Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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なんということだ…12月まで毎週末、某動画でBLACKの一挙放送とは…

なんか告知っぽくなってしまいましたが27話です。

ちょいと長めっすね。


第27話

学校で備品の修繕に追われていた衛宮士郎はクライシス帝国の怪魔妖族 武陣の不意打ちを受け、意識を失ってしまう。

 

 

牢の中で目覚めた士郎は自分と同様に捕らえられた東堂穣から聞いた話から彼が間桐光太郎の友人であることと、光太郎が仮面ライダーとなる以前から全力を持って誰かを助けていたことを知る。

 

 

現れた黒幕…クライシス帝国諜報参謀マリバロンは士郎や穣、多くの捕えられた技術者に毒ガス衛星による地球の主要都市へ脅迫する計画。そして衛星を量産する為の知識とクライシス帝国への忠誠心を脳へ植え付けるという恐るべき全容を明かした。

 

 

マリバロンは手始めに士郎を洗脳しようとしたまさにその時、壁を突き破って赤い機体ライドロンが登場。そしてその操縦席から仮面ライダーBLACKが現れる。

 

 

ライドロンの突入によって生じた穴から穣を始めとした技術者を逃がした光太郎は太陽が既に沈み、RXへと強化変身が不能である状態で武陣に戦いを挑むのであった。

 

 

 

 

 

「ぐっ…おのれぃ…!」

 

攻撃を受けた胸を手で押さえ呼吸を乱す武陣は無言で構え続ける黒陽の戦士を血走った眼で睨みつける。光太郎は相手の殺気に塗れた視線など物ともせず、続けて攻撃をしかけようと一歩前へと歩んだその時―――

 

 

「これは、警報?」

「フフフ…これで貴様も終わりよ間桐光太郎!」

 

 

突如室内の照明が白昼色から赤へと変化し、アラームが鳴動。壁際へと移動していたマリバロンは赤い緊急ボタンを手で押さえつけながら口元を吊り上げ、勝利を隠したかのように光太郎達に向かい言い放った。

 

「今、この施設の地下にある毒ガス衛星に搭載する予定だった毒ガスタンクの自爆装置を作動させたわ…あと10分でこの施設は消えてなくなるのは勿論、爆発によって拡散した毒ガスが近隣の街へと降り注ぐでしょうね」

「何ッ!?」

「じゃあ、街の人たちは…!?」

 

敵の取った卑劣な手段に驚く光太郎と士郎は最悪の結果を予感してしまう。もし、マリバロンによって起こされた爆発によって近隣の住民や今し方避難した東堂穣を始めとした技術者達が毒に犯されてしまったら…そんな最悪の結末にマリバロンはさらなる追い打ちをかけてくる。

 

 

「アハハ…もしかしたら死ぬ事よりも辛い目にあうかもしれないわね…ここに保管されていた毒で、彼方は散々苦しんだのだし」

「ま、さか…」

 

青ざめる士郎は自分と、自分の同級生たちを苦しませながら人外へと誘おうとした忌まわしき蛾の毒を否応なしに思い出してしまう。

 

そう、地下に保存されている毒ガスは単に致死性の高いガスではなく、前回の戦いで怪魔獣人ガイナガモスによって養成されていた毒蛾ガイナンを主成分とされた人間を怪人へと変貌させるガスであった。

 

もし噴出したガスを多くの人間が浴びてしまったら、唯一の手段であるキャスターが精製した解毒剤を持ってしても数も時間も間に合わない。こうなれば手段は一つ。毒ガスが放たれる前に、自爆装置を止めるしかない。

 

光太郎はこの場を離れ、ガスタンクの場所を探そうと振り返えるが、何者かによって羽交い絞めにされ動きを封じられてしまった。

 

「そうはさせんぞッ!」

「くっ!?」

「マリバロン様ッ!私ごと間桐光太郎を『あの場所』へとッ!!」

「よく言ったぞ武陣ッ!!あそこなら確実にBLACKを葬ることができるであろうッ!!」

 

 

武陣の言葉に頷いたマリバロンは光太郎へ手を翳し、赤い光を照射する。攻撃かと考えた光太郎はダメージを覚悟するが、放たれた光に当てられても不思議と痛みはない。その代わり身体が浮遊したと感じた直後、赤い光の消滅と共に、光太郎と武陣の姿が消えてしまった。

 

 

「光太郎さんッ!?」

「死んではいないわ。けど、それも時間の問題ね。武陣の力が存分に生かせるあの場であれば、BLACKもお終いね。そして、お前も終わりよ」

 

