一話見逃した…
それでも2話からはきっちり見ていきたいという決意の元、57話を投下です!
(全く…困った人たちです)
遠野志貴と別行動を開始したシエルは校舎の屋上へと到着すると目下である校庭の先…校門の前で怪人達と対峙する銀色の戦士へと目を向け、彼と同じ境遇にある戦士から言われた言葉を唐突に思い出してしまう。
自分と月影信彦は友達であるという、壮大な誤解。
言っている意味が分からず自分でも信じられない程に「彼とはそんな関係ではない」もなく捲し立てて客室を離れると真っ先に志貴の部屋へと向かった。
確かに彼には情報を与える為に数度接触している。だが、それは自分の任務に支障を出さないためにこの街から遠ざけるためだ。それに一度目的が一致しただけで、しかも志貴を連れて逃走する為に彼等を囮として扱った、なのに何故あのような解釈が出来るのであろうか。
志貴と同様に、彼等という存在に自分のペースが崩されてしまうと額に指を当てるシエルはすれ違う遠野秋葉の存在に気が付かないまま階段を昇っていく。頭を悩ます彼女が次に目撃したのは、絶対安静が必要な志貴が立ち上がり、どこかへ向かおうとする姿。どこに向かうつもりなのかは分かり切っているシエルは敢えて志貴に現実を知らせる事によって諦めさせるよう試みた。
だが、遠野志貴が真祖に拘る理由を聞いた結果、シエルはもう止めるという行為を諦めてしまう。
アルクェイドを心の底から愛しているという志貴の言葉を聞いてしまえば、もはや止めようがない。
この時、影でアルクェイドが自分達の…否、志貴の言葉を聞いており、彼女がロアの元へと向った直後にわざと自分に話させたのかと激高する志貴に半分脅される形で彼を連れて学校へと到着する。
着地した時に月影信彦とゴルゴムの残党が対峙している状況はさすがに想定外であったが、それ以上に信彦が志貴をアルクェイドの元へ急ぐよう促すとは思いもしない展開であった。
もう、彼女にとって月影信彦は聖堂教会が虎視眈々と命を狙う対象として捉える事が、ロアを倒す事よりも遥かに困難となってしまう。
(本当に…やりづらくなりますね。しかし…)
学校の生徒として潜り込んだと同時に屋上へ設置した『切り札』へと目を向けるシエル。乱雑に積まれ、放置された備品の中に紛れたそれを覆った布を払うと、幾層もの拘束具で固められた縦長のケースが出現する。人1人が収まってしまうと思われるそれは棺桶を連想させてしまう。
ゆっくりとシエルがケースの前に手を翳すとバチン、バチンと音を立て拘束具が開放されていく。
(このまたと無い状況を…利用させてもらいます)
ロアと戦い続ける死にかけている真祖を、動くことすらままならない少年を、人外共を引き付けている世紀王を…
全ては、自分の目的を果たすために…
「はっ、はっ、ハッ…」
呼吸の間隔がだんだんと短く、そして屋敷を出た時以上の頭痛が遠野志貴を苦しめている。
今、彼の眼に映るのは、無制限に広がる『死』の形。
志貴が背を預ける壁や廊下。その先の闇までに視えてしまう線と点。ズキリと額に走る痛みに耐え、線を踏まぬように歩む少年はただひたすら前へと進む。
(視過ぎたせいか…以前アルクェイドが言っていたようにいつ脳が壊れてもおかしくない、か…)
生物どころか鉱物の死すら読み取る志貴の眼は対象の存在を死を見る代償として多大な負担が脳へと押しかかる。今彼に起きている頭痛は焼き切れる寸前に悲鳴を上げるエンジンのようなものだ。
