Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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今更視聴し始めましたウルトラゾーン。不良怪獣ゼットンが面白すぎる…

では、44話です!


第44話

(まさか、怪魔界に来ただけでなく、ここまで嗅ぎ付けるなんて…)

 

 

マリバロンは偵察中のチャップからの報告を聞き、敵である間桐光太郎のあまりにも早すぎる行動に苛立ち、ギリ…と爪を噛む。

 

光太郎が怪魔界へ現れたと聞いた際には焦ったが、地球と同等の広大さを持つ中で彼の妹のいる場所を見つけ出すなど出来るはずがないと踏んでいたのは間違いだった。あの男は、こちらの予想を上回る手段と力を持って我らの地球侵略を妨害してきたのではないか…

 

だが、今回はそうはいかない。

 

 

なぜならば、もう手遅れなのだから。

 

 

 

 

「マリバロン」

 

「ハッ!お呼びでしょうか、ガロニア様」

 

 

 

自分の名を呼んだ新たなクライシス帝国の姫となった存在の前で跪くマリバロンはゆっくりと玉座へ座す女性を見上げる。

 

 

紫色に煌めく髪を持ち、吸い込まれしまいそうな深く黒い瞳を持つ女性…マリバロンにガロニアと呼ばれた女性こそ、今し方現れた間桐光太郎の妹、桜の成れの果て。

 

 

気に喰わないが、星騎士ジュピトルスの提案が成功し、その身をクライシス人へと化す『奇跡の泉』の効力と暗示で彼女は自分を完全にクライシス皇帝の娘、ガロニアと思い込ませる事に成功していた。

 

 

 

それまでの過程で、彼女がガロニアになるには相応しすぎる存在であると、マリバロンは思い知っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜がガロニアと違う人物と判明し、ジュピトルスによって新たなガロニアへと仕立てあげる計画を立ち上げた直後のことだ。

 

 

 

桜の身を『奇跡の泉』の水へと浸からせる前に、彼女の心を完全にガロニアへと書き換える為にマリバロンは催眠術を施していたが…

 

 

 

 

「く…うぅ…」

 

 

 

鎖で壁に拘束された桜はうめき声を上げながらも、マリバロンの掌から放たれる紫色の光波…精神を操作する催眠術に抗い続けていた。時間が経つに連れて強くなる虚脱感に負けじと手を強く握り、唇を噛みしめながら自分を浸食しようとするマリバロンの催眠術へ拮抗させてる為に魔力の燃焼を続ける桜の姿は、術を続けるマリバロンと見守っていたゲドリアンを驚愕させるには十分過ぎるものだった。

 

何よりも2人が畏怖するのは、桜の瞳に宿る決して諦めようとしない強い意志。

 

今、桜が拘束されている場所は地球ではなく宇宙に浮かぶクライス要塞。

 

例え間桐光太郎が場所を察したとしても乗り込むことはほぼ不可能に近い。

 

救いはないこの状況の中で、なぜ少女は諦めることなく、抵抗を続けているのか…

 

 

同時に納得し、思い知ってしまう。

 

 

当初は逃げ出したガロニア姫に代わる器として利用しようとした少女はただの人間ではなく、『間桐光太郎の妹』であると。

 

 

無論、光太郎のように常識を逸脱している能力や魔力を有している訳ではないが、意思の強さは本物だ。

 

 

当初は赤子の手を捻るように容易いと考えていた桜への暗示は難航を示し、ついには術による疲労でマリバロンが翳していた手を下ろしてしまう

 

 

「ハァッ…ハァっ…ええい、なんとしぶといッ!!」

 

 

汗を拭い、桜を睨みつけるマリバロンは自分と同様に疲労し、魔力を消費しているのに関わらずまるで疲弊するどころか、ますます眼力を強める桜に戦慄してしまう。

 

 

なぜ、諦めない…?

