Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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SWを見て参りましたが、変わらなくても良いものは良い、と考えられる2時間半でございました。監督は違うけど(オイ)

では、今年最後の更新となる31話です!


第31話

暗黒結社ゴルゴムの大神官

 

 

ダロム

 

バラオム

 

ビシュム

 

 

 

長きに渡り創世王の僕として暗躍し、大神官の座に就いた3人は新たな世紀王を生み出し、次代の創世王を誕生させる儀式を執り行うという大役を受け持った。

 

 

しかし、想定外の事態が彼等の立場を追い詰めていく。

 

 

世紀王ブラックサン…間桐光太郎の離反に始まり、彼の体内に宿るキングストーン奪還の為に差し向けた怪人が次々と敗れ去ってしまう。

 

 

積み重なる失敗に業を煮やした創世王は3神官の証であると同時に命とも言うべき『天の石』『地の石』『海の石』の力を用いてもう一人の世紀王シャドームーンを復活するように命令された3人は死を覚悟してそれに従う。

 

 

目論み通りシャドームーンは復活し、3人は大怪人として生まれ変わるが運は彼等に向くことはなかった。

 

 

シャドームーンとの一騎打ちで光太郎が敗れさり、世界はゴルゴムが手に入れたと有頂天になったのもつかの間。光太郎が復活したと聞いたダロムは最後の手段として冬木の聖杯を強引に起動させ、『中身』を浴びることで理性と大怪人の姿を捨て、より強大な力を手にすることで挑んでいく。

 

 

だが、命のエキスにより復活を遂げ、より更なる力を手にいれた光太郎と協力するサーヴァント達の前に敗北を自覚する間もなく倒されてしまうのであった。

 

 

 

 

しかし、彼等は生きていた。

 

 

ダロム達大怪人が本来持ちえていた凄まじき生命力に聖杯の呪いが加わった結果なのか、生きようとする意識が強かったのかは定かではない。光太郎達の攻撃によって身体を消滅したはずだったが、僅かに残った肉片へと意識を移した3人は光太郎達が創世王を討つべく立ち去った間に比較的に原型を留めて倒されていた怪人素体の体内へ侵入、寄生した。

 

まさか3体が同時に同じ素体へと寄生したとは本人たちも思いもしなかったが背に腹は代えられず、互いに素体の身体を操作しながら秘密基地を後にしたのだった。

 

 

 

以来、逃亡路に利用した下水道により身体は汚れ、害虫や小動物を必死になって捕食するという、栄光が霞んでしまう程に惨めな逃亡を続けていた3神官を宿した素体だったが、元々定期的にメンテナンスをしなければ通常の人間以下の機能しか果たさない素体は限界を迎え、地下からマンホールを開け、地上に出た途端に倒れてしまう。

 

 

その時間帯は深夜だったのが幸いし、目撃者はいなかったがこのまま時間が経過すれば朝になれば身元不明の腐乱死体が発見されることになるだろう。

 

 

もはやこれまでかと3人の意識は消え失せようとしたが、救いの手が差し伸べられた。

 

 

いや、悪魔による誘惑だったのかもしれない。

 

 

 

 

「ふむ…これは、なかなかどうして…」

 

 

缶コーヒーを片手に持ち、素体を見下ろすその人物は普段自分の配下に吸血を任せ、自身は決して表にはでないはずだったのだがその日は気紛れに外の空気を吸いたいと辺りを徘徊している最中だった。

 

 

「なんとみずぼらしく、汚らしく、哀れな存在なのだろうな。人間でもこうにはならない。ましてや消えかけている魂を3つも宿している死体など…面白い」

 

 

眼下で風前の灯となっている素体に対し、男は貶めながらも興味を示す言葉を口にするが既にダロム達の耳には届かない。

 

 

「ならばこそ、試してみる価値はあるか…」

 

男が指を鳴らすと、背後からゆらゆらとした足取りで数人の死徒が現れる。死徒達は素体を囲むように座り込むと犬歯をむき出しにし、所構わず素体の身体へと噛みつき、不純物に紛れた血を吸っていく。

 

 

「お。がぁ…あッ!!」

 

痙攣し、声を上げる素体の姿を見て、男は笑う。

 

 

血液を吸い尽くされ、変死体で終わるのか、それとも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして私達は、生まれ変わった」

 

「3人の意識を宿したまま死徒として生き残った」

 

「それも親に逆らえないという成約も無しという形でね」

 

 

 

一つの頭部に宿る3つの口から語られた悍ましき復活劇に、念動力で押さえつけられている筑波洋と立ち尽くす月影信彦は驚くしかなかった。

 

 