光太郎の消滅に思わず名を叫んだ士郎へ光太郎はまだ死んではいないと伝えるマリバロンは、自分が入室した入口から響く足音へ耳を傾けながら士郎へと宣告する。

 

「ここにいるのはさっきその車に轢かれたチャップ達だけではないわ。地上にあるダミーの観測所に控えていた者達もここに向かっている。爆発に巻き込まれて死ぬなんて、甘い最後は許されないわ」

 

マリバロンの言う通り、解放されたままの通路を見れば何者かの影が段々と大きくなっている。少なくても3人はいるだろう。

 

どうにか自分だけで切り抜ける方法を模索する士郎へ、ヘッドライトを点滅させるライドロンは少年の緊張をほぐす様に電子音声を響かせた。

 

「心配スル事ハ無イ」

「え…?」

 

自分の意思を持つ赤いマシンはそう告げた時、後一歩踏み出せばこの室内に敵の増援が現れてしまう手前となっていた。

 

 

「さぁ、チャップ!クライシスの僕となったゴルゴムの残党共!あの人間を血祭りに――――」

 

自分が言い切った直後に士郎の殺戮ショーを拝んだ後にゆっくりと脱出すれば良いと考えていたマリバロンだったが、その思考は振り返った際に見たボロボロとなったチャップがゆっくりと倒れていく姿を見たことで凍り付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「道案内ご苦労であったな」

「まぁ、ゆっくり休んでくれよ」

 

 

 

 

両手に刀を持った赤上武とライフル銃を肩に担いだ間桐慎二の姿が、そこにあった。

 

 

「ば、バカな…!?何故お前達が…そ、それにチャップ達は…」

「地上にいる雑魚共はメデューサ殿と桜殿が相手をしてくれている。もう起きている者などいないだろうがな」

「それと、上の建物の屋上にあった無駄に大きいパラボラアンテナもついでに壊してもらってるよ。電波は…ああ、良好良好!やっぱあれが妨害してたんだねぇ」

 

驚愕するマリバロンへ鍔元を鳴らした武は不敵な笑みを浮かべ、隣に立つ慎二はポケットから取り出した携帯電話を操作して電波が通じることをワザとらしく強調した。

 

2人の登場にぽかんと口を開けてしまう士郎へライドロンは再びライトを点滅させる。だから言っただろう?と言わんばかりに。

 

 

 

「おのれ…けど、結局は終わりよ!BLACKは死に、ここは爆発して人間達は怪人と成り果てるのだからッ!!」

 

 

歯噛みするマリバロンは後退しつつ、捨て台詞を放つとその場から姿を消してしまった。

 

 

お決まりだねぇと息を吐く慎二はライドロンの操縦席に潜りこむと、既にライドロンが解析していた地下設備内に関するデータを閲覧する。この建物を爆破すると同時に毒ガスを拡散させるという敵の手段を既にチャップ達から尋問して聞いていた慎二はその場所を探るべく検索すると、ライドロンがモニターで映し出している図面の中で2カ所点滅させている不審な箇所を発見。

 

そのどちらもここに到着するまでに目を通していた図面にはない空間だ。一方は現在よりもより深く、もう一方は地上へ近い場所となっている。さらに電気系統の図面を重ねると最下層の部屋には最低限の電気配線しか送られていない。もう一方には十分な配線は勿論だが隣に非常発電機まで常備されている。

 

毒ガスという自分達の害を及ぼす危険物の管理をする為に必要な設備の整った保管場所となれば…こちらしかあるまい。

 

 

「場所はわかった。偶然にもこの真上にあるみたいだからとっとと乗り込もう」

「止める寸法はあるのか?悪いがそちらの方には力になれる自信がない」

「…なんとかすんだよ」

 

毒ガスタンクの場所は把握できたが、敵が仕掛けたのは秒読みが開始された自爆である。慎二には勿論、武にも爆弾処理のような経験はまるでない。それでも、止めなくてはならない。

 

ライドロンには地上に戻り、メデューサ達と共に待機するよう伝えて急ぎ目標の部屋へ向かおうとする慎二達に、今まで立ち尽くしていただけであった士郎が呼び止めた。

 

「慎二、武さん!俺も…俺も連れて行ってくれ!」

「こりないよねお前は。付いてこられても―――」

 

 

