Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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ゴーストの武器に無限の可能性を感じてしまう…

プライベートの都合と体調不良のため、普段より短めに…

では、21話となります!


第21話

勘当された家に戻ると決まったその日から、遠野志貴の日常は激変した。

 

 

 

 

 

決して悪用しないと恩師に誓った『力』ですれ違った女性を17の肉塊に切り刻み、絶命させてしまった。

 

 

 

しかし死んだはずの女性は生きていて、世間を騒がせている吸血鬼退治を手伝えと言ってきた。

 

 

 

状況が飲み込めないまま女性…真祖と分類される吸血鬼アルクェイド・ブリュンスタッドと行動する羽目となった志貴は体内に666の獣を内包する化け物の来襲に巻き込まれた。

 

 

 

アルクェイドを狙い、一夜で数百人の命を食い尽くした吸血鬼ネロ・カオスという『世界』を殺した。

 

 

 

街に潜伏している吸血鬼がネロ・カオスと別の存在と知った志貴は再度、アルクェイドに協力すると申し入れた…

 

 

 

笑顔で承諾した彼女と共に、吸血鬼を倒す為に…

 

 

 

 

 

―――この一週間にも満たない短い期間で、志貴は人間社会ではありえない、知ってはならない体験を重ねてきた。もうこれ以上驚くことなど起こりはしないと思う程に。

 

 

だが、そんな認識は間違いであると、志貴がそうであって欲しいと考えていただけだと思い知らされることとなる。

 

 

…目の前で起きていることが、今朝見た『他人を楽しそうに殺している夢』と同様に現実であって欲しくないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠野志貴は自分が貧血で倒れていた所を何度も介抱してくれた、無表情だが優しい人だということ以外、月影信彦という人物については何も知らなかった。

 

 

彼自身が語った旅の途中で三咲町に用事があって滞在しているということ言葉に何の疑いも抱かなかった。

 

 

 

いや、もしそれが偽りだったとしても、彼が『人間』であるということだけは、信じていたのかもしれない。

 

 

 

 

アルクェイドが街を徘徊する吸血鬼の僕以上に敵意…殺気とも取れる感情を向けている事に戸惑う時間すらなかった。

 

 

信彦がぼそりと何かを呟いた途端に、アルクェイドはあのネロ・カオス達を切り裂いた爪を彼に振り下ろした。

 

 

結果など考える必要などない。あの爪が振り下ろされた後に残るものは、血と肉の塊と化した信彦がバタリと舗装されたばかりの地面へと沈んでいくということだけ。

 

 

彼女に何故そんな事をすると尋ねる前に、そうなってしまうはず、だった。

 

 

 

 

「なっ…?!」

 

 

 

 

志貴はそんな声を上げることしか出来ない。

 

 

彼が今まで吸血鬼との戦いで学んだことなどかけらも通用しない、理解が追いつかない光景が目の前で起こっていた。

 

 

 

 

 

 

信彦はアルクェイドの爪を頭上に翳した手首で受け止めていたのだ。

 

 

 

 

 

 

それだけではない。

 

 

 

 

いつの間にか手首から拳まで銀と黒の鎧で包まれており、信彦の顔にはまるで手術痕のような傷がくっきりと浮かび、微かな光を放っていた。

 

 

 

 

「っ…!やっぱり、アナタは…!」

「チィッ…!」

 

 

アルクェイドが自分の攻撃を受け止めた相手を予想通りの存在だと確信し、さらに腕に力を込めて切り裂こうとするが、信彦は迫った危機から脱する為に力を解放する。

 

 

腹部へ緑色に輝く宝玉を宿したベルトを出現させ、そこから眩い輝きを放つと同時に信彦の身体に変化が生じた。

 

 

手首を覆っていた装甲が上腕、肩、胸、胴体、四肢へと広がり、信彦の身体を包んでいく。

 

 

最後に顔の傷痕を隠すように装着された仮面の複眼が緑色に強く発光。

 

 

シャドームーンへと姿を変えた信彦はアルクェイドの腕を振り払い後方へと跳び着地、街灯に照らされた異形の姿に、志貴は言葉を忘れて信彦の姿にただ、驚くしかなかった。

 

 

 

「月影…さん?」

「下がっていて志貴。アイツは貴方達人間にとって吸血鬼とは違う意味で天敵よ」

「な、何を言ってるんだよアルクェイド…月影さんが、人間の天敵…?」

 

