Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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過去に月姫をプレイして、この主人公は誰かのルートへいくと、他の女性から確実に嫌な目に合わされてるのが多いな・・・という印象がありました。

それでは、20話でございます!


第20話

間桐光太郎が自身の中でイメージされる謎の影に不安を募らせている同じ頃…

 

 

世紀王シャドームーン…月影信彦は真祖の姫、アルクェイド・ブリュンスタッドに半ば強引に連れられ、体調を崩し寝込んでいる遠野志貴への見舞品の選別に付き合わされていた。

 

 

相も変わらず信彦への態度は変わらないアルクェイドではあるが、信彦の同居人であるアンリマユから言わせれば大分軟化していると言えた。

 

 

初めて2人が相対したあの時と比べればと…

 

 

 

 

 

 

 

 

信彦が死徒 ネロ・カオスによって屈辱的な敗北を喫し、本来ならば自分の命を付け狙う聖堂協会に所属する女性に助けられてしまうという事柄から数日が経過したある日。

 

 

とある公園で広場が重機で荒らされたかの如く地面が捲り上がり、陥没しているという光景を一目見ようと登校中の学生や出社前の社会人たちが群れとなり屯っていた。

 

 

その中には月影信彦の姿があり、あの場で起きたであろう何者かによる戦いの痕跡を見つめていた。

 

 

(はぁん、カレー女の言った通り志貴っちがあの化け物をねぇ…)

 

 

アンリマユは実感わかねぇなと呟くと昨晩自分達に接触した代行者との会話を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼捜索の途中、ファミレスで適当に夕食をしていた所に突如として現れた女性…シエルは信彦の許可も得ず相席するとメニューを見るまでもなくカレーライスを注文。

 

届くまでの間に公園で起きた経由を信彦へ一方的に説明したのである。

 

 

ネロ・カオスが消滅したことを。

 

それが、遠野志貴という少年の手によるものだと。

 

 

自分を苦しめた吸血鬼を、あの少年が倒したという事実に表情を崩しはしなかったものの、信彦とアンリマユを動揺させるには十分であった。

 

あどけない笑みを浮かべて、馴れ馴れしく自分の名を呼ぶ少年の顔が浮かぶ。戦いとはまるで縁がないはずの、ごく普通の少年…というのが世間から見た遠野志貴の印象だろう。

 

調べた限り、自分達と同じような改造人間でもなく、魔術協会・聖堂教会とはまるで無関係ということは分かっている。人間である志貴が吸血鬼と戦うどころか、倒してしまうなどありえるはずがない。

 

 

だが、思い返してみれば信彦達は志貴の『眼』を見てから、どこかで彼が普通の少年ではないと疑問に…否、警戒していたのかも知れない。

 

 

あの怪物を仕留める志貴は、どのような力を持っているのかと信彦達が考察を続ける中、自分が食した分の金銭をテーブルに置いた女性は笑顔で彼に言い残してその場を後にした。

 

 

 

 

『もうこれで、この街にいる理由はありませんよね?』と

 

 

 

 

女性が店を退出する間、信彦は自分に放たれた言葉よりもいつの間にか追加注文され、重ねられたカレーライスの食器の枚数の方に気が取られていた。

 

 

 

 

 

 

その翌日、戦いがあったとされた公園へと足を運んだ信彦は改めて痕跡である抉れた大地へと目を向ける。吸血鬼が放った生物達の残骸など見当たらず、その亡骸を燃やして消したような跡もない。

 

他にも路面が砕け、引き裂かれるほどの衝撃が起きたようだがあの少年の手によるものではあるまい。

 

そんな力技がなくても、少年には相手を殺す術がある。

 

 

少年との出会いから、接触した日々の中で信彦が不審に思っていた事を一つ一つ繋げていく。

 

 

こちらの命ごと射抜かれるような少年の眼。

 

 

公園で倒れていたところを発見した際に落ちていたナイフ。

 

 

そしてあの埋葬機関の説明ではネロは死んだとは言わず、『消滅』と言った。それが比喩ではなく言葉通りの意味だとしたならば…

 

 

 

 

 

 

「…直死の魔眼か」

(あ?あの兄ちゃん、魔眼持ちだったのかよ。それにしちゃあなんかフワフワした雰囲気だわな)

「あくまで可能性だ」

 

 

と、口にはするものの信彦は確信を持っての推測だ。

 

 