倒された怪人が残った残骸や細胞から培養され、再生怪人として現れることはこれまでの組織でもあったが、まさか吸血鬼…死徒となり復活を遂げるなど前例がない。

 

 

それに加え、条件は違うとはいえダロム達がまさか自分と同じく1つの身体に複数の魂を宿して復活したとは夢にも思わなかった信彦だが、今まで己の説明を述べていたダロムが動き出したと同時に咄嗟に身構える。

 

だが、ダロム達はその場から進まないどころか、膝を着いて信彦に向かい頭を下げる。何のつもりかと構えを解かない信彦へ、ビシュムの声が向けられた。

 

 

 

「お迎えに上がりましたシャドームーン様。今一度ゴルゴムの指揮し、この世界を手中にお納め下さい」

 

「なっ!?」

 

「…………」

 

 

驚く洋は無言で佇む信彦の背中を見る。信彦は何も言わず、順番に歪な顔から放たれる言葉を黙って聞き続けていた。

 

 

「世界に散ったゴルゴムの怪人は、彼方様がここにいると知り、次々と駆け付けております」

 

「そして憎きブラックサンが力を使い果たし、仮面ライダーへと変身できないまたと無い好機」

 

「どうか、今一度我らゴルゴム帝国を造り上げるよう命じて下さい」

 

 

 

額を擦りつけて懇願するかつての部下の姿に信彦は、やはり何も言わない。

 

 

 

(さぁ、早く我らの話に乗ってくるのだ…)

 

ダロム達は、信彦が自分達の言葉を聞き、迷いの中にあると考えている。創世王と敵対したのは、自身の肉体を奪われるという事実を知り敵である間桐光太郎と共闘したに過ぎない。彼にとっての脅威となってしまった創世王が消えた今、キングストーンを所持する信彦こそがゴルゴムの守護者、創世王となるべき存在と甘言を囁けばきっと話に乗ってくるはずだと。

 

ダロム達は復活してから信彦が魔術協会や聖堂教会の刺客に襲われ、その度に自分の存在を否定され続けていた様を透視で伺っていた。

 

光太郎のように改造中に逃げ出し、他人の為に戦うという理由もなく、創世王となるためだけに生まれ変わった信彦…シャドームーンにはゴルゴムへ帰還する以外に選択肢はない。

 

しかし、戻れば『信彦』という器には用はない。

 

 

創世王との戦いから数度、シャドームーンへ姿を変えた戦っていたが、どれもゴルゴムにいた時と比べたら見るに堪えないものばかり。

 

本来ならば秒殺すら可能であった死徒27祖相手にすら追い詰められ、人間に助けられる者など、ゴルゴムには必要ない。

 

こちらの誘いに乗った後は身体から月のキングストーンを取り出し、再び5万年後を迎え、新たな世紀王を見出せばいい。

 

 

ゴルゴムに弱者は必要ない。

 

 

さぁ、早く頷くのだと額を路面に付けながらもいやしく3つの笑い顔は信彦の一言であっけなく崩れてしまう。

 

 

 

 

 

「断る」

 

 

 

「…なんと、おっしゃられた?」

 

 

 

「断ると言った」

 

 

 

頭を上げ、聞き直すバラオムの投げかけた質問に対し信彦は間髪入れずに明確な拒否を言い返す。この時、初めて3つの顔に焦りが見られた。再び世紀王という栄光を拒むなどありえない、と顔を上げたダロム達は見たものは、表情は崩さないものの、激しい怒りを目に込めて睨む信彦の姿だった。

 

 

「…俺は、今更お前達ゴルゴムの王となるつもりはない。ましてや…創世王の後など継ぐつもりなど、御免だ」

「し、しかしッ!ゴルゴムに戻られれば不完全な状態ではなく、かつてのように完全な―――」

「余計なお世話だッ!!!」

 

 

信彦の怒号に白いローブはビクリと震え、思わず気が逸れて洋に向けていた念動力が解除してしまう。自由となった洋は呼吸を整えながら立ち上がる中、信彦はダロム達に有無を言わさず言い放つ。

 

 

「…はっきりと言うぞ。俺はもう、誰かの掌の上で踊らされ、奪う側に戻るつもりは…ない」

 

 

それは、自分から『秋月信彦』という人物をゴルゴムが奪ったからこそ言える言葉だった。。ゴルゴムの戦いが終わった後の旅の中、改めて思い知らされたのは、奪われたのは自分だけでなく、世界中にも存在するという事実。

 

自分の指示によって家族、友人、居場所を失った人間を数多く目の当たりにした信彦にとって直接手を下したゴルゴム以上に、命令した自分が許せずにいた。

 

 