ハァ、と溜息を付いて振り返った慎二は真正面から士郎のお節介を拒否するつもりだった。だが、知人の真っ直ぐな瞳を見て言葉を失ってしまう。あまりも、自分の良く知る目とそっくりだった為に。

 

 

 

「…いいのではないか、慎二殿?」

「武?」

 

言葉を止めてしまった慎二へ静かに語りかえた武は柔らかな声で士郎へと顔を向ける。

 

 

「衛宮殿も今のような状況で、生半可な覚悟で言ったことではあるまい。それに、今は1人でも多くの者に助力が必要だ。聡明な慎二殿なら、そう考えるはずでは?」

「~~っあぁーもうッ!足引っ張んじゃないぞ衛宮ッ!!」

 

ガシガシと髪をかき乱した慎二は仕方なしに了承すると床へ八つ当たりするようにズンズンと踏み鳴らして牢の出入口へと向かっていった。素直でない少年の後ろ姿に微笑みながら武も後へ続いていくが、士郎は唯一気がかりを口にする。これは自分だけでなく、慎二にとっても同様のことではないだろうかと武を呼び止める。

 

「武さん、光太郎さんは…」

 

慎二達が駆け付ける寸前に敵の武陣と共に姿を消してしまった光太郎を心配する士郎だったが武はその事かと笑い、目的へと歩きながら説明した。

 

 

「先ほど慎二殿がライドロンで建物の内部を確認した際に光太郎殿が所持している発信機の信号も合わせて確認している。この建物の中にいることは間違いないだろう」

 

光太郎がどこかにいる、という説明だけで生きているかどうかの心配など、微塵もせず話を終えた武は慎二の後を追っていく。

 

付き合い自体は慎二達より、むしろ自分よりも短いにも関わらず武は光太郎へ絶大の信頼を置かれていることを知り、士郎は改めて光太郎という存在の大きさを思い知りながらも、おいて行かれないよう後を追うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…」

 

光太郎は気が付けば広い空間の中央にいた。照明は点いているものの全体的に薄暗く、床には乱雑に資材が散らばっている。

 

そこは慎二がライドロンで分析した際に発見した図面上にない存在しない室内であり、設備の最下層に位置している場所だ。先程から光太郎は赤い複眼を光らせ、マルチアイを発動。

 

ゆっくりと周囲を見渡すがマリバロンの言ったガスタンクは見つからない。

 

ならばここに長居している暇はない。

 

光太郎は急ぎその部屋から離れようとしたが…

 

「ッ!?」

 

突如、自分の変身した姿…BLACKが目の前に現れ、身を引いた光太郎だが違和感を覚える。目の前のBLACKは自分とまるで同じ動きをしている。警戒しながらも接近すると、その正体が判明した。

 

「鏡…?なぜ、こんなところに」

 

光太郎の身長と同じ高さ程のある縦長の鏡。先程マルチアイで探った際には、この空間にはこんな鏡は無かったはず…光太郎が鏡に触れようとしたその時であった。

 

 

 

「ガァッ!?」

 

 

胸に走る激痛に光太郎は胸を押さえながら後退する。煙を上げる自分の胸部を見ると、斜めに切り裂かれた跡がくっきりと残っている。

 

 

「これは…そうか、これがお前の言っていた『秘技』の正体か、武陣!!」

 

「フハハハハ…その通りだ!」

 

 

光太郎の前に現れた鏡の面がまるで水面に走る波紋のように歪み、その中から刀を手にした武陣が高笑いと共に出現した。

 

「これぞ鏡渡りの術…私は鏡の中を自在に移動ができるのだッ!!」

「鏡の中を…」

「その通り…そして、この部屋では私の術が最大限に生かされるのだ…」

 

武陣が手を上げた瞬間、武陣の背後に浮かぶ鏡と同様の鏡が次々と現れる。その数は30を越え、まるで円陣を描くように光太郎の周りへと移動し、左右、前後を鏡に囲んでいく。

 

 

「何なんだ…ッ!?」

「さぁ仮面ライダーよ!わが鏡地獄を味わうがいいッ!!」

 

後方へと跳んだ武陣は再び鏡へと潜りこむと、途端に数十枚の鏡は光太郎を中心に高速で回転を始める。

 

 

「これは…ぐぁッ!!」

 

鏡に気を取られた光太郎の背中を切り付けた武陣は光太郎が振り向いた途端に鏡へと潜りこみ、光太郎が意識を向けていない方向から再度切りつけて鏡の中へ…

 

