では、41話となります!
間桐光太郎が新たな姿『ロボライダー』となり怪魔ロボット ネックスティッカーを倒した同じ頃…
別世界 地球とは別の惑星に滞在している門矢 士は光太郎達の世界へと渡れない事に苛立ちを募らせていた。
星の神たる存在 葛葉 鉱太は自在に世界を渡り歩く士が向かえない世界もあるのかと疑問に思っていたが、それは士本人に原因がある訳ではなく、彼以外に異世界へ干渉する者の魔力によって自分が作った世界への道が塗りつぶされたと士は推測する。
このままでは自分のすべき『役割』を果たすどころか、光太郎達の住む世界を含め『2つの世界』が消滅する危機が迫っていると予感する士の言葉に鉱太は何か出来ることはないのかと尋ねると、士は限りなく低い確率で、世界への道を塞いだ者を光太郎達が倒すまでの時間を短縮させる方法を掲示。
それでも可能性はゼロじゃないと笑って見せる鉱太の顔を見て提案した方法を実行する為に、2人はそれぞれの行動を開始するのであった。
一方、帰宅した光太郎を待っていたのは義弟による会心の一撃と、家を飛び出す寸前に起きてしまった事で関係に亀裂を走らせてしまい、自分と目を合わせることなく去ってしまうメデューサだった。
ガロニアと改めて挨拶を交わした光太郎は連れ去られた桜の救出の方法を慎二や武と話し合う中、キングストーンの意思より彼女の今いる場所が明かされる。
そこはクライシス帝国の本拠地でもある怪魔界であった。
「で、カッコつけて乗り込むと言った手前、ちゃんと方法は考えてあるんだろうな?」
「大丈夫、万事抜かりないよ!」
胸を叩き、自信満々に答える義兄にホントかよと顔を顰める間桐慎二はこっちこっちと手招きと同時に外へ向かう光太郎の後に武、ガロニアと共に続く。
間桐邸の中庭へと移動した一同を待ち受けていたのは、ライドロンとブルーライトカット眼鏡を着用しているメディアであった。
「メディア殿、何時の間に…」
「桜さんが拉致されたと話を聞いて、直後にそこの能天気さんに言われてね…」
武の質問に答えたメディアはジロリと光太郎を横目で睨むと眼鏡のズレを直し、手にしたタブレット端末を操作し、とある画面を全員の目に映るようにかざす。
「これはライドロンの設計図の中にあったデータよ。文字自体が地球と怪魔界では異なるから解読に時間がかかったけど、どうやらライドロンには怪魔界へと移動できる手段があるようね」
「それは…本当なのか?」
「ライドロンが最高速度の1500㎞/hに近付くと中に組み込まれたディメンション・ダイブシステムが起動。予め位置が登録されている怪魔界へと空間転移できる…無論、理論上はね。でも、元々この怪魔界の住人が設計したものだから、その世界に向けて移動できると考えれば不思議じゃないわね」
思わず尋ねた慎二だが、ライドロンの設計図から必要な部品を探り出す彼女の言うことなら信用できるだろう。しかし、他文明の文字を解読したり、いつの間にか更なるハイテクや専門用語を使いこなしている辺り、魔術以外の知識をどんどん取り入れている彼女の知識量は計り知れない。
そんな考えを浮かべていた慎二はもう一つ、大きな問題を指摘する。
「移動する手段は分かった。けど、光太郎に取ってもっと大きな問題があるだろ?」
「慎二殿の言う通りだ。俺も聞いた話でしか知らないが、怪魔界の空は常に濃い雲で覆われて、太陽の光が差すことはほとんどないのだろう?」
太陽の光を受けられない。即ち、怪魔界で光太郎はRXへの変身が不可能ということだ。
前回、偶然にも怪魔界へ迷い込んでしまった時は敵である怪魔獣人ガイナギスカンの助けを借りることによって変身することが出来たが、今回も同じようにいくとは限らない。
桜を救出する際にはどうしてもRXの力が必要となる。
もしや以前と同じ無理な方法でRXへと変身する方法を使うのではないかと疑念する慎二の耳に車両のブレーキ音が響いた。
「トラック…?」
運転席を見ると見覚えのある人物がおり、光太郎は笑いながら駆け寄っていく。
「大門先生!ありがとうございます」
「ようやくシステムも形になって急ピッチで仕上げたよ。彼等の協力もあってね」
光太郎と握手を交わす大門明はトラックの荷台から小型クレーンで積まれている物資を下ろす協力者…衛宮士郎とアーチャーへを見ながら柔らかい笑みを浮かべる。
あの3人がそろってここに現れるということはもしや…と台車に乗せられ、シートで覆われている『それ』に慎二達は思わず目が向いてしまう。
