Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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またもや捏造設定多数につきご注意…もといご容赦を。


それでは、22話です。


第22話

身体の主導権をアンリマユに握られたことで、精神だけの状態となった月影信彦の頭にある記憶が流れ始めた。

 

拒絶していたキングストーンから流される、蓄積されたはっきりとした記憶であった。

 

 

 

遥か昔の事。

 

 

 

 

 

自身の肉体を失い、巨大な心臓のような姿となったゴルゴムの支配者『創世王』は自身が所持する2つのキングストーンのうち、緑色に輝く月のキングストーンを核とし、仮初の肉体を生み出した。

 

だがその身体には自分で意思や感情など持たず、文字通り創世王の操り人形に過ぎない個体だ。

 

 

生み出した理由は、実験のため。

 

 

ゴルゴムは5万年に一度、新たな創世王が生まれた際に文明を破壊、地球を支配するがその後再度人類が発展する際は陰ながらの支配のみであり、一部を除いて人類や地球の環境には干渉をしなかった。

 

 

それは創世王が2人の世紀王を戦わせ、自分に相応しい新たな肉体を作り出すまでの戯れであるがそれ以外にも大きな理由がある。

 

 

 

 

 

惑星が持つ安全装置である『抑止力』の出現を警戒していたのだ。

 

 

 

 

 

人類の破滅回避の祈りである『アラヤ』と星そのものが生命延長の祈りである『ガイア』

 

 

世界を滅ぼそうとする要因が出現すると同時に生まれ、要因を消滅させる最大のカウンターであり、絶対である防衛本能。

 

 

いつ現れるかも分からない難敵に討たれぬ為に創世王は自然や人類そのものを滅ぼすことはなかった。だが人類が数を増やし、ゴルゴムという脅威を忘れて生きていく様が気に喰わない創世王は疑似型の世紀王に破壊活動を命じ、敢えて抑止力を出現させようと画策。

 

 

疑似型の世紀王が抑止力に敗れたとしてもキングストーンだけを回収し、自分は鳴りを潜めれば本体には被害は及ばない。そして抑止力の存在を垣間見ることで対策が、あわよくば抑止力すら自分の力の一端として取り込み、地球上でゴルゴム以外の生命体を根絶やしとすると企んだのだ。

 

 

 

 

 

だが創世王の目論みは外れ、どちらの抑止力にも属さない者が疑似世紀王の前に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それこそが当時の月世界の支配者であり『真祖』の原型となる生命体、『朱い月』だった。

 

 

 

 

 

地球を守るためという名目で疑似世紀王と対峙した朱い月であったが、本心を言えばいずれは自分の領地となる地球を荒らす輩を倒す為ではあるが、それ以上にゴルゴムが月の力を秘めた神秘キングストーンを所持していることが許せず奪うつもりだったらしい。

 

 

 

 

 

疑似世紀王が手始めに1000人単位の人間が過ごしていた村と周囲数キロの森を焼き払った直後、空から落下する朱い月は洗礼としてドロップキックを背中へと叩き込む。

 

 

地面を削りながら吹き飛んでいく疑似世紀王の視線から相手を確認した創世王は自分へ戦いを挑むとはいい度胸だと応戦を始め、戦いは日が7度昇り、7度沈むまで続けられた。

 

 

その間朱い月は周囲数キロ範囲での結界を展開し、被害が及ばないようにしていたが結界内部は大地全てが崩壊したどころかその地に眠る霊脈すらズタズタに引き裂かれてしまう程の被害を蒙ってしまう。

 

 

戦いの内容は信彦が確認する限り、最初こそは疑似世紀王はシャドービームのような光線と、朱い月が腕を振るうだけで生じた衝撃波の応酬が繰り返されていたがそんなことは一日どころか10分持たず、己の拳をぶつけ合うだけとなっていた。

 

 

 

双方一切の躊躇のない必殺の一撃を打ち合い、防御などせずダメージを受けてしまっているがただの器に過ぎない疑似世紀王は痛みと疲労を知らず、核のキングストーンが常に全身へ力を行き渡らせている。対する朱い月はダメージを受けても常時月から送信される魔力で回復を続けていた。

 

 

攻撃を受けた直後に完全回復する戦いは永遠に続くかと思われたが、突如疑似世紀王の動きがピタリと止まってしまう。その動きに警戒した朱い月も攻撃を止め、相手の出方を伺っていたが突如、水を被った泥人形のように疑似創世王の肉体が崩壊。残った緑色の宝玉だけが結界を突き破り、彼方へと跳んで行ってしまった。

