では、第3話です。
全貌を露わにした異次元からの侵略者。
その名はクライシス帝国。
戦いを挑む間桐光太郎だったが敵の放った兵器により戦う力を奪われ、変身すら不能となってしまった。
光太郎はクライシス帝国の地球侵略部隊最高司令官であるジャーク将軍に地球侵略に協力するよう誘われるが断固拒否。
自分の言いなりにならない光太郎を用済みと判断したジャーク将軍は光太郎を宇宙空間に放り出したうえに、光太郎の身体に宿るキングストーンごと腹部を光の槍で貫いてしまう。
だが、絶体絶命となったその時でも生きることを諦めようとしない光太郎の身体を太陽の光が包む。
光太郎は全身に傷を負いながらも地上へと生還し、仲間達に無事発見されたのであった。
「…もう一度言ってみなさい。彼が、あのような重症を負った原因を」
間桐邸で重症の光太郎へ治癒魔術を施したキャスター…現在名、葛木メディアは客間でテーブルを挟み向かい側のソファに腰かけている間桐慎二の発言を訝しみ、睨むように問いかけた。慎二も負けじと眉間に皺を寄せ、ドスを利かせるように回答する。
「ならもう一度だけ説明するよ」
その空気に飲まれ、不安な表情で桜が見守る中、慎二が放つ言葉は…
「全身に残る火傷の原因は、宇宙から地球に落下する際の摩擦熱によるもの。アイツは生身で大気圏を抜けてきたんだよ」
沈黙が間桐家を支配した。
(いやいやいやいやいやいや…ありえないでしょう?)
部屋の隅でアーチャーと共に事態を見守っていた遠坂凜は妹の義兄が何を戯けた事を言っているのかと全力で突っこみたくなるが、隣を見れば自分のパートナーが真顔で静観しているため自分だけ声を大にして言い出す真似など出来るはずがない。
懸命に遠坂たる者常に優雅たれと自己催眠をかけるように心の中で唱え続ける中、メディアの質疑は続く。
「…そんなことを信じられると思っているの?」
声を低くするメディアの言葉にウンウンと頷く凜の姿を見て悟られぬ程度に溜息を付くアーチャーは神代の魔術師に問い詰められても臆することなく答えようとする慎二の後ろ姿を見る。
「なら、確実に納得できる答えを言ってやるよ」
ゆっくりと息を吸い、メディアから目を逸らすことなく慎二の口から出た答えは…
「光太郎だぞ?」
「そう、なら仕方ないわね」
間を開けることなく納得の意を見せるメディアに凜は今度こそ我慢が出来ず大声を室内に響かせるのであった。
「おかしいでしょおォォォォォォッ!?」
もはや悲鳴に近い声を上げた凜へ一同の視線が注がれる。その姿に呆れた様子で顔を向ける慎二とメディアの視線がさらに凜を刺激し、彼女が押さえていた理性を振り払う直前にアーチャーが頭を押さえ、誰もが抱くであろう質問をぶつける。
「凛が疑問を抱くのも真っ当なことだ。いくら奴が…間桐光太郎が規格外の力と肉体の持ち主だと言っても、生物が宇宙から地球へ落下し、生きているなど到底信じられる話ではないからな」
子供をあやす様にポンポンと頭を軽く触れるアーチャーを上目遣いで睨みながらも自分の訴えたい心情を代弁してくれたことに目を逸らしつつ感謝していると、メディアの深いため息が耳に届いた。
「確かに。むしろあの一言ですんなり受け入れてしまった事に自分でも不思議なくらいよ。けど、ここにいる全員がそう言わてしまったら納得してしまうのではないかしら?」
全く魔術師とは思えない考えだと思いながらもメディアはその場にいる全員を見回す。異を唱える者は、いないようだ。
凛も1人だけ大げさに騒いでしまったことが今になって恥ずかしくなってしまう。考えてみればあの人物は単純に戦闘能力が高いというだけでなく様々なありえないことを…条件がそろっていたとは言え、聖杯を浄化しただけでなくサーヴァントに命を与えたという『奇跡』すら起こした男だ。