「ありがとう衛宮君。それにアーチャーも」
「礼には及ばん。こちらが好きでやっていたことだからな」
「俺も同じです。それに、これが今の俺が全力で出来る事なんですから」
ツナギ姿の2人の言葉に力強く頷いた光太郎は目の前で鎮座しているモノを覆うシートを掴むと、一気に捲り上げる。
そこには、かつて光太郎を救う為にその身を犠牲にした戦友の新たな姿があった。
機体を包む白、赤のカラーをそのままにヘッド部分はジェット機の機首を彷彿させる形状となり、後部タイヤの左右には大型のブースターが追加され、より爆発的なスピードで走る事を期待してしまう。
機体のAI自身による設計とライドロンの製作時に使われたものと同様のレアメタルで覆われたことで、以前の最高速度以上のスピードにも耐えられる耐久性を誇るボディとなった、かつて文明破壊マシンの名のもとに開発されたマシン。
新生したロードセクター…その名は『ロードセクター・ネオ』
「お帰り…ロードセクター」
『お久しぶりです、マスター』
ゆっくりとボディを撫でる光太郎は自分に応えてくれたロードセクターの声を聞き、自分達の所へ帰ってきてくれた事を改めて実感する。その気持ちは慎二も同じであり、顔には出さないものの、光太郎とは反対の方へと移動し、ロードセクターのシートに触れていた。
そして、共に戦場を駆け抜けた兄弟…アクロバッターもロードセクターの帰還に祝福の言葉を送る。
『ヨクゾ戻ッテキタナ。ズット、待ッテイタゾ』
『ありがとう、これからも共に戦おう』
強化されたと同時に音声も流暢となった言葉を話すロードセクターや喜ぶ光太郎達の様子をただ1人、唖然として眺めていたガロニアは自分の知識の中にある乗り物が言葉を話すという概念を打ち壊す事にしばしの時間を要するのであった。
この場に遠坂凛がいたものならさらに時間がかかったのであろうと溜息を漏らす慎二はガロニアへアクロバッターやロードセクター達の説明をある程度済ませると話の軌道修正を図る為に試運転をしたくてたまらないという義兄の後頭部を手刀で叩き、意見を求める。
「確かにロードセクターが戻れば戦力の増強になるし、ライドロンの最高速度に付いて一緒にワープ出来るのはこいつぐらいしかない。けど、それだけじゃないんだろ?」
「慎二君の言う通り。ロードセクターは以前から問題になっているRXへの変身に対してもちゃんと考えてくれていたんだ」
論より証拠、と言って光太郎はガレージの扉を解放すると奥まで進んでいく。明かりも付けていない為、暗闇の中にいる光太郎の姿は外で陽の光を浴びている慎二達にはぼんやりとしか映らない。
こちらへと振り向いた光太郎は一定の動きと共にその身をバッタ怪人、そして仮面ライダーBLACKへと変身。意図が読めず首を傾げる慎二達を余所に、闇の中で複眼を光らせる光太郎はロードセクターに向かい叫んだ。
「頼む、ロードセクター!!」
『了解。ソーラーチャージシステム、作動!』
ロードセクターの後部が展開し、小型のパラボラアンテナが出現。電子音と共にアンテナの先が光太郎を捉えると、慎二や武が驚く間もなく赤い光のエネルギーを照射する。
エネルギーを受けた光太郎の赤い複眼とベルトのキングストーンがより強い光を放った直後、光太郎は天に向けて手を翳す。
その刹那、光太郎の姿はRXへと変化を遂げていた。
「これは…!」
「太陽の下にいないのに、RXになった…?」
「そう、これが新しいロードセクターの真骨頂!予め太陽光エネルギーを蓄えておく事によって、どんな状況でもRXに変身するエネルギーを供給してくれる『ソーラーチャージシステム』だ。これがあれば、怪魔界で太陽の光が差さなくても、俺はRXになることができる」
ガレージの外へと出てきた光太郎は驚愕する武と慎二へロードセクターに新たに組み込まれた新システムの説明し、黒い拳を強く握って見せた。このシステムが有れば例え夜であろうとRXの力を振るえ、光太郎自身がエネルギーを大幅に消耗する無理な変身もする必要が無くなったのだ。
だが、どのようなシステムにも欠点があることを慎二は思い知らされることになる。
「おい…さっき『予め蓄えていた』って言ったよな…」
「うん、それがどうかしたの?」
変身を解いた光太郎はやや目つきの悪くなった義弟の問いに首を傾げて答える。
「なら、1度の充電にどれくらいの時間を要するかは確認しているんだよな?」