 

 

疑問を抱くマリバロンは突如、背筋が凍るような寒気を感じたと共に、悍ましい声が放たれた背後へと急ぎ振り向いた。

 

 

 

 

「苦戦しているご様子ですなぁ」

 

「ジュピトルス…殿」

 

蛙のようにギョロリとした両目は呼びかけたマリバロンではなく、桜へと向けられている。怪魔妖族屈指の実力を誇るマリバロンの催眠術を退けたガロニアとなる少女へ興味を抱き、この場へと現れた…と予測するゲドリアンであったが、ジャーク将軍の言った言葉がどうしても忘れられずにいた。

 

 

 

 

 

『彼奴めの行動方針はただ一つ。相手を苦しむ様子を眺め、悦とすること』

 

 

『悦…ですか?』

 

 

『自分の楽しむ為なら相手を選ばんのだ。敵であろうが…味方であろうがな』

 

 

 

脳裏に残る言葉を思い出した矢先、ゲドリアンやマリバロンの前でジュピトルスが起こした行動に、思わず声を上げてしまった。

 

 

 

「な、何をしてんだよアンタッ!?」

 

 

目上であるジュピトルスに対して言葉使いも忘れてたゲドリアンは禍々しい爪を持ち、異様に指の長い手で桜の額を鷲掴みし、指の隙間から怪しげな光を放つ光景に声を上げてしまう。

 

 

 

「ア、アアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!?」

 

 

これまでにない反応を示す桜の声に口もとを吊り上げるジュピトルスは盛大に笑い、顔を茫然としているマリバロンへと向けた。

 

 

「手緩い!手緩いのですよッ!!催眠術に掛からないのならば、抵抗など出来ぬよう心を潰してしまえばいいッ!!こちらに逆らう事など考えに至らぬようにねぇッ!!!」

 

「馬鹿な…そんな事をしてしまえばその少女はガロニア様となる前に生きる屍となってしまうのですよッ!?」

 

 

そうならないように細心の注意を払っての催眠術という方法だったのだ。桜という人格を消去せず、そのままガロニアへと書き換えれば精神と肉体への負担は最小限に抑えられるはずだったが、今ジュピトルスがやろうとする事は彼女からその精神をはぎ取ろうとすることに他ならない。

 

 

 

「そんなもの後から『植え付ければ』よいのではないですか!『抜け殻』の方がガロニア様としての人格を植え付ける方が遥かに効率的でしょうッ!!!」

 

 

目を見開き、興奮するジュピトルスの意見は最もだ。確かに時間をかけて催眠術により桜をガロニアと思い込ませるよりも、最初からガロニアである人物を造り上げてしまえば手間は掛からない。だが、あくまで結果の話。

 

 

造り上げた人格…ガロニアであればこうするであろう、こう答えるであろうというデータを人間の脳にインプットすれば、確かに桜だった少女は自分をガロニアと名乗るだろう。だが、その為にジュピトルスが起こしている行動は効率の良い手段ではなく、自らの愉しみのためだ。

 

 

 

 

「さぁ、絶望なさい、壊れなさい。貴女の苦痛を私に見せるのですよぉッ!!!」

 

 

 

 

ジュピトルスが桜の額を掴み、施していたのはマリバロンと同じ催眠術だ。だが、桜へ自分はクライシス皇帝の娘であるガロニア姫と思い込ませる内容とは全くの別物。

 

 

 

桜の心をへし折る為に、失墜させる為に次々と残酷な映像を焼き付けていた。

 

 

勿論、現実ではなく幻想に過ぎないが、桜の脳へ直接叩き付けられる催眠術は、より現実に近いものであった。

 

 

 

 

 

手始めに産みの親である父と母が殺された。

 

 

 

 

自分を庇う姉の首がポトリと音を立て、目の前に落ちてきた。

 

 

 

自分を守る為に、下の義兄が蜂の巣となった。

 

 

 

聖杯戦争を生き残った仲間が、学校の先輩、後輩、教師が、首だけとなって桜の周りを囲っていく。

 

 

膝を付き、頭を抱えて目の前で起きた事を必死に否定しようとする桜だが、耳に入る断末魔の声も、身体に付着した赤黒い液体の暖かさも『本物』だ。

 

 

 

 

「あ、あ、ああ、あ…」

 

