まだまだ続くドライブの話に期待をしつつ、46話の投稿です!
仮面ライダーBLACK RXこと間桐光太郎が思わず呼んだ名の少女…義妹である間桐桜と、自分達の前に現れたガロニアと名乗る女性は印象がまるで異なる。
桜が実妹である遠坂凛と同じ、父親譲りの黒髪とエメラルド色の瞳であるのに対し、ガロニアを名乗る女性の髪は鮮やかな紫色であり、光の反射を拒むような漆黒の瞳。
光太郎達に向けていた向日葵を思わせる明るい笑みを向けてくれる桜とは対照に、女性の表情は微笑みどころか喜怒哀楽、どの感情も読み取れず、冷たささえ感じる。
それ以外にも身長や体格も差異が見られるが、光太郎、そして慎二は確信する。
彼女は桜なのだと。
そして同時に理解する。
なぜ彼女がガロニアと名乗り、自分達を嘲笑するマリバロンと共にいるのか。
(そういう…ことかよ)
心中で舌打ちする間桐慎二はあの悪知恵が働くマリバロンを始めとしたクライシスの連中が皇帝の娘であるガロニアを捜索せず放置するなどおかしいとは考えていた。
奴らは最もシンプルで、どこまでもこちらの神経を逆なでする方法で代役を作り上げたのだ。
ガロニアと似ている桜を洗脳し、姿を変えて『皇帝の娘』という象徴を生み出し、姫を逃がしたという失態を闇に葬るといった所だろう。
反吐が出る。
こうして自分達の目の前に連れて現れるだけでも慎二は敵への怒りを込み上げていくが、義兄のそれは自分との比ではないことは彼が握りしめる拳から聞こえる音で丸わかりだ。
光太郎の心を壊すため、例え偽物であっても桜の偽者を惨殺した光景は今も目に焼き付いている。
同じ過ちは二度と起こさせない。
今度こそ桜を救うために一歩前へ出た光太郎だが、それよりも早くマリバロンは桜の耳元でそっと呟いた。一体何をと、光太郎が思案するが遅かった。
あの女が口を開くことなど許さず、桜へと接触するべきだった。
そんな後悔を抱いた直後、紫色の魔力弾が光太郎へと叩き付けられてしまった。
「グワァッ!!」
倒れはしなかったものの、数歩後退して魔力弾が直撃した胸を手で押さえる光太郎は掌を自分に向ける桜の表情が初めて変化を見せていた事に気付く。
憎しみという感情で。
「貴様か…我らクライシスに仇名す輩というのは!」
「違うッ!俺は―――」
「問答無用ッ!!父上の名において、貴様を討ち取ってくれるッ!!」
光太郎の言葉に耳を貸さず、桜は次々と魔力弾を放つ。
「グっ!?桜、ちゃん…」
「何度言えば分るのだ。私の名はガロニア、貴様の妹などではないッ!!」
否定の言葉と共に打ち出される魔力の塊は的確に光太郎へと叩き込まれ、防御すらさせる隙すら与えず打ち続けられた。苦悶の声を上げながらも前へと進む光太郎の姿を見て、慎二はあの桜が慕っている義兄に向けて躊躇なく攻撃するという驚きと同時を隠せなかった。
(…よほど根深く洗脳したってことかよ。それに、なんの媒体も詠唱もなしに魔力を攻撃に転換するなんて…奴らは桜の力まで弄ったのか)
ライフル銃を握る手に力を込めながら、どう切り抜ける方法を思案する慎二とは対象に、マリバロンは桜に成す術もなく攻撃される光太郎の姿を見て高揚感を押さえつける事に必死であった。
(まるで夢を見ているようだわ。あのRXが、雑草のようにしぶとく刃向っていたクライシス帝国の怨敵がガロニア様の攻撃に、手も足もでない光景が見られるとは…)
口を吊り上げ、光太郎が苦しみ続ける様を眺め続けるマリバロン。このまま光太郎が息絶えてしまえば地球侵略の邪魔者はいなくなり、さらにガロニアとして洗脳した桜を正気に戻そうとする人物を知る存在も抹消できる。
正に一石二鳥だ。
(本来ならばガロニア様によるRXの殺戮ショーを楽しみたいところだが、時間は多くかけられない)
もはや勝利したも当然とまで言える状況の中で、マリバロンは一つの不安を覚えていた。先ほど自分が耳打ちした後に、桜は光太郎に対し、こう発言していた。
『私の名はガロニア、貴様の妹などではないッ!!』
桜に施した暗示は『自分はこの怪魔界で生まれ、クライシス帝国の次期支配者となる存在』という内容であり、この場にいる地球人2人と兄妹であるという記憶は上書きされているはずだ。今『初対面である』間桐光太郎は自分達に仇名す者としか伝えていないのに関わらず、無意識的に桜は光太郎の妹であると口に出してしまっている。