「あ」
固まった表情のままギリギリとぎこちなく首を動かして大門達の方へと振り返る光太郎。反応は様々であり、慎二の指摘に腕を組んで下を向いてしまう明に、光太郎の仕出かした事に呆れるアーチャーと苦笑いしてしまう士郎。
中々言葉を出せない製作陣に代わり、システムの製作にも一枚噛んでいたメディアが口を開く。光太郎に冷たい眼差しを向けながら。
「…坊やの言う充電時間だけど、一度の変身に必要な時間は少なくても8時間は太陽光を収集する必要はあるわ。それと回数だけど…ロードセクターの動力も考慮して現段階では3回分のエネルギーを蓄えるのが限界。それに今使った分を充電する時間…今日中に出来るかしら?」
袖を捲り、腕時計を見ると正午過ぎ。日沈むまでの間に充電は不可能である時間となっていた。
「何無駄使いしてんだよお前はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
「ちょ、慎二君それは洒落にならないってッ!?」
おそらくガレージに置いてあったのであろう。機関銃を手に取った慎二は考えなしにエネルギーを消費させた義兄に向けて躊躇なく標準を定めて引き金に指をかける。忌々しくも飛び散る弾丸を全て避ける光太郎を狙い続ける慎二をオロオロしながらも止めに入るガロニアを遠目に見ながら武は明へロードセクターに関して他の機能に関して尋ねていた。
「なるほど、では以前と同じく機体自体を弾丸のようにして体当たりすることも可能なのですね」
「ああ。だが、一つ気になる事がある」
「気になる事…?」
ロードセクターに目を向ける明はAI自身による設計図によって機体を完成させた。開発者である自分すら驚く程の機体スペックに、開発中にはアシスタントの士郎やアーチャー達と共に感服しながらも組み立てたものだ。
しかし、その作業工程の中で唯一、明達に詳細が明かされないまま組み込まれたシステムが存在した。
「謎のチップ…?」
「うむ。ロードセクターのスーパーコンピューターの中枢に組み込んだものなんだが、中身のデータがまるで不明なんだ。どうやらロードセクターが何時の間にが組み立てたプログラムなんだが解析は一切不可能。しかし、取り付けることを強く願っていたのでデータを収めたチップを設計図通りに組み立てたのだが、それが良かったものなのか…」
無論、ロードセクターを信用していない訳ではないのだが、そのようなブラックボックスに近い機能を積んだままの機体を託す事は、マシンを取り扱う人物としては素直に納得できることではないのだろう。
「そ、それなら問題ありませんよ大門先生…」
息を切らせた光太郎が呼吸を整えながら武と明の間に現れる。遥か後方を見ると同じく息を切らせた慎二が倒れている姿を見るあたり、何とか逃げ切ったようだ。
「そのデータをロードセクター自身が作ったと言うのなら、俺達はロードセクターを信じるだけです。だって、仲間なんですから!」
なんとも単純な理由だろう。しかし、それでも納得し、信じてしまえるから始末に負えない。
「…そうだな。機体を信じないで、どうしてマシンを扱えるか…君に散々教えた事だったな」
「ええ!」
元気よく返す光太郎の姿に、ガロニアに介抱されている慎二は肩を竦める。乗り物相手にもはっきりと仲間と言い切るなんて、本当にこいつは…と苦笑する慎二にガロニアもふと笑うが自分に誰かの視線が向けられていることに気付く。
それは、どう声をかければいいか迷っている、衛宮士郎のものだった。
「えっと…私は」
「ああ、慎二から事前に聞いている。本当に、そっくりなんだな…」
ガロニアは桜から読み取った記憶から彼の存在を思い出す。家族と同様、それ以上に彼女の記憶に強く刻まれた衛宮士郎という存在。恐らく、彼女に取って彼は…
「…ごめんなさい。私が我が儘なばかりに桜さんが…」
「いや、誰かが悪いって訳じゃないよ。こうして、桜を助け出そうとみんなが一丸となっているんだからさ」
桜の記憶の中で浮かべていた笑顔の通り、本当に優しい人だ。この少年に今のような暗い顔をさせない為に、ガロニアは自分の決意をここに表明する。
「…ご安心下さい士郎様。桜さんはこの身に変えても必ずお救いしますわ!」
「え…?」
「怪魔界へと向かう手段がそろった今、後は桜さんを救うだけです。私には少なからず戦う力もありますし―――」
「駄目だ」
