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では、33話となります!
「お、おのれ…!!」
月が雲に段々と覆われていく深夜。怪魔異生獣ムサラビサラは新都のビルの群を抜け、冬木を二分する未遠川の上空を全力で飛行していた。
自分の主であるクライシス帝国 牙隊長であるゲドリアンの命令通り、自分の使い魔であるムササビで子供たちに毒を蔓延させ、自分はムササビであると思わせ高所から次々と墜落死させる作戦を進めていた。
だが、その作戦をクライシス最大の敵に感付かれてしまう。
必死に逃亡するムサラビサラの眼下に広がる未遠川を水しぶきを上げ走行する機体に目を見張った。
「す、水上を走るだと…!?」
昆虫の頭部を思わせる赤い機体ライドロンの恐るべき性能に戦慄するムサラビサラ。しかしいくら水上を走れようが飛行する自分に追いつけるわけがないとさらに高度を上げようとするが、ライドロンのドアが開くと片手にライフル銃を持った間桐慎二が車上へよじ登り、不安定な足場であるにも関わらず地表にいるような自然体で立ち、数十メートル上を飛行するムサラビサラを視界に捉える。
ムサラビサラに目を向けたまま慎二は腰に下げているケースからアルミ缶に似た灰色の筒を取り出し、手にいたライフル銃の銃口に取り付ける。それにより銃身の先が通常とは違う重さとなりながらも銃口は全くブレが生じずピタリと夜空を飛び回るムサラビサラへ狙いが定まっていた。
(これも地味な訓練の成果ってやつかね。武大先生に感謝っと!)
内心で居候への賛辞を贈ると同時に打ち出された巨大な弾丸は正確にムサラビサラへと飛んでいく。
だが弾頭自体の重みがあるためかスピードが遅く、ムサラビサラは下から迫る弾丸の軌道を見切りあっさりと躱されてしまった。
慎二の狙い通りに。
「ギギャッ!?」
さて何処に逃げようかと慎二の攻撃を回避したことで余裕を取り戻したムサラビサラは頭上で破裂音と共に自分の周囲が光によって照らされることに驚き間抜けな声を上げてしまう。
見ればムサラビサラの数メートル上で破裂したのは、慎二が発射した弾頭…閃光弾であった。思わず振り返ってしまったムサラビサラはその光を目にしてその眩しさに目を閉ざす。もしやこちらの視覚を遮るという小賢しい手段を取ったのかとムサラビサラは思考するが、間違ってはいない。
慎二が放った閃光弾はムサラビサラを一瞬足止めさせる以上に、ムサラビサラの姿を先回りして河川敷に移動していた間桐桜へ位置を把握させる為のものだ。
「さすが兄さん。言った通りです」
閃光弾で姿がはっきりと目に映るムサラビサラに向け、弓に矢を番えていた桜は義兄の読みに感服すると同時に矢を放つ。
風を切りながら上昇する矢は赤い光を帯びてさらにスピードを増していき、ムサラビサラが自身に迫る脅威に気付いたのは、その矢が頭部に着弾して爆発した後だった。
「…っ!?!?!?!?!」
狙った対象に触れた際に燃やすだけでなく、爆発させる術式まで上乗せする事でさらに強化された桜の攻撃にムサラビサラの顔は表面に焦げ跡が残る程度しか外傷はないが、口内や目などはそうはいかない。
最もダメージを受けやすい部位に走る痛みに顔を手で押さえ、羽ばたくことを忘れたムサラビサラの高度は見る見る下がってしまうが怪魔異生獣の再生能力の故か、段々と痛みが引いたことで自分に不意打ちをしかけた人間の少女を睨むが、相手は既に第2射の準備が整っている。
同じ手を受けない為にさらに上へと上昇を試みたムサラビサラであったが既に遅く、翼を広げた時には下方から迫った鎖によって両足が縛られた後であった。
「逃がしませんッ!!」
鎖を辿る先で紫色の髪を靡かせ、戦闘装束を纏ったメデューサがムサラビサラを地表へ引きずり降ろそうと力一杯に力を込める。もし彼女の力が聖杯戦争時と同等であればそれも可能であっただろう。
しかし現代に新生した為かその力は半減されてしまいムサラビサラを逃がさない為に鎖を引き続けることが今の彼女の限界であった。
だが、彼女達の策はそれで終わりではない。
このまま強引に上昇し、自分の足を引く女を振り回してやろうとムサラビサラが考えた矢先、自分とメデューサによって引き合ってピンと伸びた鎖の上を駆け上がって来る影が次第にその姿を現していった。
