Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

51 / 112
怪魔界の話も今回で一区切り!

な、50話となります!


第50話

「キイィィィィィィィィィィィィィィッ!!」

 

本来ならば低い声質を強引に高め、甲高い悲鳴を上げる男…かつて第四次聖杯戦争で顕現したキャスターのサーヴァントと同じ肉体を使役する木星の星騎士ジュピトルス。

 

モニターの向こうで勝利の余韻に浸る者達の姿を目にし、その醜いカエル顔をさらに歪ませると画面へ五指に生えた鋭い爪を突き立てガリガリと削り、中継される地球の映像は歪なものへと変わってしまう。

 

 

召喚した他世界の怪人はことごとく散っていき、ついには自身の魔力を限界までつぎ込んだ巨大怪人3体までもが倒されてしまった。

 

しかも仮面ライダーとしての力を取り戻した赤上武だけではなく、人間として新生し、人並みの魔力しか持たないはずのサーヴァント達にもしてやられている。

 

 

最早何度己の口から何故だという言葉が出たか分からない。

 

 

怪魔界へと現れた間桐光太郎以外の者など取るに足らない連中ばかりのはず。怪人が繰り返し召喚され、疲弊していく様をこのクライス要塞から眺める…それだけで終わるはずだったのだ。

 

 

なのに。だというのに何だこの有様は。

 

 

「なんと使えない連中なのですか…手負いの人間5匹も駆除できないとは…」

 

 

召喚に魔力を多大に消費しながらも望む結果が得られなかったジュピトルスが口にしたのは、散った怪人達への役立たずであったという侮蔑。

 

他世界から一方的に呼び寄せ、自分の命令には絶対服従するよう洗脳した上で使い捨て、怪人を本来の居場所ではなく、本来戦う相手すらいない世界で散らせ罪悪感を欠片も向けないその言い分はまさに外道という言葉が相応しかった。

 

ジュピトルスに取って、召喚した怪人は光太郎を苦しめる為の…自分の快楽を満たすためだけに用意したもの。それが叶わず倒されてしまうのであれば彼に取って文字通り、役立たずだったのであろう。

 

 

「では、こちらの方へ出向いてもらうとしましょう」

 

 

顎に滴る汗を拭い、別画面へと表示されているサイボーグ怪人の工場へと目を向る。とある協力者によって工場で生産過程にあったサイボーグ怪人を操作するパスワードを手に入れたジュピトルスはさらにもう一度入力しようと端末を操作する。

 

今、敵の増援が途絶え、打ち止めと思い込んだ紅い仮面ライダーが変身を解き、他の連中が疲弊しきったこの時こそ絶交の好機。再度サイボーグ怪人をあの場所へと転送し、今度こそ地獄を味あわせる…

 

怪魔界の様子は通信異常の為に把握できないが、もやは優先すべきは自分の思い通りに死ななかった連中を始末する。

 

その一点しか頭に浮かばないジュピトルスは魔術を使い切った疲労も忘れ、キヒヒと奇声を口から響かせながら最後のボタンへと指を向ける。

 

 

「さぁ…これで最後です!」

 

 

興奮気味に声を上げ、互いの無事を確認し合う武やメディア達の緩み切った表情が一変する。

 

そう確信したジュピトルスの期待は単調な音と赤い文字で表示された文字によって打ち消された。

 

 

 

 

 

 

 

『ERROR』

 

 

 

 

 

 

 

「…おや?」

 

 

 

もしや入力を誤ってしまったか…?

