Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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某動画で始まったW。やはり名作だ…現役よりも先に見てしまっています。

では、59話となります!




第59話

「が、あぁ…!?」

 

 

 

背中に走る激しい痛みに短く悲鳴を上げたバラオムの思考に様々な謎がせめぎあう。

 

 

 

 

あれは、誰なのだと。

 

 

 

 

攻撃を回避し、カウンターを叩き込んだ世紀王が振り返った時、バラオムの背筋に寒気が走った。本来緑色で輝く複眼が漆黒に染まっていただけでも驚きであるというのに、彼の言動、声色すらバラオムの知るシャドームーンと異なっている。

 

シャドームーンの『表』として現れた得体の知れない存在に背筋が冷たくなったバラオムは地を蹴り、再び相手の視界から消える事で距離を取ろうとした。目にも止まらぬスピードで翻弄し、敵対する者をいたぶる為ではなく、完全なる逃避の為に。

 

だがバラオムにとって誤算であったのは、彼と同等…もしくはそれ以上の速さで世紀王の姿をした者が追い付いてきたことだ。

 

聖杯の中身を浴び、怪人の基となった生物の本能が勝った強く、醜悪な姿。死徒となった事で獣の本能を押さえつけ、自意識を保ちつつも強大な力を存分に振るうはずだった。

 

あの世紀王を一方的に屠り、手玉に取れるはずだった。

 

本来胸の内に溢れるはずだった優越感の代わり、バラオムにあるのは焦燥と、ゴルゴムで神官であった時と変わらぬ崇めていた存在へと抱いていた恐怖が、より強くなって刻まれてしまう。

 

 

 

 

「本当なら、吸血鬼にされた被害者であったんだろうけどよ…」

 

 

 

 

信彦へ見せる陽気な雰囲気など欠片も連想させない冷え切った声と共にバラオムの後頭部を五指で力強く握るアンリマユの表情は、変わらない。冷たい輝きを放つ黒い複眼の仮面も、その下の素顔も、変わらない。

 

 

 

 

 

「アンタらは、やりすぎた」

 

 

 

 

 

言い放たれた直後、背中の傷など話にならない程の激痛が顔面を襲う。

 

 

バラオムは超速で移動していた状態から、顔面を校庭へと押し付けられたのだ。

 

 

ガリガリと地面を肉食獣の顔で削り、皮膚と血液をまき散らしながら顔でブレーキをかけるバラオムは、自身の超速で生み出されたスピードと地面への摩擦。さらに後頭部をより強く押し付けるアンリマユによって校庭を深く抉りながら進んでいった。

 

バラオムの動きが完全に止まったのは、最初に顔を押し付けられた場所から20メートル以上進んだ地点。その間に出来上がった校庭の凹みにはまるで赤黒いペンキを塗ったような跡が残り、そしてバラオムは頭部が丸々と埋まった状態にある。

 

確認はしたくもないが、恐らく頭部の半分以上は削り取られているだろう。

 

 

 

 

背中へ突き刺さったままである短剣を引き抜き、止めを刺そうとするアンリマユは咄嗟に身を翻し、バックステップで今いた場所から離れた途端、破壊光線の嵐が校庭の一部を炭へと変えてしまった。

 

 

「こっわっ!誰だよこんな不意打ち…ってああ、そういやお空にいたんでしたっけか?」

 

 

黒い複眼を空へと向けたその先に、夜空で両翼をはためかるビシュムの絶えず放たれる光線の猛襲をステップで回避を続け、背中に装着した籠手を再び腕へと戻し、出現させた爪で怪光線を切り裂くアンリマユはさてどうしたものかと悩む中、優しくも強い意志を秘めた声が囁かれた。

 

 

 

(アンリ、今度は私に行かせて!)

