さて、今年は花見に参加できるといいなぁ…
では、43話です!
間桐光太郎達が怪魔界に現れたと知ったボスガンは急ぎジュピトルスへと伝えるが、当人はこれで邪魔されることなく、光太郎を苦しめる事が出来ると禍々しい笑みを浮かべ、次々と異世界の怪人を召喚。その姿は、かつてクライシス帝国を守護したといわれる星騎士とかけ離れた存在であると今になって思い知るボスガンであった。
そして怪魔界へと到着した間桐光太郎、間桐慎二、遠坂凛、そしてガロニア。
光太郎の偵察中、慎二は凛からガロニアがライドロンへと頭を下げ、桜を助ける為に乗せて貰うよう頼んでいたと聞かされる。
一方、光太郎はライドロンの設計図、そして重症を負っていた武を自分達に託したクライシス人の協力者ワールドが隠れ家として使われていた土地を訪れていた。
自分とメディアを地球へと戻してくれた恩人へと報告した光太郎は、ワールドが最後に自分へ伝えた言葉をふと思い出す。
『星総べる王、世界の命運を止める』
今まで気にも留めなかった言葉が、新たに現れた星騎士と呼ばれた敵の存在と共に大きくなっていた光太郎はその意味を探ろうするが、慎二から救援の連絡を受け、ロードセクターを走らせるのであった。
ロードセクター・ネオのハンドルを握る光太郎はライドロンの元へ走らせながらも、ロードセクターのパワーを身を持って知る事となった。
(前日に碌に試運転してなかったし、怪魔界へのワープで気が付かなかったけど、すごいパワーだ)
光太郎の全身に伝わる新型エンジンの唸りと疾走による振動。普通の人間ならば決して耐えられないパワーは正に暴れ馬だ。しかもまだ一度もフルスピードに達していないにも関わらずライドロンのワープスピードに追従できる速度と耐久性を備えているのだ。もし、フルスピードを出した時は世界がどう映るのか…
と、バイク好きの悪い癖が出してしまった光太郎は頭を振るい、今は慎二達の所へ戻ることが先決だと切り替える。
慎二の通信から、クライシス帝国の手の者が迫っている可能性が高い。ならばすぐに戦えるように変身を済ませた方がいいだろうと光太郎は腹部にベルトを出現させ、ゆっくりと息を吸い、ロードセクターを加速させつつ自らの姿を変える言葉を叫ぼうとした。
「変し―――」
『お待ちくださいマスター』
「ん…?どうしたんだ、ロードセクター」
突然待ったの電子音声を発し、光太郎の変身を中断させたロードセクターのAIへと尋ねる。アクロバッターやライドロンと比べ、言葉が流暢になっているロードセクターは光太郎の想像を絶する意見を述べるのであった。
『なぜ、構えから始めないのですか?』
「え?」
『マスターは変身する前に、必ず流れるような動きで構えを取り、変身していました』
「いや、今は時間ないし…」
『これから戦闘となる可能性があるというのに、そんな心構えでどうするのです』
「いや、あの…」
『見せて下さい。マスターの、変身を』
「…………………………………………………」
本当に、何があったんだろう…
謎の拘りを訴えるロードセクターの考えが読み取れない光太郎は受理するまでの間に成長していた事に驚き以上に嬉しさ――敵であるガンガティンに破壊された時、初めて言葉を発した事もあり――もあったが、まさかアクロバッターやライドロンを上回る程の話好きになっていたとは夢にも思わなかった。
慎二達とライドロンから離れて移動中も今、主である光太郎へ立て続けに質問を投げかけており、好む音楽のジャンルは何なのか、どのようなラジオを聞いているのか。そしてメデューサと気まずい雰囲気にあるようだが何があったのかと、敢えて全員が聞こうともしない質問が出た時には閉口するしかなかった光太郎。
貪欲とも呼べるまでに様々な事を知ろうとする姿勢に関心するが、流石にこのような時まで…それも飽きる程見ているはずの自分の変身を取って付けたような理由で見たいと言い出すロードセクターに釘を打っておかなければならないと考えるが、時間も惜しい。
