Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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新年、明けましておめでとうございます!

特撮関係で色々とメモリアルイヤーとなる今年、どのような展開がされるのか楽しみで仕方ありません。

しかし春映画が昨年とタイトルが似すぎて混乱する人が出てきそうな…


では、32話です!


第32話

月影信彦の内側に潜む、かつてアヴェンジャーのサーヴァントであったアンリマユ。

 

 

冬木に出現した聖杯の一部となっていた彼は聖杯の浄化と共に消え、その座へと還るはずだった。しかし聖杯として最後の役目である間桐光太郎の『みんなと共に生きたい』という願いを叶えた直後、彼自身も光太郎の言う『みんな』の中に含まれてしまいシャドームーンの身体に魂を宿すという結果となってしまった。

 

 

果たして、これは偶然だったのだろうか。

 

 

他のサーヴァントと違い、自身の姿を記憶と共に失ってしまった彼が他の誰かの身体に宿るとしても、同じ条件であれば願いを叶えていた際に一番近くにいた光太郎に宿る可能性が一番高いはず。

 

 

肉体の損傷が激しく、信彦の魂が消えかけていた為なのか、それとも他の理由があるのか…?

 

 

しかしアンリマユ本人はそんな疑問など一日で忘れ、からかい甲斐のある同居人の厳しい反撃を受けながらも新たに生まれた今を楽しもうと決め込む。

 

 

だが、生活を共にしていく中で段々と浮彫となっていく信彦の危うさに目を瞑る事ができなくなってしまった。

 

 

 

 

今尚人々に残るゴルゴムによる侵略の傷痕への恨み。

 

 

 

異端であり、許されない存在だと叫ぶ魔術協会、聖堂教会からの糾弾。

 

 

 

それら全てを当然の報いと受け入れ、表情に出さずとも日々擦り減っていく信彦の姿を見ながら、いつか彼の宿敵のように自力で乗り越えていくだろうと敢えて言葉にせず、死に場所を求めるという歪と向き合う日が来ると旅に黙って同行していた。

 

 

 

 

 

 

 

三咲町にたどり着き、信彦が面倒事に巻き込まれない為とは言え、自ら吸血鬼事件の調査に踏み込んだ時は心変わりのきっかけとなると何処かで期待していたが、結果としてはネロ・カオスに惨敗。己は無力であると痛感する結果となり、さらには真祖の姫 アルクェイド・ブリュンスタッドとの接触により、信彦がキングストーンを持つ世紀王である限り、過去、現在でも否定される存在だと思い知らされることとなる。

 

 

ついにはアルクェイドの攻撃を無抵抗に受け、生命を投げ出そうとした際には身体の主導権を握ったアンリマユの奇策により九死に一生を得ることができたが、信彦が何故邪魔をするのだと抗議した時には、思わず自分らしくもなく説教してしまった。

 

 

 

 

 

信彦が旅の中で言葉には出さないが今でも気にかけている2人の人物の名まで出しての説得以来、アンリマユが浮遊している信彦の内側ともいうべき場所は果ての無い程に黒く、淀んだ空間と成り果てしまった。以前は曇り空の中に立っていたという表現が適切な空間であったが、こうなったのも真祖との接触と、今目の前に現れたゴルゴムの神官達によるものだろう。

 

 

 

 

だが、信彦の暗闇に包まれた心象風景とも言える場所に一筋の光が差し込む。

 

 

 

思わず光の先を見上げたアンリマユに、信彦の耳を通じて聞き取れた言葉が強く響いた。

 

 

 

 

 

 

「だから、君は生きていいんだ」

 

 

 

 

 

 

「んだよ、随分な簡単な理由で立ち直りやがって…」

 

 

思わず額を押さえて苦笑するアンリマユは、未だ影が晴れずにいながら確かな輝きを持ったその空間の中央に立つ。

 

 

 

 

(こいつは…自分がどうすればいいのか、分からないじゃなくて知らなかったんだ)

 

 

子供ですら回答できるような簡単過ぎる理由でこの男は苦しみ、生きることを放棄しようとした。だから余計にアンリマユは許せなかった。この男は不運にも悪の親玉に祀り上げられようとして、本来歩むべき人間としての未来全てを奪われた。

ならば、こいつはその奪われた分、生を全うしなければ割に合わない。

 

だから見届けよう。こいつがどんな結論にいたるのか。

 

 

 

 

(ったく、世話のやける半身さんだぜ)

 

 

 

 

