やはり小説を買う他ない…
てな感じの35話でございます。
クライシス皇帝の正統なる後継者であるガロニア姫。
ジャーク将軍率いる地球侵略軍によって地球を手中に収めた後、彼女が支配者として君臨するはずであったが、ガロニアを成人させるまで養成させるカプセルが突然の爆発を起こしてしまう。
ガロニア姫養成の責任者であったマリバロンは死罪を覚悟したが、ジャーク将軍はカプセルの爆発はガロニア姫によって起きたと見抜き、ガテゾーンへ調査を命じる。
その結果はジャーク将軍の予測通りであり、16,7歳の少女まで成長したガロニア姫はカプセルの中からチャップへ催眠術を施し、自分がカプセルを抜け出した後にワザと誤動作するように命じ、本人は要塞内のテレポートスペースを利用しどこかへと向かったと判明したガテゾーンは急ぎジャーク将軍へ報告しようとする。
しかし、ガロニア姫の容姿がクライシス帝国最大の敵である仮面ライダーBLACK RX…間桐光太郎の妹である間桐桜と非常に似ている事に一抹の不安を覚えていた。
その予感は当たり、桜と鉢合わせたガロニアは桜と同じ服装になると桜へも催眠術をかけ、家に帰らせると彼女が向かうはずだった穂群原学園へと向かっていく。
知識でしか知り得ない、地球の生活とはいかなるものかと知る為に。
一方、光太郎は新都でセイバーと似た少女…かつて怪魔界を支配せんと暴れ回った星騎士の1人、火星の騎士アルスと遭遇。
雨が降り注ぐ中、全身をアルスが手にする剣によって切り裂かれた光太郎は意識を何とか保ちつつ、自分を見下ろすアルスを倒れたまま見上げるのであった。
(冷…たい…)
滝のような大雨に全身を打たれる中、傷だらけの仮面ライダーBLACK…間桐光太郎はそんなことを考えていた。
傷の深さを見れば、本来ならば血液がとっくに尽きてしまう程の傷を全身に受けている。こうして生きているのは再生能力に力を全て注ぎ、想像を絶する痛みを中和しているキングストーンの力の恩恵なのだろう。
だが、BLACKの再生能力はRXへと進化して以降、以前のそれを上回っているのだが今はキングストーンの力を上乗せしなければ危険な状態に陥っている。それ程彼女から受けた攻撃は強く、深く刻まれたのだろう。
立ち上がろうにも指先が微かに動くことが精一杯である光太郎の喉元に、銀色の甲冑を纏った人物の剣先が当てられる。
(これが…俺の限界なんだな…)
普段では考えられない弱気な結論へと辿る光太郎。
そう考えてしまうには、自分に剣を突き立てた人物の言葉が大きかった。
新都の災害跡地で戦いが始まる前…
自分を見つめたまま、口元を妖しく微笑みながら接近する少女の足音が異様に大きく聞こえる。改造人間にされてしまった光太郎の聴覚は変身する前でも数キロ先で床に落下した針の音すら捉える事が出来るが、今は少女の足音以外、全てが聞き取ることが出来ない。
自分の避けて歩いていく人々の声や足音。数日前から止む気配を見せない雨がアスファルトへ打ち付ける音。少女が接近するにつれて早くなる自分の心音。
どれもが光太郎と2メートルもない距離まで接近した少女の存在によって打ち消されてしまっている。
額に浮かぶ汗を拭わず、光太郎は手にした傘の柄に亀裂が走っている事も自覚せず相手の出方を見る。しかし警戒する光太郎に対し少女の視線は別方向へと向けられていた。
数十秒経過しても、一向に自分へと向けられそうにない少女の目を追って光太郎も顔をゆっくりと同じ方向へと向ける。
「………?」
そこは、冬木でもさほど珍しくないファミリーレストランのチェーン店であった。
「うっまいんだなこれッ!?地球じゃちょっとした金さえ払えばこんな美味しいもん食えるのかよ!!」
「………………………………」
周囲の反応など気に留めず、少女は口にした料理を大声で賞賛する。何故か相席するよう言われた光太郎は黙ってブレンドコーヒーを啜ることしか出来なかった。
「クライシス城で出された堅苦しい宮廷料理とは大違いだ、ん~美味い!」
そんな単語がサラリと出てくるということは間違いなくクライシス帝国と縁のある人物に相違ない。向かいの席に座る光太郎は満面の笑みでデミグラスソースをたっぷりかけたハンバーグを口へ放り込み、頬張る少女の顔を改めて眺めると、やはり自分の知るセイバーとよく似ている。
