Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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Q;今回がさらに短くなった言い訳は?

A;だってスパロボOG楽しすぎるんですもの…



では、55話をどうぞ!


第55話

「ハァッ…ハァッ…ぐぅ…」

 

 

息を荒立て、ブロッグ塀に身体を寄り添いながら進む月影信彦は苦悶の表情を浮かべ、額から滝のように流れる汗を拭う事なく、目的地を目指して進み続けていた。

 

 

「クッ!?」

 

短く声を上げて、膝を付いてしまった信彦は倒れまいと両手を路面へ突き立て、身体を支える。飛び散った汗がアスファルトを濡らす光景に、自分がこれほどまでに汗を流していたのかと初めて自覚するが、そんな呑気な事は考えている時間はないと付近の電柱をよじ登るようにして身体を立ち上がらせた。

 

ゆっくりと呼吸をする信彦はふと自分が纏った黒いコートの裾に付着した汚れに目を置く。ここまで移動してくるまでに何度が同じように倒れかけた際についた土埃があちこちへとこびり付いている。

 

 

 

 

 

『うっわー、真っ黒いコートなんてそれ何のキャラ作りだよ。ギャハハハハハ!』

 

 

 

『そんなん買っちゃってどういう心境だよ?もしかして自分は闇に包まれているべきとか少年なら誰しも通る病に今頃煩わせてしまったん?これは是非とも銀髪嬢ちゃんとかに知らせないと…』

 

 

 

『すみません。もう永遠の厨二病だなんて思いもしませんからその手に持った煮えたぎる黒い液体の一気飲みとか止めてくださゴハアァァァァッ!?』

 

 

 

 

 

そんな顛末を思い返してしまう信彦は、先の戦いから聞こえなくなってしまった喧しい声が否応なく駆け巡っていく。

 

 

(くそッ…)

 

 

舌打ちする信彦は、何故こんなにもアンリマユの声が聞こえない事に腹を立てなければならないのか、自分自身でも理解することが出来ずにいた。自分が苛立ち、身体が思うように動けないのも、全てがあの吸血鬼…ロアによって自分達の『死』を視られた為だ。

 

 

ロアによって信彦の体内に宿るキングストーン。そしてアヴェンジャーのサーヴァントであったアンリマユという『魂』が内包する『死』をナイフで突かれた信彦は自力で立つ事すら困難な状態に陥っている。自分の命とも言うべきキングストーンを殺されてしまったのならば、当然だったのかも知れない。

 

だが、逆に疑問が浮かんでしまう。

 

 

(なぜ、俺は死なずに生きていられる?)

 

 

信彦は2度に渡りロアによって自分が内包する『死』を突かれているというのに、生きている。さらに言えば、最初にキングストーンを突かれてしまった時点で信彦は死ななければいけないのだ。

 

 

「奴は…アイツと同じ『魔眼持ち』である事に間違いはない…間違いない、はずなのだが」

 

 

実際に噂話を聞く程度しか知らないが、直死の魔眼で見られた『点』で突かれたのなら、その存在すら殺すことが出来る。もしキングストーンが殺されてしまったのなら、それを核として生きている信彦は同時に息絶えるはず。

 

だと言うのにこうして生きており、そして一歩も動けなかったはずが少しずつではあるが、歩けている。

 

 

(そして少しずつ…少しずつではあるが感じる。キングストーンの胎動を)

 

 

雑踏の中で人1人の心臓の鼓動を聞き取ることにも等しいが、信彦には確かに聞こえ、感じている。キングストーンと共に数十年過ごした信彦だからこそ感じるものかもしれないが、キングストーンは死んでいない。

さすがにシャドームーンへ姿を変えるどころか自力で歩行することすら困難なほどに、その力は弱弱しい。だが、これで一つの可能性が浮上した。

 

 

(俺がこうして生きているという事は、あの吸血鬼が目で見ているのは…『死』ではない。だからキングストーンは死なず、僅かながらでも回復を始めている)

 

 

片腕を切断され、胸を刺された少年…遠野志貴を連れて逃げた代行者。シエルもそれが分かっていたからこそあの場を急ぎ離れたのではないか。そんな疑問を抱いた信彦はさらに彼女が志貴を連れて行く先に目星が付いている。