いつ自分の気が狂ってしまうのかと不安に思えない日は無かったが、今回ばかりは今の状態に感謝しなければならない。
今の眼であれば、確実にロアを殺すことが出来るから。
ここまで連れてきてくれたシエルや、突然現れた怪人達を引き受けてくれた信彦に答える為にも。
何よりも、愛する女性をこの手で助けるためにも遠野志貴は立ち止まらない。
「―――だから、ゴメン」
1人謝罪する志貴の行く手に現れたのは、ロアの犠牲者であり、従僕に成り下がってしまった多くの生きた屍。
中には、信彦やアマゾンが一度手にかける事を戸惑ってしまった子供も紛れている。
それでも、志貴は止まらない。
すれ違うよりも早く、速く、死徒の線と点へと刃を走らせ、解体する志貴は許される事と分かっていても、止まらない。
もう助からないからと。せめて倒す事が自分に出来ることという吐き気が催す詭弁を口にするつもりはない。
彼はただ、自分の本心に従い、邪魔する者を殺しているに過ぎない。
だから、謝る以外に彼に出来る事は無かった。
その先に、誰よりも愛おしい女性を救うという己の為に。遠野志貴は進むしか道はない。
通った道は肉片で散りばめながら。時間をかけ、いずれは灰と化する死徒を殺し続けながら、校舎内で響く轟音を頼りに廊下を走り、階段を上がり、ついに校舎との連絡路で見つけた。
既に線と呼べる程の細いものはなく、点に塗りつぶされそうになっている白い女性の背中を。
「アルクェイドッ!!」
(これで10匹目ってか?)
「いちいち数えるな」
シャドームーンとなった月影信彦はゴルゴム3神官の融合体に命令され、向かってくるゴルゴム怪人を一撃の元に打倒していた。
彼の足元には怪人の破片などなく、あるとすればゼロ距離で放ったシャドービームによって文字通りに粉砕された怪人達の黒い灰のみ。
(しっかしお優しい事で。今以上に苦しまないように全力でエネルギーを注ぎ込むなんてねぇ。いくら変身できるようになったからと言って、力は有限だぜ?)
「不服か?」
(いんや。今以上に怪人に『優しい』手段はないだろうな)
なぜ、信彦がアンリマユの言うような攻撃手段を取ってしまったのか。それは自分に見るも無残な風貌へと変わり果ててしまった怪人達の声を聴いてしまった故だった。
『ギギィ…痛…イ』
『身体ガ…勝手ニ…』
『死ニ…タイ…』
腕を振り下ろす度に血が飛び散り、足を踏み込んだと同時に膝から骨が突き出す。
死徒と成り果てたダロム達に身体の一部を喰いちぎられ、別の生物で補完された怪人達に自意識が残されたまま操り人形と化していたのだった。
自分の意思では動けず、前身に激痛を伴うような状態となって攻撃を続けるしかない怪人達。例え肉体の一部が吹き飛んでも、強引にダロム達の念動力で相手へ特攻を強要されてしまう怪人達が唯一ある救いがあるとすれば…死だけだ。
得物であるシャドーセイバーで切り付けても、その程度では止まれない。シャドーフラッシュではダロム達の洗脳が解けても、怪人が持つ激痛からは開放されない。
信彦が取った手段は一撃で怪人を葬る他無かったのだ。
『ギギィ…アリガ…トゥ』
かつて世界を震撼させたゴルゴムの怪人達が以前の主に向けた言葉。
自分を殺して礼を述べる怪人など、どこにいるのか。
信彦はただ己の胸に燻っている感情を抑えながらも、一つ一つの攻撃にエネルギーを集中させ、怪人を消し去ることしか出来なかった。
「ふむ…とうに3分を越えているというのに異変が起きないとは」
「どうやらこの短期間でキングストーンの力を物にしたということか」
