の、34話となります!
クライシス帝国の怪魔異生獣ムサラビサラを仲間達の協力を得て倒した間桐光太郎。
戦いが終わり、互いの無事を確かめ会っていたのもつかの間。ムサラビサラによって子供たちに蔓延した毒の血清を作る為に自分からその毒を受けた光太郎を心配する余りに強い口調でメディアの元へ連れて行くメデューサの姿を見て、間桐慎二は言いようのない不安を抱いていた。
一方、クライス要塞ではジャーク将軍がクライシス皇帝の代理人と名乗る男から星騎士の封印が何者かによって破壊され、地球へと逃げ出したと連絡を受ける。
すぐにでも討伐するべきと主張するジャーク将軍であったが、その意に反し、クライシス帝国にとって最大の障害である光太郎を抹殺する為に敢えて泳がせるという皇帝の決定に黙って従うしかなかった。
それから数日後、新都へと向かう衛宮士郎と間桐桜はセイバーと瓜二つの少女と接触。思わず声をかけたが口調や声の違い、そして本人の申し出から別人であると気付く。
そしてその少女こそがかつてクライシス帝国へ反旗を翻した星騎士の1人、地球に存在していたとある人物の姿と能力を模して新生した火星騎士アルスであった。
「エマージェンシー!エマージェンシー!」
クライス要塞の指令室内で響く音声に誰もが発生源である小型ロボットへと目を向ける。
「オイオイ一体なんだってんだ?」
「何をそんなに喚いている?」
それぞれ怪魔ロボットの設計や愛刀の手入れをしていたガテゾーンとボスガンの質問に浮遊する官房長ロボット・チャックラムは捲し立てるように口早く回答する。それは2人の大隊長すら驚愕する内容であった。
「なんと、いう事…」
マリバロンは目の前で火と煙を上げる巨大なカプセルの前でそんな言葉しか漏らすことしか出来ない。その背後では白髪の老人が両手で頭を抱え蹲り、私のせいではない、私のせいでは…と連呼し、懸命に目の前で起きてしまった事から目を逸らし続けていた。
その部屋はマリバロンが監督するとある人物の成長を管理する為に設けられた一室だ。巨大なカプセルの中でとある人物の細胞より生まれた新生児を寝かせ、成長促進光線を常に照射し続けることで成人まで成長させる。
マリバロンがジャーク将軍によって課せられた最重要任務であるはずだった。
しかし、その人物が眠っているはずのカプセルはその日にカプセルのシステムチェックを行っていたチャップが装置で誤動作を起こし突如炎上、爆発を起こしてしまう。
カプセルと装置周辺は炎に包まれ、近づくことさえできない。いや、その人物の成れの果てを見ない為に近づこうとする気すら起きないのかもしれない。
なぜなら、そのカプセルの中で眠っていたのは―――
「ゲル―ッ!?ガロニア姫様のカプセルが燃えてやがるッ!?」
「な、なんということだ…どうしてくれるのだマリバロンッ!この事が皇帝に知られれば、貴様だけでなく我々の命がないのだぞッ!!」
茫然としている最中、騒ぎを聞き付けて部屋へと入ってきた燃え盛るカプセルを目にしたゲドリアンは悲鳴を上げ、ボスガンは動揺しながら自分達に降り注ぐであろう最悪の未来を口にする。ボスガンの指摘にマリバロンは歯噛みしながらも同意する他ない。
隊長達がそう考えてしまうのも無理はない。カプセルの中で眠っていたのはゲドリアンが呼んだ通り、名はガロニア姫。彼女こそクライシス皇帝の細胞から生まれ、帝国の次期支配者となる存在なのだ。