光太郎は握っていたハンドルグリップを手放し、左手を腰に添え、右腕を前方に突き出した構えを取ると、両腕を大きく右側へ回し、右頬の前へ両拳を移動させる。
ギリギリと拳から軋む音が響く程に強く握られた力を解放するように右腕を左下へ振り下ろし、再度拳を握って素早く左脇へと添える。
入れ替わるように左腕を右上へと突出し、扇を描くように右から左へ旋回し―――
「変ッ―――…」
水平となった左腕を、右腕と共に右上へと突き出した。
「――身ッ!!」
光太郎の腹部から眩い赤い光と共にキングストーンを宿したベルト『エナジーリアクター』が出現。
エナジーリアクターから迸る光は光太郎の細胞組織を書き換え、バッタ怪人へと変貌させる。
だがそれも一瞬。
エナジーリアクターから流れ続ける光はバッタ怪人を強化皮膚『リプラスフォース』で包み込み、光太郎を黒い戦士へと変身させた。
左胸に走るエンブレム。触角を思わせる一対のアンテナ。真紅の複眼。そして黒いボディ―――
『ブラボーです、マスター』
「………………………そうか」
どうやら名乗りまでは不要だったらしく、若干消化不良である仮面ライダーBLACK…変身した光太郎は短く答えてると項垂れてため息を付いた。その姿は、歴戦の戦士とは程遠い姿だったが、ロードセクターが続けて述べた言葉に仮面の下で目を見開いてしまう。
『おかげでマスターが変身時に発生するキングストーンのエネルギー値や消費量、回復に至るまでの時間を計測することができました。感謝致します』
「ロードセクター。まさか、その為に…」
『私の務めはアクロバッター、ライドロンと共にマスターを守り、戦う事。その為にはマスターに関しての情報が不可欠になります。ですが、データの収集を目的にしていたとはいえ、マスターに不快な思いを抱かせてしまった事は事実。お詫びいたします』
「いや、そんな…謝ることなんて」
生まれ変わったロードセクターにとっての疑問…さらに言えば彼に芽生えた好奇心を満たすための言動だと考えてしまった光太郎は自分を恥じた。そうだ、彼はライドロンが生まれる間際に自らの意思で動き、自分を助けてくれたのではないか。
そして今も、自分の助けになるものと考えての先導したのだ。
何か裏があるわけなんて…
『では次回は地表での変身をカメラ3台による別角度からの撮影することにご協力下さい。同じ変身でもアングルによってまるで臨場感が異なり―――』
「ちょっと黙ろうかロードセクター」
ロードセクターはまた一つ学習する。
行き過ぎた好奇心は時に温厚な人物を怒りに駆り立ててしまうという事を。
光太郎の短い一言に無言の肯定を示す頃には、目的地が目前まで迫っていた。
結論を言えば、光太郎の抱いた危惧は徒労に終わっていた。
ライドロンへと接近し、そして今も好奇の目で眺め、触れている人物達は敵ではなかったのだ。
「慎二君、これは…?」
「ん…?ああ、悪いね。大丈夫だったって無線で送ってなかった」
「いや、大丈夫。まさか、この人達は…」
「クライシス人。それも、ワールドって人の知り合い見たいだね」
距離を置いてライドロンに群がる人々を眺めていた慎二を発見した光太郎は変身を解除し、協力者であったワールドと同じく白い民族衣装に蟲のような触角を持つ人々へと目を向ける。
年齢や性別は様々であり、衣服の所々に汚れが目立っている。背負った大荷物や手にした鈍く光る銃火器からするにワールドと志を同じくし、所々拠点を変えているレジスタンスのようだ。
ワールドが託してくれたライドロンは怪魔界では設計で止まってしまっていたのか、実物が実在すると知った人々…特に子供たちは触れたり、話しかけたりと実に楽しそうである。
突如現れた異世界からの訪問者である慎二達へ奇異の目を向けるよりもライドロンへの興味の方が勝っていたらしく、変に質問攻めに遭うよりはマシだったと胸を撫で下ろす慎二の説明にクスリと笑うと、初老の男性が光太郎へと向かってくる。
「騒がしくして申し訳ない。貴方達は…ワールド博士からライドロンの設計図を?」