「これは少々面倒な事になりましたね…」
また1体の怪人の腹部に手を当て、緑色の電撃を放つ信彦の姿を見るダロム達は予想外であるキングストーンの復活に警戒するが、直後にそれぞれの口を醜く歪める。
シャドームーン…いや、月影信彦は力を再び手にしたと同時に、弱点をさらけ出したと。
「何をやっているのだ!」
「馬鹿のように1匹1匹挑みおって…!」
「一刻も早く倒すために、同時にかかりなさい!!」
順番に怪人達へと命令するダロム達の言葉に、2匹の怪人が同時に信彦へと走り出した。左右の腕の長さも重さも違うためか、バランスが取れず不格好な走りを見せる怪人達を早く解放せんがために両手へ緑色の力を込める信彦も地を蹴り、一気に距離を詰める。
「ッ!?」
信彦の掌が怪人達へと触れる直前だった。
怪人が突進する速さが変わり、信彦へと体当たりを仕掛けた。
(違うッ!これは…)
怪人達の動きが変わったのではない。信彦の前方で怪人を指揮するダロム達が念動力で怪人を背後から押し、信彦ごと吹き飛ばしている。そして、その程度で終わらせるダロム達ではない。
「ククク…律儀に怪人を消滅させるような方法ではなく、遠方から攻撃をしかければよかったものを…」
「しかし、それでは消滅には至らず怪人を余計に苦しませるなどと下らん考えを持っていたようだな」
「覚えておきなさい。怪人の使い道など、これで十分なのです」
ダロム達の両目…計6つの目から放たれた怪光線が怪人達の背中へと命中、爆発を起こした。
2体の怪人の爆発を至近距離で受けてしまった信彦は防御も間に合わず、路面を数度バウンドしながら学校の門扉を打ち壊し、校庭の中心まで飛ばされてしまう。
(あ、あいつら…何の躊躇もなく…)
「……………………」
地面を握るように掴み身体を起こす信彦の数メートル先。下半身を失った怪人だった者がピクピクと痙攣しながらも、何かを訴えるように信彦の元へ地面を引きずりながら移動していた。
早く、早く自分を…
そう聞こえたのは幻聴かもしれない。だが、信彦は爆発の余波で痛むことなど構わずに今すぐにでもと手の平を向けるが、それよりも早く怪人の背中を踏みつける者が現れた。
「全く、道連れすらできんとは…」
「我々の飢えを満たす以外に何の役にもたたん連中だ」
「こんな者共を必死に守ろうとしていた過去が恥ずかしいばかりですね」
見上げれば、既に自分達の前へと移動したダロム達が必死にもがく怪人の腕首を掴むと、上空へと放り投げた。
「き、様…!」
弧の字を描いて落下する怪人の顔は恐怖に引きつっている。落下による痛みを恐れているからではない。
自分が落ちるその先に、まるで大穴のように口を広げて自分を飲み込もうとするダロム達が待っているからだ。
『―――っ――――っ!!』
手を伸ばす信彦は、断末魔を上げる怪人がダロム達に飲み込まれ、肉を、骨を噛み砕かれる音をただ聞くだけしか出来なかった。
「むぅ…やはり味がだいぶ落ちてしまったようだ」
「食するとすれば何も手をつけていないモノが一番か」
「次はうまくおびき出さないとね。最近だと妙に勘付かれてしまっているのだから」
こいつらは、何を言っているのだ…?
気が付けば拳が不自然に震え、変身する直前にダロム達に向けた『何か』が再びこみ上げてくる。そして立ち上がろうとする信彦だったが、身に覚えのある不快感が再び信彦の身体から力を奪ってしまった。
「ぐッ…!?吸血鬼の、術式か…!」
(うそーんッ!?これまだ残ってたのかよッ!!)