 

 

 

 

命じられたまま戦い続けていた疑似世紀王…キングストーンはこれ以上戦い続けても抑止力は出現しないと踏んだ創世王に帰還を命じられたようだ。だが、朱い月は納得がいかなかった。いや、恨みすら抱いているように血が滲みでるまで拳を握りしめ、その怒気だけで足元が陥没するほどである。

 

 

全力で戦った相手は力の源であるキングストーンを1つだけしか持っていなかっただけでなく、本体である創世王の分身どころか使い魔ですらすぎない傀儡だったのだ。

 

 

月の王である自分を弄び、愚弄されたと考えた朱い月はキングストーンを持つ者に対し決して晴れるこのない怨恨を抱くこととなる。

 

 

 

 

 

 

…もしこの出来事が後に他の真祖へ伝えられ、キングストーンを持つ者…世紀王は排除される存在と扱われているのであれば納得がいく。

 

 

地球の分身、精霊に近い存在である真祖は地球へ害を及ぼそうとするゴルゴムは敵対する対象であり、そこに刷り込みのように朱い月の創世王や世紀王へ抱く憎しみを植え付けられていたとしたら、アルクェイドと呼ばれている真祖が襲ってきても不思議ではない。

 

 

 

創世王が遺した負の遺産は、世代を越えて直接関わりを持たない者に対しても及んでいる。

 

 

信彦ではどうしても拭いきれない深い溝。

 

 

それは、真祖に限ったことではない。

 

過去に文明を破壊された者。逆らって命を落とした者。

 

その数は決して計り知れない。

 

 

 

(キングストーンを持つ者が命を落とすことで恨む者達の気が晴れるのならば…)

 

 

守り、共にいる人々がいるアイツと違い、何も背負うものがない自分には相応しい末路なのかもしれない。

 

 

だが、同居人は認めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラァッ!逃げてばっかじゃつまんねぇぜ姉ちゃんッ!!!こちとら時間がねぇんだからよ!!」

 

「…ッ!!」

 

 

複眼が漆黒に染まり、銀色の装甲に黒い刺青が刻まれたシャドームーンは両手に持った短剣を乱雑に振るっていた。その太刀筋には型というものはまるでなく、首や胴体を定めて狙ってる節すらない。攻撃を凌いだ直後に姿を消したと思ったら意識を向けていない方へと既に移動し、再び乱撃を繰り返す…

 

故に次の行動が全く読めず、アルクェイドは下がる一方であった。

 

それにアルクェイドが爪で攻撃を加えようとしても歪な剣に爪をからめ捕らめとり、相手はそのままへし折ろうとまで考えている。元々は相手の剣を破壊することを前提にした武器のようだが、本来アルクェイドの爪を破壊しようとすれば逆に短剣が砕け散ってしまうだろう。

 

だが、短剣はキングストーンの力により精製され、担い手となっているシャドームーンの力も重なり、アルクェイドの爪だけでなくそのまま腕すら砕きかねない威力を持っているだろう。

 

 

今アルクェイドにできることは、彼が自身で宣言した限界時間…90秒が経過するまで凌ぎ続けることしか出来ないでいた。回避に徹し、しきりに公園の中央にある時計塔へと意識を向けながら、アルクェイドは自分への猛攻を続けるシャドームーンへ違和感を覚え始める。

 

 

(雰囲気がさっきとはまるで違う…二重人格?違う、まるで魂そのものが入れ替わったような…)

 

 

本性を隠していたという説も捨てきれないが、それであれば最初に自分から攻撃を受け、姿を現した際に明らかになっているはず。推測するアルクェイドの視界の中で獲物を狩る野獣のように迫るシャドームーンの関節から、緑色のエネルギーが火花のように弾け始めていた。

 

 

「く…こんなところで!」

 

(占めた…!)

 

 

舌打ちと共に動きを止めたシャドームーンに対し、アルクェイドは視線だけを時計塔へと向けた。時計の秒針はシャドームーンが告げた時間から1秒以上が経過している。

 

短剣を振り上げたまま身体を震わす敵に対しアルクェイドは爪を伸ばした右腕を引き、シャドームーンの胴体へと狙いを定める。突き立てる点は腹部のベルトに宿るキングストーン。

 

 

これを砕けば世紀王は確実に息絶え、後に同じ存在が現れることは無い…

 

 

自分が知り得る、最悪にして最低な存在の命はここで潰える。

 