だが先程のは発言からセイバーとは全くの別人なのだろう。何故彼女と似ているのかは勿論気になるが、それ以上に光太郎は少女の存在を以前から『知っている』ような既視感を覚えていた。しかし、光太郎は間違いなく目の前の少女とは初対面のはずだ。
光太郎は少女は間違いなく初対面のはず。なのに、どうして少女の存在を予め知っていたような気になるのか。少女と接触する寸前まで自身にあった焦りや警戒心はそれが原因なのかもしれないが―――
「おぉい、聞いてんのか?」
「っ!?あ、ごめん」
「ごめんってなんだよ。ま、敵が白昼堂々現れて飯の同伴申し出たんだからそりゃ混乱するだろうな。ところで、あそこに行けば好きな飲み物選べるんだよな?」
「あ、そうだね…」
「へぇ、面白いな。昔はいちいち給仕係が注ぎにくるの待たなきゃならなかったからなぁ」
興味深くドリンクバーのコーナーへ向かった少女だが、言葉の中に自然と『敵』と述べられていたことに光太郎の耳に強く残っていた。
その後も少女の質問に応じ、解りやすい説明を続ける度に様々な表情で反応する姿を見て、光太郎は可能であれば争いたくはないという考えが芽生え始めてしまう。
「ふぅー、満腹だぁ」
「……………………………………」
詰まれた皿の上に乗っていたであろう料理の総量とが少女が摩っている腹部…着用しているのがチューブトップの為、地肌まで見えてしまっているが、明らかにあの胃袋へ入ったとは到底思えない光太郎だったが、もし目の前の少女が騎士王と何等かの関係があるのであれば、納得することなのかもしれないと結論付ける。そう考える他ないのだ。
「さてと。腹もふくれたことだし、自己紹介しとくか」
ナプキンで口を拭い、少女は笑いながらさも当然のように自分の名と目的を光太郎に告げる。
「俺はアルス。怪魔界では火星の星騎士で通っている。目的はお前を殺す事だ!」
「星…騎士?」
目的に関しては初対面の段階で予想はしていたがこうハツラツに言ってしまう少女はこれまでの敵とまるで違うと逆に関心してしまう光太郎。だが星騎士の名に聞き覚えがない為、説明を求めると少女は嫌な顔一つせず説明を始める。
「星騎士…まあこの太陽系と同じようにある惑星の称号を持つ戦士のことだ。怪魔界を治めるクライシス帝国の戦士で最高位である証。俺はその中で火星の称号を持っている。けど、俺達が起こした反乱でその称号もほぼ無意味になっちまったがなぁ」
ハハハと笑うアルスだが、聞いていた光太郎からして見れば怪魔界に混乱を起こした張本人ではないのだろうかと思うが、光太郎の心中など察する事無く少女は説明を続ける。
「裏切った俺達を討伐する為に大軍隊が押し寄せてきたんだけどな。まぁその辺は省いといて、結局は同じ星騎士の連中に俺達は倒されて肉体は消滅。魂だけになって封印されてたわけなんだけど誰かにその封印を解かれたみたいなんだよ」
「その、誰かというのは?」
「さぁな。ただ今でもはっきりと覚えているのは、俺達の魂を地球に転送した奴はこう言っていた」
『地球にいる間桐光太郎を倒せ…その者がお前達の最大の障害となるだろう』
「ってな」
「ちょっと待って。え?訳の分からない相手の言葉を鵜呑みにして俺の所に来たの?」
「ああ。そしてなんとなく冬木中歩いてたら『あ、アイツが間桐光太郎っぽいな』って思って睨んだら大当たりでさぁ」
「勘っ!?俺が目的の人物だって勘で当てたのッ!?」
「その通り!馬鹿正直に反応してくれたおかげで助かったしな」
「返す言葉がない…けど、本当に信用できるのか?君に声をかけた人物、どう見ても怪しいぞ」
「しょーがないだろぉ。この星じゃ他に目的ないんだし、怪魔界に戻るにはお前を殺すのが手っ取り早いんだよぉ」
説明の中で登場した星騎士達を解放したとされる人物が余りにも不審な点が多すぎて聞き返した光太郎にアルスは唇を尖らせてブーたれている。その子供じみた態度がより光太郎の知るセイバーとは別人であると断定させる材料となってしまった。