信彦の囲う『否定』の魔法陣。本来生まれ持つはずのない人口の臓器や骨を持つ改造人間の動きを封じる術式に動きを止められてしまった信彦を愉快と言わんばかりにダロム達は笑い出した。
「これは傑作だ!キングストーンの力を取り戻したと言うのに、元人間が組み上げた術式に捕らわれるとは…」
「しかも丁寧にこの術式は吸血鬼が敵として認識した相手しか効果がないようだ…ならば、怪人共には効果はあるまい!」
「さぁ貴方達!シャドームーンを痛めつけなさい!キングストーンさえ無事ならば何をしても構わないわ!」
身動きがとれない信彦達を囲う怪人達は次々に足蹴し、拳を振り下ろす。キングストーンの力を開放するにも続けて攻撃を受けては引き出すために集中すらできない信彦だったが、再び怪人達の声が聞こえてしまった。
モウ…シワケ…アリマセン
シャドー…ムーンサマ…
タスケテ…
奥歯を噛みしめる信彦は徐々に身体を起き上がらせようとするが、力を強める信彦に反応し、術式の効果がさらに強化された為に再び地へと沈んでしまう。
「なぜ、俺は立てない…」
(あんた…)
「なぜ、俺は―――」
救えないのだろう。
以前は意地でも見せなかった弱音。力を封じられたとしても、『あの者』なら必ず立ち上がったはずだ。強引に傀儡と化した怪人たちすら、救えたはずだ。
だというのに、自分は立ち上がれない。
消滅させる以外に、救えない。
どうすればと身体にダメージを蓄積させていく信彦の強化された耳に、少年の悲痛な叫びが木霊する。
「アルクェイド!!」
同時に、これまで弱々しくもはっきりと感じ取れた気配が一つ。完全に消えてしまった。
死ぬ事を覚悟して、愛する人間を守ると笑顔で答えた真祖の気配が。
「―――っ!」
緑色の複眼で修復されていく校舎の僅かな隙間から見えた光景。
腹部を貫かれ、少年の腕の中でぐったりと項垂れているアルクェイド・ブリュンスタッドの姿。
もう自分の声が届かないと知った遠野志貴の絶望に染まった顔。
最後の別れぐらいは待ってやろうと、2人の姿を遠目に見て、満足そうに微笑む吸血鬼。
「………………」
知っていた。このような結果になるとは。
なのに、なぜ関係のない自分の胸が抉られたような気分にならなければならない?
先ほどとはまた違う疑問を抱く信彦の頭から、アルクェイドの姿と、志貴の顔が離れない。
とっくに解答の出たあの2人の結末に、なぜ自分は納得ができないのか。
怪人共から受ける痛みよりも、今胸に走る痛みの方がはるかに大きい。
その痛みが何であるかが分からないまま、信彦へ耳障りな声が届く。
「可能なら生きたまま飲み込みたかったのだが…まぁいいだろう」
「うむ。例え死肉であっても真祖であれば間違いなく強力な力となるであろう」
「ホホホホ。ならばこの者をさっさと片づけてしまいましょうか?」
…どうやら答えを出す前に、処理しなければならない問題が生じたようだ。
その為にはもう手段は選んでいられない。
未だ抵抗のある方法だが、目の前の外道共を駆逐できるのであれば、何だって使ってやろう。
そう強く誓う信彦に反応したかのように、彼の意識は奥底へと沈んでいく。
まるで何もない暗闇の中。
自分の手を見つめる信彦は自分がシャドームーンではなく、人間の姿であると認識した。ここは信彦の深層意識であり、今の自分はただの精神体である事。背後に現れるであろう存在も予測がついていた。
「アヴェンジャーか」
「おおぅッ!?脅かそうとしたのに先に声かけんなよ!」
いつも頭の中に響く不愉快な声の方へと振り返ると、そこには以前間桐光太郎の中に現れた聖杯としての姿を持つアンリマユが立っていた。黒髪に褐色の肌に様々な模様を走らせている少年。
かつて聖杯戦争へ参加した衛宮士郎の外見を被ったアンリマユへ信彦は眼を逸らすことなく、言い放った。
