前回からプライベートの都合でお休みしてしまいましたがまだその件が解決にいたらずデスマーチとなりそうな悪寒…
それでも頑張って行こうと決意のもとにできた28話でございます。
クライシス帝国は毒ガス衛星の量産計画の為に間桐光太郎の友人、東堂穣を始めとした電気技術者を次々と誘拐し、その魔の手は学校で備品の修理を行っていた衛宮士郎まで巻き込まれてしまった。
毒ガス衛星を建造する知識とクライシス帝国への忠誠を強要するための装置が士郎へと取り付けられようとしたその時、彼等を救出すべく、ライドロンに搭乗した光太郎…仮面ライダーBLACKが現れた。
葛木宗一郎とメディアの協力によって士郎達が隔離されている施設を知った光太郎や慎二達は技術者達を逃がすとそれぞれの戦いを開始する。
鏡の中を自由に行き来できる術を持つ怪魔妖族 武陣と戦いを開始した光太郎。
施設を放棄したマリバロンによって起動した時限爆弾の解除へと向かう間桐慎二と士郎。
その2人を行かせる為にサイボーグ怪人へと立ち向かう赤上武。
起爆装置を発見した慎二だったが敵の仕掛けた罠にかかり、爆発までの時間が早まってしまう。しかし、士郎の強化魔術の行程にある『解析』によって爆破に繋がる配線を切断することで、爆発を阻止することに成功。
同じ頃、サイボーグ怪人によって追い詰められた武は電気を操る謎の戦士によって助けられる。戦いのダメージによって意識を失いかけた武へ、戦士はメッセージを残してその場を去っていくのであった。
敵の術中に嵌り傷を蓄積していく光太郎だったがそれを逆手に取り、放ったキングストーンの光を自ら浴びる事でRXへと変身。リボルケインの鞭攻撃によって武陣の鏡渡りの術を破り、必殺のリボルクラッシュで武陣を打ち破るのであった。
メデューサ達と合流し、互いの無事を喜ぶ中、光太郎は自分へ呼びかけたような気がして振り返るが誰も居らず、バイクが遠ざかっていく音が微かに聞こえるだけであった。
衛宮家
そこは許された者しか立つことが許されない、家主にとっては神聖なる領域。
本来であればその人物には踏み入って欲しくないというのが本音であるが背に腹は代えられない。
自分の目標の為ならば、と士郎はその男の背中を見つめていた。
「では、始めるとするか」
男は準備された刃物を手にし、眼下にあるそれに左手を添え、慣れた手つきでゆっくりと刃を通す。
トン…とそれの下に予め敷かれていた木製の板へ下ろされた刃物が当たり柔らかな音が響く。
男は無言で刃物を上げると左に用意されたケースへ丁寧に置き、今度は右側へ準備された新たな刃物を手に取り、同じ動作を繰り返す。
きざんでは刃物を替えていく肯定が十数回繰り返される中、士郎はただ見ているだけだ。
やがてそれが32回目となった時、男の手がピタリと止まる。
「……どうやら、ここで集中力を切らせたようだな」
「っ…!?」
息を飲む士郎へ目も向けず、刃物を置いた褐色の肌、白髪の男は無情なる言葉を浴びせる。
「言った通りに最初からやり直しだ。ただし、本数は倍にして貰おう」
「…分かった」
士郎は男の指示に素直に頷くとその場から離れ、彼の工房とも言うべき土蔵へと向かっていく。一連の流れをカウンターに肘をついて眺めていた遠坂凛は目を細めて尋ねてみた。
「…いいの?倍以上の投影になると、あいつの魔力が底をついちゃいそうだけど」
「かまわん。限界に近付いた状態でもなお同じモノを生み出す。あの者に出来るただ一つのことをギリギリの状態でも出来ないようであればこの先上へは目指せん」
「まぁ、それが彼方の方針だというのなら文句はないわよ。只ね―――」
溜息混じりに凛は男…アーチャーの前に並ぶ刃物達を見て呆れながら頬杖を付く。
「いくら投影魔術の指導だからって…キャベツの千切りで一回刻むごとに包丁を替えるっていう試験もどうかと思うわ」
アーチャーが立つ衛宮家のキッチン…そこには既に均等に切り分けられたキャベツの乗ったまな板を間に置き、一度使われた包丁と未使用の包丁それぞれ20本以上が鎮座されていた。
