…その時タイトルを確認しなかったので覚えていないのですが明らかに手持ちの武器ではなかったっすね~。
まぁ、昨今これだけの作品があれば武器の名前も被ってしまうだろうというお話でした。
前回よりもちょいと短めの37話となります
間桐桜に変装し、穂群原学園へと足を踏み入れたクライシス皇帝の娘であるガロニア。
ガロニアは自分を養成中に睡眠学習装置で吹き込まれたクライシス帝国の次期支配者に相応しき教育よりも、地球人が笑って過ごす日常への興味が勝っていた。
その生活がいかなるものか体験しようとした矢先、桜の義兄である間桐慎二にガロニアが妹の偽物であると見破られ、記憶を消そうと行動するが不意に現れた蜘蛛に怯えて泣き出してしまう。そんなガロニアの姿を目にした溜息をつくしか出来なかった。
一方、ガロニアの催眠術にかかり自宅へと向かっていた桜は慎二達が作成した対魔術の道具の効果によって術が解除され、正気へと戻っていた。
自分に魔術を懸けた瓜二つの少女が学校へ向かったと推測し、急ぎ後を追い始めるが突如クライシス帝国のマリバロンとチャップが現れる。
クライシス皇帝の娘だと言われ、困惑しつつも自分に迫るチャップを撃退しつつも逃走を図る。
だが多勢に無勢であることに変わりなく、とうとうチャップに捕まりそうになったその時、赤上武が助けに現れ、マリバロン達と対峙。互いに睨み合いが続く中、突如として第三者の不気味な声が木霊した。
武は足元の水溜りから出現した怪生物の触手に絡め取られるも何とか切り伏せたが、背後に現れた男の風貌に一瞬気を取られた隙に攻撃を受け、気を失ってしまった。
さらに桜の意識を奪い、捕獲した男はマリバロンに向かい、こう名乗る。
星騎士 木星のジュピトルスと。
クライス要塞
マリバロン達が連れて帰った少女はクライシス帝国の後継者ガロニアではなく、仮面ライダーBLACK RXの妹である間桐桜だと判明したのは修理を終えた養成カプセルに寝かせた直後のことであった。
桜を白いドレスへと着替えさせた後、カプセルへ移動させる途中に桜のうなじから黒い何かがハラリと落下。付近のチャップに拾わせ、掌に乗せてみると、それはホクロに似せた魔術防止の道具だと見抜いたマリバロンは急ぎ少女のうなじを確認する。最悪な予感が当たり、自分達がガロニア姫だと断定した少女は間桐桜だと明らかになってしまう。
急ぎジャーク将軍へと報告に指令室へ向かうが、そこでは緊迫した空気が流れていた。
「…っ!?」
室内へと入ったマリバロンはあまりも重い雰囲気に呼吸を忘れる程だった。指令室内で対峙している司令官であるジャーク将軍と自分達に接触し、桜を手土産としてクライス要塞への乗艦を求めた星騎士ジュピトルスと名乗る男。
ジャーク将軍は相手を射殺すような殺気を放っているのに対し、ジュピトルスは不敵な笑みを浮かべている。
一体何が起きているのかと壁際で怯えているゲドリアンの盾とされていたガデゾーンの横へと駆け寄るマリバロンは事の顛末を訪ねた。
「どうしたも何も…あのジュピトルスって野郎が突然現れてから将軍がずっとあの状態だ…俺達にもさっぱりだ」
「では、あの男が星騎士というのは本当なのね…」
「そ、そんなことが将軍がお怒りになっていることと関係があるのか?」
1人納得をした様子のマリバロンにゲドリアンは未だ迸る殺気を放つジャーク将軍の尋常ではない様子に震えながら説明を求める。コクリと頷いたマリバロンによれば、星騎士ジュピトルスは同士であったジャーク将軍とは相容れない存在だったようだ。
遥か過去。
未だ統一されていなかった怪魔界で大きな争いが繰り返し起こっていた時代。
クライシス帝国は敵対する部族との戦いの最中にあった。
相手は1人1人が鋼のような肉体と武術を身に着けた強敵であり、当時星騎士であったジャーク将軍が指揮した部隊との戦いは幾度となく繰り返されていた。
それも相手の首領とは戦いの中で敵対しながらも互いに認め合っていたジャーク将軍は1対1の戦いを持って決着を付けると豪語し、相手も承諾。
決戦の日に備え準備を進めていたジャーク将軍の耳に、敵対部族の集落ごと壊滅したとの情報が入る。
部下の制止を振り切り現場へと向かったジャーク将軍が見たのは、言い表せば地獄としかいいの様の無い、我が目を疑うような場所だった。
自分達と鎬を削り合った戦士達は絶望にくれた表情のまま兵士に拘束され1人、また1人処刑されていく。戦士達の視線にある先は一列に並べられた女子供の首。
そのどれもが杭の先端に突き刺されたまま地表へと並んでいたのだ。
囮によって戦士たち全員が集落を離れた後、身を潜めていた兵士たちが一斉に力を持たない女や子供を惨殺。戻った戦士達が怒り狂った所を大部隊によって一気に殲滅したというのが大まかな流れだった。