その彼が今更どんなことを起こそうが不思議ではないのだが、それを受け入れられるかは別の話だ。
もうこの先何があっても驚いてやらないと凜は固く誓うが、残念ながらその決意は後日脆くも崩れ去るとはこの時夢にも思っていないだろう。
「ま、まぁ光太郎さんは命には別状はないことがはっきりしたことはいいことだよな、桜?」
「あ、はい。でも、あれから2日も経過して目が覚める様子が…」
空気を変えるべく衛宮士郎は光太郎が重症を負いながらも奇跡的に生き残っていることへ安堵したことを桜へ同意を求めるが、その桜は意識を回復しないことへの不安を口にする。
光太郎は持前の回復力に加えメディアと桜の治癒魔術によって表面的には傷一つない状態にある。しかし、発見されてから一向に目を覚ますことなく眠り続けていた。
「…脳に異常があるか、医者に診てもらった方がいいかもしれないわね」
「しかし、あの光太郎さんをあそこまで追い詰めるような連中に生きているとばれたら…」
「ああ。間違いなく狙ってくるだろう。いや、向こうが襲撃に来るのも時間の問題だ」
光太郎の様態も考え、より精密な検査を推奨するメディアの意見に凜とアーチャーは待ったをかける。事実、光太郎を重症に追い込んだ敵が存在するならばいつ現れてもおかしくない。ならば彼自身が目を覚ますまで待つしか彼等には手段がなかった。
「そういえば、ライダー…いや、メデューサは何処にいるんだ?」
「はい、『姉さん』なら光太郎兄さんの部屋にいますよ。ずっと、看病してくれているみたいです」
「ッ!?」
ただ1人姿を見せていなかったメデューサの居場所を聞く士郎に答えた桜の言葉にある単語に凛は強く反応してしまう。しかし、未だに続く盟約上この場で詳しい話を聞き出すわけにいかず、頭を抱える姿を見てアーチャーは、今度はワザとらしく溜息を付くのであった。
「光太郎…」
自室のベットに横たわり、定期的に呼吸をする光太郎の名をそっと呟くが反応は示さない。ベットの横に設置された椅子に腰かけるメデューサはただ、光太郎が自ら目を開ける姿を待っていた。彼ならばどのような状態であろうと、彼が守りたいものがある限り必ず立ち上がると信じているから。
(そして貴方は誰かの期待を決して裏切らない人だと知っています。だから、時間をかけてもいい。ちゃんと、目を覚ましてくださいね)
メデューサは眠り続ける光太郎の頬を優しく撫でるのであった。
クライス要塞 指令室
「なに…間桐光太郎が生きているだと?」
「はっ。私の情報網によれば奴目はしぶとくも生き残り、今深い眠りについている模様です」
「むぅ…」
マリバロンからの情報を耳にしたジャーク将軍は先日、自らの手で葬った間桐光太郎の最期を思い出す。あの時、間違いなく宇宙空間で致命傷を負わせたはずだ。
カツカツと足音を立て室内を歩きながら思考を巡らせるジャーク将軍はデータで閲覧した光太郎の戦闘データ…特にシャドームーンとの決闘時や創世王との戦いに現れた力をふと思い出す。
(瞬間的とはいえキングストーンの力を解放した瞬間はデータが計測不能と出た…もし、粉微塵にキングストーンを打ち砕いたとしてもその力が健在なのだとすれば…これほど厄介なことはない)
「…将軍?」
「マリバロンよ。間桐光太郎は目を覚ますことなく眠っているのだな?」
「間違いございません」
「ならば間桐光太郎を確実に抹殺せよ。目を覚まさない今ならば、スカル魔でも容易く行えるであろう」
「ちょっといいですかい、ジャーク将軍」
マリバロンへと命令を下すジャーク将軍は自分の名を呼ぶ声の方へと顔を向ける。そこには出入口に背をあずけ、腕組みをしているガテゾーンの姿があった。