 

 

 

まともに呼吸すら出来くなった桜が続いて目にしたのは、憧れの存在がか細く、「守れなくて、ごめん」と全身が刀剣によって貫かれる最期を迎えた。

 

 

 

憧れの女性が自身の武器であるはずの鉄杭で首を刺され、先輩と同じように桜へと詫びて息絶えた。

 

 

 

 

そして、太陽の戦士となった義兄が輝く武器を手にこちらへと向かってくる。

 

 

 

その姿に僅かながら目に輝きを取り戻した桜は戦士の名を叫ぼうと口を大きく開ける。

 

 

 

 

 

「光太郎兄さ―――」

 

 

 

桜が名を呼びきる寸前だった。

 

 

武器を握ったまま、戦士の腕は鮮血を撒き散らしながら宙を舞い、その痛みで声を上げる前に戦士の胸に大きな穴が開けられてしまった。

 

 

ゆっくり、ゆっくりと倒れながら人間の姿へと戻っていく義兄は届くはずもない手を、桜へと向けながら大地に沈んだ。

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

もう、言葉すら出ない。

 

 

目の前で掛け替えのない人々全てを奪われた桜は、音を立ててひび割れていく。心が決壊していく。その中から彼女を覆いつくそうと『絶望』が這い出ようかとするように。

 

 

その光景を、現実の世界でジュピトルスは高笑いを上げながら仕上げだと言わんばかりに、耳障りな高い声を桜の精神へと響かせた。

 

 

 

 

 

 

「最高です…実に最高ですよ貴女ッ!そうです、この者達があのように死んだのも、そしてこの後に死んでいくのも、全て貴女が生きているからなのですッ!!」

 

 

(私の…せいで…?)

 

 

塞ぎ込む桜の全身に亀裂が広がり、あと一カ所でもひび割れたら砕け散ってしまう寸前、ジュピトルスの言葉に反応して指先がピクリと動く。

 

 

 

「けど安心なさい!そんな未来があろうとも最早関係の無い話!貴女の精神は潰れ、別人として生きられるのですからねぇ!ああ、しかしどの道貴女という存在…心が死んでしまうのだから意味がありませんなぁ!!」

 

 

「死後の世界で眺めていなさいッ!貴女の肉体に宿る新たな支配者によって地球が征服される様をッ!!」

 

 

ジュピトルスに取って、それは最後の一押しのつもりだった。あのまま放っておけば自然と桜は絶望によって完全に崩壊していたかもしれない。もしくはジュピトルスの言葉が止めになっていたかもしれない。

 

 

 

だが、間桐桜という少女を、ジュピトルスは見誤っていた。

 

 

 

(させ、ない…)

 

 

もはや立つことが出来ないはずの桜、血の海の中でゆっくりと立ち上がる姿を見る。

 

 

 

(そ…んなこと、させないッ…!)

 

 

自分という殻を突き破ろうとした絶望という怪物を強引に押し込めた桜の身体に走っていた亀裂が僅かだが、確かに塞がっていく。

 

 

(必死になって兄さんが守ろうとしたものを…壊させたり…しない!私の身体でみんなを苦しませるようなことなんて…絶対に―――)

 

 

 

 

 

 

「絶対に、させませんッ!!!」

 

 

 

 

ついに立ち上がった桜の身体には綻び一つない姿で叫ぶ。それに呼応するように彼女を囲っていた幻は光となって消えていった―――

 

 

 

 

 

「なんと…」

 

 

高笑いを続けていたジュピトルスの表情が凍りつく。同時に悲鳴ばかりを上げていた桜の呼吸が安定している様子を不思議に思ったマリバロンの耳に、少女の声が届く。

 

 

 

「なる…ほど。これが、貴方のやり口…なんですね。敵ながら…最低です」

 

 

「なぜ絶望しない…貴女は確かに…」

 

 

「ええ…潰れかけました。けど、諦めたくなかった…」

 

 

「…………………」

 

 

「私のせいで誰かが苦しむなんて…そんな事、絶対に、認められません」

 

 