アルクェイドは自分の内に知らず育った世紀王に対する憎悪と共に爪を突き立てた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁんちゃって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと数センチでベルトの中央にアルクェイドの爪が届こうとした刹那、彼女の爪はシャドームーンが握る短剣に阻まれてしまった。強引に押し進めようとも、爪と短剣が擦れあうガチガチという耳触りな音がアルクェイドの耳に響く。

 

 

 

「どう…して?もうとっくに時間が」

「悪いね、どーにも時間を間違えたらしくてね…」

 

 

 

 

 

「本当はあと10秒あったんだわ」

 

 

 

 

それは言った通りに読み間違えたのか、アルクェイドを欺くためのブラフであったのかは定かではない。

 

 

だが、シャドームーンがアルクェイドの攻撃を阻み、空いている手から短剣を放り投げ拳を放つのに、1秒もいらない。

 

 

 

 

 

「オラァッ!!」

 

 

身の危険を察知したアルクェイドは急ぎ爪を引込め両腕を交差させるという完全な防御の体勢となる。咄嗟にとった行動が功を成したのか、シャドームーンの攻撃に防御だけは間に合った。しかしその衝撃は相殺しきれず、アルクェイドはボールの如く地面を数度跳ねながら吹き飛んでしまう。

 

 

「アルクェイドっ!?」

 

 

今まで事態がまるで飲み込めず、傍観するしかできなかった遠野志貴はアルクェイドの名を叫び、急ぎ彼女が倒れている場所へと駆けていく。その姿を目で追うシャドームーンは深く息を吐くと手にした短刀をクルクルと回転させなんがら銀と黒の装甲を排除。月影信彦の姿へと戻すと志貴に続きアルクェイドの元へと歩んでい言った。

 

 

 

「しっかりしろアルクェイド、大丈夫かッ?!」

「し…き…?」

 

 

倒れていたアルクェイドを抱き起し、懸命に呼びかける志貴の声にアルクェイドは意識を朦朧とさせながらもゆっくりと自分を支える少年の名を口にした。無事であることに安堵する少年は彼女をゆっくりと寝かせると、遠野の家に帰る日からずっと持ち歩くこととなったナイフを取り出し、自分達に向かい接近する信彦…アンリマユの方へと振り返る。

 

武器を手にしてはいるが、その表情は迷いが見受けられた。

 

志貴はまだ、自分を何度も助けてくれた人物をアルクェイドが言う『人類の天敵』として見ることが出来ないからだろう。

 

 

 

「まぁ落ち着けよ志貴っち。こいつは念のために持っているだけであって、そっちの姉ちゃんとやりあうつもりはねぇよ」

「え…?」

 

眼鏡を外すかどうかまで悩んでいた志貴にとってはアンリマユの言葉は意外だった。志貴が余程驚いた顔をしていたのか、口元を歪ませるアンリマユは短剣を背後へと投げ捨て、一度地面へと落下した直後に役割を果たした歪な刃物は消滅してしまう。

 

「そもそも売られた喧嘩に応えちまっただけだしね。それに互いにもうスッカスカのはずだからさっきので試合終了ってわけさ」

「互いに…?アルクェイドッ!?」

 

アンリマユの言葉に引っかかった志貴は急ぎアルクェイドへと目を向けると、真祖の女性は苦しそうに呼吸を乱している。ナイフを放り、再度彼女の背中に手を回して丁寧に起こす志貴は金色から普段の赤い色へと戻った瞳で作り笑いを浮かべるアルクェイドの弱弱しい声に耳を傾けた。

 

「アハハ…ごめ、んね…力を使い過ぎちゃったみたい…」

「この、バカ女。心配させんなよ」

 

合わせて志貴も無理やり笑いながら答える様子を見て、やれやれと後頭部をガシガシかき回すアンリマユは踵を返しその場を後にしようとするが、気が付いた志貴はアルクェイドを支えたまま自身が持つ疑問を問いただす為に大声で尋ねた。

 

「あの…ッ!彼方は…俺の知ってる月影さんなんですかッ!!」

「志貴…」

 

志貴の不安な表情を見て、アルクェイドもゆっくりと先ほどまで殺し合いを行っていた相手の背中を見つめる。戦う前では背筋を伸ばし、全く隙のない姿勢で佇んでいたが今は猫背でどこか頼りない。だが、冷たい印象だけは削がれていた。

 

 

「あー…悪ぃけどその質問は後日改めて『本人』から聞いてくんない?俺、疲れて仕方ないんだわ」

 

 

アンリマユは振り返ることなく、手をヒラヒラと振って今度こそ公園を後にしてしまう。

 