 

画面に表示された文字を見た事で一度落ち着いたジュピトルスは再度パスワードを入力。今度は間違いなく全ての文字を確認して決定のボタンを押す。

 

 

 

 

『ERROR』

 

 

 

3度、4度、5度と同じ行程を繰り返し、6度同じ文字が表示された途端に画面へ拳を叩き付けていた。

 

 

 

「なぜ、なぜ動かないいぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」

 

 

額に血管を浮き出させ、ブルブルと身体を震わす怒り心頭のジュピトルスの背後に、大きな影が迫る。ジュピトルスの奇怪な姿や言動を見た者は背筋が凍るような悍ましさを覚えるとしたら、その者を見た時に抱くものは果てのない畏怖なのだろう。

 

形容し難い圧力を放ち、近づいた者の戦意をそぎ落としてしまう程の気迫を放つ男は、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「余がガテゾーンに命じたのだ。サイボーグ怪人を操作する通信コードを全て書き換えよとな」

 

 

 

 

 

クライシス帝国地球侵略隊の最高司令官 ジャーク将軍の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発した怪魔ロボット トリプロンを背に、構えたリボルケインを手から消失させた仮面ライダーBLACK RX…間桐光太郎は赤い複眼をマリバロン、そしてその背後に佇む間桐桜へと向けた。

 

 

「桜ちゃん…」

 

 

一言、義妹の名を呟いた光太郎は桜を庇うように立つマリバロンに向けて構え、ジリジリと距離を詰めていく。

 

(…RXの姿を保てるまであと僅か…その前に桜ちゃんを連れて出さなければ)

 

先の戦いで新たな姿、バイオライダーへと変身が可能となった光太郎だが、ロードセクターからのソーラーチャージシステムによるエネルギーの補充があったとは言えRXからの多段変身には想像以上のパワーを消費する。

さらに言えばバイオライダーの力を得る直前にもロボライダーへと変身しており、RXとしての姿を保つだけでも限界であり、リボルケインを手放したのもエネルギーの消費を僅かでも抑えるためだ。

 

敵に悟られる前に決着を付けなえればならないと内心で焦る光太郎の動きが止まってしまう。なぜならば、マリバロンを庇うように一歩踏み出し、魔力弾の狙いを定める桜が光太郎へと迫ったからだ。

 

 

「桜ッ!」

 

「何度言えばわかるのだッ!私は間桐桜ではない、ガロニアだ!」

 

 

妹の名を叫ぶ遠坂凛の言葉を頑なに拒み、桜は掌にため込んだ魔力弾を光太郎へと向ける。

 

 

「我が軍の怪人たちを次々と倒し、次いではマリバロンを狙うなど、これ以上の狼藉は許さん!」

 

「が、ガロニア様…」

 

「…………………」

 

 

桜が光太郎へと向けた怒りに、慎二はどこかで安心していた。例え記憶を入れ替えられ、自分達を敵として認識していながらも、彼女が怒る理由は誰かを傷つけようとする者に対してなのだと。

今回の場合はマリバロンの為であるというのが気に入らないが、心の奥底では彼女は変わっていないと確信させてくれる。

 

だが、桜の根本は変わっていないと判明しただけでは今の事態は解決に至れない。再び光太郎が桜の攻撃を受けながら説得する方法はマリバロンがさすがに見逃さないだろう。隣で自分の声が届かないことに歯噛みする凛を見ても何か手段を持っているとは思えない。

 

 

(くそ、どうする…?)

 

手詰まりなのかと拳を強く握る慎二の横を抜け、距離が縮めていく光太郎と桜の間に現れた人物の姿に、両陣が驚きの声を上げる。

 

 

 

「お前…!」

 

「が、ガロニアさん…!」

 

 

桜と光太郎の反応する中、両手を広げて間に立ったガロニアは一瞬迷いを見せるがすぐに決意を秘めた瞳へと変わり、魔力弾を構えたままである桜へと声を向けた。

 

 

「桜さん…もう、いいのです。貴女が今抱く怒りも、その力も、本来ならばワタクシが負うべき業。貴女はこれ以上、ご家族と傷つけあう必要はありませんわ」

 

 

「何を言う偽物め!これ以上侮辱するのであれば貴様から始末するぞ!」

 

 

手の中に凝縮された魔力をさらに高め、十分に距離を置いているガロニアが身じろき数歩下がってしまうが、ただそれだけだ。

 

しっかりと大地を踏みしめたガロニアは身体から赤色のオーラを放ち、桜の魔力による圧力と拮抗すると再び言葉をぶつける。

 

