Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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お久しぶりですと言いつつも、実は先週別作品を投稿してました…

今秋からこちらに復帰・そして専念しますのでお許しを

では、63話です!


第63話

丑三つ時を回ろうとする時刻。月明かりを頼りに港のコンテナ置き場を進むその者は全身をボロ布で覆い隠し、自分が最も好む香りを求めて足を速めていた。一刻も早くその先で起きているであろう何かを求めて、鼻歌を口ずさむ程に心を躍らせている男の風貌は闇夜という効果も相まって不気味と言っても過言ではない。

 

本来長身である男は頭を前方へ乗り出すような猫背であり、布の合間から唯一伺える両目はカエルの如く飛び出ているように見えてしまう。

 

何より目を引いてしまうのは、男には右腕がない。

 

肩から先にあるべき腕が存在しない為に、本来腕まで覆うはずの布が不必要に揺れ、音を立ててしまっているが男にはそんなもの気にも止まらない。

 

今は一秒でもはやく、自身の鼻孔をくすぐる香りの元へと辿り着かなければならないのだ。

 

謎の使命感に燃える男はアスファルトを踏み鳴らし、靴底がカツカツと音を鳴らして進んでいくが、次第に男の靴音が変化していく。

 

 

最初こそは靴と路面によって打ち鳴らす音であったが、次第に音は小さくなると切り替わるように水たまりへ足を踏み込んだようにパシャリ、パシャリと飛沫が生じるものへと変わった。

 

無臭の水と違い、独特の嫌な臭いを醸し出すそれは靴に付着し、時間が経つに連れて赤黒い塊へと変化していく。

 

しかし男は不快に思うどころか、むしろ嬉々として液体を跳ねさせている。

 

もっと、もっとこの音を聞きたいと。

 

 

 

 

男が踏みしめているのは、人間の血液だった。

 

 

 

 

 

 

「お、おおおぉぉぉぉぉっぉ…!」

 

 

 

歓喜に震える声を響かせる男の視界に広がるのは月に照らされ、冷たい輝きを反射させる血の海と、四方八方へ散らばる血液が詰まっていた生物の破片…常人が見れば正気でいられない光景に、男は笑いを抑えられない。

 

手近にあった生物の頭部を広い上げ、恐怖に引きつったままに最期を迎えた顔を舐めるように観察する。あわよくば、この生き物の首がポトリと床へ落ちる瞬間を見届けたかったものだと悔やまれると狂った思考を働かせているうちに、この惨劇を起こした張本人の姿を発見。

 

 

 

「これはこれは…姿形を変えど、このような事が出来るのは貴方しかおりませんでしたね」

 

「…この状況を喜んでいる君こそ、ジュピトルスに間違いないな」

 

 

男…ジュピトルスの声に反応した人物はゆっくりと振り返る。

 

 

 

 

「久しいですな…水星のマキュリアス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライス要塞

 

 

その一室に立つボスガンは雑兵チャップの差し出した一振りの剣を受け取ると、鞘からゆっくりと引き抜く。

 

鍔元から剣先に至る所々に雷雲を走る稲妻のような意匠を持つ剣の名は、怪魔稲妻剣。四大隊長の中で随一とうたわれる剣の腕を誇るボスガンが時間をかけて完成させた逸品だ。

 

刀身を眺め、鏡面のように映る自身の顔を見てニヤリと口元を歪ませるボスガンはパチン、と指を鳴らし、別のチャップへと合図を送る。ボスガンに向けて敬礼したチャップが手にしたコントローラーを幾度か操作すると、モーターの駆動音と共にクライシス帝国の宿敵が姿を現した。

 

 

 

「……………………………」

 

 

ボスガンの正面に立つその姿は紛れもない間桐光太郎の変身するロボライダーであった。だが本物ではなく、ガテゾーンが提供したデータを元に作り上げられた模造品である。

 

その硬度は直前のテストでも怪魔ロボット達による一斉攻撃でも傷一つ付ける事が叶わなかった程に再現されていたが…

 

 

 

「ヌオォッ!!」

 

 

怪魔稲妻剣の柄を両手で握り、上段から一気に振り下ろす。ボスガンの放った攻撃がロボライダーの胸部へと命中。走った斬撃による傷口から漏電が起こり、やがて全身に駆け巡っていく。

 

ついには立つことさえ不可能になったロボライダーは前のめりに倒れ、複眼に灯る赤い輝きが消え失せてしまった。

 