それに話を聞く限り、彼女以外の星騎士が地球へ潜伏している事とは間違いない。少しでも情報を手にしようと、光太郎は質問を続けた。
「…話を戻そう。さっき肉体を失ったっていったけど」
「ああ。俺達は常に戦いの中に身を置いていたからな。あとそれなりに功績を残していたから当時の皇帝が俺達星騎士に褒美として戦いの中で死んだ場合一度限り、新しい肉体を得る|呪い≪まじない≫をかけてくれてたのさ」
「新しい肉体を…?」
「けど条件が厳しくてな~まだ前の肉体が健在ならそこに魂を入れれば万事OKなんだがあいつらに元の身体を塵芥にされた以上、前の肉体は望めない。だから代わりとなる器を創りだして魂を宿すしか方法がないんだ。それもゼロから相応しい肉体を創るのが面倒らしかったのか、過去に実在した人物の肉体のみを複製っていう手抜きっぷりだ」
「そんなことが、可能なのか?」
「こうして俺がここにいることが何よりの証拠だろ?それと人物の肉体を複製する条件ってのが、自分と近しい強い願い、意思を持った人物って限定される。俺の場合はこの星で近しい考え…というか『願い』が一致してこの肉体になったらしいな」
細く、白い指先を見つめながら自嘲するアルスの説明を聞いた光太郎はどこか大聖杯が生み出したサーヴァントのシステムと近い構造だと考えながら、続けての質問をぶつける。
これが光太郎にとって最も重要な疑問だ。
「なぜ、俺を殺すことが怪魔界に戻ることに繋がるんだ」
「ああ、理由は簡単だ」
「そうすれば、嫌でも俺という存在を認識しなきゃならないだろ?怪魔界の連中も、クライシス帝国の皇帝も」
先程まで見せていた年相応の笑顔が欠片も感じられないほど、アルスは冷たい笑みを浮かべた。
「それが…君の戦う理由なのか?」
「ああ。その為なら俺はどんな奴とも戦う。敵わない敵だろうが身内だろうが、俺を認めさせる為に全力で戦ってやる」
光太郎の質問に答えながら、アルスはゆっくりと指先を向かいに座る自身の標的へと差し向ける。
「その為に今回はお前と戦う。間桐光太郎―――俺の為に、死んでもらうぜ」
「…悪いけど、俺は死ぬわけにはいかない。君に戦う理由があるように、俺にだってあるんだ。戦う理由が」
目を逸らすことなく言い返した光太郎に興味を抱いたアルスは促す。
ならば言ってみろ。お前が戦う理由をと。
「俺は、誰かを守る為に。もう大切な人々を失わない為に命をかけて戦うんだ」
「……………………………なるほどな」
光太郎の理由を聞いたアルスは長い沈黙の後、短くそう言って深くため息を付いた。眉間を指先で軽くトントンと叩く仕草をした後に出されたアルスはゆっくりと目を開き、光太郎へと尋ねる。
答えられるものなら、答えて見ろと。
「そうか。それがお前が戦える理由。成程。お前は『そういう』類か。なら聞かせて貰うが――――――」
「お前がお前の言う大切な人を目の前で無惨に殺されたら、お前は今まで通り戦えるのか?」
光太郎の背筋が凍る。
「お前の言葉からして、どうやら誰かお前に取って大切な存在は過去に死んでいるだろう。だからこそ、同じことを繰り返さない為にもお前は戦ってこれた。けどな、戦いに絶対はない。誰かを巻き込まない争いなんてありえない。そして運だとか油断だとか、そんな言い訳なんて通用しないかのように、簡単に、誰かが死ぬ」
目の前にいる光太郎に対してのなのか。それとも自身に言い聞かせているのか。アルスは先ほど光太郎に向けた冷たい眼差しに別の感情が入り混じったように声を出すが、そのアルスの表情を光太郎に見抜くことは出来なかった。
アルスの発した言葉が、耳の中で強く響く。
幼き頃、目の前で死んだ養父の秋月総一郎。自分に願いを託して逝った間桐蔵硯。彼等の死を見て。彼等の最期を見て。光太郎は命を懸けて戦う覚悟を決めた。
以来、敵によって浚われ、時には傷ついた事もあった。だが、それでも『死んでいない』
光太郎が仮面ライダーとして戦うようになってから『死んでいない』のだ。
アルスの言う、光太郎に取って大切な存在。最初に思い浮かべるのは、やはり共に暮らす存在だ。
慎二、桜、そしてメデューサ。
彼等は光太郎に取って大切な家族であり、苛烈な戦いを生き抜いた仲間であり、心の支え。