攻撃と鏡への出入りを繰り返す武陣の出現位置はまるで予測が出来ず、光太郎の身体には次々と痛々しい傷が刻まれていき、ついには膝を着いてしまった。

 

 

『ハハハハハ…我が鏡渡りの術を思い知ったか仮面ライダーッ!!』

「ぐぅ…」

 

光太郎は武陣から攻撃を受け続けているが、ただやられている訳ではない。こちらを翻弄する鏡渡りの術の肝は、光太郎を囲う鏡。これを破壊すれば勝機は見えるはずだ。

 

頬に大きな傷を受けた光太郎はマルチアイで武陣が鏡へと潜った瞬間を見計らい、鏡を破壊すべく床を蹴って前方へと拳を突き出した。だが…

 

「なッ…!」

 

ダメージを負いながらも床に亀裂が走る程強く踏みつけて生じた推力はまさに電光石火の一撃のはずだった。しかし光太郎の攻撃は空を切り、鏡は相変わらず光太郎とは一定の距離を保って回転を続けている。

 

光太郎を一切寄せ付けず、回り続ける鏡の大群に初めて不気味さを覚えた光太郎へ、武陣は圧倒的に有利である余裕のためか、攻撃を仕掛けずに再び膝を着いた光太郎を見下すように高笑いを木霊させる。

 

 

 

「ハハハハハ…!この鏡はガテゾーン様により頂いたからくり仕掛けの鏡…貴様の生体反応を内蔵されたセンサーが察知し、瞬時に距離を取るようにプログラムがされているのだよ」

「ガテゾーン…あの、男か」

 

初めてクライシス帝国と接触した際、無抵抗となった自分をいたぶるボスガンを止め、自分をクライス要塞へと運んだ一つ目のロボット怪人の姿が脳裏に浮かぶ。クライシス帝国の中でも不思議と存在感のある男の質問に光太郎が答えた後の反応が、今でも忘れられなかった。

 

 

 

『他人の為に、ねぇ…分からねぇな』

 

 

 

今まで光太郎が敵対した相手は、誰かの為に戦うという意思を示した時は決まって下らない、愚かな考えであると一笑に伏していたがガテゾーンの反応は違った。

 

 

本当に理解が出来ていないような、迷いが見受けられた。

 

 

 

 

「さぁ、お遊びはここまで…覚悟してもらおうッ!!」

 

 

再開された武陣の攻撃に、光太郎はただ身構える事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これだ…」

 

ライドロンが開示したデータを基に発見した室内へと入った慎二と士郎が見たものは、空間の半分以上のスペースを使って設置された貯蔵タンク。間違いなく、人間を怪人へと変貌させる毒ガイナンが保管されているものだ。

 

「時間は…チッ、あと3分切ってやがる!」

 

腕時計が指している時間を確認した慎二は舌打ちすると即座に起爆装置のある場所を探し出す。士郎も続いて周辺を見渡すが、扉一枚を隔てて起きている戦いの方へと意識を向けてしまう。

 

 

(いや、集中しろ士郎。武さんは何のために囮を買って出たんだ…)

 

 

 

 

 

それは目的地を発見した直後の時。

 

扉をいざ開けようとした途端に突如3人を電撃が襲い、振り向いたその先にはサイボーグシカ怪人が巨大な角へ帯電させながら接近し、その背後には武装したチャップ達の姿があった。

 

 

それぞれ武器を取る慎二と士郎だったが、武はそんな2人に室内へ入って急ぎ爆発を止めるよう促し、武自身は怪人達へと斬りかかっていったのであった。

 

 

 

 

(どこだ、どこにある…!)

 

武に戦いを任せた慎二達は急ぎ部屋へと飛び込むと室内の探索を始めるが、関連するものは現在も見つからない。時間だけが経過していき、次第に焦っていく慎二はまだ室内で目を向けていない部分の推測をしていく。

 

 

(室内に唯一置かれているデスクトップのパソコン…キャビネットの中…今衛宮が開いて確認している分電盤の中…改めて考えてみればまるで気を引いているかのように、不自然な配置。だとすれば…)

 

「お、おい慎二ッ!?」

 

慎二は呼びかける士郎の声にかまわず、室内のガスタンクの上へと昇り始めた。やがて天井との幅が1メートルもないタンクの上部に到着した慎二は、タンクの中央部にある長方形の部位が、天井の点検口からはみ出ている無数の配線と繋がっている状態を発見する。

長方形には赤いデジタル数字が表示され、その数は段々とゼロへと近づいている。

 