…この身に宿ったのは、もしやその為に引き寄せられたのかとらしくもない考えを浮かべながら、アンリマユは普段通りの軽口を向ける。

 

 

 

これで、いつも通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体から緑色の放電を放ちながらダロム達へ足を進めていくシャドームーン…月影信彦の身体は以前と変わらず、時間が経過すると共に痛みが広がっていた。

 

一歩踏み出す度に身を裂くような激痛が走り、関節部から緑色の過剰エネルギーが火花のように飛び散り、シャドームーンの装甲を焦がしていく。

 

 

だが、信彦は止まらない。

 

 

3分以上の戦闘に耐えられない身体となり、そのリミットが刻一刻と近づいている今でも、止まる訳にはいかない。

 

 

自分の身を挺して庇ったお人好しに、これ以上お節介な言葉を口にさせない為。

 

 

そして見せつける。この忌み嫌った力でも、戦えるという事を。

 

 

 

 

 

 

(って超痛えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!?なんでちょいと動くだけでも全身に極太の針ブスブス刺されてる見たいに痛いのに嬉々としてズンズン進んでんの!?エムなの?ドエムなんですかコンチキショウッ!?)

 

「やはり黙っていろお前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらに向かいながらブツブツと呟いているシャドームーンの姿を見たダロム達は、どうやら自分の置かれている状況に気が動転しているのだと思い込んでいた。

 

(ククク…強がりでシャドームーンへと変わり、我々を警戒させようとしているようだがその手には乗らんぞ…)

 

(大方、未だその力を健在であると我々に見せつけ、隙を伺おうなどと考えているんだろうが現実は残酷なのだ)

 

(彼方がその姿でいられることは持って数分である事は調べがついているのですよ)

 

 

壮大な誤解を抱きながらも周到に信彦の弱点を把握していた三神官はこちらへと前進する哀れな世紀王に両手を翳す。

 

 

「っ!?」

 

 

三神官の集合体まであと5メートルという間合いまで詰めた信彦の動きがそこで止まってしまう。足が路面を離れなくなっただけでなく、痛みを堪えて振るっていた腕も含め全身がピタリと動かなくなってしまった。

 

 

(念動力か…)

 

 

信彦が動けなくなった様子を不気味な笑いを浮かべる三つの表情は、エネルギーを放電し続ける信彦に向かい、更なる追い打ちをかける為、自分達の影に潜んでいた者の名を叫ぶ。

 

 

「さぁ出でよ、キマイラ怪人ッ!!」

 

 

『キャ…ガァガ…ギィ…』

 

 

「…………ッ!?」

 

 

 

街灯によって生じていた三神官の影から這い上がったそれは、これまでに見た事のない異形だった。いや、良く見れば部分部分は信彦の知る者と類似している。

 

 

だが認めたくなかった。

 

 

なぜならばその怪人は、身体全てがゴルゴム怪人の頭部で構成されていた。

 

 

両足となっているサイ怪人とネズミ怪人の頭部の上から乱雑に積まれた怪人の頭部はまるで不格好なダルマ落としのように危ういバランスで重なり、身体の重心も傾いたままズルズルと引きずりながら前進していく。

 

 

両手首となっているサンショウウオ怪人とカメレオン怪人の口からは絶えず唾液が垂れ流しとなり、胴体を構成しているイカ怪人やケラ怪人達は未だ痛覚が残っている為か、継ぎ接ぎだらけとなっている顔から悲痛な叫びを上げており、そして頭部となっているはクモ怪人・コウモリ怪人・カニ怪人3体の頭部が並んで溶接され、それぞれの頭部が一つとなってしまった嫌悪感から別の方角へ顔を向け、引き離れようとしている。

 

 

三神官はキマイラと呼んだが、神話に登場する同じ名を持つ怪物とはほど遠い、完全な「化け物」と化してしてしまった姿に信彦や、背後で戦う様子を見守っている筑波洋はただ驚くしかない。

 

 

それはキマイラ怪人の容姿にではない。あのような姿へと変貌させた三神官への残虐さに対してである。

 

 

「貴様達…あれ程大事にしていた仲間である怪人を…なぜ…」

 

「まさか、彼方からそのようなお言葉を受けるとは驚きましたぞ?」

 

 

口調こそ丁寧だが、ダロムの表情は滑稽だと言わんばかりに信彦へと返答する。それは聞くべきではなかったと信彦が後悔する程の変貌…自分の知るゴルゴムの幹部と同じ存在だと考えたくない程であった。

 

 

 

 

「見ての通り我らは3人が一つになった分、どうにも人間の吸血だけでは物足りず身体その物を食するようになってしまいましてな…」

 