もし、その誰かがアルスの言う通りに自分の目の前で殺されてしまったのなら…
「お前は戦えるのか?悲しみに囚われることなく、怒りに駆られることなく、お前の言った決意の元に、戦うことが」
尚も問い続けるアルスに、光太郎に衝撃が襲う。そんな事が本当に起きてしまったのなら、再び自分の前で大切な家族がこと切れる姿を見なければならない時があったのなら。
「っ…!」
乗り越えたつもりだった養父の死に様が、再び脳裏に色濃く浮かぶ。同じ光景を、今度は慎二や桜で起きてしまったのなら…考えてたくもない『もしも』が起きた時、自分は、これまで通りに戦えるのか。
光太郎が迷う様を見て、アルスは無言で立ち上がった。
「…即答できない辺り、今まで考えてもみなかったらしいな」
「……………………………………」
「別にお前の心を乱す為に聞いた訳じゃない。これから殺す相手の考えくらい聞いておこうとしただけだ」
「俺は…」
「いいさ。自分の為に戦う俺と、誰かの為に戦うお前。違いなんてそれだけさ。表に出ろよ」
アルスは赤いレザージャケットを羽織ると、レジカウンターへと向かっていく。
「そろそろ始めようぜ」
ニヤリと笑うアルスに続き、光太郎も席から立ち上がる。もう戦いは避けられないだろう。彼女とは考えが根本的に異なる。それに、彼女から指摘された事に対して光太郎は明確が解答を持てないままであった。
未だ雨が続く外へと出る準備が済んだ時、堂々と歩んでいたアルスの足が止まり、身体を正目に向けまま顔のみ光太郎の方へ止める。その表情は先ほどと打って変わり、どこか気まずそうであった。
「あの…さ」
「悪いけど…金貸してくれないか?思った以上に食い過ぎたらしい…」
その後、会計を終えた2人は付近のコンビニへと立ち寄り、いつ開設したのかは不明だがATMで代金の差額を下ろしたアルスは光太郎に清算した後、2人は大災害の跡地へと移動した。
「ここなら、邪魔が入らないし、下々の連中が来ることも無いだろう」
「………………」
「意外そうな顔してるな。俺だって可能な限り関係のない連中は巻き込みたくはないさ」
「そうか…」
未だアルスに問われた事が気がかりなのか、覇気の無い空返事をする光太郎とある程度の距離を開けたアルスは折りたたみ傘を懐にしまい、身体から力を解放。
身体に張り付いた水分を一気に蒸発させてしまうような熱量を持つエネルギーがアルスを包んだ瞬間、それは銀色の甲冑へと変貌する。
雨を浴びながらも鮮烈に輝く甲冑はどこか光太郎の知るセイバーが纏っていたそれと似通った部分があるが、胴体や籠手だけでなく脚部全体や肩を包むことから彼女の纏っているものよりも重装甲であることが伺える。そして最大の違いはまるで魔物を連想させる大型の角を2本持った兜。
最後に白銀の剣を握ったことで彼女の準備は完了。その剣の切っ先を光太郎に向ける。今度はお前の番と言わんばかりに。
「こっちはいつでもいい。さぁ、お前が俺達と、クライシスに脅威となるとされている力を見せて見ろ」
「…変身」
傘を放り投げた光太郎が言葉にした直後、腹部に銀色のベルトが出現。ベルトの中央から赤く眩い閃光が放たれ、その光を浴びた光太郎はバッタ怪人へと変貌。
だが変化はそこで終わらずさらに光が激しくなるにつれて強化皮膚『リプラスフォース』がバッタ怪人の全身を包み、黒い戦士を誕生させた。
全身の関節から余剰エネルギーを蒸気として発散させた光太郎…仮面ライダーBLACKは拳を強く握り構えを取るが、対峙するアルスは変身した光太郎の姿を見た途端に剣を下ろし、まるであり得ないものを見たかのような声を漏らしていた。
「まさか…それは…」
頭部全てを包む兜により表情は目に見えないが、彼女が驚愕してきることは確かだろう。しかしアルスの反応は直後、別のモノに変わってしまう。
「く…クククッククク」
「…なんだ」
「は…ハハハハハハハハ…ハァハッハッハッハッハッハッハッ!!」
最初は堪えるような小さな笑いだったが、次第に光太郎の鼓膜に響く程の大きな豪笑へと変貌していた。本来なら笑い転げたいところであるアルスだが、何とか耐え抜きまるで状況が理解できない光太郎に向けてさらに混乱させるような言葉を浴びせた。
