Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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シン・ゴジラ…ええ、本当にゴジラ映画でしたね…


そんな感想とは関係なしに、61話です!


第61話

(いいのかねぇ、あの少年に任せて)

 

「不服か?」

 

(いやいや。あれじゃ戦う以前の問題じゃん?)

 

(ええ…アンリの言う通りかもしれない。いいの、信彦?)

 

 

「………………………」

 

 

シャドームーンの主人格となった月影信彦は自身の内側から呼びかけるアンリマユとキングストーンの意見を聞きながらも、覚束ない足並みで吸血鬼ロアに向かう遠野志貴の背中を見る。

 

 

 

 

 

自分がロアと戦う。

 

 

 

 

そう言った少年の目を見た信彦は手にしたシャドーセイバーを消失させると金属を打ち付けるような足音を立て、ロアに背を向ける。彼の行動をまるで理解できず、驚愕に染まったロアの表情にまるで興味を示さない信彦は志貴とすれ違う間際に、声を交わす。

 

 

 

「アルクェイドを、頼みます」

 

「…いいだろう」

 

 

既に真祖の姫の命はとうに尽きている。そんな事は志貴も、信彦も十分に承知している現実であった。しかし、彼女は既に死んでいたとしても志貴は彼女に戦いの余波が及ぶことを良しとせず、信彦も志貴の願いをくみ取り、安らかな表情のまま眠るアルクェイドの前へと立つ。

 

これから起きる戦いから、アルクェイドを庇うかのように。

 

 

 

(ありがとうございます、月影さん)

 

 

そして振り向かなくても、自分の願いを聞き入れてくれた不愛想な知人の行動が読み取れた志貴は心の中で感謝を述べると表情を引き締め、逆手に持った短刀を前方に立つ敵へと向ける。

 

 

 

あと一つ、奴にはっきりさせるべき事がある。それを知れば、もう…殺すだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「は、ハハハ…ハハハハハッ!!正気が世紀王?そんな死にかけの人間に私の相手をさせ、自分は高見の見物を決め込むというのか?」

 

「………………」

 

「酷い話じゃないか。なぁ志貴?あれだけの力を振るえるというのにもはや武器を構えるのがやっとのお前を、見捨てるつもりらしいぞ?」

 

 

 

信彦が志貴の要望通りに剣を収め、アルクェイドの元へと移動する姿に拍子抜け…いや、安堵からきたものなのだろう。盛大に笑うロアは信彦が渡り廊下に現れた直後に頬を通過した汗を拭う。自分の想像を超えた進化を果たした怪人を一撃で粉砕した文字通りの怪物など相手が悪すぎる。それに引き換え、自分と同じく『死』を視る力を持っているとしても、遠野志貴は所詮人間止まり…吸血鬼である自分に敵うはずなど、ありえないのだ。

 

 

事実、こうして掌から放った魔力弾を足元へ着弾させた際の余波で、志貴はだらしもなく膝を付いている。

 

 

「…っ!」

 

「そらそらどうした?こんなもの、指で弾く程度の力だぞ、志貴?」

 

志貴が立つ位置から僅かに離れた廊下や壁に向けて魔力の雷が衝突し、衝突した爆発で横殴りを受けたような衝撃に見舞われる。ロアの攻撃で削られた箇所はビデオの逆再生された映像のように傷一つ残らない状態へと戻り、志貴だけがダメージを残したまま立ち尽くしていた。

 

ダラリと両腕を下げたまま立つ志貴の姿に口を釣り上げるロアは、後方で腕を組み、彼の背中を黙したまま見つめる信彦へと告げる。

 

 

「どうだ世紀王?これでもお前は傍観に徹するつもりなのか?」

 

「……………………」

 

「随分と冷たいじゃあないか。あれ程心許したというのに、その姿を見てもお前を未だ人の名で呼ぶというのに…このような希少種、そうは現れないぞ?」

 

 

攻撃をしかける素振りすら見せない姿を見て、余計な言葉まで口走る吸血鬼に対し、信彦の反応は淡々としたものであった。

 

 

「…お前たち吸血鬼という輩は、戦いの最中に口を開くことが余程好きなようだな」

 

「なんだと…?」

 

「いや、それとも己の優位性を語り続けなければ戦う事もできないのかも知れぬな。ダロム達のように」

 

「き、貴様…!」

 

 

呆れ半分と言うべきか。先の戦闘で散々聞かされていた戦う相手を見下し、自分が如何に優れているかという自慢話に嫌気を見せる信彦へ、思いもしなかった反撃に犬歯をむき出しにするロアであるが、返り討ちとなることを重々承知しているために手を出すことができない。

さらに信彦の内側では援護射撃が続いていた。

 

 

 

(そうよ信彦!もっと言ってやりなさい!!)