 

 

「フフフフ…見事な出来だ。これされあれば如何にロボライダーになったRXだろうが、私の敵ではない…」

 

 

事切れた人形のように動かないロボライダーの背中を踏みつけるボスガンは先日怪魔界で起きた騒動の影で自分がジュピトルスと密約を交わしていた事が明るみになる事を恐れ、ジャーク将軍へとサイボーグ怪人プラントを無断で使用されていると報告。それも、自分は脅されてプラント起動用のパスワードを教えてしまったと偽って…

 

何とか将軍による処分は免れたボスガンであるが、その直後に聞かされたガテゾーンから皮肉を込めた憐みを侮辱として捉え、名誉を挽回する為に仮面ライダーBLACK RXを倒す事を画策する。

 

自分が自ら出向き、RXの首を持ちかえればガテゾーンを見返すことは勿論、地球侵略作戦へ大いに謙譲したという事になればジャーク将軍を蹴落とすことも夢ではない。

 

 

だからこそ作戦は完璧に遂行せねばならないのだ。

 

 

「ガイナニンポー!」

 

 

「キキィ!ここに…」

 

 

猿の鳴き真似と共に姿を現した怪人…西遊記の孫悟空を思わせる風貌に白い毛で覆うガイナニンポーは背後に2体の怪人を引き連れていた。

 

 

「怪魔獣人候補生…トンドンにパーカスよ…」

 

『ハハァッ!!』

 

ボスガンの呼び声に応えた2体の怪人。トンドンは肥満体で鼻が大きく潰れた異様に大きい耳をヒクヒクと動かし、パーカスは真逆にゲッソリを痩せており、鋭いクチバシに頭頂部が皿を乗せているかのように剥げている。

 

ますます西遊記の特色を濃くしてしまう2体の怪人達へボスガンは剣を鞘へと納め、2体が待ち望んでいた言葉を放つ。

 

 

「これより貴様らに指令を下す。これに成功した暁には、怪魔獣人の称号となるガイナの名をさずけよう」

 

 

「おぉ…この強靭な肉体を手にし、ついにその名を授かる時が…」

 

「ブヒヒヒヒ…これでニンポーの兄貴と肩を並べて暴れられるってもんだぜ!」

 

 

ボスガンから報酬として怪魔獣人の称号を預かると聞き、胸を高まらせるパーカスに同意するトンドンは耳障りな笑いを木霊させる。そして2体が聞いた指令の内容は…余りにも簡単過ぎる内容であった。

 

これは称号も何もせず貰ったも当然だと部屋を後にするトンドンとパーカスの気配が消えた後、残ったガイナニンポーは自分に下された指令に頷いた後、気がかりである点を主へ尋ねる。

 

 

「俺が狙うのがあの者であり、連中を2人に任されたのはまぁ納得です。ですが残る最後の標的は、どうするおつもりで…?」

 

「心配する事はない、既に手は打ってある。お前は存分に相手をしているがいい…」

 

 

「私はこの手で、奴が身動き一つ取れない所をいたぶった上で、地獄に送ってやる」

 

 

 

「覚悟していろ…RX」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………………………」

 

 

「おうどうしたコウタ?珍しく…もないのか、お前が溜息つくのは」

 

 

休日。間桐光太郎は幼馴染みである橿原 大輔の経営する居酒屋へと足を運んでいた。居酒屋といっても午前中から夕方までの間は食堂も兼営しており、光太郎はお気に入りにである焼き魚定食を注文したのだが、一向に箸が進まない。

 

怪魔界から無事生還し、桜の病状も完全に回復したにも関わらず、彼の悩みは消えない。

 

さらにもう一度深く溜息をつく様子をカウンター越しに眺める大輔の指摘に、光太郎は固まってしまう。

 

「あん?もしかしてメドゥーサの姐さんと何かあったのか…?」

 

「…どうして君って自分以外の人間関係には鋭いのかね昔から…」

 

 

もう事件からかれこれ1週間が経過している中、光太郎はメドゥーサと気まずい雰囲気となり、会話どころか目すら合わせられない日が続いていた。

 

事の発端は桜が誘拐されたと聞いた時の出来事。桜を優先するあまり怪我を押して飛び出そうとしたところへメドゥーサが現れる。光太郎の身を案じるため、あえて鋭い言葉を浴びせて彼を思いとどまらそうとしたが、今回ばかりは光太郎は耳を貸さずに飛び出してしまう。彼を引き留めようと伸ばした彼女の手をはたいてまで…

