前回より短めな58話です!
「…!」
「どうしたんだ?こいつら…」
自分達を囲うゴルゴム怪人を背中合わせで対峙しているアマゾンと筑波洋は敵の動きが突然とまり、ある方向へと顔を向けた様子に構えを解かないまま同じ方角へと目を向ける。
数十分前、自分の友達であるジャングラーが見当たらない事に動揺したアマゾンだったが洋から月影信彦がアルクェイドの後を追う為に行ってしまったと聞くと急ぎ自分達も行かなければならないと、洋が搭乗したバイクの後部へと飛び乗った。
後から呼びかけるシエルの声が聞こえたような気がするが、戦う力を失ってしまった信彦を助ける為に2人は彼のアルクェイドと信彦の目的地である学校へと疾走。
だが、その道手を阻む者が現れた。
邪魔をさせまいとダロム達によって差し向けられたゴルゴムの怪人軍団の出現に、洋は突破しようと愛機スカイターボを加速させるが地中・空中から不意打ちによりスカイターボは横転。とっさに飛び降りた2人は突破は困難と考え、もう一つの方法を選択する。
変身した2人は襲い来る怪人達を次々と倒していくが、数は一向に減らず、ついに囲まれてしまった時であった。
茫然とする怪人達は洋達を襲う事を忘れ、ただ一つの方向を見つめ続けている。それは、洋達の目指す学校へと一致していた。
(何かが起こっている。けど、これはチャンスだ!)
この好機を見逃すわけにはいかない。洋は脳波コントロールでスカイターボを起こし、自動運転で自分達へと向かわせるとアマゾンへと合図を送る。
「行きますよ!」
「おうッ!」
その場から跳躍し、スカイターボへと飛び乗った洋とアマゾンは未だ動きを止めている怪人達の間を向けて、その場から離脱。怪人達との距離を一気に離していった。
「追ってくる様子はない…一体、何が…?」
後ろへと目を向けて自分達を追いかけてくる怪人の姿が見られない事に安堵しつつも疑問を抱く洋の言葉に、アマゾンは行く先の…信彦がいるであろう学校の方角を見つめて答えた。
「多分…ノブヒコ達が、何かを起こした」
「月影君が…それに、『達』って…?」
「よく、わからない。けど、感じる」
「アイツらの心…一つになった」
「なんだ…あれは?」
渡り廊下の窓から校庭の中心に立つ、異様な存在にロアは口からそんな声を漏らした。
校庭の中央に立つ者は間違いなく、世紀王の片割れなのだろう。しかし、彼が纏っている雰囲気は2度自分が殺した時の存在とはまるで違う。その背中を…いや、今いる場所から見て小さく見えてしまうあの姿を視界へと入って来るだけで身震いが起きてしまう。
先ほど真祖の姫をその手で下し、もう自分の脅威となる存在などこの世界にはいないと考えたが、あれは危険だ。しかし世紀王が目を付けているのは興味本位で死徒となったゴルゴムの連中であるため、後々の対応の為にここは静観するべきであろう。
それにと、抱きかかえていたアルクェイドの亡骸をゆっくりと寝かせる少年…遠野志貴へもう少し別れの時間を与えても良いだろうと口元を釣り上げた。
だが、それでもロアはどこかで安心しきっている。この城…街中に設置した術式から永遠と魔力が注がれる『大喰い』がある限り、相手がどのような力を持とうが、自分が何度殺されようが負けるはずがない。
故に気づかなかったのかもしれない。
自身が仕掛けた改造人間の動きを封じる『否定』の術式が発動しているというのに、今の世紀王へ何の効果も齎していない事に。
一歩ずつ、ゆっくりと自分達へと迫る信彦…シャドームーンの新たな姿にダロム達は様々な感情が入り混じっていた。
人類など遠く及ばない程に積み上げてきたゴルゴムの長い歴史の中で、世紀王がキングストーンが2つ揃わない状態でこれまでにない変化を遂げたという驚愕。
何が起こったかまるで理解が追い付かず、着実に自分達へと接近するシャドームーンのまだ見ぬ力への恐怖。
かつての創世王から授かった天・地・海の石の力を再び見せびらかせただけでなく、完全に取り込んだという憤怒。
(だが、力を強めたのは貴様だけではない!)