地球を征服した暁にはガロニア姫を地球の王として祀り上げ、後に怪魔界からクライシス皇帝を出迎える計画を進めていたが、その姫を失ったことで水泡に帰してしまう。
そしてボスガンの言う通り、ガロニア姫の死なせてしまうという罪を犯したマリバロンに待っているのは、クライシス皇帝の怒りによる断罪。自分は勿論、地球侵略部隊の司令官であるジャーク将軍すらボスガンの言う通り死罪となる可能性もある。
事が他の隊長に知られてしまった以上、マリバロンは隠し通す事など不可能と悟り、自分を右腕として見出してくれたジャーク将軍の不名誉とならぬよう、自分を処罰して頂くしかないと覚悟を決めたその時。
「何の騒ぎだ…」
ガテゾーンを連れたジャーク将軍の登場に、その場にいた者達は即座に行動へ移った。
「じゃ、ジャーク将軍ッ!!一大事にございます!姫が、ガロニア姫がお亡くなりになりましたッ!!」
「これも全て監督者であるマリバロンの責任!」
口ぐちに報告するゲドリアンとボスガン。内容は己の保身と罪を総べてマリバロンへと被せるものばかり。事実がそうである為に、マリバロンには弁明の余地はなくただ自分に下されるだろう罰を受けるよう自ら申し出た。
「ジャーク将軍。ボスガンの言う通り、全てはこのマリバロンの監督不行届ゆえに起きた失態…どのような罰も受ける覚悟はできております!」
膝を着き、首を垂れるマリバロンの懺悔が籠った声が室内に木霊する中、ジャーク将軍は手にした杖の柄を空いている掌へ数度打ち鳴らし、燃え続けるカプセルをしばし見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「ガロニア姫は、本当に死んだのか?」
「ハ?」
ジャーク将軍の聞くまでもないような質問にボスガンは内心呆れながらも大げさに両腕を広げながらも答えた。
「何をおっしゃるかと思えば…あのような火と爆発に包まれてしまえばいくらクライシス皇帝の御息女と言えど―――」
「姫の御遺体を確認したのか?」
先程よりも鋭く、重い一言にボスガンは閉口し、内心ライバルが減るとほくそ笑んでいたゲドリアンもハッとしてカプセルを見返す。
「姫の肉体の一部、血液、お召し物…そのどれかを確認した者はここにいるのか?」
ジャーク将軍の問いに誰も答える者はいなかった。
ジャーク将軍の言う通り、チャップが誤動作でカプセルを爆発させたという知らせを聞いて部屋へ囲んできた時には、カプセル周辺は既に火の海であり誰もがもうガロニア姫はこの世に存在していないものと考えてしまった。
「ムーロン博士。最後に姫を確認した時は、どれ程成長していた」
「は、はい!確か…地球人で言えば16、7歳程に…」
今まで打ち震えていた白髪の男…研究者のムーロン博士は記憶をどうにか呼び起こし、今から数時間前に見たガロニア姫の姿を思い出す。数か月前までは赤子だった姫が成長促進光線によって見る見る成長する姿に自分の研究成果は確かであると頷いていたはずだ。
「ふむ…」
ムーロン博士の報告を聞き顎に手を当てたジャーク将軍の脳裏にある可能性が浮上する。その考えを確かめるべく、後を見ないまま今も頭を下げ続けているマリバロンの肩に手を置いているガテゾーンへ命令を下した。
「ガテゾーン」
「ハッ」
「最後に姫の様子を確認したチャップへ例の装置を取り付け、記憶を探るのだ」
「マインドスキャン装置ですか?一体何を…ああ、そういうことですかい」