「ええ。貴方は、ワールドさんをご存じなんですか?」
「私は彼とは別の地方でクライシス帝国への反撃を伺っていたのですが、以前聞いた事があるのです。もし、この設計図を託せる相手が現れるとしたら、希望となる存在なのだと」
「希望…」
「事実、そうでした。貴方という存在が異世界に攻め入ったクライシス帝国と戦い続けてくれるおかげで、未来を見いだせなかった我々に火を灯してくれた…感謝しています」
頭を下げるレジスタンスのリーダーらしき男性に光太郎は首を左右に振った。
「…俺は、ただ戦っていたに過ぎません。たとえ俺の行動がきっかけになっていたとしても、実際に立ち上がろうとしたのは、貴方達自身の意思なんです」
「私達の…」
「ですから、誇ってください。自分達でこの世界を変えようとしたことを」
顔を上げた男性に微笑みかけた光太郎はゆっくりと手を差し伸べる。手は直後に握り返され、2人が頷いて強く握手する光景に、慎二は相変わらず誰とでも打ち解けるのが早いと感想を抱きながら岩陰からライドロンの様子を伺っている赤い少女へ顔を向けると…
「……………額に…触角が…」
震える声で呟き、それ以上の存在を多く見てきたはずなのにカルチャーショックを受けている魔術師、遠坂凛。さらにその後ではサングラスにマスク、ニット帽という疑って下さいと言わんばかりの変装で身を潜めているガロニアがいた。
彼女の場合は顔が知れ渡っているかは不明であるが、正体を隠すにこしたことはないだろう。
だがガロニアに取っては初めて目にするはずの人々…同じ世界の住人だ。そもそもパーソナルスペースが狭く、誰とでも話したくて仕方がないのだろうがそれを踏みとどまらせているのは、自分と彼等との、現在の関係。
支配者の娘と、それに抗う人々。
もしガロニアの立場を知った場合、今は光太郎と談笑している男を筆頭に、今いるレジスタンス全員が彼女の敵となってしまう可能性が高い。
…ここは大人しく凛と共に静観してもらう方が正解だろう。
などと考えを巡らせている間に、どうやら光太郎の方で話を進めていたらしい。
「では、光太郎さん達は妹さんを助ける為に怪魔界へ?」
「そうなんです。なにか、知っていることがあれば…」
光太郎の質問にううむ…と顎に手を当てて考え込む男性に、ライドロンいじりに夢中だった少年の1人が挙手し、遠く離れた位置からでも届くほどの大声を放った。
「そういえば一昨日くらいに例の山岳に向かっていく変な連中見たよ~」
「あ、私も~」
続けて手を上げた少女はライドロンの屋根に上がりアンテナを弄るを止め、滑り台の要領でフロントを滑って着地し、先ほどの少年と並ぶ。2人で偵察していた際に見かけた奇妙な集団が目についていたようだ。藁にも縋る思いで光太郎は少年たちに駆け寄ると膝をつき、視線を合わせると少年たちを警戒させないよう、ゆっくりと尋ねるのであった。
「詳しく、教えてくれるかい?」
レジスタンス達と別れた光太郎達は少年たちから聞いた座標を元に、山岳地帯へと到着。
だがその地帯一体にも動植物の姿はなく、地面を覆っているのが砂から砂利へと変化しただけであった。
少年たちによれば、人1人が入るであろうカプセルを雑兵チャップ達が数人がかりで移送し、それに黒い衣服の女と、赤いロボットのような怪人が同伴していたらしい。
黒い女は間違いなくマリバロンだと踏んだ光太郎は慎二達を連れて直ぐに出発。山岳の麓に洞窟を発見し、そこにライドロンとロードセクターを待機させ、最低限の荷物を持って行動を開始した。
先導する光太郎に続き、凛、ガロニア、殿が慎二となり周囲に注意を払いながら進んでいく一同。既にここは…いや、怪魔界に乗り込んだ時点で敵の勢力圏の中だ。いつ発見されてもおかしくはない中での移動に細心の注意を払って歩むため、自然と全員が無口になる中、凛は背後でずっと下を向いて歩く少女へと呼びかける。
「…ねぇ、いつまでつけているの。それ」
「え…?あっ」