武陣との戦い以来、自分に出来る事を見つめ直す士郎は唯一の魔術である強化と投影の完成を高める為にアーチャーへと師事を仰いだ。最初こそ門前払いであったが頭を下げ続ける士郎の姿を見た凛の鶴の一声に溜息をついて了承したアーチャーはまず課題を与えた。
その内容は外見・質量・切れ味が全く同じ包丁を50本投影する。微々たる違いが出た場合は数を倍にしてやり直しという過酷な内容であった。
士郎は言われた通りに包丁を50本投影し、アーチャーへと提出するとすぐに鑑査が開始される。外見はルーペ、重量は元となった包丁と秤を使って図るなど事細かな内容で進んでいき、最後は切れ味を残すのみとなった。予め準備されたキャベツを包丁で刻んでいき、僅かながらも切れ味が異なる包丁が見つかり、約束通り投影のやり直しとなってしまった。
厳しすぎる内容に思える凛であるが、幾度と起きた戦いの中で投影魔術を熟した士郎に対し、今更武器ですらない投影など、基礎の基礎を課題にするのかが疑問であった。
「…奴はなまじ実戦の中…土壇場で投影魔術を高めていった。だが、方法を知っただけで身に染み込ませた訳ではない。だから僅かでも気を逸らせば見た目は同じでも違うモノを作ってしまう」
衛宮士郎の可能性であった存在だから理解できるアーチャーは投影後、未だ消滅しない包丁を手に取りその刃を見つめる。彼に今必要なのは一度イメージした後、意識を別の方へと向けようが投影を完全な形に完了させる。熟達させることにある。
これから先、士郎が投影という唯一無二の魔術をどう扱うかアーチャーにすらその先は分からない。だからこそ、生半可で場馴れした『技』ではなく、基礎を徹底的に叩き込まれた『術』が必要となる。
「…へぇ」
「なんだねその顔は」
「べっつにー?」
ニヤニヤと笑う凛に横目で尋ねるアーチャーだったが、あの顔を見れば尋ねるまでもない。自分が衛宮士郎に対し、随分と心を許したなど言い出そうとしているに違いない。見当違いも甚だしい思い違いをしている主がイジリに入る小悪魔モードへとなる前に、話題を切り替えることにした。
「それはそうと凛。今回の課題は君にもメリットがあるものだぞ?」
「…なによメリットって?」
「衛宮士郎が投影した包丁だが、これ程の数があっても使い道がない」
「それはそうよね」
「そこでだ。近日中に新都で行われるバザー市で売ってしまえばその売上げで君が先の戦いで消費した宝石の補充も―――」
「温いわよアーチャー、3倍は作らせなさい」
自分の欲望に忠実過ぎる凛であった。
衛宮家の武道場
「………………………………」
道場の中央に無言で正座し、目を閉じている男…赤上武。
彼は士郎の許可を得て道場に入り、小一時間ほど動くことなく座していた武はそれまで閉ざしていた目をゆっくりと開けると、自分の前へと置かれた因縁深い道具へと目を向けた。光太郎の変身したBLACKとは違い一つ目の鋭い眼光を放つ複眼と三日月型の鍬形を持つヘッドギアの横顔が描かれ、小刀のような装飾が付いたベルトのバックル。
武はその名称を未だ知らない。だが、自分を助けてくれた恩人が指したものは、間違いなくこれであろう。
その道具は別の世界で開発者の名を取られ、こう呼ばれている。
戦極ドライバー。武を武神鎧武へと変身させる道具だ。
しかし変身する為に必要であるもう一つの道具であるロックシードは以前の戦いで破損してしまい、二度とあの姿になることはない。砕けたロックシードを目にした時は、自分を殺戮者へと誘おうとする声も聞こえなくなり、誰かを悲しませる事は無くなったと安堵した程だ。
だが先日の戦いの折、窮地に陥った自分を救った戦士の言葉がどうしても忘れることが出来なかった。
『門矢の小僧からの伝言だ。お前が持ってるドライバー、無くさずに持っていろだと』
門矢という人物の名に、覚えはない。もし戦士の言葉をそのまま受け取るとするならば…その人物は武が戦いの際に一瞬考えてしまった事を可能にすることが出来るのかも知れない。
気が付けば、武は戦極ドライバーを手に取っていた。
(もし、もう一度変身できたとしても、俺は…彼のように戦えるのか?)