「急げ。そしてテレポートスペースの履歴も全て洗い出すのだ」
「アイアイサー」
ジャーク将軍の意図を読み取ったガテゾーンは立ち上がりながら再度マリバロンの肩を優しく叩くと室内の隅で拘束されているチャップを連れていく。そのチャップも自らのミスでガロニア姫を死なせてしまったという過失から、足取りも重い。
「あ、あのジャーク将軍。ガテゾーンはあのチャップをどうするので…?」
「チャップの頭を除いた所で姫の死の真相は…」
「お前達、何をしている!」
部屋を後にしたガテゾーンの行動が読めないゲドリアンとボスガンの様子にジャーク将軍は2人の方へ振り返り、さらにドスを利かせた声で指示を出した。
「いつまでこの部屋を放っておくのだ!さっさと火を消せッ!!」
「しょ、承知しました!」
「おい、早く消火剤を片っ端から持ってきやがれッ!!」
慌てて室外へと飛び出し、控えていたチャップ達と共に通路を駆ける隊長2人の姿に深くため息を付いたジャーク将軍は状況が理解出来ないまま顔を上げているマリバロンへ自身が抱いた予測を伝える。
「マリバロンよ。どうやらガロニア姫は、我らの予測を上回り恐るべき成長を遂げていたようだ」
今日で3日目となる雨。洗濯物が乾きにくいと内心で不満を募らせながらも間桐桜は自宅へと向かっていた。
本来であればこのまま弓道部の練習に参加するつもりだったが家に忘れ物したと気付き、部長である美綴綾子の許可を得て水たまりへ踏み込まないよう気を遣いながら間桐邸へと急いでいる最中である。
(はぁ、それにしてもメデューサ姉さん。光太郎兄さんにべったり過ぎるなぁ)
桜は可愛らしく表現しているが、実際には光太郎の行動への監視に近い。大学のある日も昼には一度体調は優れているかの報告を義務付け、就寝前と起床時には部屋を尋ねメデューサが納得するまで光太郎の様子を確認。そして週一度の検診に同行までしてるのだ。
自分を顧みない行動が目立つ光太郎にとって効果は絶大だが、どうにも桜は腑に落ちない。以前は、こちらが見ていても暖かい気持ちになる2人の姿を見ていた気がしたのだが…
(エスカレートしなければいいなぁ…)
今朝、確か新都で買い物があると言っていた光太郎に対し、必ず検診の時間までには戻ってくださいとやや強めに言ったメデューサ。間違いなく光太郎を気遣ってのことだろう。だが、そればかりが前に出て肝心の光太郎の気持ちをくみ取る事を見落としているのではないか…
彼女をそうしたのも、最近また何も言わずに行動を起こす義兄にも原因があるのだが…
2人の関係が悪化しなければいいなと祈る桜は家の付近まで続く長い坂道にたどり着いた時だった。
「あれは…?」
見れば大きめの布を両手で掲げながら雨を避けている人物の姿が目に入った。このご時世には不似合いである地面を擦ってしまう程に長い裾のドレス姿の女性であり、背丈も桜に近い。何処に向かえばいいのだろうかと右往左往している辺り、道に迷っている様子だ。
(そういえば、セイバーさんと似た人を見かけた日も、雨が強かったっけ?)
もしかしたら、また誰かのそっくりさんかも知れないと小さく笑う桜は人物へと接近する。いくら変わった背格好の人だからと言って放ってはおけない。
「あの、どうかしましたか?」
肩にバックを掛け直しながら歩み寄った桜の声に反応し、ドレス姿の女性がゆっくりと振り返る。
「え―――――?」
(何なんだ…?)