 

「ならば、何故光太郎様の言葉に強く反応するのです!」

 

「…ッ!?」

 

「そして光太郎様をお兄様と呼んだのは、例え記憶を上書きされたとしても皆様を心の奥底で覚えている何よりの証拠!思い出してください…貴女はクライシス皇帝の娘ではない。ここにいる慎二様や光太郎様…そして凛様の大切な家族なのです!!」

 

「わ…たしは…?」

 

 

手から魔力を消滅させ、額を抑える桜。一度光太郎を兄さんと呼び、自室で休んでいた際にぼんやりと頭に浮かんでいた見覚えのないはずの人々の顔。それがガロニアの言葉をうけ、はっきりとした輪郭を描き始めていた。

 

 

 

「桜っ!」

 

「…!?」

 

 

『桜』と呼ばれ思わず顔を上げたその先には、光太郎の隣へと駆け寄り、自分へと呼びかける慎二と凛の姿。

 

 

「いつまでそんな恰好してるんだ!さっさと帰ってこい!」

 

「そうよ!貴女がいるべき場所は、そんなところじゃないでしょ!!」

 

 

「にい…さん、ねえ…さん」

 

 

「な、何…」

 

 

慎二と凛の言葉に反応し、ぼそぼそと彼らを『その名』で呼ぶことに目を大きくするマリバロン。一度光太郎との接触した後に暗示を強めたというのに、再び桜の中で記憶が戻りつつある。そうはさせまいと桜を連れてこの場を離れようとしたが、不意に上から風を切って急接近する機影に気づき、後退することで回避には間に合った。

 

だが自分の肩を掠めた自在に空を舞うバイクが再度自分へと接近すると赤く光る鞭を持ち、反撃を開始した。

 

 

 

 

『待ちに待ってた出番が来ました』

 

「おのれロードセクター…邪魔をするな!」

 

『貴女には分かるまい…前回台詞どころか存在そのものが無い物とされ、空に浮かんでいた私の気持ちが』

 

「なにを分けのわからぬ戯言をッ!」

 

 

 

個人的な理由ではあるがマリバロンの相手を買ってでたロードセクターに託し、頭を抱える桜に声をぶつけるのは、光太郎だ。

 

 

「桜ちゃん!」

 

「あ…」

 

「帰ろう…地球ではメデューサや武くん…衛宮くん達も帰りを待っているんだ」

 

 

 

「みんな…が」

 

 

光太郎の言葉を聞き、桜の中で歪んでいた輪郭がはっきりとした形で浮かび始めた。

 

 

 

自分に魔術を指南してくれたメディア。

 

何かと遠回しな理由を付けて紅茶の葉をお裾分けしてくれるアーチャー。

 

元気いっぱいの部活の顧問である藤村大河。

 

何かと気を使い、実力を認めてくれる美綴綾子。

 

 

 

正義の味方を目指し、我武者羅となって自分の道を突き進む、憧れの男性である衛宮士郎。

 

 

離れ離れとなっても自分を常に見守ってくれる実姉、遠坂凛。

 

 

今の世界で贖罪を見つけるためだけでなく、自分にも武術を手ほどきをしてくれる赤上武。

 

 

兄と共に戦い、姉と呼んで笑顔で返事をくれる手先が不器用でも優しいメデューサ。

 

 

ぶっきら棒でも常に先々の事を考え、自分にとって適格なアドバイスをくれる間桐慎二。

 

 

自分と同じ目に合う人を少しでも減らそうといつも全力で戦い、常に優しい微笑みで共にいてくれる間桐光太郎。

 

 

 

 

 

 

…どうして忘れていたんだろう。

 

私は、かけがえのない人々に対して…

 

 

 

手を差し伸ばしてくれる大好きな人々の元へ帰るため、一歩踏み出した桜。

 

 

 

 

 

 

 

だが、そんな桜をあざ笑うように桜の心は不気味な軟体生物のような触手によって拘束さる。

 

 