ガロニアの声を遮った慎二は自力で何とか立ち上がり、その理由を打ち明ける。
「お前を連れては行けない」
「な、何故ですか!?」
「考えても見ろ。僕らが乗り込もうとしているのはクライシスの本拠地だ。そんな所に皇帝の娘であるのお前が同行してるって周りに知り渡って見ろ。僕らは勿論、それ以上に敵の手に落ちている桜の危険は高まる一方だ」
「…っ!」
「私も間桐慎二と同意見だ」
慎二に同意したのは今まで黙って見守っていたアーチャーだ。ガロニアはどこか士郎と似ていると感じている事など余所に、アーチャーの言葉が続く。
「敵陣に乗り込む際に、わざわざ自分達を巻き込んでしまう爆弾を持って歩く必要はあるまい。君は、この世界で大人しくしているべきだろう」
「しかし…」
「本当に間桐桜を救いたいというのなら、何もするなと言っているのだ」
慎二以上に現実を突き付けられたガロニアの肩が震える。自分のせいで本来いるべき場所から遠のいた桜を命に代えても救い出したい。自分に唯一出来る贖罪すら絶たれてしまった自分は、どうすればいいのか…そんな彼女の肩を優しく手を置く存在が現れた。
「なら、その間は私が彼女を守りましょう」
紫色の美しい髪の持ち主、メデューサはその場全員に伝わるように声を発した。
だが、それは逆に言えば自分は怪魔界へ行かないと宣言したようなものだと腑に落ちないアーチャーは目を細くして再度確認する。
「…本気なのか?」
「ええ。私はここに残ります」
きっぱりと言い切ったメデューサの顔はどこか優れない。一通り今回の件を凛から聞いていたアーチャーは恐らくは自分には桜を迎えに行く資格はないのだろうとでも考えているのではと推測する。それも大きく彼女の心を占めている事なのだろうが、メデューサは今、必死に誰かと目が合わないように顔を逸らし続けている事にアーチャーはその理由を見つけてしまう。
なるほど、これは重症だと。
「…わかった。怪魔界には俺と慎二君、武君で向かう。ガロニアさんを頼む、メデューサ」
「…わかりました」
光太郎に顔を向けることなく返事をしたメデューサの横では、唇を噛みしめるガロニアが、誰にも悟られぬよう何かを決意していた。
「へぇ…まさか慎二がそんな事を言い出すなんてね」
「こちらのリスクを考えれば当然の事だろう。無論、巻き込まない為という本心を隠した上のことだろうがね」
「さっすが、大昔に友達だった事はあるわね」
「凛、何度も言う事だが――――」
「はいはい、分かっているわよ」
怪魔界への出発は翌朝にするという事でその場は解散となり、アーチャーは居候先である遠坂の屋敷に戻るとその日起きた出来事をマスターである遠坂凛へと報告。
空間を超える車と、それに追従できるバイクの話になった際には理解が追いつかない為に頭頂部から白い煙が上がっていたが、
『ふ、ふんッ!他の世界に行けるくらい何よッ!魔術協会には自由自在に並行世界に行けるお方がいるんだからねッ!?』
という友達の友達自慢のような言い分をする凛の姿に笑いを堪えるのが必死のアーチャーであった。
そして遠くない未来。凛の知る以外に世界を自由に渡り歩く人物の存在を知って混乱が頂点に達してしまうのはまだまだ先の話である。
「それで、明日の朝には光太郎さん達は出発する訳ね」
「ああ。取りあえずメディアやメデューサは見送りに行くという話だ」
「ふーん~…」
空返事と共に窓の外を見る凛の様子に何かを感じたアーチャーだったが、よもや管理人である彼女がそんなことを起こすまいと自分の考えを振り払おうとしたが、凛が次に口を開いた時には酷い頭痛に苛まれる事になるのであった。
翌日
ライドロンが最高速度に達するまでに十分な距離が必要となる為に冬木市のはずれにある採石場へと移動した一同は自分達の乗り込むマシンの最終チェックに追われていた。
前日に可能な限り太陽光を収集したが結局は変身に必要なエネルギーはチャージできず、2回分のエネルギーを宿したままのロードセクター・ネオに搭乗した光太郎は既に仮面ライダーBLACKへと変身。ライドロンの後を追う際に、アタックシールドを展開しても凄まじい速度に人間の身体では耐えられない事と踏んでの判断だ。
「頼むぞ、ロードセクター…」
そしてライドロンに乗り込んだ慎二と武は自分達の装備を確認し、コンピューターに記されている怪魔界のどこかであろう目的地を再度表示させる。後はこのままライドロンに運転を任せるだけであったが…