新都の大型書店を出た光太郎は周囲を見渡しながら人込みの中を進んでいく。
目当てだった参考書が見当たらず、注文しようかとサービスカウンターへといざ向かおうとした時、光太郎の中で警鐘が鳴り響いた。
10年前に冬木で聖杯の中身が溢れ大災害が発生した時、ゴルゴムが世界への宣戦布告として新都を怪人軍団で襲わせた時、そしてクライシス帝国出現を予測した時…
そのどれよりも強く、大雨で肌寒いというのに汗が止まらない。
(それ程の事が起きようとしているのか…キングストーン)
過去、そのどれもが光太郎の体内に宿るキングストーンの意思によるものだったが、今のところキングストーンは応えずただ警戒を怠るなと言わんばかりに働きかけている。まずは確かめなければと外に出た光太郎は次第にキングストーンの反応が強まっていることをひしひしと感じ、さらに街中へと踏み込んでいった。
雨音や信号の音、人々の会話が異様に大きく聞こえ、自分の強化された聴覚がコントロール出来ないほどに緊張状態にあるのだろうかと眉間に皺を寄せ、意識を集中させたその先に、そいつは立っていた。
相手との距離は道路2車線を跨いだ通路の向こう。人が次々と通り過ぎていく中、立ち止まったまま手にした折りたたみ傘をゆらゆらとさせながら光太郎の姿を見る。向こうは光太郎の存在をとっくに把握していたのか、ようやく気付いたかと言わんばかりに口元を歪ませる。
「…ッ!?」
先程とは比べものに鳴らないほどの動悸と荒くなる呼吸。自分を見つめる者の容姿、手にした見覚えのある折り畳み傘など驚く点はいくつもある。
しかし、それ以上に光太郎は相手への警戒心が強まっていく中、その人物の口はこのように言っているように動かしていた。
やっと見つけた、と。
クライス要塞の一室で、ベットへと横たわっている1体のチャップの頭部に巨大なヘルメットが装着され、そこから数本の配線がモニターへと繋がれている。
ガテゾーンはジャーク将軍の指示通り、カプセルを破壊した原因であるチャップの記憶を呼び起こす装置の準備を整え、キーボードを数度叩く。これでチャップの脳へと行きわたった情報が映像へと映し出されるはずだ。
(さて、将軍の予想通りになるのかなっと)
膨大な記憶の中からつい先ほどまでの出来事へ焦点を絞り、映し出されたのは、チャップの視点でまだ爆発していないカプセルの点検をする様子だった。
(自分以外の視点っても、妙な感じだ)
などとロボットとは思えないなと自虐しながらモニターを見続けるガテゾーン。チャップの視点は機材からやがてカプセルに眠っているガロニア姫へと向けられた。
ムーロン博士の言った通り、外見の年齢は16,7歳程に成長しているようだ。定期的に胸の辺りが上下している辺り、しっかりと呼吸もしていたのだろう。
そして最後にチャップの手がカプセルの表面に汚れや傷がないかと触って確かめていた途端だった。
今まで眠りに付いていた姫が突然目を開き、妖しくも赤く光る瞳をチャップへと向け、ブツブツと口を動かしている。
直後、手にしていた書類を床に落とし、だらりと両手を下げたチャップはゆっくりとした動作でカプセル横の端末を操作を開始。最後に端末の横に設置されたレバーを倒すと、カプセルが音を立てて開き始めていた。
「…これは、催眠術か?」
ガテゾーンはキーボードを操作してガロニア姫の口元を拡大。さらに口の動きから姫が口にした言葉を予測し、モニターとは別の画面に表示させた。
『こ・こ・か・ら・だ・し・な・さ・い』
「………………………」
もし自分が生身の人間であれば、背筋が凍っていたかもしれないなと考えたその後の映像は、やはりジャーク将軍の予想通りの展開となっている。
カプセルを出たガロニア姫はさらにチャップからテレポートスペースまでの道順を聞き出した後にカプセルを破壊するよう催眠術を施し、部屋を後にしている。
マリバロンが部屋へとやってきたのは、それから数分後の事だ。