 

(なんなら俺が止めを決めちゃってもいいかい?湯でタコみたいに真っ赤になって心へし折る強烈な奴!)

 

「黙ってろ貴様ら」

 

 

キングストーンとアンリマユの声援をピシャリと遮った信彦はビキビキと顔中に血管を浮かべるロアに対し、自分はこの場から動くつもりはないと改めて宣言する。

 

 

「先ほど言った通りだ吸血鬼。俺は志貴とお前の戦いが終わるまでは、お前に手出しするつもりはない」

 

「…ちっ」

 

 

はっきりと告げた信彦の言葉に舌打ちしたロアは先に片づけなければならない標的へと目を向ける。既に死に体であるにも関わらず倒れずに、自分へと迫る志貴は自分と同じ眼を向ける。

 

ロアは自身と同じ能力を持つ志貴を支配下に置き、手駒として利用するつもりだったが状況が悪すぎると判断し、志貴を殺害した上でこの場から逃げ出す算段を組み立て始める。

 

先ほど信彦が見せた通り、この学校全体に広がる術式を通路とし、目の届かない場所へと転移すればいいだけの話だ。表にいる仮面ライダー達の位置も概ね把握しているロアには死角などない。

 

 

そうと決まれば後は実行するのみ。ロアは掌に魔力を凝縮させ,志貴を燃やし尽くそうとその手を向けるが、その寸前に飛びだした志貴の声に思わず目を丸くしてしまう。

 

 

 

 

「なぜ、アルクェイドを殺した」

 

「…………………」

 

「お前の狙いは…アルクェイドを自分のものにするつもりだったんだろう…なぜ殺したんだ」

 

 

何度も転生し、彼女の前に現れたのも、ロアはアルクェイドの事を…そう考えていた志貴の思考は、ロアの返答に凍りついてしまった。

 

 

 

「ああそうだな…だがな志貴。私が手に入れたかったのは…対面したかったのは完璧であり、永遠の存在である姫君だ」

 

 

 

 

 

「あのように堕落し、無駄なものを取り込み過ぎたものではない」

 

 

 

 

無駄な…もの?

 

 

 

 

「星の触覚であるはずの真祖が人間側に寄り過ぎた…そして不必要な感情を持つようになった。そんな一介の吸血鬼にすら劣る真祖など、生かす価値はない」

 

 

「ゆえに、処分してやったのだ」

 

 

 

 

無駄なもの…志貴が知るアルクェイドはこれまで経験の無かった、自分達人間にとっては当たり前すぎる事一つ一つに驚き、感動していた。

 

嬉しい、楽しいという感情は真祖の処刑人として生まれたアルクェイドにとっては、確かに無駄なものだったのかもしれない。

 

だが、志貴は認めない。

 

無駄だと吸血鬼が言い放ったアルクェイドが得た経験は、決して無駄なものではないのだと。

 

 

「さぁ、質問には答えてやったのだ。そろそろ死んでくれ」

 

 

 

自分をいたぶるかのように放たれる魔力の雷に肩が貫かれ、足は焼かれる。

 

痛みは感じるが、それは身体を刻まれ、神経が悲鳴を上げているからではない。

 

 

時間の経過と共に、より色濃くなる『線』と『点』に世界が覆われている。頭痛は止まらない。

 

 

廊下や壁にはもはや濁流のような線が走る。頭痛は止まらない。

 

 

天井は触れるだけで今にも崩れしまいそうだ。頭痛は止まらない。

 

 

奴の放つ魔術にすら見えてしまう、点と線。

 

 

 

頭痛は、止まらない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…」

 

 

 

 

 

 

 

ロアが放ったのは、魔力を凝縮したバスケットボール程の大きさを持つ魔力弾だった。これを受ければ、志貴の身体から全身の血が沸騰し、神経を焼き切った後に絶命する威力を誇っていたはずだ。だが、その魔力弾が消えた。

 

 

弾かれたのでもなく、防がれたのでもなく、文字通り消えたのだ。

 

 

 

 

「…何をした?」

 

 

立て続けに廊下を魔力の雷が幾つも駆けていく。結果は魔力弾と変わらず、志貴の前に到達する前にかき消されてしまう。

 

城の術式は解除されていない。だというのに、なぜ魔力が消えてしまう?