「捉えた人間を丸のみにしてもそれでも足りず、最近になってようやく満足のいく食料を見つけたのですよ」

 

「フフフフフ…こちらが呼び掛けるだけで、何の疑いもなくよって来てくれるのですから」

 

 

 

「なんて…事を…」

 

 

口もとを吊り上げて語るダロム達の言葉を聞いた洋は先輩から聞かされた情報…世界中に散っていたゴルゴムの残党が日本の三咲町へ集っているのは再びゴルゴムを結成するためではなく、彼等の飢えを満たす為…

自分が戦ってきた敵にも、味方である怪人に対してここまで惨い仕打ちをした者などいない。洋は込み上げてくる怒りと共にダロム達に向かい敵へ非難を浴びせるが、三神官はその怒りすら凍りつかせる言葉を口にする。

 

 

 

 

 

「お前達は…自分達の仲間をなんだと思っているんだ!」

 

 

 

 

「何を言うかと思えば…だからこうして生かしてやっているのではないか?首だとなってももがき、生きようとするこの雄姿、素晴らしいではないか…」

 

「冬木に残る聖杯戦争の記録に残っていた人間の趣向を参考にしたが、こうも面白いとはな…」

 

「それに5万年後に現れる新たな創世王様を迎えるまでにこの地上から人間共を抹殺し、怪人だけで満たせてしまえば食するよりも増えていく方が多くなる事でしょう」

 

 

 

洋の思考が止まる。ダロム達の言うことがまるで意味が分からない。どうせ増えるのだから殺し、食し、その命すら弄んでも許されると本気で考えている。いや、同じ命とすら考えていないダロム達に洋は未だダメージの残る身体など顧みず、腹部にベルトを出現させるが、これまで沈黙を守っていた当事者から待ったを掛けられてしまう。

 

 

 

「怪我人は、下がっていろと言ったはずだ」

 

 

信彦から聞こえた先程と全く同じ言葉。だが、込められた感情は全くの別物となっていることに気付いているのは、洋ただ1人。

 

 

 

未だそれが強がりだと信じて疑わないダロム達は身動き一つ取れず、身体が放出されるエネルギーがさらに強まった信彦に向けてキマイラ怪人に命令を下す。

 

 

「真祖の元へ駆け付けた段階で2分以上が経過していた。つまり、その姿が保てるまで数十秒もあるまい!」

 

「せめてもの情け…その姿のまま葬って差し上げましょう!!」

 

「やれい!キマイラ怪人!!」

 

 

バラオム、ビシュム、ダロムの順に頭部から声が響いた直後、キマイラ怪人を構成する全ての頭部の口が大きく展開。本来持ち合わせていない破壊光線を動けずにいる信彦へ向かい次々と発射される。

 

 

信彦の身体に触れた途端に連鎖して起こる小規模な爆発。それも10回、20回と続いていくうちに信彦から漏れる微かな声も爆音によってかき消されてしまう。

 

 

どれ程の時間、破壊光線による一方的な攻撃が続いたのだろうが。攻撃中に念動力による拘束を解いているダロム達は土煙の中でキングストーンを残し五体バラバラとなっているであろう信彦の残骸をどう処理してやろうかと思考するが、その前にやるべきことをやっておこうと立ち尽くしている洋へと進んでいく。

 

ゴルゴム程ではなかったとはいえ、一つの組織を壊滅させた程の改造人間だ。その血肉を取り込めば、より強靭な肉体を作ることが可能だろう。

 

 

こちらの気配などまるで気にせず、信彦の立っていた場所を見つめている洋へ迫ろうとしたダロム達の耳に、もう聞こえないはずの声が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

「何をしている。貴様達の相手は、俺のはずだ」

 

 

 

 

ありえない。

 

 

弱った上にあれだけの、仮面ライダーBLACKさえ耐えれない程までに強化された破壊光線を浴びて何故、何事も無かったかのように土煙の中から信彦が現れたのか。

 

煙による汚れは付着しているものの、彼の銀と黒の装甲には傷一つ負っていない。

 

 

さらに言えば何故シャドームーンの姿のままでいられるのか。制限時間である3分はとうに過ぎており、信彦に痛みを齎している証拠である緑色の放電も先ほどより弱まっている。

 

 

だが、そのような事態も些細なことと考えられてしまう光景がダロム達の前で展開されていた。

 

 

「ば、バカな…」

 

「ありえない…こんなことがッ!?」

 