 

 

 

焦ってたとはいえメドゥーサへ暴力を振るい、自分を心配する彼女の思いを蔑ろにしてしまったと後悔する光太郎と、心配という名目で光太郎を縛り付けて、彼の気持ちを汲み取ることができなかったと自責するメドゥーサ。

 

 

 

互いを思い過ぎた故にすれ違ってしまった二人はどうにか話をする機会を伺っていてもいざという時に面と向かって話す事が出来ず、食事時など互いに視線を合わせないよう必死になり、桜が腕によりをかけた手料理の味すら分からないでいた。

 

このままではいけない事はわかっている。だが、気まずさから彼女に近づくことすら躊躇してしまう光太郎へ、親友の容赦のない感想が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

「気まずくて謝れないとか、小学生かお前」

 

「………………返す言葉もございません」

 

 

 

 

もはやグゥの音もでない弱気の光太郎へ、後頭部をガリガリとかきながら大輔は仕方がないと呟くと、応援を要請しようと一度手を拭い、携帯電話を手に取る。現在客は光太郎ただ1人のため、数分の通話ぐらいなら問題との判断だ。

 

 

「ダイ君、誰に…?」

 

「こういう時は、おんなじ女に尋ねりゃ即解決ってもんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ………………………」

 

間桐邸の中庭で箒を手にしたまま小さく溜息を見せるメドゥーサの姿に、これから外出しようと玄関の扉を開けた間桐慎二はいい加減仲直りしろよと叫びたい本音をどうにか抑え、黙って門の外へと向かっていたが、その反対側で仁王立ちし、視線を下へむけて叫ぶ赤上武の行動に我慢出来ず全力を尽くしてしまった。

 

 

 

 

 

「よぉしッ!そのまま2体1組で交互に突きの鍛錬だ!!」

 

 

『ミィッ!!』

 

 

「よしじゃないんだよ何やってんだよお前はぁッ!!!」

 

 

 

腕組する武の視線の先には、親指サイズまで身体を縮小させたインベス達が号令に従って武器を使った訓練を行っていた。が、流石に小さくなったインベス達に合わせた武器を用意することは困難であった為に間桐邸にあった綿棒を持たせていたのである。

 

これならばインベスが怪我することなく訓練できるという桜の意見に素晴らしいと太鼓判を押す武の姿を思い出す度に頭を痛くする慎二だが、今はそんな事二の次だ。

 

 

「む、どうしたのだ慎二殿。そのように怒鳴っては通行人に見られてしまうぞ?」

 

「おかしいなぁ。僕から見たら地面に向かって号令飛ばしているお前の方がよっぽど注目浴びるはずなんだけどおかしいなぁ」

 

 

目元をヒクヒクと動かす慎二の言動に『何かおかしなことを言ったのだろうか』と首をかしげる武を真似るように、訓練中であるインベスたちも首を傾げた状態で慎二を見上げている。

 

これでは訓練を強引に中断させた自分が悪いようではないかと拳を震わせる慎二を鎮めるように、状況を見守っていたメドゥーサによる助け船が入った。

 

 

「タ、タケル、シンジが言いたいのはインベス達に訓練を課すのは間違いではないのですが、指導するタケルの姿を不審に思われてしまう事を心配しているのです…」

 

「それは盲点であった…かたじけない慎二殿」

 

「…心配なんかしてないよッ!!」

 

 

メドゥーサにフォローされた慎二は謝罪する武に顔を向けないまま門扉へと向かっていく。ふと今日が休日である事を思い出したメドゥーサは慎二の目的地が何処であるかを問うと、やはり振り向かないまま答えた。

 

 

「シンジ、今日はどちらへ…?」

 

「…覚えのない約束をさっさと片づけにいくだけだよ。ったく、せっかくの休日だってのに…」

 

 

ぶつぶつと文句を言いながら門の扉に手をかけた慎二は、振り向きざまにメドゥーサの姿を見る。

 

 

やはりそうとう参っているのか。以前感じられた『らしさ』が今の彼女には、まるでない。

 

 

 

 

戦いの中で見た毅然とした雰囲気は消え失せ、何かに怯えるような…そう、慎二が出会ったばかりの人見知りであった桜を連想してしまう。

 

 