 

 

「教会の女か?それとも、真祖から概念武装でも施されたかッ!?」

 

 

乱雑に放たれる魔力は消える。消えてなくなる。

 

不可思議な現象に焦りを見せるロアに足を引きずりながらも一歩ずつ前進する志貴はボソリと、当たり前のように呟く。

 

 

「…殺したんだ」

 

 

「死を視ているお前にも、理解できるだろう。お前の出した魔力の『点』に、刃を通しただけだ」

 

 

 

志貴の余りにも無知に等しい説明に高笑いするロアは否定した。自分でも分からないに程に、必死に彼の言葉を、全力で否定した。

 

 

 

「は、ハハハハハ…!何を言うかと思えば…いいか志貴?生きていなければ命はない!命の源である箇所は生物でなければ持ちえない!そんな戯れ言を鵜呑みにするとでも思ったのか!?」

 

 

 

ロアの咆哮に志貴はようやく自分が抱いていた違和感の正体をしる。ようやく、あの吸血鬼との違いを理解できた志貴は蒼く輝く瞳を吸血鬼へと向け、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「合点がいったよ吸血鬼…俺とお前とでは、視ているものが違うんだ」

 

「な、に?」

 

「お前はただ命を…人を生かしている部分を視ているだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

志貴の説明に、離れて様子を伺っていた信彦もやはりな、と顎を手に当て納得したような動作を見せる。

 

 

(オイオイどういうこっちゃよ信彦君!俺にも分かるように説明しておくれ!)

 

「五月蠅いぞアヴェンジャー」

 

(呼び方!?呼び方が戻ってんじゃん!?)

 

(信彦…私からもお願い。彼と、吸血鬼は同じ直死の魔眼を持っているのではないの?)

 

 

信彦の冷たい応答に納得のいかないアンリマユに続き、キングストーンも志貴や信彦が何故、納得できたのかを知るためにも尋ねる。隣でしゃがみこんで指先で『の』の字を書き続けるアンリマユと違い、キングストーンは赤い瞳で真っすぐに見つめて信彦の反応を待つ姿に、信彦は一度溜息を付いて説明を始めた。

 

 

「…何よりの証拠は、お前たち2人が生きていることだ。もし志貴と同じ魔眼で貫かれていたのならお前達はもちろん、俺もとうにこの世にいない」

 

 

それが、同じ対象の殺すことでも、全く異なる結果を出す2人の眼の違いだ。

 

 

一度目に信彦がロアに刺された際はキングストーンのエネルギーがほぼゼロの状態となったが徐々に回復し、現在のように変身や戦闘も可能の状態となっている。

 

二度目…魂であるアンリマユが貫かれた際も彼の存在させる力がゼロとなった事で信彦との意思疎通ができない状態へと陥ったが、消滅までは至っておらず、キングストーンと信彦の意思が共鳴した際に発生した膨大なエネルギーによって回復した。

 

 

(じゃあ…)

 

「奴が突いたのは、『死』ではなかったということだ」

 

 

(でもよ、敵さんはあの性格だぜ?わざと点をずらしたってのも考えられるんじゃん?)

 

「あの性格だからこそだ。奴は自分の目的以外は徹底的に排他する姿勢が見られた。だからこそ、俺達を動けなくする術式を組み立て…確実の点を突くための舞台を用意した」

 

 

復活したアンリマユの問いに分析した敵の心理を元にロアの性格を見抜いた信彦は、自分達を消すつもりで点をついたと確信している。だからこそ、ロアは怯え始めているのだ。

 

 

自分が視ているものとは、まったく別の世界を視つづけていた志貴の眼を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お前は、死を理解なんてしていない。だから俺や月影さんを殺せず…弱り切った女しか殺せない」

 

 

「黙れッ!」

 

 

先ほどとは比べものにならない程の魔力の渦。消されてしまうのであれば、対応できぬ程の魔力を叩き込むという戦法に出たロアであるが、焦りはより強まっている。

 

 

 

「まだだ…まだまだまだまだ!!死ね、死ねッ!死ネッ!!!」

 

 

 

魔力ならまだ無尽蔵にある。このまま打ち続ければ、志貴の身体は微塵も残さず消すことができるはずだ…だからこそ打ち続ける。もはや世紀王や退路などどうでもいい。あの眼で自分を視る人間を殺しさえすれば…

 

 

だが、魔力は再びかき消された。

 

 

そしてロアの放った攻撃魔力が消滅したと同時に廊下や壁、天井に駆ける大きな亀裂。その亀裂は再生されることなく深く、くっきりと痛々しく残っていた。

 

ありえない現象を目の当たりにしたロアは必至になって否定する。絶対に起きてはいけない術式の崩壊が、まさに起こってしまったのだから。

 

 

「莫…迦な!術式が、消えただと!?一度発動すれば解除は不可能のはずだッ!!」

 