少しでも足の付く位置がずれてしまえば落下してしまい、さらに言えば鎖という安定しない道を臆する事無く進んで行き、両手に持った刀を振り上げた赤上武は敵まであと数メートルという距離まで詰めると足場である鎖を蹴り、ムサラビサラの頭上へ飛ぶ。
「ハァッ!!」
掛け声と共に振り下ろされた2刀がムサラビサラの後頭部へ直撃。チャップや怪人素体を難なく切り裂くアーチャーにより投影された業物でもムサラビサラの薄皮一枚傷つけるにも至らない。
だが刀を叩き付けた衝撃でムサラビサラを地上へ落下させるには充分の威力を発揮していた。
河川敷に衝突し、頭を振って立ち上がるムサラビサラはここまで自分を追い詰めた者達…ムサラビサラとは異なり地上へしっかりと着地した武の元へ集う慎二、桜、メデューサを威嚇しながら迫っていく。
難敵から逃れる途中ではあるが、ただの人間達にコケにされたままでは我慢できない。
腹いせに皆殺しにしてくれようと牙をむき出しにするが、背後が迫る爆音に思わず身震いしながら振り返ってしまう。
河川敷の向こうから迫る青い機体…アクロバッターを駆り、夜でもはっきりと目に移ってしまう黒い体躯と、関節部と複眼を真っ赤に光らせて接近するのは間違いなくムサラビサラが逃れていた難敵に間違いなかった。
仮面ライダーBLACK…間桐光太郎だ。
逃れようとしても、既に手遅れ。
アクロバッターのグリップを何度も捻り、さらにスピードを上げたアクロバッターはムサラビサラが逃れようと翼を広げるよりも早く、バッタの意匠を遺したフロント部を怪人の胴体に叩き付ける。
さらにキングストーンの力を限定的に全開放した状態で右拳を強く握っていた光太郎はアクロバッターの体当たりと全く同じタイミングでパンチを繰り出しており、拳を受けたムサラビサラの顔面は醜く変形させながらめり込ませていた。
光太郎とアクロバッターの同時攻撃を受けたムサラビサラは受け身など取れることなく身体を2転、3転と回しながら吹き飛んでいく。
ヨロヨロと立ち上がろうとするムサラビサラに対し、アクロバッターから降りた光太郎は尽かさず最後の一撃を打つ為に動作を続けた。
両腕を左右に広げ、ベルトの上で両拳を重ねると同時にベルトの中央部にある赤い石が強く発光する。
右腕を前方に突出し、左腕を腰に添えた構えから両腕を右側に大きく振るい、左腕を胸の前で水平に、右拳を右頬の前に移動。
更に右拳を強く握りしめ、天高く跳躍する。
「ライダーッ―――」
エネルギーを纏った右足をムサラビサラに向け落下し―――
「―――キィックッ!!」
胸板へ必殺のキックを叩き付けた。
「グオォォォッォォォッ!?」
光太郎の必殺技を受け、さらに十数メートル先で落下するムサラビサラ。
両手を広げた構えのまま、片膝をついて着地した光太郎は、なんとか身を起こしながらも身体の所々から火を噴き、爆発の中に消えた怪人の跡に残る煙を目にしながらゆっくりと構えを解いて立ち上がるのであった。
「光太郎兄さん、お疲れ様です」
「見事な一撃だったな」
「まぁ、あんなもんじゃないの?」
人間の姿となった光太郎へ駆け寄る桜、武、慎二からそれぞれ賛辞を受けた光太郎が自分の無事を伝えようと右腕を上げた直後、その腕を横から現れたメデューサにがっしりと掴まれてしまう。
「あれ…メデューサ?」
「……………………」
名を呼ばれても無言で光太郎の手を取って歩き出したメデューサも光太郎と同様、人間の衣服へと戻り眼帯ではなく今では役割をほとんど果たしていない魔眼殺しの眼鏡の向こうに映るその目は、明らかに不機嫌である。
「行きますよ光太郎」
「行くって、どこへ?」
「メディアのいる柳洞寺です。彼女に光太郎の身体を診てもらわないといけません」
「いやいや、もう戦いは終わったんだし…」
「何を言っているのです!今回の件で、敵の毒を解析する為に彼方の取った行動を忘れたのですかッ!?」
いつも以上に強い口調となっているメデューサに反論できない光太郎。
そう、今回の敵であるムサラビサラの標的となり、その毒に犯された多くの子供たちを救う為に血清が必要となるのだが、光太郎は無謀にもワザと敵に噛まれ、毒が全身に行きわたらないうちにメディアへ毒の吸引を頼み、何とか血清の精製に必要である毒を手に入れることが出来た。