間違いない―――。

 

 

「…これか!」

 

「み、見つかったのか!?」

 

「ああ、あとはこいつを―――」

 

 

慎二に続いてタンクの上部へ到着した士郎に同意し、屈んだまま起爆装置へ前進する。残り時間は約2分。後は柳洞寺で控えているキャスターへと連絡し、正確な位置を教えれば転移魔術で起爆装置のみを海にでも放り出せる。それで解決するだろうという安心感が、慎二を油断させてしまった。

 

 

起爆装置へと進む途中、慎二はブチリと何かが千切れた音に思わず足を止めてしまう。

 

 

背中に嫌な汗が流れると共に膨らむ嫌な予感。

 

 

慎二の予感は当たり、慎二の足によって切断されたワイヤーがスイッチとなり、起爆までの時間が残り30秒を切ってしまった。

 

 

「くそッ!こんな仕掛けを…」

 

初歩的なブービートラップ。

 

こんなものに引っかかってしまうなんてという後悔の時間すら惜しい。急ぎ電話を繋ごうとするが、携帯電話を手に取った時点で残り15秒。宛先を探し、コール音が鳴っている途中で爆発してしまう。

 

もはや、手遅れだと、普通なら諦めるだろう。だが、慎二は諦めることを知らず、何かをなそうと自分が持ち合わせている工具をタンクの上へと広げた。

 

 

 

士郎は知らなかった。中学時代から知る友人が、こうまでして戦うことを諦めない事を。そう、彼の戦いは敵を倒すという単純なものじゃない。人知を超えた能力を持つ怪人と対等に戦う事ができなくても、こうして自分に出来ることで戦い続けている。

 

 

(…すごいな、慎二は)

 

見誤っていたのかも知れない。慎二と、妹の桜も同じ年代の少年少女から比べられぬ程に強いだろう。それはだた相手に勝つ為だけの強さじゃない。憧れ、慕っている彼等の兄のように誰かを守れる強さなのだ。

 

 

 

(なら、俺は…)

 

 

自分の手を見つめる士郎に、心に響いた言葉が甦る。

 

 

 

 

 

『もう二度と負けない為に強くなり、そしてそいつらを守り抜くという誓いを貫き通す。そいつを俺達は…『正義』って呼んでいるぜ』

 

 

 

 

 

『今自分の持てる力で全力を尽くす。それが俺の戦い方だ』

 

 

 

 

 

 

 

(俺に出来ることを、全力で…!)

 

 

 

 

慎二が彼の行動に気が付いたのは、自分の持つ工具の中からニッパーを奪い取るように掴み、既に起爆装置へと手で触れていた。

 

 

「おい、衛宮――――」

 

何をするつもだと慎二が言い切る前に、士郎はその言葉を口にする。修行を始めたあの日から、自ら生み出したスイッチとなる言葉を。

 

 

 

「――同調、開始(トレース・オン)!!」

 

 

士郎の魔術回路を走る魔力が起爆装置へと浸透、回路内を駆け巡っていく。

 

 

「――――基本骨子、解明」

 

 

士郎唯一の魔術である投影。その前段階であった強化。そしてさらに強化へ辿るまでに行う物体の「解析」。士郎はこれにより学校の備品などの修理や補強を繰り返しいた。

 

目の前にある起爆装置もまたそれらと同じ機械。中にある伝導体や配線が、どの役割を果たし、何のためにあるのかを読み取ることなど、士郎に取って造作はない。

 

 

 

(そうだ…今俺が全力で出来ることは、これだ!)

 

 

頭に浮かぶ起爆装置の全体図。その中で最後に装置を起爆させる為に必要な配線を見つけ出す。これさえ切り裂けば、爆発は止まる―――

 

 

目を見開いた士郎は起爆装置から手を離すと瞬時に夫婦剣の片割れを投影し、起爆装置の一部を切り裂く。

 

 

露わになった無数の配線のうち、ただ一つだけをニッパーにて切断した。

 

 

 

作業を終えた士郎がゆっくりと表示灯へと目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

時間はゼロとなっていたが、爆発する様子はない。

 

 

 

 

背後で息を飲んでいた慎二は緊張の糸が切れたように、その場へ座り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうやら、慎二殿達は上手くいったようだ。ならば…)

 

 

 

この危機をどう脱しようかと赤上武は折れてしまった刀を見つめていた。

 

 