とうに笑いを終えたジュピトルスの問いに、桜は気力、体力共に消耗した状態でありながらもはっきりと伝えた。そう思える程の強さをくれたのは、間違いなく家族の存在だ。

 

 

例え幻であり、近しい人々の死を垣間見た後であっても、自分は誰かを苦しませる存在になる訳にはいかない。一度全てを失っても誰かを守る為に今も戦い続けるあの黒い背中を見て、思ったことだ。

 

 

「………………………」

 

 

 

ジュピトルスは指の隙間から見える桜の瞳を見た途端、あっさりと手放すと反対の掌で桜の頬を平手打ちしてしまう。

 

 

乾いた音が室内へと木霊した後、桜はぐったりと項垂れてしまうのであった。

 

 

 

「飽きました」

 

 

 

一言そういって踵を返すジュピトルスは佇んでいたマリバロンへ先ほどまで高揚した態度が嘘のように淡々と告げる。

 

 

「気を失った今なら外部からでも暗示は可能でしょう。喜びなさい、当初の貴女の思惑通りに事が進みますよ?」

 

「は、ハァ…?」

 

「さてゲドリアン?先ほど面白い話を聞かせてくれましたねぇ。なんでもあっという間にクローンを生み出す怪魔異生獣を飼っているとか…」

 

 

 

今まで遊んでいた玩具を放り出し、別の遊びへ興味が移った子供のように間桐桜を自分の対象から外したジュピトルスはゲドリアンを連れ、部屋を後にするのであった。

 

 

どのような幻を見せていたのか、マリバロンには見当も付かない。だが、自分とジュピトルスの催眠術を退ける程の精神力の持ち主ならば…クライシス帝国を率いる存在に相応しいかもしれない。

 

 

「ガテゾーン聞こえる?プランBへ変更するわ」

 

『俺の催眠装置を使ってのプランか…準備は出来ているがいいのか?お前さんの手柄にしなくて』

 

 

今回の失態から間桐桜をガロニア姫へすり替える作戦は全てマリバロンが進める方針であった。その為当初の暗示を含め、マリバロンが行うつもりだったが、彼女が目覚めている間はジュピトルスですら暗示をかける事すらできなかったのだ。

 

ならば自分の下らない意地など捨て、ガテゾーンが用意した催眠装置に委ねるほかない。

 

 

「構わないわ。これからクライシス帝国の支配者を生み出す為ならね…」

 

 

それに見てみたい。彼女がクライシス帝国を収める姿を、この目で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そして暗示は成功し、彼女は自分をガロニア姫であると完全に思いこんでいる)

 

 

後に奇跡の泉に身を浸し、肉体をクライシスの者とした桜は髪の色が紫へと変わり、肉体も成人女性まで成長している。そして今の彼女には、間桐桜としての記憶は、欠片も残されていないはずだ。

 

 

 

だが…

 

 

 

「…見てみたい」

 

「なんと、おっしゃったのですか?」

 

「見たいと言ったのだ。その侵入者達の姿をな…」

 

「な、何をおっしゃるのですか!?危険過ぎます!」

 

 

玉座へ座し、暗い瞳で自分を見下ろしているガロニアの申し出に慌てて否定するマリバロン。確かに間桐桜の人格をガロニアへと変えることには成功したが、もし間桐光太郎達と接触したことが切っ掛けで記憶を思い出すことがあれば…

 

先程完璧に暗示は成功したと自負していたが、相手は間桐光太郎だ。何を起こすが予想すら出来ない相手に、彼女を近づける訳にはいかないのだが…

 

 

 

 

「マリバロン…お前は、誰に向かい意見しているのだ」

 

 

 

ただ一言。

 

一言でマリバロンは身動き一つ取れず、自分を見つめる暗い瞳から目を逸らすことすら出来なかった。

 

 

彼女は予想通りにガロニアに相応しき存在。否、相応し過ぎた。

 

 

元々桜の持つ潜在能力がクライシスの人間となったことで解放され、今では自分ですら敵うかどうかも分からない。

 

 

