Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

40 / 112
皆様、『光の戦士』という曲をご存知でしょうか…

もしお持ちの方がいらっしゃったのなら、どこかのタイミングでかけて頂けたら臨場感あふれるかもしれませぬ…

てなわけでついについにの39話です!


第39話

「お兄ちゃーんっ!」

 

 

 

 

 

夕暮れの公園

 

ベンチに腰かけて学校の宿題を片付けていた光太郎は自分の名を呼びながら駆けてくる義妹へと目を移す。

 

友達と砂場で遊んでいたのであろうか。祖父がこっそりと買って来た新しい洋服がもう泥だらけになっている。出会った当初と比べてワンパクに育ったなと苦笑する光太郎はハンカチを手に取り、自分の前で立ち止まった桜の顔に付いた汚れを拭きとると、義妹の口からうー…と小動物のような声が漏れる。

 

 

「はい、綺麗になった。楽しかった、桜ちゃん?」

 

「うん!今日はね、うーんと高いお城を作ったの!」

 

「そっか、俺も見とくべきだったな」

 

 

視線を合わせる為に屈む光太郎に満面の笑みを見せる桜につられて口元が緩んでしまう。

 

人で無くなってしまった自分を、異形であるバッタの怪人となっても離れようとしなかった彼女がこのまま笑っていてくれるのなら、自分はいくらでも頑張れる。

 

決心を強める光太郎の耳に、先ほどとは打って変わりトーンの下がった声が届く。

 

 

 

 

「でもね。もうお城、作れないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「胸がすごく痛くて、もう何も作れないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

唇から一筋赤い液体を垂らし,目は虚ろとなった桜の顔にはまるで生気を感じさせない。

 

 

そして、胸に開いた大きな穴から絶えず血液が流れ続けていた。

 

 

 

 

 

 

「っ…!?」

 

 

 

 

 

 

後ずさった光太郎の背中が硬く、冷たい何かに当たる。

 

 

恐る恐る振り返った光太郎の視界に映ったのは、銀色の甲冑で全身を纏った人物が、表情がまるで読み取れない仮面越しに自分の心を揺るがせた言葉を再び口にしていた。

 

 

 

 

「だから言っただろう…」

 

 

 

 

 

「お前は自分も、お前の言う誰かを守れないほどに、弱いってなぁ…」

 

 

 

 

 

 

腹の底から凍える程の冷たい少女の声が、光太郎の顔を恐怖に歪ませる。

 

 

仮面ライダーとして生きる道を選んだ光太郎の信念を根本から揺るがせた存在は無言で剣を振るう。真横に飛んで何とか回避した光太郎だったが…

 

 

「あっ…あっ…」

 

 

アルスが剣を振るったその先で自分と共に戦い、守りたいと誓った人々が倒れている。生きている者など、いなかった。

 

 

 

「ハハハハ…素晴らしい!全く持って素晴らしい光景です!!!」

 

 

 

大切な人々の死に怯える光太郎の様子を狂喜の笑いと共に現れた新たな星騎士は、愛おしい我が子を抱くように、亡骸となった桜を手を抱えて光太郎の眼前まで迫り、やつれたと顔とは不相応に鍛え上げられた腕をゆっくりと上げていく。

 

ギチギチと関節を歪ませ、鋭い爪を持った腕が振り下ろそうとする先は、既に息をする事のない桜の首。

 

この星騎士は桜を殺しただけに飽き足らず、少女の亡骸まで辱めようと…違う、そうする事でさらに光太郎が苦しむと知っての行動だ。

 

 

 

「や、やめろ…やめてくれッ!」

 

懇願する光太郎の声に星騎士の口元が大きく歪む。

 

 

その声が聴きたかったのです…

 

 

言わずともそう顔が語ったと同時に、振り下ろされる星騎士の腕。

 

 

光太郎の前で音を立てて落下したソレは、何も言わない。言ってくれない。

 

 

大切な家族の『死』すら守れなかった光太郎は狂ったように笑う敵に立ち向かうことすら忘れ、ただ叫ぶことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあぁぁぁぁァッ!!!ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