「武…」
「ああ、仕方あるまい」
顔を前に向けたまま背後に意識を向ける2人は光太郎からの無線に意識を切り替える。
『こちらの準備は大丈夫だ。ライドロンの方は?』
「全て良好。後は怪魔界までの特急に…いや、そうもいかないか」
軽口を閉ざしてしまった慎二は最悪だ、と言いながら無線を切ってしまう。
ライドロンの車線上に幾つもの魔法陣が出現し、見たことも無い怪人達が出現したからだ。
「くっそ、どこで嗅ぎつけやがった…」
昨日の自分達の会話を盗み聞きしたのか、それともこれから行う事をなんとなく邪魔しようとしているのか。どちらにしても訳の分からない言葉を放つ怪人が飛び上がってこちらに突撃してくるが、怪人の首を鎖が縛り上げ車線上から姿を消してしまう。
戦闘装束となったメデューサが首を押さえてもがく怪人を踏みつけながら光太郎に向けて叫ぶ。
「光太郎ッ!この場は私達が押さえます。今のうちに出発を…」
「メデューサッ!しかし―――」
光太郎の真上へと迫っていたステンドガラスのような模様が身体に走る怪人を攻撃魔術で吹き飛ばしたメディアは空中に浮遊し、次々と魔法陣を出現させて、光を飛ばしていく。
「グズグズしている時間なんてないわよッ!早くなさいッ!」
「ッ…!分かったッ!!」
アクセルグリップを何度も回した光太郎は自分も戦いたい気持ちを抑えて目的を優先させる。この場には姿を見せない、異世界の怪人を召喚する星騎士への怒りすらも抑えて…
運転席から次々と現れる怪人達と奮闘するメデューサとメディアの姿を眺めるしかない慎二は隣で小さくカチャリとした音…シートベルトを解除した武の方へ思わず振り返る。
「どうやら、この場を何とかせねばならないようだな」
「おい武、まさか」
「女性ばかり苦労をかけてはなるまい。桜殿を任せたぞ」
「…ッチ、気楽に言いやがって」
「ハハハ、心配無用。慎二殿『達』ならば問題ないさ」
「わかったよ。死んだら承知しないぞ」
「心得た。では…」
両手に刀を手にした武は車線上に出現したミイラのような大群へと駆けて行く。自分達の活路を開く為に戦いに挑む彼等の気持ちに応える為には、行かなければならないだろう。
決意した慎二はゲームセンターでしか触れた事の無い車のハンドルを強く握り、ライドロンのコンピューターに向けて叫ぶ。
「行くぞッ!ライドロンッ!!」
『了解。目的地、怪魔界っ!』
後輪が大地を削った直後に風を切って疾走するライドロンに続き、ロードセクターも後を追う。
計器に目を向ければ既に時速500キロを突破している。だが留まることなく加速し、戦っている武達は既に遥か彼方だ。
時速800キロを突破しても、重力に押されないライドロンの車内に驚きながらも、慎二は前を向いたまま後部座席に隠れている人物達に声を掛ける。
「いつまでそうしてるんだよ、お前ら」
「…あら、気付いて何て意外ね慎二」
「あの、えっと…」
「はぁ…」
声を聞く限り、隠れ潜んでいたのは遠坂凛とガロニアなのだろう。
武もライドロンを飛び出す寸前に誰かが潜んでいることは気付いていたが、今朝姿を見かけなかったガロニアはともかく冬木の管理人である凛までいるとは…
だが、管理人として、魔術師として以前に彼女は桜の実の姉だ。桜が拉致されたと説明した際には色々と罵倒を繰り返した後に冷静になってゴメンと謝ってきたが、彼女がこのまま大人しくしている訳はないとどこかで思ってはいたが…
後でたっぷりとアーチャーに絞られるだろうがそんな事は後の話。
「付いて来たからには覚悟しとけよ」
「誰に言ってると思ってるの?」
「覚悟なんて、最初から出来ていますわッ!」
「ああそうかい。光太郎、聞いた通りだッ!」
無線に向けて話すと、恐らくは困った顔を浮かべているであろう光太郎の声が響く。
『仕方ないね…行こう、みんなで桜ちゃんを助けにッ!!』
光太郎の叫びに全員が頷いた直後、ついに最高速度に達したライドロンのディメンション・ドライブシステムが作動し、異世界の扉を突破すると、扉が閉じ切る寸前にロードセクター・ネオが飛び込んだ。
2台のマシンが消えた後には、地表に走る3本の線から煙がゆらゆらと昇っているだけだった。
という訳で再登場のセクターさん、その他いろいろと機能が付いてますが疲労は後々ということで…
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