凛の指摘を受け、自分の顔を両手で触れたガロニアは、未だ自分がマスクとサングラスを着けていたままだとようやく気付く。慌ててマスクを外したガロニアは苦笑しながらポーチへとねじ込むと捲し立てるように口を開いた。
「そういえばもうあの方々とはお別れしたのでしたね。残念でしたわ、あのようにたくさんの方々から直接怪魔界の事をお話を聞けないなんて…あッ!?」
話続けるガロニアの方へと振り返ったと同時に未だ付けたままのサングラスを凛に強引に外され、思わず声を漏らした少女の目元は、うっすらとだが涙ぐんでいた。
「えっと、あの…これは…」
「…………………………」
どうにか言い訳を思い浮かべようとするガロニアだが、それよりも早く凛の手がガロニアの顔に向かって伸びていく。思わず目を瞑ってしまうガロニアだが、凛の指先が優しく、彼女の目元を拭っていく感触が伝わってきた。
「凛、様…?」
「あんまり溜め込むんじゃないわよ。貴方に取っては、少し辛かったんじゃないの?」
「っ…!?」
気付かれていた。だからこそ、気付かれないように目元と口を隠していたのに…
レジスタンスと出会った時。ガロニアは、ただ自分の身分を知られない為に隠れていただけではなかった。
彼等の現状こそ、今の怪魔界の実態なのだと。それは、クライシス帝国の独裁によるものだと、嫌でも思い知らされるからだった。
ごく最近に自分という存在を認識出来たとはいえ、自分の父が彼等を戦う道を選ばせてしまった事には、変わりはない。それも年端もいかない子供たちに武器を握らせるような現実に、ガロニアに直視することが出来なかった。
ガロニアが直接手を下した訳ではない。だが、それでも納得などしてくれないだろう。この世界を死に至らしめた元凶の娘である自分を…
そして、それ以上に悲しかった。
人との繋がり、互いに思いやる関係に憧れるガロニアに取って、自分達の世界で完全に敵対する関係にある、帝国とレジスタンスに。
そんな自分の嫌な感情を、どうして目の前の女性は読み取ってくれたんだろう。
彼女にとっても、自分は最愛の妹が浚われてしまう原因であるのに…
ガロニアの抱いた考えも読み取ったのだろうか。凛は彼女の身体を引き寄せ、優しく包み込む。
「全く、お嬢様ってのはなんでこんなのばかりじゃないのかしら…」
「凛…様?」
「あのね、ここまで来てもうアンタの責任だって言う輩なんて誰一人いないの。もう目的はただ一つ。桜を連れて帰って、実行犯に私達の妹に手を出した事を死ぬほど後悔させるの。いい?」
…後半は満面の笑みで言う事ではないなと思いながらも口にはせず、2人の抱擁を見守る光太郎と慎二は立ち止まって周囲を警戒する。
このまま急ごうというのも、野暮というものだろう。
だが、光太郎達にはそんな時間も許されることは無かった。
「キャアッ!?」
「何事ッ!?」
突如として光太郎達の足元に火花が走る。悲鳴を上げるガロニアの頭を両手で庇い、攻撃が飛んできたであろう方へと顔を向けると、そこには銃火器を構えたチャップ部隊と、スカル魔が崖からこちらを見下ろす姿があった。
「貴様達…ここから先には行かせんぞっ!!」
光太郎達が目指すはるか先…
巨大な滝の付近に立つ白い宮殿の奥に設置されている玉座。
そこに腰かける存在は純白のドレスに煌めくアクセサリーを身を纏っているが、その装飾全てを飲み込んでしまう闇を宿しているかのような深い黒々とした瞳を持つ女性。年齢は恐らく20前後だろう。
「…なにやら、外が騒がしいな」
冷たい声を放ち、ゆっくりと立ち上がる女性を制するかのように、背後に控えていたマリバロンは女性の肩に手を乗せ、再び玉座へと座らせた。
「どうやら曲者がこの付近に現れたようです。既に討伐へ向かわせておりますので、何一つ心配はすることはございません」
「ガロニア様」
マリバロンがガロニアと呼ぶ女性とはまさか…ということで次回に続きます
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