「どうしたのだガテゾーン。そちにはアメリカ方面の部隊編成を命令したはずだが…」
「そんなものはとっくに終わっています。将軍、間桐光太郎…仮面ライダーBLACKの抹殺に怪魔ロボット、キューブリカンを同行させて下さい」
「なに?」
キューブリカンと言えば機甲隊長であるガテゾーンが率いる怪魔ロボット最強と謳われる。あのキューブリカンを派遣するとは、ガテゾーンはそれほど間桐光太郎を警戒しているということなのだろうか。
「…よかろう。間桐光太郎の抹殺、そちらに一任する」
『ハッ!』
命令を受け、力強い返事を確認したジャーク将軍は踵を返して指令室を後に、残ったマリバロンはガテゾーンへと尋ねた。なぜ、自分の所有する軍団の最強ロボットを使ってまで身動きの取れない間桐光太郎抹殺へと参加させたのかを。
「…わからん」
「わからない?貴方にしては随分と珍しい物言ね」
「ああ。だが、やるからには必ず倒して見せる。俺のプライドにかけてな…」
既に丑三つ時を過ぎ、まだ誰もが眠りについている時間。
間桐邸の前には黒いローブを纏う3体のスカル魔。光太郎に襲い掛かったヘルメットを装着したゴルゴム怪人の素体が数体。そしてシルク帽を深々と被ったスーツを纏った男性の姿があった。
帽子の陰から見せるその瞳…否、瞳の形へと偽装された熱センサーから眠る光太郎の位置を割りだした男性は屋敷の一画を指さす。間違いなく光太郎の私室を発見した素体達は雄叫びを上げて塀を飛び越えると庭へと着地。そのまま扉へと一目散に駆け出していくが…
『ギャァッ!?』
素体達は屋敷にたどり着くことなく、地へと沈んだ。
1体は頭部を鉄杭の付いた鎖に貫通され、
1体は炎の矢が胴体に突き刺さったと同時に燃え上がり、
1体は全身に毒が回ったかのようにのた打ち回って動かなくなった。
塀の上に上り、事態を観察していた男性は家の前にいつの間にか姿を現した3つの影を睨む。
「やはり狙ってきましたか。シンジ、リン達に連絡は?」
戦闘装束となり、鎖を強く握るメデューサは隣で器用にも魔力の籠った弾丸を片手で銃へ装填しながら携帯電話に耳を当てる慎二へと尋ねるが首を横に振る。遠坂宅へと連絡をしているが、どうやら自分達と同様に襲撃を受けているようだ。
「先輩は今日メディアさんの所へ泊まって正解でしたね…」
「ああ。冬木で一番安全な場所だ。若奥様はそうとう機嫌悪い見たいだけどな…」
新しい矢を番える桜に捕捉する慎二は柳洞寺のある山から一筋の光が天に昇っていく光景を目にする。どうにか何も知らない寺の人間に気付かれないうちに終わって欲しいと願いつつ、庭へと着地したリーダーらしき人物へと目を向けた。
「…命令されたのは間桐光太郎の抹殺。邪魔をするならば容赦はしない」
と、手を広げたと同時に指から鋭い爪が姿を現す。どうやら人間の姿をしているだけであって普通ではないらしい。
「…あの者は私が相手をします。2人は一歩たりとも敵を光太郎へは近づけないで下さい」
「はいッ!」
「オーケィ。あの駄兄が目覚める前に片づけてやるよッ!」
慎二は叫ぶと同時に構えた銃から弾丸を発射。弾道は外れることなくこちらに向かって駆け寄る怪人素体の肩へと命中。弾丸が貫通した箇所がブクブクと腫れ上がり、肌が禍々しい紫色へと染まっていく。
今打ち込んだのは、メディア印の毒入りの弾丸だ。
恐ろしくて触れたくもないと慎二が地下蔵へ封印していたがこの事態を見て開封。改めてその効果を目にし、メディアの恐ろしさを思い知りながら慎二は再び弾丸を装填する。その隙を付こうと接近する素体だが慎二は焦燥することはない。
「そこですッ!」