 

パラパラと天井から落ちる粉末の音に紛れて響く、小さく、だが確かに存在する何者かの靴音。

 

 

静かに、静かに音を立てて歩み寄るその者の眼は、額から流れる血で濡らしても、蒼いままであった。

 

 

 

 

 

 

「―――死を視ているのなら、とても正気でいられない」

 

 

 

「地面なんて無いに等しいし、空はいつ落ちてくるかもわからない」

 

 

 

 

「物事の死を視ているということは、いかに世界があやふやで脆いという事実を突きつけられているという事だ」

 

 

 

 

「一秒先の世界がすべて死んでしまうかもしれないという錯覚を、お前は知らない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、死を視るという事なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの教会の女はこう例えていた。

 

 

今代のロアは車で言えばエンジンを動かすためのガソリンを丸ごと消してしまう能力を持つと。確かに車を動かすためのエネルギーがゼロになった時点で、それは死と言えなくもない。

 

 

だが、志貴の眼はガソリンどころか、そのエンジンを殺す。

 

 

壊すのではなく、殺すのだ。

 

 

同じようでも、結果はまるで違う世界を視る目。

 

 

 

命と死。

 

 

 

それが、2人の最大の違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、見るな…私をその眼で視るなッ!!」

 

 

 

 

接近する志貴に対し、ロアの表情が恐怖に染まる。口元は笑いながらも目の焦点が合わず、足は無意識に、後方へと動き始めていた。

 

 

だが、志貴は吸血鬼()の言葉など、聞くつもりはない。

 

逃がすつもりも、ない。

 

 

 

 

 

「いいか吸血鬼―――」

 

 

 

 

 

「これがモノを『殺す』っていうことだ」

 

 

 

 

 

 

膝を着き、廊下のある1点に突き立てられた志貴の短刀。

 

 

そこは、廊下全体に『線』を張り巡らせる大きな『点』の中央だった。

 

 

 

 

瞬間、鉄筋コンクリート製地上4階に位置するはずの渡り廊下は脆くも崩れ去り、廊下を足場にしていた志貴とロアは破砕された破片と共に地上へと落下する。

 

 

 

 

「こ、こんなことが…!」

 

 

背中から落下するロアの視界に映る建物であったものの多くの破片と、それを足場に跳躍し、こちらへと迫る志貴の姿。

 

 

苦し紛れに放つ魔力を打ち消して迫る姿に、ロアは思わず口走ってしまった。

 

 

 

 

「ば、化け物…」

 

 

 

 

人間相手に、化け物(吸血鬼)であるロアが、そう口にしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…恐ろしくないだろう。お前が何度も通り、馴染んだ()だ)

 

 

 

(違う所があるとすれば、一つだけ…)

 

 

 

 

 

ロアの胸に、点に、志貴の握った短刀の刃が突き刺さる。

 

 

 

 

 

(今度はもう、帰ってこられない)

 

 

 

 

 

地響きを立て、2つの校舎を繋ぐ渡り廊下は、完全に崩れ去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(う…)

 

 

 

ズキズキと走る頭痛で意識を取り戻した志貴はゆっくりと目を開く。どうやら破片に押しつぶされる事なく、生きていられるような落下をしたらしい。

 

だが、どの道自分は終わるだろうという事も悟っていた。

 

 

(死を、視すぎたか)

 

 

アルクェイドから以前に無理をして死を視ない様に忠告を受けていた。生物どころか無機物の死を理解しようとすれば、脳に大きな負担が掛かり、使い物にならなくなると。

 

だが忠告を無視して無機物どころか、『存在』の死すら見ようとしたのだ。

 

これでは、身体が無事でも脳がダメになる可能性も高い。

 

 

 

(でも、結局こうなるなら…もっと早くロアを倒すんだった)

 

 

 

そうすれば…アルクェイドには別の未来が―――

 

 

 

「あ、あ、あアアアアあアアアあッ!?」

 

 

 

突然耳に響く奇声へ、その発生源であろう方向へと顔を向ける志貴。未だ色濃く『死』を視てしまう彼の目は、驚きの余りに大きく見開いていた。

 

 

 

「お、前…まだ…!」

 

 

 

「キ キ キ エ ル 消 江 ル 私ガ 消 絵 る」

 

 

 

下半身を失い、片腕を失い、もはや理性すらも残っているかも怪しい声を上げて迫るロアの身体から、僅かながらに鱗粉のようなものが浮き始めている。恐らく他の吸血鬼と同じように身体が灰となっているのだろうが、それでも動き続けている。

 

 

なんという、生への執念。

 

 

「く、そ…身体が、動かない…」

 