 

「随分と豪快な起き方をするものだ」

 

飛び起き、息を乱す光太郎は周囲を見渡すと意識を失うまでいた地下駐車場ではなく、どこかの洞窟だという事に気付く。さらに自分は敷かれた毛布の上で横になっており、付近の小岩に見覚えのない男が足を組み、視線を光太郎に向けることなく手にした携帯電話を操作していた。

 

 

「こ、ここは…それに彼方は…?」

 

「…どこまで覚えている?」

 

「どこまで…じゃぁ、あれは…本当に」

 

 

質問に質問で返されてしまった光太郎は自分の目の前で桜が殺されてしまった光景が脳裏にはっきりと浮かんでしまう。

 

そこから自分の身に何が起こったかはおぼろげながらにしか覚えていないが、桜の死後、自分が感情を無くした状態で次々と敵である海魔と怪人を倒した感覚が甦ってきた。

 

桜の死がショックだった事が理由なのかは不明だが、あの時の自分は敵に対して何の感情もなく、何の躊躇もなく、倒し続けた。自分の手で、足で、次々と怪人を葬ったというのに何の感覚もなく。

 

そうプログラムの組まれた機械のように、目の前にいる敵として認識したものを倒していった。

 

 

あれは、本当に自分だったのか。

 

 

自分の手を平を見つめる光太郎の様子に構うことなく佇んでいた男はその後の説明を開始する。

 

 

「どうやら思い出したようだな。その後、意識を失ったお前を奴に運ばせ、ここに寝かせたということだ」

 

「奴…?」

 

 

男の視線は洞窟の出口へと向けられており、光太郎は立ち上がると出口の傍へと移動。

 

差し込んだ日差しに目を瞑り、自分のいた場所が冬木付近に位置する採石場だと把握する。そしてその中心とも言うべき広場の中央に、こちらに背を向けて立ち尽くす敵の姿があった。

 

 

「デスガロン…なぜ…?」

 

「気を失ったお前をここまで運んだのはあいつだ。そして、お前との決着を望んでいる」

 

「決着…」

 

 

そう。デスガロンは間桐光太郎を倒す為に生まれた。光太郎が気を失い、この採石場まで連れてきた後はクライス要塞との通信を完全に切り、エネルギー反応を感知させぬよう一部の機能を落とすまでに至っている。

 

自身の創造主が望む通り、光太郎との真っ向勝負を望むデスガロンは光太郎が目覚めるのを待ち続けていたのだ。

 

例えクライシス帝国への反逆行為だとしても、デスガロンの決意は揺るがない。創造主と、自身の為に。

 

 

しかし、再戦を望まれている光太郎の意思は大きく揺れていた。

 

 

もしあの時のように感情を無くし、力のままに戦ってしまったなら。

 

視界に入る者全てを敵としてしか認識しない自分になってしまったら…

 

 

いや、自分が抱いている不安はそんな事ではない。

 

 

光太郎の心を締めているのは、目の前で家族を殺されてしまった自分への絶望。

 

 

ゴルゴムとの戦いも聖杯戦争も、光太郎に取って二度と失いたくなかった存在…間桐家の家族が犠牲になることはなかった。

 

 

そして光太郎自身も忘れていた。戦いの中ではこうもあっさりと命が失われてしまうことを。

 

 

あの時、ファミレスに同伴したアルスの言った言葉が光太郎の脳裏を過った。

 

 

 

『お前がお前の言う大切な人を目の前で無惨に殺されたら、お前は今まで通り戦えるのか?』

 

 

 

 

答えられなかった回答が今ならはっきりと浮かんでいる。

 

 

大事な家族を失った今、自分に戦いなど―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「無様だな」

 

 

 

 

 

 

突如聞こえた声に思考を中断した光太郎が振り返ると、目覚める寸前まで自分のそばで待機していた男がいつの間にか背後に立っていた。侮蔑するような冷たい視線を向けて。

 

 

「…あの時から多少はマシになっていると思い日本に来たが…どうやら見込み違いだったようだな」

 

「何を言って…」

 

 