桜が矢を放つ寸前。両手に装着された赤い手甲に刻まれた術式により圧縮された桜の魔力が炎となって指先を経由し、矢の先端へと宿ると同時に放たれた。単純な燃焼ではなく、触れた者の全身を包む炎は完全に対象を燃やし尽くすまで消えることは無い。
メディアに負けず劣らず凄まじい術式を組み上げた義兄に感服しながらも、桜は敵に狙いを定めた。
「フッ!」
庭の中央で金属同士による接触で次々と高い音と共に火花の拡散が続いていた。メデューサが振るう鎖を男の爪が弾き、接近した男の爪をメデューサは鉄杭で弾き返す―――。
先程からその応酬が繰り返される中、メデューサは男の攻撃に違和感を感じていた。
(この男の攻撃…見た目によらず、重すぎる)
いくら聖杯戦争時から力が落ちたとはいえ、自分と手にした武器とぶつけ合えばその瞬間に生じる力によって常人ならば腕が耐えきれず、最悪ねじ切れるはず。だが、目の前の男はその衝撃に耐えるだけでなく、メデューサと同等…下手をすれば彼女以上の力を有していることになる。
つまり、男も人間ではない。
(ならば、手加減は無用―――)
逆手に持った鉄杭を男の脳天に突き刺す。
いくら相手が剛力を誇ろうが頭を潰してしまえばそれで終わりだ。メデューサは相手の爪と鎖が接触した直後に鎖を強引に爪と摩擦させるように引き寄せる。ガリガリと削がれる音と共に爪と鎖によって発生した火花が一瞬男の視界を封じ、その刹那を逃さすメデューサは跳躍。
男の頭上へと舞い上がったと同時に鉄杭を帽子ごと相手の頭上へと突き立てた。
メデューサの鉄杭は間違いなく、男の帽子貫いた。
(…そんなっ!?)
鉄杭は、帽子を貫くだけに留まっていた。まるで固い金属のような男の頭部に、武器を突き立てたメデューサの腕にその衝撃が帰ってきてしまうほどの強度。急ぎ離れようと鎖を植栽の幹へと縛り付け、その場から逃れようとしたがそれよりも早く男に腕を掴まれてしまう。
「くっ…!」
「いい加減…邪魔だ」
冷たく言い放つ男の腹部がバリバリと音を立てて衣服と皮膚を裂いて現れた円柱型の金属。それは紛れもなく巨大な銃口だった。
「ッ!?」
メデューサが勘付き、逃れようとするよりも早く銃口からエネルギーがゼロ距離で放たれてしまう。
男の攻撃による炸裂音の方へと顔を向けた慎二と桜の目に砲撃により吹き飛ばされ、庭の芝生を抉りながら落下したメデューサの姿が映る。
「メデューサッ!?」
「大丈夫ですかッ!?」
駆け寄ろうとする慎二と桜の背後に迫まる影。義兄との戦いの中で研ぎ澄まされた直観が背後に迫った危機を教えてくれたのだろう。
そうでなければ2人は振り返ると同時に手にした武器を盾代わりに掲げるという手段すら出来なかったはずだ。
スカル魔の振るった鎌によって2人の武器…ライフル銃と弓が真っ二つに裂けてしまう。
武器を犠牲に生き延びた2人は急ぎ立ち上がろうとするメデューサの隣まで移動し、彼女に肩を貸すと自分達へと迫る男とスカル魔と対峙する。
(まずい…ですね)
数と力による圧倒的な戦力差。そして両隣にいる2人は主要の武器を失ってしまっている。だが、それでも…
「桜…拳でも、いけるか?」
「兄さんこそ大丈夫なんですか?確か折りたたみのボウガンしか無かったけど」
「は?それだけあれば僕は十分なんだよ」
「なら安心です!」
それでも、2人は笑っている。笑いながら、義兄を守ろうと命を張っているのだ。
なら、自分だって負けられない。
光太郎を守ろうとする気持ちなら、負けるつもりはないから。
「…ありがとうございます。2人とも」
「大丈夫ですか?」
「あんま無理せず後で休んでてもいいんだけど」
2人の支えを解き、自力で立ち上がったメデューサは一度背後にある一室へと目を向け、息を飲むと再度前に一歩出て敵と対峙する。
「…それは、目の前の脅威を払ってからにさせて貰います」