「そうかそうか!お前はそういう奴だったか!これは確かに俺達の脅威となりうる!あの野郎の言ったことは、あながち間違っていなかったわけだ!!」
「何を…言っているんだ?」
「ハハハハ…気にするな!これで納得いったよ。何故俺がお前を間桐光太郎であるかと決めつけ、お前が俺を察知できたのか。ったく、これが運命…いや、宿命って奴なのか?」
フーフーと呼吸を整えたアルスは剣を握り直し、今度こそ戦いの狼煙となる布告を光太郎に叩き付ける。
「決めた。お前は確実に殺す!」
瞬間、光太郎は振り返りながら両腕を交差すると身体全身を揺さぶる程の衝撃が走る。
光太郎の背後へと移動したアルスが振り下ろした剣を何とか受け止めた光太郎だが、剣を降ろす手へさらに力を加えられ、徐々に足元か震えていることに気付く。
(このままじゃ…)
まずは距離を取らなければならないと判断した光太郎は濡れた人工芝を蹴り、後方へと逃れようとするがアルスは光太郎の思考を読んでいたかのように、光太郎が体重を後へとかけたと同時に腹部へ踵を叩き付けた。
「ガッ!?」
思わぬ攻撃を受けて腕の力が抜けてしまった光太郎への追い打ちは止まらない。次々と繰り出されるアルスの斬撃は光太郎のリプラスフォースを削り、裂き、傷を負わせていく。
後方へと移動してもアルスの攻撃を回避することが出来ず新たな切り傷が増えていくだけであった。
一方的。
光太郎は得意とする攻撃することが出来ず、反撃すら許されず、身体に深い傷を負い続けていた。それにアルスの攻撃は片手で剣を振るうという至って単純な方法を先ほどから変えずに振るっている。その単純な攻撃すら避けることが出来ず光太郎はダメージを受け続けているのだ。
(なんて重く、鋭い攻撃なんだ。このままじゃ…)
なんとか反撃の糸口を探そうともそれを許す相手でもない。斬撃が光太郎の胸板へ新たな傷を残し、苦悶の声を上げる光太郎は強引に地面を蹴り、上空へと退避。アルスは追うことすらせず十数メール上にいる光太郎を見上げるだけで動こうとしない。
チャンスは今。光太郎は右拳を握り、赤い光を宿し落下しながら真下にいるアルスの頭部目がけ、全力で叩き込む。
「ライダーッ!!パァンチッ!!!」
赤い軌跡を描きながら振り下ろされる拳。
だが、光太郎の拳は狙った箇所を捉えることなく、アルスの掌に受け止められてしまう。
「なっ…!?」
「これが、攻撃のつもりか?」
興醒めだと言い捨てたアルスは光太郎の拳を掴むと光太郎の着地をまたず、人工芝へと叩き付ける。鈍い音を立てて人工芝へと沈んだ光太郎は背中に走る激痛に声すら上げられない。
まるで自分の攻撃が通用しない。
その事実は身体に走るダメージより遥かに大きかった。
だが、それでも諦めない。負けられない。
問われた事にはっきりとした答えを出せるまで、死ぬわけには行かないと立ち上がろうとした光太郎だったが―――
「弱いな、お前」
「こんなんじゃ、守れるわけないな」
「自分も、お前の言う誰かもな」
アルスの言葉で光太郎の動きが止まった直後、光太郎の胸板に当てられた剣から閃光が放たれる。
それは目が眩む程の激しく赤い雷だった。
「なんだよ…」
「大したことないな」
アルスの下した評価に光太郎は反応せず、ただ倒れている事しか出来なかった。
(本当に、期待外れもいいとこだ)
光太郎が変身した時、自分と渡り合える程の猛者であったかも高揚したがいざ戦ってみればあまりにもあっけない幕切れとなってしまった。
いや、その前に心を揺さぶりすぎたかもと反省するアルスだが、どの道明確な答えを持たないままであればいずれ死ぬ運命にあったのだろう。それが早まっただけだと自分を納得させると剣の先端を起き上がる様子のない光太郎の喉元へと向ける。
これで自分達を解放した存在の思惑通りになり、怪魔界へと凱旋することとなるだろう。
後は僅かでも剣先を喉へと突き刺せば終わる、はずだった。
「ッ!?」
眼前まで迫った鉄杭を避ける為に後方へと飛んだアルスは着地と同時に今まで自分が立っていた場所へと目を向けると、女が立っていた。
長く艶やかな紫色の髪を持ち、黒い戦闘装束を纏ったメデューサが紅く輝く瞳を殺気で漲らせ視線を向けている。