残された志貴はアルクェイドをベンチへと座らせ、今度こそ飲み物を購入して彼女へと手渡す。が、プルタブの開け方が分からなかったようであり代わりに封を切って貰うと飲み物を改めて受け取り、一口含んだ後に最初に出た言葉が…

 

 

 

「なんっなのよアイツッ!!こっちは真面目に殺そうとしてたのに嘘つくなんて最低ッ!!」

「いや、殺されそうだからこそじゃないのか?」

「ちょっとぉ、何でアイツの肩を持つようなことを言うのよっ!」

 

むーっと頬を膨らませるアルクェイドを落ち着かせ、なぜ初対面のはずの信彦にそこまで攻撃的になるのかを尋ねてみる志貴であった。

 

 

 

「…理由は分からないけど、とにかく憎かったの。それだけ」

「それだけってお前…」

「でも人間だってそうでしょ?吸血鬼や怪人っていうだけで怖がるし、憎む。それと一緒だわ」

「まぁ、そうかもしれないけど、少なくてもあの人は違う気がするんだけどな」

「えー、どうしてよ?」

 

そう言われてしまうと志貴も回答に困ってしまう。月影信彦という人物もここ最近知り合った人物であり、シャドームーンへと姿を変えることもゴルゴムであったことも知ったのは今日が初めてだ。

 

あの普段とは違った性格と口調も同様に、彼という存在に対する謎は深まるばかりだ。

 

「…それでも、俺はあの人がお前の言うように人間の天敵とは思えないんだ。ま、お前風に言うなら理由は分からないけど、ってとこだな」

「それって、褒めてるの?」

 

どこか納得の行かないアルクェイドの顔を見て、ようやくいつも通りの彼女に戻ったと安心した志貴は最後にアンリマユが言った通りに、後日改めて話を聞くようにという言葉を思い出す。

 

 

(ということは、まだこの街にいるってことなのか…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、公園を離れたアンリマユは段々と歩く速度を落とし、近くに立っている電柱へと背中を当て、コートを摩擦させながらゆっくりと腰を下ろしていく。

 

 

「あー…やばかったマジでやばかった…つか真祖がいるなんて聞いてねぇぞ。あんのカレー女、重要な情報言わずにいやがって…」

 

(アヴェンジャー…)

 

「まぁあちらさんも理由は知らんが大分力が弱まってたおかげで助かったけどもなぁ。いやぁ俺様名演技!」

 

(聞けアヴェンジャー)

 

「んだよ、勝利の余韻…ってのとは違うな。こちとら生き残った喜びに浸ってんだ。邪魔すんなよ」

 

(貴様の都合などどうでもいい。なぜ、あの時邪魔をした?)

 

「邪魔、ねぇ…」

 

 

頭に響く信彦の声はいつになく不機嫌だ。勝手に戦った、というわけではないだろう。身体の主導権を奪い、信彦の望み通りに死なせなかった、命を終わらせるつもりだったのだろうが…

 

「まー俺は自分の由縁があっからあんまどうこういいたかないけどよ」

 

 

 

 

 

 

「自分の命を勝手に低く値踏みしてんじゃねぇよ糞ガキ」

 

 

 

(…っ!)

 

 

その声はこれまでの旅の中で聞いたことも無い、低く冷たいものだった。

 

 

 

「自分が死ねば相手の気が晴れるだぁ?今まで黙ってみてりゃあんな脇役連中の言葉を真に受けやがって…それでもアンタ組織の座長張ってたのかよ」

 

(何を…)

 

「いいか、外野から向けられる悪意なんてのは受け入れるもんであっても縛られるもんじゃねぇんだよ。ああ、自分はこう思われてるのかぐらいに考えとけ」

 

(……………………)

 

 

普段ならば下らんの一言で片づけられた同居人の言葉だが、今に限り信彦を黙らせるには十分な効果があった。

 

 

信彦の記憶をアンリマユが共有したように、信彦もアンリマユの過去に触れていた。

 

だが、アンリマユには人間であった記憶というものは無いに等しい。

 

彼が唯一覚えているのは、とある一族の平凡な青年であったことと、『悪であれ』という押し付けられた人々の負の感情のみ。人々の勝手な祈りにより、この世全ての悪を背負う存在へと成り果てた反英霊。

 

それがアンリマユという存在だ。

 

人々の祈りという捏造された呪いによって人で『そういった存在』となってしまい、この世全ての悪を背負わされたアンリマユから見れば、信彦へ向けられる悪意など塵芥に過ぎないのかも知れない。

 

 

 

 

 

「言っておくが別に俺が昔どうだったとか、アンタの方がましだとか、そんな事をいいたいんじゃねぇからな」

(…………………)

「アンタが見た通り、もう昔過ぎて自分がどういった理由でああなったかなんてのは覚えてねぇし、アンタには関係のない話だ」

 

だがよと言葉を区切った

 

「俺が言いたいのは、それだけの事を言われてお前さんが選んだ手段が『自殺』ってのが気に喰わねぇだけだ」

(…何が…言いたい?)