 

恐らくまだ死んでいない少年の治療に向かう場所など、長期間この街に滞在するようになった信彦に思い当たるのは一つしかない。

 

 

(不穏な雰囲気に包まれたあの屋敷…代行者は、あの屋敷で治療を行っているはずだ…)

 

 

倒れていた志貴を信彦が介抱し、一度だけ連れ帰った遠野邸。そしてロアがシエルに向けて言い捨てた言葉から、真祖の姫とはまた違う因縁を持つであろう彼女ならば、何か知っているはずだ。

 

そして、ロアの持つ眼の正体が掴めたのなら、まだ『彼』が消滅していないという確信が信彦が持てるのだ。

 

 

 

「なにを…馬鹿馬鹿しい…」

 

 

普段から口うるさいと彼の苦手とする物を飲み、食べる事で黙らせるほどに、疎ましく考えていたはずの信彦の行動は、いつの間にかアンリマユの生存を確かめる為のものへと変わっていた。

 

口では否定しているものの、ようやく支え無しでも立てるようになっていた信彦の足は、少しずつではあるが遠野の屋敷に向けて一歩一歩進んでいる。

 

可能であるならばもう少し足早に向かいたいところではあるが、無理に動き、また倒れてしまったのならあの連中に見つかってしまう可能性が―――

 

 

 

 

 

 

「ガゥ、見つけた」

 

 

 

遅かった。

 

軽く溜息を付いた信彦は路面に映る、街灯の影の元となっている者へと目を向けた。

 

 

ブロック塀の上に、両足両手を乗せてこちらを見るのは、一瞬とはいえロアを動揺させ、頭部を切り裂いた仮面ライダー、アマゾンであった。

 

 

 

 

ロアの『城』と化した学校から筑波洋とアマゾンによって連れ出された信彦は潜伏場所となっているホテルへと連れて行かれた。その時かすかに聞こえた洋の声から、自分達が属する組織から医療スタッフを手配という内容だったはず。

 

口を強引に動かして断ろうとも本当に死にたいのかと、声を荒げた洋の姿に信彦は黙ることしか出来なかった。しかし攻撃を受けた直後と比べ手足に力を込められるようになっていた信彦はベットから這い出るとクローゼットの中から黒いコートを取り出し、隣室で連絡する洋と薬を調合するアマゾンに悟られぬよう部屋を脱走した。

 

 

 

しかしこうもあっさりと発見されてしまうとは見通しは甘かったっかもしれない。

 

 

このまま連れて帰らてしまうと力の入らない拳で構えるが、アマゾンの言葉は信彦の予想を裏切るものであった。

 

 

「お前、何処行きたい?」

 

「何…?」

 

 

塀から飛び降り、信彦の前に着地したアマゾンはさも当然かのように胸を張って答える。その表情には、信彦が抱く疑いなど一切見せない淀みのない笑顔だ。

 

 

「ノブヒコには行きたいところある。けどそんな身体じゃ満足に歩けない。だから俺が運ぶ!」

 

「なぜ、そんな真似をする。俺が動くのは、俺の都合だ。貴様には関係が…」

 

「もう、君だけの問題でもないだろう?」

 

 

背後を見れば、ヘルメットを片手にこちらを見る筑波洋の姿があった。もう2人に見つかるのは時間の問題だったのだろう。

 

 

しかし解せない。アマゾンはともかくあれ程強引に自分の治療に専念するように言った洋がアマゾンと同じく自分を目的地である遠野邸に連れて行こうとするのか。その解答は信彦が推測するまでもなく、本人の口から語られた。

 

 

「…満身創痍の君がそうまでして向かうという事は、何か理由があっての事だろう?なら、止めるよりも一緒に行動した方がいいと考えたからさ」

 

「余計なお世話だ…それに、俺だけの問題ではないとは、どういう意味だ?」

 

「俺達の知り合いである君が傷を負い、動けなくなってしまった」

 

「ッ!?」

 

「洋、知り合いじゃなくて、友達!」

 

「ハハハ、そうでしたね」

 

 