「奴らを倒す為にも、貴様の力を貸せ」
あの外道を葬るためには、もう自分だけの力だけではどうにもならない。その考えに至った信彦は以前のように自分と主導権を奪ったアンリマユへ協力を仰ごうと、この精神世界へと踏み込んだのだ。
「どストレートな口説き文句だなぁアンタ。でもさぁ、頼むんだったらもっとそれ相応の…ってタンマタンマ!無し、今の無しだから頭を下げる体制をやめてくれって!?」
もはや冗談にどなりもしない信彦が頭を上げてヤレヤレと額を拭うと、再び何かを含んだような笑みを浮かべるアンリマユは信彦の背後を指差した。
「ま、アンタがそんだけ頼むんなら俺だって協力は惜しまないさ。正直、俺もムカッ腹が立って仕方がないし。けど、俺よりも深く頼む相手がいるんでないかい?」
「お前より…?」
アンリマユの刺した方へと顔を向けた途端だった。
暗闇の中で一つの光球が舞い降り、緑色の輝きを放つをそれは段々と何かの形を成していく。
「これは…」
思わず呟いた信彦が目にした光球は、人の姿へと変わる。
肩を露出し、袖のない純白のドレスを身に纏い、雪のようにきめ細やかな肌。
まるで人形を思わせるに整った顔立ちに、深紅の瞳。
何より目を引くのは背中まで届く銀髪の髪。
外見の年齢は二十歳前後であろう女性は呆ける信彦と目を合わせると、優しく微笑んで言葉を放った。
「こうして話すのは初めて…かしら?会えて嬉しいわ、信彦」
女性とは確かに初対面だ。しかし、彼女から感じる力。この力とは自分は10年以上の付き合いとなる。だからだろう。自然とその名を口から出てしまうのは。
「キングストーン…なのか?」
笑みを浮かべたままこくり頷く女性…キングストーンの意思の出現に思わず警戒を強める信彦。なぜ、わざわざ自分に付いて回った少女と同じ…いや、外見からして彼女の出身であるアインツベルンのホムンクルスの一体と言った方が正しいだろう。それと同じ格好で現れたのか意図が読めず、無意識に顔が強張ってしまう。
だが、信彦の様子を見てキングストーンは段々と顔色が曇り、次第に困惑すらするようになってしまう。
「え…あれ…?」
ついには声に出してしまうキングストーンはその視線を信彦ではなく、こちらに背中を向けて必死に笑いを堪えているアンリマユへと向けた。
「ね、ねぇアンリ?聞いた話と違うのだけど―――」
「…っ!っ…!」
「ええっと、そんな無言で地面をバンバン叩かないで…」
「どういう事だ?」
「え?」
「説明しろ」
涙目でアンリマユに訴えるキングストーンへ鬼気迫る表情で尋ねる信彦に、先ほどの雰囲気など欠片もない女性の口からとんでもない事実を聞く羽目となってしまう。
「えっと…実はアンリマユとは聖杯の光を浴びて、信彦の身体に宿ったころから時々意識の疎通をしていたの」
「その時に、信彦に話を聞いてもらいけどどうすればいいかって相談したの。そしたら―――」
『あの兄ちゃんの好みの姿になれば一発だぜ!具体的には銀髪ロングのストレート。それに赤い瞳だな。参考に俺の前に聖杯の殻になった奴の外見を真似りゃあもう鼻の下伸ばして話を聞くってもんだ』
「―――って」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
キングストーンと意識を交わしていたとは驚きだった。いや、自分の場合は最近までキングストーンを拒否していたのでこれは仕方ない。
問題はアンリマユが口走った信彦の好みという問題だ。
ギギギ…と無表情で顔を向けて見ると、ドッキリ成功!などのテロップを掲げて爆笑する反英霊が、そこにいた。
「ブハハハハハハハハハハハッ!い、いやまさかホントにその姿になるとは思ってなかったハハハハハ!!!それにごめんよ、項目に『見た目は10歳、頭脳は18歳』の合法ロリって入れとくのわすれたハーハヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!」