訳のわからない男の言う事に反論しようとした光太郎だが、今になって男の声に聞き覚えがあると気付き、さらに叱咤するその威圧感が男が何者であるかを理解させる材料となった。

 

 

『仮面』がなくとも、彼が誰であるのか理解するには、それだけで十分だった。

 

 

 

「彼方は…あの時の」

 

「俺の事などどうでもいい。今は、お前の話だ」

 

 

光太郎が一度命を落とした時、魂に活を入れてくれた10人の戦士達。いつか出会える日があるのなら感謝を伝えたいと考えていた光太郎の前に、その1人が存在している。だが男…風見志郎は光太郎の言葉を遮り、彼が今最も聞きたくない事実を突き付けようとしていた。

 

 

 

「余計な時間を取られないようにはっきりと言ってやろう。今のお前は誰かの死を言い訳に、戦いを放棄しようとしているに過ぎない」

 

 

「そんな事…っ!」

 

 

言い返せなかった。

 

今し方光太郎が考えていた事は、桜を守れなかった自分には戦う事など出来ない。言い方は違えど、志郎の言った内容と一致するためだ。反論できず、拳を強く握ることしか出来ない光太郎へ志郎の容赦ない指摘が襲う。

 

 

「俺達は確かに常人にはない力を持っている。だが、ただそれだけの事だ。お前は自分が戦っていれば、誰一人として死なないとでも考えているのか?」

 

「………………」

 

「だが、戦いから逃げることなど許されない。お前が選んだのは、そういう道なんだ」

 

「なら…」

 

 

光太郎は目の前に立つ志郎の胸倉を両手で掴んでいた。まるで縋るかのように。

 

 

「なら俺はどうすればいいんですかッ!?桜ちゃんを殺されて…ッ戦うとしても、ただ相手を殺す事だけを優先させてしまうようになってしまった俺は…どうすれば…」

 

 

涙を流し、胸の内を吐露する光太郎は感情のままに泣き叫んだ。慎二やメデューサがこの場にいたのだとしたら、また感情を抑え強引に笑うかもしれない。だが、この男の言葉に抑圧されていた悲しみに火が付いたように爆発してしまった。

 

 

自分が頑張っていれば、みんなを救える。家族だって。仲間だって。顔も名前も知らない誰かだって。

 

 

1人で無理でも、メデューサや慎二、桜達と協力すればなんとかなると。

 

 

しかし、光太郎へ火星の騎士が言い放った言葉が彼を焦らせ、木星の騎士によってその信念は砕かれた。

 

 

さらには自分ですら制御できない力に翻弄され、今のままでは守るべき存在も傷付けてしまうかもしれないという恐怖に駆られてしまう。

 

 

そして、打ち明けるべき相手の伸ばした手を振り払ってしまった光太郎には、その罪悪感から頼る事すら許さないでいる。もはや、光太郎には志郎へ縋るかのように叫ぶことしか出来ないでいた。

 

 

光太郎の慟哭を黙って聞いていた志郎は今も自分の服を掴んでいる手に、自身の手を掴み…

 

 

 

 

「知らん。そんな事は、自分で結論を出せ」

 

 

 

光太郎の手を、あっさりと振り払った。

 

 

 

「その結論を出さないようであれば、これから先の戦いの中で犠牲になる人々を、お前は『呪い』へと変えてしまう」

 

「のろ…い…」

 

「そして、その時は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は戦うことも、仮面ライダーを名乗ることもできないだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言い切った風見志郎は立ち尽くす光太郎の横を抜け、振り返ることなく去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライス要塞

 

 

 

 

 

その一室から絶えることなく肉を切り裂く不快な音が流れ続けていた。

 

 

「おのれ…おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぃッ!!」

 

 

自身の喉をすり潰すかのように怨嗟を繰り返し口にするジュピトルスは召喚した海魔を短剣で突き刺した。何度も、何度も。

 

再生する機能などとうに果て、咆哮すら上げる事の無くなった海魔の亡骸を弄ぶジュピトルスの頭に浮かぶのは、自分の召喚した海魔や怪人達を一方的に蹂躙した敵の姿。

 