「何者かは知りませんが…これ以上光太郎を傷つける事は許さないッ!!」
「なるほど、間桐光太郎の身内か…邪魔するってんなら…」
メデューサの言動から光太郎の縁ある者と判断したアルスは彼女との距離が10メートル以上の開きがあるにも関わらず、剣を縦に振り下ろす。
次の瞬間、風を切る音と共にアルスの放った剣圧がメデューサへと迫る。突然の衝撃に身構えるメデューサだったが耐えきることが出来ず、地面を転がりながら吹き飛ばされてしまう。
「く…」
「威勢だけならそこで寝てる奴よりマシだったな。だが、もうちょっと実力差ってのを埋めてから―――」
さらにもう一度浴びせようと剣をアルスは剣を振りあげる。敵対する相手の言う通り、聖杯戦争時と比べ力が半減した自分では…いや、当時の力を持ってもあの相手には敵わないかもしれないと先ほどの攻撃を受けて直感したメデューサは自身に迫る危機に歯噛みすることしか出来ない。
しかし、そんな危機感よりも、自分を庇うように立ち上がった人物の名を呼ばずにはいられなかった。
「光太郎…」
「ほう…まだ立てる力が残っていたか」
全身を切り裂かれたというのに立ち上がった事に関心するアルスを余所に、光太郎は左右に両手を伸ばし、ベルトの腕で両拳を重ねると同時にベルトの中央が赤く発光させる。
眼前で腕を交差させ、ゆっくりと左右に腕を広げていくと徐々に関節部からベルトと同じく赤い輝きが宿り始めていた。
キングストーンの力を全身へと行きわたらせた光太郎はアルスの攻撃によって受けた傷を強引に回復させ、全ての力を前方へ突き出した拳へと収束させていく。ベルトのエナジーリアクターよりも強く、激しい輝きを宿した拳を見てアルスは再び剣を光太郎へと向ける。
「そうだな…お前が戦う理由がそうならば、この場で力を発揮できても不思議じゃない。問題は…俺に届くかどうかだな」
「………………」
「言葉すら発しない…いや、既に意識すらないな、お前」
アルスの推測通り、今の光太郎にはとうに意識はない。ただ、敵の攻撃を受けて倒れてしまったメデューサを守りたい。その一心が身体を起き上がらせ、全てのエネルギーを込めた攻撃を繰り出す体勢となっているのだ。
そんな光太郎に対してアルスは両手で剣の柄を握る。これまで片腕でしか剣を振るっていないアルスにとって、意識を失おうが戦おうとする光太郎に対する敬意であった。
メデューサが見守る中、雨に打たれ続ける2人が動いたのは全くの同時。そして、攻撃を仕掛けた2人は一瞬にてすれ違い、5メートル以上の距離を開けて背を向けあっていた。
光太郎は拳を突出し、アルスは剣を振り下ろした体勢のまま微動だにしない。
だが、結果は直ぐに現れた。
「光太郎ッ!?」
光太郎の胸部から鮮血が吹き出し、地面に沈みながら人間の姿へと戻っていく。急ぎ駆け寄るメデューサが介抱し何度も声を掛けても意識が戻る気配はない。危険な状態だ。
「なるほど、な」
ゆっくりと振り返りながら兜へと手に触れる。兜の装飾である角1本が見事に折られていた事に声を漏らしたアルスは鎧を消失させ、光太郎達へと近づいていく。
「せ、セイバー…?」
「そんなに似てるのか。そこまで言われると一度会ってみたくなるな」
光太郎を庇うように抱き寄せるメデューサの反応に、自身の容姿と似ているとされる人物に興味を抱いたアルスは懐から折りたたみ傘を取り出し、展開すると踵を返してその場から離れていく。
「起きたら伝えといてくれ。今度は迷いのない状態でやり合おうってな」
段々と小さくなっていく少女の背中を警戒しながら光太郎を木陰へと移動させ、応急処置を進めるメデューサのポケットから携帯電話の着信音が鳴り響く。
今は光太郎の治療に集中したいところだが、いつまでも鳴りやまないことから非常事態かもしれないと電話を手にして耳へと当てる。
それはメデューサをさらに混乱させる内容だった。
「サクラが…誘拐された…!?」
敗因は雨だけでなく、もしもの話に踊らされた結果となりました。
さて、アルスさんの言った言葉に対しての回答は…?
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