それ程弱り切ったのは、義兄とこ一週間…いや、桜が誘拐された直後から真面に話せていない事に間違いないだろう。気まずいのもそうだが、彼女は光太郎に負担をかけていたと思い込み、今以上に状況が悪化する事を恐れている節がある。

 

もし、今以上の刺激がメドゥーサに起きてしまったら…

 

 

(何考えてるんだよ僕は…)

 

 

以前、そんな予感を抱いたばっかりに今のような状況になってしまったのではないか。頭を振る慎二はこれ以上考えても仕方がないと外出するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、我々は地下で訓練を行うとしよう」

 

 

膝をついて、手に取ったバスケットへインベスが乗り込む様子を見守る武は浮かない表情を浮かべるメドゥーサへ何か声をかけるべきかと迷うが、この家に居候して間もない自分に、それが許されるのであろうかと躊躇する。それに男女の問題だ。別世界で戦いのみに身を投じていた自分では解決にも至らないかもしれない。

 

 

どうすればいいのかと頭を働かせていると、自分に次いで居候となった人物が玄関から現れた。

 

 

「光太郎兄様ー?」

 

 

ドアから顔を覗かせるガロニアは、間桐邸で暮らすようになってからの呼称で光太郎を探すが、間が悪すぎた。ビクリッと握った箒の柄に亀裂が走るまで握りしめてしまうメドゥーサの様子にこれは重症だと判断した武は立ち上がると、メドゥーサに変わりにガロニアへと答える。

 

 

「光太郎殿であれば、外で御友人のところへと言っている。どうかされたのか?」

 

「あ、はい。先日お借りした本と課題が終わりましたので、続きを出してもらおうと探していたのです」

 

 

はにかみながら両手で「高校1年の数学」と書かれたテキストを見せてくるガロニアに笑い返す武は、先日ガロニアを高校へ通わせるという話を思い出した。

 

 

慎二や桜の通う穂群原学園の編入試験の為、勉学に励むガロニアは元々物覚えが良かったのか、小学生の漢字から始まり、現在では高校1年生の範囲まで網羅している。このまま上手くいけば、通学中の勉強に関しては問題ないだろう。後は遠縁の親戚として誤魔化し、学校でも慎二や桜、協力を申し出た遠坂凛がフォローすればとりあえずは大丈夫であろうという判断だ。

 

しかし彼女は桜と瓜二つ。親戚であると説明しても無理があるのは重々承知はしているがガロニアへ編入の提案をした時の、あのキラキラと輝き希望に溢れた瞳を見てしまったら撤回など出来るわけなかった。

 

 

 

「そうですか…」

 

「なに、午後には戻るであろう」

 

「そう、ですわね。ワタクシ、少しでも早く学び舎へと通いたいと焦っていたみたいです」

 

 

 

しょんぼりと表情を曇らせる姿を見たメドゥーサは、どうにか彼女を元気つけようとある提案を持ちかける。それは同時に、自分の現状を打破しようとの思いも込められていたのかもしれない。

 

 

 

「では、光太郎の通うキャンパスを見学する、というのはどうでしょうか?」

 

「え…?」

 

「シンジやサクラの学校は休日と言えど学生以外の立ち入りには色々と許可を得なければいけませんが、大学のキャンパス内を歩く分には、問題はないはずです」

 

「はい…!ぜひお願いします、メドゥーサ姉様!」

 

 

他の人間から見て怪しまれない様に『様』で人の名を呼ばぬよう伝えた後から間桐家の年上に対して『兄様』『姉様』と呼ぶようになってしまったが、これはゆずれないのだろう。

 

 

ちなみに桜は以前通りに桜さんで通し、訪問した凛を『凛姉様』と呼ばせた際にはおかしなスイッチが入った為、アーチャーに頼んでお引き取り願った。

 

どの道学校では盟約に従って赤の他人として遠坂先輩と呼ぶ事になるのだが…

 

 

 

では行きましょうと、2人で出かける様子を見守る武は、メドゥーサが普段光太郎が通う場所に立ち、同じ空気を吸えば和解するきっかけが生まれるかもしれないと考えたのだろうと推測。

 

それが少しでも問題が解消される事への近道であれと祈るばかりだが、やはりそうはいかなかった。

 

 

 

 

同時に、この日は間桐家の人間が大きな変化をもたらす日でもあった。

 

 

 




色々と動き出しました。はたして間桐家の人々に起きる事とは…?


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