死徒となった事により多くの人間、そして怪人を取り込んだことでより以前より強力な力を手に入れた。ただキングストーンと3つの石の力を合わせた程度では自分達に敵うはずはない。
前回はシャドームーンの活動時間や不意打ちに気を取られ、片足を失う結果となってしまったが今度はそうはいかない。
あの後、より多くのゴルゴム怪人を呼び寄せ、血肉を啜り身体能力の底上げし、念動力は数倍にまで膨れ上がっている。そう易々と遅れを取るはずはないのだ。
(そうだ、我らは負けん)
(このような出来損ないなどに、もうキングストーンを持たせるなど我慢ならん!)
(さぁ、今すぐにでもこの首を―――)
身構える三神官の融合体の思考は、次に起こした信彦の行動を垣間見て、凍り付いてしまう。
一歩、また一歩とダロム達へと近づく信彦は歩む速度を変えぬまま当に攻撃をしかける為の間合いですら止まらず、ダロム達へ目もくれずに
横切った際に攻撃を加える事もなく、相手を射殺そうとする殺気を込めた眼力を向ける事もなく、ダロム達がその場にいるとまるで察知をしていないかのように、信彦は歩き続けた。
ようやく信彦が足を止めたのは、ダロム達の後方で控えていた怪人達と数メートル距離を置いた地点。ダロム達ではなく、自分達から始末するつもりなのかと怯える怪人達には、もはやかつての肉体を持つ個体はいない。皆、最大の武器である部位や一部分をダロム達に食い破られ、別の生物の肉体や臓器を強引に貼り付けられ生かされている者ばかりだ。
元に戻る可能性など、無いに等しい。
「怪人共…」
静かに告げる信彦の声にビクリと身体を震わす怪人達の様子に、どれほどの仕打ちを受ければあの獰猛な怪人達が怯えるのか。かつて秘密基地で見た姿は今では見えない。
信彦は控えていた20体近くの怪人に向け、両手を左右に展開し、ベルトの中央に輝く王石の力を開放した。
「もう痛みに耐える事も、餌食となる恐怖に怯える必要はない。ただ静かに、逝くがいい」
『ア、アアアぁ…』
信彦が照らす緑色の光を浴びた怪人達は、先ほどまであった恐怖はない。
光に当てられたと同時に怪人達の全身を蝕んでいた痛みが和らぎ、心に刻まれた主に対しての畏怖すら消えてしまうように思えた。
そして怪人の身体は光の粒子となって、その輪郭を失っていく。これから死んでしまうという恐れよりも、やっと解放されるという安らか表情を浮かべて。
シャドーフラッシュによって消え去っていく怪人達の姿を見届ける信彦へ、こんな言葉が贈られた。
ただ『ありがとう』と。
(けっへっへ。随分とデレなセリフを口走るようになったじゃねぇの
(ふふふ。ほんとう、優しいんだから信彦は)
「寒気が走るような冗談はやめろ貴様ら。いつまでも身震いする連中に気を取られないために行っただけだ」
アンリマユやキングストーンの意思から送られる称賛にそっけなく答えた信彦は、背後で怒髪天をつき、今にも爆発寸前であるダロム達へと目をむけた。
『き、さ、まあぁぁぁぁぁぁぁあぁッ!!』
三つの口が同時に吠える。
「私を…我々よりも先に餌どもに…!」
「この場でどの怪人共よりも力を持つ我々を気にも留めぬというのかッ!?」
「このような辱め…!味わったこともないッ!!!」
彼等に取っては屈辱だった。未知の力を持ち合わせようとも見下していた相手に無視され…いや、注目も警戒もされず、自分という存在そのものを否定されていたに等しいと思い込んでしまったダロム達の怒りは頂点に達し、全力で信彦を排除せんと攻撃を開始した。
突き出した両手の指先からレーザーを。大きく開いた3つの口から破壊光線を。6つの眼球からは波状の怪光線を。
『くたばるがいいッ!!!』
もはや距離は2メートルもない間合いで無防備である信彦へと命中し、信彦の身体に着弾すると次々と爆発が起きていく。以前に信彦を庇った仮面ライダーへ向けた一斉攻撃とは比べものにならない威力を誇る攻撃に、もはや原型すら留めていないはずだ。土煙が立ち昇る中、勝利を確信しているダロム達に、聞こえるはずのない声が耳に届いてしまった。
「気が済んだか?」
煙が晴れた後。ダロム達の前に立っているのは、傷一つどころか、銀色と狼を象った装甲に汚れ一つつかない世紀王の姿。彼の放った冷たい一言に、寒気を感じたダロム達の足元へドサリ…と鈍い音を立てて落下したものがあった。
ゆっくりと視線を下へと向けるダロム達が見たものは、細切れにされた腕。
シャドームーンの両腕に装着された籠から生える3本の爪。その切っ先には、腕と共に落ちたと同時に池を作った血と同じものが付着している。落下した腕が自分達のものであるという結論に至ったころには、ダロム達は膝を付くと同時に、腕の断面を残る手で押さえて悲鳴を上げることしか出来なかった。
『ガアアァァァァァァァァァァァァッ!?』
「…片腕程度で吠えるな。怪人どもは、全身至る場所を失っていたのだぞ?」
『がぁ、あああああああぁ…!』
信彦の声などまるでとどかず、ダロム達はただ叫び続けるしかない。膝を付き、肩に走る激痛を叫ぶことでどうにか和らげようとしても、傷口が塞がるまで時間がかかってしまう。
(一体…一体いつ、攻撃を仕掛けたのだッ!?)