両手の指を重ね合わせるように組むアマゾンの言葉に笑って同意する洋の言葉に、信彦は絶句する。この男は、会って24時間も経過していない自分にこうまでして世話を焼く。いや、自分の宿敵と同類であると考えれば、それは当然なのかもしれない。

アマゾンとの談笑を終えた洋は引き締めた顔で再度信彦と目を合わせた。

 

「君の言う通り、余計な事でもあると重々承知している。けど、そんな君の助けになりたいという俺たちの『勝手な都合』を許してもらえると、助かるよ」

 

 

終わると同時に、再び柔らかい微笑みを信彦へと向ける。目をそらしてしまう信彦は思う。本当に、仮面ライダーという連中はどうかしている。あの吸血鬼が持つ能力の解明と、アンリマユの安否などこの者達には関係のない話。だというのに、こうして踏み込んで、自分を手助けしようとする。だが信彦は不思議と彼等の姿を見て嫌悪感だけは浮かばずにいた。

 

 

 

「それに、あの吸血鬼に借りがあるのは月影君だけじゃない。この街に住んでいた罪もない人々、そしてあんな子供達すら犠牲にされたんだ」

 

「そう、アイツは許さない。絶対にやっつける!」

 

(なるほど、な。こいつらには、それだけで十分なのか)

 

 

 

信彦とは違い、ただ調査に訪れ、知り合い1人もいないこの街に巣食う吸血鬼によって被害者が出たという事実。彼らにとってそれだけでも戦う理由ができているのだ。

 

 

トクンと、微弱だったキングストーンの力が一瞬だけ強まったと感じた信彦だったが、やはり力は戻らない。だが、今では軽く走れる程度にはなっているはずだ。そして顔色も平常に戻った事に気が付いたのか、洋は手を差し伸べる。

 

 

「さぁ、行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

既に街灯しか明かりが灯されていない時間に2台のバイクが街でも有数である資産家の屋敷の前で停車する。ヘルメットを外す信彦達を迎えたのは、見覚えのあるカソックを纏う女性だった。

 

 

「待っていましたよ、皆さん」

 

「お前は…」

 

 

一度、信彦を死徒ネロ・カオスから救った聖職者はにっこりと笑うと門扉を開き、屋敷の中へと招き入れる。

 

「と、言っても私も皆さんと同じでお客に当たるんですけど…当主の方から許可は貰ってます」

 

 

 

「そこでお話しましょう。吸血鬼と、世紀王が受けた傷についてのお話を」

 

 

 

 

 

招かれた部屋は、以前に信彦が志貴を連れ帰った時と同じ客間であった。和服を着た少女から提供されたお茶に手を出す事もなく、対面に座るシエルの説明を待つ信彦と洋。

 

この家、何か変だと言ったアマゾンだけは窓際で夜空を茫然と見上げている。

 

部屋に到着するまでの間に、遠野志貴も一命を取り止め、先ほど意識が回復したとシエルから教えられた。現在は妹である遠野秋葉が話をしているらしい。彼が無事であると聞いた信彦は、やはり吸血鬼が持つ眼は違うものなのかと確信を高めてながら自分に話しかけるシエルへと目を向ける。

 

 

 

「さて、あの夜からここまで長いお付き合いになるとは思いもしませんでしたね」

 

「御託はいい。さっさと話を始めろ」

 

「思ったよりセッカチなんですね。でも、私も長く貴方たちと接触していたら上が何で抹殺しないとかと言い出すか分かりませんし、ちゃっちゃと始めてしまいましょう」

 

 

信彦の辛辣な言葉に笑顔で物騒な発言で返すシエルの様子に、あの人なら言いかねないなと一度共同戦線を張った彼女の上司の攫みどころ無い性格を思い出した洋は苦笑するしかない。

 

紅茶の入ったカップを口に運び、一度息をゆっくりと吐いたシエルは引き締めた表情で信彦達を真っすぐに見据えて話を始めた。

 

 

 

 

 

「まずは、吸血鬼と遠野君の関係から説明しなければなりませんね」

 

 

 

シエルは語る。遠野志貴と吸血鬼ロアとの因縁浅からぬ異能を持つ者達の昔話を。

 




洋の言っているあの人は、埋葬機関で意地悪なあの人です(誰?)



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