笑い声を耳にして頬を紅潮させていくキングストーンから離れ、未だに笑い続けるアンリマユへと音もなく接近する信彦は、これまでにない程に、静かに告げた。
「ここは、確か俺の深層意識、だったな?」
「く、ヒヒヒ…今更なに言ってんのアンタ…はー、腹いてぇ…」
「つまりだ。普段貴様を罰している時のように自分が負うダメージなど配慮しなくて良いわけだ」
「あーそうだなぁー…え?」
ようやく信彦の言わんとする事を理解したアンリマユの顔が一気に青ざめる。逃亡するにも既に時遅し。
彼の目の前には、不敵な笑みを浮かべ、拳の骨を鳴らす月影信彦が君臨していた。
「いいのだな…自分に降りかかる痛みを考えず、貴様を全力を殴っても…」
「お、お手柔らかに…」
~しばらくお待ちください~
「…その姿、どうにかならないのか」
「む、ムリなの。一度この姿として認識されてしまったら…」
しばし口を聞けなくしたアンリマユを放り投げた信彦は、両手で顔を隠すキングストーンへ今からでも姿が変更出来るのかと尋ねるがどうも無理なようであったので、別の疑問をぶつける。
なぜ、自分と意思の疎通を考えたのかと。
「だって…ようやくあの乱暴な人から完全に開放されて、貴方と一緒に自由の身となったのに、信彦ったら全然私の話を聞いてくれないんですもの…」
左右の人差し指の先をチョンチョンと突き合わせながら話すキングストーンの話は、信彦にとって余りにも痛すぎる内容であった。
キングストーンの言う乱暴な人…つまり創世王の野望に利用される事がなくなり、晴れて信彦の力となれると考えたのだが、信彦がいつか自分も創世王のような存在となるのではという不安と、旅の中で摩擦していく心情からキングストーンの力を拒絶されてしまっていた。
双方の相反する反応の為に信彦がシャドームーンへと姿を変えた際に不具合が生じ、この美咲町での様々な問題が起こってしまった訳だ。
(つまり…全ては俺が…)
そう、キングストーンは初めから信彦に力を貸すつもりだったのだが、当の本人が拒否し続けていたために余計な問題が発生していたのだ。全ては信彦の独り相撲。
この事実にまたも笑い出そうとするアンリマユへもう一撃くれてやろうとする信彦だが、残念ながらそんな時間はない。
わざとらしく咳をした信彦は簡潔にキングストーンへと尋ねる。なぜ、自分に力を貸そうとしたのか。
「だって…形はどうあれ、私たちは一緒にいるじゃない?」
先ほどまで恥ずかしさの余りにむくれていた少女のような顔は、今はない。初めて顔を見せた時のように、キングストーンは二コリと笑う。
「今はこうして自分の意思を信彦へ聞かせることができるけど、結局持ち主を選べないただの力の塊に過ぎないの。今までの世紀王はゴルゴムの野望に巻き込まれて全てを失って、私の片割れと死ぬような戦いを続けてきた。ずっと、見たくもない殺し合いを見ているだけだった」
「私たちはずっと苦しんでいた世紀王たちに何一つ、助けることが出来なかった…けど、今ではこうして信彦が運命なんかに囚われず、生き続けてくれている」
「私たちにとって、こんな奇跡に等しいことはない。だから、自分の人生を歩みだした信彦の力になりたいと考えたの!今まで何も出来なかった分、助けになりたいの!」
その笑顔は、やはりあの少女を連想させる。運命に屈せず、生きたいと願った、あの白い少女に。
「そうやってトキめいた時点であんたの負けだぜ大将…」
「何を訳の分からぬ事を言っている。腕をどけろ」
信彦の方に腕を乗せて呟くしたり顔のアンリマユへ言うと同時に蹴りをかます信彦。
そんないつものやり取りをする2人の間に立ったキングストーンはそっと両者の手を握る。
「もう大丈夫。こうして話ができたのなら、貴方が1人で何もかも背負う必要はない」
