。

 

怪魔界でのいざこざがようやく落ち着き…いや、まだ若干懸案事項が残っているがやっと魔導書を落ち着て読みふけると思った矢先、綾子からメールが贈られてきた。開いてみると…

 

 

 

 

『前ミーティングをサボった貸しの件、今度の休みで。返事は『はい』か『イエス』、もしくは『了解』しかきかないからね』

 

 

 

 

見の覚えのない慎二が『何のことだよ?』と返信した3秒後、彼の顔色は蒼白となった。

 

 

 

 

 

 

『部内どころか、学校中に妹を密室に連れ込んで泣かせた間桐慎二っていう噂、聞いてみたい(笑)』

 

 

 

 

 

眩暈を覚えた慎二は思い出した。そういえばガロニアが桜に変装して現れた際、綾子を撒く為にそんな口約束をしたような記憶が、わずかだが蘇る。

 

 

どうにかあの場から綾子を離す為の口実のつもりだったが、まさかこうもしっかりと覚えていたとは…さらに彼女の学校生徒への影響力を考えると本当に噂を流しかねない。

 

これはさっさとその約束とやらを果たし、いらぬ風評が広まる事を防ぐためにも慎二は不本意ながらこの場へと訪れる。だが、そんな自分へのダメージを気にしつつも、慎二は綾子が待ち合わせに遅れるという珍しい場面に出くわしていた。

 

毎度の弓道部の集まりや試合会場にはいの一番に到着し、遅れてやってくる連中へ叱咤する姿をよく衛宮士郎と見かけたものだった。

 

今回に限って遅れてきた綾子へ問いただしてみたが。

 

 

 

「女子にはいろいろと準備があるもんなの!」

 

 

 

という力強い一言でこの話題は終了。足早に例の恥ずかしいフェアを実施中の喫茶店へと向かう綾子を追いかけ、慎二は納得しきれないまま付いていく他なかった。

 

 

 

 

 

 

余談ではあるが、綾子は家を出るギリギリの時間までどの洋服を着て行こうか迷っていたとかいないとか…

 

 

 

 

 

 

(にしても、これって本当に何なんだよ…?)

 

 

信号待ちをする中、隣で上機嫌である綾子に察知されぬよう慎二は胸ポケットに忍ばせた道具を弄る。

 

赤上武から『御守りだと思え』と言われ、取りあえず持ち歩いてはいるが使い道が未だにさっぱりであった。色々と使い道を試行錯誤しても反応も示さないため、武の言う通り御守り程度にしか…いや、御守りとして機能するかも怪しい。

 

 

「なにボーっとしてんの?信号変わったよ」

 

「…あぁ、悪い」

 

 

綾子に促され、信号を遅れて通過する慎二は取りあえず持ち歩く御守りへの思考は放棄し、目の前にある問題へと意識を向けるのであった。

 

 

 

数十メートル先にある建物の角から彼等の様子を伺う存在に気が付かないまま。

 

 

 

 

 

 

 

「ブヒヒヒヒヒヒ…あれが間桐慎二か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボスッという鈍い音と共に少女の放った矢は的に当たる事なく、本来狙った箇所を囲う安土へと落下してしまう。

 

 

「…やっぱりまだ本調子じゃないみたいだな」

 

「はい…すみません先輩。折角のお休みなのに道場まで付き合ってもらって」

 

そう言って間桐桜は自分の射を分析する衛宮士郎へ礼を述べると困ったような笑みを浮かべる。怪魔界から帰還した桜は一時期体調を崩していたが現在は回復。弓の感覚を取り戻すために顧問である藤村大河女史の許可を得て弓道場へと足を運んだのだが、矢を放つのはこれで3度目。そのどれもが的に当たる事無く安土へと沈んでしまっている。

 

 

「少し、休憩しよう。確か備え付けのお茶が切れていたはずだから外で何か買ってくるよ」

 

「あ、先輩。今お金を…」

 

「後でもいいよ。じゃ、しっかり休んでろよ」

 

 

靴に履き替えた士郎は校内の自販機のある場所へと向かう。道場の外へと出た士郎を見送った桜は弓を静かに床へと置いた後、まだ射ていない矢の中央を持つと射場の隅に設置されている縦長の箱…数十本の矢が収納されている矢立箱に向かい放り投げた。

 

 

「入っちゃった…」

 

 

桜の放った矢は他の矢で密集されている小さな隙間に音を立てることなくすっぽりと収まった。10メートル以上離れているにも関わらず…

 

 

 

 

(やっぱり…怪魔界で何かされて以来、なのかな)

 

 

指先を見つめる桜は、自分に起きた異常の原因をそう結論付けた。

 

一度クライシス帝国でガロニアの替え玉とされた際に、桜は記憶を上書きされ潜在能力を強引に引き出され、身体も成人にまで成長させられてしまっていた。光太郎や本物のガロニア達によってその元の状態に戻る事はできたが、地球に戻った直後に体調不良を起こしたが、それは実際には単なる不調ではなく、ガロニアであった時の『感覚』が元に戻った桜の身体に馴染まなかった為に起きたものであった。