未だ暗示が不完全なのか。それとも、暗示を覆してしまう程に、この2人の絆が強固なものなのか…
どちらにしろ、あれ程の攻撃を受け続ければさすがのRXでもそうは持つまい。なぜなら、光太郎は決して反撃できない。
彼にとっての弱点である大切な存在にその力を向けるなど、あり得ないのだから。
桜の放つ魔力弾の数と威力は時間が経つに連れて大きくなっている。身体の成長に連動して魔力量も大きくなっているのかとどこか冷静に分析している自分に嫌気がさしながらも、慎二は銃の照準を桜へと向ける。
無論、桜を撃ち抜くためなどではない。足元などに威嚇射撃をして一瞬でも気を逸らせば、魔力弾の嵐から光太郎が離脱することが出来る。太陽の光を受けられない光太郎は傷を再生することができず、傷は増え、深まる一方だ。
一度攻撃に身を任せて吹き飛んだ方がまだダメージが少ないはずなのに、あの馬鹿は引くどころか、ジリジリと前へ進んでいる。何か考えがあっての行動だろうが、このままでは光太郎が倒れてしまうのが先だ。
「……………………」
銃を向ける。こんな単純な作業、この半年で飽きる程実践してきたことだ。しかし、慎二ができたのは両手で銃口を前方へと向けるまでだった。
「…………っ」
照準がブレる。手元が安定しない。あれ程訓練を重ね、敵を打ち貫いたはずなのに。
(なんでだよ…桜を直接狙う訳じゃない。これまで通りに、撃てばいいだけの話だろ)
自分へ言い聞かせるように唱えるが、銃口はやはり安定しない。どうして狙いが定まらないのか…そんな結論、身体を張っている義兄が示しているではないか。
(桜を…傷つけられない)
もし狙いが逸れて、桜の身体を傷つけてしまったら。
自己鍛錬に加え、赤上武という鬼コーチの指導の元、慎二は聖杯戦争時よりも戦闘能力が上がっている。最初は発砲の衝撃で仰け反ってしまうライフル銃など、現在では片手で連射ができる程にだ。
だが、いくら武器の扱いに慣れようが、それは家族を、妹を傷つける為のものではない。
だからだろう。
その気になれば黒い手で弾き返せる攻撃を敢えて身体で受けているのは、弾いた攻撃が桜へ跳ね返り、ダメージを与えない為だ。こんな事だから、メデューサが過保護になってしまうのも頷ける。
(…だからってこのままで良いわけないだろッ!!お前だって、傷付いてんだッ!!)
頭を振り、再度桜の足元へと狙いを付ける慎二。確かに桜を傷付ける事などできない。だが、同様にこれ以上、同じ家族である光太郎を放っておくなどできはしない。
引き金へと指をかけ、あとは力を籠めれば――――
「慎二くん」
自分の名を呼ぶ義兄の赤い複眼は、真っ直ぐにこちらへと向けている。魔力弾が破裂する音に紛れながらもしっかりと届いた光太郎の声を聴いた慎二は桜に向けた銃口を降ろし、光太郎が視線で伝えた通りになるかを見守る事に徹すると決めた。
俺が、なんとかするから
(…駄目な時は僕は僕で動くからな)
結局は義兄に頼らなければならない自分の無力を痛感する慎二は、桜への元へ進んでいく光太郎の背中を見つめる事しか、できなかった。
(何なのだ、あの者は…)
魔力弾を何百発撃ちこんだかも分からない。だというのに、異形の男は避けるどころか反撃すらせず、自分へと歩み寄る姿に桜は脅威を抱き始めていた。
マリバロンは言っていた。
あの男こそ偉大なる父へ反逆し、多くのクライシス帝国の先兵を笑いながら虐殺した者だと。自分の命だけでなく、父の命すら奪い、怪魔界を征服しようと企んでいるのだと。
なのに、この男からは誰かを殺める事を楽しむような邪気はまるで感じられない。むしろこちらを安心させるような、暖かさを与えてくれる。それに、自分はそれをずっと前から知っているような―――
(ッ!?私は、何を…)
そんなはずはないと攻撃を強めても、男は止まらない。
RXから強化される前のBLACKへと戻り、ダメージは倍以上受けても、男は止まらない。
強化皮膚のリプラスフォースが抉れ、複眼に亀裂が走り、触角を思わせるアンテナが折れても、男は止まらない。
ついには変身が解け、人間の姿となっても、男は止まらなかった。
衣服の所々が裂け、額から血を流し、片足を引きづりながらも男は歩むことを止めない。
遂には目の前に立つまで距離を詰めてきた直後、桜は相手の顔に向けて魔力弾を放とうと手を向けるがそれよりも早く、光太郎の手が桜の顔へと伸びた。
(やられる―ッ!?)