その背後で、ギョロリと異様に大きい眼球を持つ男が口元を邪悪に歪める気配を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 

 

光太郎の言葉を聞いて手をゆっくりと彼らに向けた直後、桜は悲鳴を上げると自らの体を抱いて苦しみ始めてしまう。それと同時に紫色の魔力が全身が噴き出し始めてしまった。

 

 

「な、なんだよこれは!?」

 

「魔力の暴走…違う!桜の魔力を全身に走らせて外側へ強引に排出してるんだわッ!!」

 

 

もとより身体に宿す魔力の許容量が大きく、さらにガロニアとしての記憶を上書きされた際に身体を成人まで成長させられた桜の魔力は無抵抗とはいえRXとなった光太郎を追い詰めるほどの域まで達している。

 

強化された膨大な魔力が手順もなく適量でもなく全身から激流のように漏れ出した際の苦痛は想像に絶する。

 

 

 

「な、何が起きている…知らん、私はこんなこと知らんぞ…ハッ!?」

 

ロードセクターと戦闘を繰り広げていたマリバロンは桜が苦しみのあまりにとうとう膝をついてしまった時、マリバロンの脳裏に桜へ暗示をかける寸前の出来事が走った。

 

 

 

 

 

 

 

ジュピトルスの暗示を跳ね除けたが直後に平手打ちを受けて気を失った桜をガロニアとしての知識・記憶を受け付けるために別室へと移動する途中。

 

 

桜を上に乗せたストレッチャーを止めたのは、先ほど部屋を出たジュピトルスであった。

 

 

「ジュピトルス殿。まだ何か」

 

「いえいえ、一瞬で用は済みますよ。一瞬でね」

 

そう言ってストレッチャーのグリップを持つチャップを押しのけ、指先を桜の額へと触れたジュピトルスの口元は僅かだがつり上がっていた。

 

 

 

「もう結構ですよ。どうやら『姫様』はよほど深く眠りについている様子。狸寝入りではないかと気になっていたものでしてねぇ…」

 

 

自分で気を失わせておいて何を言うかと喉まで出かかったマリバロンであったが、ここで事を荒立てることもないと口をつぐみ、桜の搬送を急がせる。

 

背後でジュピトルスが笑いを上げているのは、気のせいだと自分に言い聞かせて…

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさか…まさかあの時に…!)

 

 

桜を真のガロニアと仕立て上げるという発端は全てジュピトルスから始まっている。だが、そのジュピトルスが桜を自滅させるような小細工を仕込む理由がまるで見当が付かない。

 

なぜ、自分たちの支配者となるべく存在にそのような目に合わせるのか。

 

マリバロンは知らない。

 

ジュピトルスは、自分が目につけた者が苦しむのなら誰であろうとその牙を向けるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、あああぁぁぁぁぁッ!?」

 

「くそぉッ!どうになからないのかよ遠坂ッ!?」

 

「…出来るならとっくにやってるわよ。けど、もし漏れている魔力を強引に押しとどめても今度は桜の体内で魔力が暴発する可能性だって捨てきれない!」

 

「くッ…!」

 

 

猶も身体から魔力を放出し続けている桜を前にして手も足も出せない慎二と凛はようやく手を伸ばせば届くところまで近づいたというのに、妹が苦しむ姿を見て何一つできない無力感にかられてしまうが…

 

 

「ワタクシが…なんとかしますわ」

 

桜と同じ黒髪を放出される魔力によって靡かせるガロニアは、決意に満ちた目を桜へと向けたまま走り出す。その手には彼女の力の証とも言うべき赤いオーラを纏わせ、悶える桜の前に立つとさらに瞳を赤く輝かせ、桜を縛る正体を見た。

 

 

 

(彼女の額にある小さな『芽』…通常人の目には捉えることができず、特定の条件が起きる事によって魔力を暴走させるもの。これを取り除けば…)

 

 