もしや自分は、とんでもない存在を生み出してしまったのかと自問するマリバロンに、ガロニアと化した桜の言葉が続く。

 

 

 

 

「もう一度言うぞマリバロン。私を、その者達の元へ連れて行け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、山岳地帯で敵の大軍に発見された間桐光太郎達は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター、このような状況に相応しきBGMをコンピューター内に収録されているファイルから再生可能ですがいかが致しましょうか?』

 

 

「ごめん、ほんと申し訳ないんだけど今は静かにしていて貰えるかなッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーBLACKと変身し、洗脳されたマンモス怪人の牙を両手で掴み、押し合いながら空気をまるで読む気のないロードセクター・ネオの方へと顔を向けて絶叫する。

 

 

 

 

崖の上からはチャップ達の射撃、正面の上り坂から次々と襲い掛かるゴルゴムの洗脳された怪人達の襲撃に光太郎達は苦戦を強いられていた。

 

 

待機させていたロードセクターとライドロンを呼び出したまでは良かったものの、幅が5メートルもない山道と10メートル以上の崖からの攻撃ではどうしても彼等では相性が悪く、今では光太郎を援護する慎二の盾代わりとなっているのが精一杯だった。

 

 

 

 

「ちょっとなんなのよあのバイクッ!?こんな時にくっだらない話しかできないなんて…」

 

「それには全力で同意するけど、お前も期待を裏切らない事をやらかしたことをわすれんな…よッ!」

 

 

ライドロンの影に隠れ、変装中のガロニアを抱きしめながら弾丸の雨に負けじと大声を張る遠坂凛の言い分を肯定しながら自前のライフル銃に弾丸を詰め込み、一発狙撃しては再度隠れるを繰り返す間桐慎二の言葉に凛は言葉を飲み込み、ジト目で今唯一攻撃手段を持っている少年を睨む。

 

 

本来ならば凛も戦いに参加をする予定ではった。彼女が最も得意とする宝石魔術を使った攻撃であれば頭上に群がる兵隊など一網打尽だったろう。だが、ここで凛本人が最も恐れていた事態が発生していまう。

 

 

 

遠坂家固有スキル;うっかり

 

 

 

今回の桜奪還に備え、聖杯戦争後に補充した最高の宝石を準備していた。

 

 

準備していたのは良かったが、彼女は持参したボストンバッグに入れ忘れてしまい、宝石の詰まった袋は今でも自分の机の上だろう。

 

 

 

 

(あ~もうなんでいつもこうなるわけ!?)

 

 

 

今、こうして降り注ぐ敵の銃撃に怯えているガロニアを落ち着かせるために身を寄せてはいるが、いつまでも敵が同じ手段を使っているはずがない。恐らく、今より強力な武器へと切り替えるはずだ。

 

 

 

「くっそ、せめて下からじゃなく同じ高さならあんな奴ら…」

 

 

弾丸を詰め直す慎二は苛立ちからそんな声を漏らした。彼の言う通り、今の状況では自分達が圧倒的に不利だ。坂の上から襲い掛かる怪人達は光太郎が何とかしてくれているが、崖の上の連中はどうしようもない。

 

仮に光太郎がその跳躍力であのチャップ共の殲滅に向かったとしても、今度は自分達が怪人達の相手をしなければならない…

 

 

どうすればと頭を抱える慎二の言った言葉に遅れて反応したのは、復帰してから主に迷惑しかかけていないバイクの合成音声だった。

 

 

 

 

 

 

 

『同じ高さというのは…今攻撃を仕掛けている敵と同じ、もしくは有利な場所となるのでしょうか?』

 

 

「あ?ああ、そうだよ。でも、それでこそ空でも飛べない限りは上の高さなんて…」

 

 

『では、やって見ましょう』

 

 

 

 

あっさりと告げたロードセクターのボディに本体を分割するような隙間が走り、その隙間から光が迸る。

 

 

 

 

 

 

 

『モードSへ移行。変形を開始します』

 

 

 

 

後輪の左右に備えられていたブースターのノズルが下へと方向を向け、放射された火が車体をゆっくりと持ち上げる。

 