故に、世紀王の証であるキングストーンの力を拒み、シャドームーンの力を全力で出せない状態へと陥ってしまうが自分への咎であると受け入れている。彼の内側にいるアンリマユは自身を信じていないから力を出せないと諭したが、ゴルゴムの片棒を担いでいた力など、信じるに値しない。

 

 

 

ダロム達の出現で自身の存在をより強く否定し始めた信彦。俯き、路面を睨みながら拳を強く握りながら今、自分が原因となりこの地へゴルゴムを呼び寄せてしまった責に悔やんでしまうが、それは大きな隙を相手に見せる結果となってしまった。

 

 

 

「がぁッ!?」

 

 

身体の自由が利かなくなった信彦は思わず声を上げる。見ればゆらりと立ち上がったダロムが奇怪な腕を前方に翳し、念動波を信彦へ向けて放っておりワザとらしく悲しげな声を放った。

 

 

 

「おぉ…なんということだ。シャドームーン様は創世王様がいなくなった事でお疲れの様子らしい」

 

「これは早々にどこかで休まれて頂かなければならんな」

 

「ご安心を。我々がゆっくりとお休みできる場所までご案内いたします」

 

 

「き…様らッ!?」

 

 

強行手段に出たダロム達の念動力を断ち切ろうとシャドームーンへ変わろうとする信彦だったが、アルクェイドのいた場所まで移動する際、既に2分以上あの姿のまま行動していた。今シャドームーンへ変わり、拘束を解いたところで再度掴まってしまうのが関の山だ。

 

どうすればいい?と身体を動かそうとしながらも躊躇いを見せる信彦は動けないだけでなく、段々とダロム達の方へと引き寄せられてしまう。

 

 

「くっ…」

「さぁ、参りましょうシャドームーン様―――」

「そうはさせるかッ!!」

 

 

ダロムは自分の声をかき消した相手の声と共に繰り出された攻撃を瞬間移動で回避。その際に信彦への念動力も解除され、解放された信彦は膝をついて自分を助けた者…いつの間にか仮面ライダーへと変身した洋がダロム達と対峙している光景を見た。

 

 

 

「おのれぃ…邪魔をするなッ!!」

「悪いが、目の前で苦しんでいる人を放っておけない質でね」

 

悪態をつくバラオムの声に自分の蹴りを回避した相手を警戒しながら構える洋の言葉に、信彦は苛立ちと共に戦士へと言葉をぶつける。

 

「何を言っている俺はもう…」

 

敵から解放され、もう動けるようになっている。だが、洋が言ったのは念動力によって痛めた身体を指しているものではなかった。

 

 

「…苦しんでいるじゃないか。君がゴルゴムを抜けてから、今までずっと」

 

「…っ!?」

 

 

まただ。

 

 

どうしてこの男は自分が押し留めているモノに平然と迫ってくる?なぜあの男と…自分と分かれる寸前まで友と呼び続けた宿敵のように触れてくる?

 

 

 

理解しがたい洋の行動に動きを止めた姿を見計らったビシュムの顔は突如として上を向き、指向性の怪光線を両目から発射する。自分とはまるで違う方向へと発射された方へと目を向ける洋だが、光線は急に角度を変え、棒立ちとなった信彦へと向かっていく。

 

 

「危ないッ!!」

「…ッ!?」

 

洋の叫びで我に返った信彦の眼前に怪光線が迫る。成程、人間の姿でこれを浴びてしまえば一たまりもなく、身動きが取れなくなってしまったところを先ほど見せた瞬間移動を用いれば自分を連れ去ることなど容易い。と冷静に分析しながらも信彦は自身を助けようと割って入った洋へ詫びるべきだったかと思いながら、ビームの直撃を待つ。

 

 

完全に諦めてしまった信彦の耳に響いたのは、別人の叫びだった。

 

 

「グアアァァァァァァァァッ!?」

 

 

今日は何度驚いたか分からない。信彦の視界に映ったのは自分の前に立ち、怪光線を浴びている戦士の姿だった。

 

 

「一度ならず二度までも…まずは貴様から葬ってくれるわぁッ!!」

 

ビシュムの眼から怪光線を放ちながらも、両手から別の光線を洋に向けて発射し、その全てが洋へと注がれていく。目を開ける事すらままならない閃光を浴び続ける洋はそれでも両手を広げ、自分の背後にいる信彦へ攻撃が行き届かないよう庇い続けた。

 

 

やがて閃光が止んだ後。

 

ダメージにより変身が解除された洋は信彦に介抱されながら彼の顔を見て笑っているが、その表情が余計に信彦が混乱してしまう。

 

 