これまでジュピトルスの手によって心を殺されてた者は抗うことなくすり潰せてきた。

 

だというのに、あの者は何だ。

 

クローンとはいえ、心の支えとなっている身内を殺したと言うのに。なぜ立ち上がったのだ。

 

クライシス帝国の情報にはない、新たな力を発揮するなど。

 

心が折れないなどあり得ないはずなのだ。そんな事は許されない。

 

 

自分の手に掛かった者は、苦しみの果てに死ぬべきだと言うのに…

 

 

「間桐…光太郎オォォォォォォォォォォッ!!」

 

 

雄叫びと共に海魔の身体を2つに裂き、返り血を浴びるジュピトルスは息を整えると、海魔へ八つ当たりをしている間に部屋へと入った人物の方へと顔を向ける。

 

海魔へ光太郎への怒りをぶつけた事で気を晴らしたのか、声は穏やかなものへと変わっていた。

 

 

「おや、これはボスガン。何時の間にこの部屋へ?」

 

「ずいぶんと荒れていたのでな。いつ声を掛けるべきか迷っていた」

 

「これはお見苦しい所を。して、この部屋に入ったということは何か用があってのことなのでしょう?」

 

 

顔に付着した海魔の血液を拭き取ることなく話を進めるジュピトルスに戦慄しながらも、ボスガンは内心でニヤリと笑う。この男は確かに危険過ぎるが、利用すれば大きな力になる。上手くすれば他の隊長おろか、あのジャーク将軍を今の座から引きずり下ろすことさえ可能なはずだと。

 

 

「私の配下が、間桐光太郎の居場所を突き止めた」

 

その名を出した途端にジュピトルスの表情が凍る。ギチギチと手にした短剣を握る力が強まり、また先ほどのような事を目の前で起こされてはたまらないとボスガンは捲し立てるように話を続けた。

 

 

「そ、それだけではない。ジュピトルス殿の命令を無視したデスガロンまで一緒にいるようなのだ」

 

「はて、なぜデスガロンが間桐光太郎と共に行動しているのでしょうか?」

 

「おそらく、ガテゾーンが無駄な知識を与えた事により奴めとの決着を優先させているのだろう。折角乱入者によって意識を失ったRXに止めを差そうとしないなど、まるで理解出来ん」

 

 

デスガロンの名を出したことで怒りを鎮めたジュピトルスの様子を見てなんとか話を進めていくボスガンの言い分に、ジュピトルスはニヤリと笑う。何か、面白いおもちゃを見つけたかのように。

 

 

「ボスガン…よろしいのですかな?同僚の部下にそのような言い方をして」

 

「フン…所詮奴など誇り高いクライシスの貴族である私の足元にも及ばない存在だ。生物どころか、ガラクタに過ぎん者が隊長を務めるなど、同じ隊長である私にとっては屈辱でしかない」

 

「ふ、フフフフフフ…いい、実によいですね彼方」

 

「そこでだ…憎きRXを倒し、裏切り者のデスガロンとあの気取り屋のガテゾーンの息巻く姿を見る方法があるのだが…」

 

「それは興味深い。詳しくお話願いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む…」

 

 

今まで余分なエネルギーの消費を抑える為に動かずにいたデスガロンの目に光が宿る。自分に近付くエネルギー反応を見て、ようやくその気になったのかと振り返る。

 

デスガロンから10数メール先に、仮面ライダーBLACK RXへと変身した間桐光太郎がゆっくりとした足取りで接近していたのだ。

 

 

「どうやらあの時と違い、意識ははっきりとしているようだな」

 

「…ああ」

 

覇気なく返事をする光太郎の様子に未だデータ通りの力を発揮できない状態であると察しながらも、デスガロンは背部から2本の鎌を手に取り、悠然と構えを取る。

 

敵に迷いがあろうが、自分の前へと姿を現したからには全力で戦う。それが一方的に通信を切ってしまった創造主に対するせめてもの献上すべきことであると武器にエネルギーを伝わせていく。

 

 

対する光太郎はデスガロンの読み通り、迷いの中にあった。

 