間桐家
「あの…メデューサさん」
「なんでしょう?」
「もう大丈夫だから―――」
「駄目です」
自室のベットで横になっている間桐光太郎の言葉を間髪いれず遮ったメデューサは椅子に腰かけたままジッと光太郎を見つめていた。
友人である東堂穣や他の技術者達を救出した後、光太郎は突如倒れてしまう。光太郎本人は気を失うことはなく、全身に力が入らず立っていられなくなってしまった事に本人が驚いていた。話を聞いたメディアの考えでは、原因はRXへの無理な変身にあるという。
元々は太陽の力を借りての変身にキングストーンの光を代理に使うとなれば相応のエネルギーを消費してしまう。さらにはRXの力になれて肉体の負担は減ったとはいえ、RXの凄まじい力を振るう為のハイブリットエネルギーの消費までは抑えられない。
その結果、キングストーンの力は急減し、光太郎自身が身体を動かすことが困難になってしまったとの見立てだ。
戦いから一日が経過し、動けるようになった光太郎だったがメデューサがそれを許さず、今日一日は大人しくして貰うとベットに寝かせ、こうして監視しているのだ。
心配してくれるのはありがたいが、太陽なしでもRXへと変身出来た光太郎にとっては一秒でも早く他の案を模索したい一心だ。今回は多量の鏡があってからこそ出来たが同じ手段が続くとは思えない。そうメデューサに説明したが、帰ってきた言葉が…
「…その度に、私達の前で倒れるつもりですか?」
目を潤ませて、震えるような声だった。
そう言われてしまえば何の反論も出来ない光太郎であった。いつでもRXとなる方法を見つけても当人の光太郎が力を消耗し、倒れてしまっては意味がない。彼等の周りが求めているのは光太郎が強くなることではなく、生きて帰ることなのだから。
「…ごめん」
ようやく絞り出した声を聞いたメデューサは目を拭い、無抵抗の光太郎の頭をそっと撫でる。その行為がどうにも気恥ずかしい光太郎は視線を逸らしてしまうが、珍しい光太郎の表情を見て、可笑しく思ったメデューサはいつの間にか笑顔を咲かせていたのであった。
「…出直すか」
「ですね」
扉の一枚向こうで2人の会話を聞いていた慎二と桜。
手にはそれぞれスポーツ飲料水と食べやすいサイズに切り分けられたリンゴを乗せた皿を持ったまま踵を返す。今の状態で部屋に入れるほど、2人は空気を読めない朴念仁ではない。
同じ頃、知人達と待ち合わせをしていた真祖の姫、アルクェイド・ブリュンスタッドはベンチに腰掛けボゥっと青空を眺めていた。
「なぁなぁいいじゃん?ちょっとそこでお茶するだけだしさぁ」
「そんなに時間は取らせないって」
と、先ほどから聞こえる複数の雑音に耳へ傾けず。
以前にも志貴と待ち合わせしていた時にもこんなことがあったなぁと思い浮かべるアルクェイドは相も変わらず上の空だったが、どうやら今回は以前のように粘り強い人間ではなかったらしい。
「てんめぇ…いつまで無視してんだよッ!!」
ナンパ男のリーダーらしき人物が痺れを切らせて強引に連れて行こうとアルクェイドに手を伸ばす。
男にとって、相手が悪すぎた。彼女がその気になってしまえば触れた途端にその掴んだ腕が細切れにさえしてしまう恐るべき存在であるのだが、男がそれに気付くことはこれからもないだろう。
それよりも恐るべき存在に目を奪われてしまったのだから。
あと数センチでアルクェイドの肩に触れようとしたその前に、男の腕は横から飛び出した手によって掴まれてしまう。男は邪魔をした相手を確認する前に腕に走る激しい痛みと嫌な浮遊感に襲われる。
「いでででででぇーーーーッ!!」
男は腕を掴まれたまま、黒いコートを纏った月影信彦に持ち上げられていた。1人の成人男性を軽々と、しかも無表情で持ち上げている存在に他の男達は思わず後ずさってしまう。
「は、離せ、離せ―――――ッ!!」
聞き苦しく耳触りな声に信彦は男の要求通りに手放すと、急に離された為受け身を取れず尻餅を付いた男は、他の取り巻きに連れられて脱兎のごとく逃げ出したのであった。
「…なんのつもりよ」
と、不愉快であることを全面にだすアルクェイドの質問をぶつける。あのような輩、信彦の手など借りる前に彼女の持つ魔眼で追い払うことだってできたのだ。それに、助けに入ってもらうとしてもこんな無愛想な奴よりも本日も自分を呼び出した少年の方が良かったという本音を口に出そうになった時、信彦はさも当然のように先ほどの質問に応じる。
「この場に警察がくるような状況にしたくなかっただけだ」
「なっ!?アナタ…私をなんだと思ってるのッ!?」
「…聞きたいのか?」
あーあ、また始まっちまったよと信彦の内側で様子を見守っていたアンリマユは自分に手があるのなら額を押さえたい気分へとなった。以前よりは解消したものの、相も変わらずギスギスしており下らないことで険悪な雰囲気となる。が、悪化する前に緩和剤となるべき存在が現れた事にアンリマユはほっとしてしまう。
「すまん、遅れちまったッ!!」
「遅いわよ!どうしたの今日は」
「いやぁ、日に日に琥珀さんがしかけた家のセキュリティが上がっててさ…秋葉たちの目を盗んで脱出するのに一苦労だったんだ」
何やら疲れた様子である遠野志貴は不機嫌となってしまったアルクェイドに謝罪しながらも信彦へと顔を向ける。
「すみません。遅れてしまって」
「かまわん。さっさと行くぞ」
「わかりました」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
全員がそろった所でさっさと目的を果たすべく進んでいく信彦に志貴も続いて歩きだし、置いて行かれると急ぎ2人の背中を追うアルクェイドはふと思い出した。
そういえば、先ほどの信彦のように弱った時の自分を助けた者がいたと。
さて、来週MOIVE大戦の公開となりますが、上映後には恒例となった春映画の予告はあるのか…
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