「……………………」
「1人で全てを何とかしようとしないで。貴方には私やアンリ。それに、あんなに頼りになる人たちがたくさんいるのだから」
「自分と…私たちを信じて?」
自分を見上げて、にっこりと笑う彼女を見て、不思議と落ち着いてしまう。
彼女の手の温もりが、心まで落ち着かせているような感覚だった。それはアンリマユも同様だったようで、彼の表情も普段見せる悪戯小僧のものでなく、頬を指先で掻きながら恥ずかしそうに目を逸らすという珍しい光景を垣間見る事が出来た。
「そう、貴方達も力を貸してくれるのね」
キングストーンは視線を上へとむけると、三色の光球が、信彦達の周りをクルクルとじゃれ合う子犬のように旋回している。
これは以前信彦の危機を救った天・地・海の力たちなのであろう。
「3つの力に俺達3人の魂、ってか?これだけそろってりゃ負けるなんて、あり得ないだろう?」
「当然だ。負けるつもりなど、毛頭ない」
「フフフ…じゃあ、頑張らなきゃね!」
「では、真祖を最初に頂くとしようか」
「フフフ…どれほどの力が付くか、楽しみだ」
「貴方達はしっかりと痛めつけておくのよ!」
無抵抗である信彦を背にし、校舎へと進むダロム達であったが、足を一歩進めた直後。
背後から響く轟音に思わず振り返ってしまった。
そこには怪人達の姿はなく、術式で動きを封じられたはずのシャドームーンが立ち尽くしていた。
「…どのような手段を使ったは知らんが、貴様が不利なことに変わりはないのだ!」
未だ健在である怪人達に襲い掛かるよう指示するダロム。もし、以前のようにゴルゴムの神官として、彼の持つ力を敏感に感じ取っていたのなら、これから起きることは気づいていたのかもしれない。
否、それでも予想は出来なかったのだろう。
それは、ゴルゴムの歴史を覆すことに等しいのだから。
「…いくぞ、キングストーン」
(ええ、信彦!)
「遅れるなよ、アンリマユ」
(へっ!誰にもの言ってんだよ!)
両腕を交差し、勢いを付けて左右へと広げた直後にベルト『シャドーチャージャー』から青、赤、紫の光球が飛び出し、信彦の頭上へと上昇。
やがて光球は色違いの狼のようなエネルギー体へと変化し、咆哮を上げると3匹がそれぞれを追いかけるような形で円を作り、その円から放たれる眩い光が信彦へと降り注いだ。
その光を浴びる信彦…シャドームーンに変化が起こる。
両肩の円型であったプロテクターが牙を向く狼の頭部を模した形状へと変化し、黒い棘エレボートリガーが上腕部へと移動し、さらに腕と拳を包む巨大な籠手へと変化し、三本の鋭い爪が姿を現す。
脚のレッグトリガーが反転、爪先へと装着されるとさらに中央へ銀色の爪が追加され、狼の後ろ脚を連想させる強化ブーツへと変化。
胸部の装甲が狼の顔を模したプロテクターへと変わり、シャドーチャージャーの中央…エナジーリアクターを守るように青、赤、紫色の爪に覆われる。
額の一対のアンテナが三対へと変わり、緑色の複眼が強く発光。
本来世紀王としての肉体を鋼のボディへと追加改造され、さらにアンリマユというイレギュラーの魂と天・地・海の力が宿ったゴルゴムの歴史には存在しない新たな姿。
それは、キングストーンと心を通わせたことで生まれた信彦達の新たな力。
その名はシャドームーン・トリニティファング!
えー、まず月のキングストーンの意思をですね、zeroのアイリママのような姿にしてごめんなさい。
そしてシャドームーンの強化された姿をRX系だとご期待していた方々、大変申し訳ありません!
でもこれは連載に踏み切るころから決めていたことなんですわ…最初なんて電光超人や機甲警察っぽいのをなんとか光の巨人のXさんっぽく収めたので…と言い訳になっていませんな。
お気軽に感想など…頂けたら本当に助かります今回は!