Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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皆様、2週間ぶりでございます!

ちょいとリアルの方が混乱真っ最中のため、しばし今回程の長さでしか更新ができないことを最初にお詫び申し上げます。

それでは、52話です!


第52話

それは、一人の人間だった者が抱いた感情が叶う事無く、本人が認める事が出来ず、終焉を迎えた永い物語だった。

 

 

言葉だけを聞けば悲劇を連想させるが、その終焉を迎えるまでに起きたのは、数えきれない惨劇。

 

 

その者の心を占めた美しい吸血鬼に追われる為に男はその異様な力で幾人もの人生を本人の意思とは無関係に何度も歪ませ、狂わせてきた。

 

 

そして出会った瞬間に狂ったように笑い、殺意を向けた瞬間に殺されてきた。

 

 

 

何度も。

 

 

 

 

何度も。

 

 

 

何度も繰り返した。

 

 

 

 

誰にも彼の行動は理解されず、その者も理解を他人に求めないだろう。

 

 

 

 

悠久と思えた繰り返しが此度の出会いで恐らく最後であると双方が理解した中、それを彼の思惑とは別の形で終わらせたのは、1人の少年だった。

 

 

彼と違い魂を移し替える能力もなく、人の血を吸うことで人知を超えた力と魔術を扱えることなどできない。

 

 

少年はただ、人より「死」を理解し、「死」と隣合わせで生き続けていた。

 

 

そして彼と同じく、だが大きく違う感情を吸血鬼へと持ち合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それが何であるのか、月影信彦は意味は知っていても、この時理解がまだ及ばないものだった。

 

 

朴念仁と同居人どもに笑われるが手近にあった獅子唐をかじることで黙らせた信彦であったが、それでも今回の件で認め、自覚できた事があった。

 

 

自分に…否、自分達にとってそれが大きな節目を迎えたのだから。

 

 

 

 

 

 

それでは思い出そう。

 

 

 

 

彼等が迎えた一つの結末を迎えた物語を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アル…クェイド」

 

 

探し求める女性の名を口にした遠野志貴は力なく壁を背にして座り込んでしまう。

 

丸一日休む間もなく走り続けたが、アルクェイド・ブリュンスタッドの影すら見つからない。魔眼殺しの眼鏡を外し、目に映るのは吐き気を催す「死の世界」を前にしても彼女の足取りを追う手がかりに繋がると考えたが、美咲町に潜伏しているであろう吸血鬼の死徒すら見当たらない。

 

もしかしたら、そんなものは最初から眼中になかったのかもしれない。

 

他の人間を襲い、血を奪う死徒を倒す事よりも、志貴はアルクェイドを見つけることが先決なのだ。

 

 

 

 

いつものように夜の見回りに繰り出した時。吸血衝動に駆られ、自分の血を吸おうと迫るアルクェイドに恐怖した志貴の声を聞いて間一髪思いとどまったアルクェイドであったが、直後に現れたシエルに、吸血衝動を抑える事が限界である存在に志貴の隣に立つ資格はないと断言されてしまう。

 

瞬く間に立ち去ったアルクェイドを追う志貴はシエルの言葉には耳を貸さず、なぜこんなにも必死に彼女の傍にいたいのかを考えた。

 

 

 

そして認めた。

 

 

 

アルクェイドと一緒にいたいと思うのは一度殺してしまった罪悪感でも、町に巣食う吸血鬼を倒すという正義感でもない。

 

 

好きだから。

 

 

相手が吸血鬼という種が異なる相手だとしても、アルクェイドという女性が好きだから、遠野志貴は共に行動し、戦えたのだ。

 

 

 

 

自覚した志貴は再び目の前に現れてくれたアルクェイドに思いを打ち明け、アルクェイドもまた受け入れてくれた。

 

 

相手が痛がるかも、などと言う遠慮などなしに強く抱擁し合い、唇を合わせ、身体を重ねた…

 