ガロニアは両手で桜の頭部へと添えると、桜の身体から漏れ続ける魔力に変化が生じた。今まで桜から漏れていた魔力は紫色であったが、それに僅かながら赤色の魔力が混じっている。それはガロニアは自身の魔力を桜へと流し込み、桜の魔力と共に放出されていることが原因だ。

 

 

「あ、うぅ…!」

 

「ガロニアさんッ!君は…」

 

ガロニアの起こした行動が呑み込めない光太郎に、桜から目を背けず、それでも苦悶に満ちた表情でガロニアは説明した。

 

 

「今、桜さんの魔力を暴走させる原因を取り除くと同時に、桜さんが魔力切れを起こさないようにワタクシの魔力を送り込んでいます!」

 

「…!」

 

 

光太郎は絶句する。言うなれば今ガロニアは手術中に腫瘍の除去と同時に自分自身の血液を輸血している事に等しい。それがどれほどに負担が大きく、繊細な作業であるかは背後で驚愕に染まっている凛の表情からも伺える。

 

 

そうまでして、彼女は…

 

 

「お、お止めくださいガロニア様!」

 

「まり、バロン…」

 

 

ここで中断するよう呼びかけたのは、桜の変化を受け入れきれず茫然としていたマリバロンだった。ガロニアを偽物として殺そうとして今更なにを、と罵声を飛ばそうとした慎二だったが、マリバロンの顔は単なる驚きなどではなく、完全に焦燥に駆られている。

 

 

「ガロニア様、貴女自身がご存じのはずです!貴女は高等な魔術を使えても、成長促進カプセルから途中で抜け出した影響で、放出した魔力を自然回復出来ない身体であると!」

 

 

「なッ…!」

 

 

 

 

それはガロニアを連れ戻さず、桜をクライシス皇帝の後継者に仕立て上げるもう一つの大きな理由でもあった。

 

本来、成人になるまで成長促進ビームによって身体を成長させたガロニアは、皇帝の後継者に相応しい能力を持った存在となるはずだった。だが、成長促進中にカプセルから抜け出したガロニアは肉体の年齢は16、7歳までしか育っておらず、その能力も不完全のままであった。

 

その中でも大きな欠陥が、魔力の自然回復。初歩的な催眠術、転移術など高等な魔術を操ることができても自力で回復することはできずにいたのだ。さらにカプセルとデータが破壊されてしまった事により、再調整は不可能となってしまっている。

 

 

ガロニアのデータを見たジュピトルスはそれを理由に桜を真のガロニアにするべきだとと論じ、反論するものは、誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…ライドロン」

 

『マリバロンノ言ッタ事ハ事実ダ』

 

「そんなっ…!」

 

 

静かに名を呼んだ慎二の質問に事実を告げたライドロンの言葉に、凛も信じられず声を上げてしまう。

 

 

『…アクロバッターヲコノ世界ヘ呼ンダ後、彼女ノ様態ヲモニターシタガ、魔力ガ回復スル兆シハマルデ無カッタ』

 

「じゃあ、じゃああの子は…」

 

『回復シナイ魔力ハ文字通リ、命ヲ削ッテ補ッテイルノダロウ』

 

 

 

アクロバッターの一言に、言葉を失ってしまう一同。だが、その沈黙を破ったのは、ガロニア本人であった。

 

 

「皆様…ワタクシがこのまま命と引き換えに桜さんを助ける…なんてそんな結末を迎えると考えていませんか?」

 

 

魔力を送り続けている弊害か、手が血で染まり、衣服が袖まで裂けてしまっているガロニアの声は聞くものを悲観にさせるどころか、目を丸くさせるものであった。

 

 

 

「ワタクシにはマリバロンへと申した通り…この怪魔界の人々と和解し、自然豊かな世界へと変える義務があります!例え命を削るだとしても、捨てるつもりは毛頭ありませんわ!」

 

 

ガロニアは、笑顔で言い切った。聞いていた光太郎達は唖然としたが、次第に笑いが込み上げてくる。

 

 

「全く、誰に影響されたんだろうね…」

 

「間違いなくお前だと思うけどな」

 

 

 