「なぜだ…どうしてあんな事をしたッ!!なぜ笑っていられるッ!?」

「ハハハ…言ったろ?苦しんでいる君を放っておけないって…」

「そんな、下らないことで…」

 

どうして自分などを助ける。ボロボロとなった青年はこんなに傷ついてもなお、自分の肩を掴み、立ち上がろうとする。底知れない相手に警戒を強めたダロム達は離れて様子を伺っていた。

 

 

 

肩を貸す信彦は拒もうとせず、ただ青年が立ち上がろうとする姿を黙って見ていることしか出来ない。

 

やがて洋が膝を突いている信彦を見下ろす形になり、やはり笑顔で語りかけた。

 

 

「さっきの続きになるけど、君が苦しんでいるのは、自分自身を受け入れようとしないからだ」

「当然だ。このような自分など…」

「けど、それが今の君であるという事実は、変わらない」

「……………………」

 

その通りだ。いくら否定したところで、かつてはゴルゴムの世紀王であった事実は変わらない。ならば、自分の苦しみは永遠に続いてしまうのかと考える信彦だが、洋は否定する。

 

 

「なら簡単だよ。君が考えてしまう事とは逆に力を使えばいい」

「何を…言っている?」

「だからさ。君が持つ力が誰かを苦しめるなら、君がその力の方向性を変えてしまうんだ。そうすれば、誰からも、何も奪う存在には、ならない」

 

 

 

綺麗事だと頭では分かっている。そんなもの、知りもしない者の戯言だと。なのに、なぜ先ほどまで憂鬱とした胸が軽くなる?

 

 

「君は自分だけでなく、誰かが苦しんでしまうことに耐えられない。けど、その望まない力でさえ、使い方を間違えなければ誰かの涙を止めることが出来るんだ」

 

 

洋は自分が初めて姿を変えられてしまった際、目の前で慟哭に暮れる1人の人間を救えた事を思い出しながらも、目の前で迷う若者に伝えた。自分を受け入れさせる為に。

 

 

 

 

 

 

 

「君になら出来る。過去を苛み、誰かが傷つくことを恐れる優しさを持つ君なら力も、自分を受け入れることが…」

 

 

 

「だから、君は生きていいんだ」

 

 

 

 

 

未だこちらに警戒しているダロム達の方へと傷だらけの身体を向ける洋は両手を眼前で交差し、両拳を腰に当て、左手を前方に突き出した構えを取るが、何者かに肩を掴まれ、後ろへと突き飛ばされてしまう。

 

後ずさりながらも倒れずにいた洋はこちらに背を向ける犯人の迷いの無くなった声を聞く。

 

 

「怪我人は下がっていろ。元々これは俺が原因で起きたことだ」

 

 

「…俺がけりをつける」

 

 

 

「じゃあ、任せるよ」

 

 

 

 

 

振り向かなくとも、笑って見ていることが容易に想像がつく。信彦は腹部に黒く、中央に緑色の王石を宿したベルトを出現させながら前へと進んでいく。

 

 

 

 

(へへ…ずいぶんとまぁマシになったじゃねぇか大将)

 

「…起きていたのかアヴァンジャー」

 

(まぁね。あんな大騒ぎになったんなら嫌でも起きらぁ)

 

「ならば、邪魔にならない程度に喚いていろ」

 

(ヘイヘイ。そっちも時間気にして焦らずにな)

 

「言っていろ」

 

 

アヴァンジャーは戦いの際にはシャドームーンでいられる残った時間などを伝えていたが、今はそんなこと余計なことだなと自分のいる場所を見渡す。

 

 

普段ならば薄暗く、淀んだ空間でしかないこの場所に、一条の光が差し込んでいる。

 

つまり、月影信彦の心理状態を示す光景となっており、現在どのような状態にあるかなど、語るまでもない。

 

 

 

 

 

(…未だ、自分はどうあるべきかははっきりとしない。しかし…)

 

 

ベルトから放たれる光が信彦の細胞を書き換え、バッタ怪人へと変貌させた直後、強化皮膚リプラスフォースが瞬時に包み込み、光太郎とは色の異なる戦士へと姿を変える。

 

それだけでは終わらない。ベルトの光が強まり、銀と黒の装甲が現れ、信彦の身体へ次々と装着されていく。

 

最期に頭部を包む仮面が装着され、額のランプと緑色の複眼が強く発光した。

 

 

 

(確かめてみせる。生きて、戦うことでッ!!)

 

 

 

 

身体から緑色のエネルギーを放電させながら、シャドームーンは構えを取った。

 

 




最後のは信彦の正式な『変身』ではありません。だって、足りないものがあるでしょう?大事な「あれ」が…


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