 

 

 

 

 

 

「一体…何が起きているの?」

 

 

バラオムの超速と自分の波状攻撃によって一時は有利に事が進んでいたと思われた。だが、思いもよらない信彦の変化にバラオムはまるで逃げるように超速で姿をくらませたようにも見えた。

 

だがその直後、同様に信彦の姿が消えたように見えたビシュムが続いて目にしたのは、激しく地表を削る音と土煙。何事かと煙の発生源と思われる先へと目を向けてた時には、校庭に頭を埋め、背中を2本の短刀で串刺しにされたバラオムの姿だった。

 

 

より速く、強くなったはずのバラオムがあんなにもあっさりと倒されてしまうとは…しかしビシュムは信彦の攻撃は自分へ絶対に到達出来ない位置にいるという自負から再び攻撃を再開する。全身から繰り出される光線技の嵐に、いくら姿を変わろうが勝てるはずがないと。

 

 

「さぁ死になさい!そして私たちの新たな力となる礎に―――」

 

 

 

 

 

 

「残念だけど、それは叶わないわ」

 

 

 

 

 

 

ふと、ビシュムの耳に聞き覚えのない声が響く。地上から100メートル以上離れた空間で飛行する、自分の真上から。

 

 

月を背にし、大気を昇華するダイヤモンドダストを思わせる白銀の粒子を周囲に纏わせて浮かぶシャドームーンの姿があった。

 

 

「…ッ!?」

 

 

 

この空を制しているのは自分のはず。だが自分に向けて声を放った者はさらにその上から自分を見下ろしされていると、ビシュムは視線が合わせられる高さまで上昇し、自分が良く知る姿であるはずの、全くの別人を睨んだ。

 

 

シャドームーンの姿自体は変わらない。だが、その佇まいはビシュムの知る、自分達の支配者であった創世王を前にしても竦みもしない不遜な王としての威厳も、バラオムに見せた放漫な空気も感じさせない。

 

周囲に姿を変えて常に放たれていた自分への殺気もなく、それどころか仮面の下でこちらを憐れんでいる目を向けている事が分かる。

 

 

気に入らない。

 

 

なぜそのような目で見られないのかと、ビシュムは声色が完全に女性のものとなり、赤色に輝く複眼となったシャドームーンへと物申した。

 

 

「何なのですかその目は…なぜそのような目で私を見るのですか!」

 

 

怒鳴り散らすビシュムへ、シャドームーンの『表』となった意思…キングストーンが語りだした。

 

 

 

「…ごめんなさい」

 

「…なんですって?」

 

「本来貴女やダロム達は、私達を手にした身勝手な王の都合によって生み出されてしまった。そして、自分の為ではなくゴルゴムの為と、長い年月を生き続けた」

 

「何を…何を言っているの!?」

 

 

ビシュムは知らない。今、彼女に言葉を送っている女性はゴルゴムという組織が生まれる以前から存在し、ビシュム達が大神官に至るまでの長い時間をずっと見続けていたのだと。

 

彼女が創世王の為に、大神官へとたどり着くためにどれだけの苦行を重ねてきたかも、その影に野心を秘めていたのかも理解している。それでも、キングストーンは彼女を責められない。

 

例え創世王の傍に立ち、権力を手に入れるという野望であってもそれが彼女にとって生きる希望であったのだから。ただ延命をする為だけに繰り返されてきた儀式に従い続けたビシュムを責める資格など、自分はない。

 

 

だが、今の彼女は違う。ただ己を満たす為に人を、同士である怪人を貪り続ける魔へと身を堕ちてしまった。

 

 

「だから…貴女を止めてみせる!」

 

「なにを分けの分からぬ事をッ!!」

 

 

理解の及ばない言葉の羅列に業を煮やしたビシュムは攻撃を再開。暴風と光線の嵐が標的へと迫るが、その全てを風に乗って舞う木の葉のような動きで回避されてしまう。

 

 

「何ッ!?」

 

 

その動きに驚きを隠せないビシュム。闇雲に攻撃を続けるビシュムには、自分の攻撃を避けられるのかという疑問だけしか浮かばず、そもそも何故飛行能力を持たないシャドームーンが宙に浮いていられたのかへと考えに至ることは無かった。

 

その代わりに、地上で戦いの状況を冷静に分析していたロアとダロムのみが、そのカラクリを見抜き、改めて世紀王の力を思い知る事となる。

 

 

 

「…ビシュムは気づかぬが、シャドームーンの周りに舞う光の粒子…あれは一粒一粒がキングストーンによって生み出された魔力の塊」

 

「それを足に纏わせることでさも浮いているように見せている。しかも世紀王が通る先々に粒子が集まってあのように空中を滑っているかのような動きが可能、というところか。飛行でも浮遊でもなく、空を駆ける為の足場を作り出す物体を生み出すとは。全く…」

 

 