最初に怪魔界へと踏み込んだ時、世界と人々の姿を見て思い悩んだ少女にあれほどの啖呵を切らせてしまったんだ。ならば、口に出した約束は守らなければならない。

 

 

彼女の起こす行動に、協力を惜しまないと。

 

 

 

光太郎は改めて2人の姿を視界へと捉える。常に魔力の消費と桜の中にある原因を取り除く為に捜索するガロニアへ助ける事があるとすれば、ガロニアへの魔力の補充だろう。

 

だが、彼女の持つ魔力の質が地球人と同じものとは限らない。下手に凛の魔力をガロニアへと流すことは逆効果を起こす危険性を孕んでいるかもしれないのだ。だが、それでも…

 

 

「それでも、この可能性に賭ける!」

 

「可能性って光太郎に何が――」

 

言いかけたところで、慎二は言葉を止める。

 

 

あるではないか。このような状況で、ご都合主義のごとく全てをひっくり返してきた方法が。

 

 

此度もまた、今の危機的状況を塗り替える光が光太郎より放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キングストーンフラッシュッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

背中に当たる暖かな、そして失ったはずだというのに身体から溢れんばかりに満ちていく強い力。ガロニアはそれだけで理解し、感謝する。

自分を支えてくれる太陽のような存在に。

 

(見つけた…!)

 

 

桜に巣食う、まるで軟体生物のように絡みつく『呪い』

 

取り憑いた者の魔力を暴走させる恐るべき存在だが、見つけてしまえば取るに足らない黴菌のようなものだ。

 

ガロニアの赤い魔力を身に受け、蒸発した『呪い』を見て小さく息をついたガロニアは自分に向かい倒れてくる桜…その髪は紫ではなく、自分と同じ黒髪。体つきも以前と同じとなった為か服がダボダボであり、それでも自分より一回り…下手をすれば二回り大きさの異なる感触を味わいやや嫉妬しながらも彼女の耳元で囁いた。

 

 

 

 

「さぁ、帰りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれはジャーク将軍、しばらくお姿を拝見しておりませんでしたがどちらへ?」

 

「…クライシス皇帝に謁見するために要塞から離れておったのだ。とある条件を認めて頂くためにな」

 

 

先ほどの激高した表情から何事もなかったように現れたジャーク将軍へと振り返ったジュピトルスは質問した内容に興味を抱いていたようであり、立て続けに尋ねる。

 

 

「ほほう、それは興味深い。司令官でありながら要塞を離れてまで皇帝に許しを得ることなど―――」

 

 

途端、ジュピトルスは自分が左側へと傾いているという感覚に見舞われる。

 

 

(…はて?)

 

 

 

反対側に『あるべき』ものを失った喪失感。

 

 

いつの間にかジャーク将軍の手に握られた、星騎士時代から持ち続けている愛刀。

 

 

そして噴き出した血しぶきと激痛によって、ジュピトルスは自分の『右腕』が肩から失われているという事実を理解した。

 

 

 

 

 

 

 

「ギイィィァアアァァァァァッァァァァァァァァァアァァァッ!!??!?!?!」

 

 

傷口を掴み、止血しようにも切り口が広過ぎるために掴んだことで逆に痛みが倍増することとなったジュピトルスは悲鳴を上げてその場で蹲ってしまう。

 

 

その様子を見て表情一つ変えないジャーク将軍は淡々と言い放った。

 

 

 

「余が皇帝へと申し出た許し…それはこちらへ協力を申し出たかつて星騎士だった者が、我らが宿敵間桐光太郎へと挑んで失態を犯した場合、極刑へと処す許可を頂くことだ」

 

「ぎ、いいぃぃぃ…」

 

 

祖国の裏切り者である星騎士を即時処罰べきと進言したジャーク将軍だったが、その危険さと力で光太郎を倒す事に利用できると踏んだ皇帝の決断に内心では納得のできないまま従っていた。

 