 

宙へと浮いた状態から変化は進み、前後のタイヤが車体の内部へと収納され、本体の左右から白いウイングが展開。さらに後部からロードセクターを浮かせているブースターとは別のノズルがせり出し、尾翼が左右、上部と姿を現した。

 

 

さらにヘッド部分が伸び、アタックシールドが展開したことで変形が完了。

 

 

 

 

ロードセクター・ネオに備えられた新たな力の一つ、スカイモード。

 

 

 

 

 

変形を終えたロードセクターは茫然とする一同を余所に、慎二の前へと移動する。

 

 

 

 

 

『どうぞ、いつでもフライト可能です』

 

 

 

「…最初からやれよそんなのがあるんだったらさあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

 

久々に義兄以外の存在(バイクだが)に怒鳴り散らしながらも慎二がロードセクターに飛び乗った瞬間、凜達が瞬く間に上空へと移動。飛行能力を持たないチャップ達は自分の頭上に現れた敵に対し、急ぎ照準を向けるが…

 

 

 

「おっそいんだよッ!!」

 

 

今までのフラストレーションとロードセクターへの不満からか、次々と発射される弾丸は外れることなく敵を狙い撃ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれが…大門先生の言っていたロードセクターの力…」

 

 

出発する前に大門明から聞かされていた隠されたロードセクターの機能…自分達では解析できなかったブラックボックスの中身の正体があれとは、流石に驚いたと光太郎は空を駆けるロードセクターを見上げていた。

 

 

 

ちなみにこの時光太郎はカニ怪人にヘッドロックを仕掛けており、ロードセクターの能力へ驚きのあまりに力を込め過ぎて泡を吐き出しすぎているのに気付かなかったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

「それにしても…」

 

 

崖の上の敵は何とかなっても、坂の上からやってくる怪人達の数は増える一方。このまま手を拱いていては増援が増えていく。

 

 

せめてもう一手。この環境の中でも小回りが利く仲間がいてくれたら―――

 

 

 

 

 

「―――呼んで下さいッ!」

 

「え…?」

 

 

コウモリ怪人を殴り飛ばした光太郎はライドロンの影から身を乗り出したニット帽で頭を包んだ少女…ガロニアを見る。

 

どうやら崖のチャップ達は慎二を標的にしているようであり、今ではライドロンに攻撃は向けられていない。

 

危ないと身を屈めるように言う凛の言葉を聞かず、ガロニアは身体を震わせながらも、光太郎へと声を届けた。

 

 

 

「呼んでください光太郎様ッ!貴方様の仲間を…きっと、きっとこの世界に現れますッ!!」

 

「しかし…!」

 

 

彼女の言う仲間…光太郎と共に戦場を文字通り駆け抜けた仲間には、単体で時空を飛び越える能力を備えていない。自分が呼んだとしても、現れるはずが…と考える光太郎だったが、真っ直ぐ自分を見つめる少女の目を見て、その思案を変える。

 

 

敵が襲ってくる直前までに、怪魔界で見た現実に心を痛めていた少女…だが、何が切っ掛けだったかは分からない。

 

 

必死に身を奮い立たせ、初めて見る戦場で立つことすらやっとのはずなのに…

 

 

今の彼女の目には、迷いがない。

 

 

 

光太郎はガロニアを信じて、虚空に向けてその名を叫ぶ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎二様…」

 

「っとに、勇敢過ぎるわ。いきなりあんなのに飛び乗るなんて」

 

「そうですね…それに比べたら、ワタクシは…」

 

「…言ったでしょう?今、何も出来ないとしても、貴女を責める奴なんていないって」

 

「はい…」

 

「でも、もし貴女が何か自分に出来る事があるなら、その時は全力を尽くしなさい」

 

「自分に、出来る事…?」

 

「今は怯えても、自分が見てきたものに目を背けたっていい。その後に、ちゃんとした答えを持ち合わせるならね」

 

「……………………」

 

 

 