「なぜ、私達の…私達の…ッ!?」

 

 

 

ダロム達が目にしたのは、信彦の周りを飛び回る3つの光球。信彦の持つ月のキングストーンが放つ緑色の光とは異なり、それぞれが青、赤、紫に輝いている。

 

 

そのいずれも、ダロム達ゴルゴムの三神官にとって因縁深いものと同じ光と力を宿すものだった。

 

 

 

 

 

 

改造された直後、自ら放った力で重症を負った信彦は世紀王としての記憶を植え付けらえた後に十数年、バッタ怪人のまま眠りについていたが、世紀王として目覚める気配は無かった。

 

業を煮やした創世王はダロム達が持つ「天の石」「地の石」「海の石」という彼等の神官の証であると同時に命とも言うべき石を用いてシャドームーンを復活させるよう命じた。

 

キングストーンには届かぬものの、それでも強力な力を秘めた3つの石の力により、シャドームーン…信彦は復活を遂げることが出来たのだ。

 

 

 

今まで体内で純粋なエネルギーとして宿っていた3つの力がキングストーンとは別の力として顕現。

 

3つの光球が発生させた防御壁によって信彦をキマイラ怪人の攻撃から防いでいたのだった。

 

 

 

「まさか、このような形で現れてくるとはな…」

(いんや~文字通りこんな隠し玉持ってるとは俺ちゃんもびっくり)

 

 

自身でも驚いている信彦が手を翳すと、3つの光球は懐いたように掌の上へと集い、互いを追いかけるように回転を始めている。自身の意思に応えて動くキングストーンとは別の力が土壇場で発揮した信彦を完全に見下していた態度から一変し、怒り心頭となったダロム達は標的を洋から信彦へと変えて飛行していった。

 

 

 

「返せ!それは我々が創世王に賜った――――」

 

 

「だが、今は俺の力だ」

 

 

迫るダロム達に向けて手を翳したと同時に、さらに輝きを増した3つの光球は弾丸のように飛んでいく。その途中、光球は形と大きさを変えていき狼を思わせる色の異なる3頭の獣と化した。

 

 

「なっ――っ!」

 

かつて自分達の手にした力が突然と咆哮を上げて襲い掛かることに動揺したダロム達は狼達に成すがまま攻撃を受けてしまう。

 

胴に体当たりを受け身体がくの字に曲がり、手、肩に噛みつかれた痛みにより苦悶の表情を上げるが、このまま攻撃を受ける訳にもいかないと、手から破壊光線を放とうと力を込めたその刹那―――

 

 

「余程動揺したようだな。自分の持っていた力に牙を向かれたのだからな」

 

 

「ギィヤアァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

 

その絶叫が誰の口から漏れたのかなど、力を込めた腕を肘から切り落とした信彦に取ってどうでもいいことだった。さらに信彦は両手に持ったシャドーセイバーの短刀をダロム達の足首に向け突き立て、地面と縫い合わせてしまう。

 

 

 

「が、がががああああああああああッ!?」

 

 

「先程の報復と思え。しばらく大人しくしていろ」

 

(うっわ、これって別の意味で動けないじゃん…容赦ねぇな)

 

「容赦など…するつもりはない」

 

 

 

 

続いて信彦はキマイラ怪人へと標的を変える。怪人は先ほどと同様に、こちらを敵視しての警戒か、それとも無理矢理生かされて苦しんでいるのか、どちらともとれない雄叫びを上げている。

 

 

 

 

「…許せ。俺はこのようなやり方しか、お前達を解放できん」

 

 

片手に持ったシャドーセイバーの長刀を横に向け、赤い刀身を根本から切っ先にかけて右手でゆっくりと撫でていく。

 

信彦の撫でた後を追いかけるように刀身は緑色の光を宿していき、さらに3頭の狼が再び光球へと戻りシャドーセイバーの刀身へと浸透する。

 

 

緑、赤、紫、青の順番に輝きと放電を放つ剣を両手に持った信彦はその場で剣を大きく振りかぶり、キマイラ怪人に向けて振り下ろした。

 

 

 

「ハァッ!!」

 

シャドーセイバーから放たれた4色のエネルギーは巨大な狼の頭部を模したものへと変貌し、その鋭い牙をキマイラ怪人を捉えたと同時に爆発。

 

 

怪人の姿を残すことなく、燃やし尽くしたのだった。

 

 

 

 

もう、灰すら残っていない燃えた路面を見つめる信彦の耳に、戦いを見守っていた洋の叫びが響く。

 

 

「危ないッ!上からだッ!!」

 