 

ベットの隣で志貴の手を握るアルクェイドの手は暖かく、彼に向ける笑顔はとても晴れやかだ。シエルの警告するような恐ろしい存在とは思えないほどに。

 

 

 

 

しかし志貴が目を覚ました時には、アルクェイドは姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

シエルの言った通り、吸血衝動を抑えるが無理だったのか、吸血鬼と決着を付けるためなのか。だがそんな建前、志貴には知った事ではない。

 

再度立ち上がり、アルクェイドを探し始めた志貴はふと自分の通う高校へと足を踏み入れていた。

 

 

 

 

夕刻なのか周囲には誰一人姿を見かけなかったが、志貴は歩んでいくうちに小さな違和感が次第に大きくなっていくことに気づく。

 

 

 

(どうして、誰もいないんだ…)

 

 

本日は平日であり、夕刻ならばまばらにでも教室や廊下に学生や教職員がいるはず。それに窓からみる校庭には部活動に勤しむ生徒は影すら見当たらない。

 

 

自分以外、この校舎に誰もない。

 

 

その事実をようやく理解した志貴の耳に、何かが落下した音が響いた。物音ひとつ聞こえていなかった為か、ビクリと肩を震わせてしまった志貴は廊下の奥へと身体ごと向ける。

 

照明一つなく、唯一窓から差す西日によって照らされる廊下を転がってきたのは、どこの自販機で売られているような一本の缶コーヒー。

 

なぜここにコーヒーがなどと、間の抜けた疑問などこの10日間にも満たない中で死線を潜って来た志貴は抱かない。

 

 

 

 

考えるとするならば、缶コーヒーを投げたのは、『誰』だという事だ。

 

 

 

 

缶コーヒーが志貴の靴に当たり、動きを止めた後に別の音が定期的に廊下の奥から耳に届き、それは間違いなく足音であると志貴は警戒する。短刀をいつでも取り出せるよう身構えるが、ついに姿を現した者の姿を見た途端、志貴は激しい頭痛に襲われ膝を付いてしまう。

 

 

黒いブーツにズボン、ボタンを留めず纏ったワイシャツの下から不気味なほどに白い素肌をさらし、さらに黒いマントを肩に羽織る男は、肩に触れる程度までに伸びた真っ白な髪の毛をかき分け、『陽が当たらないように』影に留まりながら志貴を見つめていた。

 

 

「がッ…!?」

 

「どうした、飲まないのか?」

 

 

缶コーヒーを口に運び、何処までも冷たい眼差しを向ける男を、志貴は知っている。

 

数日前、夜中に襲い掛かってきた包帯だらけの男。まるで自分の『線』にめがけて刃を振るってきた時、同様に頭痛が起きたが、その時はシエルによって助けられ事なきをえていた。

 

しかし、それが初めてではない。

 

 

志貴はもっと前から、現れた男…吸血鬼を知っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「―――まだ思い出せない、か。どうやら親父の暗示は余程強力だったようだな」

 

 

 

「これじゃあ台無しだッ!俺からすべてを奪ったお前に―――」

 

 

 

 

男が志貴に対して何やらわめいているようだが、何を言っているのかまるで分らない。だが、ただ一つ理解した事がある。

 

 

この男は、吸血鬼は自分を相当憎んでいるという事だ。

 

 

「……………………」

 

 

 

ならば、こちらとしても好都合だ。

 

 

この男が吸血鬼ならば…アルクェイドの敵ならば、この場で倒す。もう彼女が無理をする必要がないように。

 

 

 

志貴が短刀を逆手に持ち、男も口元を禍々しく吊り上げて手にナイフを掴む。

 

 

同時に陽が沈み、廊下が闇に飲まれ始めた直後、2人は一斉に距離を詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はしばし遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連絡が取れないとはどういうことだ?」

 

 