なんと恐ろしいと、ダロムとロアは同じ見解に至った。あの物体にはさらに様々な応用が可能であろうとも考え、現にシャドームーンの眼前で粒子が展開された事により、ビシュムの放った怪光線は泉に広がる波紋のように打ち消されてしまっている。

 

攻撃を弾かれ動揺するビシュムだが、所詮は回避と防御しかできないと思い込み、さらに攻撃を強める。もし、この時ビシュムが攻撃をしかける事ばかりに集中していなければ、背後に迫った狼の牙に気が付くことができたかも知れない。

 

 

 

「がぁッ!?」

 

 

突然肩へと走る激しい痛みに耐え切れず声を上げたビシュムは攻撃を止め、自身の肩へ牙を食い込ませる獣の姿に目を見開いてしまう。

 

銀色の頭部に、首から下は半透明であるが間違いなく狼。だが、一体何処から現れたのかと考えるがビシュムだが、狼の噛みつきは一層に強まるばかりであり、ゼロ距離で怪光線を浴びせても怯みもしない。ついには流血まで始めた頃、視界へと移ったシャドームーンの姿を見てようやく狼の正体を知ることとなった。

 

 

(肩のプロテクターが左右で違う…!いえ、まさか…!)

 

ビシュムの勘は当たっており、その解答がまさに敵から打ち出されようとしていた。

 

 

 

「行きなさい!」

 

 

キングストーンの意思に答えるように狼の頭部を模したプロテクターが分離し、風を切りビシュム目がけて弾丸の如く飛んでいく。その途中、狼の瞳が強く輝くと同時に白い光が全身を包むと今ビシュムへ食いついている狼と同様の姿へと変化し、空を蹴って標的へと迫る。

 

 

「小癪な…ああぁあぁッ!?」

 

 

迫るもう一匹の狼を迎え討とうと口を大きく開くビシュムだったがそれよりも早く肩へと食いついていた狼が動きを見せていた。肩から離れ、より大きく開けた口からビシュムの耳へと響く狼の咆哮。発せられた叫びは超音波となりビシュムの鼓膜や三半規管へと達し飛行する身体のバランスを完全に狂わせてしまう。

 

 

そして空を駆ける狼は苦し悶えるビシュムの翼へと飛びつき、羽を食い破ってしまう。

 

 

「あぁああぁぁぁぁぁぁ…!」

 

 

要の翼を千切られてたビシュムは校庭へと落下。巨大なクレーターの中央で翼をどうにか再生させようと意識を集中させるが、キングストーンはそのような時間を与えない。

 

 

 

遠隔操作で飛ばした狼達を呼び戻すと両腕のに装着された籠手の爪を収納。爪のあった箇所へ身体を再び消失させた狼の頭部が接続される。

 

両腕の狼を眼下でもがくビシュムへと向け、2つの口へ空中を待っていた白銀の粒子…キングストーンの魔力が収束されていく。そして胸部の狼の頭部を思わせる装甲も口を開くと同様に力をため込み始めた。

 

 

 

「ひぃ…!」

 

「これで、終わりにしましょう…」

 

 

悲鳴を上げるビシュムを見てキングストーンが静かに呟いた直後、3つの口から発射されるエネルギーの束。狙いは乱れることなくクレーターの中心へと到達し、大爆発を起こした。

 

 

爆発を見届けたキングストーンは狼の頭部を再び両肩へと戻し、籠手から爪を出現させるとゆっくりと降下する。自らの意思で戦い、相手の命を奪った事に僅かながら戸惑いを見せながらも、ビシュムとの決着を付けたことに安堵するが鋭い指摘が彼女の意思へと届く。

 

 

(まだ終わっていないぞ!)

 

 

「え…?」

 

 

 

 

 

「ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…」

 

 

信彦の意識が告げたように、燃え上がるクレーターから上半身のみとなったビシュムは片腕で身体を引きずり、離脱しようと蠢く姿を視界へ捉える。

 

 

(死ぬ…このままでは死徒とはいえ死んでしまう…!けど人間を、怪人を食べさえすれば…)

 

 

ビシュムは自分へと迫る死への恐怖から再び人を喰らおうと学校外を目指す。幸いにも落下した場所は校門の付近であり、すぐ近くの民家など少なくとも人間は3,4人はいるはずだろう。

 

だが、ビシュムの進路上へ妨げるように立つ人物へ思わず顔を引き攣らせるが、その者の顔を確認した直後に緊張の糸が切れたように、安心しきった声を向ける。

 