しかし敵が現れた事で血清の完成をまたず飛び出した光太郎をメディア達が追いかける事となり、今にいたるのである。
「…子供たちは既に全員助かり、怪人も倒されました。しかし、光太郎に何も起こらないという保証はありません」
「け、けど…」
言い訳しようにも強い意志を秘めたメデューサの瞳に睨まれた光太郎は、彼女の持つ魔眼の威力とは無関係に口を開くことが出来ない。
実際には毒を取り出した時点で身体に残った微量の毒は既にキングストーンの力によって除去されているのではあるが、それでも彼女は納得しないだろう。今回の件だって、何となく彼の行動を見抜いていた慎二以外には黙って実行していたため怒られる事は覚悟していた。
が、想像以上に彼女を怒らせてしまった光太郎にはメデューサの気が済むまで言う事を聞くしかないと諦めるしかなかった。
既にドアを解放して待機していたライドロンは2人が乗り込むと目的に向かうため、川の中へ潜水していく。
(いや道路走らないのかよ)
既に夜中なので道路を通行する一般車両はほとんどいないのに関わらず進んで行くライドロンの姿を見守る慎二は心の中で突っこんでいた。
その後、アクロバッターに乗った桜を先に間桐邸へ帰らせた慎二と武はタクシーを拾う為に道路へと徒歩へ移動中に先ほど繰り広げられていた光太郎とメデューサの会話を思い出していた。
「いやはや、光太郎殿を心配するメデューサ殿の姿は、完全に保護者であったな」
「…………………」
「慎二殿?」
普段なら全くだよと同意する慎二だったが、光太郎とメデューサの姿に、言いようのない不安が膨れ上がっていた。
きっかけは光太郎が太陽の光なしで強引にBLACKからRXへ変身した副作用で倒れてしまった頃からだろうか。いつも無茶をする義兄に対し、メデューサはより心配するようになってしまっている。
それこそ武の言う通り、子供を心配するような過保護の親のような…
「いや、光太郎相手なんだから、あれくらいがちょうどいいんじゃない?」
だが、考え過ぎだとその不安を振り払った慎二は片手を上げ、ちょうど自分達の近くを走行中であったタクシーを呼び止める。
嫌な予感は嫌な未来を引き寄せる。
慎二の抱いた不安は最悪な形で的中してしまう事となる。
クライス要塞
「お、俺のムサラビサラがぁ…」
「フン、あれだけ大見得を切って大したことがなかったではないか」
「なにおう!?そう言うボスガンの怪魔獣人だってあっけなく倒されたじゃねぇかッ!!」
「き、貴様…!?」
モニターでムサラビサラが爆散する光景を眺めていたクライシス帝国の牙隊長ゲドリアンと海兵隊長ボスガンの見苦しい言い争いを呆れる諜報参謀マリバロンはこれまで次々と敗れ去っていったクライシスが誇る最強の戦士の記録を見る。
怪魔異生獣アッチペッチー
怪魔獣人ガイナマイト
怪魔ロボット スクライド
怪魔妖族ズノー陣
クライシス帝国最大の障害である光太郎を討つべく念密な計画を立て、その中にはRXへ変身させない為に真夜中に実行した作戦もあった。
しかし全てが途中で見抜かれてしまうか、予想外の反撃によって計画が破綻。マリバロンが手にするパットに浮かぶ戦士はRXやBLACKによって打ち倒されてしまっている。
否、脅威は光太郎だけではない。
先程ムサラビサラが敗れ去った時と同様、仮面ライダーの周りにいる協力者によってあと一歩まで追い込んだ所を邪魔されたのは初めてではないのだ。
「こいつは、色々と作戦を練り直さなきゃならねぇようだな」
「ガテゾーン…ようやく部屋から出られたのね」
「まぁな。俺の場合はボディーの電源を落としときゃビームを一日中浴びても痛みはない。おかげで、次に製作する怪魔ロボット設計も時間をかけて練れたって訳だ」
「フフフ…転んでもただでは起きないわね」
マリバロンの背後に現れた機甲隊長ガテゾーンはマリバロンの質問に答えながら、未だ言い合いを続けているボスガンとゲドリアンを無視しこの場にいない司令官の姿を探していた。
「…将軍は何処に?」
「そういえば、先ほどからお見えにならないわね。確か…クライシス皇帝との通信に使う、我々の立ち入りが禁止されている部屋に向かったはず…」