「ッ!?」

 

咄嗟に身を翻すと同時に頭上に迫ったエネルギーの塊をシャドーセイバーで切り伏せた信彦は体液を片腕、片足から漏らしながら空に浮遊するダロム達を睨む。

 

視線を横に向ければ、未だシャドーセイバーの短刀はダロム達の足首を貫いている。どうやらキマイラ怪人に攻撃を仕掛けている間に自ら足を切断して逃れたらしい。

 

 

 

 

「おのれぃ…覚えているがいいッ!!!」

 

 

苦悶の表情を向け、ダロム達はその姿を闇に溶け込ませて去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様…で、いいのかな?」

「……………」

 

洋の賞賛に信彦は無言で放り投げられていた自分の黒いコートに付いた汚れを丹念に落としていると、今度は無視できない洋の言葉に振り向いてしまう。

 

 

「じゃあ、今回の俺の任務を君に任せても大丈夫だね」

 

「待て、そればかりは聞き捨てならんぞ…」

 

「本来なら一緒に決着を付けたい所なんだけど、思った以上にダメージが残っていてね」

 

「……………なぜ貴様が同行することが前提となっている」

 

 

その原因が自分である為、強く言い返せない信彦の言い淀んだ表情に、再び優しい微笑みを浮かべる洋。

 

 

ダメージが蓄積しているのは確かであるが、信彦が自分の力に迷い続けているようであれば、例え自分がどうなろうがダロム達と戦うつもりでいた洋だったが、先程の戦いを見て彼に任せてみたいと考えたのが本音だ。

 

 

まだはっきりと生きる為の目的を見つけていない彼であるが、この戦いを通してきっかけを掴んだに違いない。

 

 

それまでは見届けよう。

 

 

仮面ライダーとは決して名乗らないだろうが、12番目に十分相応しい彼の行き先を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きる…」

 

その一部始終を気配を決して見ていた真祖の姫は、しばし独り言を呟いた後に自ら足のつま先をコンクリートへ思い切り蹴りつけ悶絶している怨敵の姿を見る。

 

 

洋の言葉を受けた後、あの場を離れたアルクェイドであったが背筋が凍るような気配を察知し、再び植栽の陰に隠れて信彦の戦いの様子を伺っていた。

 

 

戦いの中で信彦が自分と同様、洋の言葉によって立ち上がらせた言葉を自身で口にした。

 

 

ただ本能的に憎んでいた相手が自分と同じよう自身という存在を悩み、苦しんでいた。その事実に驚くアルクェイドであったが、ああも簡単に割り切れる信彦が羨ましいとすら考えていた。

 

 

「いいなぁ…」

 

 

思わず漏れてしまった憧憬。どの道、やはりアルクェイドという真祖はあの世紀王を許せそうにない。答えは得なくても、きっかけを掴めてしまったんだから。

 

 

 

そしてアルクェイドはつま先を押さえている信彦と、それを大丈夫かと呼びかける『人間』を見て踵を返す。

 

 

今度こそ、自分を待っている少年の元へ向かう為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なぁんて事があったなぁ)

 

 

 

アルクェイドは肩を並べて先を歩く信彦と志貴の背中を見ながら心中で呟く。

 

あれからもなんだかんだで顔を合わせることが当たり前となりつつある信彦に初対面時に抱く程の殺意はない。せいぜいあのシスターより若干上くらいだろうか…?

 

 

「何を呆けている。置いていくぞ」

 

 

立ち止まってしまっていたアルクェイドに信彦が振り返って注意を促すと、むっと整った眉をへの字に曲げたアルクェイドは小走りすると飛び跳ね、志貫の背中へと飛びついた。

 

「お、おいっ!?街中で何やってんだよッ!?」

「疲れたー志貴おんぶー」

「馬鹿な事言ってんじゃないッ!!」

「………………………」

 

じゃれ合いを始めた2人を置いて1人歩き始めた信彦を追い、しがみ付いたままアルクェイドを引きずって志貴は追いかけていく。

 

 

こんなとりとめのないやり取りの中に、こいつがいても、悪くない。

 

 

アルクェイドは笑いながらそう思っていた。




エネルギーとして溶け込まず、再び形となって出現した天、地、海の力が出てくる話。ネタバレになりますが、信彦の強化はあの程度で終わらせません。

さぁ次回から再び光太郎達の話へともどりまっす。そろそろ味方にも敵にも動きがあるか…な?


お気軽に感想など書いて頂ければ幸いです。

今年もよろしくお願いします!

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