以前サイボーグ怪人と対峙したアーチャーに習い、敵の関節部を狙って攻撃をしかけたもののサイボーグシカ怪人の電撃を受け、チャップ達の援護射撃という不利な状態であるにも関わらず、武は慎二と士郎が入った部屋の前から一歩も動こうとしなかった。

 

 

この先で覚悟を決めた少年たちが死力を尽くして戦っている。ならば、露払いは自分の役目であると決めた武は自分の持つ技の全てをサイボーグ怪人へとぶつけた。だが、力の差はあまりにも大きかった。

 

 

 

 

 

(まったく…こんな時にあの忌まわしい力があればと一瞬でも考えてしまうとは…俺も修行不足だったか)

 

 

蓄積されたダメージに目の焦点が合わなくなってきた武の前に立つシカ怪人の角に再び電気が宿る。この距離で電撃を浴びてしまえば一たまりもないと頭で理解していても身体がいう事を聞いてくれない。

 

 

電撃が今にも放たれようとしたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真横から放たれた鉄パイプによって狙いは外れ、電撃はあらぬ方向へと流れていった。

 

 

 

 

 

 

「なんだってんだこの建物は…結城さんから送られた地図とてんで違うじゃねぇか」

 

 

 

意識が朦朧とする武の眼に映ったのは、見たことも無い戦士の姿だった。

 

 

 

「まぁ、無事に辿りつけたからいいわな。それに厄介な爆弾とやらも止まったようだし…後はテメェらを片付ければお終いだ」

 

 

白いマフラーを靡かせ、こちらへと歩み寄る度に足の裏と床との間に電気が生じている。みれば赤く、アメフトのプロテクターを連想さえるような胸部やカブトムシの意匠があるアンテナからも電気が迸っている。

 

 

標的を武から戦士へと切り替えたサイボーグシカ怪人は再度角へと電気を走らせ、戦士へと爆進する。

 

 

 

「…いい度胸してるじゃねぇか。俺と電気で競うなんてよ」

 

 

その突進を受ければ丸太すら折れてしまうような攻撃。その攻撃を、戦士は角を掴む形で受け止めいた。

 

 

「へっ…他の国でとっちめた連中よりも骨があるじゃねぇか。だがな…」

 

 

緑色の複眼を持つ仮面の下で、戦士は笑った。笑った直後に、目を閉じなければ潰されてしまう程に、激しい電気が室内に発生する。

 

 

ゆっくりと目を開けた武が目にしたのは、角が黒焦げとなり、前進から火花が散っている無残な姿と成り果てたサイボーグ怪人だった。

 

「俺とやりあうには、ちぃとばかり力が足りなかったようだな」

 

戦士が手袋を填め直すような仕草をした直後、活動を停止したサイボーグは音を立てて沈むのであった。

 

 

援護していたチャップ達はサイボーグシカ怪人が敗北したと悟った時点で逃げ出しており、この場にいるのは壁に寄り添ってなんとか意識を保っている武と、異形から人の姿へと戻った戦士ただ2人。

 

 

 

「お、前は…」

「よくまぁあの連中相手に生身でやったもんだ。滝さんに負けず劣らずってとこだな」

 

声を絞り出して尋ねるが前のめりに倒れる武を受け止めた戦士は自分の良く知る人物と連想すると彼をゆっくりと座らせる。そして意識を失いつつある武にある言葉を残し、その場を後にしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「門矢の小僧からの伝言だ。お前が持ってるドライバー、無くさずに持っていろだと。それと―――」

 

 

 

 

 

「あの悩んでた小僧に言っといてくれ。自分の正義は見つかったのかってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎によって爆破が阻止された時を同じくして、光太郎は倒れはしていないものの、全身を武陣の刀で切り刻まれ、特に深く傷ついた左腕を右腕で庇いながら立ち尽くしていた。

 

 

 

「なんとしぶとい奴だ。死ねばさっさと楽になるものを」

「……………」

 

光太郎の周囲を回り続ける鏡から全く姿を見せない武陣の言葉に耳を貸さず、ある事に気が付いた光太郎は痛む身体に鞭打って、大きく一歩全身した。

 

途端、やはり鏡は光太郎から一定の距離以上縮めることはない。武陣の言う通り、光太郎の接近を許そうとはしなかった。しかし、光太郎はそれこそが鏡の欠点であると見抜いていた。

 

 

 

 

 

 

(あの鏡は俺からある程度の距離を保っている。接近させないが、今以上に離れようとしていない…)

 

 