だが、ジュピトルスが接触してきたことにより、さらに危機感を強めたジャーク将軍は桜をガロニアの替え玉とする許可を下してすぐに怪魔界のクライシス帝国へと赴いていたんだ。

 

皇帝の代理人と数日に渡る交渉の末、ようやくたどり着いた皇帝の間で得られた許し。

 

それは今まさにジュピトルスへと向けられたのだ。

 

 

 

「ガロニア様の代理を用意し、それが怪魔界、そしてクライシス帝国の未来の為とほざいたが、余は貴様が自分の為ならば敵どころか味方すら笑いながら殺す輩であることを忘れておらん」

 

「がぁ、ぎぃ…」

 

もはやヒューヒューと呼吸しか口から吐き出せないジュピトルスへ、ジャーク将軍の冷たい目は彼に対して一遍の慈悲を持ち合わせていない。

 

 

「現に先ほど怪魔界で起きた戦いの中で間桐桜に貴様の仕掛けた『呪い』が発動した。だが、貴様がしでかしたのはそれだけではない!」

 

 

 

「我らが戦力であるサイボーグ怪人の大多数を失わせ、怪魔ロボットネックスティッカーの意思を奪い操るという非道。その上RXを倒すどころか奴にさらなる力を与えることに加担しよって!」

 

 

ダンッ!と剣の鞘を床にへと突き立てたジャーク将軍は自分の批難に何一つ言い返さないまま苦しみ続けるジュピトルスの背中目掛け剣を構えるが、震え続ける姿を見る事数秒。

 

剣を納刀し、踵を返してその場を去ってしまう。

 

 

「…この要塞から立ち去り、二度と姿を見せるな。余の部下を誑かし、利用することは許さんぞ」

 

 

 

振り向き、一度も目を向けないまま部屋へ取り残されたジュピトルスは蹲ったまま喉を鳴らすようにうねり続けていた。

 

 

 

 

 

 

「ぎいぃぃぃ…ひ」

 

 

 

 

 

「ぎいいひひ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呻きを不気味な笑いへと変えたジュピトルスは顔を床にこすり付けたままジャーク将軍の去った扉へと目を向ける。

 

 

「相も変わらず情け深い性格ですねぇ金星のヴィルムス」

 

 

「いいでしょう。お望み通りここを離れて事を進めようじゃありませんか」

 

「間桐光太郎の首の隣に、貴方の首も並べるとしたら、さぞ愉快でしょうねぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしかったのですか、将軍?」

 

「そ、そうです!あんな恐ろしい奴を殺さず逃がすなんて…」

 

「…あ奴の当面の目的はRXとなる。今は一秒でも早くこの要塞から追い出すことが先決だ。処刑など、いつでもできる…む?」

 

 

ジャーク将軍の後に続いて通路を歩くガテゾーンとゲドリアンの疑問に答えるジャーク将軍は先の角で頭を下げ続けているボスガンを発見する。だが、歩く速度は緩めず、すれ違う寸前にボスガンへと声を向ける。

 

 

「よくぞ奴の起こした顛末を報告してくれたボスガン。おかげで皇帝に進言する際に判断材料として役に立ったぞ」

 

「は、ハハァ…」

 

 

その後は言葉を続けることなくジャーク将軍と追いかけるようについていったゲドリアンは指令室へと向かっていったが、将軍に続いていたガテゾーンは振り向かないままボスガンへと言い放った。

 

 

 

「災難だったな。俺たち大隊長しか知りえないサイボーグ怪人プラントの指揮権である暗号コードを、あのサイコ野郎に強請られてちまうなんて」

 

「……………………」

 

「ま、あの野郎に脅されちゃ渡すほかないかもしれんな…俺だったら、破壊されても御免だがな」

 

「っ…………!」

 

「あんま気落ちなさんな。新しいコードは今度教えてやるからよ」

 

片手をズボンのポケットへ入れ、反対の手をひらひらと振りながらガテゾーンはその場から離れていった。

 

取り残されたボスガンは拳を壁面を思い切り叩き付け、まるで呪うかのようにその名を口にする。

 

 

 