そこは、クライス要塞の中でジャーク将軍がクライシス皇帝へ報告する際に使われる特別な部屋となっており、ガテゾーン達隊長には入出が禁止されている間だ。
ジャーク将軍は地球侵略が進まないことに怒り、その言い分を聞こうと呼び出されたのだと考えていた。
もしそうであれば、処分は自分のみで部下である隊長達を引き続き侵略作戦へ参加させるよう懇願するつもりであったが、ジャーク将軍の予測は外れる事となる。
「…まさか皇帝の代理人である貴様がこの通信を送って来るとは、余程のことなのか」
『本来ならば皇帝直々に地球侵略が遅れている事に関してのお叱りが飛ぶところだが、今そのような余裕はこちらにはなくなったのだ』
時空の揺らぎが原因の為か、異世界である怪魔界との通信機に支障が起きており、ジャーク将軍の前に映るモニターはノイズが走り映像がはっきりと映らず音声のみが部屋に響いている。
それよりもジャーク将軍が気になるのは、クライシス皇帝の代理人と名乗る男の言う出来事だ。この通信機を使ってまでジャーク将軍に伝えるとは余程の事態なのである。
『単刀直入に言う。『星騎士』の封印が何者かによって破壊された』
「ば、バカな!?そのような事が…」
ジャーク将軍は通信機から知らされた事実に驚愕する。
星騎士
それはかつて怪魔界を守る太陽系の星の名を冠する称号を持つ7人の戦士をことであり、偉大な英雄でありながら逆賊の汚名でもあった。
星騎士のうち4人が仕えるクライシス帝国に反旗を翻し、怪魔界を支配せんと暴動を開始する。その時、数日で幾つもの都市を焼き払い、数万人の被害者を出してしまったのだ。
残る騎士3人はこれ以上の犠牲者を出さない為、怪魔界の平和を守る為に全力で戦いを挑んだ。
星騎士同士の争いは実に100日を超え、3人の騎士達の命がけの行動により『火星』『水星』『土星』『木星』の騎士の肉体を滅ぼし、その魂を封印することに成功した。
その魂は二度と新たな肉体を持たせない為に、地下100層にも及ぶ地底牢獄に未来永劫封印されるはずだった。
「一体、誰の手に…」
『それはこちらでも調査中だ。そして奴らはこちらの転送装置を利用し、地球に逃げ込んでいることまで分かっている』
「ならば直に討伐部隊の編制を…」
『いや、その必要はないと皇帝はお考えだ』
「なんだとッ!?なぜそのような―――」
皇帝の考えが理解できず、帝国の規律を重んじる立場でありながら意見するなど、司令官という肩書を持つジャーク将軍には許されない行為であったが、皇帝の代理人と名乗る男は気に留めることなく、その理由を述べた。
『奴らは常に戦いを求める野蛮人だ。だとすれば地球にいるRXが黙っている訳がない。奴らがRXを仕留めた後に始末すれば良い』
「しかし、RXと戦う前に奴らが地球を支配するなど考え出せば…」
『その時は貴君に対応を任せよう、ジャーク将軍。いや―――』
『かつて星騎士であった貴君にな、『金星のヴィルムス』よ…』
その後、一方的に切られた通信機を睨みながら部屋を後にしたジャーク将軍は自室に戻り、部屋の窓から宇宙空間に浮かぶ惑星…地球を見た。
(魂のみとなった連中は恐らく、自分達の能力を最大限に発揮できる人物の姿となっている。人間として身を伏せているのだとすれば、見つけるのは困難)
だとすれば皇帝の代理人の言う通り、RXと衝突するまで待つしか自分には手段がない。
皇帝の決定ならば、将軍の立場としてそれは正しい。だが、遥か過去。自分達の誇りを穢した裏切り者を放置するなど、自分に許されるのであろうか…
「我が盟友達よ…」
ジャーク将軍は自分の愛刀と共に飾られている二振りの剣を見る。
それは命を捨て、4人の星騎士を倒したジャーク将軍と同じく立ち向かった戦友の形見であった。
その日は季節外れの雨だった。
桜は義兄が忘れた傘を届けに新都の図書館へ向かう途中、アルバイトへ向かう衛宮士郎と偶然道が一緒となり、バス邸へ向かっていた。
「へぇ、そんな事があったのか」
「はい、遠坂先輩やメディアさんのおかげでニュースにならずに済んでますけど…」
「ハハハ…どうりで最近不機嫌な訳だ」
学校では相変わらず優等生を演じているが、アーチャーに師事を受ける為に遠坂邸に行ってみると髪を頭頂部でまとめ上げ、クッキリと目元にクマが浮かんだ状態で書類を睨めあっている管理人の姿があった。