それを試すための一歩。光太郎の前方にある鏡達は光太郎から距離を離すが、背後を回る鏡も光太郎の移動に合わせて踏み出した分接近している。

 

恐らくは光太郎の攻撃範囲と武陣の鏡渡りの術を最大限に生かせる距離が、今の間合いなのだ。

 

 

 

(これで奴の攻略する方法は掴んだ。後は…いや、悩んでいる場合じゃない)

 

 

光太郎は両足に力を込め、背筋を伸ばす。鏡の中に潜んでいる武陣はとうとう観念したかと考え、光太郎の背後の鏡へと移動。背後から急所であるキングストーンごと貫こうと刃を差し向け、鏡から半身を出した時だ。

 

 

 

光太郎は両腕を左右に展開。ベルトの上で両拳を重ねたと同時にベルトの中央から赤い輝きが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キングストーンフラッシュッ!!」

 

 

 

 

 

数々の奇跡を起こしてきたと言われるキングストーンから放たれる輝き。だが、これに対しても武陣は予想済みであると再度鏡の中へ潜りこむ。

 

 

様々な能力を秘めていようが所詮は光。自分が潜む鏡には反射されて、自分には届くはずがないと薄ら笑う武陣。

 

 

 

 

だが、その反射される光こそが、光太郎の狙いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオォォォォォォォォォォッ!!!」

 

 

 

 

鏡によって反射されたキングストーンフラッシュは当然光太郎へと向けられ、赤い光を浴びた光太郎は絶叫する。だが、それは攻撃を受けた苦しみによる雄叫びではない。

 

 

「さぁ、今こそ止めを―――なッ!?」

 

 

武陣が驚くのも無理はない。

 

 

光を受けた光太郎の腹部にある王石は自らの光を受けた事でさらに輝きを増し、傷ついた光太郎の身体を次々と癒していく。

 

 

 

 

そして、変化はそれだけではなかった。

 

 

 

 

 

 

光を纏った光太郎は右手を天に翳し、左手をベルトの前へと移動。

 

 

右手首の角度を変え、ゆっくりと右腕を下ろすと素早く左肩の位置まで手首を動かし、空を切るような動作で右側へと払うと握り拳を作り脇に当てる。

 

 

 

その動作と同時に左手を右から大きく振るって左肩から左肘を水平にし、左拳を上へ向けた構えとなる。

 

 

 

光太郎の赤い複眼の奥で光が爆発する。

 

 

 

体内で精製される『ハイブリットエネルギー』により光太郎のベルトは2つの力を秘めた『サンライザー』へと変化。

 

 

 

サンライザーから放たれる2つの異なる輝きが光太郎の全身を包み、彼を『光の戦士』へと進化させた。

 

 

 

 

 

 

黒いボディの一部が深い緑色へと変わり、胸部には太陽の力をエネルギーへと変換する『サンバスク』が出現。よりバッタへとイメージが近づいた仮面、より強く光る真っ赤な目を思わせる複眼と一対のアンテナ。

 

 

 

 

 

「俺は太陽の子――ッ!!」

 

 

 

 

 

「仮面ライダーBLACK!!RX!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、バカな…!?」

 

 

BLACKからRXへと姿を変化した光景に武陣は理解が追いつかなかった。なぜ、太陽がなければ変身できないRXへと変わることが出来たのか…

 

 

(ま、まさか奴は、反射させた光を太陽の代わりに…そんな事がありえるのかッ!?)

 

 

目の前で起こされてしまったからには認める他ない。光太郎の起こした奇跡に武陣は身を引き締めて再度攻撃の機会を伺う。

 

まだ、こちらの方が圧倒的に有利なのだ。

 

 

 

「まさかその姿へと変わるとはな…だが、いくらRXと言えどこの鏡渡りの術に打つ手はあるまいッ!!」

「残念だが、その打つ手を使わせて貰うッ!!」

 

 

鏡の回転を更に早め、光太郎を追い詰めようとする武陣に対し、即座に言い返した光太郎は右手を前方に突出し、左手を腰に添えた構えを取った。

 

 

 

 

 

 

「リボルケインッ!!!」

 

 

左腕を大きく回しながら広げた手を腹部のサンライザーへと翳す。

 

 

サンライザーの左側の結晶から幾層もの光の線が重なり、洗練された円形の柄が現れた。

 

 

中央の赤いダイナモが柄を光太郎が掴むと同時に光を迸りながら高速で回り出し、柄を引き抜くと光のエネルギーが凝縮されたリボルケインが姿を現す。

 

 