身構え、思わず目を閉じてしまった桜に痛みが走る。
ほんの一瞬、額が弾かれたような小さな痛みが。
「え…」
パチリと瞼を開けた桜の目に映ったのは、額の前で人差し指を伸ばした光太郎が浮かべる、優しい笑顔。
「駄目だよ桜ちゃん…魔力をこんな事に使う為に、練習したんじゃないんでしょ?」
小さな子供に言い聞かせるようなゆっくりとした言葉。子供扱いされているという屈辱よりも、桜は光太郎の起こした行動に目を見開いて驚いていた。
(そうだ…私は、昔―――)
どこかの家の養子になることが決まり、不安で仕方が無かった日々。
しかしその家には自分と同じくよそからやってきた年上の男のがいた。
最初は怖かったけど、思わず家を飛び出した自分を探して、手を繋いで帰ってくれた。
男の子をお兄ちゃんと呼ぶようになってある日の事だ。
お義父さんが大事にしているお酒の入った瓶を割ってしまい、怒られるのが怖くてどこかに隠れていたがあっさりとお兄ちゃんに見つかってしまう。
どうやら自分の泣き声を聞いて場所を特定したようだ。
もしかしたら怒られるかもしれないと、目を閉じ、手で耳を塞いでいた自分のおでこを指で軽く弾かれた。
痛みがほとんど無かった事へ逆に驚き、閉じていた目を開けたら、お兄ちゃんはこう言った。
『駄目だよ、ものを壊したんなら、ちゃんと謝らなくちゃ』
その後、やはり怒られたが、お兄ちゃんも一緒になって怒られてくれた。
お説教が終わった後、謝って偉いと頭を撫でてくれた。
あの、暖かく、大きな手で―――
そうだ、私はあの手を…そしてこの人を知っている。
確か、名前は――――
「光太郎兄さん…?」
桜の瞳に僅かな光が宿った時、光太郎の身体は真横へと吹き飛んだ。
「がぁッ!!」
「騙されてはいけませんガロニア様」
光太郎を口から放った衝撃波で吹き飛ばしたマリバロンは茫然とする桜の背後へと立つと両手で肩を掴み、囁くように呟いた。
「あの者は弱っている振りでガロニア様に近付き、幻影を見せたのです。ああ、なんと卑劣な男なのでしょう」
「てめえぇぇぇッ!!」
あと少しで桜を正気に戻せたかも知れないところを邪魔したどころか、光太郎を侮辱する発言に激怒した慎二は迷うことなくマリバロンへと狙いを定めるが、マリバロンが鞭でライフル銃を切断し、慎二の首を絞めつける方が早かった。
「ガッ…グッ!?」
「さぁ、このまま絞め殺してくれるッ!!」
光の鞭をどうにか振りほどこうと手に掛ける慎二だが一向に解くことが出来ず、マリバロンは止めを刺すべく鞭を引こうとするが…
「やめよマリバロン…」
「ガロニア様…」
額を押さえ、瞳が漆黒へと戻ってしまった桜は苦しむ慎二と意識を失った光太郎を一瞥し、踵を返して宮殿へと向かっている。
「私を謀った者をそう簡単には死なさん。しばし休んでいる間に処刑の準備を進めておけ」
「はっ!」
額を手で押さえ、宮殿へと戻る桜を侍女達が迎え入れるが、桜は無視して私室まで足早に向かっていく。
(あれは…本当に幻術だったのか?それにあの男…なぜ、あれ程まで傷付いて笑っていられる…)
(どうにか切り抜けられたわね。後は…)
気を失った光太郎と鞭から解放した慎二は先ほどチャップ達が牢へと連れて行った。ならば、後は光太郎達が乗って来たバイク共を始末すればと振り返った先。
「いない…?」
見ればバイクを捕獲する為に動いていたチャップ隊が鎖や網を放り出し無惨にも倒れ伏している惨状だ。もしやこれはとマリバロンは付近に倒れているチャップの頭部を踏み、どのような状況だったかを強引に報告させた。
それは光太郎と慎二がマリバロンによって倒された直後、2台のバイク同士の会話であった。
『…光太郎ッ、慎二ッ…!』
『どうやら旗色が悪くなった状況ですね』
『2人ヲ助ケナケレバ…』
『待って下さいアクロバッター』
周囲を鎖で振り回すチャップ達に囲まれていたアクロバッターはすぐにこのような連中を吹き飛ばし、救出に向かおうとしたが、ロードセクター・ネオに待ったを掛けられた。