以前にも、似たような空間にいたことがあった。
周囲には何一つなく、真っ暗。前回との違いといえば自由に動ける事だろう。
間桐光太郎がそんなことを考えていた時、背後から接近する気配を感じた。そして振り返ったその先にいたのは―――
「…なんで」
そう口走ってしまったのは、当然だろう。
なぜならば、自分の前に現れた存在の姿には、見覚えがありすぎるからだ。
漆黒の身体
赤い一対の複眼
そして腹部に赤い石を宿す銀色のベルト
光太郎が変身する仮面ライダーBLACKの姿が、そこにあった。
『…間桐光太郎』
「その声…」
自分の名を呼ぶBLACKの声。初めて耳にするはずなのにずっと前から聞いていたような不思議な気持ちとなった光太郎は、目の前に立つ存在の正体を知る。もしかしたら、考えるまでもなかったかもと思いながら10年以上共に過ごした相手へと口を開いた。
「キングストーン…だね」
『説明するまでもないか…やはり今代の主は過去の者共とは違うようだ』
「何度も助けてもらってるからね。それに、今だってこうして生きていられる」
『…今の状況、分かっているようだな』
「ああ。だから、俺は直ぐにでも起きなければならない」
光太郎はBLACKの姿を借りて現れた自身に宿る『キングストーンの意思』へ自分が今すべき事を告げた。
彼からも忠告を受けていた新たな敵が出現し、今も光太郎の家族が戦っている。なら、いつまでも寝ている場合ではないのだ。
無言で互いの視線を躱す中、キングストーンはゆっくりと光太郎へ掌を翳す。その手には、小さくもその空間そのものを照らす眩い光が宿っていた。
「これは…?」
『私とお前が手にした『新たな力』だ。砕け散った私を再生させ、重症のお前を生きたまま宇宙から地球へと落下させた未知なる力…』
「あの時の…」
宇宙を彷徨う光太郎が意識を失う前に感じた凄まじき力。何よりキングストーンですら全貌を掴めない力が今、ここにある。
『これを手にすれば、お前はさらに強力な力を手にすることができる。だが、同時にそれはお前をさらに激しい戦いへと投じることに繋がるだろう。それでも、お前は手を伸ばすか?』
「……………………」
キングストーン迫られた選択。光太郎は迷うことなく、自らの手をキングストーンの手へと伸ばした。
『…力に得ることを選んだか』
「ああ。敵は今まで以上に強大だ。力が手に入るのなら、俺は迷わない。けど安心してくれ。俺は、力に溺れることは決してない」
『何…?』
思わず聞き返すキングストーンに光太郎は笑顔を向ける。
ただ1人の欲望によって永遠と思わせる時間を力の行使だけに潰えてきた2つの石。彼等はずっと見せつけられてきた。自分達を奪い合う為の殺し合い。それが終わったとしても待つのは次の殺し合いまで力の独りよがりである『王』の力の一部となるしかなかった。
ゴルゴムが滅びた今、血塗られた宿命から解放されたキングストーンは自分の主が再び戦いの渦中へと飛び込むだけなく、新しい力を手に入れたことでかつての悪夢が繰り返されてしまうのではないかと危惧していた。
しかし、今の主は全く違う答えを自分へと示したのだ。
「俺はこの力を守るために、悪を打つためだけに使う。今までもそうしてきたように」
『だが、お前が力に溺れないという保証はない。あの創世王のように』
「それは心配いらない。仮にもし俺が外れた道に行こうとするならしっかりと止めてくれる家族と仲間がいる」
『…そうか』
今までの世紀王と違う理由。光太郎には大切に思える存在と、逆に光太郎を認める存在がいるからだ。過去の世紀王たちも力の誘惑に負けず、支えてくれる人に出会えていたのなら、今とは違った結末を迎えていたのかもしれないと考えたキングストーンは続く光太郎の言葉に今度こそ驚かされてしまう。