「おのれぃガテゾーン…機械人形風情が私を侮辱しおってぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、その場には誰もいない。

 

 

ガロニアとなるはずだった桜も、本物のガロニアも、敵であるRX達も。

 

 

ただ一人佇むマリバロンは、桜が元の姿に戻ってしまった直後にライドロンに乗ってこの世界から逃げ出そうとする光太郎達を止めようとかけだしたが足元に放たれた銃弾を回避。猪口才なと隠し武器である拳銃を構えていた慎二を睨むがその直後に腕に当たった攻撃によって足が竦んでしまう。

 

撃たれた痛みはそれほどではないが、言い表しようのない倦怠感が身体を支配し、動けなくなってしまったのだ。みれば慎二の背後に右腕をこちらに向けた赤い服を纏った少女が睨んでいる。

 

資料にあった人間による初歩的な呪いであるガンド。

 

焦っていたとはいえ、地球人のそんな攻撃を受けてしまうとはと屈辱に染まるマリバロンだったが、本物のガロニアの声を聴き、体調など関係なしにその場から動けなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『マリバロン…もう、貴女とは語り合うことはありません。ですが…』

 

 

 

『私がカプセルの中にいた時、ワタクシの成長を見守り、微笑みかけてくれた事は感謝いたします』

 

 

 

 

 

 

『…ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして光太郎達は地球へと逃亡してしまったのだった。

 

 

 

 

 

(私は…)

 

 

体調も戻り、立つことが可能となったはいいが何故かマリバロンはその場から動けなかった。なぜ、ガロニアの悲しそうな目で言われた言葉がいつまでも自分を縛り付ける?確かに彼女の成長を見守るのは自分の任務だったが、笑っていた記憶などない。

 

きっと、ガロニアが自分の都合のいいような勘違いをしていたに違いない。

 

そうに、違いない。

 

 

 

『マリバロン、聞こえるか?』

 

「ガテゾーン…」

 

『今回の一件、ジュピトルスとRXの戦いに巻き込まれてガロニア姫は死んだってことにするらしいぜ』

 

「そんな…!」

 

『そうでもしなきゃ、お前をまた前線に立たすことはできんのだと』

 

「…ジャーク将軍」

 

 

そうだ、自分が戦わなければならない。ジャーク将軍の元で宿敵RXを倒す。そして、証明するのだ。ガロニアに、今自分たちの戦いこそが、クライシス帝国と怪魔界の為であるのだと。

 

 

 

「すぐに戻るわ。次の作戦、手伝ってもらうわよ、ガテゾーン!」

 

『やれやれ、了解だ』

 

 

もう、迷いはない。

 

 

マリバロンは戦う。忠誠を誓ったジャーク将軍のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…?私」

 

「…おはよ、桜」

 

 

異空間を移動するライドロンの後部席で目を開けた桜が見たのは、自分の顔を見下ろす実姉の姿だった。

 

「姉さん…ここは…私は…」

 

「大丈夫、帰ったらゆっくりと話しましょう。ゆっくりとね」

 

 

優しく微笑む姉に頭を撫でられ、桜は再び瞼を閉じると、ゆっくりと寝息を立て始めている。

 

桜を膝枕する凛の後では力を使い果たしたガロニアが、操縦席では先ほどまで「最後まで油断できない」と見栄を張っていた慎二が眠りについている。

 

起きているのは凛と、ライドロンを追走するアクロバッターを操縦する光太郎だけだ。

 

さらにそのあとにはロードセクターが走っているが、おそらく無駄話をしているのだろう。

 

ふぁ…と小さくあくびをする凛も瞼が重くなり、目を閉じ始めていた。

 

 

今だけは、眠っても構わないと、座席のシートに身を預けてしまう。

 

 

 

それでも、桜の頭に当てるその手だけは、決してどけることはなかった。




解決したものの、いくつかの因縁らしきものが生まれる結果となりました。

では、そろそろ…本当に久しぶりに彼らの出番となります。

お気軽に感想など書いていただければ幸いです!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。