風見志郎の言った自分が出すべき答えも、『呪い』の意味も解らないまま、変身して敵の前に立っている。

 

 

 

先駆者が言うように、自分には戦いから逃れることが許されないのなら、やはり戦いの中で見つけるしかない。

 

 

(こうして、重い気持ちで戦うのは、あの時以来だ…)

 

不意に思い出したのは、自分が初めて仮面ライダーの名を名乗った時。

 

祖父である間桐蔵硯の真意を聞いた直後にゴルゴムの放った刺客により命を落としてしまった。あの時も、自分に覚悟があれば助けられたのにと後悔の念が甦る光太郎だが、ふと違和感を覚える。

 

 

(いや、俺はあの時、なんで戦えたんだ…?)

 

 

喉に魚の小骨がつっかえたような妙な感覚。しかし、目の前の敵はそんな都合など構わずに攻撃を仕掛けてくる。光太郎はその違和感をぬぐえぬまま、デスガロンが振り下ろした鎌に向かい拳を付きだそうとした。

 

 

 

 

その直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

「ヌオォォォッ!?」

 

 

光太郎とデスガロンを襲う突然の爆撃。

 

絶えることなく降り注ぐレーザーやミサイルの雨が放たれる方へダメージを負いながら複眼を赤く光らせ、マルチアイを発動させた光太郎が捉えたのは、クライシス帝国の怪魔ロボットだった。

 

だが、光太郎以上に驚きを隠せないデスガロンは自分達に攻撃を続ける者の名を叫ぶ。

 

 

「どういうつもりだネックスティッカー!お前は怪魔界の警備を任されていたはず…」

 

 

「ウラギリモノ…ハカイスル」

 

 

「なっ…!?」

 

 

さらに攻撃を強める怪魔ロボット ネックスティッカーは万力のような腕に装備された追加銃火器や脚部からミサイルを次々を発射し、光太郎達に防御する暇さえ与えない。

 

その光景は、クライス要塞にも映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

「ネックスティッカーッ!?なぜ奴が地球に…」

 

「おやおや、あの機械人形は彼方の作品でございましたか?」

 

「お前…」

 

「偶然にも間桐光太郎めを見つけ、異界から怪人を召喚してぶつけようとした所、まさか怪魔界にいる彼方の部下を引き当ててしまうとは…そう言えば、怪魔界もこの地球では『異界』でしなたぁ…」

 

 

モニターに映る自分の部下の姿に驚くガテゾーンの背後から手に不気味な本を手にしたジュピトルスが現れる。さも全くの偶然だと言い張るジュピトルスにワナワナと身体を震わせるガテゾーンは怒りを隠すことなく問い詰めた。

 

 

「ふざけるなッ!!しかもあの様子…俺のコンピューターだけに飽き足らず、ネックスティッカーの頭脳まで細工しやがったなッ!?」

 

「なんの事やら…私の召喚に応じた者は、無条件で私の僕となるのです。それに、あの攻撃力なら弱った間桐光太郎と、奴目を匿った裏切り者も合わせて処分が出来るのですから正に一石二鳥!彼方がそのように怒る理由が全く分かりませんなぁ」

 

 

いけしゃあしゃあと語るジュピトルスに対し、回路がショート寸前まで怒りを込み上げるガテゾーンだが、監視モニターを見た限り宿敵のRXとの決着を優先させるために助けた事は事実。ここでジュピトルスを攻め立てることは出来なかった。

 

 

怒りに震えるガテゾーンの姿を気付かれぬようほくそ笑んでいるボスガンの姿を、情報収集を行っているマリバロンは見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発の中、舞い上がる白煙により太陽光を受けられずにいる光太郎は再生能力を発揮することが出来ず、徐々にダメージを蓄積していき、ついには膝を着いてしまう程までに達していた。

 

 

(なんて、攻撃だ。ガンガティン以上の火力を持つ敵がいるなんて…)

 

 

これに対抗するには先の戦いで光太郎が新たに手にした力を使うしか方法はない。だが、あの時と同様に、目に映る者全てを敵としてしか認識できない機械となったら…

 