 

「ようするによ、どんだけの悪意をぶつけられようがアンタと俺は今を生きてる。だってのに最終的には言われるがままに死にますなんて、勿体なくて仕方ねぇよ」

 

 

本来なら大聖杯の消滅と共に、殻で得たふざけた人格ごと消滅するはずだったアンリマユは様々な経由があろうと今を生きている。信彦と共に。

 

 

「悪意上等!ってよ。奴らの身勝手な都合に逆らってこっちもとことん身勝手に生き抜いてやろうって気にならないかい?」

 

(俺は…)

 

「まぁそう簡単に心変わりはしないだろうさ。あと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少なくとも、アンタに生きて欲しいって望んでいる変わり者が2人はいるって事は覚えておいて欲しいね」

 

 

 

 

 

 

 

「そうすりゃちょいとは生きる理由にもなるんじゃね?」

 

 

 

 

 

 

信彦が思い浮かべたのは、死んでも変わらず自分を助けようとした宿敵と、運命に抗い生きる道を選んだ銀髪の少女。

 

 

2人の顔を思い浮かべた信彦は伸し掛かっていたように重く感じたものが、少し軽くなったように思えた。

 

 

 

(あんれ~?思った以上に単純だねあんた。んじゃ今後はあの2人の名前だせば精神的に落ち着くってか~?)

 

「黙れ。ん…?」

 

 

真面目な口調から一転し、普段通りにからかうアンリマユの軽口に反論する信彦はいつの間にか身体の主導権を取り戻していた。頭の中で、相も変わらず寝そべっている姿が容易に想像できた。

 

 

(つーか疲れた~。今夜の食事は甘いものを所望するぜ。何せ頑張ったんだからな!)

「…いいだろう。そのくらいは」

(マジで!?いや~たまには頑張ってみるもんだね、しおらしく素でへこんだアンタも見れてたしこんな事滅多にないからなぁ。マジて役得ってかんじだわヒャハハ!!)

 

「………………」

 

この時、信彦の額に微かながら青筋が立ってしまったことにアンリマユは気付けなかった。その為、信彦が以前から目を付けていた『紅洲宴歳館・泰山 三咲店』の暖簾を潜った時にアンリマユはようやく己の危機を察することが出来た。

 

 

 

 

(ちょっ!?約束が違うじゃねぇかッ!!死ぬッ!もう匂いだけで死んでしまうってッ!?)

 

「安心しろ。食後に杏仁豆腐くらいは注文してやる」

 

(いやいやその頃にはもう味覚が無くなって味なんて―――)

 

「激辛麻婆の定食。辛さは…増して頼む」

 

 

 

数分後。店内では信彦以外には聞こえない絶叫が木霊するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いんやーあの時は死ぬかと思ったわ色々な意味で…けど)

 

 

 

スーパーで付かず離れずといった絶妙な距離を保ったまま志貴への買い物を続けている信彦とアルクェイドの姿を見て、アンリマユは変われば変わるものと考えたが…

 

 

 

「ちょっとノブヒコッ!!私と同じ桃缶買わないでよッ!!」

「別に貴様に合わせた訳ではない。他と比べて手頃だっただけだ」

「何よっ!!」

「ふん…」

 

(まぁ、手を繋ぐほどの仲になったらそれはそれで不気味だけどな)

 

 

 

殺し合うような関係よりは遥かに健全であろう。アルクェイドが抱く憎しみは大きく削がれ、信彦は以前のような捨て鉢ではない。ここまで至るまでは他にも乗り越えてきた問題が多数あるが、それは追って思い出すとしよう。

 

 

 

まずは買い物を終えた後、無事に遠野家へと入れるかどうかが2人にとって、大きな問題だ。

 

 

そのような下らない問題ならば、いつでも迎えたいものだとほくそ笑むアンリマユの精神は眠りにつくことに決めた。

 

 

 




ちなみに信彦さんとアルクェイドさんは弓兵さんと槍兵さんのような関係に近いですね。

ばったり会ったらまずにらみ合い、みたいな。

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