数百に及ぶあの命の群れを完全に消滅させるには、キングストーンの力を解放した自分や宿敵の攻撃、もしくは英雄王の対界宝具でなければ成しえないだろう。

 

あの少年1人で行えたとしたら、反則的な相手には反則的な方法しか倒せない。

 

 

そこで信彦が行きついた答えが、遠野志貴が『直死の魔眼』を持っていた場合だ。

 

 

 

生物を含め、万物には生まれたその時から崩壊するまでの『死期』が内包されている。その死を情報として読み取り、視ることで対象を確実に殺すことができる。

 

『魔眼』を少年が持っていたとしたならば、彼の眼を見た瞬間に自分は殺されてしまうと考え、ネロ・カオスという『存在』ごと消滅させたことも頷ける。

 

だが、もし推測通りに遠野志貴が魔眼持ちだというのならば逆に普通の生活を送っていることの方に疑問を抱いてしまう。

 

信彦も知識でしか知り得ないが魔眼は持ち主の視界を常に『死』で覆い尽くしてしまう。家族や友人達、自分の立つその一歩先にある道の『死』を視て生きることなど、人間として耐えられるはずがない。

 

アンリマユが不思議と思ったのはその点なのだろう。魔眼によって常に『死』を視せられ続けている少年があのように普通に暮らしているなどまず考えられない。

 

 

考えを巡らせている間に公園から離れた信彦へアンリマユは今後の方針を訪ねた。

 

 

(んで、どうするつもりだいこの後。カレー女の言った通りに街を離れっかい?)

「…………………………」

 

 

 

 

信彦がアンリマユの質問に回答を出さないまま、その日は夜を迎えてた。

 

 

 

 

 

信彦はあれから一言も発しないままホテルへと戻り、日が傾き始めた頃に再度外出。この街で吸血鬼騒ぎを聞いた後と同様に周囲の見回りを開始した。

 

事件の発生率の高い路地裏などを中心に移動する信彦に変わらず囁き続けるアンリマユであったが、何の反応もない。

 

(な~、めんどくせぇ化け物は眼鏡の兄ちゃんが片付けてくれたんだろ?俺達がやることなんて何もないって)

「………………………」

(それに、まだいる吸血鬼を見つけたところでもう意味ないじゃん?教会の連中はとっくに動いてるってことだしさ)

 

 

アンリマユの言うことは、この街にきてからの行動方針の一つであった。ゴルゴムの生き残り、世紀王であったということだけでいらぬ疑いを掛けられる彼等の行先で碌な目にあっておらず、今回のような事件に巻き込まれてしまう。

 

その為に先手として自ら動き根源である吸血鬼を叩き潰すというのが目的であった。

 

だが、吸血鬼を討伐するための殺し屋は当に到着しており、信彦へも攻撃をする意思を示していない。

 

ならば、この街へいる意味はすでになくなっているはずなのに、信彦はこうして吸血鬼の捜索を続けている。

 

 

(あんれ~、もしや吸血鬼に痛い目合わされちゃったからって別人に八つ当たりしよっての?大人げないね~)

 

「……………………………」

 

挑発とも取れるアンリマユの軽口に何の反応も示さずに信彦は口を開くことなく、裏路地を抜け人通りの多い遊歩道へと移動するが、続くアンリマユの言葉に不本意ながらも反応してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(まぁ、自分にビビって力が出せないようなお方にはお似合いの目的だわな)

 

 

 

 

 

ピタリと急に足を止めた信彦へ背後から歩いていた男性がぶつかりし、舌打ちをしてさっていくが今の信彦にはアンリマユに言われたことで、完全に思考が凍り付いている。

 

 

 

「俺が…何を恐れているというのだ」

 

数時間ぶりに口を開いた信彦は独り言をしている、という周囲の人間が奇異の目を向けて通過していることに構うことなく、自分をそのような状況へと追いやった相手へと尋ねた。アンリマユは先ほどまでのような相手をからかうような様子は一切なく、相手の内心を抉るような鋭い言葉を差し向けた。

 

 

 

 

 

(だってそうだろうよ。アンタが力が出せないのは身体のどっかがおかしいわけでも、不思議なお石様が不機嫌なわけでもねぇ)

 

 

 

 

(お前が、月影信彦って奴が自身の力を嫌悪し、恐怖している。テメェがテメェを拒否してる状態で力が発揮できなくて当然じゃねぇか)

 

 

 

 

果たして、今自分がどのような表情をしているのであろうかと信彦は立ち尽くしたままうつむいてしまう。信彦が自分でも気付こうとしなかった自身へ抱く感情をアンリマユは見抜いていた。