 

その不安が光太郎の動きをさらに鈍らせしまう。

 

 

「RXッ!!避けろッ!!」

 

 

デスガロンの忠告も遅く、光太郎の四方へと発射されたミサイルが爆発。火の海に飲まれた光太郎は遂に地へと伏してしまった。

 

 

「がぁ…あ…」

 

 

震える手でどうにか立ち上がろうとするが、まるで力が入らず、身動きの取れない様子を嘲笑う声が攻撃を続けるネックスティッカーのスピーカーから響く。

 

 

『ハハハハ…見事です。さぁ、私の思い通りの死を迎えない者に情の欠片もいりません。最大出力で止めを刺すのです!!』

 

 

その不快な音が止むと同時に、ネックスティッカーの胸部が左右に展開。収納されていた巨大な銃身が姿を見せる。ネックスティッカーのエネルギー3割を消費して放つその攻撃はクライス要塞を飛行不能にするほどの威力を誇っている。

 

既にエネルギーのチャージが完了し、膨大なエネルギーの束が光太郎に向かい照射される。

 

 

未だ攻撃が届いていないというのに、凄まじい熱量によって身体のあちこちから悲鳴が上がる。次第に痛みは広がり、エネルギーの塊は光太郎を飲み込もうと目前まで迫っていた。

 

 

 

 

(ここ、までなのか。答えを見つけないまま…俺は…)

 

 

桜ちゃんのいる場所に、向かうのか…

 

 

そう諦めかけた光太郎の眼前に、何者かの影が覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ・・・オアアアアァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

光太郎の前に立ったその者が手にした武器は、その熱によってあっさりと蒸発した。

 

強敵との戦闘を想定し、これまでにない程に鍛えられた強度を持つ銀色の装甲はところどころ剥がれ落ちていった。

 

元となった敵への対抗心から似せて作られた緑色の複眼は片方が吹き飛び、もう一方は亀裂が走ってしまった。

 

 

ネックスティッカーの放ったエネルギー砲が消えた後、光太郎を庇ったデスガロンは音を立てて大地へと沈んだ。

 

 

 

「デスガロン…なんで」

 

 

理解できない。自分を倒すべき敵として買っていたようだが、このように守られるほどの価値など、自分にはない。敵であるにも関わらず、またこうして自分のせいで命を落としてしまうのかと自分を責めようとした光太郎に、デスガロンの声が届いた。

 

 

「俺は…き、様を倒す為に生まれた…それが、同じ怪魔ロボットであるネックスティッカーであって、も…許されない、か、らだ」

 

 

ノイズ混じりとなってしまったデスガロンの声に、光太郎は倒れたまま身を捩りながら近づいていく。

 

 

「それでも、俺なんかを庇う必要なんて」

 

「貴様が…気にする必要は、な、い。何故なら…俺の身体が、破壊されても、データは生き残るから、だ」

 

「え…?」

 

「俺達怪魔ロボットは、敗れ、る寸前に戦闘データを全て、ガテゾーン様の元へ、送っている。そのデータを基にし、さらに強力な、怪魔ロボットが、生まれるのだ…」

 

 

 

 

 

 

 

「だから、俺達のデータは…記憶は…決して…死なない…」

 

 

 

「…っ!?」

 

 

 

後頭部をハンマーで殴られたような衝撃が光太郎を襲う。

 

デスガロンの言うデータは、人間の言う記憶。さらに言うならば、思いだ。

 

身体は滅びても、思いがある限り、それは生き続ける。

 

それは、光太郎自身が強く思い知っていることであったはずだ。

 

 

だと言うのに、なぜ忘れていたのだろう。

 

 

養父が目の前で惨殺された時も、祖父が消滅した時も、光太郎は託されたのだ。

 

 

死んだ人間の思いを継げるのは、今を生きる者しかいない。

 

それを、死んだ者を言い訳ににして放棄する訳には行かないのだ。

 

 

 

「そう…だ。そうだったんだ」

 

 

震える手で身体を起こす光太郎は、風見志郎の言った言葉をようやく理解する。

 

 