(まるで捉えられなかった…いつ、我らは斬られたのだ!)
(これは…最後の手段を使うしか…!)
自分達に視認させない速度で繰り出された一撃。信彦が見せた力の片鱗を垣間見て顔中に汗を浮かべるとギョロリと複数の目が銀色の戦士を睨む。こちらが立つのを待っているかのような態度に再び怒りを滾らせるダロム達は望み通りに立ち上がると、残る腕で肉片と化した自身の片腕を鷲掴むと自身の口へと放り込んでいく。口元やローブが血で汚れいく光景は常人であれば決して直視できないものだろう。
(うげぇ…あれがホントの共食いだわ)
(あの…どうして私の両目を手で覆ってるのアンリ?)
(あんなの見ちゃあいけません)
「……………………………………」
緊張感のない連中の会話に溜息を付きたい衝動にかられながらも、信彦は油断なく肩を上下させるダロム達を警戒し続けてた。攻撃を受け、自身の腕を食すという異常な行動に走っているが、それはまだどこかで自分に勝つ為であると信彦は睨んでいた。
先の攻撃と自分の言葉を聞いて逆上するようであれば、なりふり構わず襲い掛かってくるはず。だがこの怪物が取った行動は自身の腕すら取り込んで力を付けようとしているのだ。
いくら信彦達が新たな力を手に入れたとしても、自身でもどのような能力があり、どこで限界を迎えてしまうのかも分からない状態で油断などできない。
そう考えている間に身体の震えを止めたダロムが音もなく立ち上がると、変化が始まった。
ダロム達の身を包んでいたローブが膨らみ、内側から引き裂かれていく。そして焦りしか見せなかったダロム達の表情に余裕が戻り、口にせずとも何を言いたいかを信彦は読み取ることができた。ゴルゴムの秘密基地で散々眺めた、あの勝ち誇った顔だ。
ついにローブが完全に避けた途端に、一つであった肉体が3つの塊へと弾け飛び、信彦を囲うように『着地』した。
「その姿…」
自分を囲む者達の姿に、信彦は見覚えが無かった。
それもそうだろう。今、信彦の前に現れたのは彼が宿敵との激戦で傷ついた身体を癒す為に眠っていた時に起きた戦いの際、この世の悪意を身に注いだ姿なのだから…
「フハハハハハ…我らが何体の怪人の肉体を取り込んだと思っているのだ?」
「最初こそ1体の素体に三つの魂を宿していた我らであったが怪人達を取り込み、かつての肉体を取り戻すまでに密度を高めたのだ!」
「それもあの聖杯の中身に触れた時と同じ姿にね。しかも死徒となったことによってさらにパワーアップしているわ!!」
ダロムは三葉虫とカブトガニを併せ持った巨大なハサミを持つ怪人へ。
バラオムは四足歩行の鋭い牙を持つ獣の怪人へ。
ビシュムは大空を飛ぶ翼竜の怪人の姿となり、信彦を囲う形で出現。
それは裏切り者であるブラックサンとそれに組するサーヴァント達との決戦の際。強引に起動させた聖杯から溢れる『中身』を身に受けた事で自分達の基となった生物に近い形態となった大怪人。
一度は敵に敗れはしたがあの時とは異なり自身の意思をはっきりと持ち、力や能力も伸び上がっている。それに、相手は1人…
「もはや勝ったも当然だぁッ!!」
「さぁ、私たちを怒らせた事を後悔するがいいわッ!