「う~ん、情けない話なんだけど、昨日の戦いで俺が持ってた携帯電話…衛星にも通じて仲間たちと連絡をとれるやつなんだけど、それが壊れていたみたいなんだ」

 

 

(あーあれですね、月影信彦さんという根暗なお方を守った為に壊れちゃったんですねわかります)

 

 

「…………………………………………」

 

 

照れるように笑う筑波洋の言葉を受けた月影信彦は今回に限っては内面に潜むアンリマユの軽口に反論どころか制裁することすら出来ないでいた。

 

 

 

信彦と洋の前に現れたゴルゴムの大神官であったダロム、バラオム、ビシュムが融合し、さらに死徒として復活した怪人は信彦を再び創世王として祀りあげようとするが信彦は強く否定する。

 

再びゴルゴムに加担することを拒む信彦を強引に連れ去ろうとするダロム達の攻撃から守るために、仮面ライダーへと変身した洋は身を手して信彦を庇い、大きなダメージを負ってしまった。

 

変身が解け、ボロボロとなりながらも自暴自棄になりかけていた信彦を諭し、再び変身しようとするがこれを制して戦う決意を固めた信彦に後を託したのだった。

 

 

その後、特に潜伏先を決めていなかった洋は信彦と同じホテル…それも隣の部屋を借りて一夜を明かし、信彦の部屋でこの町にまだ潜んでいるであろうダロム達ゴルゴムの対策を話していたのだが、そこで洋が仲間達との通信手段を失ってしまったと打ち明けた。

 

 

 

「それに昨日の攻撃で俺の身体もちょっと不具合が生じてね。仲間達と脳波で通信することもできなくなってるんだ」

 

(ほえー、そんなことまで出来るんかね)

 

「だが、それ以外の連絡方法は持ち合わせているのだろう?」

 

まだゴルゴムの世紀王として君臨していた頃、信彦は過去の仮面ライダーと呼ばれる者たちを調べた際に、彼等には大きな組織がバックアップしているはず。ならばもしもの時の為に自分の危機を組織に伝える何らかの方法を所持している筈だろう。

 

笑顔で頷く洋は申し訳なさそうに、窓へと目を向ける。信彦の質問には肯定している事は伺えるが、なぜそのように困った顔をするのだろう。疑問に思った信彦は洋の視線を追うように窓へと顔を向けると…

 

 

 

 

「…おい」

 

「えっと…定時連絡をしなかった場合は緊急事態ってことで応援が駆け付けてくれることにはなっていたんだけど」

 

 

 

申し訳なさそうに頬を指でなぞる洋は信彦から発する圧力に冷や汗を拭って、窓の外で逆さ吊りの状態でこちらに屈託のない無邪気な笑顔を浮かべ、手を振る青年の顔を見た。

 

 

 

信彦たちが利用しているホテルは先日死徒の捕食によって巨大な墓地と化してしまったセンチュリーホテルに次ぐ高級地であり、信彦たちが泊まる部屋は最上階に当たり、地上からの高さは50メートル以上あったはず。

 

開くことのない窓の外から手を振る青年は洋と同年代に見られるが、その表情はまるで一回り幼い少年を彷彿させる。

 

未だ肌寒いこの時期に背格好が緑と赤のまだら模様の腰布に、同じ色の半そでの上着のみである。だが左腕の腕輪…銀色の鳥を思わせる装飾と、腰に装着されたベルトを見て信彦は合点がいった。

 

 

間違いなく、筑波洋と同じ仮面ライダーであるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「洋、元気だったか!」

 

「お久しぶりです!まさか先輩が来てくれるなんて…」

 

「アマゾン、ちょっと丈二に聞きたいことあった。そしたら洋が大変だって聞いてここにいる!」

 

「そうか、結城先輩が…」

 

 

場所をホテルの屋上へと移した信彦は再会を喜び合う洋と野生児のような男を遠目で眺めていた。そして視線を空へと向けると夕暮れの空を舞う軍用ヘリを発見する。

 