「誰かの死を言い訳にするなんて…いけなかったんだ。戦えない理由を守れなかった人に押し付けて…原因に仕立て上げて…誰かの死に縛られてしまうという…呪いにしてしまうところたったんだ」

 

 

誰よりも優しかった妹を、呪いなどにして堪るか。

 

 

膝に手を付いて、再度武器を構えるネックスティッカーを見つめる光太郎の眼は強い光を放っている。

 

 

 

 

そして、もう一つの結論を伝えなければならない。

 

 

あの時、放心状態になった自分の代わりに、力を与えてくれた存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『きづいていたか…あの時、私がお前へ力を与えていたことを』

 

「なんとなく、だけどね」

 

 

かつてRXとなるきっかけとなった精神世界。

 

 

人間の姿である間桐光太郎と、BLACKの姿を借りたキングストーンの意思が、そこにはあった。

 

 

 

『あの姿は、かつての世紀王の1人がもう一人の世紀王を倒すために生み出した姿を模倣したもの。人の感情を一切捨て、全てを滅ぼす為に』

 

「桜ちゃんを殺された時、悲しみの感情に縛られてしまった俺を動かすには、その方法しかなかった…そうなんだろ?」

 

 

無言で頷くキングストーンの意思は、光太郎の前に手を翳す。そこには様々な色を宿す球体が現れ、光太郎の前へと移動する。

 

 

 

『それはお前が持つ感情…人間で言う喜怒哀楽を司るものだ。それを破壊すれば、いつでもお前はあの力を振るうことができる』

 

 

確かにあの力は凄まじい。これから先の戦い…クライシス帝国だけでなく、星騎士達と戦う際にも、必要になるかも知れない。だが、光太郎の回答は…

 

 

 

 

 

「ありがとう。でも、俺は感情を捨てない。人としての身体を失ってしまった俺だけど…感情だけでも、心だけでも、人間でいたいんだ」

 

『…だが、それではお前はこれからも苦しむこととなる。妹を失ったような苦しみが、再びお前を縛るってしまうぞ?』

 

「いいんだ。俺が誰かの死を悲しむということは、その人の事を思える、何よりの証拠だから」

 

 

これまで命を散らしていった大切な人達の姿が、浮かぶ。

 

 

「それが痛みであるのなら…俺は痛いままで…いいんだ」

 

 

 

 

だからこそ、自分は家族と、大切な人々と過ごせたのではないか。

 

自分は捨てない。かつての世紀王が捨ててしまった人としての大事なものを。

 

 

それが、自分が『仮面ライダー』として選んだ道なのだから。

 

 

 

 

強く決心した直後、暗闇だったその空間が鮮やかな橙色へと染め上っていく。

 

 

 

「これは…」

 

 

 

 

 

 

『悲しみに囚われるのではなく、乗り越えていく、か。本当にお前はこちらの予想を超えてばかりだ』

 

「キングストーン…」

 

『良いだろう。お前なら使いこなせるはずだ』

 

 

 

 

 

『悲しみのその先にある、この力を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!」

 

 

あれは、現実。それとも…だが、考えるのは後の話だ。

 

 

今、こちらへ再び銃火器を向ける敵に対し、ついに立ち上がった光太郎は今度はデスガロンを庇うように前に立つ。

 

 

「デスガロン…お前の言うデータ。しっかりと焼き付けておけ」

 

 

 

言うと同時に光太郎は眼前で両手を交差。拳を強く握ったまま、左右へと振り下ろす。

 

 

 

 

同時に腹部のサンライザーから激しい光を放ち、光太郎の全身を包んでいく。

 

 

 

迸る光の中で、サンライザーはいくつもの歯車を宿すベルトへと変化し、歯車の回転に伴い光太郎を包む白い光が橙色の光へと変化。

 

 

 

 

光が消失した時、新たな姿となった光太郎が、そこにいた。

 

 

前回の戦いで持ちえなかった光太郎自身の意思を宿しているかのように赤く輝く複眼を光らせ、その姿の名を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は悲しみの王子――――」

 

 

 

 

 

 