あれはあれでいい経験だと言って近付こうともしないアーチャーだったが、庶務に全力で当たる彼女の手元には、誰かによって準備された魔法瓶が置かれていた。その下に挟まれた小さな紙の切れ端に記載された内容をつい士郎は目にしてしまう。
『無理はしないように』
そろいもそろって素直じゃないペアだなと苦笑し、姉とそのパートナーの実態を桜へと報告しながら目的地であるバス停が見えてきた頃。
2人は樹木の下にたち、雨宿りをする人物を見て思わず言葉を失ってしまった。
足を太腿まで大胆に露出したデニムに腹部を晒したチューブトップ。赤いレザージャケットと彼等の知る服装とはかなり異なるが、雨雲であっても煌めく金髪を持つ少女。
数か月前に自分の誓いを今度こそ全うすると旅立った少女の名を、士郎達は呼ばずにはいられなかった。
「セイバーッ!!」
「帰ってきたんですねッ!!」
水たまりを踏みつけて跳ね返る事も厭わず駆け寄った2人に気付いた少女は、キョトンとした顔で嬉しそうに呼びかける士郎達へ申し訳なさそうに指先で頬をかきながら弁明する。
「あ~、悪いけど、人違いじゃないか?」
「え…?」
「そもそも、俺はそんな名前じゃねぇしな」
困ったように両手を広げる動作をする少女の声と口調は士郎と桜の知るセイバーとはまるで異なっていた。
「…ごめんな。俺達の知り合いと、余りにも似てたんでつい」
「いいって別に。で、そいつは俺にどこまでそっくりなんだ?」
「ええっと…そうですね、本当に似ていますまるで、親子みたいに―――」
謝罪する士郎へセイバーと似た少女がカラカラと笑いながら尋ねた質問に答えた桜の言葉を聞いた少女は笑った。だが―――
「へぇ………」
一瞬だが、人を簡単に殺めるような冷たい眼差しを向けたのだった。
その瞳を見て背筋を凍らせる2人は確信した。ああ、やはり自分の知る少女とは別人なのだと。
「ん?どうした突然?何か怖いものでも見たような顔してんな」
「あ、ああ。なんでもないよ?なぁ桜?」
「は、はいそうです!あ、良かったらこれ使って下さい。その、ご迷惑をかけたお詫びです」
ガラリと雰囲気が変わった少女に慌てて答えた士郎は桜に同意を求めると、彼女は頷きながらショルダーバックの中に予備として入れていた紺色の折り畳み傘を差しだした。
それが何であるかを理解せず受け取った少女は傘を弄り回している間に用途を理解すると、おお…と声を漏らしながら傘を展開する。
「へぇ、便利なもんだな。ま、ありがたく貰ってくぜ。じゃあなー!」
降ろしたての傘を喜ぶような子供の如く無邪気な声を出しながらセイバーと似た少女は、その場を後にした。
「先輩…彼女は…」
「…俺達の知っているセイバーとは別人だろう。けど、全くの無関係とは…思えない」
それがただの思いすごしてあったらいい。士郎が思案していると、バス停に定刻通り、車両が到着していた。
その日の夜
「ふぅ…人格どころかまさかコンプレックスまで融合してるとは驚きだな。この人物は親子っていう関係に相当根深いものを持っているらしい」
他人事のように自己分析するセイバーと似た容姿を持つ少女は桜から受け取った傘を片手で弄びながらビルの屋上で新都の夜景を見下ろしていた。
「しっかし随分と錆びれた景色だ。数百年前の怪魔界の田舎にすら劣るじゃねぇか。ま、環境が整ってる分まだましか」
少女は傘を畳み、レザージャケットの内ポケットに収納すると腕を天に掲げる。少女の掌に光が段々と収束し、白銀の剣が顕現。
「さぁて、あのヴィルムスが手こずっている相手はどんな奴なのか。この身体でどこまでの強さを持ってるのか、是非とも試させて貰いたいな」
剣を肩で担ぐ少女の眼は、獲物を求める野獣ようにギラつかせ、自身の目標を口にする。
「この火星の星騎士…アルス様と戦うに相応しい相手か…見極めさせて貰うぜ。仮面ライダーBLACK…RX!」
はい、という訳であの方が登場した訳ですが、文中にあるわかりずらい解説の通り、彼女は彼女の殻を被った真っ赤な偽物でございます。
そして読んでいない小説の人物を出して自分の首を絞めしてしまっている結果に…なんとか勉強してきます
それではご意見、ご感想をお待ちしております!