どうやらこの男をここまで乗せていたようであり、既に数百メートルは離れていながらも開放されたハッチから信彦をいつでも狙撃が出来るよう狙いを定めている。

 

未だ自分を危険視されていることには慣れているが、魔術協会と聖堂教会以外にも自分と対抗しようと考える人間がいるのだなと、逆に関心するほどであった。

 

だが、意識を外へ向けていたためか自分でアマゾンと名乗る男が眼前にまで迫っていたことに遅れて気づいた信彦は急ぎ距離を置く。

 

 

「ッ!?何のつもりだ…」

 

 

警戒する信彦の反応など構わず、再び接近したアマゾンはクンクンと鼻を鳴らし、信彦の周りをグルグルと回り始める。

 

 

(まるでじゃれ付く犬そのものだなおい。仮面ライダーってのは変わり者の集団なのお前の親友含めて)

 

「…………………知るか」

 

長めの沈黙の後に答えた内容はわれ関せず、というものだったが、その間にアマゾンの奇行は終わっていたらしく、目を瞑り今度は腕組をして畝っている。どうかしたんですかと洋が尋ねると、淀み一つない透き通った瞳を信彦とむけ、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

「…お前不思議だ。身体1つなのに、2人いる」

 

 

「ッ!?」

 

 

(おいおいおいおい…エスパーかよこいつ?)

 

 

 

 

これまで秋月信彦という身体に信彦とアンリマユの魂が内包されていると見抜いたものはいない。驚きを隠せない信彦とアンリマユは自分達を状態を見抜いたアマゾンに何故わかったのかと口を開きかけたが、さらに2人が予想だにしていない言葉が発せられた。

 

 

 

 

 

「それに…ずっとそこに…もう1人…」

 

「まて、それはどういう…」

 

 

 

もはや混乱させることばかり言い放つアマゾンを問い詰めようとした信彦だったが、突如として気配が変わる。

 

まるで天敵を威嚇する猛獣のように、アマゾンがうなり始めたのだ。

 

 

 

 

「ッ!?ガルルゥゥゥ…!」

 

 

突然八重歯をむき出しにし、信彦たちとは正反対の方角へと駆けだしたアマゾン。何事だと顔を見合わせる信彦と洋はアマゾンの後を追い金網で仕切られた屋上の隅まで移動し、アマゾンが睨んでいる方角へ視力を強化して見つめると…

 

 

「なに…?」

 

 

そこは遠野志貴が通う学校であり、その校舎内の中で戦いを始めている者がいた。一人は志貴。片手に武器を持って相手の攻撃を必死になって弾いており、苦戦しているようにも見える。

 

志貴の相手は同じ得物で志貴と対峙しているが、男の攻撃は刃物による攻撃だけでなく、魔術も織り交ぜての戦法だ。

 

今、志貴が戦う相手は吸血鬼以外にない。そしてその吸血鬼に生み出された死徒…ダロム達が周辺に潜んでいる可能性だってある。

 

 

もし、遠野志貴が自分と何度か行動を共にしているのだと知り渡っていたのなら…

 

 

「ちぃッ!!」

 

 

信彦に迷いなく行動に移した。

 

金網に手をかけ、路面を蹴ると足のみを部分的に強化・硬質化させ、隣のビルの屋上へと飛び上がった。

 

 

ホテルの屋上から自分を呼ぶ声が聞こえるが、そんなことに構わず、信彦は志貴のいる高校へと移動を開始。

 

 

 

ビルからビルへと飛び移る信彦は滞空中にふと空を見上げる。

 

 

 

志貴を発見した直後に陽は沈み、夜空を照らす月がいつの間にか、姿を現していた。

 

 




はい、今度はアマゾン先輩でした。

彼がアンリ君の存在に気が付いたのは、ほぼ勘のようなものです。実際にアンリマユという存在が目に見えているわけじゃありません。


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