「勿論、君も仲間の1人だよ」
『なっ…!?』
「だってそうだろう?俺が仮面ライダーとして戦えたのも、君がいたからだ。こんな時にしかお礼をいえないけど…」
本当に、ありがとう。
その言葉を聞いた時、キングストーンはこの世界に誕生し、初めて自分が『笑った』と自覚ができた。
『ただの力の結晶体に過ぎない私が、仲間か。本当に変わっているな、お前は』
「お互い様だよ。こんな変わってる俺にずっと力になってくれているんだから」
『フッ…』
そして光太郎の掌とキングストーンの掌がゆっくりと合わさり、手の隙間から暗い空間を真っ白に染め上げる程の光が放たれた。
『…いいだろう。使いこなしてみろ。この…』
『太陽の力をな』
月が沈み、暗かった空が群青色に染まっていく中。
多くの傷を負いながらもメデューサ達は敵を前にしても立ち続けていた。
メデューサの鎖は幾度もなく衝突した男の爪によってついに切り裂かれ、桜の手を覆っていた手甲はボロボロに、慎二は隠し持っていた武器や道具はとうに使い果たしている。
だと言うのに、メデューサ達は倒れることを知らず、目にはより強い闘志が宿っている。
『なぜだ』
「?」
男から先程までとは違う声を発した。どうやら、男達を送り込んだ主が声を送っているらしい。
『なぜ、お前達はそうまでしてあの男を守ろうとする。あの男は既に変身することが出来ない。貴様達の言う『仮面ライダー』ですらないのに、なぜ守ろうとする?守る価値など、ありはしない』
「はぁっ…ハハハ…」
男の質問に息切れをしつつも、慎二は笑いだした。こんなにも、下らない質問が敵がしてくるとは夢にも思わなかったからだ。
「お前達ってさ…光太郎の事、全然分かってないな」
慎二は嘲笑する。敵が持つ義兄に対する認識を。
「光太郎兄さんが強いのは、変身できるからじゃありません」
桜は知っている。義兄の持つ本当の強さを。
「…例え力を失おうとも、光太郎が『仮面ライダー』であることには変わりありません」
メデューサは信じる。自分の愛する存在は力を失ったとしても、闘う意思を持つ人であることを。
『なら、見せてもらおうじゃねぇか。お前達が命を張ってでも守ろうとする奴の価値を』
男が言葉を止めたと同時に、スカル魔は一斉に走り出す。
覚悟を決めた慎二達も襲い来る敵の攻撃に備えるが、それよりも早く、慎二達の合間を抜けて迫りくるスカル魔を殴り飛ばす黒い背中を見た。
「え…?」
「ごめんッ!遅くなったッ!!」
唐突に現れた彼は肩で息をしながらまるで待ち合わせに遅れた時のように茫然とする3人へと振り返りながら謝る姿に、逆に力が抜けてしまったのは仕方がないことだろう。
仮面ライダーBLACKへと変身した間桐光太郎が、そこに立っていた。
「…おっそいんだよバーカ!」
「兄さんのバカッ!!遅すぎですッ!!」
「誠意が全く感じられません。光太郎は馬鹿なんですか?」
「え、あ、はい。すいません…」
三者三様の思いもしない反応に萎縮した光太郎は謝る他なかった。そんな光景を男の目を通して見ていた者達にとっては、あり得ない事態であった。
「馬鹿な…あれ程叩きのめし、変身機能を破壊しても生きていたというのか」
「へ、へぇ。しぶといじゃねぇか!!」
背後で戦慄するボスガンとゲドリアンの姿を見ることなく、ガテゾーンはモニターへ映る光太郎の姿を睨み続けていた。ガテゾーンがいつもの雰囲気ではないと悟りながらマリバロンはコンピューターを操作。ひたすら家族へ頭を下げ続けた後、敵に向かい構える光太郎のデータが更新する。