 

このままでロアが消えるより先に自分が殺されてしまうと察した志貴であったが、現状では対処できる武器おろか、指一本動くこともできない。

 

 

 

「私 ハ 消 えナイ  私 ト お前 は 繋ガっていィル!」

 

「あぐっ…!」

 

「ソ ウ すれ  ば マダ…!」

 

ついに足を掴まれてしまった志貴は、身体が消えかけている自身の意思を移そうとするロアが自分の顔に向けて伸ばす指を見る。もし、掴まれてしまったら自分は、ロアになってしまうのか。

 

 

「こ、の…」

 

 

「無 駄 ダ も う助ケな ド―――」

 

 

 

 

ロアの指先があと数ミリで志貴の額へと届く直前だった。

 

 

 

「ギィッ!?」

 

 

突如ロアの動きが止まったと思えば、ゆっくりとロアの身体が持ち上がっていく姿に志貴は、ロアから自分の窮地を救ってくれた銀と黒の装甲を纏った者の名を力なく口にする。

 

 

 

 

 

 

「月影…さん…」

 

 

 

 

ロアの頭部を掴み、つるし上げる信彦へ消えかけながらも敵意を消すことのない吸血鬼はもはや理解もできない言葉を放ち続けるが、信彦はそれでも律儀にも答えるのであった。

 

 

 

「 世紀 王!? 私 のっ邪 魔 ヲす るな 」

 

 

 

「言っただろう。お前と志貴の戦いが終わるまで、俺は手出しをしないと。だが…終われば話は別だ」

 

 

「が、ガガガガアァァァァァッ!?」

 

 

 

ロアの全身に走る緑色の閃光。本来ならばこれで蒸発させるつもりでいた信彦であったが、電撃を中断させると無造作にロアを背後へと放り投げる。

 

 

 

 

「安心しろ。俺は止めは刺さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そう、俺はな」

 

 

 

 

 

 

 

 

放物線を描いて落下するロアは地面へと衝突することは無かった。

 

 

 

ロアが落ちるであろう位置に、これまで身を潜めていたものが立っていた。彼女はこの機会をずっと、数十年以上待ち続けていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガぁッ!?」

 

 

うめき声を上げるロアの胸から生える鉄の杭。

 

ロアの背中から巨大な武器…転生批判の概念を持つ概念武装『第七聖典』で貫いたシエルは標的を捉えた瞬間、迷いなくその力を解き放つ。

 

 

「ギャアアアアァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

上空に向けて放たれる衝撃は夜空を駆け、第七聖典に囚われていたロアの姿は、断末魔の声とともに完全に消失していた。

 

 

 

 

 

第七聖典を振り下ろしたシエル…志貴の知るカソックとは異なる衣装に身を纏った彼女は学校で見せた優しい微笑みを、志貴へと向ける。

 

 

「はい、これであの人を殺したのは『私たち』です」

 

「え…先輩、何を言って」

 

「ですから、ロアを殺したのは私とそこの銀色の人なんです。どんな人でも、殺人はいけませんよ?遠野くんは『こちら側』に来てはいけません!」

 

 

 

ちゃっかりと自分を巻き込んでいるシエルに何も言わないまま信彦は踵を返し、離れて行く。その手から僅かながら緑色に輝く粒子を放ち、志貴の血で汚れた眼に届くように仕向けて。

 

 

 

(なんだかな~最後に出てきて美味しいトコ持ってくのはなんだかな~)

 

(いいじゃない。彼女にも色々とあったようだし…)

 

「そうだ、誰が止めを刺そうが問題ではない」

 

 

 

 

「それに…まだ面倒事が残っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

後頭部へ優しく手を添え、介抱するシエルへ志貴は彼等の言い分に笑いながらも皮肉を口にした。

 

 

 

「先輩…それ、詭弁だよ」

 

「はい、そうですよね」

 

 

否定しないシエルはそれでもと繋げる。

 

 

「たとえ詭弁でも何となく救いがありそうじゃないですか」

 

 

 

困ったように浮かべる笑みが、言葉が、彼女に少し似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

『私ね、もしもって話は好きだよ?』

 

『たとえ詭弁だったとしても、どこかに救いがあるみたい―――』

 

 

 

 

 

 

 

「…そうだね」

 

 

「なんとなく…どこかに救いが残されているのなら―――」

 

 

 

それは、どんなに幸せなことだろう…

 

 

 

 

 

 

もう手の届かない彼女の姿を浮かべて、志貴は意識はゆっくりと失うのであった。

 




前回で一区切りと言ったな。あれは嘘だ…すいません、もう少しだけ続きます…

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