左手から右腕へと持ち替え、さらにリボルケインを真上へと翳す。

 

 

 

 

 

リボルケインの光は上空へと向かい急激に伸び、まるで蛇のようなうねりを見せた。

 

 

 

「なんだとッ!!」

 

 

武陣の驚きはそれだけではない。リボルケインを鞭のように変えた光太郎は大きく振り回し、彼の周辺を回り続けていた鏡を次々と破壊していった。

 

 

 

「ウオォォォォォォォォォォッ!!!」

 

 

光太郎の咆哮と共に砕け散っていく鏡。その中から一つの影が飛び出し、刀を光太郎へと向ける。無論、鏡ごと砕かれることを恐れて脱出した武陣だ。

 

 

 

 

 

 

「鏡渡りの術、やぶれたりッ!!」

 

「お、おのれいぃぃぃぃぃッ!!」

 

 

 

最も得意とする技が敗れた事により逆上した武陣は羽織ったマントを前方に投げ出しながら光太郎へと駆け寄っていく。

 

 

追い詰められたこの状況で考えなしにマントをこちらへと放るはずがないと考えた光太郎は自分に迫ったマントを飛び込みながら回避。着地したと同時に響く背後の爆発は、恐らくマントに仕込まれた爆弾なのだろう。

 

 

本当に最後の切り札を使い切った武陣に残されたのは手に持った刀のみ。

 

両手に持った刀を振り上げ、着地したばかりの光太郎を真っ二つにしようと唐竹目がけ全力で振り下ろす!

 

 

しかしそれを見抜いていない光太郎ではない。

 

 

武陣が振り下ろすよりも早く、手にしたリボルケインを武陣の腹部へと突き刺した。

 

 

 

「ぬ、があああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「ムゥンッ!!」

 

 

さらにリボルケインを深く突き刺す、武陣の体内へ光のエネルギーを注ぎこんで行く。

 

武陣の体内で飽和状態となったエネルギーがリボルケインが突き抜けた背部と、関節から火花となって漏れ始める。

 

 

武陣からリボルケインを一気に引き抜き、断末魔の声を背にして光太郎は大きく光の杖を頭上で旋回。

 

 

両手首を頭上で交差し、左手をベルト サンライザーへ添え、リボルケインを握る右腕を振り払う。

 

 

残心の構えを取ったと同時に地へ沈んだ武陣は大爆発の中へ消えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとな、慎二」

「はぁ?いきなりなんだよ」

 

 

気を失っている武を2人で肩を組みながら移動する中、士郎の言葉に慎二はまるで理解できなかった。文句は言われるような言葉を浴びせた事に心当たりはありすぎるが、礼を言われるようなことは言っていない。

 

「いや、お前があの時言ってくれなかったら、俺はただ強くなろうとしただけだったからさ」

 

「だから、ありがとう」

 

「意味わかんねぇ…」

 

 

 

思わず目を逸らした慎二が見た士郎の顔は、弓道場で見せた焦りしか見せた顔とまるで違い、晴れ晴れとしている。まるで求めていた答えにたどり着いたかのように。

 

 

彼に一体何があったのか。

 

 

そんな疑問を抱きながら階段を上がっていった先では、地上の敵を倒した桜とメデューサ。そして先に到着していた光太郎が笑顔で出迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、たまの休みに日本に戻ったらとんでもねぇお使いになっちまったな。まぁ、いい土産話も出来たことだしな」

 

赤いバイクに跨り、後輩と見知った少年たちが再会する様子を離れた場所で伺っていた戦士はヘルメットを被るとバイクを反転させ、静かに発進させる。

 

「さぁて、久々に顔見せにでも行くとするか」

 

 

海が見渡せ、美しい花が咲き誇るそこは、彼の掛け替えのない存在が眠る場所でもある。彼…城茂にとって世界の平和を守ることと同様に、大切な場所だ。

 

 

 

 

 

「んじゃ、頑張れよ。後輩」

 

 

 

 

「ん…?」

「どうかしたのですか光太郎?」

「いや、なんでもないよ。ミノル君が無事だったことを、はやくカオリちゃんに伝えなきゃね」

「はい」

 

 

誰かの気配を感じ、思わず振り返った光太郎だったがメデューサ共に家路へとつくのだった。

 

 

 

 

 

 




KSFが太陽の代わりにしたのは、まぁ不思議なことが起こったということで…


そして諸事情により2週間ほどお休みさせて頂きます。



再開した際には、またよろしくお願いします!


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