やはり完全に無事とはいかなかったか。前回に収集した際よりパワーが落ちている。特にベルトに宿る光はこれまでに無いほど弱々しい。ジャーク将軍はボスガン達と同じく生きている事に表情に出さないものの驚きつつも、敵を倒す好機を部下に見逃さないように、名を呼ぶ。
「ガテゾーンよ…」
「始末するならいつでも出来ます。だが、その前に…」
空が群青からさらに明るく澄み渡った色へと変わる中、男の声が再び放たれた。
『なぜ、お前は闘おうとする?』
「………………………」
男の問いかけに、光太郎は答えない。いや、相手の意図が分かるまで黙っているつもりだ。相手も光太郎の考えを汲んだのか、質問を続ける。
『お前を地獄へ叩き落とした創世王って奴はとっくに滅んでる。お前が闘う理由なんざ、とうにないはずだが…?』
「…目の前で苦しんでいる人や、俺を信じてくれる人がいる。俺が戦える理由は、それだけで十分だッ!!」
『他人の為に、ねぇ…分からねぇな』
結局、光太郎の回答に納得できず…いや、さらに分からなくなってしまった声の主は会話を切り上げ、今まで控えていた部下へと命令を下す。
『始末しろ』
男が一度ガクンっと項垂れ、再び顔を上げるとメデューサと戦闘を繰り広げていたように爪を光太郎達へと向けて歩き出す。スカル魔もそれに続き、巨大な鎌を振り上げたまま進軍。
対して光太郎はゆっくりとした動きで前へと進んでいく。背後に立つメデューサは敵と相対する光太郎が普段に比べ、力が明らかに段違いに弱っていることを悟っている。
身体の治癒と、変身する為にキングストーンの力を使い切ってしまっているのではないかという不安はある。
しかし、その不安よりも安心感が勝っているのは、何故なのだろう。
その答えは、直後に現れた。
(分からない…か。確かに、さっき言った答えはあくまで俺自身が納得するためのものだ。他の誰かに理解なんてされないかもしれない。けど…)
少しずつ上る朝日が光太郎の影をより濃く形を作っていく。
「俺は闘う。俺が信じる人達の為に…俺を信じてくれる人たちを守る為に…」
その姿を、しっかりと見せて安心させなければならない。
自分は、大丈夫なのだと。
その為に、光太郎は迷いなく使う。
キングストーンと共に掴んだ、新たな力を。
「太陽よ…俺に力をッ!!」
姿を見せた太陽を掴むように天へ右手を翳し、左手をベルトの前へと移動。
右手首の角度を変え、ゆっくりと右腕を下ろすと素早く左肩の位置まで手首を動かし、空を切るような動作で右側へと払うと握り拳を作り脇に当てる。
その動作と同時に左手を右から大きく振るって左肩から左肘を水平にし、左拳を上へ向けた構えとなる。
光太郎の赤い複眼の奥で光が爆発する。
体内に宿ったキングストーンの力と光太郎へと降り注ぐ太陽の力が融合した『ハイブリットエネルギー』が光太郎のベルトを2つの力を秘めた『サンライザー』へと変化。
サンライザーから放たれる2つの異なる輝きが光太郎の全身を包み、彼を『光の戦士』へと進化させた。
黒いボディの一部が深い緑色へと変わり、胸部には太陽の力をエネルギーへと変換する『サンバスク』が出現。よりバッタへとイメージが近づいた仮面にはより強く光る真っ赤な目を思わせる複眼と一対のアンテナ。
再び右手を天に翳した光太郎は敵に向かい、新たな力を手にした名を轟かせた。
「俺は太陽の子――ッ!!」
「仮面ライダーBLACK!!RX!!!」
一説によれば、RXはBLACKが『常に最強フォームでいる状態』というものがあり、それを参考にさせて頂きました。
なので当面は光太郎→BLACK→RXでしか変身させません。
当面は、ね…
そしてキングストーンとの意思疎通もあんな形で書いてみたかったのをようやく実現できましたね~
次回は初登場補正による無双をお楽しみに!
お気軽に感想など書いて頂ければ幸いです。
では、次回に!