「なんてこったい」
「ガテゾーン様。転送機の履歴になります」
「おう、ごくろうさん」
一言感想を漏らしたガテゾーンに別個体のチャップが要塞内にあるテレポートスペースの転送記録を受け取り、その中で赤い文字で書かれた部分と、ガロニア姫が逃げ出した時間が一致している。
つまり、姫は自分があの場で死んだ事にしようと自作自演を行った訳だ。
理由は分からんがこれでジャーク将軍とマリバロンの気は少しは休まるだろうと通信機を使い指令室へと繋ごうとしたガテゾーンだが、モニターに映るガロニア姫の顔がどうにも見覚えがある。そして自身のコンピュータのデータを呼び起こし、ガロニア姫の画像の横に、該当する人物の画像を並べてみた。
「…ちょいとやっかいな事になりそうだな」
その画面には違う人物でありながらも、瓜二つの顔が2つ並んでいた。
「えっと…」
「あらあら…」
雨音が鳴り響く中、互いを見つめ合った少女たちはそんな声を出すことしかできない。
「な、なんで私が…」
そのうちの1人、間桐桜はドレス姿の少女の顔を見て思わず呟く。そしてそれは相手も同様だったようだ。
「ワタクシとそっくりさんがいるなんて…あは、こんなことが地球ではありえますのね!」
だが桜とは対照に破顔一笑する少女はずいっと前へ踏み込んで、今度は顔だけでなく桜の全身を値踏みするように見つめてくる。驚くばかりの桜は先日のセイバーの一件を思い出し、もしや光太郎の近しい人間と似た人物を送り出すクライシスの策略なのかという考えを浮上させる。
「う~ん。やはりこの服ではどうにも動きにくいですのよね。裾が水を吸収して重たくなってきましたし…あ、そうですわ!」
が、そんな考えを持っているとは思えない程様々な表情を見せる自分と同じ顔の人物の様子を見て、桜は警戒をしながらも手を打ち鳴らしてこちらに向けられた笑顔でとんでもない提案が持ちかけられたのであった。
「もしよろしければ、ワタクシと服を交換して頂いてもよろしくて?」
「え?あ、あの…おっしゃる意味が良く分からないのですけど…」
「あら、ワタクシの召しているドレスがお気にめさないのですか?中々高級の素材を使っているようなのですが…」
「いえ、そうじゃなくて」
「ああ、そう言えば雨に濡れたうえに汚れていましたのね。これは失礼。ワタクシ、自分の事ばかりで彼方の事まで気が回りませんでしたわ」
「私の話を聞いてます!?」
まるで噛みあっていない応酬につい言葉を張ってしまった桜に対して、少女は笑顔を崩さないまま桜の肩に触れ、穂群原学園の征服であるブレザーをそっと撫でる。
相手の突拍子のない行動にすぐさま身を引いた桜だが、変化は突然現れた。
少女の纏った服が突然光ったと同時に弾け、細かな粒子へと変化。光の中であられもない恰好となっている光景を茫然としてた桜だが、自分と同じ顔をした人物が人通りないがないとはいえ姿となっていることに顔を真っ赤にして周囲を見回して、誰もいないかを確認する。
「な、何をやっちゃってるですかこんな往来で―――――ッ!?」
「大丈夫、もう終わりましたわ」
「え…?」
確かに光が消え失せたと同時に少女は再び服で身を包んだ姿となった。それも桜と全く同じ学生服を纏って。それだけではない。手荷物や、手にしている傘まで全てが同じなのだ。
「フフフ…ワタクシが着ていたドレスを粒子変換して再構成しましたの。驚きました?」
もはや茫然とするしかない桜に対し、少女は再び顔を近づけると、その大きい瞳を赤く染めながら目の前に立つ少女へ訪ねた。
「あともう一つ、ワタクシのお話を聞いてくれますでしょうか?」
「あ…」
少女の瞳を目にした途端、桜は何故か少女の願いを聞き入れなければならないと考えてしまう。見ず知らずの少女のはずなのに。だがその考えすら思い浮かばなくなっしまっていた。
「少しの間でいい。ワタクシに、彼方と同じ生活を体験させて下さい。彼方は、家に帰って頂いてよろしいですか?」