信彦同様に距離を置きながら志貴の前に立ち、敵として認識した相手に隙を見せないよう振り返ることなく、アルクェイドはそう告げた。彼女が告げる天敵という言葉に、志貴は今の姿へと変わり果てた信彦と自分が対峙した敵の姿が重なるように脳裏を駆ける。

 

自分の知り合いが、あんな連中と同類だと言うのか。人間を、ただそこにいたという理由だけで喰らい、娯楽の為に吸血鬼へと変えてしまう奴らと。

 

未だに信じられずにいる志貴へアルクェイドは畳み掛けるように、信彦がかつて身を置いていた『組織』の名を告げた。

 

 

「この前志貴が教えてくれたわね。数ヶ月この国…いえ、世界全体が怪物達…『ゴルゴム』に支配されそうになったって。その親玉が、コイツ」

「…っ!?」

「どうして志貴に近付いたかは知らないけど、志貴が考えているような相手ではないわ。地球を支配するなんて、ふざけたことを考えているんだから」

 

 

絶句とは、今の自分のような姿を指すのだろう。そう自覚できる程に志貴は彼女が言い伝えたことによって何を言っていいのか、その意味をどう受け止めればいいのか分からないでいた。

 

 

世情に関心を持たない志貴ですらゴルゴムの名前に対して嫌悪感を抱いている。日本、そして世界に未曽有の危機へと陥れた悪の組織だ。

 

 

(月影さんが、その親玉…?)

 

 

アルクェイドは嘘が付ける性格ではないと、この数日間で分かっている志貴は戸惑うその瞳を信彦へと向ける。アルクェイドの言葉が耳に届いていた信彦は当然、志貴の視線と表情など読み取っている。

 

その上で、アルクェイドの放った言葉を否定していない。

 

 

つまりは、肯定だ。

 

 

 

 

「…目覚めた時にはゴルゴムは滅んだって聞いて安心していたんだけど、生きていたなんてね。やっぱりその『石』ごと葬らなきゃならないのかしら?」

 

ビキビキと鋭くした爪の硬度と切れ味を底上げしたアルクェイドの声は、志貴を見つけた時に見せたような無邪気さは一切なく、どこまでも低く、冷たい。

 

 

(おい、理由は知らねーけどあの姉ちゃんガチで殺しに来てるぜ)

「……………………………」

(できりゃあ、今回ばっかりは無視しないでくれると助かんだけどなぁ――――)

「お前は…」

 

 

シャドームーンへ姿を変えてから一言も発しない信彦へ苦言を呈しようとしたアンリマユであったが、信彦は接近するアルクェイドへ向け尋ねた。その間も、アルクェイドは歩む速度を緩めないまま信彦へと接近する。

 

 

「お前は…あの時と同じ存在なのか?」

 

距離はおよそ2メートル。互いに相手へ一撃を叩き込むには十分過ぎる間合いまで接近したアルクェイドはゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

「この身がどの器だろうと関係なかろう。星へ禍災をもたらす貴様ら世紀王が滅するのは、当然の報いだ」

 

 

 

 

一瞬、アルクェイドではない『誰か』の側面が現れた直後に放たれた攻撃は信彦の胸部へと叩き込まれた。

 

 

「ガァッ!?」

 

 

貫かれるような衝撃を受け、呻く信彦は路面をガリガリと抉りながら吹き飛んでいく。胸に受けた攻撃と、背中に走る路面を削った摩擦により2重の痛みが襲う信彦へアルクェイドは月明かりに反射する金髪を揺らしながら再び近づいていく。

 

 

(痛ってぇ…加減なしだわなあの女。どんだけ嫌な目に合わせたんだよ前の世紀王は。とにかく早く立っておくれよ、残り時間は…)

「…………………」

(おい、聞いてんのか?)

「……………………」

(…アンタ、まさか)

 

シャドームーンでいられる制限時間を告げても焦りも見せず沈黙する信彦の状態を見て、アンリマユは予てから彼が望んでいた事をこの場で果たそうとしているのではないかと再度呼び掛けた。

 

 

 

(おい!とっとと立ちやがれっ!いくらアンタが頑丈だろうと何度もさっきの攻撃受けたら時間をまたずに死んじまうぞッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

「それでも…かまわん」

 

 

 

 

 

仰向けに倒れ、月を見上げる信彦は力無く呟いた。

 

 

 

 

ゴルゴムとの戦いを終えた信彦は、アンリマユに指摘されたように自身の力へ嫌悪と恐怖を抱き旅を続けてきた。その道中、様々な相手からその命を狙われてきたが信彦には取るに足らない相手ばかりであり、どのような相手だったかも覚えていない。