己のさらに強化された俊足で信彦へと迫るバラオムと、上空から怪光線の嵐を放つ。目には最早勝利しか浮かんでこない。所詮亡霊であったサーヴァント達の連携に敗北したバラオムとビシュムにとって現在でも遺恨であった。その為に、最初から全力で相手を翻弄して戦い潰す。
バラオムは自身の最大の武器である脚で大地を蹴り、夜空を舞うビシュムは火力を持って信彦へと迫った。
「これは少々厄介だな」
自分の速度以上のスピードで接近戦を仕掛けるバラオムや手の届かない空から攻撃を仕掛けるビシュムに対し弱音を口にしてみるがまるで困っている様子を見せない信彦は対策を次々に構築していた。
こちらの様子を見ているダロムはともかく、位置を把握させない為にわざと自分の四方八方でグランドを削りながら駆けるダロムと空に浮かび優位性に浸っているビシュムにはとうに10通りの攻撃方法が浮かんでいた。
まず手始めにバラオムを倒そうとした信彦だったが…
(ちょいと悪いけどよ、俺にやらせてくんない?)
「なに…?」
同居人からの提案に思わず顔をしかめる信彦だったが、普段チャランポランであるアンリマユの声にある思惑が混じっている事に勘付いた信彦が考える事数秒。
「…好きにしろ」
(クククク…もはや動くことすらできないか?)
身動き一つ見せない信彦の様子にほくそ笑み、攻撃を与えては離れるを繰り返していたがどれも手ごたえはない。相手を無駄に警戒して力を込められないだけど踏んではいるが、次の攻撃は違う。この自慢の爪で奴の背後から装甲ごと貫いて見せると腕に力を集中させ、地面が抉れるほどに強く蹴る。
一直線に信彦の背中を目掛け、その爪を突き出した。
「死ねぇッ!!」
ビシュムの光線の雨をうまく回避しながらも信彦の背後を取り、叫ぶバラオムだったが、その腕に貫いた感触が伝わる事はなく、代わりに自身の顔面に激痛が走る結果が現れてしまった。
「が…あっ…」
ヨロヨロと後退するバラオムの食肉類となった顔が潰れ、鼻の骨など完全に砕けている。見れば信彦は背中を向けたままバラオムが狙った位置から身体をずらし、肘を背後へとむけている。全速力で標的に駆けた際に信彦の肘がカウンターを受けてしまい、より大きなダメージを受けてしまったのだろう。
「いやぁ、ずいぶん煩い蚊が飛んでると思って適当に腕振るっちゃったら大当たり」
鼻を腕で押さえるバラオムはこちらに向けていた肘を両肩ごとだらりと下げ、首を傾けたままダルそうに振り返る信彦の姿に驚きを隠せない。
先ほどまで見せた世紀王らしき威厳はなく、だらしなく片足に体重を乗せて立つ姿は、まるで別人…何よりも大きな違いは、鮮やかな緑色の複眼が、漆黒に染まっている点だった。
「さぁて、こっからは俺が相手をするぜ?そんなどこの誰かもわからねぇ悪意を頼った格好なんて、流行んねぇよ」
「おの、れぃッ!!」
再び加速して視界に止まらぬスピードで消えてしまったバラオムに慌てる様子もなく身体の主導権を得たアンリマユはステップを踏み、黒い複眼を妖しく光らせる。
「なるほど、追いかけっこってんら、受けて立つぜ!」
爪を収納した籠手ごと腕を下へと振り払った途端に、籠手はアンリマユの両腕を離れると回転しながら背中へと移動し、装着される。籠手の爪が伸びていた位置から僅かながら蒸気が噴き出し、段々と勢いは強まっていく。さらに狼の足をを思わせるブーツにも光が宿り、くるぶしに当たる部分からも蒸気が吹き始めた。
籠手がなくなり、五指が自由に動く事を確認したアンリマユは続いて自分の最も得意としる得物…黒く歪な短刀
「さぁて、いきますかッ!」
叫ぶと同時に背中と足首から火が噴き出したと瞬間、アンリマユの姿もまた消えた。
(な、何なのだ…何だったのだ今のは…)
信彦の出した異様な気配に飲まれたバラオムは猛スピードで再度敵の眼をかく乱させようと離れたが、再び標的がいた地点へと目を向けた時、姿を消していた事にようやく気が付いたのでった。
「や、奴はどこへ…」
「やぁ、僕シャドームーン!」
これは何の悪夢なのだろうか…今、自分が走っているのはマッハを越えた超高速の世界のはず。だというのに…
「いま、貴方の後ろにいるの…」
そんなふざけたようで、とてつもなく冷たい低い声と共に、バラオムの背中に黒く、奇形の短剣が突き刺さった。
同じ時間帯ということもあり、一緒に録画していた拳で戦う少女たちの活躍を一気見。悔しいけど面白い…ぜ、絶対最新作とこの世界とのクロスなんて書かないからな!絶対だぞ!
でもいつか書いちゃいそうで怖い…
お気軽に感想など書いて頂ければ幸いです!