「は…い…」
「では、彼方を知る為に少しだけ記憶を覗かせて貰いますわね?」
既に少女の言葉に頷くことしか出来ない桜の額に人差し指を当て、目を瞑ると桜のプロフィールが流れ込んでくる。
(間桐桜…穂群原学園所属の学生。家族構成は父に兄が2人。姉が1人…いえ、2人ですわね。それに同居人が1人…交友関係は…うん、これで十分ですわね)
読み取った情報に満足した少女は指を話すと踵を返し、穂群原学園へと向かう。
「では桜さん、後でまた暗示を解きに行きますのでお家で待っていてくださいね!」
「ハイ…ガロニアサマ…」
虚ろな瞳で返事をした桜もまた振り返り、間桐邸へと歩き始めた。
「さて、学校…どのような場所なのでしょう…あら?」
ふと少女は自分の髪に結ばれているリボンに気が付き、数度触るとあっさりとリボンを解いて丁寧に畳むと制服の内ポケットへと収納する。
(かわいいのですけど、ワタクシは髪を遊ばせておくのが好きですからね)
黒髪をゆっくりと撫でた少女…ガロニアは向かう。クライス要塞では知りようがない『日常』という場所を目指して。
「遅いですね光太郎…それに、嫌な予感がします」
時計を見上げ、間桐家に戻ると言った時間を既に30分以上経過している。腰かけていた椅子から立ち上がったメデューサは傘も差さずに外へ出るとその身に戦闘装束を纏い、電柱を足場にして移動を開始する。
現在アクロバッターとライドロンは活動範囲を広げたクライシスに対抗する為、ダミーの人形を搭乗させ巡回を行っている。こんな時、2輪の免許も取得しておけば良かったと考えるがそんな後悔は遅い。
一刻も早く光太郎の元へ向かわなければと跳躍するメデューサは自分の眼下で歩く少女の姿が目に映った。
(サクラ…?今日は部活があったのでは…いえ、家に向かっているのならば問題ありません。今は光太郎を優先です!)
自己完結させたメデューサと桜はすれ違うようにその場から離れていく。
もし、メデューサがガロニアの催眠術にかかってしまった桜に少しでも違和感を覚え、彼女を呼び止めていたのならば事態は大きく変わったのかもしれない。
だが、それにメデューサが気が付くのは、しばし時間を置いてのことだった。
新都の大災害跡地。
人工芝が広がるその土地で2人の人物がいた。
そのうちの1人は全身を銀色の甲冑で包み、片手に白銀の剣持って相手を見据える。強くなった雨に打たれ、飛沫を上げる甲冑には傷一つなく、美しささえ感じてしまう程だ。
「なんだよ…」
対し、甲冑を纏っている人物の声は低い。まるで期待はずれと言わんばかりに、自分と対峙していた者へ下した評価を口にした。
「大したことないな」
黒い身体を全身切り刻まれ、赤い複眼に大きな亀裂を走らせた仮面ライダーBLACKが、倒れていた。
雨は、まだ止まない。
~おまけ~
「ふんふんふふ~ん♪」
ご機嫌にステップを踏みながら学校を目指すガロニアはこれから見るもの全てが楽しみで仕方がない。
あのカプセルの中では叶わない「学校生活」とはいかなるものであるのかと期待に胸膨らませて目指していたその道中。
(衣服が違うだけでこんなにも動きやすいものですのね!特に胸の辺りなんてこんなにも余裕があって…余裕?)
ピタリと動きを止めたガロニアは周囲を見渡しながらそっと制服の第一ボタンを外し、服の中を覗き込む…
繰り返すが、ガロニアは桜と全く同じ衣服へとドレスを変換した。そう、『サイズまでまったく同じ』に。
直ぐ様に衣服の微調整を行ったガロニアは再度学校を目指す。
(まぁ、少なからず違いはありますもの。ええ、あります。あるから面白いのですよね、この世界は…)
若干不機嫌となりながらも雨の中をガロニアは行く。
どうやら、容姿の全てが同じとは限らなかったようだ。
オマケで最後のアレな展開は帳消しになった…かな?
気軽に感想等書いて頂ければ幸いです。
執筆の後押しにもなっちゃったりしますので!