付近に立っていた兵士の首を締め上げて聞き出したジャーク将軍は、今正に処刑されようとしている部族の首領の姿を目にする。他の戦士同様、生きる気力を失っている首領をせめて助けようと駆けながら止めろと叫ぶが、ジャーク将軍の言葉に耳を貸さず剣は振り下ろされた。
血飛沫と共に転がる首領の首。
その光景を楽しそうに。心の底から愉快だと言わんばかりに血を浴びて笑いを上げる者が、首領の首を落とした剣に付着した血を舐めながらジャーク将軍へと振り返る。
その者こそが、今回の作戦を立案した星騎士ジュピトルスだったのだ。
「…以降、当時星騎士だったジャーク将軍はジュピトルスと犬猿の仲にあったと言われているわ」
「なんと残酷な…」
「とんだサイコ野郎って訳だ」
マリバロンの話を聞いたボスガンとガテゾーンはそう口から漏らすことしか出来ない。
怪魔界では半ば伝説と化している星騎士の存在。その唯一の生き証人とされてるジャーク将軍は、頑なに自身から過去の話を切り出すことは無かった。
だが逆に納得してしまう。
厳しくも大きな器量を持つ高潔なジャーク将軍とではあのジュピトルスとでは決して自分達と同じ関係を築けない。
自分達が仕える存在がジャーク将軍であることを幸運に思う隊長陣の心中を余所に、2人の沈黙が破られようとしていた。
「…御無沙汰しております金星のヴィルムス。いや、今の御身分を考えるとジャーク将軍と呼んだ方が宜しいですかな」
「だまれジュピトルス。よくも抜け抜けと余の前にその汚らわしい姿で現すことが出来たな…!」
手にした杖を差し向けるジャーク将軍の声は普段よりも低く、明らかに怒りが込め荒れている。
隊長達であれば恐怖に顔が引きつるようなジャーク将軍らしからぬ感情を露わにした姿にも、ジュピトルスは何の効果は見られない。寧ろさらに上機嫌となっているようにも思える。
「口調にも威厳が付いてきましたねぇ。青さも抜け、将軍の地位を任せられる成長を遂げたようです。いえ、『あの2人』を見捨てた時点でもう…」
「黙れと言っているッ!!」
杖の先から発射された光線がジュピトルスの頬を掠める。流石にそれ以上言葉を続けることは無かったが、ジャーク将軍の放った光線で焦げた頬に触れるジュピトルスは恐怖するどころか、見た者に悪寒を走らせるような笑みを浮かべて人間の数倍の長さはあろう舌を口からだらりと下げて頬を舐める。
「どうやら彼方に取っては失言だった様子。これは大変なご無礼を。ではお詫びとして彼方がたが抱えている問題の解決を手助けすることにいたしましょう」
「何だと…?」
ジュピトルスの意外な提案にジャーク将軍だけではなく、後方で様子を伺っていた隊長陣までもが驚く。クライシス帝国に反旗を翻した星騎士の1人が協力を申し出たことに、まず疑問しか浮かばない。しかもこの男の残虐性を考えれば、何か理由があるはずと睨む中、ジュピトルスの視線がマリバロンを捉える。
余りの不気味さにビクリとするマリバロンに柔らかい笑顔を作るジュピトルスだが先ほどの話も相まって不安しか浮かばない。
「怪魔妖族のマリバロンでしたか?私が連れ帰った娘に関してお話があるのでは?」
「娘…?」
ジュピトルスの妙な言い回しに疑問を抱いたジャーク将軍の声にハッと我に返ったマリバロンは急ぎ桜の件を報告する。
「愚か者ッ!!ガテゾーンの報告通りガロニア姫と間桐桜は見分けが付かぬほど似ている事を知りながらなぜもっと注意深く調べなかった!!」
「申し訳ありません…」
「そう怒鳴るものではありませんよジャーク将軍。おかげでとても興味深い情報を得たのですから」
膝を着くマリバロンへ怒鳴り散らすジャーク将軍に横から割って入ったジュピトルスはとあるデータを中央の画面に表示される。それは現在養成カプセルで眠っている桜と、要塞を脱走する寸前まで計測していたガロニアの持つエネルギー値のグラフであった。
「っ!?テメェ…解析中の俺のコンピューターにハッキングしやがったな…!?」
「お、落ち着けガテゾーン!相手はあの星騎士だぞ」
「それにジャーク将軍の前だぞ」
詰め寄ろうとするガテゾーンの身体を押さえるゲドリアンとボスガン。余程自分のデータを軽々と扱うジュピトルスが許せないようだが当のジュピトルスはそんなガテゾーンに見向きもせず説明を続ける。
「ご覧の通り、彼女が持っている潜在的な力…地球では魔力と言われていますが最新のガロニア姫の力と比べ、圧倒的に勝っているのです」
「…何が言いたいのだ、ジュピトルス」
「ククク…分かっていながら敢えて問いかけるとは性格が悪い。ならばはっきりといいましょう」
「逃げ出してしまう出来損ないの姫などよりも、彼女をガロニア姫として仕立てあげれば何の問題もないでしょう?」
ジュピトルスの言っていることが、マリバロンにはまるで理解出来なかった。
ガロニア姫を捨て置き、RXの妹をガロニア姫に仕立てあげる?