「RXッ!!ロボライダーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウゲキ…カイシッ!!」

 

 

ロボライダーとなった光太郎に向かい、ネックスティッカーは再度嵐の如く銃火器を斉射する。

 

だが、モーターの駆動音と共に歩む光太郎はネックスティッカーの攻撃を一切寄せ付けず、爆発の中を進んでいく。

 

 

ボディにレーザーやミサイルが着弾しようと、傷一つ付かず、ついには距離が2メートルを切った直後、ネックスティッカーは腕からチェーンソーを出現させ、光太郎へと斬りかかる。

 

回転する刃が光太郎の身体に触れた途端に火花が散る。しかしそれによってダメージを受けたのはネックスティッカーのチェーンソーのみであった。

 

細かな刃が次々と剥がれ落ち、光太郎の身体は汚れすら付いていない。

 

動揺するネックスティッカーに対し、光太郎は胴体にめがけ、勢いよく拳を叩き付けた。

 

 

「…………!?!?!?!?!?!」

 

 

追加武装を着装した都合上、ガンガディンより重量を上回るはずのネックスティッカーが数十メートル先にまで吹き飛ばされてしまう程の威力。

 

 

どうにか立ち上がったネックスティッカーは再度、エネルギー砲を展開しようとするが、先程の攻撃により胸部がひしゃげてしまい、銃身を展開することができない。

 

 

強引に胸部を展開しようとアームでこじ開けようとするが、光太郎はそのような隙を逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

胸の前で両の掌を向い合せる形で翳し、その間に発生した白色のエネルギーが右手の中へと宿っていく。

 

 

幾層もの光の線となり、右手の中で形となったそれはリボルケインの変形、凝縮されたレーザー銃。

 

 

光太郎はその武器の名を呼ぶと同時に、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

「ボルテックシューターッ!!」

 

 

 

放たれた一筋の閃光はネックスティッカーの胸部を貫き、同時に胸部と背部から火花を散らす。

 

 

 

光太郎は肘を曲げ、ボルテックシューターの銃口を上へと向けるとゆっくりと反転する。

 

 

 

 

 

「お、俺は…こんなところで…なぜ…ガテゾーンさまああぁぁぁぁぁぁぁッ!!?!!」

 

 

 

 

最後に自分を取り戻したネックスティッカーは叫びと共に爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

「デスガロン…」

 

 

「み、せて貰ったぞ…貴様の…新たなデータ…」

 

 

変身を解除し、人間の姿へと戻った光太郎はデスガロンの横で膝をつく。先ほどより複眼に灯った光は弱く、音声もさらに擦れている。

 

 

「礼を…言わねば…同胞と、いえ、ど…あのような輩に、操られる者など、見たく…」

 

「ああ…俺だって許せないさ。桜ちゃんの仇を…」

 

「その、情報は、まちが、い…だ…間桐、桜は、生きて、いる…」

 

「な、何だってッ!?それは本当なのかッ!?」

 

 

桜は生きている。さらに詳しく聞こうとデスガロンの肩を掴む光太郎だったが、途端にブツリ、という音と共にデスガロンの目から輝きが消失。

 

 

自分との正面から戦いを望んだ怪魔ロボットは、その『命』を全うしたのだった。

 

 

 

「…ありがとうデスガロン。お前の思いを引き継いだロボットが現れたのなら、俺は全力で戦おう。けど、決して俺は負けない。今を生きる人と、死んでいった人々の思いを守る為に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気が付いたようだな…」

 

 

崖の上から見下ろす風見志郎は、敵であるデスガロンに弔いの言葉を贈る後輩の姿を見て、そう呟いた。

 

 

「だが、これから先も選ぶ事を強いられる。お前の戦いは、まだこれからだぞ」

 

 

 

「…仮面ライダーBLACK RX」

 

 

 

後輩の名を呼んだ風見志郎はヘルメットを装着し、バイクを駆って走り去っていくのであった。

 

 




なんでしょう、木星の人を書いていると何故かテンション上がっている自分がいる…いえ、別に似たような性格でも性癖でもないんですがね…


お気軽に感想等頂けたら幸いです!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。