いきなり変形したロードセクターへと搭乗し、崖の上の敵との戦闘を開始した慎二の適応能力に呆気をとられながも賞賛する凛に、ガロニアはそう尋ねた。

 

 

今、出来る事を全力で。

 

 

はっきり言って、これは受け売りだ。

 

 

だがその言葉を受けてから、衛宮士郎の意識はどこか変わり、より訓練に精を出すようになっている。

 

 

そして自分も、それに乗じて訓練を厳しくしている事は周りには黙っている。

 

 

この言葉が、彼女にとって悩みを増やす枷となるのか、それとも…

 

 

「……………………」

 

 

黙って目を伏せるガロニアだったが、それも僅か数秒だった。

 

 

再び彼女が目を開いた時、凛が見た瞳は…

 

 

身に覚えが有りすぎる、お人好し達と全く同じものだった。

 

 

 

「ライドロン様、お願いがありますわ!」

 

「ドウシタノダ?」

 

「ワタクシがこれからすることに、黙って協力して下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして光太郎に仲間を呼ぶように叫んだあと、胸の前で手を組んだガロニアの身体を赤色のエネルギーが立ち上る。ユラユラと中を泳ぐエネルギーはやがて一定の高さまで上がると、まるで円を描くように回り出した。

 

 

円の中の空間が歪みだし、やがて大きな穴が展開された。

 

 

 

『補正マイナス値…転異空間の出口、固定完了。我々の世界までの到達まであと…』

 

 

「あ…ぅ」

 

 

「しっかりしなさい、あとちょっとなんでしょっ!?」

 

 

ふらつくガロニアを支える凛の言葉を受け、再び作業に集中するガロニアの額に汗が溜まっていく。

 

 

ガロニアが今、やろうとしていることは自分の能力を持ってして、光太郎の仲間を地球から怪魔界へと呼び寄せる事。

 

 

地球と怪魔界のワープ空間を通ったデータを持つライドロンの座標データを基に空間へ干渉し続けるガロニアだったが、ワープ空間を固定させるには想像以上に力を消費してしまうのだ。

 

 

凛に支えられながらも、ガロニアは今自分に出来る事へ全てを注ぎ込んだ。

 

 

 

(今は、ワタクシに出来る事はこんな事だけ。けど、いつかは…)

 

 

目に焼き付いてしまった、本来ならば戦う必要が無かった人々が傷ついてしまうこの世界の現実。それに対して、今自分に出来る事など何一つないだろう。

 

 

だが、今は無理でもいつかは…地球のように笑い合える日がいつか来るなら。

 

 

(こんなワタクシを許し、共に行動をしてくれる人がいるなら、いつか、絶対に…)

 

 

 

まだはっきりとは浮かばないが、いつか叶えたい目的。

 

 

その第一歩として、今、出来る事をやり切って見せる!

 

 

ガロニアが新たな目的を抱いたと同時に、ライドロンの声が響く。

 

 

 

『中継完了。地球と怪魔界との転異空間、完成』

 

 

 

 

 

 

 

 

「今です、光太郎様ッ!!」

 

 

 

 

 

「来いッ!アクロバッターッ!!!」

 

 

 

 

 

 

2人の声が重なった刹那。

 

 

ワープ空間から赤い複眼を持ち、青く流れるようなボディを持った生体バイク、アクロバッターが出現した。

 

 

 

 

 

 

 

「やり、ました…」

 

「ガロニア…!?お疲れ様、頑張ったわね」

 

 

フラリと倒れたガロニアを抱きとめた凛は力尽きても笑って見せるガロニアの頭を優しく撫でるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

その光景を見ていた光太郎は怪人数体を引き飛ばしたアクロバッターに搭乗、アクセルグリップを捻り、未だこちらに向かい続ける怪人達を睨んだ。

 

 

 

『準備ハイイカ?』

 

「ああ、反撃開始だッ!!」

 

 

 

 




実は間桐家でメンタルが一番強いのは桜であるというお話…

そして出ましたセクターさんの新能力。以前予言されてしまいましたが、予定通りに空を飛んでもらってます。ま、それだけじゃないんですけどね…


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