 

「あぁ…ダロム」

 

 

「……………………」

 

 

自分の名を呼ぶビシュムの視線へと合わせるようにダロムは膝を付き、彼女を抱え起こした。蒸発してしまった下半身から血が流れ続けるビシュムは震える手でダロムの肩を掴み、今彼女が最も望むものをこの場へ用意するように願う。

 

 

 

「お願いします…生きの良い怪人などと贅沢はいいません。血を…人間の血を私に下さい。生きたい…私は生きたい…」

 

 

懇願する同志の姿にダロムはゆっくりと頷いて見せた。その様子に涙を流して喜びを見せるビシュムの耳へ、自分でも信じられないほどに冷酷な言葉が届いた。

 

 

 

 

 

 

「ビシュムよ…お前は死なん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「永遠に私の中で生きるのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、ダロムの胸が真っ二つに割れると、肉体の内部から無数の触手が飛び出し、ビシュムの身体を拘束してしまう。ダロムの行動が自分をどうするつもりであるのかと瞬時に読み取ったビシュムは懸命に身体を揺らし抗うが、触手を振りほどくことが出来ず徐々に、徐々に、ダロムの割れた胸部へと引きずり込まれていく。

 

 

「ダロム!なぜ…何故なの!?」

 

「安心するがいい…お前を取り込む事で私の力はさらに高まる。バラオムと共に見届けるがいい…」

 

「…ッ!?」

 

不気味に歪むダロムの口元を見て、ビシュムは顔をバラオムが倒れているはずの地点へと向けるが、既にその姿はない。

 

 

 

つまり、ダロムはビシュムと信彦達が戦っている間に既に…

 

 

 

 

「おのれ…おのれダロム!」

 

 

「フハハハハハ…!泣け!喚け!それが最高の味付けとなるであろう!」

 

 

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

響く断末魔と、肉と骨が噛み砕かれていく耳障りな音。

 

 

 

 

 

 

信彦の内側…精神世界でキングストーンは否応なく聞こえてしまう音に対して、目を閉じ、両手で耳を覆い目の前で起きた悪夢を必死で背ける。だが記憶に焼き付いてしまった。

 

憎い相手ではなかった。ただ、これ以上の非道を止めて欲しいためにと、戦ったつもりだった。

 

 

「どうして…あんな惨い事を…」

 

 

確かビシュムは同じ事を繰り返していたのかも知れない。それでも、あのような最期を迎えなければならないとは限らなかったはずだ。

 

 

 

「仕方ねぇんだ」

 

目に涙を溜める女性の肩を、黒い少年は優しく手を置くと、まるで本来の持ち主の感情に煽られているかのように周囲が緋色に染まっていく光景を目にする。

 

 

「アイツらは、吸血鬼に目を付けられた時点でこうなる決まりだったんだ。そう、納得するしかねぇ」

 

「アンリ…」

 

「それに、こんな胸糞悪い喧嘩にケリを付けたいのは、何よりアイツが望んでることだしな」

 

「………………」

 

 

目元の涙を手で拭うキングストーンは、胸の前で手を組むと祈るように、身体の主導権を手にした本来の持ち主の勝利を祈る。どうか、あの者達を止めて欲しいと…

 

 

「信彦…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダロム…」

 

 

緑色の複眼を光らせる信彦は、ビシュムを喰らい尽したダロムと相対する距離まで迫っていた。

 

 

「貴様は、あの時死んでおくべきだった」

 

 

 

どのような戦いが繰り広げられたのかは、信彦は知らない。ただ、宿敵とその仲間達が死闘の果てに倒した事は間違いないだろう。

 

その時に、信彦の知るダロム達大怪人は、死んだのだ。今目の前にいるのは、その皮を被った外道に過ぎない。

 

 

 

「フン…何を言うか。私は貴様や真祖をも倒し、喰らう事で創世王を越え、新たなゴルゴムの伝説を作り上げるのだ!」

 

「伝説など、もう必要ない」

 

 

爪を光らせるシャドームーン・トリニティファングはゆっくりと構える。

 

 

 

 

「貴様の命も、ゴルゴムの歴史も、今ここで完全に潰える」

 

 

 

 

 

「それが俺の、世紀王としての最後の務めだ…!」

 

 

 




次々と特殊能力を見せていきます信彦さん一同。果たして次回はどのような…?

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