 

 

 

 

押しとどめ、気付かない振りをして、蓋をした自身の本心。

 

 

 

 

世紀王として改造されたシャドームーンは宿敵であるブラックサンを倒し、次の創世王となることが全てだった。だが自身の持つ全てを懸けての戦いは、ゴルゴムの創世王が新たな肉体を選別するためだけであったと知り、反旗を翻す。

 

結果としては創世王をブラックサンと協力し倒すことに成功し、戦いの決着が付いた。

 

その後、反英霊の魂と一体化するなどと訳の分からない肉体となりながらも生き抜いたが、旅を続けていく中である考えに至ってしまう。

 

 

 

 

 

自分は、いずれあのような存在へと堕ちてしまうのではないかと。

 

 

 

 

かつて秋月信彦という人間の全てを奪った憎き存在は、自身と同じ世紀王だった。ならば、自身も同じような考えに至り、あのような悪魔へと変わり果てない保証など、どこにもない。

 

 

 

 

自分が最も憎む存在へと変貌してしまうという恐怖。

 

 

 

故に、自分が持つ力を忌み、シャドームーンとなることを極力避け、身体に宿るキングストーンに語りかけるなど以ての外だった。

 

 

 

信彦がシャドームーンとしての力を満足に扱えず、キングストーンの力に振り回されるのは、当然と言えた。

 

 

 

 

自身を拒絶する者に、自身は決して応えない。

 

 

 

 

アンリマユが信彦の本心に気付けたのは、彼の一つになっている故だろう。アンリマユと信彦が共有しているのは身体と五感だけではない。月影信彦、しいてはシャドームーンという個体だ。

 

そのため信彦の心理状態はアンリマユの心へダイレクトに伝わってしまう。まさに一心同体である彼等には、互いに隠し事など出来ないのだ。

 

 

 

 

(吸血鬼をブチのめしたところで、アンタが自分を嫌っているっつー事実は変わりない。さっき言った通り、ただの八つ当たりだ)

「…そうだ、な」

(お、珍しく素直じゃーん、それじゃついでのそこの自販機でホットココアでも…ってなんで無糖ブラックなんてもの押しやがるんですかねアンタ)

 

 

 

 

既に場所を朝に立ち寄った公園へと移り、アンリマユの希望に反してブラックコーヒーを煽る信彦。自分の中で彼が悶え苦しむ様子を感じながら、不思議に思った。

 

こうまで的確に自分の内側を見られ、荒らされても、気に喰わないと考えても不快とは思えない。むしろはっきりと自分のを語ったことで自分がどのような心境であるかを理解することが出来た。

 

旅を初めて数ヶ月。

 

自分の中に別の魂が宿るというこの状態が、自然であると考え始めていた。

 

 

阿呆な発言をする度に自分の痛みを顧みず制裁を加えるという馬鹿なやり取りも、協会からの追手に迫れ、ゴルゴム以外の組織の怪人と対峙した時に協力したことも、悪くないと。

 

 

「本当に、どうかしている…」

 

 

思わず呟いた信彦は、なら自分がどのような目的で旅を続けているかなどアンリマユはとうに見抜いているはずと考える。

 

それでも何も言わないのは、信彦本人が口にするのを待っているからなのだろう。

 

 

 

 

 

後は、信彦の回答次第という事だ。

 

 

 

 

 

 

もし信彦がアンリマユへと伝えた時、どのような反応を示すのかと考えていた矢先に、あの少年が自分へと駆け寄っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…やっぱり、月影さんだった…奇遇ですね」

「お前…」

 

 

 

 

膝に手をついて呼吸を整えながら顔を上げた少年…遠野志貴は屈託のない笑顔を浮かべて信彦の名を呼んだ。現在の時刻は夜の10時過ぎ。学生が出歩くような時間ではない。

 

ここは一般論を振りかざし、適当なことを言って追い返そうとした信彦だったが、ファミレスでカレーライスを食した女の言葉が頭に過る。

 

 

 

 

『あの吸血鬼を消滅させたのは、遠野志貴です』

 

 

 

 

ようやく呼吸を整えた少年はちょっとすみません、と断りを入れてから本来の目的であろう自販機の前へと移動しポケットから財布を取り出す。恐らくここまで来る途中で信彦を見かけたことで思わず走ってきたのだろう。

 