『マスターが捕まってしまった以上、我らが向かった所でマスターの二の舞となってしまう』
『ナラバ、ドウスルノダ…』
両目のライトを強く点滅させるアクロバッターは今すぐにでも光太郎の元へ駆け付けたいが、もしやロードセクターに考えがあるのではと、ヘッド部分を向ける。するとロードセクターはアイドリングで排気ガスを吹かし、今にも走り出す状態で告げた。
『マスター達が倒れてしまった今、我々に出来る唯一の策をここで使います』
『ソレハ一体…?』
『我々はバイク。ならば、その長所を最大限に生かす。準備は宜しいですか…』
『…マサカ、君ハ』
あまり的中して欲しくない嫌な予感を浮かべるアクロバッターは今にも網で捕獲しようと接近するチャップなどに気付けない。
『最近閲覧したコミックス類から、今の状況に最も相応しき台詞を応用。すなわち――――』
『逃げるんだよォ――――ッ!!アクロバッター―――ッ!!どけーッ雑兵どもォーッ!!』
それはいかなる技術による賜物なのか。合成音声で感情的な声を発すると同時に囲んでいたチャップ達を引き飛ばし、逃亡の一手をとったのであった。
とっさの事のためロードセクターを追走するアクロバッターは一度彼のメモリーをデリートした方が良いのではと本気で考えたが、ロードセクターから送られた目指す座標…ライドロンの元へと向かう事にようやく意図が掴めた。
RXの変身を解いてしまった光太郎が再び光の戦士へとなるには、ロードセクターが持つソーラーチャージシステムが不可欠であり、しかもあと1度しかチャンスがない。
あの場で光太郎が立ち上がる可能性は低く、下手をすれば慎二と共に人質になっていたかも知れない。
そこでロードセクターが取った手段はライドロンや凛達と合流し、体勢を整えることにあったのだろう。
空を飛んだり、主を見捨てるような発言の裏で戦略を練るなどまったく、底の知れない方法ばかりを思いつくバイクになってしまったものだとアクロバッターはロードセクターの評価をどうすればいいのか判断しかねていた。
(シカシ、アノフザケタ音声ダケハ自重スルヨウニ言ワネバ)
それは、全てが終わってからでも良いだろう。アクロバッターはロードセクターに続いて大地を削りながらライドロンの元へ向かうのであった。
「また来ちゃったか…」
これで3度目となると流石に慣れてくる。
自分以外が真っ暗であるこの空間。自分の深層意識だと理解した光太郎は自分は気を失っているという事態と、この後現れる存在も予測していた。
『まさかこうも短期間に顔を合わすことになるとはな』
「ハハハ。同感」
光太郎が振り返るその先。
仮面ライダーBLACKの姿を借りたキングストーンの意思が佇んでいた。
『状況は、わかっているのか』
「うん。だから一分でも早く起きて桜ちゃんを助けに行かなくちゃッ!」
『…以前の落ち込みが信じられない程に前向きだな』
「う…忘れてくれるとありがたいんだけど。でも、そうだね」
一本取られたと苦笑する光太郎はキングストーンの指摘を否定することなく述べる。今自分がすべき事を。
「確かに、今の桜ちゃんは自分をガロニアだと言って俺を敵としてしか見てくれない。けど、『それだけ』だ!桜ちゃんは生きているのなら、いくらでも取り戻すチャンスはあるってことだしね」
満面の笑みを浮かべる光太郎の姿にキングストーンは楽天的であると苦笑すると共に、安心した。
妹に攻撃され、以前のように戦う目的すら失ってしまったのなら、これから言う事が無駄に終わってしまうところであった。
『光太郎…』
「ん?なんだい?」
どう桜を助け出すかを今いるメンバーでの役割分担など考えていた光太郎は不意にかけられた声の主であるキングストーンへと顔を向ける。
『今から言う事をしっかりと聞いておけ』
『これが私からお前に託せる、最後の力だ』
さて、ついにあの姿が…出るかもしれない。
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