 

だが、彼等が口にした言葉だけが、どうしても頭にこびり付いてしまっていた。

 

 

『お前は許されない存在だ』

 

 

神の意思だと言い訳する者も、自分達の認識を超えると狭い視野を持つ者も、揃って信彦に向ける言葉がそれであった。負け犬の遠吠えだとアンリマユは笑っていたが、信彦が否定することが出来ず、徐々にその言葉は大きな枷へと変わっていった。

 

そして旅の行く先々で未だ残る戦いの爪痕。ゴルゴムの一斉蜂起によって未だ復興の目途が立つ気配のない土地も少なからずあり、そのような場所に訪れた時、住まう人々からの拭いきれない悲しみとゴルゴムに対する恨みが、まるで自分への怨嗟のようにも聞こえてしまう。

 

罪の意識に苛んでいた為なのかは、分からない。だが、それだけの事を重ねてきたという自覚だけは確実にあった。

 

 

 

次々と積み上がっていく負の念に縛られていく信彦はある結論に至ってしまった。

 

 

 

生きていることが許されない存在だというのなら、この身は消えてなくなるべきだと。

 

 

 

だがこの身を砕く相手ぐらいは選んでおきたい。宿敵は絶対に自分を殺すという手段など取るはずもなく、自身を悪であると断定しながら身体に宿るキングストーンを狙う教会や協会の連中などは御免蒙りたい。

 

 

ならば、彼女のようにキングストーンごと滅するというのならば丁度いい。宿敵ならば自分が地球の支配者となるなどと愚かな考えに至るはずもなく、キングストーンの一つが消えてしまえば、新たな創世王を生み出す悲しき運命を背負う者など、今後現れない。

 

 

 

全てをここで終わらせる。

 

 

 

 

そう考える頃には、真祖の吸血鬼が自分を見下ろしており、再び振り上げた爪を信彦の頭部目がけて振り下ろしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分とまぁ、勝手に結論を出してくれたもんだなァ死にたがり」

 

 

 

 

 

 

「え…?」

(な、に…?)

 

 

 

その驚きは、止めを刺したと考えたアルクェイドと、確実に死んだと思った信彦によるものだった。

 

 

 

「前々からそうじゃねぇかなとは思ったし、いずれは打ち明けると期待してたんだが、土壇場になるまで明かさねぇとはねぇ…寂しすぎて涙がでらぁ」

「何、それ…何時の間にそんなものを…?」

 

 

先程と全く異なる口調にも勿論だが、アルクェイドは吹き飛ばされた後、微動だにしなかった信彦が自分の攻撃を受け止めた武器…獣の牙を模したような黒く、歪な短剣が絡め取るように爪を受け止めており、さらに力を込めることも、引き離すことも出来ずにいることに驚愕する。

 

(アヴェンジャー…貴様!)

「望んだ結果を迎えようとしたところ悪いんだけどよ。俺、アンタみたいな臆病者と心中なんて御免だわ」

 

徐々に身体を起こし、アルクェイドの攻撃を受け止めた短剣を反対の手に握る信彦…否、身体の主導権を奪ったアンリマユは漆黒となった複眼をアルクェイドへと向ける。

 

 

突然の変貌ぶりに寒気を感じたアルクェイドは伸ばした爪を瞬時に引込め、後方へと跳躍する。着地すると同時に敵も立ち上がり、さらに変化が生じていた。

 

 

 

 

「何か意味を見出して、その結果が死ぬってんなら、まぁ文句はあってもご一緒するけどよ。今のアンタは逃避の為に死のうとしてる。そんなお粗末なことに巻き込まれたくはないね俺は」

(…………………………………)

「ま、今は黙ってくれてかまわねぇよ。話はこの場を切り抜けたあとでだな。話をしてくれればだけどよ」

 

 

誰に話しているかは分からないアンリマユの身体に、次々と模様が走るように浮かんでいく。それは文字のようにも、獣のようにも見えた。

 

 

 

「選手交代だぁ、真祖さん!」

 

 

「お付き合い願うぜ…っても、あと90秒ねぇけどなッ!!」

 

 

身体を屈め、両手に持った短剣を逆手に持ったアンリマユはアルクェイドと距離を詰める為に地を蹴る。

 

 

 

 

 

その姿は地を疾走する狼のようだった。

 

 




月姫の最強クラスVSFateの最弱となったところで次回に続きます。

次回までには体調を戻したい…

お気軽に感想など書いて頂ければ幸いです。

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