あいつには何がいいか…と小銭を手にしてどの商品を購入するかを迷っている少年は、やはり吸血鬼を殺す力を持つとは思えないような空気を放っている。だが、自分を一瞬でも寒気を感じさせた殺気を放ち、魔眼を持っていることは事実だ。

 

 

 

 

 

 

 

或いは、彼ならば…

 

 

「おい。お前は――――」

 

 

 

よし、と商品の選別が決まり、いざ小銭を投入しようとした志貴へと声をかけようとした信彦だったが、彼の言葉が後から響く女性の大声にかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しーーーーきーーーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

「げっ………………」

「…?」

 

 

 

 

 

声の聞こえた方へと振り返り、別々の反応を示す志貴と信彦が視界に捉えたのは、女性だった。

 

 

月明かりに照らされ煌めく金髪と紅い瞳を持つ、美しい女性…それを台無しにするように頬を膨らませズンズンと歩き志貴の前へと止まる。

 

 

 

「もう、飲み物を買うだけでどれだけの時間を使うつもりなのッ!」

「いやまてアルクェイド。俺が何か買って来るまでベンチから動くなと言ったよな?それに待ち合わせの3時間以上前から待ってた奴が何で3分も耐えられないんだよッ?!」

「だって…また1人の時間を過ごすなんていやだもの…」

「っ……」

 

 

突如として自分達の前に現れた嵐のように志貴へと接近し、腰に手を当てて怒ったと思えば指先を重ねてモジモジと困った顔を浮かべるなど感情をコロコロと変える女性に少年は何やら顔を赤らめて困った反応をしている。

 

完全に蚊帳の外となった信彦に気が付いた志貴はワザとらしく咳払いをすると、アルクェイドと呼ばれた女性に頼みもしない紹介を始めた。

 

 

 

 

「アルクェイド、この人は月影信彦さん。俺の…知り合い、かな?」

 

 

なぜ疑問系で言うのか、と考えたが自分達の関係を考えれば逆にその方が良いだろう。この街に留まってから偶然とは思えない程の頻度で遭遇はしているが、特段共に時間を費やしたわけではない。

 

志貴の言う通り、『知り合い』という関係が一番正しい回答だろう。

 

 

 

そして紹介した志貴は、アルクェイドが自分に知人なんていたんだと失礼な言葉を口走るのではないかと推測したが―――――

 

 

 

 

 

 

 

彼女の方へと向いた途端に、背筋が凍りつくような殺気を正面から浴びて、そんな下らない考えなど一蹴する破目となった。

 

 

彼女が殺意を向ける相手は、他でもない。今し方自分が紹介した人物、月影信彦だ。

 

 

彼を見つめる目は、街を徘徊する吸血鬼の僕や、先日倒したネロ・カオスに向けるどれよりも険しく、そして冷たい。

 

 

そんな彼女の視線を浴びても何故、信彦が平然としていられるかという疑問は後回しにして、やっと開けることが出来た口で彼女へと尋ねてみる。

 

 

 

 

 

 

「お、おい。月影さんがどうかしたのか?」

 

 

 

 

 

 

だが、志貴の言葉など届かずに、アルクェイドはさらに鋭さを増した目で信彦を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

「アナタ…ナニ?」

 

 

 

 

 

 

その一言は、心臓を射抜いてしまうような冷たさがあった。だが、そんなことで動けなくなる軟な身体ではないと主張するアンリマユは信彦がアルクェイドに向けて貴様こそなんだ?と冷たくあしらうことを期待していた。

 

 

だが、当の信彦に動きがまるでない。

 

 

(おい、どうしたんだよ。一目惚れか?)

「…………………………」

 

 

信彦にはアンリマユの言葉など聞こえていない。いや、アンリマユの声やその他の音など届かなないまでに、信彦へある情報が次々と流れ込んでくる。

 

それは一体化しているアンリマユには見えない。キングストーンから信彦へと齎されているが、余りにも膨大な量に信彦の処理が追いつかず、次第に頭痛すら発生している。

 

 

「お、前は…」

 

額を抑える信彦は変わらず自分を睨み続ける女性の名を口にした。

 

 

その名が何故、志貴が読んだように『アルクェイド』という名称でなかったのかは、信彦自身にも分からない。

 

 

気が付けば、信彦はその名を口から漏らしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………朱い,月」

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、瞳を金色へと染め上げたアルクェイドによって放たれた攻撃が信彦へと迫っていた。

 

 

 

 




時期的には志貴とアルクェイドが改めて契約を交わした直後くらいですかね。

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