 

 

浚われる前に比べ鋭くなった五感に、増大した魔力量。

 

身体は間桐桜に戻る事はできたが、能力はガロニアのままとなってしまった桜は不安を覚え、以前とどれ程異なるかをこの数日間、誰にも言わずに試していた。

 

 

義兄によって作られた赤い手甲は怪魔界から戻る前と同じ要領で魔力を込めた途端に煙を上げ、術式が刻まれた爆発式の矢は番えた段階で燃え尽きてしまう。

 

 

さらには視力も『見え過ぎて』しまったのか、距離感がまるで異なっていたために的へと当たる事無く全てが外れてしまっていた。

 

 

この変化は一時的なものなのか、それとも永遠に続いてしまうのか…自分の知らぬ間に起こってしまった自身が身に着けた力に困惑する桜は、思わず光太郎の姿が浮かび上がる。

 

 

「光太郎兄さんも、こうだったのかな…自分が、自分でなくなっていく怖さを、いつも…」

 

 

その恐怖を、光太郎は幼いころに半年以上も1人で味わってきたと聞いている。今なら分かる。今まであった自分が、まるで世界から切り離されてしまったような戸惑いとこの力で誰かを傷つけてしまうかもしれないという自身への恐れ。

 

 

桜は無意識に道着の胸元を…武に託され、御守りとして紐で括り首から下げていたモノを抑える。

 

 

もし、武の言う通り御守りであるのなら、どうかこの力を抑えてほしいと節に願う。

 

 

 

 

そんな桜を、学校の屋上から見下ろす怪人の影があった。

 

 

 

 

 

 

 

「間桐桜…俺好みの女ではないか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…士郎殿は不在か」

 

 

武家屋敷の前で立ち往生する赤上武は顎に手を当て、今日の目的は果たせぬかと踵を返そうしたが、聞き覚えのある声に思わず立ち止まる。

 

 

 

「あれー?確か桜ちゃん家に最近暮らすようになったっていう確か…赤上さんでしたか?」

 

「む?」

 

 

呼び止められたと振り返った先には、衛宮士郎の姉貴分であり、慎二・桜の通う穂群原学園の教諭である藤村大河の姿があった。確か以前尋ねた際に挨拶を交わしたが、自分を『大河ちゃんって呼んでみて!』と何度もせがまれた記憶がある。

 

どうやら武の声に誰かを連想していたようだが、そこは士郎によって制止されたが。

 

 

「今士郎は出かけているんですけど、何か用ですか?」

 

「いえ、少し野暮用といいましょうか、しばし鍛錬の為に道場をお借りしようと…」

 

「あ、なら中で待ちます?私、合鍵持ってますし、士郎には後から言っておきますから!」

 

「そんな…ここは家主に直接断りを入れなければ…」

 

「固い事言わない言わなーい!今開けるのでちょっち待ってて下さいね!」

 

 

武の遠慮など却下し、門の鍵を開けようと鍵を取り出す様子に、思わず苦笑する武。

 

 

本当に、間桐家の人々からよく聞かされている通りにマイペースな人間だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に、よく化けていると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何者だ、貴様」

 

 

 

ピタリと、鍵を差し込んだ腕の動きが止まる。だが大河はにっこりと笑ったまま武の方へと振り返ると彼の言葉に動揺することなく、口を開いた。

 

 

 

「も~何の冗談ですか?やや、もしかして新手の遊びかなにかで――――」

 

「先ほど俺を呼び止めた時、貴様は何の気配も発しなかった。ただの一般人である藤村殿が、絶つ必要のない気配をな」

 

「…………………」

 

 

武の指摘に無言となった大河の表情から笑顔が消える。そして、だんだんと醜悪に顔を歪め始め…

 

 

 

「キィッ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 

突然武の顔に向けて手にしていた鍵やバックを投げつけられ、怯んでしまった途端に大河の腕が武の懐へと差し込まれる。瞬時に手を抜いた直後、大河はその場から飛び上がり、衛宮家の門の上から武を見下ろしていた。

 

 

 

「キキキキキキ…噂に違わぬ勘の鋭さよな…俺の変装を見破るなんて流石だぜ!」

 

 

 

口調どころか、声色すら変わってしまった大河…否、大河に化けた者が片手で弄んでいるモノを見て、武は思わず自分の懐をのぞき込む。

 

ない。

 

変身に使用するため、常に持ち歩いていたものが…

 

 

 

 

「貴様…ドライバーをッ!!」

 

 

「キキキッ!お前が変身する為にはこいつが必要だって事も調べ済みだ!さぁ、これからかわいがってやるぜ…」

 

 

大河がその場で飛び跳ね、後ろ向けに反転し着地したその姿は―――

 

 

 

 

 

「この最強の怪魔獣人、ガイナニンポー様がなぁッ!!」

 




てな感じで姐さん以外にも危機迫る!というところで次回へ続きます。

そしてその次回、怒られる事を覚悟して作成いたします…


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