そんなことが皇帝に知られれば、ここにいる全員の命がない。
もはや問うまでもない事に一番危機感を覚えていたボスガンがジュピトルスに物申した。
「何を言うかと思えば…クライシス皇帝に知られてしまう以前に、汚らわしい地球人が我らクライシスの支配者になるなぞありえん!」
「あるとしたらどうしますか?」
「なっ…」
「彼方は見るにクライシスの貴族…ならば知っているでしょう?かつて怪魔界でそれまではクライシス人では無かった者がクライシス人となる為に使用された『奇跡の泉』のことを…」
話には聞いたことがある。その泉に三日三晩つかればその者を純粋なクライシス人へと変えるだけでなく、成長まで促し、その能力を数倍に膨らませることのできる泉があるのだと。
確かにその泉を利用すれば間桐桜を地球人ではなく怪魔界のクライシス人に変えることすら可能だ。
しかし、それでは皇帝の血を引くガロニア姫はどうなってしまうのか…?
「そのような心配は無用です。先程言った通り、クライシス皇帝の思想に反発を抱く者が再度教育を受けた所で同じことの繰り返し…それに成長促進ビームを途中で抜け出してしまえ力の『今のまま』止まってしまう。そうですね」
同意を求めて視線を向けるジュピトルスに、マリバロンは頷くしかない。ガロニアを連れ戻すことを第一に考え、その問題自体は後送りにしているつもりだったが、ジュピトルスの指摘する通りだ。
養成中にガロニアを成長させていたのは身体だけでなく、彼女が持つ『力』をも大きくしていた。今では念動力や催眠術といった類しか扱えないが、予定通り成人まで成長していれば森羅万象に干渉するといっても過言ではない力を持つはずだったのだ。
「だからこそ、捉えた少女を奇跡の泉でクライシス人に変えた後、その潜在能力を解放、精神を完全にクライシス皇帝の娘としてしまえば真のガロニア姫が誕生するのですよ!」
両手を天に掲げ、興奮しながら叫ぶジュピトルスの意見に、もはや反対を申し出る隊長はいない。言っていることは荒唐無稽なのだが、その通りにすれば将来クライシス帝国の為ではあるためだ。
あとは最終決定権のあるジャーク将軍が頷いてしまえばこれは決定になってしまうのだが、その将軍が了承しえない事をジュピトルスは口にしてしまう。
「さて、ジャーク将軍。これが上手くいけば、彼方の部下の失態は例え皇帝に知られたとしても許されるでしょう」
「……っ!」
「皇帝は何より力と実力を重んじる御方。御身の血筋であろうと役に立たない者は切って捨てる無情ですからねぇ。そんな恐ろしい方に今回の事を知られたらどうなるか…」
(なんと卑劣な…)
ジュピトルスはよりにもよって、マリバロンたち隊長をダシにしてジャーク将軍に迫っていた。確かに後継者であるガロニアを逃がしただけならともかく、その力の成長を止めてしまったとなれば重大な責任。その全てが、ジャーク将軍1人に負わされてしまうだろう。
ボスガンなどはそれで自身の身は安全と安堵するだろうが、ガテゾーンは自分達を利用しようとするジュピトルスの言い分に拳を強く握っている。
「そしてあなた方の一番の問題である敵…間桐光太郎の抹殺も容易に行えるのですよ?」
「…申してみよ」
「いくら相手が強かろうが、方法は至って簡単です」
「相手の心を殺してしまえばね」
結果から言ってしまえば、ジュピトルスの意見が通るという形で話は終わり、ジュピトルスは作戦を練ると言ってゲドリアンと共に指令室を後にする。
ガテゾーンは作戦遂行時に起動さえる怪魔ロボットの最終調整をしながら、ジュピトルスへの警戒心を強めていた。
(アイツは…どこか楽しんでいた。俺達を使いジャーク将軍を脅す時も、RXを倒す作戦を口にする時も、誰かを追い詰めるという行為事態を楽しむような…)
ひょっとしたら、過去にジャーク将軍が敵の部族の首領と決闘する際も敢えてあのような行動を取ったのではないか…
常に自身の嗜虐心を満たす為に動く星騎士 ジュピトルス。
彼がクライシスの敵となったのは、それ故なのかも知れない。
「だが、それでもRXを倒すのに利用させてもらうぜ…」
ガテゾーンがスイッチを入れたと同時に、完成した怪魔ロボットの巨大な目に緑色の光が宿る。
銀色のボディに、背後に備わった4つの鋭利な鎌。宿敵と同じく昆虫をモデルとした特徴的な頭部。
RXのデータを基にし、完成した最強の怪魔ロボット。
「さぁ、今度こそ息の根を止めてやる。このデスガロンでな…」
さて、そろそろ出番かな…彼の。
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